(前奏)
♪パッパラララーーーパララパー パーパーーー
パーパー パーパー
「うーみのかーなーたーにー浮んでるー♪」
「ばべるの島(とう)ーに住んでいる〜♪ ちゅーうかーんかーんり〜、皆本こーいちー♪」
「ちきゅうのへいわを守るため〜三つのしもべにめいれいだ〜♪」
「「やー♪」」
「てーんそ−う(転送)あーおい〜、空をー跳ぶー♪」
「しほーはさわってかこをよめー♪」
「「かおるーかいりき、地をくだけーー♪」」
「こらぁっ!!」
ごつん★ぺちん☆
「「いたいーっ」」
「かっ、かーちゃんらの職場でなんつー歌をでかい声で歌ってんだおまえらわー!!
つーか、アタシは『怪力』じゃなくて『念力』だと何度言ったらわかるんだー!!」
「・・・つーか、自分のパートを聞いてから怒りにいくアンタもええ性格やわ、薫。」
クスクスと笑うほかの同僚の声に頬を染めつつ、軽く突っ込む葵であった。
絶対可憐チルドレン パラレルフューチャー
Dances with Wives! 2
〜ある日の攻防戦〔前〕〜
薫と葵、そして子供の光次郎と雛が親子漫才をしてるのは、バベルの医療施設の中にあるリクレーションルームだ。
昔の薫たちの様な幼い能力者を教育のため預かったり、本部に詰める事の多い職員の為に設けられた場所である。
今日、バベルでも有名な皆本一家は全員ここに来ていた。
理由は一つ。
紫穂が夕べの夜遅くに『破水』したのである。
『破水』と言うのは、胎児を包む羊膜が破れて中の羊水が外に出てくる事だ。
つまり、『出産』の前兆である。
かねての予定通りバベルの医療施設に入院。現在、陣痛の間隔を見ながら分娩室へ行くのを待っている状態である。
が、初産はかなり時間がかかる。
薫の時は破水から一日半、朧の時も30時間近くかかっている。
まあ、かたや19歳、かたや○○歳であった違いはあるが、安産だった薫でもこれだけかかっているのだ。
で、経験者の朧は薫と交代で紫穂と子供たち二人の面倒を見てるわけで、葵は時々顔を見いく以外は子供たちの面倒専門。
すると光一はなにをしてるかと言えば・・・
「大丈夫か? 痛みはつらくないか?」
と、付きっきりで腰をさすってやったり、陣痛促進の運動の手助けしてやったりと、彼なりに懸命に紫穂を手伝っていた。
その姿を見ても、薫も朧も嫉妬の色は無い。
今と負けず劣らずの懸命さを、自分たちも受けているからだ。
「あなた、大丈夫よ。順調に間隔は縮まってるし、予定通りなら今日の夜には産まれるわ。」
「あ、うん。わかってはいるんだけどね・・・」
朧の言葉に照れた様に笑って、自分の腰をさする光一に、紫穂は幸せいっぱいの笑顔を浮かべる。
「光一・・・」
「ん? なんだい?」
「ありがとう・・・」
「こちらこそ・・・さ。僕の子供、産んでくれるんだから。」
「うん、元気な子、産むからね。・・・・・つっ」
何度目だろうか、紫穂の顔が辛そうに顰められる。
「紫穂!?」
「ん・・・今までのより、ちょっと痛い・・・・・うくっ!」
その様子を見た朧は、即座にナースコールを押した。
「あ、217の皆本ですが。陣痛が強まって来たようなので・・・はい。お願いします。」
「朧。」
「ええ、思ってたより早いけど・・・そろそろ入った方がいいかもね。」
3度目ではあるが緊張を拭い切れない夫の短い問いに、朧は落ち着いた笑みで応えた。
「おーい、葵。コージロ、ひなー。今おかーさん分娩室に入ったってさ。」
「そっか。いよいよ紫穂もおかーさんなんかぁ。」
「ママッ! 歌穂(かほ)ちゃんうまれたの?」
「うまれたのー?」
薫に飛びつく様に聞いてくる子供らに、薫はチッチッと指を振ってみせた。
「まだまだ。これからさ。
・・・ふっふっふ、さあ紫穂。そのお淑やかな顔を真っ赤に腫上がらせて『産みの苦しみ』ってやつを存分にそのおじょーさまな骨身に味わうがいいっ!
