〜横島視点〜
「おっはよ〜」
俺は朝の挨拶をしながら教室に入る。
何だか久しぶりに学校に来た気がするんだけど、ちゃんと皆出席してるんだよな。
う〜ん、不思議だ。
「おはよう横っち」
自分の席に着いた所で銀ちゃんがやってきた。
銀ちゃんは友達の仲で一番の親友や。
けど銀ちゃんはカッコイイし、頭も良くて運動神経も抜群で、オマケに優しくってまさに理想の優等生だ。もちろん女の子にだってもてもてや。
それなのに俺みたいな平凡な奴と付き合ってくれてるのがとっても不思議だ。
一度それについて聞いて見たけど、『俺は俺、横っちには横っちの魅力があるんや』と言われた。俺みたいなのを励ましてくれるなんて銀ちゃんは良い奴やなと思った。
「そういや横っち。ペガサスの調子はどうや?」
「調整はバッチリや。今度の大会も貰ったで!」
ペガサスって言うのは俺のミニ四駆マシンの名前の事だ。
一年位前に、急に親父と母さんがプレゼントだってくれたのだが、いままでありえなかったことのために箱を開けるときは霊視で異常がないかを確認し、霊波を纏って防御力をあげてから開けた。
その様子を見ていたキイ兄ちゃんは乾いた笑いを上げていたんだが、あの親達(特に親父)にはあれくらい慎重になっても損はないと思う。
「そっか。けど今回は負けへんで! そうや、今日放課後に勝負せんか?」
「あ〜、すまん。今日は無理や」
銀ちゃんが残念そうな顔で『そうか』と言った。
「横っちまたなん? 放課後になると何時もすぐに帰るけど何しとるん?」
そこで話しかけてきたのは同じクラスの夏子だった。
銀ちゃんに継ぐ、第二の親友や。
このクラスのリーダー的な存在で悪戯好きの俺とは犬猿の仲やったんやけど、今ではすっかり打ち解けている。
「秘密の特訓や。それ以上は教えられへんよ」
別にキイ兄ちゃんは修業について話してもいいって言ってるんやけど、俺まだまだ未熟で恥ずかしいからもうちょっと強くなってからでいいかな。
「なんや横っち。つれないな〜」
「ゴメンな〜。また今度埋め合わせするわ」
そこで始業の合図の鐘が鳴り、お喋りは其処で終了となった。
せかいはまわるよどこまでも
〜〜新たな決断〜〜
「あっ……と言う間に放課後やな」
全然勉強した気にならんけど、これ以上追求しちゃ駄目な気がするから止めとこう。
「それじゃあ、また明日な」
「おう、じゃあな横っち」
「またな」
銀ちゃんと夏子に挨拶してから、俺はそのまま近くの公園に向かう。
林の中に入ると、何時もの場所にキイ兄ちゃんが待っていた。
「来たか忠っち」
「おう! 今日もよろしくお願いや」
こうして今日の修行が始まった。
でも修業と言っても、今は基礎訓練の反復を行っている。
何でも基本さえ極めればそれは奥義にも通じるって言ってたけど、良く分からん。
兎に角基本が出来てないと駄目なので、ここ半年はほぼ同じ訓練をやっていた。
「さて、座学なんだがな。今日はオカルト以外の事に付いて話す」
「オカルト以外?」
「ああ、でもとっても重要な事だ。ちゃんと聞いて考えろよ?
人間は生きていく上で色んな体験をする。嬉しい事や悲しいこと、楽しい事にむかつく事だってあるだろうな」
うん、今まで結構な体験してきたし…
あれ? 何だか辛い事ばっかり頭に浮かぶのは気のせいかな?
「そういう体験をしていく中で、あることを決めなければならない。何だか分かるか?」
「うーん、決めること?」
何だろ? 夕飯のメニューは母さんが決めることだし、そんなこと言ったら拳骨くらいそうだ。
「分からんわ」
「まあ、忠っちぐらいの子供ならそうだろうな。でも力を求めている以上年齢は関係なく、これは決めておかないといけない
その決めないといけないって言うものはな、『目的』と『目指すべき道』だ」
『目的』と『目指すべき道』? 両方とも同じ意味じゃないのかな?
