世界が黄昏色に染まっていく。
大地は草一本生えぬ荒野と化し、空は色を映す事を忘れてしまったかのように黒ずんでいた。
そして地平線の向こうに沈み行く夕日が、今この時だけ世界に色をもたらしていた。
せかいはまわるよどこまでも
〜〜寝ぼすけな世界〜〜
今此処で戦っている存在が二つ。
一つは棘の冠に白い布を巻きつけた神族。
もう一つは二本の角と六対十二枚の黒い翼を持つ魔族。
神魔の最高指揮官である二人が凄まじい速さで交じり、離れ、その度世界を震わせるほどの衝撃が生まれる。
「なかなかやるな〜キーやん」
「彼方こそ、腕は鈍っていませんね。サッちゃん」
二人はそれぞれの武器を構えたまま、一部の隙を作ることなく言葉を交わす。
戦闘が始まって早数日、互いの身体にはアチコチ小さくない傷が奔っている。
「どうやら私たち以外は皆死んでしまったみたいですね」
「そうやな、何でこんな事になってしまったんやろな」
ことの始まりは、アシュタロスが消滅した事だった。
アレから神界と魔界では幾度となく会議が開かれた。
アシュタロスの消滅は決して小さなことではない。魔王クラスの消滅によって、魔族側の力は確実に減少し、それに対する対策が練られていた。
しかし、会議の内容は平行線を辿りいっこうに解決の糸口が見えてこない。
そして、そんなとき事件は起こった。
アシュタロスの消滅により魔族の力が戦力が下がったと思った神族の過激派が魔界に対して攻撃を仕掛けたのだ。
それは小さなテロのようなものだったが、綱渡り状態だったデタントはそれだけで崩壊した。
こうして、『最終戦争』は幕を開けた。
最初は確かに神族が優勢だったが、それはほぼ先手を取ったからであり、態勢を整えた魔族が反撃に出るとあっという間に戦況は泥沼と化した。
例え魔族側の力が減ったとしても、それが必ずしも神族軍と魔族軍の戦力差とは成りえないのだ。神族側はもとより魔族側にも争いを好まない者たちは存在し、戦場に出る戦力は結局拮抗してしまったのだ。
そしてその争いの火種はついには人間界に降り注いだ。人間にとっては下級の神族魔族でさえ一流GSの数十数百倍の力を持っているのだ。それに加えて上級の神族魔族が降り立てば、その力に逆らえる存在はいなかった。
地球は戦場と化し、人間も妖怪も動物も草木も微生物ですら生き残る事は叶わなかった。
結局、地球上の生物は僅か十数年で死に絶えたのだった。
しかし、それでもなお戦争は終わらない。
この争いはどちらか片方が完全に死に絶えるまで続けられる、そういうものだった。
「わいらがもっと早く出張っていればこうはならなかったんやろか?」
「そうですね。少なくとも今よりは良かったのではないでしょうか」
「そうか…じゃあそろそろ終いにしようか。なぁ、キーやん」
「えぇ、これで終わりにしましょう」
二人の身体から膨大な神力の魔力が巻き上がり、世界が軋むほどの力が二人に収束されていく。
暫しの沈黙の後、二人が同時に己の最強の一撃を放つ。
「ロンギヌスの槍」
「終末の星屑」
かつて自らを刺し貫き処刑した槍と、全てを消し去ろうとする魔弾。
互いに必殺の力を込めた一撃がぶつかり合おうとした瞬間。
「ふぁ〜、よく寝た」
突然、二人の直線上に一人の少年が現れた。
ぼさぼさな蒼い髪、透き通った赤い瞳、服の方は黒の長袖にノースリーブジャケット、そして紺のロングパンツと何処にでもいそうな14、5歳の少年だ。
この世界がまだ平和だったならの話だが。
「「……へ?」」
行き成り現れた少年に、キーやんとサッちゃんは間の抜けた声を出した。
それはそうだろう。既に自分たちしかいないはずの世界に、しかも彼のような少年が現れたら幾ら神魔の最高指導者とはいえ驚くだろう。
しかし、ここで忘れてはいけないのが彼が二人の直線上に現れたことだ。しかも、キーやんとサッちゃんが放った必殺の一撃は、まだ健在である。
まあ、どちらにせよ全力で放ったので今更止められる箸がないのだが…
つまり言いたいのは…
「ん、って…へ?」
目覚めたばかりの少年の瞳に最初に映ったのは、迫り来る聖なる槍と漆黒の魔弾だった。
…という訳である
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「「あっ…」」
二人の必殺の一撃を受けた少年の絶叫が世界に木魂した。
キーやんとサッちゃんのほうは、ただ呆然とその顛末を見ているだけだった。
〜キーやん視点〜
こ、これは困りました。まさかあんなタイミングであんな場所に誰かが出てくるなんて。しかも私とサッちゃんの攻撃が直撃です。これは跡形もなく消滅してしまっているでしょう。
「き、キーやんどないしよう?」
「どうすると言っても、流石に跡形も残っていないでしょうし…」
今降り立っている地面には大体半径数キロのクレーターが出来ている。こんな惨状では塵も残っているはずがありません。
結局一瞬見えたあの少年が何ものかも分かりませんね。
「最高指揮官が一般人巻き込む何て、始末書何枚書けばいいんやー!」
