〜横島視点〜
キイ兄ちゃんに弟子入りしてから丁度二年。10歳になった俺は一人称が『僕』から『俺』に変わっていた。
それでもって今は修行中なわけなんだが、
「死ぬーマジで死ぬーー!」
いきなり生命の危機を感じていた。
「大丈夫だー。そう言って死んだ奴は少ないぞー」
キイ兄ちゃんが気の抜けそうな声でそう答える。
「それってちょっとは死んだってことじゃんかー!」
今俺は地面に寝そべって、体よりデカイ岩を上に乗せられていた。
「この岩は霊波を発っすれば重量が軽くなるからね。油断しなければ全然問題ないよ」
「そうは言ってもちょっとずつだけどもうかれこれ一時間は霊波発しっぱなしなんだよ! いい加減霊力底を尽きちゃうって!」
あ、なんだか段々と岩が重くなってきた気がする…こりゃ本格的に不味いかも
「キイ兄ちゃんいい加減岩どけてー」
「何言ってるんだ忠っち。この国には『石が上にも三年』って諺があるんだし頑張れ!」
「それを言うなら『石の上にも三年』だよ! あ、ヤバ…くるし……」
今まで苦しい修業だらけだったけど、此処で終わりか〜短い人生だったな〜。
そうだな、この二年間大変だったな。
せかいはまわるよどこまでも
〜〜地獄の特訓変?〜〜
そうだな〜、最初に霊力について習ったのは…
〜ナレーター視点〜
横島少年がキイに修業を頼んで三ヶ月が経った頃だった。
「さ〜て、と言うわけで山にやってきました!」
「全然どういう訳か分からないんだけど?」
「判ってないな忠っち、修行といえば古今東西山に籠もる事から始まるんだよ」
「へぇ〜そうなんだ」
こうしてまた微妙に偏った知識が横島少年に伝わっていくのでした。
今二人がいるのは人里離れた森の中。
キイは横島少年を修業を付ける事になってから横島夫妻の元を訪れ話をしていた。
キイの外見が14、5歳なので最初は難色を示されたのだが、そこはさすが横島の者ということか、キイが只者ではないと見切り幾つかの条件付きでそれを承諾した。
その条件の一つが、『手加減せずに、徹底的に』らしい。
それもあってか休みの日にはこうやって普通に遠出を許してたりする。
素晴らしくスパルタ&放任主義な両親だ
「じゃあ、まずは座学から始めるか」
「って、此処まで来て座学!?」
横島少年は座学が大の苦手だった。
「はい、じゃあまずは自縛霊とは?」
「え、えっと、特定の場所や物に未練を持って留まる霊のことだっけ?」
とりあえず少しは身についているようだ。因みに付け加えるなら自縛霊は己の未練を伝えるために姿を現し、酷い場合は相手を死に至らしめることもある。
「よ〜し、ちゃんと憶えてきたな」
「まあ、何回も聞いてれば…けど今まで覚えたの結構バラバラだけどいいの?」
「ああ、それでいいんだよ。後で絶対に役に立つから」
因みに、横島少年が今までに教えてもらったのは、猫又に人虎、ヴァンパイア、九十九神、竜神、人狼、妖孤などなどである。
随分とピンポイントで狙ったものだ。
「さて、じゃあ次筋トレな」
「アイアイサー!」
座学の時とは違いきびきびと動く横島少年。今も昔、じゃなくて未来も横島君は勉強が嫌いらしい。
横島少年はこの三ヶ月、学校から帰れば座学と体力作りの毎日で、それなりには基礎的なオカルトの知識を身に付け、身体も結構引き締まってきた。
ただ、最初の頃は体が慣れてない所為かほぼ毎日筋肉痛に苛まれていた。
「うん、そろそろ霊能の開発も始めようか」
「本当? やった!」
横島少年はよしっとガッツポーズをしている。やっと次のステップに進める事に純粋に喜んでいる。
「忠っちは見たところ結構な能力が眠ってる。けどまだ眠ったままだからまずはそれを起こす事にしよう」
「おお! まるでゲームとかアニメの主人公みたいやな! どうすればいい?」