「『目的』は何をしたいか、『目指すべき道』はそのためにどう生きるかだ。
例えば『目的』がお金だとするだろ? そうしたら『目指すべき道』はイロイロとある。大手企業に就職する、会社を興す、玉の輿に乗る。悪い例で言えば銀行強盗とか詐欺とかでもお金は手に入るな。
何のために、どうするのか? それを決めなくちゃならないんだ」
成る程〜。何のためにどうするかか。
「あれ? でもキイ兄ちゃんに弟子入りした時に言わなかったっけ?」
「もう一度忠っちの言葉で、はっきりと宣言して欲しくてな。あの時から忠っちも成長してるし多少は変わってるかもしれないし」
そっか…自分の言葉でしっかりと伝えないといけないのか。
俺の『目的』と『目指すべき道』…
まず『目的』は何だろう? 強くなりたいかな? でも何で強くなりたかったんだっけ?
そう、何も出来なかったからだ。それが悔しくて、情けなかったんだ。
でも、はっきりとこれが『目的』だって言うのが浮かばないなぁ。
これじゃあ『目指すべき道』は考えられない。
目指すべき道…俺は『目的』がないから、まだ考える事すら出来ないな。
「忠っち〜。聞こえてるか?」
「え? へっ! 何!?」
気付けばキイ兄ちゃんがすぐ目の前で俺の顔を覗き込んでいた。
あ、集中しすぎてた。
「まあ今回の課題は宿題だな。急いで決めても意味ないし。良く考えてから答えを出せよ」
俺の頭にポンッと手を置くとキイ兄ちゃんはにっこり微笑んだ。
キイ兄ちゃんは普段はおちゃらけてるけど、大切な所はちゃんと押さえている。
そういうところを俺は尊敬している。
「よし、忠っち。今日は面白いものを作ったからそれで特訓するぞ」
「げっ!? また作ったの…」
キイ兄ちゃんの発明品は、凄いものなんだと思う。けど、無駄な部分も凄すぎて結局駄作になってる気がするんだよな。
そうしてキイ兄ちゃんが持ってきたのは、野球のピッチングマシーンみたいなもの。
「これは霊波弾発射装置『投げまくり君』だ!」
そして、ネーミングセンスが微妙にずれている。もっとカッコイイ名前は付けられないのだろうか?
「コイツは操者の霊力を使って霊波の玉を最高で秒速800m/s! 毎分120発連射できる優れものだ! 威力も岩を砕く程度はあるぞ!」
それって一般の機関銃並みじゃないの? っていうかまるっきり兵器じゃん!
「さあ忠っち。これの前に立つんだ!」
「ちょっと待って! 今の説明聞いてそれの前に立つわけないじゃん!!」
そんなもの発射されたら一撃で吹き飛ぶわ!
「ああ、ちゃんと設定は低くするから大体時速90km/h前後、連射も毎分20発だし威力は当たっても軽く腫れる程度だ」
「ああ、ちゃんと設定できるんやな」
それを聞いて安心した俺は投げまくり君から15メートル程度の地点に立った。
「よ〜し、それじゃあ始めるぞ」
「何時でも来い!」
キイ兄ちゃんがパネルを操作して、投げまくり君が動き出す。
時速90km/hくらいなら小学生のピッチャーくらいの速度だな。毎分20発なら三秒に一球だ。
それなら余裕でかわせる!
一瞬、投げまくり君が白く光ったのが見えた。そしてそれとほぼ同時に頬に痛みが走る。
そして背後で、バキバキバキとかズズゥーンとかいう音が聞こえた。
そーっと後ろを見ると、背後にあった木が丁度自分の肩の高さから折れて横倒しになっていた。
「いや〜、失敗失敗。どうやらバグがあったみたいで最高速度&最高威力で発射しちゃったよ」
「殺す気かーーー!!!」
「最高連射じゃないぶんマシでしょ?」
「そういう問題じゃない!!」
こういう冗談にならないミスは止めて欲しいと切に願う。
〜夏子視点〜
「それじゃあまたな〜」
今日も横っちは学校が終わったらすぐ帰る見たいや。
けど今日こそは横っちが何してるか突き止めてやる!
