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▽レス始

「せかいはまわるよどこまでも〜5〜(GS)」

拓坊 (2005-10-26 02:32)
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〜横島視点〜


あれから、忙しくも充実した日々が過ぎていった。
銀ちゃんが引っ越す時、俺達は互いの愛機を交換し合った。
そしてその後すぐ俺が東京に引っ越す事になった。この時夏子に散々泣かれて困った。


中学時代は、兎に角修業と学業の両立が大変だった。
赤点を取るたび母さんの雷と、キイ兄(この頃呼び方が変わった)が地獄家庭教師になってしごかれた。

そんな時、キイ兄が重大な発表があると俺を呼んだ。


「忠っち。これから言うことはとても大切なことだ。もしかしたら人生観が変わっちゃうかもしれないほどのことだ」


実に真剣な顔でキイ兄は話してくる。
だが、真剣なキイ兄に対して俺は何故か真剣になれない。


「そっか。それで何なの?」


「ああ、実はな…自分は……


人間じゃないんだ!


キイ兄がそうカミングアウトしてきた。
普通ならここで大いに驚くところなんだろうけど、


「へぇ、そうだったんだ」


俺は勤めて冷静にそう返した。


「「………」」


なんとも微妙な沈黙が流れている…


「いや、忠っち。もうちょっとリアクションは取れないのか? 一世一代の大暴露だったんだぞ?」


「いや、だって。妙に納得しちゃったし」


と言うか今までのキイ兄を見てきて、人間だって言われたほうが逆に疑わしく感じると思うぞ。
それにキイ兄って、会ったときから全然姿形変わってないし。
うん、むしろ絶対に否定するな。


「そんな! それじゃあこの後に…忠っちが『そんな事信じられない』って家出して、そこを不良に絡まれてピンチって時に助けに来て、


『キイ兄、何で? 俺…』


『ふっ、忠っち言わなくていいさ。忠っちがどう思っていても俺はいつまでもお前の味方さ』


『キイ兄、俺間違ってたよ!』


そして二人は肩を抱き合い、笑いながら帰っていきましたとさ。


みたいな展開にはならないじゃないか!」


どういう妄想だそれは! それに俺は不良に絡まれる前に逃げ切るわ!」


「くっそー、忠っちのいけず! 冷血漢!」


人聞きの悪いことを言うなよキイ兄。ご近所に聞かれたらどうする気だ?


「鬼畜! ロリコン! 世界のゴミ溜め!」


「ちょっと待てコラー!」


今聞き捨てならないこと言わなかったか!


「うわぁぁぁ! 忠っちの短小! 不能!! ポークビッツーーー!!!」


あえて何がとは言わず、家を飛び出すキイ兄、俺もそれを追うべく飛び出した。


「悪質なデマを流すなーーー!!」


結局そのまま町内を一周したが、幸い深夜だったので聞いてる人はいなかった。
ただ、警察官に職務質問されそうになったので全力で逃げた時は危なかった。


だがその次の日の朝に、


「忠夫、男はアレの大きさじゃないよ」


「そうだ。肝心なのはテクニックだぞ」


「そんな理解したように哀れんだ目で俺を見るなー!」


両親に揃って肩を叩かれた。
一瞬本気で家出しようかとも思った瞬間だった。


そして今は17歳の高校二年生だ。
両親は高校に上がると同時にナルニアへと転勤になることになったんだが、その別れは凄かった。だって…

『父さんのナルニアへの転勤が決まりました。母さんは浮気しないように着いてくからアンタの事はキイ君に任せたわ』

机の上にそれだけ書いた手紙が一枚だけ乗っかっていた。
普通息子との別れを紙一枚で済ませるか?
この時ばかりは、俺っていらない子なのかと真剣に悩んだものだ。


家のほうは、既に売りに出していて家を失った俺はキイ兄の家に転がり込むことになった。
そのとき知ったのだが、キイ兄は何とGSの免許を持っていた。
いつの間にとったのかと思えば、三年前…そういや一時期出かけてばっかいたがあの時だったのか。

でもキイ兄も言ってたけどGS試験って現役GSとかの推薦がないと受けられないんじゃなかったっけ? その辺の事を聞いてみたら、


『忠っち、蛇の道は蛇って諺は知ってるか?』


『勿論、同類の者にならすぐに分かるってやつだろ?』


『じゃあ、壁に耳あり障子に目ありは?』


『何時どこで秘密が漏れるか分からないって意味じゃなかった?』


キイ兄はニヤッと笑うと、それ以上何も言わなかった。何をしたんだキイ兄!?