「本当なら時間を掛けてゆっくりと目覚めさせるんだが、まどろっこしいので却下だ。
と言うわけでこれを飲め」
そう言ってキイが取り出したのは一本の小瓶。
ラベルに『霊能爆発君』と書いてある。
怪しい、とてつもなく怪しい。横島少年の本能が危険と警鐘を響かしてる。
「き、キイ兄ちゃん。それ怪しすぎや」
一歩下がる横島少年。
「安心しろ。自分が作ったから大丈夫だ………多分」
一歩詰め寄るキイ。
「今、多分って言った! 小っちゃな声で絶対言った!」
駄目だ、危険だ。アレを飲んじゃいけない。横島少年は踵を返してその場から逃げ出した。訂正、逃げ出そうとしたんだけど。
「はっはっは、何処に行くのかな忠っち?」
何時の間にか手前に回り込んだキイに捕まった。
「ちょ、ちょっとトイレに…」
「つい三十分前に行ったばかりだろ? それにこれ飲めば結局もう一回行く事になるだろうし先に飲んでけ」
「ちょっと待って! トイレに行かないと行けなくなる薬って全然平気じゃないやん!」
「えぇい、四の五を言わずさっさと飲めーー!!」
キイが横島少年の頭を掴んで薬を飲ませようとする。
横島少年は必死で口を閉ざしてそれに抵抗する。
「あっ、○○レンジャー」
「えっ、何処!」
けどキイが指した所には誰もいない。
「だ、騙したなーー!」
横島少年が絶叫を上げた瞬間、ガボッと、口の中に異物が侵入した。
ドロドロとした液体が喉を通過していく。
口の中に世にも言えぬ不可思議な味が広がる。
ぶわっと嫌な汗が吹き出る。心臓の鼓動がまるで大太鼓を叩くみたいに大きく聞こえる。
あ、視界が…歪む。気持ち悪い…。
「ふむ、失敗か?」
「そんな自信がないもの飲ますなー!」
最後に聞こえたキイの声に突っ込んで、横島少年の意識は遠い所に飛んでしまった。
(此処何処だろう?)
目が覚めると目の前に広がるのは広い原っぱと大きな川。
はい、俗に言う三途の川の畔です。
横島少年はそんなことには気付かず辺りを見渡している。
「あ、川の向こうに誰かいるな。誰やろ?」
「……めだ〜…ちゃ〜」
「ん〜、よく聞こえないな」
声小さくと聞こえないので、横島少年はもう少し近づいていく。
「こっちにきちゃだめだ〜。ひきかえせ〜」
「こっちに来ちゃ駄目って言ってるのかな?」
そう聞こえはしたのだが、やっぱり人間やるなといわれることをしたくなっちゃうのが人の心で、御多分洩れず横島少年もその一人だった。
「あ、あそこに船があるからアレに乗っていこう。」
船着場を見つけた横島少年はそちらに向かって駆けていった。
「渡し賃は六文だよ」
「そりゃ高いよ。もうちょっとまからないの?」
三途の川の渡し賃を値切る横島少年。対した根性である。
そのまま半額の三文まで値切ったのだが、良く考えればそんなお金を持ってるはずもなく、船を使うのは断念した。
「こうなったら仕方ない! 河童の横っちと呼ばれる僕を舐めるなよ!」
突然服を脱ぎ出す横島少年。まさか本気で三途の川を泳いで渡る気か?
「レッツダイビーーング!」
某三代目怪盗のダイブポーズで三途の川に飛び込もうとする横島少年。
彼のあのダイブは此処で鍛えられたのかもしれない。
「アホやってないでさっさと戻ってこんかーー!!」
どこかで聞き憶えのある声がした後、横島少年はぐいっと引かれる感覚がして、いきなり現れた真っ黒な穴に落ちていった。
「ア〜イシャ〜ルリターーーン!!」
そりゃ何時かは戻ってくるだろうけどせめて5、60年後に戻ってくる事をお勧めする。
「うわぁ!」
「お、やっと起きたか」
横島少年はあたりをキョロキョロと見渡す。
「あれ? ついさっきまで綺麗な川を泳ごうとしてたような?」
「気のせいだろ?
