<横島視点>
今日は学校が終わってから、家にすぐ帰るのも何となく嫌だったんで公園によってみた。もしかしたら同級生の友達がいるかもと思ってきたんだけど、誰もいないや。
ブランコに乗ったりしたんやけど、やっぱり一人じゃつまらない。しょうがないので家に帰ろうかなって思ったんだけど、そしたら急に目の前が光って…
「はい、到着!」
急に、蒼い髪の兄ちゃんが現れた。
マジック? テレビか何かの撮影かな?
それにしては周りにカメラもないし違うかな。
その兄ちゃんの後ろまで近づいたんだけど全然こっちに気付かない。
兎に角声をかけてみようかな。
「兄ちゃん、いまどっから現れたん?」
兄ちゃんの肩がぴくって動いた。けどこっちを向かない。
何か不味かったかな?
ちょっと経ってから兄ちゃんはこっちを向いた。
兄ちゃんの赤い眼が僕を映してる。
髪も蒼いし、眼も赤いから外国の人かな〜?
けどこの兄ちゃん、こっち見たまま動かなくなった。
どうしたんやろ?
暫く経っても動かないので、もう一回声をかけてみる事にした。
「ど、どうしたの兄ちゃん?」
あ、ちょっとどもってしもうた。恥ずかしいな。
「ああ、自分の名前はキイという。君の名前は?」
やっと動き出した兄ちゃんが自己紹介してくれた。
母さんに自己紹介されたらちゃんと自分もやりなさいって言われてたっけ。
「忠夫、横島忠夫だよ」
ひょいっと片手を上げて答えた。
兄ちゃんはうんうん、って満足そうに頷いてる。
「では忠っちと呼ばせてもらうぞ。そっちも適当に呼んでいいぞ」
「じゃあキイ兄ちゃんだね」
兄ちゃんか〜。兄弟いないから何か嬉しいな。
「忠っち」
キイ兄ちゃんが僕を呼んでる。ちょっと真剣な顔やけど何やろ?
「何?」
「世界征服に興味はないか?」
その瞬間、キイ兄ちゃんの頭に大きなタライが直撃しました。
まるでお笑いを生で見たくらいの素晴らしさです。
ちょっと、羨ましいって思っちゃいました。
せかいはまわるよどこまでも
〜〜何のために?〜〜
〜キイ視点〜
痛い…結構痛い。
どのくらい痛いかって言うと、出席簿の角で叩かれた痛みの範囲が頭全体って感じで痛い。
されども! これでも世界の端くれな自分はこれくらいではやられはせん!
だがまさか自分に修正力が働くとは、つまりこれは自分で自分を殴ったのと同じ…うわ、かっこ悪っ。
しかし今の発言はそんなに危険だったのかな? 半分冗談で言ったんだが。
「キイ兄ちゃん大丈夫か?」
「ああ、HPが九割九分九厘削られたが生きてるぞ」
「つまり死に掛けなんだ」
「そうとも言うな」
はっはっは、忠っちなかなか素質がありそうだ。将来が楽しみだな。
「それでキイ兄ちゃんって何者なん?」
おおっと行き成りストレートな質問だな。
「む、またその質問か。では今回はすぐに答えるとしよう。
自分の正体は実はせか…みぎゃっ!?」
そこまで言った瞬間、今度は頭にやかんが降ってきた。
何だ? そこまで言ってはいけないことなのか自分の正体は? 言ったら世界が滅ぶのか?
ちょっと理不尽なものを感じつつ忠っちの方を見る。
何だか、眼をキラキラとさせてるんだが…何故?
