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▽レス始

「剣奴 第一話(GS)」

炬燵 (2005-10-25 23:12/2005-10-27 19:27)
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見渡す限り続く、広大な草原。今の日本にはまず存在しないと思われる、大自然がそこにあった。
青く澄んだ空、美しい湖。まるで心が表れるようなその景色・・・・。

―――だけど、今の俺にはそんなものに感動している暇はまったくない。

目の前にいるのは、筋骨隆々とした恐ろしい・・・というよりは、見た目はただのデブといっていいだろうモンスターだった。頭から角が生えていて、肌の色は気味の悪い緑色。興奮しているらしく、大きな鼻から息を荒々しく吐き出し、持っている棍棒を俺の方に振り降ろそうとしている。

「こなくそっ・・・!!」

命中率こそ低いが、攻撃力は馬鹿にできないのがこいつらの特性だったのを思い出し、冷や汗をかきながら、持っていた銅の剣でなんとかいなす。ドン、と鈍い音を立てて棍棒は地面を叩き付けた。
攻撃後、しばらくの硬直が相手に課せされる。その瞬間を見逃さず、剣を力いっぱい頭に向けて薙いだ。

ガンッ。

手に伝わる、肉と骨を切る鈍い感覚。しかし、頭を狙ったはずの剣は、相手の鎖骨に刺さっている。相手もギリギリで体をねじり、俺の攻撃をかわそうとした結果だった。

「ちっ、今ので決めるつもりだったのになあ・・っ」

すでに疲労によってヒットポイントがいくらか削られているのを自覚していた。相手の攻撃もいくらか俺を捉えている。薬草の手持ちもほとんどない今、できれば早くこの相手との戦いを終えてしまいたかった。

忌々しく俺の方を睨むモンスター。その頭上を俺は軽く窺う。

『トロル Lv15 HP105/345』
という文字がそこには浮かんでいる。意識すればもっと細かい情報も確認できるはずだったが、戦闘中なので文字は大きく、簡易なものに『設定』してあった。

『急がないと・・・アレをやられたら、今の体力じゃお終いだ』

残りHPは105。俺の攻撃力だと一回の攻撃ごとにおよそ40ほど削ることができる。つまり、残り3回ほどの攻撃ターンが存在する。それは相手にもそれだけの攻撃を許すということにもつながってしまう。
体勢を立て直したモンスター・・・トロルが、棍棒を構えなおし向かってきた。だがその直線的な動きはかなり読みやすいもので、紙一重で避けると、剣を背中に突きつけた。
ググ、と相手の体力ゲージが減っていく。当たりどころがよかったのか、思ったよりも減り幅が大きい。

あと少しだ。この調子なら、あと一発ほど叩き込めば・・・と、勝利までの段取りを計算した頃だった。
深く息を吸い込む目前の相手に、なにやら嫌な予感を覚える。これは、まさか・・。

「ブォォオオオオオオッッーー!!」

「な、嘘だろ!?」

大きく雄叫びを上げるトロル。それを、驚愕した表情で見る俺。
基本的に群れで行動を成すトロルは、割と周囲に一族がいることが多い。ただ、好戦的なこいつらは単体で攻撃を挑んでくることが多いんだが・・・。
体力が少なくなり、劣勢に達すると、周りにいる仲間をその雄叫びで呼び寄せることがあるのだ。

「ふざけんなよ、あとちょっとだったのに・・・!!」

悪態を吐くが、すでに足はその場から遠ざかろうと全速力で駆け出していた。一匹でも苦労してるっていうのに、団体さんの相手なんてもっての他だ。
わずかに手に入った経験値と、少なくなったHPに無念を噛み締めつつ、トロルの縄張りの外を目指し走りながら俺は思う。

早く家に帰りたい。薄汚い馬小屋ではなく、汚いのは同じだけど、文明に囲まれた懐かしい『現実世界』の我が家に・・・。そもそもの発端を思い出しながら、じわりと涙を浮かべた。


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剣奴 1st
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アシュタロスとの戦いからおよそ三ヶ月。
コスモプロセッサによる不安定な環境から、おとなしかった悪霊たちも次第にまた悪さをはじめ、それにともない事務所もまた活気付いてくる。特に最近ではほぼ毎日と言っていいほど除霊に借り出されて、前面で戦わされる有様だった。

