〜横島視点〜
【くけけけけーー!】
「何でこうなるんやー!」
のっけから俺は悪霊に追われていた。
悪霊はあたりの壁や床、天井を崩しながらも確実に俺を追いかけて来ている。
「忠っち頑張れ〜」
「横島さんファイトですー!」
そして遠巻きから応援しているキイ兄とおキヌちゃん。
人の苦労も知らないでーー!
本当ならこの仕事はキイ兄も戦ってくれるはずだった。だが、エレベーターから降りた瞬間、悪霊に襲撃され崩れてきた天井に、キイ兄は頭と腕以外が瓦礫に埋もれて身動きが取れなくなってしまったのだ。
おキヌちゃんのほうは勿論戦うなんてできるはずもなく、『そこっ!、危ない!、きゃー』などの応援してるのか分からない声援を送ってきている。
「でぇぇい! サイキックスラッシュ!!」
【けーーーっ!?】
俺は腕にためた霊力を霊波として放出し、刹那の刃を作り出して相手を切り裂く。
このサイキックスラッシュはサイキックソーサーとは違い数秒で消える代物なんだが、その分出力が上がり威力も高いのでなかなかの切れ味を誇る。
その証拠に悪霊は頭から真っ二つになって消えていった。
「いや〜、忠っちお疲れ様」
「横島さん、カッコ良かったですよ!」
キイ兄とおキヌちゃんが労いの言葉をかけてくれる。
まあ、褒められるのも悪くはないんだけど…
「キイ兄、いつの間に瓦礫から出てきたんだ?」
「ん、ついさっきだぞ?」
まあ確かに、俺もサイキックスラッシュを撃つ前までは見てたので大して時間はたってないだろうけど…
「キイ兄? 出ようと思えば何時から出られたんだ?」
「ふっ、忠っちそれは違うな。本当なら瓦礫に潰されずに逃げられたのだ!」
つまりは自分から潰されてしまったって言うんだな。
「いや〜、忠っちも強くなってくれて助かるよ。自分は戦わないですむからね〜」
キイ兄は結構面倒くさがりだ、変な方向で。
やらなくてはいけないことを面倒くさがるんだが、どうでもいいこと特に悪戯などに関してはかなり精を出すのだ。
最近では除霊の仕事は殆ど俺にやらせて、自分は高みの見物ばかりだ。
「またそんなこと言って! 自分ばかり楽するなーー!」
「まあまあ横島さん。それよりお仕事も終わりましたし帰りましょうよ」
おキヌちゃんがそういうので、俺はしぶしぶ矛先を収めた。
「けど、エレベーター壊れちゃったし帰りは階段からか…」
悪霊の天井崩しでエレベーターは埋まってしまったのでしょうがなく階段に移動するが…
「んな、馬鹿な…」
「あ〜、見事に塞がってるね」
階段は、エレベーターと同じく瓦礫に埋もれて使いものにならなくなっていた。
えっ、すると何か? 俺達ここに閉じ込められた?
「どうするんじゃー!」
「わー! 横島さん落ち着いてください!!」
「そうだよ忠っち! いざとなれば飛び降りればいいんだよ!!」
「アホかー! ここは32階だぞ! やれるもんならやってみろー!!」
キイ兄の発言に、俺は思わずそう返してしまった。
普通なら冗談としてスルーされそうな言葉だが、
「よし! 分かった!!」
キイ兄には冗談は通用しなかった。
なんたってその存在自体が冗談みたいなものだし仕方がないのかもしれない。
「キイ兄! 今の無「コードレスバンジー!!」あああぁぁ!!!」
「キイさーーーん!!」
キイ兄は制止する前に、窓の外に向かって飛び出していった。おキヌちゃんもキイ兄を掴もうとするが後一歩のところで届かない。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
…くちゃ
うわあぁぁ! 今小っちゃく『くちゃっ』て聞こえた!
しまったー! 霊力で聴力強化したままだったー−!
肉が潰れる音が、耳に! 耳に異様に残るーー!
「よ、横島さーん!
キイさん下でぺっちゃんこですよー!