「すっげ〜、キイ兄ちゃん。手品師なんか!」
ああ、そういうことね。これはちゃんと訂正するかな。
「いや、手品師じゃないんだなこれが」
「え? じゃあ何?」
「ん〜、職の方は強いて言うなら無職何だよなこれが…まあ変わった力があるのは確かだぞ。ほれ」
自分はそう言って手の平を忠っちにかざす。
力を集中させ、ちょっぴり『自分』を動かして思い描く現象を顕現させる。
手の平に集まったのは七色の光、ふわふわと不安定に右へ左へと揺れている。
「おお〜、何これ?」
「まあ即興だから対したことないんだが、ちょっと見てろ?」
そう言って落ちている枝を一本拾い、地面に突き立てる。
周りを確認するが、知覚できる範囲には誰もいないな。
そして、3メートルくらい離れてから七色の光を枝目掛けて投げつけた。
すると枝は急に根をはり、枝が育ち幹となり、どんどん枝分かれして大体忠っちの背と同じくらいにまで成長した。
ちょっと成長率が予想より下回るな。
「うわ〜、凄い! 魔法? 今の魔法?」
忠っち、かなり興奮気味だな。やはりこのくらいの歳の子供はこういうのが大好き何だな。
「まあ似たようなものだ」
「他には何が出来る?」
「ふむ、暫し待てよ」
自分は修正力が働いて何かが振ってこない程度の力を使って忠っちにイロイロと見せてやった。
だがちょっと調子に乗りすぎたかも知れん。
流石に素手で大木を引き抜くのは不味かったな。
反省だ。今度からは拳大の岩を砕く程度にしよう。うん。
「キイ兄ちゃん! 僕にもそれ教えて!」
ふむ、『自分』の力は使えないから無理だけど。
今後の事を考えれば霊力についてちょっとは教えた方がいいかな?
「今やったことは出来ないが似たようなことを出来るようにはできるぞ?」
「本当! じゃあそれ教えてよ」
「ん〜、何でそんなに覚えたいんだ?」
答えは大体分かってるんだが、一応聞いてみよう。
「カッコイイから!」
「駄目。却下」
やっぱりそんなものだよな。此処はまず霊能力とかについては置いといて、心の持ち方とかついて教えてからがいいかな。
生半可な気持ちでやったら絶対どこかで躓くからな。
「ええ〜、何で。ケチ」
「ケチじゃない。本当に教えて欲しいんならまた明日此処に来な」
「そしたら教えてくれる?」
「その時の忠っちの答え次第だな」
忠っちはまだ納得いかないようだが、そろそろ日も暮れてきたのでそれを理由に帰した。
最後まで『絶対明日来てよ』と、念を押して帰っていった。
大丈夫だ。それよりもしそっちが来なかったら拉致に行くから覚悟しとけよ?(犯罪です)
さて、この後にすることは寝床の確保かな?
お金のほうは…ちょっと力使ってお金創っちゃえばいいかな(犯罪ですってば)
これで当面の悩みはないな。それじゃあ早速ホテルにでもいこうかな。
ん〜、いい部屋だ。
結局お金は創っちゃったけど。型番バラバラだしばれないよね。(犯罪…)
さて、明日のためにも今日は…
(お〜い、聞こえるか〜?)
(聞こえてるのでしょう? 返事して下さい)
…あれ? 幻聴? それともお化け?
「イヤー!! 自分は取って食っても美味しくないよーー!!」
(誰が食べますか! 変なことを言わないでください)
「あれ? よく聞けばキーやんとサッちゃんの声?」
(その通りや。気付くの遅すぎるで)
ああ、な〜んだ。驚いて損しちゃったよ。
ふう、何だか疲れたし。もう寝ようかな。
「お休みなさ〜い」
(おお、お休み)
(って、させませんよ! サッちゃんそんな単純に返さないで下さい)
ちっ、キーやんを出し抜くのは難しそうだな。
(せやかて、やっぱこういうときは笑いが必要やろ?)
(全然必要ではありません!)
(そんな。ワイからお笑い取ったら何が残るって言うんや!)
(彼方は魔族の最高指導者でしょう! むしろ笑いが無いのが普通なんです!)