「行くで銀ちゃん!」
「やめたほうがいいんやないかな〜」
乗り気じゃない銀ちゃんを引き摺って私達は横っちの後を追った。
横っちは真っ直ぐ家には帰らない見たいや。
家に帰るなら向かう方向がおかしいし、この先は公園があったっけ?
忠っちは予想通り公園に入っていった。
「なあ夏子。今からでも遅くないし止めとかん?」
「何言ってるんや。銀ちゃんかて横っちが何してるか気になるやろ?」
「そりゃそうだけど…」
銀ちゃんははっきりせんな。
あ、横っち見失う前に追わな。
まだ渋る銀ちゃんを引き摺って私は横っちの消えた公園に入った。
横っちは公園に入るとすぐに林の中に向かって行った。
この林結構深いから見失わないように追いかけて行くと。ちょっと開けた場所に出た。どうやら横っちはここに用があるらしい。
「……ちゃん……」
「…の………か?」
ん、誰かいるみたいやな。ちょっと遠くて声も聞こえんし場所を変えよ。
「それじゃあ何時も通りな」
「おっけ〜」
横っちの隣にいる兄ちゃん、蒼い髪で眼も真っ赤やな。外国の人かな? 横っちとどういう関係なんやろ?
あ、横っちに何か渡してる…リストバンドかな? 横っちはそれ両手足に嵌めて走って行ってしまった。
暫くして戻ってきた忠っち。汗びっしょりでとっても疲れてる風に見える。
次は地面に座ったかと思ったら両手をかざしてなにやら集中しだしてる。
ん、あれ? 何かぼんやりと横っちの手が光ってる気がするんやけど気のせいやろか?
もうちょっとで日が暮れるって時に、さっきの兄ちゃんが何か変な紙を放ったら、変な鳥が出てきた。
そしてそれと行き成り戦いだす横っち。危ないって思ったけど…横っちは手にある変な光で鳥の攻撃をかわして、時々攻撃してる。
結局、横っちは変な鳥を叩き落して決着がついた。けど横っちはアチコチ傷だらけで、とっても痛々しかった。
「なあ、横っちなんであんな事してるんと思う?」
「さあな〜。さっぱり検討つかへんわ」
私の問いかけに、銀ちゃんも首を捻るばかりだ。
「横っち…」
空に浮かんでいるちょっと欠けた丸い月を見上げながら、私は心にもやもやとしたものを感じた。
〜横島視点〜
今日は日曜日。久しぶりに昼からの修業はお休みだ。キイ兄ちゃんがたまには友達と遊んで来いって言ってくれたので、今日は銀ちゃんと夏子と遊ぶことにした。
「よっしゃ〜。また当たりや」
今は駄菓子屋の前で皆でアイスを食べている。
そして食べ終えたアイスの棒には『あたり』と書いてあった。
「またかいな横っち。それで三回目やろ?」
「いや〜、強運やで今日は!」
とは言ってるものの、本当は運じゃなくて実力なのだ。
まず、一つ一つアイスを手にとって、『霊視』をして違いをみるのだ。
透視が出来るわけじゃないんだけど、はずれとあたりの微妙な違いを感じ分けて選んでいるわけだ。
これを教えてもらったのは勿論キイ兄ちゃんだ。
最初はズルやないんかと聞いたが、
『自分の力で選んでるわけだし、ズルじゃないだろ。
それにな忠っちバレ無ければ犯罪じゃないだよ。
それに霊視の特訓にもなるし一石二鳥だろ?』
と、返された。納得できない部分(特に二言目)があったけど、いざ買おうとしたら目先のアイスに釣られてついつい使ってしまった。