その辺の話は有耶無耶になったが、今キイ兄は蒼河霊能相談所なるものを設けている。まあ、相談所と言ってもイコール自宅な訳だが。

ちなみに『蒼河』はキイ兄の苗字だとか。何でもGS免許を取るときには身分証明が必要だから戸籍を作った時に付けたらしい。
ってか、そんな気軽に戸籍を作るなんてもはや何でもありだな。
けどその戸籍を見たら、キイ兄の年は現在20となっていた。
あ、ありえねぇ…。見た目14、5なのにありえないって。


因みに相談所を作ってもキイ兄は半ばフリー状態のGSだった。相談は手紙と電話だけで受けているが特に外回りをして売り込んだりはしていない。
まあ、キイ兄は高い道具を使ったりしないから日々の生活費はしっかり確保できているし問題ないだろう。


「忠っち〜。そろそろ出かけるぞ」


「了解っと」


そして俺は、蒼河霊能相談所の助手を務めている。


せかいはまわるよどこまでも
〜〜天然幽霊少女〜〜


〜ナレーター視点〜


目の前にあるのは廃工場。あちこちのガラスは割れ、もはや完全に機能していないのが見て取れる。
そんな工場に向かって、拡声器で呼びかけている少年が一人。


「え〜、君はそこの所有者に多大な迷惑をかけている。抵抗せず速やかに祓われなさい」


【ここは俺の工場だー! 再開発なぞ許さん!! 失せろーー!!】


工場内の悪霊が叫ぶと、隠れている車のガラスが全部割れてしまった。


「ほ、本当に大丈夫なのかい?」


今回の依頼者であるこの工場の持ち主が話しかける。見た目が自分よりずっと若い少年と言うこともあって信じきれていないようだ。


「大丈夫です。すぐに祓って見せます」


本当に大丈夫だろうかと心配していたとき、


【ぐわっ!!】


悪霊の悲鳴が聞こえ、その後すぐに悪霊の体は崩れて消えて行った。


「って言うか。何で俺が中に入ってキイ兄が外で囮やってるんだ?」


相談所、というか自宅に帰ってきて横島はキイに疑問をぶつけた。
そう、先ほど工場に侵入し悪霊を祓ったのは横島のほうであった。


「アレくらいなら忠っちでも大丈夫そうだったし。そろそろ実践訓練もいいと思ってね」


キイは淹れたてのお茶を飲みながらのほほんと羊羹をつまんでいる。
横島は別にいいけどさと、キイの入れたお茶に口をつける。


「それで、今日の報酬って幾らだったんだ?」


「ん、アレは確か三千万ってとこかな」


社会の発達により、経済も活発化した日本は現在かなり手狭になってきている。それに加え地価高騰によりそこに住み着く幽霊を祓う商売はとてもぼろい商売だ。
今回だって三千万もの大金をたった半日で手に入れている。