なにやら、二人だけで話し始めちゃったな。話に入れないぞ。
(キーやん、それは魔族差別や。殺伐とした雰囲気の中に乾坤一擲、笑いと言う名の潤滑油が必要なんやで! もし無かったらワイつまらなすぎて仕事放棄してまう。)
(仕事放棄するのは何時もの事でしょう! そんなだからアシュタロスもあんな事件を起こすんです)
(ああ! それを言うかキーやん。それならそっちだって)
ぎゃーぎゃー、わーわー
…風呂にでも入ろう。
結局、風呂に入っている間中言い争いを止めず、風呂から上がって食事をとった後にやっと決着がついた。
「決着ついた?」
(ああ、やっぱり三人でトリオ漫才師目指す事になったで)
そっちが決まったのか。
(誰がそんな話しましたかー!)
(このツッコミを待ってたんやー!)
サッちゃん、姿はごっつい魔族なのに魂は隅から隅まで笑いの色に染まってるんだね。
キーやんもすっかり突っ込み役に嵌っちゃって。
じゃあ自分のポジションは…
((ノリボケ))
「ノリツッコミじゃないの?」
って言うかノリボケって何さ? 新種の海苔?
(キイは話に乗って、さらにボケるでしょう?)
(そういうことやな)
「まあいいけど…それよりキーやんもヤル気だね。しっかり話に入ってるし」
(おお、キーやんついに笑いの道に目覚めたか!)
(ち、違うんですーーー!!)
キーやんの魂の叫びが(頭の中で)響いた。
これが世界三大宗教の一つの唯一神で、現神族の最高指導者か…信者が見たら大変な事になりそうだな。
(はあ、はあ、はあ)
キーやんがやっと落ち着いてきた。最高指導者ってストレスたまるのかな? 大変だな。
(キーやん落ち着いたか?)
(え、ええ。それよりそろそろ本題に入りましょう?)
「うん。それで何について話すの? 漫才チームの名前決定会議?」
瞬間、どえらい殺気に背筋が凍りました。発信源は頭の中…感覚からして、キーやん。っていうかそれ以外に考えられない。
(こ、今回話すのは今後の対策についてや。ほれ、アシュタロスのこととかイロイロな!)
サッちゃん、ナイスフォロー。声が上ずってるけどこの殺気の中で言葉を発せられるのは尊敬に値するよ。
「わ、分かった。じゃあまずはアシュタロスの事について話していこうか」
そう言った所で、やっとキーやんからの殺気が止まった。
ふう、寿命が三年縮まったよ。自分に寿命ってのがあるかしらないけど。
(それでは、アシュタロスについてですが。神界魔界ではそれに対する対策を極秘裏に進めていく方針なんですが、キイからは何かありますか?)
「ん〜、言うことって言っても…今の自分に出来る事なんて何もないよ?」
(どういうことや? 太陽動かすほどのどえらい力あるんやから結構な事出来るやろ?)
「あ〜、実はさ。現在ネタ切れ中なんだ」
(ネタ切れ?)
「そう、太陽動かしたり時間移動しちゃったでしょ? あれで力の大半使っちゃったから、今残り残量1%未満って感じ」
ちゃんと言うなら、現在の状態は神族魔族の力関係でいくと中級と上級の間といったところだ。
かなり強い部類に入るはず何だけど、勿論の事アシュタロスと比べられれば足元にも及ばないのだ。
(な、何でそんなに弱ってるんですか!)