ワーハハハハハハハーーーー!」
そう言って高笑いする薫。なんか目に涙まで浮かばせている。
「まま、どーしたの?」
「たぶん、いままで赤ちゃん産む『痛み』知っとんのが朧はん以外の『うちらの中では薫だけ』やったからなぁ・・・痛い目みたんが自分だけやったんが、きっと『くやしかった』んやろなぁ・・・」
もっとも、薫はものすごく安産だったので、他に比べたら楽だった方なのだが、本人はその痛みしか知らないのだから違いが解ろう筈も無い。
「赤ちゃん産むのって痛いの?」
「そや。パパでも我慢できん痛さやー言うな。」
「・・・ママもいたかったのかな・・・」
光次郎にとっては、ものすごく強くて優しくていつも楽しそうに笑ってる母が、痛がってる姿というのは、ちょっと想像できる事じゃなかった。
しかし、その時その場に一緒にいた葵は、顔を真っ赤にして、痛みに耐えながら渾身の力込める様にして、光次郎を産んだ薫の姿を知っていた。
むくみ上がった顔でひぃひぃ息を切らしながら、光次郎を抱かせられたときの顔も葵は忘れられない。
そしてその時の第一声が、
『かわいくない』
と、生まれたてでまだしわくちゃの光次郎に対してのたまわれた事は、まだ当分本人には秘密であろう。この子は薫と親子ゲンカはよくするものの、内面は父親似で結構ナイーブだ。
『その後の薫の光次郎の可愛がりようは、『真性(ほんまもん)の馬鹿』としか言えんかったけどな。』
クスッと思い出し笑いが口をつく。
「気にせんでええ。ママもお母ちゃんも痛かった分よりも、光次郎や雛の事大事に思とるんやから。」
そう言って葵は、屈みながら光次郎たちの頭をクシャッとなでてやった。
※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※
ザザー・・・・・
ザザーーー・・・・
チャプン
さざ波打つ海原に悠然と浮ぶ、世界最大の人工島『源氏島』
主である皆本一家は出払い、今は島に住む鳥や獣、川を泳ぐ魚たちがこの島の主である。
海上に見えるその景観は、深い樹々に覆われ周囲は岸壁に覆われ、ちょうど真南の方向に「プライベートビーチ」にちょうど良さそうな砂浜がある。
一見すると避暑地を思わせる豊かで穏やかな島だが、その実態は日本が生んだ恐らく「世界最凶の超能力汎用兵器」である。
「神鋼(かみはがね)」と呼ばれる精神感応金属で全てが覆われ、その冗談の様な硬度としなやかさを併せ持った耐久力は戦略核のダメージも受け流し、その熱量に溶ける事もしない。
そもそも、どんな状況下でも「神鋼(かみはがね)」はその表面温度を維持し続ける。
この島の自然が豊かで温暖なのもその理由からである。
・・・もし、それが変わる時があるとしたら、それはこの島のどこかに作られてるという「王の座」に座った者が「命じた」その時だけ。
「王の座」に座ったのがあるレベル以上の能力者ならば、「神鋼(かみはがね)」はその能力者の力を受け、自らの組成構造が作り上げた天然の感応回路により増幅し、荒ぶる神の如きの破壊力を発揮する恐るべき兵器なのだ。
そして、今。
この恐るべき兵器を守る、恐るべき「ガーディアン」である「皆本一家(の妻3名)」はこの島にいない。
ならば、それを「好機」と見るべき者がいて、何がおかしかろう。
その者達は、海を深く深く潜航しつつ、『源氏島』へと近づいていた。
彼らの名。
それは『普通の人々』と呼ばれていた。
※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※
Piririririri Piririririri
---Pi
「あ、義父さんですか? お忙しい所すみません、光一です。」
『紫穂のことかね?』
「はい。」
『あの娘は君の元にやった時点で三宮の家と縁は切れている。わざわざ連絡はいらんよ。』
「はい、ですから僕が勝手に電話しただけです。・・・今、分娩室に入りました。予定だと今夜7時頃・・・少なくとも日付の変わらない内には生まれると言われました。それから・・・・・名前は『歌穂』に決めました。」
『!』
「すいません。先日仕事でお会いした時いただいた名刺、紫穂が触れてしまいまして。勝手に候補の中に入れさせてもらいました。」
『///・・・用件はそれだけかね?』
「はい」
『では、切るぞ。 ・・・皆本君。』
「はい」
『・・・ありがとう』
「いえ、それでは、また・・・。」
カチャ
廊下の公衆電話の受話器を置くと、光一は戻って来たカードをスロットから引き抜いて、嬉しげな微笑みを浮かべてホッと息をついた。
とその時
どどどどどどどど
「ん?」
ンドドドドドドドドドドドドドド
「あ・・・しまった、そう言えばまだ連絡してなかったんだ。」
「皆本くぅーーーーーーーーーーーん!!!」
走っちゃ行けない病院の廊下の向こうから、案の定の人物が、案の定な勢いでやって来ていた。
そして、
ドドン!!
