<銀一>
「なあなあ、好きな子を皆で言いっこしないか?」
始まりは就寝時間前に言ったクラスメイトの言葉だった。修学旅行ではある意味お約束なそれを俺は内心ぎくりとしながらもすまし顔をやり過ごしていた。
「お、面白そうじゃん! じゃあ誰から言う?」
「横島はどうなんだ? 夏子と仲良いけど?」
「う~ん、もちろん好きだけど、なっちゃんとは幼稚園の頃からいつも一緒にいるから仲いいだけだし、最近少し冷たいしなあ」
そういやそうな感じがするな。
「ふーん、じゃあ誰? うちのクラスの女子じゃないのか?」
「そうだなー、あえて言うなら小竜姉ちゃんが一番好きかな」
確かに普段小竜姫さんのよこっちへの過保護ぶりばかり目立つが、実はよこっちの小竜姫さんへのシスコンっぷりもすごい。
「おお、あの人か。確かにすごい美人だが……」
「ああ、あれはちょっとな……」
「?」
みんなは複雑な顔で見合わせているが、よこっちだけはよく分かっていない。当たり前だろうな。以前、夏子に告白して断られた奴が逆恨みしてよこっちの靴に画鋲を入れたことがあったが、それを聞いた小竜姫さんが五分で犯人を見つけて、もうダーク、バイオレンス表記が入るほどのお返しをした。そういやあいつ、まだ生きてるのかな? まあ、生きてても二度と学校には来れないだろうが。あの後夏子と手を組んでそいつが告白をしたという事実を根と葉と尾ひれをつけて学校中に触れ回った。もはやあの学校で彼を知らない者はいない。生きてても二度と学校には来れないだろうな。
「なんだよもう。そうだ、銀ちゃんは?」
直球だ。
「……言えへん」
「ええーずるいよ。僕も言ったんだから銀ちゃんも言わなきゃ!」
お願いだ、ここでは勘弁してくれ。
「ほらほら、吐かなきゃくすぐり続けるぞ! こちょこちょこちょ」
よこっちは俺の布団に潜り込むとくすぐり始めた。待て、そこはまずい! そこは俺の敏感な……ああ! 足を絡ませるな! 俺たちはもみくちゃになっているうちに変な体勢になった。
「ほらほら、吐かなきゃやめないぞー」
「くはっは……や、止め……ははっはっははは……ハアハア!」
落ち着け俺! 俺はノーマルだ。夏子が好きなんだ。それをここでは言うのは恥ずかしいから言わなかっただけなんだ。あっ、そこは……や、柔らかいほっぺをそんなとこに擦りつけ……。
「ねえー早くー」
だ、駄目だ……これ以上は俺の理性が……
切れた。
「よこっち~!」
ゴス、バキッ、メキメキ、グキョッ
ぽいっ。
俺は凄い数の集団にリンチされ、縄で身体を縛られ「野菜大好き!」と書かれた紙をおでこに貼られて、そのままトイレの中に放り込まれた。
「おーい、そろそろ行くか?」
「そうだな、もうすぐ約束の時間だし」
「みんなどっか行くの? もう消灯時間過ぎてるよ?」
「ああ、ちょっとな。気にせず先に寝ててくれ」
「おい、トイレに入れておいたサラダマンはどうする?」
「ああなっちゃどうもならんだろ。ほっとけ」
違うんや~。俺は野菜は好きじゃないんや~。
いや、確かによこっちの白いうなじを見るとハアハアするし、冬なのに半ズボンを穿いていたりすると密かにガッツポーズを取ったりするけど! 俺は違う! 本当にノーマルなんやー!
(なぜ認めないのかね?)
声が、聞こえた。聞いたこともない、野太く声。
(なぜ認めないのかね? 自身の心に従って行動すれば悩むことも苦しむこともないというのに)
幻聴? それにしてははっきり聞こえる。
(認めるのだ。自分の思いを。信じるのだ。自分の心を!)
ち、違う。俺は違うんやー!
(ふ、違う違うとはいっても体は正直だな。現に君の身体と私の精神がフィードバックしかけている。さあ、認めるのだ! 自分の全てを!)
お、俺は、俺はー!
ボン!
「魔神アシュタロス、デタントに触れずに人間界に降臨! 成功、フォウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
妙神山のただおくん~修学旅行に行こう! さらに続き~
<タマモ>
私と夏子がヨコシマと添い寝する権利を得るための戦いを始めようとした時、トイレからあり得ない霊圧が舞い上がった。
「な、なんやこれ!?」
これほどの霊圧なら一般人である夏子でも分かるだろう。霊力そのものは大したことはない。いや、十分強いが猿のおじいちゃんには及ばないし、せいぜい小竜姫と五分かどうかというところだろう。だが、あれはどう考えてもおかしい。
あれは間違っている。そう。あれはまさに……。
「暴走時の小竜姫のよう!」
がちゃ。トイレから出てきたのは額に「野菜大好き!」と書かれた紙が貼られていた銀ちゃんだった。かなり間抜けな姿だが、状況はさっぱり分からない。雰囲気も銀ちゃんとは違う。
「あんたまさか……何かに憑かれてる?」
「ほんまか、タマモ?」
「ほう、さすがに勘が鋭いな。金毛白面九尾の狐よ。いや、会員ナンバー4009、ツンデレのナインテールと言った方がよいかな? この身体は確かに借り物だが、基本的には合意の上だ。強制的に乗っ取ればかなりの問題になるからな。それにこの身体は私に非常に馴染む、馴染むぞぉ!」
私を知っている!? しかも会員ナンバーとHNまで。まさか……。
「お前も知っているぞ? 会員ナンバー0002、伝説のフラグクラッシャーよ」
「わ、私のことまで!?」
これで分かった。こいつは同類だ。それもかなり力のある奴!