「はぁ・・・まあ頼られてるっていう意味では悪くないんだけど、人使い荒いよな、美神さん・・・」

起床してすぐの眠気と、ここ最近の慢性的なだるさからため息をついて洗面台へと向かう。冷たい水で無理やり瞼をこじ開けて、朝食を摂る。昨日はおキヌちゃんが夕食を作りに来てくれたので、それの余りとトーストを二枚。個人的には豪勢すぎるほどの朝ごはんだと思った。

かり、と香ばしく焼けたパンをかじりつつ、ふと付けたニュースに目を向ける。取り上げられていた事件は、総理の靖国神社の参拝。いい加減、行く方も行く方だけど、騒ぐ方も騒ぐ方だと苦笑しつつ、次のニュースに目を向ける。。

【フェニックスのキャラバンクエスト、発売延期決定】

「・・・へぇ」

フェニックスといえば、日本で知らない人はいない有名ゲームメーカーの一つだ。ロールプレイングゲームの老舗として、いくつもの傑作を作ってはゲーマー達を沸きあがらせてきた。かくいう俺も、新作が発売されるたびに少ない資金と相談して、購入しては徹夜でやり込んだりしたものだった。
その成功の陰には、プログラミングに平行して様々な秘術や儀式を行い、文字通り魂を吹き込むことで他社の追随を許さぬ大ヒットを成し遂げたということを、俺は過去の事件から知っていた。

・・・となると、今回の延期も、もしかしたらもしかするのかもしれない。

なんとなく霊感に感じるものがあって、ニュースを凝視する。延期されたのは、シリーズで12作目の期待のRPG。家庭用のゲーム機で世界中とネットワークを繋ぐMMO型。友達とギルドを組んだり、様々なイベントに取り組んだりが可能な話題作、か。へえ、すごいな。

感心しつつ、仕事にいく時間が迫ってきていたので、さっさと支度をして事務所へと向かうことにした。


「ちはーっす」
「おはようございます、横島さん。」
「おはよーでござるよー、先生!」

おキヌちゃんとシロの温かい朝の挨拶に、なんだかんだでやっぱこの事務所って華があっていいよな・・・などと思いつつ笑顔で応える。

「おはよう、横島くん。さあ、今日は大規模な除霊があるから、気を引き締めてかかるわよ!」
「大規模な除霊・・・?」
「ええ、ゲームソフトのフェニックスっていう開発会社だそうです。今朝、急に依頼が入って。」
「あそこか・・・」

なんとなく、そんな予感はしていた。霊能力者の霊感は意外と当たるから侮れない。

「で、また悪霊でも入り込んじゃったんですか?あそこの会社」
「そうみたいね。今度のは3DのMMORPGだから、かなり力を入れて作っていたみたいなんだけど・・・。その分、霊的なプログラムもいつもより何倍も高度なものにしたみたい。エミとかの協力も得てね。ただ、それだけにわずかな誤算も取り返しのつかない大惨事へとつながる可能性もあったのよ。」
「わずかな誤算・・・?」
「ほら、アシュタロスの戦いのときのコスモプロセッサで、今まで退治してきた妖怪とかが復活したりしたじゃない?その時に今までにないくらい環境が歪められちゃったから。思わぬところで弊害が出ていたってわけ。」

そう言って、除霊の準備を始める美神さん。以前の経験も踏まえ、下手に取り込まれないように簡易結界のロープなどもすぐに取り出せるように持参していく。

「今回の悪霊はかなりタチが悪いわ。ゲーム作成のために用意された霊媒から魔力を吸い取り、ほとんど下級魔族以上の知恵と力を持ってしまったっていう話だから。ゲーム内に取り込まれてしまえば、そこは相手側の領域。以前のように強引な方法で除霊できるとは考えない方がいいわ」
「下級魔族って・・・大丈夫なんですか、美神さん?」

不安そうに尋ねるおキヌちゃんに、美神さんはさも当然、とばかりに言い放った。

「大丈夫かどうかは問題じゃないの。だって、あの大会社が相手だもの。除霊代が5億よ!?不景気になってから、しばらくの大型顧客だわっ」
「ちょ、もっと安全面とかも考慮にいれて依頼を受けましょうよ!どうせいつも、そのとばっちりが来るのって俺なんですから!」

しかし、そんな俺の苦情などでこの人の行動が少しでも変化するなんてことがあるわけもなく。結局その日の昼頃にはフェニックス本社に訪れていました。



「お金はいくらでも払いますから、このことは是非内密にぃー!!」
「あら、ほんとですか!?なら口止め料として追加で一億ほど・・・」

必死の形相で頼み込む開発室長に、さらに値上げ交渉に走る美神さんと、それをなだめるおキヌちゃん。てか、口止め料で一億って・・・あなたの口はどれだけ軽いんですか、とかなり疑問を抱かずにはいられない。
とりあえず現場の企画開発室前へと赴いた。そこは部屋の外からでも分かるほど、禍々しい妖気を放っている。施設自体は神殿のように清められているだけに、一層場が異質に見える。