危ない危ない、もうちょっとで本当に逝かせちゃうとこだったよ」
「キイ兄ちゃん何か言った?」
「なんでもないぞー。ほら、霊力も目覚めたみたいだしその調整するぞ」
適当にはぐらかすキイ。
少し首を傾げる横島少年だったが『気のせいかな?』と気にしない事にした。
ああ、そうだったな〜。このとき初めてアソコに逝ったんだよな〜。
その後も何回か逝ったんだけど…いっつも後一歩の所で連れ戻されるんだよな。
何時か絶対泳ぎきってやる。
そういやそれからちょっとして、霊力について教えてもらったんだっけ…
〜キイ視点〜
「よ〜し、それじゃあ今日はまずは霊力について説明するぞ。まず聞くが忠っち霊力って何だ?」
「幽霊をやっつける力じゃないの?」
まあ大まかな意味ではあってるんだが、ちゃんと教えないとな。
「そうだな。まず霊力を説明する前にチャクラについて説明しよう。
チャクラって言うのは直訳すると車輪とか輪って言う意味なんだが…まあそれはあんまり気にするな。
それでチャクラって言うのは生命エネルギーの中枢の事で、体だけではなく、精神とも関連したエネルギー中枢のことだ」
「む〜、よく分かんない」
忠っちは頭を捻って悩んでいる。やっぱ難しいか。
「そうだな。霊力を水に例えると、チャクラはタンクだな。そのチャクラから何本もの霊絡ってのが、霊力が身体全体に行き渡るよう網の目のように張り巡らされてるわけだ。霊絡は水道って感じかな」
「うげ、僕の身体の中に水道が走ってるの?」
「たとえ話だって。次行くぞ?
それでチャクラは全部で7つあってな。それぞれに意味があったりするんだがこれは省く」
「何で?」
忠っちの頭じゃショートしそうだからな。それに第二チャクラの説明はまだ早いし。
「もうちょっとでかくなったら教える。まずは基本さえ分かればいいんだよ。
それで七つのチャクラの場所はだいたい身体の中心を下から順に尾てい骨、丹田…へその下あたりだ、次に鳩尾、心臓、喉、眉間、頭頂部だ。今言ったのは大体肉体的にも弱点だからちゃんと憶えとけよ?」
おっ、忠っちちゃんとメモにとってるな。偉いぞ忠っち。ただ、もうちょっと字の練習をしような。ミミズが張ったみたいで読めんぞそれ。
「それじゃあチャクラの説明は終わりな。
次は戻って霊力なんだが。これは結構複雑だから簡単に説明しよう。
霊力は言わば精神的エネルギーの一種で、人間が発現できる特異能力の一つなわけだ」
「他にもあるん?」
「ああ、超能力とか魔法とかもあるがそれは今置いておこうな。
んで、霊力は精神的なエネルギーだから肉体に依存しない。つまり実体のない幽霊とかにも有効なわけだが、勿論の事実体のある妖怪や普通の人間にだって効果を発揮する。肉体と精神は互いに繋がりが強いからな」
「やっぱり幽霊とかやっつける力やん」
「まだ続きがあるから最後まで聞け。
霊力は使い方によって色んな能力を使えるんだが。その代表例が霊視とかヒーリングとか式神とかだな。それぞれ全く系統が違うから全く別の能力なんだが、共通するのは唯一つ。全部霊力を使うってことだ。
つまり霊力は燃料、霊能が色んな機械ってかんじだな」
「へえ〜、霊力って色んな事できるんや」
忠っちは感心したように頷いている。
自分は懐から一枚の紙を取り出した。
「これが忠っちの霊能力の予想一覧だ。これからこれを一個ずつ試して忠っちにあった霊能を探すぞ」
「うげっ、一体幾つあるのこれ?」
「ざっと3、40だ。これでも色々と省いて少なくしたんだから頑張れ」
「う〜、分かったけど…この『魅了』って霊能?」
「ああ、それは体質だな。間違って書いたままだったわ」
忠っちは『人外たらし』って聞いてるから多分持ってるだろうなって思って書いたんだったな。一応横線で消してっと。
「さて、まずは『強化』から試してみますか」
こうして忠っちの霊能探しが始まった。
―――二時間後…
「つ、疲れた…」
忠っちがへばって地面にへたり込んでいる。
「ふむ、大体絞り込めたな」
駄目だった霊能には横線を引いて、特に良かったものには赤丸を付けてある。
赤丸がついてるのは『収束・圧縮・霊視』が特に良かったな。他にも出来てたのもあったけどまずはこの三つから鍛えていくかな。
「よし、それじゃあ次の修業の前に腹ごしらえだな」
「けど、今日お弁当持って来てないから一回帰らないと…」
「心配するな、ちょっと待ってろよ?」
自分はそう言うと森の中に入っていく…
―――10分後…
「ただいま〜」
「…キイ兄ちゃん。その手に持ったお肉は何処から?」
「? 今し方獲ってきた。新鮮だぞ」
忠っちがちょっと表情を強張らしている。やっぱ血の滴る肉を素手で持ってくるのは駄目だったか? けど目の前で捌くとトラウマになりそうだからな。
その後肉を炙り焼きにしたんだがそれを食べている忠っちの顔は優れなかった。
ちゃんと好き嫌いしないで食べないと大きくなれないぞ忠っち。
そうだったな。狩りした肉を食べたのはこのときだったか…
あ〜、今思えばこの時からだったな。サバイバル技術が異様に高くなってきたのは。
それでこの後、初めての霊力訓練だったかな。
〜横島視点〜
うぅ、名も無きお肉さんゴメンナサイ。あなたは僕の血となり肉となり有効活用します。
ご飯も終わって、修業再開。
まずは『収束』についての修業らしいんだけど…
「何で風船?」
渡されたのは萎んだ風船だ。これで何をしろと?