「キイ兄、それを踏まえて聞くけど何でこんなボロイアパートに住んでるの?」


横島の言うとおりこの幸福荘はお世辞にも綺麗とは言えない。


「何だ? 大家さんに直談判して二部屋繋げたのんだから結構広いだろ?」


「そりゃ最初に比べれば広いけど、お金もあるんだしもうちょっと広い部屋借りたら?」


横島がキイの家に転がり込んだとき、渋る大家を何とか説得して左側の部屋との壁をぶち抜いて繋げたのだ。勿論改築工事費はキイ持ちである。


「でもあと五年分契約してあるし、特に不自由してないからいいでしょ」


最後にお金もったいないしといいながらキイは最後の一切れの羊羹を口に放り込んだ。


「そうだ忠っち。明日の土日は温泉行くよ」


「これまた行き成りだな」


横島もキイの突拍子のない行動には慣れたもので特に気にした様子はない。


「ほら。これそこのパンフレット」


「へぇ、山の中なんだ。しかし変な名前だな」


横島の手にしているパンフレットには、『人骨温泉ホテル』と書かれていた。


「まあ骨休めにはいいかもな」


「あ、ちなみに混浴じゃないから。残念だったね」


「ああ、そりゃ残念…って誰が混浴が良いって言った!」


「ええっ!? 忠っちって実はソッチの人?」


キイが立ち上がって何故かお尻を押さえる。


「何故行き成りそういう考えにいく! どういう思考回路してるんだよ!!」


そんな掛け合いをしながら、夜は更けていった。


人骨温泉ホテルは結構山深い所にあって、勿論のことバスなんて通ってない。行く方法は自分の車かもしくはタクシー、まあ普通はないだろうが徒歩などだ。

そしてキイと横島はレンタカーを借りて目的地を目指していた。
因みに運転してるのはキイである。
免許を見せられたとき横島がたいそう驚いていた。

今回借りたのはちょっとしゃれたオープンカー。
そしてキイは今、


「うおぉぉぉ! イナーシャルドリフトォォォ!!!」


「普通に運転せんかーー!!」


この山道にアタックを仕掛けえていた。


「何人たりとも前は走らせない!!」


「つーか俺ら以外誰もいないだろー!!」


横島の言うとおり今この山道を走っているのは二人の乗る車だけだった。
だが、思いっきりスイッチの入っているキイにはそんな事聞こえてなかった。


「そこぉぉ!!」


なかなか無理なカーブを決め、車体が斜めに浮いた。
その時、たまたま半ドアだった横島の座っている側のドアが開き、何故か横島のシートベルトが外れ、偶然にも車体は横島からして外側に傾いていた。