「だからさっき言ったじゃん。それにこの身体もともと遊びに行くように作ったから、そんなに力入れてないんだもん」
もともとの目的がデジャブーランドだっただけに、其処まで多くの機能をつけなかったのだ。本当は時間移動なんて出来なかったんだけど、わざわざ『自分』に無理してもらって使ったのだ。その所為で燃料切れになり大抵の力が使えなくなってしまったのだ。
因みに、さっき忠っちに見せてたのは残っていた力の残量の十分の一くらいを使ってしまった。
(仕方ありませんね。それではアシュタロスに関しては此方に任せて下さい)
(そうやな。力が戻ってくるまではこっちに任せとき)
「頼んだよ。なんせ非力なものでさ」
人間から見たら破格もいい所なのだが、このメンバーだと一番最弱なので誰も突っ込まない。
「それじゃあ二人共、また何かあったら電波飛ばしてよ」
(ちゃんと受信機準備しといてな)
「勿論。最高の電波受信機を揃えて世界中の電波な声を集めるよ」
(電波、電波って…私たちのことを何だと思ってるんですか)
キーやんがさも呆れたような声で言ってくる。
「え、無断違法電波発信機でしょ?」
現にさっきから勝手に自分の頭の中で語りかけてるし。
間違ってはないでしょう?
(な、キイ! 彼方とはもう一度しっかり話しておくべきですね!)
(ほらキーやん。そろそろ仕事に戻るで)
(ああ、サッちゃん。その手を放しなさい。キイ、覚えていなさいよー)
キーやん、どうやらサッちゃんに引き摺られていったらしい。
そしてさっきの言葉に対する返事何だけど…
修正力発動! 記憶消去!!
説明しよう。この技は都合の悪い事を消し去るために、『自分』に働きかけて対象の記憶が実際はあるはずがなかったという事にして修正力で消し去ってしまうものだ。
ふうっ、キーやん。残念ながら忘れちゃったよ。何を忘れたのかは勿論覚えてないけど。
ただ副作用があり、
あれ? 自分の名前何だっけ?
他の部分で一時的に記憶障害が起こる事があるので注意が必要だ! 以上説明終わり!
〜ナレーター視点〜
朝、7時29分。横島少年は未だベッドの中で夢の中だ。
そして彼の枕元には目覚まし時計が一つ。
その長針がかちりと動いた瞬間、目覚まし時計は己の責務を果たすため動き出した。
『忠夫! 起きないと《暴力的な表現のため検閲》して、《精神的に苦痛を与えるので検閲》をした後に、
《以下、数行に渡り暴力的且つ良い子は聞いちゃ駄目な台詞のため検閲》
になるから早く置きなさい!!』
「うわぁっ! お、起きます! 起きますからそれだけは堪忍やーー!!」
今日も横島少年の目覚めはバッチリのようだ。
〜横島視点〜
「言って来ま〜す」
「夕飯には帰ってくるのよ〜」
母さんに見送られて、僕は家を飛び出した。
肩に背負ったリュックには母さんが作ってくれたお弁当が入っている。
母さんはちょっと厳しいけどそれ以上に優しい母親だ。
父さんにお仕置きするときとか鬼みたいに怖いけど、普段はとっても綺麗な自慢の母だ。
ただ、TVのアニメの主題歌を録音してあった目覚まし時計に何時の間にか恐ろしい呪詛(?)が篭められてたけど…ちゃんと起きられたのでよしとしておこう。
お、そろそろ昨日キイ兄ちゃんと会った公園だ。もう来てるかな?
僕はちょっと早足になって公園に入っていった。
「ん〜、まだ来てないみたいやな〜」
公園の中を一通り探してみたけど、キイ兄ちゃんは影も形も無かった。
そう言えば影も形もっていうけど、影だけとか形だけでとかであったりするのかな? う〜ん、謎だ。
とりあえず来るまで待とうかな。
僕は近くにあったベンチに座ってキイ兄ちゃんを待つ事にした。
「ん〜、遅いな〜」
アレから一時間が経ってるけど全然来ない。
ちょっと早すぎたかな? 昨日会ったの夕方くらいだったし今日もそれくらいに来るのかな?
う〜ん、そうだったらそれまでどうしよう?
ちょっと頭を抱えて考えてるうちに、公園の中に何人か入ってくるのが見えた。
あ、確か同じクラスの…何て名前だったかな?