「サッちゃん、今更始末書も何もないでしょうに…」
私が頭を抱えて悩んでいるサッちゃんにそう言った時。
私達の立っている近くの地面がボコリと音をたてて盛り上がり、
「あ〜、死ぬかと思った」
中から先ほどの少年がやや煤けた状態で這い出てきました。
「「だあぁぁ!?」」
私としたことが、サッちゃんもろともコケテしまいました。
〜ナレーター視点〜
キーやんとサッちゃんは取り合えず戦闘を止め、何故かまだ生きている少年の前に立っている。
そして二人の顔に浮かんでいるのは驚愕と困惑…
「いや〜、目覚めてそうそう酷い目に会ったよ」
「あ〜、いや、何と言うか…」
「大丈夫なんですか?」
それは自分達の一撃を受けて生きているのには驚きだが、それ以上に目を疑う場景が二人の目の前にあった。
「うん、とっても元気だよ」
そう言って微笑む少年は、キーやんのロンギヌスの槍がいまだ右肩口から左の腰に掛けて貫いていて、右下半身がサッちゃんの魔弾によって消滅したままだったのだ。
何だかとってもショッキングな光景だ。心臓の弱い人が見たら間違いなく発作を起こしてしまうだろう。
「そ、それならいいんやが。ちょっと話……の前にその姿どうにかできんか?」
サッちゃんの言葉にキーやんも頷いている。幾ら神魔の最高指導者でもゾンビ顔負けのグロテスクな少年と面と向かって会話するのは避けたいらしい。
「うぃ、ちょっと待っててね」
そう言って少年はロンギヌスの槍を引き抜き、それをキーやんに返してから懐から一枚の布を取り出す。
そしてそれを自分にすっぽりとかぶせると、
「1! 2!! 3ーー!!!」
手品師よろしくの掛け声と共に自分から布を取ると、其処には五体満足・完全健康体の少年が立っていた。
「おお! 人体復元マジックかいな! 全く種が分からんわ」
「はっはっは、お客さん。種はありませんよー」
「突っ込みどころが違うでしょう、サッちゃん!」
何故かあったばかりで息のあっている少年とサッちゃん、そしてそれに突っ込むキーやん。
トリオ漫才のような掛け合いをする三人、この中で一番疲れるのは恐らくキーやんであろう。
そんな掛け合いを小一時間やった後、
「そ、そろそろ本題に入りましょう」
少年とサッちゃんについ乗せられたキーやんがやっと話を進める事にした。
その際二人から難色の声が出されたが、もちろんの事無視された。
「それで、彼方は一体何ものなんですか?」
キーやんが少年に問う。
見た目は普通の人間だが、二人の攻撃を喰らっても生きていて、しかもその怪我を一瞬で再生するのだからまずそれはないだろう。
「ん、全は一、一は全ってな存在…かな?」
「訳が分からんわ。しかも何で疑問系」
「まあ、平たく分かり易く率直に言うと…」
「「言うと?」」
たっぷりと間を置いてサッちゃんとキーやんを程よく焦らしてから、少年は口を開いた
「世界かな。あと宇宙意志とか呼ばれてるね」
「「な、何だってーーー!!」」
神魔の最高指揮官の声が広い世界に木魂した。
「「はっ!」」
少年の発言にちょっと意識を遠くに飛ばしたキーやんとサッちゃんが同時に帰ってきた。
「あ、お帰り」
「おぉ、ただいま…ってちゃうやろ!」
サッちゃんの見事なノリツッコミに少年は笑顔でサムズアップ。
しかしこのままでは話が進まないので今回はサッちゃんもそれ以上は乗らなかった。
「それより彼方が世界だ何て…」
キーやんがそう言った瞬間、少年はパンッと拍子を叩く。
その瞬間、既に沈んでいたはずの太陽が逆再生するかのごとく昇り、あっという間に三人の頭上で光を放ちだす。
「これで信じられる?」
「「………」」
「あ、因みに世界って呼んでたら面倒だろうから適当に『キイ』って呼んでね」
どさくさに紛れてキイと名乗る少年だがその発言を二人は聞いていなかった。
もはや言葉もないとはこのことだろう。幾ら最高指揮官の彼らでも、ただ一拍叩いただけの間に太陽を動かすなんて芸当は不可能だ。
これだけ見せられれば、嫌が応にも目の前にいる少年の言っていることが本当のことだと納得せざるを得ない。
「そういや出てきたときよく寝たゆーてたがアレはどういう意味や?」
「ああ、実はついさっき目が覚めて久しぶりにこっちに来て見ようかなって思ってね」
「寝てたって…それではアシュタロスの時にあった宇宙意志の干渉は一体?」
「ん、それはね…オートマなの」
もう少し説明すると、キイが寝てからは世界の歪みの修正は全部自己防衛機能に任せていたのだ。
しかし、やはりと言うかアシュタロスの乱のような緊急事態には自己防衛機能だけでは対処し切れなかったのだ。そうでなければアシュタロスがバナナの皮で滑ったり、一斗缶が頭を直撃するなんてものではなく、もっと強力な修正力が働くはずである。
「な、じゃああんさんが寝てた所為で被害はあんなに拡大したって言うんか!」
「ええ〜、それは言いがかりだよ。もともと自分の仕事は歪みを直したり、世界が滅びるような時だけ手を出すだけ何だよ?