背広の上からもぶっとい筋肉が解る腕が、光一の頭の左右の壁に轟音を響かせて叩っ込まれた。
腕の先は見えてないが、『刺さってんじゃないか?』と思えるほどの勢いだ。
「あ、こっ、こんにちは。桐壺長官。」
「無情ぅっ!」
「はっ?」
「無情だぞ皆本君!! 紫穂くんが産気づいた事を何故私に黙っていたのかね!!」
「いや、別に黙っていたわけじゃなくて、今までずっと紫穂の側に付いてたんで連絡が遅れただけですよ。三宮の義父(ちち)にも、今連絡したばかりなんですから!」
「!! 君は同じ場所に居る私よりも遠くに居る三宮くんを優先したのかね!?
まさしく、むじょおおおおおおおおおおおぅ!!
君は『遠くの身内より近くの他人』と言う言葉を知らないのかねぇぇぇ!!?」
「それ、絶対使い方が間違ってます!!」
桐壺に怒りと悔しさとジェラシーの入り交じった顔で迫られてる光一に、そこで救いの手が入った。
「あ、光一ー。電話終わったかー?」
そこには、光一を迎えに来た薫が立っていた。
「お、おお! 薫くん。久しぶりじゃないか。」
「あ、桐壺のじーちゃん、おひさー。それでさ、生まれんのいつ頃だって?」
「今日の夜・・・予定通りだと7時頃だよ。」
「ふーん・・・じゃ、あたしと良く似たもんか。」
「ああ、お前の方が少し早かったけどね。」
「へへー。でも紫穂も今日までいろいろがんばってたじゃん。すぐ『ぐるぽーん』って生まれるって。」
「なんなんだ、その擬音は?」
「え? あたしコージロ産んだ時そんな感じだったけど。ま、いいじゃない。それより時間ありそうなら飯行こうよ。光一、夕べから缶コーヒーくらいしか飲んでないだろ。」
くう〜〜〜〜
言われてやっと思い出したのか、光一のお腹が今日初めて空腹を訴えた。
「へっへー。ほーらやっぱりじゃん。葵やコージロたちも先に食堂行ったから。光一も早く行こうぜ。母ちゃん(朧)には言ってあるから今は任しとけばいいって。」
「わかったよ。それじゃ、桐壺長官、失礼します。」
「そんじゃね。桐壺のじーちゃん♪」
あまりにも・・・
あまりにもナチュラルに、その暑苦しいまでに強烈な筈の存在感を『華麗にスルーされた』桐壺は、薫の言葉にただ頷き返すしか無かった。
が、それでも長官の地位は伊達や酔狂でなってはいない。
ある事に気づいた桐壺は、離れかけた二人を慌てて呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ! 皆本能力者総管理局局長!!」
「はい!? なんでしょうか?」
肩書きで呼ばれた光一は、キチンと桐壺に正対し、言葉を返す。
その二の腕は、彼自身の手で育てまくった、薫の豊満な乳房に埋もれたままだ。
しかも薫達は準待機のため、彼女らには大不評の、うっすいウェットスーツの様な制服「コマンダースーツ(指揮官服)」の上からだコンチクショーめ。
「い、今の話だと、ここには葵君も朧君も、子供達も全員来てるという事かね?」
「はい、そうですが。」
「そーですがではないだろう! それはあの『源氏島』を無人にしてきたと言うのかね!」
光一達は立場上は超兵器でもある『源氏島』の安全管理を任されている。