真っ赤なトマトジュース流してますよ!!
何かピンクな物頭からはみ出してますよーー!!」
戻ってきたおキヌちゃんが泣きながらそう報告してきた。
「うげっ、聞いただけで気分が悪くなりそう」
「あ、それと早く横島さんも飛び降りて来いって言ってました」
「って、もはやその状態で生きてるってのはいいとして、そんな状態で会話できたのか!」
すでにキイ兄はどんなことをしても死なないだろうと判断してあるのでその辺は心配しない。
「いや、つーか飛び降りろってそんなことしたら俺は死んじゃうわ!」
「大丈夫です! 死んでも生きられますよ!!」
死ぬほど苦しいですけどと付け加えつつ、おキヌちゃんはぐっと胸元で両拳を握っている。
「お前らはそんなに俺を死なせたいのかーーー!!!」
結局、おキヌちゃんに梯子を持ってきてもらって下の方の階の窓から入って事なきを得た。
「いや、なかなかエキサイティングだったよ。最後に地面にぶつかる瞬間なんて今までの思い出がバーッて流れていってさ!」
「それは走馬灯じゃ! 死ぬ一歩手前じゃん!」
せかいはまわるよどこまでも
〜〜狡猾狼にご用心〜〜
蒼河霊能事務所におキヌちゃんがやってきてから早数日、おキヌちゃんは勿論のこと住むところがないので幸福荘の俺達の部屋に一緒に住んでいる。
その所為で、現在俺の秘蔵アイテム達は半永久封印状態だ。ああ、どうしよう…
因みにおキヌちゃんはとても家庭的だった。料理に洗濯、掃除までそつなくこなせる。これまで家事全般はキイ兄がやっていたのでとても助かるとキイ兄が言っていた。
俺は何をしているのかと言うと、食器を出したり、買い物に付き合わされたりするだけだ。キイ兄が俺がやると二度手間どころか被害が広がると言われた。
まあそりゃ一回カレー焦がして鍋を使い物にならなくしたけど、そんなに邪険に扱わなくてもいいじゃんか。
「忠っち〜。次の依頼なんだけどさ…」
「また? 何だか最近随分と依頼が来るな」
何故かここ最近ウチへの依頼が多くなってきている。
普通ならいいことなんだろうけど、特にお金に困ってないときはそこまで頑張ってやろうとしないのがキイ兄のスタンスなので大体断ってるようだ。
まあ、全部断るとさすがに評判が悪くなるのでちょくちょくとってたりはするのだが…
「これ、女子高からの依頼なんだけど…」
「却下! ってか男所帯のここに女子高が依頼してくるなんておかしいだろ!」
「それもそうだね〜。まあ、断りの電話して他のGSさんに回すかな」
キイ兄はパッパとその手続きを済ませてまた戻ってきた。
「それじゃ、今回はこれにしようか」
キイ兄が何枚かの紙切れを渡してきた。
「かねぐら銀行? 何でまたそんなところが?」
かねぐら銀行って言えばかなり大手の銀行だったはずだけど。
「さあ? 内容は向こうで聞くことになってるから」
とりあえず、俺達はかねぐら銀行に向かうことになった。
銀行について、キイ兄は仕事の話をするために支店長と話している。
そして俺は今、
「ねえ、お願〜い」
「金額なんて幾らでもかまいませんわ」
「え、あ、ちょっと!」
窓口嬢たちに囲まれていた。
何だ、嬉しいはずなんだ。普通なら。
けど、やっぱり愛がないと空しいな…ふっ。
「お金預けて横島さん」
「え〜っと、ちょっとそれは…」
お金の方は結構貯まっているんだけど、もう他のところに預けてるからどうしようもないんだけどな…
どうやったら諦めてくれるか…
と、その瞬間俺の腹から急に手が生えてきた。
「へ?」
ズボッとさらにもう一本大体胸の辺りから手が生えてくる。
「うお! うおおおぉおぉぉ!?」
「「「きゃあぁぁぁ」」」
蠢く手にあわせて俺は体を派手に動かす。気分はさながらエイリアンだ。
それに恐怖したか受付嬢たちは蜘蛛の子を散らすように逃げいてった。
全員が去ったのを見計らって、俺の体をすり抜けておキヌちゃんが出てきた
「助かったよおキヌちゃん」
「いえ、困ってたみたいですからお役に立てて嬉しいです」
ああ、ホンマにええこやなおキヌちゃんは。その笑顔がとても眩しいよ。
くぅっ、涙腺が緩んできやがった。
「よ〜し、忠っち。一回帰るよ〜」
おろ? いつの間にキイ兄が店の外に出ている。
しかも何故か後ろに幽霊を二人引き連れてるし、話はまとまったのかな?