まあ、いいやキイ兄ちゃんが来るまで一緒に遊んでようかな。
僕はベンチから下りて、皆の所に向かった。
皆は僕の事に気付かなかったからそのまま公園の林の中に入っていっちゃった。
でも確かこの林結構広いから中は入っちゃ駄目って言われてたような。
その時、何か木製の物が折れる音がした。
ん、あれ? 何だか変な感じがする。
あれれ? 鳥肌立ってきちゃった。何だか嫌な予感がするような。
「「「うわあぁぁぁ!?」」」
「!」
皆の声だ。何かあったんだ。
僕の身体は弾ける様に声のした方向に向かっていった。
ちょっと走ったら、皆を見つけた。
皆、地面に転んで同じ一点を見つめている。
僕の目線も自然と其処に向けられた。
【ぐぎゃーーー。うきょーーー! うっひゃーーー!?】
其処にいたのは、霧か靄みたいな辛うじて人の形をしていると分かる奇声を上げる変な奴だった。
TVで聞いた事がある。こういうのを幽霊って言うんだ。
【わちゃーーーー!!】
「危ない!」
急に幽霊が暴れだして周りの木や地面に手当たり次第にぶつかっていく。
ぶつかった場所はへこんだり、穴が開いたり、木の方は幹にヒビが入っていく。
あんなの当たったら大怪我だ。早く逃げないと!
「皆! 早く逃げて」
「あ、うわぁぁーー!!」
「助けてーー!」
「お母さーーーん!」
僕の声で皆やっと動き出して逃げいて行った。
よし、僕も早く逃げないと…
「わぁぁん、助けてぇ!」
えぇ!、 まだ誰かいるの?
よく見ると、幽霊を挟んで反対側に女の子が一人いる。
ど、どうしよう!? 立てないみたいだしどうにかして近づかないと。
【わしゃしゃしゃーーーー!!】
「きゃぁーー!」
と、兎に角あの幽霊こっち見えてないみたいだし、回り込んで助けに行こう!
慎重に、幽霊の気を引かないように僕は女の子の方に回りこんだ。
「大丈夫? さ、捉まって。早く逃げなくちゃ」
「だ、駄目なの。動けないの」
そう言って女の子が指した先には、地面にむき出しになった根っこと地面の間に女の子の足が挟まっていた。
女の子は何度も足を引っ張るんだけど全然抜けない。
僕も根っこを引っ張って穴を広げようとしたけど、ビクともしない。
【おふぁふぁふぁーー!】
ガツンッと僕の背中に衝撃が走った。僕の身体は一瞬中に浮き。そのまま緑の草の生えている地面に倒れこむ。
一瞬何が起きたのか分からなかった。けどすぐに分かった。幽霊の体当たりが当たっちゃったんだ。
掠っただけみたいだからちょっと突き飛ばされただけぐらいですんだみたいだ。それに、リュックも背負ってたから、そっちはボロボロになっちゃったけど衝撃を軽減してくれた見たいだ。弁当はもうおじゃんだな、かんにんな母さん。
宙に浮いて倒れた込んだ所為で身体のあちこちが痛い。特に背中の方が痛いきっと血も出てると思う。
痛みの所為で動きにくいけど、何とか僕は立ち上がった。
幽霊の方を見る。相変わらず滅茶苦茶に暴れまわっている。どうやらさっきのは狙ってんじゃなくて偶然みたい。
ふと、女の子の方を見ると恐怖と悲しみと、ちょっとだけ安心したような顔で泣いていた。
ズキンっと胸の中で痛みが生まれた。
『忠夫、女の子を泣かしたら承知しないわよ?』
母さんが言ってた事を思い出した。
そうだ、女の子を泣かしちゃいけない。女の子は笑ってるのが一番や。
どうしたらこの女の子は泣き止んでくれるかな? どうしたらこの女の子は笑ってくれるかな?
僕はどうしたらいいんだろ?
