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▽レス始

「剣奴 第三話(GS)」

炬燵 (2005-10-28 18:33/2005-10-28 19:03)
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「えーっと、まずはこれが基本装備ね。耐久度も攻撃力も最小だから、お金が貯まったらすぐに買い換えた方がいいわ。」

「はあ・・・」

言いつつ、目の前の女保安官は俺に剣や布製の服を渡す。見るからに安物のそれは、100合も打ち合えばあっさり折れてしまいそうな代物だった。

それはともかく、この保安官は美人やなー・・・もちろんいつもの調子でルパンダイブしようとしたんだけど、こんなときだけ触れる前に見えない壁が発生して警告音がなった。

『セクシャルハラスメントフラグ発生。同意のない過剰な異性へのスキンシップは禁止されています。つーかNPCにセクハラしようとすんじゃねーよ、この変態。』

とかなんとか。いや別に後半は言われてねーけどさ。じゃあ俺はこの世界でどうやって猥褻を働いたっていうんだよ、と小一時間ほど問い詰めたくなったが、まあそれはおいておいて。

あと、100枚ほどの銅貨と、得体の知れない機械を手渡しされた。

「これが剣奴用のヘッドギア。アイテムウインドウから呼び出せばすぐに装備できるわ。付けたら最後、死ぬか、コロッセウムで優勝しない限り外せないから、覚悟しておいて」

「これがですか・・・」

あらかじめ説明を受けていたそれをまじまじと見つめる。一般人と剣奴を見分けるための象徴として扱われているのが、このヘッドギアだそうだ。
見た目からして高性能なのだが、中身もずいぶんとハイテク。その日に狩ったモンスターのLvや数をデータインベントリに蓄えたり、アイテムやステータスデータもここに収納される。モンスターの詳細なども記録されていたり、狩りになにかと役立つ便利なアイテムなのだ。

だが、もちろん便利なだけのアイテムじゃない。
むしろ主となる機能は、抑制機能。無理やり外そうとすれば、脳に食い込んだ神経回路が焼きついて言葉にできないほどの激痛を強いられる。市民に暴行や犯罪行為を加えた場合も同上。
所詮剣奴は犯罪者崩れの奴隷に過ぎない。そんな危険な対象を野放しにしておくわけにはいかなかったからだそうだ。

右手をパチッと鳴らしてアイテムインベントリを呼び出し、ヘッドギアと初期装備を身につける。ヘッドギアは普段つけているバンダナと大して変わらない付け心地だし、安物の服もそう悪くないものだった。いつも着ている服とそう違わない。・・・貧乏だしさ。

「行ってらっしゃい。二十体がノルマではあるけど、狩れば狩るほど給金は多くなるから、何体でも狩ってきていいわよ。まあ序盤はそんなに余裕なんてないと思うけど、経験値稼ぎがてら、がんばってきなさい。」

ちなみに、ノルマを達成しないと給金はされない設定。
励まされたのかどうかよくわからない送り出しを受けて、俺はとりあえず街の中をぶらぶらと歩いてみることにした。

いつかクリアした暁には、きっとあの姉ちゃんのふくよかな胸を揉んでやると心に誓いつつ。


「居心地わりーな・・・・」

石造りの道を歩きつつ、俺はげんなりと早々弱音を吐いた。
周囲からはまるで汚い物でも見るような視線を送られ、俺の姿を見るなりあからさまに逃げていく婦女子達。ああ、なるほど。この世界に来た当初、やけに女の人たちが冷たかったのは俺が猥褻犯だったからなわけだ。

で、今はこのヘッドギアをつけているから・・・か。思ったよりも生々しい作りをしてるゲームだこと。やっぱり生身でやるもんじゃないな、とため息をつく。

そういえば、美神さんはいつになったら助けに来てくれるんだ?いくら強力な悪霊が相手だからって、すでに俺が目を覚ましてから一日近くが経過してる。いくらなんでも、そんなに時間がかかるとは思えないんだけど・・・。
予定外のことが起こったか、予想以上に苦戦を強いられていて一旦事務所に戻って体勢を立て直したとか。あるいは、もしかしたらこの世界での経過時間と、現実世界での経過時間が異なっている可能性もある。猿神の仮想空間のように。

いまいちこの世界のシステムについて理解しきれていない部分があるが、まあその辺りは俺の脳じゃ限界があるし、と割り切って、とりあえず手持ちの100枚の銅貨でアイテムを買いに向かう。