結果…横島は落ちた。


「キイ兄のドアホーーー!!!」


そんな声は聞こえないとばかり、キイの操る車はあっという間に見えなくなった。
横島のほうは地面をごろごろと転がり、崖に向かって一直線。


「なんとーーー!!」


すんでのところでガードレールにしがみ付いて九死に一生を得ていた。


「キイ兄め…俺のこと振り落としただけでなくおいていきやがって…
ああ、痛ってー。傷だらけじゃんか」


時速100キロ近くの車から転げ落ちてかすり傷程度しかない横島。やはり彼も普通ではなかった。


「あとで一発ぶん殴って「えいっ!!」おわぁっと!?」


横島は急に後ろから生じた、殺気にしては随分と弱い気を感じ取り、普通では無理な体勢で緊急回避をとった。


「大丈夫ですか! おケガはっ!? 私ったらドジで…」


横島に話しかけたのは袴姿の少女だった。


「嘘付け! 今思いっきり『えいっ』って言ってただろ!」


ギクッと一瞬体を強張らせる少女。しかし行き成り地面に蹲る。


「うっ! 持病のシャクが…! ちょうどそこに薬がありますので取ってきていただけます?」


そう言って少女が指した方向には、新装開店したパチンコ店張りの派手なセット。
その中央に『玉露丸』とかかれた薬が置いてある。
しかもここは山の中だ。

怪しさ全開だった。


「っていうか、シャクは病気じゃないんだぞ? 胸や腹が痛くなることを言うんだ」


「えっ! そうなんですか?」


「いや、嘘。ちゃんと胃が捻じれる病気としてある…って知らなかったって事はやっぱり持病ってのは嘘だったんだな」


「あうぅ、騙すなんてひどいです」


少女は自分の方から先に騙そうとしていたのにそのことはすっかり忘れて、涙目で睨んでくる。
ハッキリ言って全然怖くない。むしろ涙目なところが逆に罪悪感を誘う。

横島はふぅっとため息をつきながら少女に話しかける。


「ところで君幽霊だろ?」


「ええっ! 何で分かったんですか?」


あっさりと認める。どうもこの幽霊少女、かなり素直なようだ。


「まあこれでもGSの助手だしね」


「ごーすとすいーぱーって何ですか?」


幽霊少女は横文字に弱いようだった。


「えっと。昔風にいうと退魔士とか祓い屋とかかな?
あ、別に君を祓いに来たわけじゃないから安心してね。

それより俺は横島忠夫。君の名前は?」


「あ、はい。おキヌって言います」


ぺこりと礼儀正しく挨拶する。


「それでおキヌちゃんはどうしてこんなことを?」


「実は…」


おキヌから事情を聞こうとしたその時、


「あー、いたいた忠っち。いつの間にかいなくなってて吃驚したよ」


キイがなにくわぬ顔で現れた。


「いつの間にって、キイ兄が俺を車から放り落としたんだろが!」


激昂した横島が怒鳴る。しかしキイは堪えることなくはっはっはと笑っていた。
おキヌの方は突然現れたキイにどう対応していいのか迷っている。


「おっ。こりゃ何だ?」


そう言ってキイはある一転に手を伸ばす。


「って、キイ兄其処に近づいちゃ…」


しかし注意を促すには遅すぎた。


「何だ。薬…ぐばぁっ!?


キイの頭上に大岩が降ってきて、まるで蛙のごとく潰れた。


『ぐちゃっ』という音ともに当たり一面に赤いケチャップ(比喩)が広がった。
隙間から出ている片腕だけがアクセントになってそのグロテスクさを引き立てている。時折ぴくっぴくっと痙攣しているのが余計に怖い。


「うわー! キイ兄が潰れたーー!!」


「きゃーーー! どうしよ! どうしよーー!!」


おキヌは自分で仕掛けておきながら、横島と一緒にパニックになっていた。


「ごめんなさーーーい!」


おキヌは謝りながらその場から姿を消した。


「あ、こら待って! どうするんだこれーー!?」


目の前の惨劇にどうすることもできず横島は叫んでいた。
見る人が見れば横島が何かしたように見られるだろう。
どうしたものかと慌てている横島。

しかし、横島は忘れていた。


片方だけ出ていた腕が行き成り横島の足を掴んだ。


「ひいぃぃぃ!?」


横島大パニック。そりゃ岩の下から出ている手に急に足を掴まれたら驚くだろう。

横島がテンパっている間に、大岩がゴゴッと動き出した。


「あー、久しぶりに死ぬかと思った」


そして、見事血だらけながら随分と元気なキイが姿を現した。
横島が忘れていたこと。そう、キイは人間ではないのだ。

因みにそのあまりもの非常識さに横島はコケていた。


「しかしあの幽霊っ子め。こんな罠を仕掛けるとはなかなかの手馴れだな」


「いや、アレにかかるほうがどうかと思うけど?」


「ふっふっふ、今度あったら目に物見せてくれる」


暗い笑いをあげるキイに、横島はだめだこりゃと匙を投げた。


〜横島視点〜


「はあっ、除霊の仕事? 休暇じゃなかったのか?」


「あれ、言ってなかったっけ?」


旅館についてから旅館の人に最初に聞いたのは除霊についての話だった。
キイ兄の顔がなんとなく白々しい。分かってて言ってるなこれは。
だが今更どうしようもないし、ここは大人しく従うか。


「それで、除霊対象は? もしかしておキヌちゃんか?」


「おキヌちゃんってさっきの幽霊っ子のこと? それなら違うよ。今回の幽霊はむさ苦しい男の霊なんだって」


一枚の資料を渡してくるキイ兄。そこには写真も貼ってある。
これが今回の除霊対象ね。

写真に写っているのはガタイのいい髭の生えた男…ああ、確かにこりゃ全然違うな。


「それじゃあまずは手分けしてその霊探そうか。
自分は外の方探すから忠っちは旅館の中頼むね」


「了解っと」


こうしてキイ兄と二手に分かれて幽霊探しに出かけた。


「おお〜、露天風呂か。結構本格的だな」


旅館のほとんどを調べ終わっても成果はゼロ。
最後にまだ調べていない露天風呂にやってきていた。
とりあえずまず霊視をしてみることに…。


「じ、自分は明痔大学のワンダーホーゲるはっ!?