ドンッと言う音と共に僕の身体がまた宙に投げ出された。
今度は木の幹に思いっきりぶつかって、身体の中から空気が全部抜けていっちゃった。
苦しい、意識が遠くなっちゃう。
でもだめだ。僕が気を失っちゃったら、あの子を守れない。
あの子を守りたい。けど、出来ない。自分の身すらも守れないのに…
「……けて」
僕にはどうする事も出来ない。
だから…
「助けてキイ兄ちゃん!」
呼んだら駆けつけてくれるなんてカッコイイヒーローはいない。
けどそのかっこいいヒーローに僕は憧れたから、そんなヒーローになりたかった。
けど、やっぱりそんな都合のいいヒーローなんていない。
でも今回だけは、来てくれる気がした。
「……ぁぁ」
どこからか声がした。
僕はほっと安心した。やっぱり来てくれたって。嬉しかった。
けど、どこにいるんだろう?
「…ぁぁああ」
段々近づいてるんだけど、全然姿が見えない。
あれ? 何だか上のほうから声が聞こえるような?
「ぁぁぁぁああああーー!!」
ベシャッっと言う音と共に、丁度僕と幽霊との間に大きな塊が落ちてきた。
その塊には、頭があって、手が二本あって、足が二本あって…
ダクダクと自らの出す血の海に沈んでいくソレに、僕も女の子もさっきまで暴れていた幽霊まで静かになって呆気にとられてしまった。
数秒経って、ソレがビクッと一度痙攣すると、行き成りガバッと起き上がり、
「あ〜、また死ぬかと思った」
おおよそキイ兄ちゃんがヒーローだとは思えなかった。だってかっこ悪すぎるよ。
けどまた、キイ兄ちゃんの謎がまた増えてしまった。
ちょっとだけ時間が戻って…
〜キイ視点〜
「さ〜て、今日の朝食はブッフェで食べようかな」
自分は、腹ごしらえの為一階にあるブッフェに向かうべくエレベーターに乗った。
昨日、キーやんとサッちゃんの会話が終わって時計を見ると、何時の間にやら午前三時半。
いや、別に睡眠をとる必要はないんだけど。力の回復には睡眠などをして無駄な消費を抑えないといけない。
(……けて)
「ん、何だ?」
な〜んかちょっとだけ嫌な予感がするな。
そう、こういった嫌な感っていうのは十中八九当たるんだよね。
(助けて、キイ兄ちゃん!)
「おおい! ちょっと待てーー!!」
忠っちの助けを求める声が聞こえた瞬間。自分の体はエレベーターの中から消えていた。
エレベーターに乗ってる風景から、あたり一面薄水色+白い綿みたいなので一杯になった。
「ん、ここ、どこ…だああぁぁーーー!!」
そして、急に下に向けて引っ張られ始めた。
ああ、なるほど今見える光景は空か。
「って、落ちてる! 落ちてるよ自分ーーー!!」
何故だ? 何故自分はお空の上にいるんだ?
するとアレかい? このままフリーフォールして地球に向かって熱い抱擁、またの名を激突ですか!?
嫌だ! 死なないかもしれないけど絶対死んだ方がマシ級に痛いぞーー!
後に思えば、ちょっと力を使えば宙に浮くくらいはできるんだし。後の回復で使う力を考えればそっちの方が安上がりでした。
でも、考え付かなかったらしょうがない。後の祭りだ。
「ああぁぁーーー!」
ちょっと地面の方を見てみた。あ、何か地図で見る形と似てるな〜。
「ああぁぁーーー!!」
あ〜、段々と詳細な形が分かってきたな〜。激突まであと数秒って感じ?
「ぁぁああああーーー!!!」
ベシャって言う自分が潰れる音が耳に入りました。余りにも生々しくてビックリDEATHね。
はっはっは、こんなとき冗談言えるなんて自分結構余裕だったりして。
あ〜、身体の中から熱いものが無くなっていく。寒いな〜、痛いな〜、眠たいな〜…
はっ! 危うくキーやんの所に逝ってしまう所だった。
(天国に来れると思ってるんですか?)