「これはまた、相当力を蓄えたみたいね・・・皆、油断しないで。おキヌちゃんとタマモは、最後に入ってくること。一応簡易結界は私とシロが持っておくから。」
「俺は文珠で結界を張れってことっすね。でも大丈夫かな・・・あんまり個数ないんすけど」
「結界ロープだって結構値が張るのよ。まあ、あんたが出すなら使わせてやってもいいけど?」

くくく、と笑う美神さんに、『今回の報酬、5億も絞り取るくせに・・・』とは思うが口には出さない。言っても無駄だしさ。まあどっちにしても時給は変わらないのはお約束といったところだろうか。

「気をつけてくださいね、横島さん。」

励ましてくれるおキヌちゃんにお礼を言って、俺は美神さんの後について部屋に入っていった。


中は一見して、うらぶれたオフィス。散らかった書類に、壊れたモニターや傾いたデスク。すでに呼吸をするのも窮屈なほどに埃まみれだった。

「視界が確保しづらいわね・・・できる限り死角を作らないように、陣形を作って。」

電気すらもつかないこの開発室では、物陰に隠れられてしまえばなかなか霊を発見するのは難しい。すでにこの部屋内は霊の妖気によって満たされているため、ジャミングをかけられたように霊感も鈍ってしまう。

入って数十秒ほど経った頃だろうか、入り口の扉がバタンッと大きな音を立てて閉じるのが聞こえた。おキヌちゃんが入ったときに閉じたのか?・・・そう考えたときに、美神さんがつまらなそうに口を開いた。

「後方遮断・・・逃がさないぞってことかしら?まあどっちにしても除霊するまで帰るつもりはないけどね」

なるほど、とその言葉に頷く。入り口を窺ってみると、そこには誰もいない。扉に手を伸ばすも、ドアノブを回すことすらできなかった。やはりこの霊はある程度の知恵はあるらしい。力任せに暴れる奴も厄介だが、用心に越したことはないかもしれない。
手元に、すぐに発動できるように文珠を作っておく。今温存してある文珠は4個。不意の事態には少し心もとない量だと思う。

「まあ、おキヌちゃんとタマモは外にいるから安全だし・・・ただ、後援は期待できないっすけど」
「女狐の力など必要ないでござる!先生と拙者がいれば、この程度の霊など・・・」

相変わらずのシロのセリフに思わず苦笑したその時だった。

「うわっ!?眩し・・・っ」

強いフラッシュバックが辺りを覆う。これは、以前にも経験したことがあったような・・・そして思い出した。前にここに除霊に来たときとまったく同じように、ゲーム内に取り込まれそうになっている・・・!

「シロ、横島くん、結界を張って!相手のテリトリーに引き込まれたらちょっと厄介だわ!」

右手の文珠を強く握り締める。心の中で「遮」れ、と念じて効果を発しようとするが・・・

「ちょっと、何をしてるの横島くん!早く、結界を・・・」
「やろうとしてるんですけど、文珠が言うことを聞いてくれないんです・・・っ」

こんなことは初めてだ。文珠がまるで俺を拒絶するように、熱を持って暴れ回っている。もはや制御は困難だと判断して、二人の簡易結界にもぐり込もうとするが、間に合わない。

「く・・・あぁぁぁあああっ!!」

魂を、無理やり剥がされる痛みを感じた。取り込まれる、と理解してから、ほどなくして肉体的な感覚が消え失せる。

「横島くん!?ちょっと、しっかりしなさいっ!!」

遠くから美神さんの呼びかける声が聞こえるが、もうそれに答えるだけの余裕もなくなっていた。
その後に、薄れていく意識の中で誰かの声を聞いた気がする。

確か、あなたの望みはようやく叶う、と。

たぶん女の子の声だった。凛とした、中学生くらいの。
今回の悪霊かもしれない。ただ、その割にはあまりに知性的な・・・
そこまで考えて、完全に意識はブラックアウトした。


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後書き。

はじめましてな方にはじめまして。炬燵(コタツ)と申します。
かなり久しぶりにSSを書いたので、文章の拙さとかがかなり目立ってしまったかもしれないですが・・・どうかご容赦ください(´д`;)

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