ポイントはやりすぎると流石に怪しまれるから最高でも三回にしておくことらしい。
アイスも食べ終わって、どうしようかと尋ねた所夏子が面白い場所があるというので其処に行く事になった。
そして着いたのは、随分とボロボロな建物だった。こういうのを廃墟って言うんなよなたしか。
「よっしゃ。今日はここを探検や。いくで二人共」
「「ラジャー」」
何時も通り夏子がリーダーとなり、俺と銀ちゃんはそれに続いた。
廃墟の中には割れている窓から入る事にした。
「結構散らかってるんやな」
「お菓子の袋に缶に瓶。誰かがパーティーしてたんやな」
あたりをキョロキョロと見渡しながら奥に進む。
廊下の奥の方が暗かったりするんだけど、今歩いてるのは窓のある廊下側だけだから今のところ灯りは必要ない。
銀ちゃんが一つの部屋を空けると、行き成りネズミが飛び出してきて銀ちゃんは悲鳴を上げた。
それを聞いた俺と夏子が笑い、銀ちゃんが恥ずかしそうに笑っている。
ん〜、何だかワクワクするな。まさしく冒険って感じだ。
「将来はこうやって探検家になるのもいいかもな。」
「そうやな。我が道を行くって感じでカッコイイしな」
銀ちゃんと夏子が何気なくそう言った。
そう言えば、『目的』と『目指すべき道』…まだ見つけてなかったな。
何だかこうもやもやとした物はあるんだけど、はっきりとしない。
キイ兄ちゃんは何時も焦るなって言うけど…
「横っち!」
「うわっ!? な、何や夏子驚くやないか…」
「呼んでるのに返事しない横っちが悪いんやろ」
呼んでたのか、考えに集中してて全然気付かなかった。
「まあええわ。それより横っち一つ聞いてええか?」
何か真剣な顔やけどどうしたんやろ?
「ええよ。何が聞きたいんや?」
「横っち。学校終わったら公園に行って体鍛えてたやろ?」
「うぇっ!?」
ば、バレてる! 何でバレたんや?
「実はこの前横っちの後つけたんや」
あ、そういやこの前キイ兄ちゃんが、
『友達のことはいいのか?』
って急に聞かれたけど、そういう意味だったのか!
ああ〜、何か恥ずかしいな。
けどそれがどうしたんだろ?
「なあ横っち。何でそんなに頑張ってるん?」
「え?」
一瞬、夏子の行った言葉の意味が分からなかった。
「何のために、あんなに怪我してまで頑張ってるんや?」
夏子の言葉は、苦しくも今悩んでいることだった。
「それは…」
答えられない…答えがないから、答えたくても……
「うわあぁぁぁ!!」
その時、奥の方から悲鳴が聞こえてきた。
「今の声は銀ちゃん!」
「何かあったんや! 夏子は外に出て人呼んできてくれ!」
「横っち!?」
くそっ! 何でこんな事になるんや。
キイ兄ちゃんに教えてもらった事が頭をよぎる。
『廃墟とか古い建物には幽霊や妖怪が住み着きやすいんだ。人が近づかないし陰の気も溜まり易いからいい棲家になるんだよ』
やっぱり俺はアホや! 折角習ったことを全然生かしきれてない!
愚かな自分を呪いながら、悲鳴のしたあたりに来た。
『除霊とかでまずやるのは霊視だ。敵を見つけるのが先決だからね』
霊力を操作して霊視を行う。右の部屋に反応が二つ! 銀ちゃんと何かがいる!
