インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「剣奴 第二話(GS)」

炬燵 (2005-10-27 19:34/2005-10-27 19:50)
BACK< >NEXT


目を覚ますと、そこは映画で見るような、ヨーロッパの片田舎だった。
まるで身に覚えのない光景に、朦朧とする意識の中で、自分に何があったのかを思い出す。

『俺は―――そうだ、除霊中にまた悪霊にゲームの中に取り込まれて・・・』

ということは・・・ここはキャラバンクエスト将兇良饌罎里匹海か。よく見れば確かに村人から建物まで、どこかファンタジックな様相をしている。ただ、以前とは違って、見た目から感触までがリアルに再現されている。それと言われなければ気がつかないほど、驚くまでに精巧な造りだった。

「美神さんたちは、あれからどうしたんだろう?前ならしばらくしたら、ゲーム内に助けに来てくれたんだけどな・・・」

気絶してからどれくらい経ったんだろう。もしいつまでも救援が来ないようなら、自分でここから脱出する方法を考えなくちゃならない。幸い文珠はまだ三つほどストックがあるし、前の除霊からして、例えゲーム内であっても現実世界の霊能力は使えるはず・・・

―――霊能力?

そういえば、さっきの悪霊から取り込まれる瞬間。文珠が暴走した結果、こうして悪霊の成すがままになってしまったということを思い出した。別段、生成を急いだわけでもないのに、全く制御できずに暴発してしまった文珠。一体あれはなんだったんだろう。悪霊のなんらかの能力によるものなんだろうか。
・・・違う。あの手ごたえは、どちらかといえば自分自身の内部で起きたものだった気がする。まるで、霊能力の覚えたてのようなコントロールの荒れ方。

ザワリ、と言いようのない不安が襲う。焦燥を駆り立てる胸騒ぎ。それを否定するように、俺は右手に力を込めた。

「出ろ、サイキックソーサー・・・・っ」

霊気のコントロールの基本中の基本。身の周りに纏う霊波を一点に集中して円盤上に固める、心眼から教わった俺の得意技。あれからすぐにはなかなか制御できなかったけど、今では自然に作り上げることが、可能・・・なはず、だったのに・・・。

「・・・駄目だわ、集まる気配すらない。」

右手を足の上に乗せ、呻くように嘆いた。
ここがゲームという仮想空間の中だからか?そういえば、今回の悪霊は以前のものとは比べ物にならないほどの力を持っていたと美神さんが説明していた。つまり、ここは現実世界とはほぼ完全に切り離された仮想空間であって、現実に持っていた能力はあまり役に立たない可能性が考えられる。

なんにせよ、とりあえず、霊能力は使えないらしい。
それが意味するのは、霊力による強引なこの世界からの脱出が不可能だということ。独自で現実世界に戻るためには、悪霊の用意したこのゲームをクリアする必要がある。
どれくらいの時間がかかるだろう・・・フェニックスの期待のRPGだ。普通に考えれば、徹夜でプレイしても四日から一週間。きっとそれまでには外部からなんらかの救出作戦が実行されると考えた方がいい。美神さんのことだ、それほど時間はかからずに、助けだしてくれるはず・・・。

それまで、どうせだからこのゲームを満喫しよう。折角の話題作をタダで、しかも生身で経験できるのだ。不貞腐れて待つ手はない。そう楽観的に考えて、座っていた路地裏から立ち上がった。

―――文珠の暴発。いつになるやも知れない救出作戦。そして、MMORPGという達成目的のないゲーム舞台。後から考えれば、それはあまりにも前途多難な物語の始まりに過ぎなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
剣奴 2nd
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


街を歩くと、改めて俺はこの世界の精巧さに感心することになった。
住人達は一人一人が違う顔、表情を浮かべ、それぞれが各々の生活をしている。おそらくはNPCなんだろうが、生きているのではないかと錯覚してしまうほどの出来だった。

「凄いなぁ・・・今のゲームって、こんなレベルまで進歩してたんだ・・・」

ただ、いつまでも見惚れてばかりはいられない。普通のゲームなら、まずは最初に用意された資金で装備なりアイテムなりを揃えて、モンスターを狩りに行くのが常道だ。まずは今いくら持ってるのか確認しないと・・・・。

―――待った。見たところ、俺は今、たぶん何も装備していない状態の初期設定の服を着ている。もちろん、お金の入った皮袋も、剣も盾も持っていない。イレギュラーとして参加したわけだから当然といえば当然なのかもしれないけど・・・つまり、何の手持ちもなく始めなければいけないってことなのか?