「これはただの風船じゃないぞ。まあ、一度膨らましてみろ」
言われるままに、風船の口から息を吹き込んでみた。
「ーー!−−−−!ーーー!?」
ぷはっ、あれ? 空気が全然入らないぞ?
「それはちょっと特製で、空気じゃなくて霊波を入れて膨らませるんだよ。霊波って言うのは体外に発した霊力の事だとでも思えばいい」
そう言ってキイ兄ちゃんは風船を手に持つと、風船が行き成り膨らんだ。
凄い、あんなふうにやるんだ。
「忠っちもやってみな。霊波の感覚は掴めてるか?」
「うん、何となく」
あの臨死体験(後に教えられた)の後、何時もとは違う感覚が身体を纏っているのに気付いた。多分これが霊波なんだろうってのは分かる。
「霊波を風船の中に流れるようにイメージしてみな。それで出来るはずだから」
「えいっ」
言われるままに、気合を入れて風船に霊波を注ぎ込む。
その瞬間、風船が一気に膨らんで、
「やった…っておわぁ!?」
膨らみすぎた風船が爆発した。び、ビックリした〜。
あ、あれ? キイ兄ちゃん何処に行った?
あたりを見渡すとちょっと離れた所にキイ兄ちゃんはいた。
でもなんで逆さまになって木にもたれてるんだろう?
「た〜だ〜っち〜」
「ひいっ!」
幽鬼の如く立ち上がったキイ兄ちゃんが壮絶な笑みを浮かべてこっちに近づいてくる。
キイ兄ちゃんの放つ怒気に足が竦んでしまった。
「もうちょっと慎重に加減してやらんかー!」
「いた、いたたたたたたぁぁぁ!?」
キイ兄ちゃんに捕まって、ウメボシ、またの名をぐりぐり攻撃をかまされた。
「うあぁぁ〜、まだズキズキする」
「愛の鞭だ。しかと受け止めろ」
キイ兄ちゃんの愛は痛すぎです。もうちょっと優しい愛を下さい。
もう一個風船を貰って、再度チャレンジする事になった。
「いいか? 今度はゆっくりと慎重に篭めて行け」
「了解っ」
身体の周りに漂っている霊波をゆっくりと、風船の中に注ぐようにイメージする…
ゆっくりと、風船が膨らんでいく。今度は割らないように僕の頭より一回り小さいくらいで注ぐのをやめた。
「やった。今度こ…」
喜ぼうとした瞬間、風船の中から霊波が逆流してきた。
その霊波にバランスを崩して僕は尻餅をついてしまった。
「こ、今度は何?」
「あのな、風船なんだから篭めるの止めたら今度は外に出ようとするのは当たり前だろ?」
あっ、そう言えばそうだな。それじゃあ口を結べばいいのか
「ああ、口を結ぼう何て思うなよ? それじゃあ修業にならないからな」
「え? それじゃあどうするの?」
「だから風船と同じだ。風船の中の霊波が出てこようとするのと同じ強さで霊波を篭めようとすれば、拮抗して膨らみもせず萎みもしないってわけだ」
なるほど、そういやそうだよね。
僕はもう一回風船を膨らませる。
それで霊波篭めるのをやめようとせずに送る量を調整すれば…
「これくらい…あっ!」
力を抜きすぎたのか霊波が抜けて風船が萎んじゃった。
「まあ、後は練習次第だな。日々精進だ」
よーし、頑張ろう!