感応金属である『神鋼(かみはがね)』は、ある程度の精神波を受けていた方が安定する。
なのでレベル7の薫達が「住んでること」は、それ自体が仕事でもあるのだ。
それよりも今問題なのは、手にすれば世界さえひっくり返す「超兵器」でもある『源氏島』を、管理人たる彼らがまったく無人でほったらかして来た事である。
だが、その深刻な筈の問題は薫のお気楽な一言であっさりと返されてしまった。
「あー、だいじょーぶ。ちゃんと鍵はかけてきたから。」
「鍵!?」
「うん。」
「な、い、いや、これはそー言う問題ではなくてだね!?」
「そー言う問題だって。家空けるのに鍵かけてくるの、とーぜんだろ? でなきゃ何処にもいけないじゃんか。管理部の方から聞いてないの?」
「そ、それはたしかにそうだが・・・」
「そー言うこと。そんじゃねー、じーちゃん♪」
そこまで言うと、もう桐壺に二の句は継がせんとばかりに、薫はものすごい勢いで光一を引きずって去っていった。
「いや・・家の鍵の問題ではなくてだね・・・それよりわしはまだじーちゃんでは・・・」
あっさりと薫に切り捨てられて、かるーくショック状態の桐壺が我に返るのにはもうちょっと後の事である。
※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※
『源氏島』へと潜航し近づいた男達はその北側に位置する7m程の岸壁の前に居た。
「遅い・・・」
リーダーは苦い顔をしてつぶやく。
7年前の騒動・・・そう、『戦い』と呼ぶにはあまりにも『アレ』だったあの騒動の際。
破壊の天使達とバベルとの間で、
ほとんど巻き添えを食らった形で壊滅状態にされた、反エスパーテロ集団「普通の人々」。
その時もこの『源氏島』・・・当時は『鋼丸(はがねまる)』と呼ばれた、この『超・超能力兵器』を破壊するための総力戦・・・の筈だった。
しかし、この『鋼丸』の姿を見る事もかなわぬまま、『空から落ちて来た何か』によって、それまでの連載での存在意味は何だったんだ?と問われても答えもわからぬままに壊滅してしまったのだ。
少なくともそこに集結していた実働・武装部隊は全滅。
能力者にとっての絶対兵器『鋼丸』が完成、そして依然健在となった為に、各国のパトロンも彼らの活動からほとんどが手を引き、経済的にも大ダメージ。
また、普通の人間である光一と朧の皆本夫妻が能力者の力の象徴であるはずの『鋼丸』を住居とし、同時にレベル7の能力者の娘3名と『家族』となった事が、バベルの上手い広報活動によって争乱の後に好意的に広まった事で、世論的にも今まで以上の変化が起こりだした。
その為に、『普通の人々』の活動は袋張りの内職レベルにまで落ち込んでしまったのだった。
しかし、貪底に落ちた男達は機を待った。
雑草を食み、泥水を啜る様に生き延びて。
(つっても、きょうびの事。実際はコンビニのバイトとかで食いつないでたわけだが)
そしてついに時は来た。
あの彼らにとって因縁の兵器『鋼丸』が無人となったのだ。
そう、これを待っていた。
長い平和に慣れ、緊張の糸が切れるこの瞬間を。
今度こそ、この憎々しい『島』を破壊し、我らの再興の狼煙とするのだ!!
