<タマモ>
「死ねよやぁ!」
銀ちゃんを乗っ取った奴は私に右手を振りかざすと、何かの魔力を放った。そのあまりの速さに反応できなかった私はそれに直撃し……
ぼん!
私の身体は元の子狐に戻ってしまった。
「タ、タマモ?」
「前世の知識と記憶がないとはいえ、かつては上級魔族に匹敵する力を持っていた金毛白面九尾の狐。悪いが君の力は封印させてもらったよ」
「くーん、くーん」
全然変化できない! その上霊力をほとんど取られちゃったのか、身体が全然動かないわ! まずいわね、いくら夏子でもあの真実に目覚めし魔王に勝てるとは思えない。このままじゃヨコシマの貞操が危ない!
「ふん!」
さらに奴が魔力を放つと、今度は夏子の動きが止まった。
「ぐぐ!?」
「ふっ、君も霊能力がないとはいえ、危険度S+の夏子。というかむしろその辺のGSよりも怖い。だが動けなければどうすることもできないだろう?」
奴の言葉通り夏子は身じろぎするがほとんど動かない。なんて力なの!
「くっくっく、貴様らはそこで私が忠夫くんの初めてを奪うところを見ているがいい!」
奴はそう言ってずんずんとヨコシマの元へ向かう。初めてが知り合いに見られながらの元の羞恥プレイ!? いや、それはそれで見てみたいけど。
でもその相手がこんな奴じゃ嫌!
「ハアハアハアハア! さあ、忠夫君! 大丈夫、優しくしてあげるから!」
奴はヨコシマが寝ている布団の毛布を剥ぎ取ろうと、毛布に手をかけた。
妙神山のただおくん~修学旅行に行こう! ここまで続くとは思わなかった~
<小竜姫>
ピキィーン!
はっ、この感じは!?
「どうしたんですか~?」
不思議そうな顔をしてくる六道さんをスルーして、私は神剣を持って外に飛び出ました。
あの感じは……嫌な予感がします! ヒャクメをも驚かした私の忠夫くんれーだーがびんびんと忠夫くんの危険を知らせます。
しかもこれはただの危険ではありません。
これは……私の存在意義を揺るがすほどの危険だと、私の勘が言っています!
この感じは……夏子さんがすくーるみずぎとやらで忠夫さんに迫った時、タマモちゃんがおいしい油揚げを食べにと忠夫さんをほてるまで連れて行こうとした時、おキヌさんが忠夫さんの食事に秘かにすっぽん汁を混ぜようとした時の感じと似ています! 無論全て事前に防ぎましたが。
ですがこの感じは、その時と似ていながら、さらに強い危機感を私に抱かせています。
早く行かなければ、最も大事なものを失ってしまうような……。そう、大事に育てていた野菜を、さあ食べようとした瞬間に横から食べられてしまう感じがします。
私は忠夫くんれーだーが示すままに、飛びました。
<アシュタロス>
私が忠夫くんの毛布を優しく紳士的に、それでいて野生的に剥ぎ取ろうとした時、動けないはずの夏子が突然笑い出した。
「くっくっく、はーはっはっはっはぁ! 小竜姫だ! 小竜姫がやってくるわー! 必ずやってくると思っていたわ! ずいぶんと待たせて!」
「くーんくーん(本当だ、小竜姫の気配だ!)」
小竜姫だと? だが私は何も感じられない。私は精神がリンクしている土偶羅に話しかける。
(本当に奴らの言う通りに小竜姫が来ているのか?)
(小竜姫かどうかは分かりませんが、とても大きな妄想パワーの持ち主がこちらへ向かってきます。……最低でも妄想力5000以上のものが)
(5000以上だと!? 馬鹿な、そいつは貴様の故障に決まっている!)
私の妄想力が大体10000ほど。たかが人界駐留の神族が私に迫るほどの妄想力を誇るというのか!?
(アシュタロス様、早いところ用を済まされることをお勧めします。もし小竜姫が現れて彼女たちと手を組んだら厄介なことになります)
その通りだ。小竜姫がどうだろうと関係ない。どうせ妙神山からここまでかなりの時間がかかる。さっさと忠夫くんの柔らかで甘い香りのする肢体を堪能……
ドガーン!
する前に、私の目の前に逝かれる怒れる竜神が舞い降りた。
「早っ!」
ちょっと待て。いくら神族でもそんな簡単に物理法則を無視するな!
「銀一さん? あなた私の忠夫くんに何をしようとしているのですか……?」
静かだが、心から凍るような声が部屋に響く。
私は恐れている。この小娘を。
怖い。こんなに怖いと感じたのは神話時代での戦い以来、いやそれ以上だ。
奴の私が忠夫くんの毛布を剥ぎ取ろうとしていた手を凝視している。
「ま、まさかそのまま野菜たっぷりのサラダ付きのお肉フルコースな展開へGO!? た、確かに美少年との絡みはかなりそそりますが……駄目です! 忠夫くんは私が開発するのです! そうです、忠夫くんの可愛いズキューン!の初物は私だと一億と二千年前から決まっているのです。そしてその後は……」
ぐふぐふとなにやらすごい妄想が漏れている。な、なんて妄想力だ。
(6000、7000……馬鹿な、まだ増えていきます!)