僕は再度風船を膨らませる訓練を開始した。
そうだな。今ならちゃんと膨らましたままに出来るけど、あの時は失敗ばかりして大変だったな。
ああ、そうだ。これやって、あの時始めて誉められたんだったな。
〜キイ視点〜
忠っちの霊能力が目覚めて一ヶ月が経った。
風船の修業もこなせる様になったみたいだな。
これで霊波の放出に加えて、風船の中に霊波を溜めるって言う収束の感覚までは掴めてるだろう。
「キイ兄ちゃん、見てみて〜」
ん、忠っちが呼んでるな。随分と上機嫌だが何かあったか?
駆け寄ってきた忠っちはニコニコと笑顔で話しかけてくる。
「実は使ってた風船割れちゃってさ、練習できないな〜って思ってたら閃いちゃンだな。ほら、見て」
そう言って忠っちは右手首に左手を添えて、霊波を集中させる。
そしてその手に現れたのは、ピンポン玉サイズの霊波の塊だった。
「ふぅ、何だか風船ぐらいの大きさにすると弾けて消えちゃうからこれ位になっちゃったけど、結構頑張ってるんじゃない僕?」
いや、何ていうか…此処まで凄いとは思わなかったな。
今忠っちがやってるのはそろそろ教えようと思っていた『圧縮』の作業だ。
そういや『拡散』の霊能はてんで駄目だったから風船サイズの大きさでは安定しなかったんだろうな。けどだからって自力で圧縮して安定させるとは…
普通拡散した霊波より圧縮した霊波の方が制御しにくいはずなんだけどな。
こういうところが『規格外』なんだろうな。
「忠っち、凄いな。予想を上回る成長だよ」
自分は素直に忠っちの事を誉めてやった。
一瞬キョトンとした忠っちだったが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
誉められたのがそんなに嬉しかったのだろう。
どうやら忠っちは誉めれば誉めるほど伸びるみたいだな。
前回(未来)では修業って言う修業をしなかった所為で急仕立て過ぎてむらっけ&綻びだらけだったけど、こうやってちゃんと修業してやればちゃんと伸びるものだな。
「それじゃあ、今度はその霊波を形作るとしよう。適当に形を思い浮かべてみな」
「む、むむむう〜〜〜」
おお、集中してるな。さて、どんな形を作るかな。
「うおおぉぉぉ!」
忠っちの気合と共に、手の平にある霊波が形を変えていく。
で、結局出来たのは薄い六角形の霊波の盾だった。
「霊波盾か…まあ妥当な線だが何でまた六角形何だ?」
「あ、いや、今日の算数の時間にでてきたから…」
なんとも子供らしい発想だな。まあそう言った単純な形の方が作りやすいだろうし文句ないだろう。
ん、何だか忠っちが考え込んでるな。おっ、顔上げた。
「よーし、こいつの名前はサイキックソーサーやー!」
名前決めてたのか…まあ子供何だしなんでも名前付けたがるもんかな。それに固有名詞があったほうがイメージもし易いしOKだろ。
今まで素直に誉められたのって、何回あったっけな? なんだか殆ど強制的に訓練させられて、何とかこなしてきたって記憶しかないな。
そうだな〜。今まで結構無理難題ふっかけられたよな〜。初めての霊能模擬戦もギリギリだったもんな〜。
〜キイ視点〜
「よし忠っち。今日はちょっとした模擬戦をやるぞ」
「え? 今までも結構やってなかった?」
「それはあくまでも肉体での模擬戦だ。今回は霊能を使っての模擬戦だよ」
自分は懐から一枚の紙を取り出す。それとはさみとペンを取り出して…
「でっきるっかな〜でっきるっかな〜何が出来るかな〜」
歌いながら紙を切り抜いて、ペンで『式』とだけ紙に書いてヒョイッと宙に放った。
紙は、ポンッと言う音をたててデフォルメ的な犬の式神になった。
本当の式神はもっと複雑で紙だってちゃんとした霊符を使わないといけないんだけど、今の忠っち相手ならこれくらいで十分だろう。
「さあ忠っちファイト!」
「よーし来い!」
忠っちもヤル気満々だ。式に命令を出して忠っちとの戦闘に入る
―――五分後…
「忠っち弱すぎ」