一度自宅気帰ってきて、俺とキイ兄と男の幽霊二人が円陣を組んで座っている。
因みにおキヌちゃんは今お茶を入れてくれているところだ。
「それでキイ兄、どうするんだ? この二人を成仏させるんじゃないの?」
「うむ、そこでやることは一つ。忠っち、銀行強盗するぞ!」
俺は笑顔で、子供のように無邪気にだが洒落にならないことを言ったキイ兄の頭を思いっきり叩いた。
「痛ぁー!? 痛いって忠っち!!」
「行き成りおっかないこと言うから悪いんだろが! 殴られて当たり前じゃ!」
「まだ続きがあるからちゃんと聞いてよ!あのね…」
キイ兄が言うには、この幽霊二人は銀行強盗に入る前に事故って死んでしまったらしい。その未練で成仏できないので何とかして銀行強盗を成功させたいのだそうだ。
それで、今回は防犯訓練を使っての除霊となったのだ。
「何だ、そういうことか。まあ、防犯訓練のついでならいいかな」
「そゆこと、じゃあ早速準備に取り掛かるよ!」
「「「おう!」」」
「皆さん気合入ってますね」
おキヌちゃんが淹れて来てくれたお茶を飲みながら俺達は来るべき日のため作戦を練った。
〜ナレーター視点〜
「これは真剣勝負であると思え! 盗まれた金は全てあのGSのギャラになる!」
防犯訓練当日、場所はかねぐら銀行、その支店長が社員一同に向かって演説をしていた。
「キャッチフレーズは『強盗するならやってみろ』!! 創業以来強盗を一人も逃がしたことのない我々の力を見せてやるのだーー!っ!」
全員が一致団結して訓練に望むのはすばらしいのだが、銀行なのにもう少し良いキャッチフレーズはなかったのだろうか? 銀行強盗は来ないかもしれないが別に客も来ないような気がしてならない。
朝八時五十五分。かねぐら銀行の前に一台の車が止まっている。真っ黒な大き目のバンだ。
そしてその中にいるのは蒼河霊能相談所チーム+銀行強盗幽霊だ。
「それじゃあ始めようかな…各自持ち場について!」
「「「ラジャー!」」」
この数日ですっかりその気になったのは幽霊三人組。横島の方はと言うと…
『ザザ……なあ、ほんとにこんな事までしていいのか?』
備え付けてあるトランシーバーから横島の声が聞こえてきた。
どうやら彼は既に配置についているらしい。
「大丈夫だよ。うまくいくって」
『そういうことじゃないんだが…』
「いいからGOーGOー!」
それだけ言うと、キイは通信を切った。
ガーっという音共に銀行の扉が開いた。それに警戒する職員たち。
だが、入り口には誰もいない。そして自動ドアはそのまま閉まる。
気のせいかと目を逸らしたとき、
ころんっと店の中に何かが入ってきた。
それは丸っこい、卵形のボールが数個。
「しゅ、手榴弾!?」
一人がそれに気付いた瞬間、眩い閃光が店内を包み込んだ。閃光と同時に相手の耳を聞こえなくする…といけないので変わりに黒板を鉄の爪で引っかくような嫌な音が響いている。
「動くなっ!」
そして店内に入ってきた横島は迷彩服に、黒のゴーグルをしていた。
その手には『H&K MP5A5』が握られている。この銃は各国の警察や軍で採用されていてあのSWATでも御用達のかなり性能のいい銃だ。その一番の利点はその命中性の高さで、乱射などには使わずセミオートなどで確実に撃つ簡易狙撃銃なのだ。
