<小竜姫>
明日は六道学院への入学式。忠夫くんは明日から中学生です。あんなに小さかった忠夫くんがもう中学生……月日が経つのは早いものです。あそこも、あんなところもこんなところもあんなに小さかったのに……。そういえばこの前お風呂上りの忠夫くんのバスタオルが偶然はだけた時……
はっ、いけません。久しぶりにとりっぷしてしまいました。ですが最近可愛いだけではなく、それを失わず凛々しさも増した忠夫くんは反則です。フラグクラッシャーのいない中学で忠夫くんは雌豚どもからの毒牙に引っかからないでしょうか? おキヌさんをつけてはみたものの、よく考えればおキヌさんが入るのは高等部。常に忠夫くんの側に居られるわけではありません。雪乃丞くんにぼでぃーがーどを頼むことも考えましたが、あまり男女の機微に詳しいとは思えない雪乃丞くんが上手にこなせるとは思えません。
忠夫くんは純粋ですから、もしも泣き落としでもされたら……
『お帰りなさい、忠夫さん。あら、その方は?』
『あら、初めまして、お姉さん。忠夫の彼女の○○でーす!』
『な、どういうことですか、忠夫さん!?』
『ごめん、小竜姉ちゃん。彼女、付き合ってくれないと死ぬって……』
『……それで一体何の用ですか?』
『実はー、報告しなければならないことがあってー』
『うん。実は彼女のお腹の中には新たな生命の息吹が……』
「なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ハアハア、少し妄想が過ぎました。こんなことありえません! そうですよ、忠夫さんがそんな淫らで淫靡なこと……
ないとは言い切れません。父親の大樹さんは初対面で飛び掛ってきましたし。そうならないように色々調教教育してはきましたが、忠夫くんは思春期。女性ばかりの花園に入れられて、もし誘われでもしたら……。やはり私が自ら潜入しましょうか?
しかしおキヌさんも高校へ行きますから、それをやったらさすがに妙神山に留守番がいなくなってしまいます。老師はいつもいるわけじゃありませんし。
……そうです! 私が側にいられないなら、代わりを常に側に置いとけばいいのです!
私は早速忠夫くんがいつも付けているバンダナを洗濯籠から取り出してきました。そしてそのバンダナに軽く口付けをし、竜気を込めます。
……頼みますよ。
妙神山のただおくん〜中学生の忠夫くん 入学式〜
<忠夫>
今日は六道学院の入学式。周りが女の人ばっかりで少し緊張するけど、今年から新しく作られた男子用の制服はカッコいいから気分はいい。去年まで女子高だった六道は、今年から男子の受け入れも始めた。でもさすが人数は少なくて、全体で20人、霊能科だけなら僕と雪乃丞も含めてたったの五人しかいない。
「なんだ横島? 緊張してんのか?」
そりゃあするよ。みんな物珍しげに僕たちを見てるんだもの。中にはあまりよくない目で僕たちを見ている人もいるし……。
「まあまあ、気にしちゃ駄目よ。女子の天下にいきなり男子が入ってきたんだから、そりゃあまり好意的でない人もいるわよ」
「けっ、むかつく奴らだぜ」
そう言ってきたのは同じ男子で霊能科に入る勘九朗さんと陰念くん。男子は少ないからすぐ顔も名前も覚えられたし、みんな肩身のせまい思いをしてたからすぐに仲良くなった。
勘九朗さんは女の人みたいな言葉遣いをするけど、れっきとした男の人。なんでさん付けかって言うと、なんとなく年上な印象を受ける人だから。僕や雪乃丞を気遣ってくれたり陰念くんを紹介してくれたりと、面倒見のいいでもある。
陰念くんは背は雪乃丞と同じくらいだけど、目つきは雪乃丞よりも悪い人。言葉遣いも悪いけど、僕が笑顔で挨拶したらなぜか頬を染めて握手をしてきた。怖い人に見えたけど、そんなに悪い人じゃないんだろうな。
「ではみなさん〜。お勉強もいいけど〜いろんな人と出会い〜いっぱい遊ぶことも忘れないでくださいね〜」
あっ、今は六道おばさんのお話中だったんだ。あまりにのんびり過ぎて、周りでは何人か寝ている人がちらほら……。お話だけで一時間もとってあるからなあ。
「では〜次は〜、高等部霊能科のトップ2の一人〜六道冥子から挨拶があります〜」
途端に周囲からすごい歓声。キャーキャーワーワー耳鳴りがしそう。なんでも、冥子ちゃんは僕と一緒に特訓してから暴走を一度もすることがなくなって、式神の扱い方も自主的に勉強していたらしい。そんな風になったきっかけが僕だと思うのは自惚れかな?