「攻撃全然効かないのに勝つなんて無理やー!」
アチコチボロボロになった忠っちが叫んでいる。
忠っちと式神犬の勝負はかなり呆気なかった。
まず最初に先手必勝と忠っちが『普通』に殴りかかったのだ。
勿論の事、通常攻撃じゃあダメージは効かないようになってるので式神犬はすぐさま反撃に出る。
忠っちは身をよじってそれを何とかかわす。そこでちゃんと霊能で戦わないと倒せないぞと教えてやった。
そうか、と忠っちは手の平に霊気を収束させる。
だけど勿論の事そんな隙を見逃してやる式神犬は甘くは無かった。
「まあ、勝てないの見越して戦わしたんだしな。そりゃ勝てないだろう」
「どういう意味だよそれ!」
おぉ、おぉ。忠っちが怒りをあらわにして詰め寄ってくる。
「そりゃ簡単。今回は忠っちがどういう動きをするか見たかっただけだったからね。
まあ、予想通りにむやみに突っ込んで自爆してたし…今まで教えた知識全然活用できてないしね。こりゃ暫くは座学中心になるかな」
「げぇ!? そんなのあり!」
どうやら忠っちは身体を動かすのは好きだけど頭を使うのは苦手みたいだな。悪知恵とか突発的な所はフルに発揮するんだけどな。
「もう一回やって勝てたら今言った事は無しにしてやるぞ。
今まで学んだ事思い出せば勝てるんだしな」
「本当! 約束だからね!」
忠っちはやっぱり逆行になるほどテンションが上がってくな。
さて、今回は何処までできるかな?
自分は木の幹にもたれかかって忠っちを見守る事にした。
〜横島視点〜
目の前には式神犬が唸りを上げている。これで負けたら暫くの修業が座学になってしまう。それだけは絶対に避けなくては…
何たって、居眠りするたびにあの目覚まし時計で起こされるんだからな! 流石に勘弁したい。
けど、この式神犬は普通に殴ったんじゃあ全然ダメージにならない。けどサイキックソーサーを作ってたらその隙にやられちゃうし…
【ガウゥ!】
「おわっと!」
飛び掛ってきた式神犬を横に飛んでかわす。ちきしょーどうすりゃいいんだ。
今まで学んだ事って…ちょっとおもいだしてみよう。
『いいか〜忠っち。魚を買うときは眼の濁ったのじゃなくて出来るだけ透明なのを買うんだぞ〜』
って、これは違うな。次…
『霊とか妖怪と戦う時は身体に霊気を纏わして戦うんだ』
ああ、そうだ。別に一点に集中させる必要は無かったんだっけ…
僕は霊気で身体を纏い、できるだけ腕と脚の部分に行き渡るように操作する。
「よし! これなら」
式神犬に跳びかかり、下段蹴りで腹を狙う。後ろに跳んで難なくかわされるけど、逃がさない。
素早く詰め寄って、回し蹴り!
【ギャンッ】
式神犬は僕の蹴りを受けて地面を転がるけど、すぐに起き上がった。
やっぱりあんまりダメージになってないみたいだ。
『戦う時は焦る必要はないぞ〜。ちょっとずつでも削っていけば相手も焦れてくるし、隙もできる。その時が好機って訳だ』
そう、焦らず、慎重に…
式神犬の体当たりをかわし、その際に殴りかかる。かわされても焦らず、また攻める。
これなら、負けない…けどどうやって勝てばいいんだろう?
「てぇい!」
【グルゥゥ】
ああ〜ん、どうすればいいんだよ。
式神犬の攻撃はかわせる。攻撃も当てられる。
後必要なものは、アレをぶっ飛ばせる攻撃力だ。
「うーーー……そうだ!」
『今までの修業』を思い出して、一つの方法を思いついた。
これならきっと成功する。
式神犬から距離を取り、霊波を収束させる。
勿論式神犬はさせまいと僕に飛び掛ってきた。
収束を止め、すぐに飛び退る。
そしてまた距離を置き、霊波を収束させる。
式神犬はただ飛び掛ってくるだけ。それならかわす事も簡単だ。
後はその繰り返し、こうやっていれば勝てる。
キイ兄ちゃんの方をチラッと見る。あいかわらずニコニコとこっちを見ているだけだ。絶対その鼻を明かしてやる。
もう…少しだな。また霊波を収束させる。
【ガウッ!】
そしてまた式神犬が飛び掛ってくる。
でもこれで終わりだ!