勿論用意したのはキイなのだが、その出所は一切不明である。
「…って言っても動けないよな普通」
横島は店内を見渡して苦笑しながらそう言った。
先ほどの閃光手榴弾で、大半の物が目を潰され地面を転がっており。残りもその後に襲ってきた不快音に青い顔をしている。
と、その瞬間ダダンッと銃声が響き、受付嬢の一人が狙撃された。
「き、きゃーー! 何これーーー!?」
撃たれた受付嬢に低級霊がねばねばと張り付いている。
「忠っち。ちゃんと仕事しないと駄目じゃないか」
そう言って入り口に立っているキイの両手には『グロッグ17』。装弾数が17発と通常より多く、その軽量さからかなり広い範囲にわたって使用されているポピュラーなハンドガンだ。
「あのな! 幾ら安全だからって女性に向かってこんなもんの引き金引けるか!」
「じゃあ男の人撃てば? ほらあの人逃げるよ? 逃がしたら給料カットだよ?」
「させるかーー!!」
「ぎゃあぁぁぁーー!?」
横島は給料のため容赦なく、逃げようとした男の頭、胸、足を三点バーストで綺麗に撃ち抜いた。
とは言っても勿論実弾ではなく、キイが特殊な術をかけてある物だ。
「因みにどんな効果なんだ?」
「当たると今までの人生で恥ずかしかったシーンがリフレインするんだよ」
「それはまた悪質だな…」
撃たれた男の方はうんうんと唸りながら時折悶えている。
かなりシュールな光景だ。
「さて、そろそろかな。引き上げるよ強盗コンビ!」
「「イエッサー!!」」
金庫の中からバックを三つほど持った銀行強盗幽霊が出てくる。
「行くぞ皆ー! 逃走だーー!!」
銀行から飛び出し、止めてあったバンに飛び乗って逃亡を開始した。
途中サイレンの音が聞こえたが、見当違いの方向へと走っていく。
「おお! やったぞ!ポリが来る前に先に逃げられた!!」
「やったねアニキ!!」
「「し・あ・わ・せ…」」
銀行強盗幽霊はあっさりと成仏していった。
「って、キイ兄。あいつら成仏しちゃったんだしもういいんじゃないのか?」
「何言ってるの! やるからには徹底的にが合言葉だよ!!」
そう言ってキイは広い道路に出る。
「止まれーー! 我々はかねぐら警備隊だーー!」
そこで待ち構えていたように『KDF』とロゴの入った車がこちらに迫ってきた。
「はっはっはー! そんなものでこっちを止められると思うなーー!」
そう言ってキイは片手で運転しながら窓越しにグロック17を撃つ。
キイの撃った弾丸は相手のフロントガラスに着弾すると、低級霊が出現してその視界をふさぐ。
「うわー」
「ぎゃーー」
「あぶねーー」
「なあキイ兄。後ろの方が大変なことになってるような気がするんだけど?」
「大丈夫! 今のは全部霊の仕業だから犯罪じゃないんだよ!
それより忠っちハンドルもって」
そう言ってキイは車の後部座席に向かう。
「って、おわぁ! 俺無免許だぞ!」
文句を言いつつもなかなかのハンドル捌きを見せる横島。伊達にゲーセンには通ってないのだ!
キイの方はバンの天井のルーフを開けると、そこから身を乗り出して『パンツァーファウスト3』を構えた。
簡単に説明すると日本陸上自衛隊が配備している対戦車ロケット砲だ。
「ぶっとべーーー!!」
「洒落になってないぞキイ兄ーー!!」
何時から日本はハリウッド映画顔負けの治外法権地帯になったのだろうか?