(けどあんなのがワイの所に来ても困るで?)
何処からか失礼な声が聞こえたが無視だ!
兎に角、まずは起きよう。そのためには、
修正力発動! 自己修復!!
またまた説明しよう! この技は自分の怪我したと言う事実を『自分』に働きかけてなかった事にして完全無欠の健康体になるのだ! 因みに最初キーやんとサッちゃんにやられたのもこれをやったのだ! 以上説明終わり!
「あ〜、また死ぬかと思った」
完全復活したはいいが、今はどういう状況だ?
周りを見渡してみると…
お、忠っち発見。何だか冷や汗かいて苦笑してるな。どうしたんだろ?
むむ、女の子がいるな? あ、すると何か? これは俗に言う…
「何だ忠っち。逢引き中なのに自分を呼ばなくたっていいじゃん」
「逢引き? ソーセージがどうした?」
それを言うなら荒挽きだよ忠っち。全然違うよ。
でもその天然ボケ、ナイスだよ。グッジョブ忠っち。
そうやって油断してたので、
【うきょーーー!!】
「うおっ! 何だコイツは!?」
「気付いてなかったのかよキイ兄ちゃん!」
おお、全く気付いてなかったぞ。っていうか何で俺の気配察知能力はこうも穴だらけ何だ?
これも時間移動の影響か? 違ったら…ただ単に自分が鈍いだけ……
うん、時間移動の所為だな。そういう事に決定!
うむ、しかしこれは言い機会かもな。何があったかは知らないけど。これで忠っちの考え方も少しは変わったんじゃないかな?
【があぁぁぁーー!】
「ええぇい、うるさい!」
自分は取り合えず、その狂った幽霊(悪霊かな?)を殴っておいた。
一応手加減はしたので、大体半分ほど煙みたいなのが吹き飛んで小さくなっている。
むむっ、あのちょっと奥に見えるのは小さな家? 壊れてるけど何かの術式かな?
となるとアレが壊れた所為でこいつが出てきたのか…じゃあ祓っても大丈夫かな。
「さ〜て、邪魔者にはさっさと消えてもらおうかな〜」
自分の両手に力を集め、『自分』に働きかけ、一つの事実を創り、顕現させる。
創り出したのは一振りのナイフ。
しかしただのナイフと思う無かれ、これさえあれば、神魔は問わず幽霊、妖怪、魑魅魍魎、果ては大根の桂むきから、人参の銀杏切りまで何でもこなす万能ナイフなのだ! 無駄なオプションが付いてたりするが仕様だから気にしちゃ駄目だ!
そのナイフを両手で握り、目の前の狂った奴にお見舞いする。
「往生せいやワレーーー!!」
因みにこの『往生』は仏語の方だから使い方は合ってるはずだーー!!
詳しくは辞書引いてねー!
【ぎゃあぁぁぁぁ!?】
悪霊は現世との繋がりが切れ、姿を消した。
〜横島視点〜
あの後、キイ兄ちゃんは引っかかっていた女の子の足を優しく外してあげると、そのままおんぶしてあげて家まで連れて行ってやった。
公園から出るときお巡りさんとか一杯来てたけど、面倒ごとになるから急ぐぞってキイ兄ちゃんが言うから僕はそれに従った。
帰り道では、キイ兄ちゃんが馬鹿なことを言っては僕が突っ込んで、僕がボケたらキイ兄ちゃんが突っ込んでくれた。まさに理想の関係だ。
まあ、そんなことは置いといて女の子は始終笑っていて、それを見た僕はとっても安心した。今度は守れたんだな〜ってそう思った。
でも今回助けてくれたのは全部キイ兄ちゃんだ。僕は何も出来なかった。
僕も…助けられるように、守れるようになりたい。
そうしている内に女の子の家に着いた。
「それじゃ、今日はゆっくり休むんだよ」
「うん。キイさん、横っち。今日は助けてくれてありがとうな」
女の子はそう言って家の中に入って行った。
あ、そういや名前、思い出せなかったな。聞いておけばよかったかな?