起きてたとしても対した変化はないよ」
「やはり…どうしようもなかったんですね。この世界の滅亡も…」
「……滅亡?」
キーやんの言葉にキイは辺りを見渡した。
目に映るのは地平線の果てまで続く荒野だけ。他には描写するようなものがなかった。
それほどまで閑散とした世界に、
「あれっ! 何でこんなボロボロになってるの!」
「「気付かなかったんですか(かい)!!」」
思わず突っ込んでしまった二人。
キイの方は頭を抱えて悶えている。
「うわ〜、何てこった! これでは何のためにこっちに来たか分からないよ!」
「なんや? こんなになったからどうにかしようと出てきたんちゃうんか?」
「違うよ…
ああ、折角人間の姿になって、デジャブーランドで3DAYフリーパス買って遊び倒そうと思ってたのに…」
「そんなことのために現界したんですか彼方は! こんな緊急事態にも拘らず職務放棄して寝ておいて、起きた途端に遊び呆け様としたって言うんですか、ああん!」
キーやん、ついにキレたのかキイの首を両手で締め上げてメンチをきっている。
「ぐぇぇ、く、苦しい〜」
「き、キーやん! それ以上やったらホンマに逝ってまうで!」
顔色が真っ青を通り越して、真っ白になってきたところでサッちゃんが止める。
それを受けてキーやんは手を放したが、まだ怒りが収まらないのかはあはあと肩で息をしている。
「しょうがないじゃ〜ん! 生まれてこの方修正、修正、また修正でいい加減飽きたんだよ〜! それに今回は職務放棄してないよ!」
「どういうことや?」
「自分の…今使ってない世界の端っこの方をちょっと千切って作ったのがコレなの。言ってみればこの身体は端末みたいなもの何だよ」
「じゃあ本体はまだ世界を管理しているんですね?」
「まあ、でもこんなになっちゃった世界を管理しても無駄だけどね。
でもなんでこんなになっちゃったの?」
キイはキーやんとサッちゃんから大体の顛末を聞く。
魂の監獄に囚われ、己が悪であることを我慢できなかったアシュタロス。
世界の改変か、己の絶対の死を望んだ彼は全世界を巻き込む計画を実行する。
神界魔界は人間界とのチャンネルを遮断され手出しは出来ず、彼に立ち向かうのは彼と比べると弱小としか言えない一握りの人間達のみ。
しかし絶体絶命の戦いの中、人間達は諦める事を知らずついには彼の計画を阻止した。
そして現れた究極の魔体も、その弱点を突いたとはいえ撃破するのに成功したのだ。
「ふ〜ん、魔王クラスのアシュタロスを倒しちゃうなんて人間も結構凄いね。特にその文殊使ってる人大活躍だね」
「その少年の名前は、横島忠夫と言います…」
「わいらがアホな争い始めた時も、何とか皆を助けようとしてなぁ…
それを過激派の奴ら!」
サッちゃんが握り拳を震わして怒りをあらわにしている。
横島忠夫は、文字通り三界中を駆け回り平和を訴えている時、神族魔族の過激派の襲撃を受け、命を落とした。
デタントの立役者、三界の英雄とまで言われた彼を失い、もはや争いを止める手立ては無くなった。
「何ていうか…アホ?」
「きっついな〜」
「言葉もありません」
キイの率直な感想に二人は苦笑いで答えた。
「まあ過ぎたことはしょうがないし、このままって訳にもいかないし」
そう言ってキイは何処からともなく、一抱えはある箱を取り出す。
その箱には一本の棒が突き刺さっていて、その先端にT字の取っ手が着いている。
簡単に言うと押し込むと爆弾が爆発するアレだ。
「何ですかそれは?」
「時間移動制御装置だよ。この状態から世界を元通りにするの不可能だし。ちょっと戻って原因排除してくる」
「排除ってどうするんや?」
「一番簡単なのは、あの横島忠夫って人間を消す事かな」
「なっ、どういうことですか! 彼がいなければ…」
「彼がいなければ、アシュタロスは平安時代に未来に飛ばされることなく。計画を変更してコスモプロセッサを作ろうとはせずに究極の魔体で神界魔界に喧嘩を売って、二人に滅ぼされるはずだったんだよ」