「喰らえー! サイキックインパクトーー!」
飛び掛ってきた式神犬の頭に、収束した霊波を解き放つ。
その霊波を諸に受けた式神犬は、ボフッとただの紙に戻ると急に火がついて燃えちゃった。
「おー。倒したか忠っち」
「どう今の! なかなか良かったでしょサイキックインパクト!」
「ああ、風船の応用だな。少し溜めてその状態を維持、また少し溜めてを繰り返して霊波を圧縮する。そして溜まりに溜まった霊波を一気に解放する技か…よくあそこまで収束した霊波を動きながら安定させられたな」
やっぱりキイ兄ちゃんには一目で分かっちゃうんだ。流石だな。
「ちょっと難しかったけど。学校で膨らました風船で友達と遊んでたからちょっと慣れてたんだ」
「それはまた…やっぱり忠っちは普通じゃないな」
「…誉められてるのかな?」
キイ兄ちゃんは素直に喜んでおけと言ったのだけど、やっぱり微妙だった。
あ〜、確かこの後霊力切れてぶっ倒れちゃったんだっけ。そのあとペース配分について教えられたんだよな。
「おっ、忠っち考え事なんて余裕だね。それじゃあもう一個プレゼント」
「止めてーー!!…あっ」
キイ兄ちゃんがもうちょっと霊波を送ってくれるのが遅かったら、内臓破裂&全身骨折になるところでした。っていうか普通死ぬよね。
〜ナレーター視点〜
日が暮れて、すっかり夜になってからの横島家。
今は夕食の時間である。今はキイもその席に着いている。
「うん、美味しい。うん、美味しい」
「あっ、それ俺の唐揚げ!」
「甘いな忠夫、世の中は早い者勝ちであり弱肉強食だ。勿論の事それはこの夕食でも例外はない!」
分かるだろうが上からキイ、横島少年、横島父の大樹の順である。
横島母、百合子はそんな光景に微笑みながら、ちゃっかり確保してある自分の分を食べている。男三人の中ではキープは禁止となっているが、勿論の事彼女に文句を言うものはない。やはりこの一家では彼女が最強らしい。
夕食も終わり、忠夫は風呂へと向かった。
百合子は夕食の片付け、そして大樹とキイはリビングのソファーに並んで座っていた。
二人の前には、おつまみと大樹の前にはブランデーとグラスが置いてある。
「それで、忠夫の様子はどうかな? まあ、泣き言ばっかり言ってるんだろうけどね」
「ははっ、結構頑張ってますよ。宿題は余さずやってくるし。その日出す課題も例えギリギリでも必ずこなしますからね」
「そうか。アイツが其処までやるなんて…なぁ」
大樹は手にしたグラスに入っているブランデーをグイッと飲み干した。
「何か不満でも?」
「いや、アイツが何かに集中してるんならそれでいいんですよ。
けどね…忠夫はまだ10歳の子供なんですよ。それなのに、全然アイツはそれらしくない。最近は全然子供らしい面も見せなくなってきて…親としては心配でね」
大樹の言う事はもっともだった。横島少年は、まだ齢10歳のティーンにも入ってない子供なのだ。容姿などは年齢どおりなのだが、彼の人格はかなり形成されてきている。
(そういえばそうだよな。魂の色が透明だからって理由であんまり気にしなかったけど…)
今度聞いてみようかなと思いながら、キイは御つまみの枝豆を口に放り込んだ。
「今度の休み、皆でどこかに遊びに行ったらどうですか? 最近修業ばっかりだったし…そろそろ息抜きもした方がいいでしょうしね」
「そうだな。今度の休みにでも海にでも行くかな」
そこで大樹がにやっと笑う。それに対してキイは苦笑いだ。
「また、ナンパですか?」
「ふっふっふ、分かってるではないかキイ君。
そう! 降り注ぐ太陽! 焼ける砂浜! 不味い屋台にそして、水着の美女達!