「あ、すまん」


突然目の前に現れたものだからつい右ストレートを叩き込んでしまった。
でも行き成りあんなムサい顔が目の前に現れたら殴っちゃうよな。男として。


「ひ、酷いであります!」


「あ〜、はいはい。話しは後で聞いてやるからまずは着いてこい」


おキヌのときとは違い随分とぞんざいな対応である。
横島の理念としては女子供には優しく、男は適当だ。まあ、見捨てないだけマシなのだろう。
ぶつぶつと文句を言いながらも着いてくるワンダーホーゲルを引き連れて、キイの待っているであろう部屋に戻った。


部屋に戻ったときキイは既に戻っていた。


「あっ、お帰り忠っち」


テーブルの上に空っぽになった皿を何枚も乗せている状態で。


「一応聞くけど、この皿は何?」


「今日のお昼ご飯」


「俺の分は?」


「遅かったんで食べちゃった」


てへっと頭を叩くキイ兄。あ、ヤバイ。頭の血管が切れそうだ。


「いっぺん空でも見て来ーーーい!」


「空を自由に飛びたいかもーーー!!」


血管が切れる前に理性が切れて、怒りに任せてキイ兄を窓の外に放り投げた。
キイ兄はそのまま重力に引かれて、雪の積もる地面にダイビングした。


「あの…自分はどうすれば?」


あっ、すっかりワンダーホーゲルのこと忘れてた。
とりあえずキイ兄が帰ってくるまでここで待機してもらうことになった。


「つまり、死体を捜して供養してやればいいんだね」


キイ兄はアレから数分待つことなく、天井裏から行き成り現れた。
その際ワンダーホーゲルが踏み潰されたが男だし大したことなさそうなので助けはしなかった。


「けど死体を捜すって言っても、春とは言えここら一体はまだ雪が降ってるのにどうするんだ?」


「ふっ、こんなこともあろうかと。こんなこともあろうかとーー!


発明家の一度は言いたい台詞を口にしながら、キイ兄は懐から箱状の物を取り出した。


「これさえあればどんな死体だって探し当てる! 『見つけろジャッカル君』〜」


どうでもいいが見つけた瞬間死肉を貪りそうに聞こえるのは俺だけか?
しかもどんなことを想定して作ったんだよそれ。


「これは忠っちが何時死んでもいいようにとってたんだけどな」


今の言葉は聞かなかったことにしよう。何か大切なものが壊れてしまいそうだから。


「それじゃあ早速出発しよ……」


? キイ兄が急に言葉を止めて固まった。何か見つけたのか?
キイ兄の視線を追うと、そこには木に隠れてるようで全然隠れきれていない幽霊少女。おキヌちゃんがいた。

はっ! 殺気!?

バッとキイ兄のほうを見ると、まるで獲物を見つけた肉食獣な目でおキヌちゃんの事を見ていた。


「ここであったが百年目! と言いつつもそんなには待ってないんだなこれが。
つーわけでさっきの恨み晴らしてやるーー!!」


「キイ兄落ち着けー! 言葉が支離滅裂だーー!!」


何とかキイ兄の腰にしがみついて突っ込むのは止めた。
だがキイ兄の執念か、ずるずると引きずられていく。


「おキヌちゃん。早く逃げてー」


「あっ、彼方は!」


おキヌちゃんも気づいたみたいだ。これで逃げてくれれば、


「あの時大岩につぶされた人! 何でここに、と言うことはお化けなんですね。
きゃー、祟らないでー! あれは事故だったんです! ごめんなさーい!」


「って、そっちも幽霊でしょうが!!」


お笑いの血が騒いでつい突っ込んでしまった。
フッ、無駄にスナップが効いたいい突込みだったな。
と、ここであることに気づいた。俺、さっきまでキイ兄抑えてたんだよな?

キイ兄を抑えてた − スナップを効かせた突込み = キイ兄解放!


掴まりて放さず、逃れること叶わず! 我が祝詞に応え、仇名すものを隔離せよ!


って、行き成り包囲結界かよ! そこまでやるかキイ兄!


「ふっふっふ、自分を罠に嵌めたことを公開するんだな」


いや、アレは嵌る方も悪いと思うぞ。
って、俺結界の外っ側じゃん!