霊波を篭めた脚で勢いよくドアを蹴破った。
其処にいたのは体長3メートルはある蜥蜴だった。
赤黒い鱗を全身に纏い、両手両足には鋭い爪、巨大な顎は子供の頭ぐらい一砕きに出来そうだった。
部屋を見渡すと、部屋の左側の方で銀ちゃん壁にもたれかかっていた。
「銀ちゃん無事か!」
俺は急いで銀ちゃんに駆け寄った。
「横っちか! 気をつけい。こいつただのでっかい蜥蜴やないで!!火ぃ吹きよった」
よく見ると銀ちゃんの服の肩口が焼け焦げて、皮膚が赤く変色している。ちゃんと見ないと分からないけど軽度の火傷を負っているようだ。
けど、火を吹く蜥蜴の妖怪か…銀ちゃんも怪我してるしここは逃げた方がいいかもしれない。
「銀ちゃん! 俺がこいつの注意引くからそのうちに逃げるんや!」
「横っちはどうするんや!」
「その後逃げるに気まっとるやろ!」
俺と銀ちゃんが話していると、蜥蜴が喉を膨らました。
俺はすかさず、溜めておいた霊波でサイキックソーサーを作り蜥蜴に投げつけた。
サイキックソーサーは相手にぶつかるとガラスみたいに砕け、爆発する。
「よ、横っちすっごいな…」
「銀ちゃん! 呆けてないで今のうちや!」
俺の声を聞いて銀ちゃんが入り口に向かって走り出す。
蜥蜴はそっちに反応するが、そうはせない。
「やらせんで!」
サイキックソーサーを再度作り、もう一発お見舞いした。
【グワァァァァ!】
「げぇ! 怒った!?」
蜥蜴がこっちに突っ込んでくる。意外と素早い動きに俺は横っ飛びになって蜥蜴を回避した。
蜥蜴はそのまま壁に体当たりして、ボコンっと言う音共に反対側の部屋まで突っ込んで行った。
なんちゅう破壊力じゃ。当たったら骨砕けるで!
そ〜と、蜥蜴の開けた穴から隣を覗きこんで見る。
目の前が一瞬真っ赤に染まった。
「あっちゃー! 顔に火がーー!!!」
どうやらあの蜥蜴、ジャストタイミングで火を放っていたようだ。
5、6回転ほど地面を転がった所で火はやっと消えた。
霊波発して霊的防御上げてなかったら丸焦げだったな多分。
【グオッ!】
「! とわぁー!!」
蜥蜴はまた壁を破ってこちら側に突っ込んできた。
サイキックソーサーは全然ダメージになってないし、此処は逃げの一手かな。
「戦略的撤退ーー!」
俺は蜥蜴から回れ右して部屋の外へと逃げ出した。
【ガアァァァ!】
そしてやっぱり蜥蜴はこっちを追ってきた。
「うおおぉぉぉ! ランナーズハイじゃーー!!」
常に全速で逃げるのだが全く引き離せない。
速過ぎるわこの蜥蜴! どないしよーー!!
おわっとー出口やーーー!!
そのままトップスピードで割れている窓から外に飛び出す。
それに続いて蜥蜴も飛び出してきた。
外に出たけどこの辺人住んでないから誰かが間違ってくる事はないよな?
くそっ! こうなったら夏子が誰か呼んでくるのを待つしかないか…
「横っち!」
「あかんで夏子!」
って何ー! 銀ちゃんはともかく何で夏子が其処におんねん!
つまりアレか! 人は呼びに言ってないから救援は期待できないのか!?
「馬鹿! 何でもっと遠くに逃げてないんだよ!!」
「せやかて、横っち一人置いて逃げれるわけないやん!」
くそっ! このままじゃジリ貧や。
けどどうすれば…
と、そこで蜥蜴の方に目をやる。
あれ? 蜥蜴がこっちを向いてない。
おい、何処に向いてるんだ?
まさか、だろ?
蜥蜴は、銀ちゃんと夏子に向かって走り出す。
「逃げろ銀ちゃん! 夏子ーー!!」
サイキックソーサーじゃ間に合わない。
銀ちゃんは呆然としている夏子の手を引いて横っ飛びした。
二人は何とか蜥蜴の突進を交わした。だが、次の瞬間銀ちゃんの身体が宙に浮いた。
蜥蜴の尻尾が銀ちゃんの腹を捉えていた。
「銀ちゃん!!」
銀ちゃんは壁に叩きつけられ、力なく崩れ落ちた。
けど胸が動いてる! 死んではない!