キーやんの言葉を遮ってキイの語った話は、衝撃的なものだった。もしそれが本当なら確かに彼がいなくなれば全てが丸く収まるだろう。だが、彼はこの世界を命を賭けて救おうとした人間である。その彼を消すなんて…
「ポチッとな」
「「え?」」
二人が悩んでいる間に、キイは何の脈絡もなく時間制御装置のスイッチを押し込んだ。
辺りの空間が歪みだす。勿論近くにいるサッちゃんとキーやんを巻き込んで。
「彼方はもうちょっと周りの空気と言うものが読めないんですか!」
「そうや! それに掛け声は『3、2、1、FIRE!』やろ!」
「違うでしょう! サッちゃん彼方は黙ってなさい!」
「ごぶぅ!?」
サッちゃんが見当違いのツッコミをし、それをキーやんが黙らせる。主に拳で。
そうこうしてる間に時間移動が始まった。
「それじゃあ出発〜」
キイの気の抜けた声を最後に、三人は世界から旅立ったのだった。
〜キイ視点〜
「はい、到着!」
早っ、と思うかもしれないが時間移動なんてそんなものなのだ。
キーやんとサッちゃんも成功してるだろうけど、多分過去の自分と融合してるんだろう。
さ〜て、ちゃんと成功してたら此処は横島忠夫がいる日本の大阪って場所のはずだ。
では早速、探しにいくとでも…
「兄ちゃん、いまどっから現れたん?」
突然背後から話しかけられた。
そういや周りに気を配ってなかったな、気付かなかったよ。
しかし、見られたとは厄介な…消すか?(かなり危険思想です)
とりあえず声の主を確認するために後ろを振り向く。
其処にいたのは緑色のTシャツに、膝上までしかない半ズボン、どこか活発な印象を受ける八、九歳位の少年だな。
うん、何ていうか…ご都合主義万歳みたいな?
それとも遅すぎる展開に要らない部分は端折るみたいな?(それ以上言ってはいけません)
うむ、まあ行き成り第一目標、横島忠夫を発見できたんだが…
今目の前にいる横島少年、何も反応しない自分に対して小さく首を傾げている。
この横島少年、今見て分かったんだが魂の色が透明なのだ。
普通魂の色は生まれた瞬間何らかの色を持ち、経験によって少しずつ変化していったりするのだが透明なんて普通はない。
簡単に言うと、興味を持った。
最初はちゃっちゃと消そうと思ったんだけどこれは何となく勿体ないな。
この透明の魂がどのように成長するかとっても興味がある。
よし、そうとなれば自分がその行く末を担ってみようじゃないか!
そうだな、この計画を表す的確な言葉がこの国にはあった気がする…何だったか?
…あ〜、えっと……
そうだ!光源氏計画だったな!(違っ!)
確かに自分色に染めるんだし問題ないよな?(発言に問題ありすぎです)
「ど、どうしたの兄ちゃん?」
おっと、横島少年の事をついうっかり忘れていた。
ここはまず自己紹介からだな。
「ああ、自分の名前はキイという。君の名前は?」
「忠夫、横島忠夫だよ」
横島少年は片手を上げて元気に自己紹介してくれた。
うむ、元気な事は言いことだ。
「では忠っちと呼ばせてもらうぞ。そっちも適当に呼んでいいぞ」
「じゃあキイ兄ちゃんだね」
別に『兄』は抜かして呼び捨てでもいいんだがそれはまた今度にしよう。
よし、そうと決まれば今後の方針だがどうしたものかな?
そうだな、ここは第一目標として…
「忠っち」
「何?」
「世界征服に興味はないか?」
その瞬間、頭上に大きなタライが直撃しました。
あとがき
どうも初めまして、拓坊と申します。
今回、皆様の素晴らしい作品を拝見して、無謀にも私も書いてみました。
この作品ではオリキャラが出ていますがあくまでも主人公は横島君で行きます。
ジャンルはギャグでいきたいですが、何処まで保てるか分かりません。(汗)
あと数話オリジナルで作って、本編に向かいたいと思います。
物書きは初めてなので至らない点も多数出てくると思いますが、その場合は御教授の程よろしくお願いします。
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