「マジかよ、最初にどんなものを買って戦うかもRPGの醍醐味なのにな。ていうか、買ったアイテムとかはどこに入れて持ち歩けばいいんだろう。剣とか、装備したもの以外はそうそう数は持てないだろうし・・・」

そういえば、ステータス画面とかは?やっぱり中の人間は確認したりできないのか?△ボタンを押せばメニュー画面とか言われたって、俺にはどうしようもない。
攻撃方法とかはまだしも、スキル選択とか、職業の決定とか。疑問点は山ほどある。

「わからねー・・・取説くらい付けておいてくれればいいのに・・・」

そういえば、さっきからなにやら村の女の人達が俺の顔をみてヒソヒソと内緒話をしたり、あからさまに逃げていくのが目に付くんだが・・・気のせいか?それとも、容貌とか服装にどっかおかしいところでもあるんかな?

まあいいや。こういう時は、割と村人に話しかけたりすれば有用な情報とかがもらえたりするはずだ。
手始めに、俺はこの街の警察らしきところに足を向けた。


あれから一時間くらいが経った。警察らしき場所に着いて、話を聞いて。

・・・結論から言えば、とりあえずステータス画面を見る方法は理解できた。
ついでに、このゲームの世界観や、街での俺の立場。職業とか、そういったものもだ。

それはいいんだけど、むしろ今の問題は、俺が牢屋の中に叩き込まれているということじゃないかと思う。

「わけわからん、なんでいきなりゲームが始まって牢屋の中とか・・・そんな選択肢が存在するのか?まさかデフォ設定なのか?ていうか、職業が犯罪者ってなんだよ・・・もうさっぱりわけがわからん。」

あの後、訪ねに行ったはずの警察(というよりは保安所といった感じだった)で、顔を見るなり保安官にとッ捕まえられた。なんでだよ、と抗議する俺に、見せられたのはお尋ねもののリスト。丁寧に写真まで貼ってあった。その中ほどに、俺の名前と犯罪歴と賞金などが書かれていた。

思い返して、また頭が痛くなった。完全にゲーム意欲を失って、牢屋の中で頭を垂れてうなだれる。
もう一度、自分の職業を確認するために右手の中指と親指でパチッと音を鳴らした。ウェイターを呼ぶときとか、映画でかっこつけた俳優がやるような仕草だ。これが、この世界で自分の詳細を知るときの方法らしい。
ブンッと、妙にそれだけ機械的な音を立てて、ステータス画面が現れる。どんな原理かわからないが、宙に文字盤が浮かんでいる。そこには細かい数値などの上に、自分の名前や職業などが並んでいた。

『横島忠夫 Lv1 B級犯罪者 HP345 MP0』

何度見ても、内容は変わらない。B級というのがどれだけ重いものなのかもわからないが、たぶん窃盗とか、強盗とか、そんな類なんじゃないかと思う。これは警察に行く前からの設定だったから、犯罪を犯したのは俺じゃない・・・・はずだ。たぶん。

ということは、やっぱりこれはデフォルトの設定に違いない。主人公が勇者でなくて、犯罪者?新鮮といえば新鮮かもしれないが、待遇は雲泥の差だ。普通にゲームとしてやるなら問題はないかもしれないけど、自分の身でやるときに、まさかそんな特殊設定でなくてもいいだろうに・・・。

・・・いや、別に勇者になりたかったわけじゃないけどさ。そんなものには何の意味もないってことはあのときから十分理解してる。そう考えれば、下手に責任がないだけ犯罪者の方がマシなのかもしれない。

しかし、これからどうすればいいんだろう。一応ゲームなんだから、まさかこのまま牢屋の中で放置されるわけじゃあるまいし・・・そう悩む俺に、看守らしき男が牢屋の前にやってきて話しかけてきた。

「自首してきた猥褻犯ていうのはお前か?」

・・・そうか、あれは自首として捉えられたのか。まあ普通に考えれば、犯罪者が警察に行く理由っていったらそんなところだよな。まあそれはいいとして。

「猥褻犯・・・?」

「そうだよ。下着泥棒十件、痴漢五件、猥褻物陳列が三件。被害届けがないのも合わせれば、三十は固いな。まったく、逃げ足だけは早いのがお前の特技だったのに、自首ってのはどういうわけだ?改心でもしたのか?」

「なっ!?」

ムチャクチャだ、いくら俺が煩悩の塊だからって、そんな警察に捕まるほどの猥褻を働いた覚えはないぞ!?くそ、勿体ない、なんで俺は覚えてないんだ・・・って違う。身に覚えのない罪を押し付けられなきゃいかんのだ。

憤慨する俺に、看守は気にせず話を続けた。

「まあ、別に自首したからって罪が軽くなるわけじゃないんだけどな。で、規定どおりに聞いておくが、剣奴と囚人労働、どっちにする?」

「・・・は?」

「なんだ、犯罪を犯しておいて、捕まったらどうなるかも知らなかったわけじゃないだろ?」

そう言って、看守は懐から二枚の紙を取り出した。

「これが契約書だ。囚人労働をするなら、一応三食と寝所は与えられる。まあ牢屋に臭い飯だけどな。決められた仕事をこなして、あとは牢屋で過ごす。まあB級なら二十年も務めれば釈放ってところだな。」