蜥蜴の方を再度見ると、まだ夏子呆然とその場に立っていた。
蜥蜴は夏子を捕捉すると、飛び上がり、夏子にその鋭い爪を振るう。
「逃げろ夏子!」
「…あっ!」
夏子は俺の声に反応し、踵を返して逃げようとするが一歩遅かった。
ズバッという音と共に、夏子がゆっくりと倒れこむ。
俺にはそれがまるでスローモーションのように見えた。
ドクンと、心臓が音をたてた。
俺は湧き起こる感情に身を任して、霊力を一点に、集中させる。
まだ放出はせず、ただ『収束』しそれを『圧縮』する。
同時に霊視を行う。目に霊力を集中させ、蜥蜴を見据える。
その蜥蜴の全てを知るべく、解析する。
一点だけ、喉元の一点だけ霊波が弱い。其処が、弱点だ!
走る、ただ蜥蜴に向かって走る。
蜥蜴はこっちに気付くがそんなこと気にならない。
蜥蜴が喉を膨らませた。炎を吐く気だ。
でも、足を止める気はない。ただ真っ直ぐに立ち向かう!
炎が放たれた、それと同時に圧縮した霊力を一気に解き放つ。
霊波が右腕に迸る。右腕からの感覚が鈍い。でも動けばそれで十分。
「あああぁぁぁぁ!!」
振るう霊波が一瞬一メートルほどに伸び、目の前に迫った炎を袈裟斬りにする。
炎が二つに割れた。けど自分が完全に通れる隙間ではない。それでも俺は体をその中にねじ込む。
炎が消え、蜥蜴を捕らえた。
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
全ての霊力を右手に収束させる。圧縮させる。
この一撃に全てを篭める!
右腕が蜥蜴を捕らえた瞬間、霊波を放出。
「サイキックインパクト!!!」
荒れ狂う霊波の奔流が蜥蜴へと流れる。
瞬間、目の前が真っ白になった。
気が付くと、地面に倒れこんできた。
そっか、全霊力を放ったから…だめだ、身体に力が入らない。
蜥蜴は…どうなった?
銀ちゃんは? 夏子は無事か?
ずるり、と音がする。
顔が動かないので、目線だけをそちらに向ける。
其処には絶望的な光景があった。
蜥蜴は、生きていた。
俺の放った霊波は打点がずれて、喉の一部と右前足を肩口から吹き飛ばしただけだった。
しかも、徐々にその傷口が再生して行く。
結局駄目だった…俺じゃあ誰も助けられなかった。
大切な人手さえ、助ける事が出来ない。
ただ皆に笑っていて欲しいだけなのに…
ただ皆に生きていて欲しいだけなのに…
そのためにならどんなことだってやるのに…
あ、宿題がやっと終わったな…
こんなときになって俺はキイ兄ちゃんに出された宿題の答えを見つけた。
『目的』は皆に幸せになってもらうこと。皆が笑って楽しく過ごしてくれるのが望みだった。
『目指すべき道』は正義の味方だった。己を省みず、皆のために戦うそんなヒーローになりたかった。
最初から答えは全部自分の中にあった。『魂』の中にしっかり存在していたんだ。
蜥蜴が、こっちに近づいてくる。
でも、いまさらそんなことが分かっても無駄かな…
ゴメン、銀ちゃん、夏子、親父、母さん…キイ兄ちゃん。
蜥蜴が大きな顎を開いた。
【グァッ!?】
突然バシンという音共に、蜥蜴が後方に吹き飛んだ。
いつの間に、一つの影が僕の隣に立っていた。
蒼い髪が風に揺れ、赤い瞳が僕を見据える。
「まあこりゃ随分派手にやられたな」
「……キ、イ…兄ちゃん」
「よく頑張ったな。今回は負けたが評価は満点をやるぞ」
ぺタッと僕の額に一枚の札を張る。すると身体からすぅっと痛みが消えていくのを感じた。
「まあ応急手当程度だ。それとあっちの二人も無事だったぞ」
銀ちゃんと夏子の事か、良かった。無事だったんだ…
「さて、それじゃあ忠っちとその友達を虐めてくれた蜥蜴にお仕置きでもしますかね」
そう言って蜥蜴の前に立ちはだかるキイ兄ちゃんがカッコ良く…
「いけぇ! 『ワンとお泣き君二号』! アイツをシバキ倒してしまえーー!」
そう言って現れたのは宙に浮く円柱。そのアチコチから光の鞭が出ている。
……はい? 今なんて言いましたか?