「薬草は銅貨8枚、ポーションが32枚・・・ショートソード(鋼の剣)が銀貨5枚・・・」

大半のRPGでは、最初の資金をどれだけ有効に使うかが、序盤の冒険に大きく影響する。今持っている銅貨を薬草に換えるか、貯めてショートソードを買うか。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚と等価だから、ショートソードは銅貨500枚ということになる。貯められない資金じゃない。

ただ、不意の事態もある以上、やっぱり薬草はできる限りストックとして持っておきたいとも思う。デスペナルティで初期資金が削られれば、一気に狩りは困難なものになるに違いない。

・・・待てよ。そういえば、この世界で死んだ場合はどうなるんだろう。
たとえばキャラバンクエストなら、基本的に資金の半額を接収されてしまう。パーティメンバーがいればそれぞれのレベルによって、蘇生に教会に対する献金を求められる。がめつい聖職者もいたもんだ、少しは唐巣神父を見習え、と説教したくもなったりするが。
あるいは他のRPGなら、前回のセーブポイントまで戻ることを強いられたり。それ以降に得たはずの経験値やゴールドは水の泡となる。
前者にせよ、後者にせよ、デスペナルティはプレイヤーにとっては由々しき事態だ。できれば回避したい事態なんだけど・・・。

そこまで考えて、店の主人にその疑問を聞いてみることにした。
だが返ってきた返答に、俺は当惑させられることになる。

「あぁ?死んだらそれまでに決まってだろ。生前の行いによって、時と法の神ゼト様に裁かれて、あの世での処遇が決まるのさ。」

まあ剣奴じゃあ死後の世界での立場もたかが知れてるけどな、と笑いながら付け加える豪胆な道具屋の主人。

・・・ええと、つまり、この世界では復活の概念は存在しないってことなのか?
魂を取り込まれている以上、もし蘇生というシステムがないのなら、そのまま本当の意味で死んでしまうとも考えられる。でも、RPGで蘇生もセーブポイントも存在しないなんて・・・。

しかも剣奴にはコロッセウムによって剣奴同士での戦闘が余儀なくされる。モンスターと違って、完全に武装したHUMANとの戦い。相手は取り込まれた人間であることも否定できない。剣や弓などといった殺傷能力に特化した武器を使えば、その気はなくても絶命させてしまうかもしれない。

そうなれば、まんまデスゲームじゃないか。自分の発想にくらくらと眩暈を覚えた。
これ以上は可能性の問題だし、試してみないと結論は出すことはできないけど、試す度胸は俺にはない。魂の死は肉体の死。わずかでも死ぬ可能性がある以上、おいそれと軽率な真似はできようもなかった。

『冗談じゃねー・・・そんな危ないゲームに取り込まれるなんて・・・』

確認は取れない。あるいは、他に取り込まれたはずの会社の人間に聞いてみれば何かしら分かるかもしれないが・・・。剣奴になるのがシナリオなら、きっと彼らも剣奴として危険を冒してはいるはずだ。
それまで、できる限りマージンを取りつつ、安全を重視して狩りをしようと心に決める。幸いなんでかは知らないが、パラメータはAVI(俊敏さ)がやけに高いから、回避や逃げるのもそう難しくはないはずだ。

熟考を終えて、店主に薬草を十個とポーションを一つ購入することを告げる。

「あいよ、毎度あり。」

愛想もなく言う店主。だが、剣奴の相手をしてくれるだけマシな方だ。
店によっては、ヘッドギアをしているだけで入店禁止になる場合だってある。

渡されたアイテムをインベントリの中に格納する。
とりあえず街の外・・・モンスターの出現するエリアに行ってみよう。なんにせよ、敵と戦ってみないことには始まらない。というか、いい加減周囲の蔑むような視線にうんざりしてきていた。

ああ、そういえばこの視線はなんとなく覚えがある。
アシュタロスとの戦いのときに、スパイから帰ってきたときの、あの学校や街中での視線とよく似ていた。・・・全く、忘れかけていたのに。

冷たくなっていく思考を振り切って、街の外へと歩きながら初期装備の確認をすることにした。

・青銅の剣
・麻地の服
・クリングブーツ

渡されたのは、この三つだけ。攻撃力などは数値では表されないものらしい。
また、耐久力というものがあって、一定以上使えば折れて廃棄処分にされてしまう。こっちはゲージで確認することができるが、売るにしても、耐久力が少なくなったものはそれにつれ安価なものになってしまうそうだ。