「BBSで時々見かけるその丁寧に見えて高慢的かつ高圧的な態度。あんた会員ナンバー0110、真実に目覚めし魔王ね!」
「な、こいつが噂のゴールドカードまであと6ポイントという、もっとも神に近い男!」
魔王とは言っているけど、まさか本当に魔族だとは思わなかった。しかもかなり高位の。
「それで、銀ちゃんの身体まで乗っ取って、人間界まで何しに来たの?」
「ふん、知れたこと。ここは京都だ。つまり小竜姫の邪魔はない。さらに修学旅行という初めてのことで忠夫くんのテンションはバリバリの筈! そう、普段は見られない少しはめを外した忠夫くんが、そしてその後はめを外しすぎたことを後から思い出し、ちょっと恥ずかしがっている忠夫くんが見られるのだ! このチャンスを生かさず何を生かすというのだ!」
くっ、なんてこと。考えることはみんな同じということね。
「だが、今は忠夫くんはおねむになっている。起こしてこの天使のような寝顔を壊すのは、いやそれはそれでいいかもしれないが、とにかく望ましくない。最初は秘蔵写真の購入を断られた分、ここで撮る写真で代用するつもりだったが、今はそれよりさらに魅力的なことを発見した。それは……」
ま、まさか……。
「忠夫くんとそい寝することだ! さあ、私の邪魔をするというなら消え去るがいい!」
<夏子>
なんて力だ。これは姉弟愛連結システムを解放した小竜姫と互角か、それ以上のプレッシャーだ。びりびり肌に刺すような。正直、勝てない。
「タマモ、一時手を組もうで! こっちに引っ付きい!」
「引っ付く? くっ付くの!?」
タマモが私に引っ付いて、私が奴に伸ばした手に添える。長期戦は不利だ。ならば一撃で決める!
「1,2,……3! よこっち萌えエクステンション!」
「シュートォォォォォォォォ!」
私とタマモの萌え心と恋心、それが共振しあい、手からとてつもない力を吐き出す。 まるで滝のような勢いでそれは輝きながら放たれる!
「こ、これなに?」
「萌え心と恋心の、萌えニックウェーブっていうやつ……、多分だけど、これなら」
私たちから放たれた光の奔流が、奴を飲み込む! だが……。
「ふん!」
そいつはそれを気合だけで弾き返した!
「馬鹿な……それはこちらが複数の時の対小竜姫決着用に開発した私の最凶技なのに……」
「ふん、甘いな。貴様らごときの萌え心、何年も夜のパートナーを実物ではなく写真で我慢した私には遠く及ばん! さあ、もう邪魔をするな。邪魔をするというなら……」
……邪魔をするなら?
「私と忠夫くんの幸せかつ淫らで肉欲な日々のためにぃ、死ねよやぁ!」
<おキヌ>
「それでね~、おキヌちゃんが今私の学校に入ると~」
六道さんが必死に私に学校がいかに面白いか、魅力的であるかどうかを説明しています。
(そうです! 忠夫くんがもし行きたいというならおキヌさんもぜひ行かなければ! そしてあなたが飢えた売女どもから忠夫くんを守るんですよ!)
小竜姫さんが小動物ならそれだけで気絶しそうな視線で私を睨んでます。
ふえ~ん! 私も夜に京都に向かう予定でしたのに~!
続く
あとがき
アシュタロス降臨! 予想できた人はすごい。というかまあ、修学旅行はもはや関係ないところまでいってますし。
ところで六道入学はあまり評判がよくないですねえ。私としては元から考えていたことなのですが、あまりに評判が悪いなら少し考え直しましょうか? 皆さんはどう思いますか? 別にアンケートではないですがもし六道入学が賛成か、もしくは反対ならそう言ってくれると嬉しいです。その数で決めるわけではありませんが、参考にはします。
さて、今回はあまり話が進んでません。六道入学について考える時間を得るためにちょっと先延ばしした感じです。本当は次はもう卒業式をやる予定でしたから。
ちなみにアシュタロスがどうやって銀ちゃんの身体を乗っ取ったかは次回明かします。
それにしても今回のブレンネタ、スパロボやってない人はほとんど分からないだろうなぁ……。放送もWOWOWだったし。
昨日更新をしなかったばかりだというのに恐縮ですが、明日もどうなるか分かりません。というのも明日は私の二十歳の誕生日で、友達連中で遊びに行く約束をしているからです。これで酒がどうどう飲めるぜ、と言いたいところですが、そのため明日の更新はちょっと危ないです。出来たら朝にしようと思いますが、出来なければすいませんが明後日までお待ちください。
ではこの辺で。