キイの放ったロケット弾は地面に激突すると、その瞬間中に閉じ込められていた下級霊の群れが辺りに溢れかえった。
「あ、あははははは〜〜」
横島はもう笑うしかなかった。
その時、突然車のバランスが崩れそのままガードレールにぶつかった。
「動かないで! そこまでよ!」
その瞬間バンを取り囲むように、黒ずくめの女性たちが現れた。
「私達はかねぐら銀行特殊窓口部隊!!」
「いたたた…どうやらお終いみたいだな…キイ兄大丈夫か?」
そう言って横島はバンの後部座席を見ると、キイは何故か其処にいなかった。
横島は不思議に思いながらバンを降りて周りを見渡すと、キイは道路の真ん中でうつ伏せに倒れていた。
「き、キイに…」
駆け寄ろうとした瞬間、目の前を10tトラックが通り過ぎた。
「もげらっ!?」
奇妙な悲鳴と共に、10tトラックが何かを踏んだように軽く揺れていた。
因みにキイに起こったことをダイジェストで送ると、
ロケットをぶちかました後、車が突然バランスを崩した。
ルーフから身を乗り出し、しかも対戦車ロケットを構えたままのキイも勿論のことバランスを崩した。
そして、ルーフから外に投げ出されて道路に全身を強打。
さらにトドメとばかりに今しがた10tトラックがキイを轢いたのだった。
「いや〜、痛いのなんのって。これは希少な体験だったね」
「キイ兄、普通なら即死ものだよ」
最近流血キャラとなりつつあるキイは、はっはっはと高らかに笑いながら早くも復活していた。
「なっ、これは…」
バンを囲んでいたかねぐらの窓口嬢達が驚きの声をあげる。
窓口嬢たちの手には、紙の束。そう、札束ではなく紙の束が握られていた。
「はっはっはー! 実はバンに乗り込む前に本物はすり替えておいたのだ!!」
「い、いつの間に…」
実はキイ、バンに乗り込んだ瞬間、窓からすぐ其処のマンホールめがけてバックを落としていたのだ。
そしてそれを回収するのは、
「ひう〜、おもいですーー!」
おキヌちゃんの役目だったのだ。
「そ、そんな…」
落ち込む窓口嬢達。それを見て勝ち誇るキイは彼女たちに近づき。
「あ、それとバン事故らしたのそちらだから修理費は払ってくださいね」
「お、鬼や…」
さらに修理費を請求するキイに、横島は戦慄していた。
ただこれはあくまでも防犯訓練なので、かねぐら銀行には黒星がつくことはなかった。
「しっかし、三億円か。本当に貰っちゃってもいいのかね?」
幸福荘にて、横島は先日の銀行での仕事を思い返してそう呟いた。
キイはパソコンを弄りながら、お茶を飲んでいる。
「ん、その三億はNGOに寄付しておいたよ」
「えっ! マジで!?」
これ感謝状と、横島に一枚の書状を差し出した。
確かに其処には感謝状とデカデカと書かれている。
しかし何故か名義が『横島忠夫』になっていた。
「何故に俺?」
「だって、自分がやったらいろいろと厄介だからさ」
どうもプロのGSがそう言ったことをやるとかなり目立ってしまうらしい。
そういや有名人とかが多大な寄付するとTVに出たりしてるなと横島は納得した。
「わ〜、これで横島さん有名人なんですね」
「まあ、TVにでる訳じゃないけどちょっとは知られちゃうんじゃないかな」
「はあ…まあ、別にいいけどさ。ところでキイ兄さっきから何してんだ?」
横島はキイの後ろに回りこんでディスプレイを覗き込む。
其処に映っていたのは、『かねぐら銀行ネットワーク』。かねぐら銀行のホストコンピューターに進入していた。
瞬間、横島の頬が引き攣る。
「き、キイ兄? これはどういうことかな?」
「ああ、これ? おキヌちゃんに頼んでちょっと『お馬さん』を仕込んでもらったんだよ。いや〜、おキヌちゃんナイス!」
「えへへ〜、私頑張っちゃいました!」
キイに褒められて上機嫌のおキヌ。
横島の方は、最近おキヌがコンピュータにはまっていた理由を知って頭を抱えていた。
「さあ! スイス銀行の口座に500億円送金だーーー!!」
「本当に犯罪に手を染めるなーーー!!」