「ふおおおおおおおおおおおお!」
小竜姫はかっと光ると、私の方を向いた。
(土偶羅、奴の妄想力はいくつだ!?)
(8000以上です……)
馬鹿な、8000以上だと!?
「銀一さん、いやどうやら別人のようですが……関係ありません! 忠夫くんを汚す役目は、誰にも渡しません!」
そう言うと小竜姫は問答無用で斬りかかって来た。いや、一応人間の、しかも知り合いの身体なんだから少しは躊躇してもよくね?
「ぐっ!」
私も魔力の剣を作って、それを受け止める。だが、押されている!? いくら弱い人間の身体を借りているとはいえ……
「馬鹿な、なぜそれほどの力を!? 私と貴様の妄想力はほぼ互角! それなら僅かな差と魔力の差で私が勝つはずだ!」
この身体では全力を出せないとはいえ、魔神と呼ばれた私にはその辺の神族では足元にも及ばないほどの魔力がある。それを小竜姫は押さえ込み、なおかつ押し勝っているというのか!?
「な、なぜだ!? なぜ貴様にこれほどの力が!?」
「簡単なことです。あなたと私の忠夫くんへの萌え心は確かに互角かもしれません。ですが私にはあってあなたにないものがあります」
「なんだ、それは」
「それは……
忠夫くんへの愛です! 愛は全てに勝るのです! 愛のない萌えなど、紅生姜の入ってない牛丼、いやそれ以下です! 芸能人の料理番組であの人も言っていました。らぶいずおっけーと! 愛は全てを、次元をも超えるのです!」
愛、愛だと~! ふ・ざ・け・る・な!
だが私が押されているという事実はいくら否定しても覆らない。
「シュミレーションでは私のほうが7対3で勝っていたというのに!」
「さあ、これで終わりです!」
神剣に奴の妄想パワーが集まっていく。
「ハアアアアア!」
妄想変性剣
ば、馬鹿なー!
<小竜姫>
私の剣は奴を空の彼方まで吹き飛ばしました。
「……あなたが男色に一番相応しいと思った人は、男色など望んでいなかった。男色に最も相応しい人が男色を望まないというなら、そもそも男色などは成り立たなくなる。……あなたの男色は初めから間違っていたんですよ、ザビーネ」
さて、邪魔者はいなくなりましたし。忠夫さんと一緒に寝ましょうか♪
「小竜姫ぃ、早くこの金縛りを解いてや」
「くぅん(私も)」
そういえば彼女たちは動けないままでしたね……。
にやり。
<忠夫>
朝起きたら僕の周りだけ除いて部屋は跡形もなく壊されていた。なんで?
その上なぜか小竜姉ちゃんが幸せそうに僕に抱きついていた。なんで?
さらに不思議なことになっちゃんとタマモが血の涙を流しながら近くで立ったまま寝ていた。なんでだろ?
一番不思議なことは、銀ちゃんが昨夜の記憶を失ったまま奈良県で発見されたことだ。幸い命に別状はなかった。二重の意味でなんでだろ?
修学旅行は不思議がいっぱいだ。
おまけ
<おキヌ>
「おう、お前さんが管理人か? さあ、さっさと修行をつけてくれ!」
「本当にお前神族か? ちょっと手合わせしてくれねえか?」
「10%だ! 10%であの時の仕返しをしてやる~! 小竜姫はどこだ~!」
ふえ~ん! どうしてこんな時にお客さんがいっぱい来るんですか~! 小竜姫さん早く帰ってきてくださーい!
というかなんで最近私オチ専用キャラになってるんですか!? それも小竜姫さんの役目でしょう!?
とにかくふえ~ん!
あとがき
いや、ずいぶん更新が遅くなりました。今回の修学旅行編、正直なんの計画も立てずに始めたのでかなりの難産でした。やっぱ無計画はいかんなあ。
そのため今回はネタを大量投下で乗り切った感じ。DBにクロボン、アクエリ。うーん、ちょっと評価が怖いかも。
昨日夜遅くまで友達とカラオケいったりして遊んでいたため、喉が痛いです。まあアクエリオンとターンAのOPを熱唱できたので満足ですけど。
次回は卒業式! うーん、でもなんとなく今スランプなので上手くできるかどうか心配です。パロディネタはちょこっと入れるのは好きなんですが、それに頼るのはあまり好きではないんで、個人的には今回は駄目かなあと思っているんです。面白いかどうかはまったくの別ですが。
六女入学ですが、やはり当初の予定通り入学することにしました。ただでさえ行き当たりばったりなのに、これ以上無計画だとまずいですから……。
ではこの辺で。
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