空耳だよねきっと…
「はっはっは、逃げても無駄だ! ワンとお泣き君二号は一度ターゲットを決めると地獄の果てまで追尾するのだーー!!」
神様、この際悪魔でもいいですからキイ兄ちゃんをもうちょっと真面目にして下さい。
(それは難しいですね)
(ワイにもそれはキッツイな〜)
あ、何か今やんわりと無理って言われた気がする。
「はぁ〜はっは! やれ! ヤレ!! 殺れーー!!」
【グギャアアアァァァ!!!】
あんなに苦戦した蜥蜴は宙に浮く円柱の繰り出す鞭でズタズタにされています。
何だかこの世の理不尽というものを学んだ瞬間でした。
結局、蜥蜴の化け物は宙に浮く円柱にシバカレて祓われた。ちょっと哀れに思う。
蜥蜴を祓ってから、俺と銀ちゃんを夏子はキイ兄ちゃんから傷の手当てを受けていた。
銀ちゃんの怪我はそんなに酷くなく、ちょっと骨に異常があるかも知れないから後で病院にいくように言われていた。
一番酷かったのは俺で、身体の方も霊波の殆どを右腕に集めている時に浴びた炎の所為であちこち火傷だらけ。無理して霊波を放出した右腕は魂のレベルで傷がついて暫く安静だといわれた。
それで夏子なんだが、
「はい、これでいいでしょ」
「あ、ありがとう」
夏子はあの時切り裂かれた風に見えたけど、怪我は全然対したことなく髪の毛をバッサリ切られただけだった。
それで今キイ兄ちゃんが軽く整える事になり、今夏子は肩口ぐらいのショートカットになっていた。
「ど、どうかな? 変やないか?」
夏子が恐る恐る聞いてくる。
「めっちゃ似合っとるで! なぁ、横っち」
「ん〜…」
俺は夏子の周りをくるりと一周し、そっと髪の毛に触れた。
「うん。ショートヘアも可愛いで夏子」
「えっ! あっ、うん。…ありがと」
夏子は何故か下に俯いてしまった。言葉の最後の方も小さくて聞こえなかったし何て言ったんだ?
「何だ忠っち。失礼な事言って怒らせたか?」
「さあ? 全く検討つかん」
「二人共、本気で言っとる?」
「まさか〜、ちゃんと分かってるさ。なあ忠っち?」
「え? あぁ、うん」
((…分かってないな))
銀ちゃんがため息をついて、キイ兄ちゃんはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。どうかしたか?
帰り道、俺は嫌がったんだけど立つ体力もないので結局キイ兄ちゃんに背負われて変える事になった。
太陽はゆっくりと沈んでいき、あたり一面がセピア色の世界になる。
「そうか、学校では忠っちは相変わらず馬鹿してるんだな」
「そうなんよ。何度言っても聞かないんやから」
銀ちゃんと夏子はすっかりキイ兄ちゃんと打ち解けている。
しかし、話題が俺のことばっかりなのでなんだか肩身が狭い気がする。
此処は話題を変えないと…
「あっ、そう言えばキイ兄ちゃん。さっきの変な円柱あったじゃない」
「ああ、『ワンとお泣き君二号』な」
「うん、あれって結局なんだったの?」
よし、話題転換終了。銀ちゃんと夏子も蜥蜴がシバカレていたシーンと見ていたようでそっちに意識を向ける。
「あれはな、属性を付加させたアイテムを作ろうとしたんだよ」
「属性?」
「ああ、五行の『土金水木火』とかが有名だが今回は『変化』を付けようとしたんだがな。ちょっと失敗してしまったのだ。」
「どんな?」
「うむ、何処を間違ったのか分からないが。『快楽』の属性がついてしまってな。形も最初はただの魔法のステッキ風だったのだが、試行錯誤の末あんなになってしまったのだ」
ステッキをどう弄れば宙に浮く円柱&鞭になるんだ?