これだけの条件が揃っていてナンパをしない奴など男では無い!」
そう断言する大樹。何か間違いが入っているがそれでいいのだろうか?
キイの方はただ乾いた笑いを上げるだけだった。
「でも今回は手伝いませんからね。前は大変だったんですから」
キイは一度、大樹に拉致連れられてナンパに参加したことがあった。
子連れで出来るのか? と疑問もあったが、そこは大樹の力の見せ所。まずはキイにその辺を歩かせる。キイの容姿は勿論の事眼を引き、女性が話しかけてきた所で大樹登場。
因みにその時は妻に他界されて、その連れ子であったキイと二人で暮らしているという設定だった。
やや無理があるかもしれないが、その辺は大樹の巧みな話術でだまくら化していた。
まあ結局、百合子にバレてグロテスク&バイオレンスな事になったのは言うまでもない。
ただ、キイと百合子が連れてきた横島少年はその場に取り残されてしまい。お姉様方の良いオモチャになったのはしょうがないのかもしれない。
「つれないね。一緒に一夏のアバンチュールを楽しもうと思っていたんだが…」
「ええ、自分は一夏のアバンチュールを血の色で染めたくありませんし」
「? 何を言って…ハッ!?」
大樹は突然現れた背後からのプレッシャーにビクッと肩を震わせ、サーッと顔色を青くさせる。
ギギギッとさびたロボットのように首を回し、背後を確認すると。
其処には羅刹女が立っていた
「ま、待て百合子! 今のはほんの冗談だ! 場を明るくするために言った戯言だ!」
「ふふっ、アナタ。ちょっと向こうの部屋に行きましょうね」
百合子が指すのは、何故か『関係者以外立ち入り禁止』というプレートが張ってある通称お仕置き部屋。
キイと横島少年は一度だけ、お仕置き中にちょっとだけ開いていた隙間から中を覗き込み。
キイは修正力を使って記憶を消去し、横島少年はその記憶に厳重に鍵をかけて封印した。その後出てきた百合子の頬に一筋の血の跡があったが二人はそれを笑顔で黙殺した。
「嫌だー! 助けてくれーー!!」
「ほら、暴れたって未来は免れないんだから大人しくしなさい」
百合子は大樹を片手で引き摺っていく。
ドアに入りかけた所で大樹は入り口にしがみ付いて抵抗する。
「き、キイ君お願いだから助…」
ゴンっと言う音と共に大樹が床に倒れ伏せ、ピクリとも動かなくなる。
「あら、こんな所で寝るなんてしょうがない人ね」
その手にある血濡れのお玉をくるくる回しながら、百合子はゆっくりとキイの方を向く。その頬にはあの時と同じように血飛沫が頬に掛かっている。
「キイ君、何か見たかしら?」
キイは高速で首と両手を横に振りまくった。
「そう、ならいいのよ。忠夫がお風呂から上がったら冷蔵庫に入ってるプリンを食べてね。今日はちょっと徹夜になりそうだから」
バタンと閉ざされたドアに、キイは脱力してソファーに崩れ落ちた。
「にんげんこわい、おんなのひとこわい、おしおきこわい…」
通常とは違う得体の知れない恐怖は、どうやらキイの心にトラウマを作ってしまったらしくぶつぶつと呪詛のように呟いている。
『世界』である彼ですら恐れさせる存在、横島百合子。恐るべし。
結局横島少年が風呂から上がってくるまでキイは放心状態で、お仕置き部屋の扉が再び開いたのは夜明けと同時だったそうだ。因みにその時中から出てきたのは一人だけだったと明記しておこう。
あとがき
今回は横島少年が霊能に目覚めるまでを書きましたが、ギャグ少ないな(汗)
霊能力等についてなどですが、自分なりの解釈もあっておかしな点も見つかると思います。その場合は思いっきり突っ込んでください。
このSSは完全ギャグにはなりませんが、ダークだけ入れない様にします。(というか書けそうにありません)
次回は横島少年メインのギャグ+戦闘で行きたいと思います。
多分次でオリ終了、本編の再構成に行くかと思います。
読んで下さっている方がいるか分かりませんが出きるだけ書いていく所存であります。
それではこの辺で失礼致します…