思ったよりも面倒が多い。効率を考えつつ戦わないと、あっさりと序盤で詰まってしまうこともありえそうだ。とりあえず今は三つともゲージは満タンだから、これからどれだけ使い減りさせることなく、多くのモンスターを狩れるかが勝負どころと行ったところだろうか。

「なるほどねー・・・楽はさせてくれないってことか・・・」

口では愚痴をもらしつつも、顔はいくらかにやけてしまう。やはりこういったゲームは一つの少年の憧れなんだな、と苦笑して、剣を構えてみた。

青銅の剣。古くは弥生時代から作られていたという、精製度の低い銅で構成された剣。鉄の剣にははるか及ばないが、石器よりはいくらかマシだと説明に書かれている。
ただ、耐久度が驚くほど低い。最初はやわらかい敵を切っていくのがオススメ、とか。そんなことをあの美人保安官が言っていたような。

いろいろと攻略法について考えて歩いていると、遠くにはモンスターらしき陰が見えた。ここは街のすぐ近くだから、そうそう強いモンスターは現れないはずだ。

「よし・・・いっちょ試し切りといきますか・・・」

頭の中を戦闘モードに切り替える。ノウハウは、そう除霊のときとは変わらないはずだ。持っているのは霊破刀で、敵対するのは街に巣くう悪霊。
考えてみればなんのことはない、俺は今まで何度となく死線の中で戦ってきた。なら、命がかかったデスゲームだからってそうは変わらない・・・ような気がしてきた。大丈夫だ、やれる。

モンスターは、まだこちらには気づいていない。
ならば、と相手に悟られないように、慎重に、剣を横に構えて足を速める。

モンスターに一歩、また一歩と近づきながら思った。・・・剣が予想以上に重く感じる。そういえば霊破刀は質量のない刀だし、今まで俺自身実態の武器を持って戦ったことはなかった。

柄を握った手に汗がにじむ。本当の実戦を前に、かなり緊張しているのかもしれない。
そのままモンスターを射程の目前に控え、剣を頭上に掲げる。
さすがにこの距離まで来て、気づいたモンスター――大き目のサボテンのようなやつだ――はこちらを振り返った。でも。もう遅い。そのまま、剣を重力に任せ振り落としていく・・・。

ガンッ

『えっ?』

想像以上に硬い手ごたえに、困惑する。痺れて痛む右手の先を見ると、剣はモンスターの脇を素通りし、地面に刺さっていた。
しまった、と思うがもう遅い。モンスターは完全に俺を認識し、無防備な俺に体当たりをしかけてくる。

「げはっ・・!」

衝撃に肺の息を吐き出しつつ、吹き飛ばされる。なんとか剣は手放さずに済んだものの、いきなりの大失態に余裕はなくなっていた。
原因は、この剣の重さ。考えてみればSTR(力のパラメータ)が初期値だし、思うように剣が振れなくて当然だった。なのに、俺は初心者にありがちな大振りの攻撃をしかけてしまったわけだ。

目の前のモンスターは、先制の攻撃を受けたことに興奮し、持っていた棍棒を振りかざして突っ込んでくる。大振りと、被ダメージ後の硬直を課せられているため、俺はその場から動けない。
しかもゲーム内だというのに、あまりにリアルな痛みを感じ、もはやパニックに陥っていた。

ブンッ、と棍棒が俺の肩の辺りを叩きつける。骨が軋むような痛みに目を白黒させ、なんとか体勢を立て直す。自分のHPゲージを見やると、すでに半分の黄色いゾーンを振り切りレッドゾーンに突入していた。

『どうすればいい、どうすれば・・・』

必死に考えるが、いい考えが思い浮かばない。リアルタイムで課せられる選択に、ただがむしゃらに剣を振り回すのが精一杯だった。
だが、そんな素人の適当な太刀筋などそうそう敵には当たってはくれない。剣はモンスターの棍棒とかち合い、質量の差から競り負けて吹っ飛ばされる。振動で震える手、体勢を崩し、その場に倒れ込む俺に、モンスターは容赦なく棍棒を振り下ろした。

『だめだ、やられる・・・・っ!!』

目前に迫った棍棒を、抵抗するすべもなく、目を瞑って待つ。
まさかこんな初戦で命を落とすことになるなんて・・・こんなことなら、チャンスを窺ってすぐに逃亡してから回復すべだったと悔やむ。でもすべては後の祭り。訪れるだろう最後の一撃に歯を食いしばり、これからどうなるんだろうと別のことを考える。