「キイ兄ー! 相手は女の子だぞー!」


「世の中男女平等だー!
因みにレディーファーストは、実は中世で食事の毒見や、部屋の中に暗殺者がいないか確かめるためにさせてたらしいぞー!」


へぇ、そりゃためになる…レディーファーストって怖いものだったんだな〜


きゃあぁぁぁぁ!


って、暢気にトリビアに浸ってる場合ではなかったー!
急いで意識を結界の中に向けると、そこでは恐ろしい光景が…


「ほ〜れほ〜れ」


「きゃあーきゃあー!」


恐ろしい…光景…


「そらーダブルでいくぞーー!!」


「もう許してくださーーい!!」


「………」


結界の中では、先に毛虫のついた枝を持ったキイ兄がおキヌちゃんを追い掛け回していた。

………まあ、そんなことだろうと思ったけどさ。うん。
こんなことのために結界まで張るのかキイ兄? いや、張るんだろうけどさ。
目の前で繰り広げられる、光景に頭痛がしてきたのは多分気のせいじゃないな。


「まだだーまだまだだー! 結界の中を毛虫で一杯にするんだー!」


「いい加減にしとかんかこの馬鹿兄ーー!」


「ぐはぁ!?」


アホなことを言ったキイ兄の左頬に渾身の右ストレートを叩き込んだ。勿論霊波を纏って攻撃力を上げてである。


「うわぁ〜ん。怖かったです〜」


「あ〜、よしよし。悪は倒れたからもう大丈夫だよ」


すがり付いてくるおキヌちゃんをあやしてやる。ああ、これが生きてる女の子だったらもっと嬉しかったんだけどな。


「ああっ、忠っちが殴った! 今まで突っ込み以外で殴らなかった忠っちが…」


あっちは何だかショック受けてるな。まあ放っておいても…


「そっか、ついに忠っちも反抗期なんだな。懐かしいな〜、風呂入るときに背中流しっこしたり。嫌いな食べ物を一緒に克服したり。台所のおやつを奪取するために…」


駄目だな! このまま放っておいたら俺との思い出を全て吐露しかねない!


「因みに秘蔵本の隠し場所は本棚のぶふっ!