横島はキイが最後の『Enter』を押す前に渾身の右ストレートでキイを殴り飛ばした。
こうして、かねぐら銀行の倒産の危機は免れたのだった。
〜おまけ〜
穏やかな風が吹き、それに吹かれて手入れの行き届いた花がゆらゆらと揺れる。
そんな庭園の中央のテラスで、優雅にティータイムと洒落込んでいる影が二つ。
「いや〜、何だかえらい久しぶりな気がするな」
「そうですね。すっかり忘れられてる気がしますね」
紅茶を飲みながらそう話しているのは、言わずと知れた神界魔界の最高指導者のキーやんとサッちゃんである。
テーブルの上には、ティーセットだけでなくチェス盤もおいてある。
「それより、そちらの進み具合はどうですか?」
「ん、それがちょっとおかしいんや」
サッちゃんがちょっと訝しげな表情をしながらルークを動かす。
「どうしたのですか?」
「実は、アシュタロスの動きがないんや」
「それは、一体どういうことですか?」
キーやんもチェスの手を止めて真剣な顔で尋ねる。
「別に全く無いって訳じゃないんやけど、どうもちまちまと行動していて動向がつかめんのや」
「それはまた…どういうことでしょうか?」
「わからんな〜。兎に角これからも警戒しとくから何か変化があったら教えるわ」
くいっと紅茶を飲み干すサッちゃん。そして相手のキングの前にビショップを置いた。
「チェックメイトや!」
「あっ…」
いつの間にか、キーやんのキングは逃げられない状態になっていた。
「これでチェスの戦績は196万1526勝186万8469敗3万1983引き分けやな」
もはやとんでもない戦績である。因みに引き分けは時間以内に勝負がつかずお流れになった場合である。
「ふっふっふ、また白星が増えてもーたな」
「いいですよ。将棋の方は私の方が勝っていますからね」
二人が懐から取り出して書いているのは『ゲーム戦績』と書かれた手帳。全ての勝負事の勝敗を書き記してあるもので、なんと捲っても捲ってもページが現れ続ける不思議アイテムだ。
「よっしゃ、それじゃあ今日もお勤めがんばろかな」
「サボらないでくださいよ? 緊急事態に報告書の山に埋もれてましたなんて洒落になりませんからね?」
「わ、わかっとるって! ちぃ、今日はこの後遊びに…」
「何か言いましたかサッちゃん?」
「何でもないで。ほな行こか〜」
こうしてキーやんとサッちゃんは庭園を出て行った。
あとがき
レスをくれた方ありがとうございます!
早速お返事を返させていただきます。
>古人様
ありがとうございます。そう言ったお言葉が書く側としてはとても励みになります。
この調子…かどうかは分かりませんが(汗)、切らさないように頑張っていきます!
>masa様
>ここまで読めないキャラは初めてだ
自分でもたまにそう思っちゃいます(笑)
キイ君はもともと暇つぶしに人間界に現界するような奴ですから、その行動理念の殆どは『楽しくなればオールオッケー』って感じなのです。
でも少しだけ彼にも別の理念があったり無かったり…
その辺はまだまとまってないのでまたの機会に!
>ジェミナス様
そうですね〜。美神さんと同期にって思ったんですがGS試験は三年前、美神さんが18歳の時で合っているのでしょうか?
もし違ったら少しだけ設定が変わっちゃうな〜(汗)
エミさんとの絡みも面白そうですね考えて見ます。
雪之丞は…まずは原作どおりですかね。ちょっとだけでも出演できるかどうか模索してみます。
今回はとりあえずテストということで原作三話分(厳密には二話)を一まとめにしてみました。
内容が希薄になっていないかなと少し心配です。
今のところのレギュラーは三人。
キイ君はあいかわらずはっちゃけています(笑)
横島君がほぼ突っ込みキャラに…早く他の突っ込みキャラ出さないと(でも全然めど立ってません(大汗))
おキヌちゃんはこのまま天然で頑張ってもらいます。キイ君を唯一ボケから外せる彼女は結構おいしいキャラかもしれません。
次回も二話ほど混合で行くかもです。何とかまとめられるよう頑張ります!
それではこの辺で失礼致します…