まあ、また学校で会えるしその時聞けばいいかな。
取り合えず今は…
「なあ、キイ兄ちゃん…」
「何?」
「僕、強くなりたいんや」
ぐっと、僕は強く拳を握った。
「何で?」
キイ兄ちゃんは理由を聞いてくる。きっともう分かってるんだろうけど、僕はありのままの心を口にする。
「悔しかったんや。僕はあの場にいて何もできなかった。それどころか下手したら足手まといだった」
「別に、あの女の子置いて逃げた奴等もいるんだろう? そいつらに比べたら…」
「そんなの、なにもできないんやったら五十歩百歩や。それにな、僕は怖かった。勿論あの幽霊は怖かった。けどそれより、あの女の子が傷つくのが怖かったんや。
せやから、もうあんな怖い思いはもうしたくない。お願いや、僕を強くしてくれん?」
僕は最後に頭を下げた。キイ兄ちゃんからは何の反応もない。
この際、土下座まで行くか?
そう思ったとき、僕の頭にポンッと重みがかかった。
顔を上げると、キイ兄ちゃんがにっこりと笑って、
「まあ、いいだろう。何処まで出来るかわからないけど。それなりには強くしてやろう。自分の身ぐらい守れる程度にはな」
心の中で、何かが弾けた。それはそのままぐるっと身体を一掛けすると、
「ぃ、ぃやったーーー!!」
僕は思わず両手高らかに上げてガッツポーズをとった。
キイ兄ちゃんもそんな僕を微笑ましそうに見ている。
そして、僕の両手を取って一言、
「よし、じゃあ早速世界征服の準…」
全部言い終わる前に、キイ兄ちゃんの頭にドラム缶が直撃しました。
『首の骨がー!』と言って転げまわるキイ兄ちゃんを見て、早まったかなって思っちゃいました。
あとがき
まずはレスに対する返答をしたいと思います。
>スティーブンソン様
ロンギヌスの槍は、『コンスタンティヌス1世の母ヘレナによって聖十字架、聖釘とともに発見され、その後さまざまの<聖槍Holy Lance>伝説を生む』
と、あったので聖属性かなっと思って使いました。いかがでしょうか?
>貝柱様
アシュタロスがあくまでも神界魔界に喧嘩を売り滅せられるとありますが、この場合アシュタロスの消滅したいと言う悩みは伝わっておらず魂の牢獄に捕まったままだと考えました。ダメでしょうか?(汗)
>596米様
すいません、そんなものがあるとは知りませんでした。調べ不足が露呈して御恥ずかしい限りです。ちゃんと調べてその内修正します。
>かく様
貝柱様の質問で答えたのですが、魂の牢獄に囚われたまま眠りに就き、目覚めた後は二度とそんなことしないよう制約とかを課せられると思います。
3DAYパスですが自分(世界)が死に掛けてるんで一応どうにかするのが先かなっと思っての行動、ということです。
そういった設定が全然説明されていませんね。もう少し勉強します。
>masa様
ありがとうございます。もう少し考えて出来るだけ矛盾を作らないよう頑張ります。
さて、今回の感想としては難しいです。
原作のどんなにシリアスに向かおうとしてもギャグへと転ぶって展開にしたいんですけど、とっても難しいです。(汗)
あと、文の間の空け方も微妙な気がしてならないです。
最初から課題が多いですがもうちょっと頑張ってみます。
補足としては今回悪霊が暴れたのはもちろん子供達が封印を壊しちゃったからです。
次は横島少年の霊能修業です。この辺はちょっと資料探しに手間取ってますが何とか仕上げたいと思います。
まだまだ至らない点が多数ありますがこれからもよろしくお願いします
それではこの辺で失礼します…