そんなことがあって、元々素質は天才の冥子ちゃんはあっという間に学院でもトップに上り詰めて、みんなからお姉さまと頼られ、尊敬されるようになったらしい。近々GS資格取得試験にも出るらしいし、間違いなくここの看板の一人だ。
「初めまして〜。高等部霊能科の〜六道冥子です〜。新入生の皆さん〜こんにちわ〜」
う〜ん、冥子ちゃんには久しぶりにあったけど、のんびりな言葉遣いは治ってないんだな。でもその方が冥子ちゃんらしいや。
「今年から〜男の子も家に入れることになったけど〜、みんな仲良くしましょうね〜。何かあったら〜、私が力に〜…………あ〜! 横島くんだ〜!」
冥子ちゃんに集まっていた女子たちの憧れと羨望の眼差しが、殺気と嫉妬の混じった視線に変わって一斉に僕の方へ移った。
冥子ちゃんはのんきに手を振ってる。……なんだか初日から大変なことになりそうだ。
<冥子>
あれは間違いなく横島くんだわ〜。お母様ったら〜今日はいいことがあるって言ってたけど〜このことだったのね〜。酷いわ〜、私に黙ってるなんて〜。
「横島く〜ん、久しぶりね〜」
本当に久しぶりだわ〜。最後にあったのが一年以上前ですもの〜。昔はお友達ができなかったけど〜、横島くんと一緒に特訓して〜式神たちを扱えるようになったら〜いつの間にかお友達が増えたわ〜。とても嬉しかったわ〜。お母様もとても喜んでらっしゃるし〜、親戚の人たちも優しくしてくれるようになったわ〜。これもみんな横島くんのお陰よ〜。
あら〜? なんか空気が悪いわ〜。どうしたのかしら〜? ……そうか〜、私が途中でお話を止めちゃったからね〜。
「ごっほん〜。え〜と〜、これからの六道学院は〜、男女の区別なく〜……」
みんな横島くんの方を向いて私の話を聞いてくれないわ〜。横島くんの周りの人たちは横島くんに色々話を聞いてるみたいだし〜。
ずるいわ〜、私も横島くんといっぱいお話したいのに〜。
横島くんは〜、私の〜、お師匠様なんだから〜。
<生徒会長>
私は認めません。この六道女学院に野蛮な男どもが入ってくるなんて。PTAでも反対がたくさんあったのに、理事長はそれをすべて強引に揉み消して、結局男子の受け入れを始めてしまいました。そのせいで理事長とPTAに軋轢が出来たというのに。それほどまでして男子を受け入れることに意味があるというのでしょうか?
ありえません。野蛮で愚かな男子にそんな価値があるなど。元々霊能力というのものは女性に強く発現します。高名な霊能家の多くは女性ですし、ここが女子高であったのはそれが理由のはずです。なのに今更男子を受け入れるなど……。
あら、次は六道お姉様のご挨拶ですね。しっかりとご拝聴せねば。
六道お姉様は当初その大きすぎる力を扱いきれずにおちこぼれ扱いされていたそうですが、扱えるよう努力をして、一気に高等部のトップ2とまで言われるほどになった方。もう一人のトップ2と人気を二分して、中等部でも憧れる人は多いです。もちろん私もその一人です。
ああ、今日もお美しいですわお姉様。やはり男子など野蛮なだけです。お姉様も男子受け入れ反対側に回ってくださらないかしら? 六道お姉様が反対側になれば、理事長といえどもそう簡単に……
「あ〜、横島くんだ」
!? 今なんて言いました!? 横島……確か今年の男子受け入れの一人でしたね。しかも特待生。まさか、六道お姉様とお知り合いだとでも!? ま、まあ霊能者なら知り合いでも不思議ではありませんね。せいぜい、お姉様が以前その横島とやらを助けたことでもあったのでしょう。
「横島く〜ん、久しぶりね〜」
六道お姉様は頬を染めて嬉しそうに手を振っています。あの表情、あの照れ具合! あれは恋する女の目!
あ、ありえません! お姉様が野蛮な男などに恋するなど!
横島忠夫……! 男で大した力もないくせに、私たちのお姉様を誑かすなど……。羨ましい、もとい憎らしい!
許しません。絶対にこの学院から追い出してやります。それも恥をかかせて、もうここに居られなくなるようにしてから、徹底的に!
くくく、どうしてやりましょうか? ……そうです、いい考えが浮かびました。
「では〜次は中等部の生徒会長の挨拶です〜」
私の挨拶の番です。本来ならここは穏便に、男子のことは無視して済ませるつもりだったんですが……気が変わりました。
「皆さんこんにちは。中等部の生徒会長です。まずはこの六道女学院へのご入学、心より祝福いたします。分からないことがあったら私でよければいくらでもお力になりますので。ただし……」
私はそこで一端言葉を切り、予め用意しておいた挨拶の書いてある紙を下に置きました。
「男子、特に霊能科の五人の入学を、私は、いえ私たちは拒否します」
続く
あとがき
前半壊れまくり、後半ちょびっとシリアス? ちょっと六道学院へのヘイトっぽいですが、ご安心ください。これはあくまで妙神山のただおくん、ですから。
久しぶりに冥子登場です。冥子、ずいぶんと成長しました。原作の美神に近い位置にいます。そして美神はと言うと……まあ、今回見ればだいたい分かると思います。
今、某所で変なSSを見てちょっと気分が悪いです。おかげか後半あまり壊れを入れられませんでした。もうちょっと壊す予定だったんですが……。
次はバトルかな? それと蛍の化身はもうすぐ登場予定。それにしてもキャラがどんどん増えていきます。頑張って扱いきれるように頑張るので応援よろしくお願いします。
ではこの辺で。
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