なるほど、つまり捕まえられている間、労働を課せられるわけだ。日本の刑務所と同じか。それはいいとして、二十年か・・・長いだろ。いくらなんでも、RPGでそんな暗い人生を歩ませられるとは思わなかった・・・。ずーんと気落ちする俺に、看守はさらに続けた。

「剣奴は、一日の狩りのノルマは二十体だ。最初は弱いモンスターでいいが、しばらくしたら森や洞窟にいる強力なモンスターとかも狩ってもらう。あと、コロッセウムは二ヶ月に一度だからな。」

「いや、モンスターとか、コロッセウムとか、さっぱりわけがわからないんすけど・・・」

「お前な・・・記憶がないわけじゃあるまいし、街の成り立ちとか知らないわけじゃないだろ。」

そんなこと言われてもな・・・この世界に来たの、今朝ですから。なんて言っても信じてもらえるわけないし。まさかいきなり犯罪者として捕まるなんて考えられるわけないし。

「―――わかった、どうやら本気で知らないみたいだな。とりあえず説明してやるから、それからどっちにするか選べばいいさ。」

「ども、助かります。」

意外と人がいい看守におじぎして、それから話に耳を傾ける。聞かされた内容は次のようなものだった。

まず、この世界は天動説で動いていると説明された。
迷信でもなんでもなく、ちゃんと航海して確認されたことらしい。

円盤のような地表の上で俺達は生活していて、それを下から支えているのが六柱の神々。
大地の神アシーリア。水の神スウォール。火の神キラウェイ。風の神イブラース。光と生命の神エイダ。時と法の神、ゼト。そして、その六神たちと共に世界を創り上げた、創生の神リアス。
この世界の人間はそれらの神々を信仰していて、その加護の下で生活している。だが、それとはまた敵対する邪神というものがいて、彼らが生み出したのが人間に悪意を持っている怪物・・・つまりはモンスターたちだった。

なるほど、ファンタジーにありがちな設定だと頷く。その邪神たちは円状の地表のちょうど半分から向こうを支配しており、俺達人間はもう半分で生活しているわけだ。そして、モンスターたちは勢力をこちらに伸ばそうと幾度となく攻撃をしかけてくる。そのモンスターと戦うのが、騎士団や剣奴ということらしい。

剣奴は刑罰としてモンスター狩りを命じられた犯罪者であり、狩ったモンスターの数や強さによって街から給金を得て生活する。待遇は村人達とそう変わらず、得たお金で宿などで寝泊りするのだそうだ。

―――そして、二ヶ月に一度開かれるコロッセウムで、剣奴同士が戦わされる。
殺しも、反則技もなんでもありの、バリートゥドで、トーナメント式の戦い。

その下りを聞いて、思わず声を荒立て抗議した。

「な、なんすかそれはっ!?今まで聞いてた話なら、モンスターを狩るのは必要だからわかりますけど、なんで人間同士で戦わなきゃ・・・」

「そりゃ、娯楽だよ。俺達一般人は別にそんなの見たってなにも楽しくもないけどな。貴族とかが見て賭けをするのさ。あんまり娯楽要素もないからな、ここじゃ。」

まるで腐敗時代のローマだ・・・いや、それが舞台なのか?RPGにしてはやけに惨たらしいその設定に、驚きを隠せない。

「ただ、コロッセウムで優勝した剣奴は、剣奴から開放される。それまでに犯した罪も全部免除。大抵は、その際に賭けてた貴族なんかが競りにかけて護衛なんかに雇い入れるんだけどな。だから、なにも悪いことばかりじゃないってことさ。」

「・・・わかりました。」

そこまで聞いて、俺は選ぶべき道を決めた。人間同士で戦うなんて冗談じゃない。
手を囚人労働の契約書の方に向けて受け取ろうとしたときだった。

「ああ、そうだ。そういえば剣奴がこの間のコロッセウムで人数不足になって、剣奴の増員を命じられてたんだっけな・・・」

「え・・・?」

「悪い。選択の余地なしで、お前は剣奴として生きてもらうことになる。まあ気にするな、お前の逃げ足があれば、コロッセウムでもそうそう死にはしないさ。そういうわけで、こっちの契約書にサインしてくれ」

呆然とする俺に、看守は剣奴の方の紙を手渡し、無理やり名前を書かされた。
ちょっと待ってくれ、んなバカな!?
書いた紙を取り替えそうとする俺をひらりとかわし、看守は笑いながら出口へと歩いていった。

「問答無用かよ・・・そりゃそうだ、囚人労働なんてRPGあるわけねーけど・・・」

痛む頭を抱えて、ふと右手をパチッと鳴らす。浮かび上がったステータス画面は更新されていた。

『横島忠夫 Lv1 剣奴(Eランク) HP345 MP0』

これが、剣奴としての俺の生活の始まりでした・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き。

題名変更しました。ご迷惑おかけします(´□`;)

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze