<小竜姫>
「横島忠夫!」
「はいっ!」
校長先生に名前を呼ばれた忠夫くんが壇上にすたすたと上がっていきます。ああ、凛々しく、そして緊張した忠夫くんもいいです! あっ、右腕と右足が同時に出てますよ? ふふ、そんなところも可愛いです。
卒業証書を貰ってくるっとこちらへ向いた忠夫くんと目が一瞬合いました。私が軽く手を振ってやると、忠夫くんもにこやかに笑いました。
「横島さんももう卒業ですね~」
「そうですね、四月からは中学生ですからね。タマモちゃんが寂しがるかもしれませんね」
そういえばもう、中学生。あれからもう十年以上経つのですね……。あれ、ちょっと涙が出てきました。立派に成長したので嬉し涙というやつでしょうか?
あ、次は雪乃丞くんですね。最近GSの修行を始めたそうで、時々忠夫くんと組み手をしたりしています。接近戦のセンスはかなりのものがありますから、二人で競い合えばどんどん伸びていくでしょうね。
卒業証書を手に取った雪乃丞くんは同じようにこちらを向き、
「ママー! 見ているかーい!? 俺はこんなに立派になったよー!」
……忠夫くんがああいう風に育たなくて本当によかったと思います。いえ、あれぐらい甘えてくれたらそれはそれで嬉しいのですが、あれは明らかにべくとるが違います。
さて、卒業証書の授与も終わり、卒業式も終わりが近づいています。朝も写真を目一杯撮りましたが、帰りもいっぱい撮らなくてはいけませんね。ちょっと涙目の忠夫くんが見られるかもしれませんから。
妙神山のただおくん~僕たちの卒業式~
<銀一>
「話ってなんや、銀ちゃん?」
式の後、俺は二人っきりで話しをするため夏子を屋上に呼び出した。
「俺、夏子に言わなきゃならんことがあるんねん……」
そう、俺は言わなければならない。例えそれが報われないものだとしても。
「そう、なに?」
「実は、俺な……」
そこで言葉が止まる。だが俺は言わなければならない。そうしなければきっと前に進めない。心残りを残したまま卒業するのは嫌だ。
俺は最近、とあるタレント事務所にスカウトを受けた。芸能界は元々興味があったし、そこは大手の事務所だったので、母さんと相談して話を受けることにした。
だが、そのせいで俺は夏子とよこっちと離れ離れになる。この話を受ければ俺は大阪のアイドル養成校へ行かなければならないからだ。
離れ離れになるのは俺だけじゃない。よこっちは雪乃丞と一緒に元六道女学院、現在六道学院への特待生としての進学が決まっているし、夏子は同じ東京だがもっと都会の進学校に入学することが決まっている。
幼稚園からずっと一緒だった俺たちは今日で離れ離れになる。もちろん二度と会えないわけではないだろうが、今までみたいに頻繁に会うことはできなくなるだろう。
だから、今日は俺は言う。何年間も溜めたこの思いを。
「俺……お前のことが好きやった。幼稚園の頃からずっと」
「銀ちゃん……」
夏子は少し目を見開いて、やがて少しずつ言葉を選ぶように口をつむぐ。なんて言いたいかぐらい分かる。だが俺もこの気持ちをぶちまけなければならない。
「……おおきに、銀ちゃん。その言葉は本当に嬉しい。でも私、よこっちのことがす「そう、俺は夏子が好きなんやとずっと思ってた。この胸の高鳴りは夏子が側にいるからやと! でも違ったんや! 俺はこの前の修学旅行で見た夢で気付いたんや! 俺は本当はよこっちが好きやと!」きって……はい?」
「もちろんお前がよこっちが好きなの知っとる! だがこの思いは消せんのや! だからこれは宣戦布告や! よこっち、お前が欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
ふっ、言ってしまった。後ろで時々俺に同人誌くれる女子たちがきゃあきゃあ言っているがとりあえず放っとく。
「……それを言いにわざわざ屋上まで連れてきたんか?」
「まあな!」
俺は最近仕込まれた歯をキラーンと光らせる、をしてさわやかに笑った。
「気ぃ遣って損したやろーがぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は屋上からそのまま時速300キロぐらいのスピードでかっ飛ばされた。方向が大阪だったらいいなと思った。
<夏子>
「あれ、銀ちゃんは?」
「ああ、一足先に帰ったで? 特急でな」
「そうなの?」
少ししょんぼりしたよこっち。仲良かったからね、私たち。
それにしても……私がちょっと目を話している隙によこっちのボタンが第二どころかズボンのボタン、よく見れば靴紐まで取られてる。くっ、鬼のいぬ間になんとやらというやつか! 油断した!
一緒に校門まで行くと、見知った顔がちらほら。
「あっ、横島さん、それに夏子さん、卒業おめでとうございます~」
いつも嬉しそうにしているけど、今日は特に嬉しそうにしているのは幽霊のおキヌちゃん。ライバルの中では一番中が良かった子。
「お兄ちゃんも夏子も、もう学校に来ないのよね……」
少し寂しそうに言うのはタマモ。後から急に現れて、妹属性という恐ろしい武器を駆使する強敵。
「二人ともご卒業おめでとうございます。来月からもう中学生ですね」
少し複雑そうな顔をしているのは珍しくめかしこんだ小竜姫。よこっちの姉代わりで……私の最大のライバル。
「夏子さんは私立に進むんでしたっけ?」
「ああ、よこっちのとこはかなり遠いから、もうみんなとも当分会えないやろうな」
「そう、ですね……」
少し沈んだ顔を見せる小竜姫。恐らく自分が勝ち逃げのような形になったのが気になるだろう。私は小竜姫を少し物陰に連れて行って話しをする。
「そんなしけた顔せんといてや。私が最大のライバルと認めた女が」
「しかし……夏子さんは忠夫さんとはもう……」
「いいんや、ずっと一緒に学校にいたっていうのに決められんかった私が悪い。それに小竜姫にならよこっち譲ってもいいって気にはなるし」
「ですが……」
「ストップ! せっかくの卒業式で変なこと言わんといて。いくらアピールしても、最後までよこっちは私を女として見てくれんかった。私はただの仲のいい幼馴染やった。だってよこっちの隣には常にあんたおったからな。同じ中学に進んでいても、結局は私の負けは変わらないんよ」
そう、私はよこっちにとってただの遊び友達。『女』ではない。
複雑な顔をする小竜姫を置いて、私は裏門に向かう。
「待ってください! 忠夫くんが待っていますよ!?」
「敗者は何も語らずや。それに今会ったら離れられなくなりそうやしな」
私は後ろ向きで手を振りながら答える。
「小竜姫、よこっちを……よろしくな」
私の初恋は、こうして終わった……
なんてな。
甘い、甘いぞ小竜姫よ! コーヒーと間違えてガムシロップを入れたココアよりも甘い! 私がそんな簡単によこっちをあきらめるはずがないだろう?
確かによこっちと同じ中学に行けんのは辛い。だが、これは同時にチャンスなのだよ!
いつも一緒で女として見れなかった幼馴染。数年ぶりにばったり会ったら彼女はすっかり『女』になっていた……。そして思い出話に花を咲かせている内に懐かしさはやがて恋へと変わり、恋は男女の愛へと変わっていく……。くくく、完璧だ! 一寸の穴もない。一緒にいるから『女』として意識されてないのなら、時間を置いて劇的変化と共に意識させればいいのだ。
我が家でも幼馴染属性を持つ者にしか使用できないというかなり限定される技ゆえ、使い手が数十年現れなかったと言われる伝説の秘奥義! これぞ我が家に伝わる華麗なる恋のテクニック~幼馴染専用 超上級編~だ!
ふふふ、せいぜい今を謳歌するがよい、小竜姫よ。数年後、せいぜい後悔をしないようにな!
は~はっはっはっはっはっは~!
続く
あとがき
夏子、銀一、一時退場です。ということで今回は二人が主役。書いてて思ったんですが、夏子と銀一が二人で話すのって初めてなんですよね、これが。幼馴染なのに絡みが以上に少ない……。
さて話が変わりますが、今までレス返しについてですが皆さんがいつもいっぱいレスしてくれるというのに、レス返しが全然できません。言い訳になりますが、忙しいです。日刊を維持する(最近ちょっと怪しいですが)だけでも一杯一杯なので、レス返しする余裕がありません。いつもレスしてくれる皆さんには本当に申し訳ございませんが、レスはいつも楽しみに全て目を通さしてもらっていますので、ご安心ください。余裕があったらレス返しすることもあるかもしれませんが、基本的にはレス返しできないと思ってください。ただこのあとがきを全体のレス返しも兼ねることもありますので、それでご勘弁してください。
さてそろそろ中学編に入ります。入学式編か、一区切りついたことで番外編として小竜姫様の育児日記を書くか迷ってますが……明日はバイトがあるのでもしかしたら更新できませんかも……。できるだけ頑張りますけど。
ではこの辺で。
BACK< >NEXT