危ない危ない、もうちょっとで青少年のとても大事な尊厳が著しく侵害されるところだった。


「う〜ん、はっ! 自分今何してたっけ?」


どうやら強く叩きすぎて記憶が飛んだらしい。好都合だしいいか。


「ほら、おキヌちゃんの「自分も!」…とワンダーホーゲルの相談に乗るんじゃないの?」


そういやワンダーホーゲルいたな。つい忘れてた。
キイ兄はそうだったかとあっさり納得しておキヌちゃんから話しを聞いている。


「なるほど。それじゃあキヌキヌは三百年前に人柱になったけど、何故か神様にもなれず成仏もできないと」


「はい、そうなんですけど…あのキヌキヌではなくて普通におキヌと呼んでもらえると嬉しいんですが」


「そう? なら忠っちと同じでおキヌちゃんって呼ぶね」


可愛いのにな〜と言いつつ一応呼称変えたみたいだ。


「ん、そうだな。ワンダー君! 君山の神になりなさい」


「えっ、山の神様っスか? やるっス! 俺たちゃ街には住めないっス! 遠き山に陽は落ちるっス!」


どうやらワンダーホーゲルも乗り気のようだ。


「よかったねおキヌちゃん」


「はいっ」


キイ兄は地面にササッと『陣』を書く。おキヌちゃんにはこのあたりの霊脈から力が流れて来ているから、それを移すための術式らしい。


「ここをこうして…ここをこう弄れば……よしっと。

それじゃあ始めるね」


キイ兄はその陣の中央に立って、術式を起動させた。
バチッと言う音がおキヌちゃんからすると、気脈の流れが視認できるほどに実体化し、キイ兄はその流れを鷲掴みにした。


「おりゃぁぁ!!」


そしてそのままワンダーホーゲルに投げつけた。
その瞬間ワンダーホーゲルは光に包まれ、今までの登山姿から山の狩人と言ったような服装に変わった。


「おお! これで俺も山の神っスね!」


「まだ見習いなんだからちゃんと修行するんだぞー」


ワンダーホーゲルは、角笛を吹きながら山に帰っていった。


「さて、これでおキヌちゃんも思い残すことないね」


そういやおキヌちゃんは成仏しちゃうんだ。
何故か会ったばかりだけど、とても寂しい気分になってしまう。


「はい。横島さんにキイさんありがとうございました。幽霊を騙した人と、虐めた人として来世でも語り継いでいきます」


「「語り継ぐなそんなもん!」」


はっ、思わず突っ込んでしまった。しかもいつもボケ役のキイ兄まで突っ込ませるとは…天然おキヌちゃん恐るべし。


「それでは皆さんさようなら…」


おキヌちゃんがゆっくりと天に昇っていく。


「…」


「「…?」」


天に昇る途中で止まるおキヌちゃんどうかしたのかな?


「あの、つかぬ事をお聞きしますが成仏ってどうやるんでしょう?」


ダアッと俺とキイ兄はこけてしまった。ぬぬぬっ! キイ兄を突っ込ませるだけでなくこけさせるなんてますます侮れないぞおキヌちゃん!


「おキヌちゃんかなり霊体安定してるから自力で成仏は難しそうだね。誰かに払ってもらうしかないかな?」


「やってもらえないんですか?」


「一応破魔札ならあるけど? ちょっち痛いけど確実に逝けるよ」


「あぅ、痛いのはちょっと…」


幽霊でも痛いのは嫌みたいだな。
しかし、未練がないのに成仏できない以上祓う以外に手立てはないのだが。


「なあキイ兄、成仏できないんなら一緒に連れて行かないか? 三百年も山の中にいたんだし少しくらい楽しいことさせてあげてもいいんじゃない?」


ずっとこんな辺鄙な場所にいたんだし、ちょっとぐらい遊んでも罰は当たらないだろう。


「ん〜、まあ自分が保証人になれば保護できるし。忠っちがどうしてもって言うならいいよ」


「よし! 後はおキヌちゃん次第だな。どうするおキヌちゃん?」


「えっ、あ…えっと……お願いします」


こうして、蒼河霊能相談所に新しいメンバーが増えたのだった。


「じゃあ時給はとりあえず1万円ね。ほかの手当てもちゃんと出すよ」


「はい! 一生懸命がんばります!」


「って、時給1万って俺より高いじゃん!」


因みに俺の時給はその半分の5千円だ。衣食住にお金を使わないから全部自分のお金になるんだけど、新任採用で俺より高いのは納得いかんぞ!


「頑張れ助手二号君!」


「しかも先にいるのに二号になってるし!」


長時間に及ぶ討論の結果、時給値上げ交渉は失敗したが。何とか助手一号の座は確保できた。


〜おまけ〜


帰りの山道。


「スカーレットターーーン!!」


「だから安全運転しろーー!?」


「お、落ちちゃいますー!」


今度は下りの山道にアタックするキイ。
隣で横島が叫び、おキヌが涙目で車体に掴まっている。


秘儀ダークロードーーー!!


「スピード落とせ、っておわあぁぁぁぁ!?


「ああ! 横島さーーーん!!」


今回の依頼の報告書

人骨温泉ホテル幽霊事件
偶然近くにいた地脈に縛られていた霊を解放し、対象霊を神へと変じさせて事件解決。
なお、地脈に縛られていた霊は霊体が安定して成仏できないので保護することにした。

追記:助手一号、車から二度転倒…軽症




あとがき

恒例(?)のレス返しです。


>ジェミナス様
某赤い人の世界の設定は面白そうなんですけどね。
横島君の心象風景はやっぱり夕暮れですかね。美女ばっかってのもありですけど(笑)


今回のお話でやっと本編再構成突入です。まず最初はやはりおキヌちゃんですね。
おキヌちゃんは結構好きです。けど黒キヌは怖いです。
原作でも重要だったキャラだけに、頑張って活躍させたいです。おもに天然ギャグの餌として。(笑)


今の悩みはこのまま原作を一話ずつ消化するか、それとも重要な話&お気に入りの話だけで行くかですがどうしたらいいでしょう? 悩みますね。(汗)


兎に角、誰かが一人でも呼んでくれている限り書き続けます。読んでいなくても書き続けるかもしれません。(笑)


それではこの辺で失礼します…

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