やっぱり無駄な所で凄い。
「『快楽』ってどういう効果なん?」
此処で夏子が質問する。
「ん、アレの例で説明すると。鞭で叩かれると気持ちよくなるわけだ」
「「……」」
何だか子供は聞いてはいけない言葉だった気がする。銀ちゃんのほうも絶句してるし。
「そ、それでどうなっちゃうんや?」
「ああ、叩かれれば叩かれるほど気持ちよくなるから。まあ、Mさんになっちゃうんだろうね」
夏子がキャーと言いながら頬を押さえて顔をぶんぶん横に振っている。けどその顔に浮かんでいるのは笑顔だった。もしかしてSさんですか夏子さん?
「実はアレの前作は暴走してな。これがその時の痕」
キイにいはそう言ってちょっと胸元を見せる。其処には確かに蚯蚓腫れのようなものがあった。
「いや〜、ぶっ飛ばすのがもうちょっと遅かったら目覚めちゃう所だったよ」
「あ、流れ星みっけ」
「願い事せなな」
俺と銀ちゃんは早々と現実を逃避する事に決めた。
「そういやさっきの二号は何処に行ったん?」
「言っただろ? 地獄の果てまで追いかけるって」
「「あの謳い文句本当だったんかい!!」」
急遽向こうの世界から帰還した俺と銀ちゃんダブルツッコミが決まり、キイ兄ちゃんはかなり満足そうな顔だった。
あとがき
まずはレスのお返事をば…
>masa様
>「世界」なんだから大概の黒いもんは見てると思うんですがね…。
キイ君はもちろんそう言ったものを知ってますが、それは記録として知ってるけど、経験はした事が無かったんです。
生の体験とスクリーンなどで見るのの違いですね。
女性キャラは今回夏子がでましたが残念ながら一発キャラです。
本編再構成に行けば増えると思いますので暫しお待ちを…
>meo様
一話で書いてありますが、横島君の魂の色に興味を持ちそれを自分色に染めると発言しています。(笑)
そういう理由で納得していただけるでしょうか?(汗)
>マヒマヒ様
そうなんですよね。少し考えたのですが白い犬もまだ。猫のほうも微妙だし狐は栃木で遠いなと思って結局出せなかったんです(汗)
本編再構成ではちゃんと出してあげるつもりなのでお待ち下さい。
>596米様
霊能については難しいですね。
原作のGS試験では一次試験とか攻撃とかで体から放ってたりするのを霊波と使ってるのでそう解釈してました。
他にも霊力とか霊圧とか霊気とか霊核とか色々あって難しいですね。
もう一回コミックスとか文献読んで勉強し直してみます(汗)
皆様レスありがとうございました。とっても励み&勉強になります。
ミニ四駆についてすっかり忘れてました。原作では9〜11歳に三年連続優勝しているんですね。こっちは10歳になってしまってたので、勝手ながら10、11歳の二年連続優勝になってしまいました。(汗)
さて、今回は横島君の戦闘だったのですがやっぱり微妙ですね(大汗)
読み返せばそこまで戦闘描写ありませんし誇大公表したかもです。ゴメンナサイ。
ギャグも微妙だし、本編再構成に入ったらもっと力入れたいです。
本編再構成では美神さんの代わりにキイ君が横島君と動きますが、ちゃんと絡ませるようにします。(何時出てくるかは分かりませんが(汗))
プロットはこれから書くのでちょっと時間がかかるかもですが、次話も出きるだけ早く書き上げたいと思います。
それではこの辺で失礼致します…
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