―――だがいつまで経っても衝撃は訪れることはなかった。

「・・・?」

「まったく・・・よくこんな最弱モンスターのサボテンヘッドに本気で追い詰められるわね・・」

不思議に思う俺の耳に、なぜか聞きなれた女性の呆れたような声が届く。すると、ヒュンッと鋭い太刀走りの音と共に、モンスターの断末魔が聞こえてきた。
恐る恐る目を開くと、そこには赤い鎧に金に輝く長髪をなびかせる女騎士が立っていた。

「大丈夫?・・・なわけないか。最近の剣奴のレベルの低下は聞いてたけど、まさかここまでとは。」

振るった豪勢な剣からモンスターの体液を拭うと、どうでもいいと言うように、近くにいた馬に乗り、そのまま去ろうとする彼女。俺はというと、あまりの急展開に口を開けて呆然としていたのだが、ようやく脳が再び活動を始め、目の前の女の人に声をかけた。

見間違うはずはない。だけど、どうして彼女はまるで俺のことを知らない人間だとでもいうように、そ知らぬ態度を取るんだろう。

「み、美神さん!ちょっと待ってくださいよ!!」

そう、現実世界で取り込まれてから別れたきりの、ゴーストスイーパー美神令子がそこに存在した。

『助けにきてくれたんじゃないのか?でも、今の口ぶりはまるで、この世界で長く過ごしていた人間みたいだ・・・』

わけがわからず、走り寄る俺に目を向ける美神さん。その目はあの街の住人のように、冷たく、蔑んだものだった。
ややあって、億劫そうに彼女は口を開いた。

「・・・私も有名になったものね。こんな剣の扱いも知らないような奴隷に名前を覚えられるなんて」

・・・は?

いや、そりゃ確かに俺は美神さんの奴隷といわれても過言じゃないかもしれない。むしろ奴隷よりもひどい扱いを受けているという自負がある。
だけど、今のセリフは明らかにそういったニュアンスじゃない。完全に初対面の人間に対し、見下すような態度。

「そう、私は王都騎士団第4部隊長の美神レイコ。でもね、あんたが馴れ馴れしく口に出せるほど、美神の名は軽くはないわ。次もこんな幸運が訪れるとは思わないことね。」

そう言い捨てて、もう同じ酸素を吸うのすら迷惑だと言わんばかりに街とは反対の方へと馬を走らせていった。
俺はしばらくその場に立ち尽くし、ただ彼女が消えていった方向を眺めていた。


当然その日は傷の治療で狩りどころではなく、ノルマどころか一匹も狩れなかった。
人通りの少ない家の馬小屋に無断で入り、藁の上に横たわる。空腹と傷の痛みにうめきながら、今日あった美神さんとこの世界のことをずっと考えていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き。

行き当たりばったり万歳ヽ(;´∀`)ノ(マテ
伏線にならない伏線に自分自身をオロオロさせつつ、次回に続きますー。


ではレス返しいきますよーう
>拓坊さん
一番レスありがとうございますーっ。
アシュタロス戦後の横島くんなので、望みはもうちょっとまともな・・・おとと、これ以上はネタバレですにゃー。

>ジェミナスさん
微妙に望みがバレてるよっΣ(゜д゜;)そんな路線で進むかもです。
罪状はランダムで決まる設定なので・・・横島くんごめん(´人`;)アレ以外思いつかなかったデス。

>黒覆面(赤)さん
ゲーム設定はほとんどオリジナルなので、気に入っていただけてよかったです。
これからもよろしくお願いしますー。

>法師陰陽師さん
ギャー、まさかリューナイト知ってる人がいたなんて・・・侮りがたしNT。
やっぱり妥協せずしっかり舞台設定考えた方がよかったのかしら・・。うぐぅ。
た、他言無用でお願いします(´д`;)

>名無しさん
あちゃ、やってしもーたですよ・・orz
えっと、では太陽と星が世界の周りを回りつつ、平面な地表ってことでよろしくお願いします(汗)

>鳴臣さん
そういえば、ドラクエVIとかでも主人公監獄行ってますよね。
割と勇者と犯罪者は身近な存在なのかもしれない(藁)
戦闘シーンは今回みたいに、普通に戦いっぽく描写しようかと。

・・・え?ドラクエっぽく
「横島はポチョムキンに300のダメージ!」
「ポチョムキンの反撃!横島に50のダメージ!麻痺効果!横島は動けなくなった!」
「すかさずピートが横島のア○ルを狙う!」
「外れた!しかし、横島のテンションが300下がった!」
とかの方がいいですか?

>みうらさん
HP高いですか?(汗)
MMORPGだと割と最初からこれくらいかなーと・・・まずったっorz

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