・・・と、勢い込んでやって来たのだが、彼らはもっとも侵入し辛いと思われる絶壁の前で、ただ波間に頭半分出して浮んでいた。
さしずめ黒いクラゲの群れの様にぷかぷかと。
「リーダー、まだ突入しないのですか!?」
焦れた部下がまんじりと構えるリーダー格の男に問う。
昼とはいえ、遥か沖の海水の中で約2時間。
焦れたと言うより、辛くなって来たのだろう、いろいろと。
「待て、まもなく今回の作戦(ミッション)の要となる男が来る。決行はそれからだ。」
「し、しかし予定の時間では・・・」
「・・・・・」
そう、約束の時間は1時間半前だった。
※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※
バベルの食堂内では、普段見られない光景があった。
「ほらほら、慌ててたべるんやない。のど、つまるで」
「コージロ、ほら。また箸が“おにぎり”(握り箸のこと)になってんぞ。ほらもー、ほっぺたご飯だらけだろ。」
雛と光次郎が、それぞれ好物のオムライスと親子丼を夢中で食べていた。
ここで子供達が食事してる事自体は特別珍しくはないが、甲斐甲斐しくその面倒を見てるのが、
「バベルの雷鎚(いかづち)」皆本薫と、
「女神(GODDESS)」皆本葵の両名である事だ。
葵の御大層な名前はその驚異的なテレポート能力から「神はつねにそこにあり、そこにない」と言う言葉と仕事中のクールに徹した近寄りがたい美貌と雰囲気から『神像』のイメージと合わさって生まれたらしい。
薫の場合は「バベルの塔を打ち崩すもの」と言う意味である。(実際何度バベルの『社会的存亡』に関わった事やら(笑))
その二人が、普通に笑顔を見せて普通の母親と同じに幼い子供の乱雑な食事の面倒を見ている。
光一にとってのいつもの光景は、噂と通り名での印象が強い他の職員は、意外な一面を見せつけられた形になった。
「おい、あれって『バベルの雷鎚』だろ? あ、あんな可愛かったか?」
「それより、『女神(GODDESS)』のほうだろ! ああ〜あの美女が『女の子女の子』して・・・」
ザワザワと男性職員の間でざわめきが起こる。
葵もカーディガンを肩にひっかけてるが、薫同様例のコマンダースーツ着用中である。
そんな二人が、今となっては古参の職員しか知らない素顔を久々に職場で見せているのだ。普段怯えて避けていた若い職員などは、「声ぐらいかけてれば」と自己嫌悪も混じった後悔をしてる者もいた。
そして
「皆本局長って、あんな優しい笑い方するんだ・・・」
「い、意外と頼もしいっていうか、包容力あるっていうか・・・」
『やだ・・・『抱かれたい』なんて思っちゃった(汗)』
それは光一も一緒だった。
にぎやかな食事をとる妻や子供達に向けた素顔の光一の顔は、疑いようの無い本物の優しさをたたえていた。(何せそれは並々ならぬ苦労の上に生まれたものだ)
それは女性職員達の胸を直撃していたのである。
もっとも、光一はここでも笑顔は見せるし、部下に対しても厳しさはあるが優しい面もちゃんと見せていた。
しかし、どんな成行きの結果であろうと、「妻4人」と言う男性としての誠実さを頭っから否定する様な事を実践してる事実が在る。
そのために、彼の笑顔も優しさも、女性職員達には、ありもしないのに『下心込み』で受け取られていたので、上司としてはともかくも、ここの女性職員から見た男性職員としての評価ランクは、かなりぶっちぎり気味に低かったのである。
が、少なくともここに居合わせた女子達からは、確実に目の鱗が取れ落ちた様だ。
これが口コミで広がるのはそう遠い事ではなさそうである。
すると、薫と葵の二人がひょいっと顔をそれら女性職員達へと向けた。
これは別に能力ではなく、ただの『女の勘』だ。
『『べーー!』』
「「「!!?」」」
『あげないよー』と言う意図が、テレパスでもないのに明確に伝わる、見事な『あっかんべー』であった。
自分らの浅はかさに気づいた直後だけに、彼女たちもむ〜〜っと睨み返すしか無い。
ちなみに『バベルの雷鎚』薫の普段の迫力が全く無いただ無邪気な、そして『女神(GODDESS)』葵のレアで愛らしいあっかんべーは、完璧にその場にいた男子職員を撃滅していたりした。
「そうだ、薫。『家』の方はどうなってる?」
「ん? ちょい待ち。」
薫は光一の問いに、自分の左手首に巻いた(レベル7を示す「白」のE-Cブレスレットは右手首である)、今時珍しいアナログな針の腕時計のリューズを引っ張った。
するとそれはアンテナの様に伸びて、時計の文字盤が何かの状態を示すグラフ表示へと切り替わる。
「どうだい? 様子は。」
『島』からの反応を伝えるその画面を、薫はジッと見入っていた。
※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※
「待たせたな!」
黒クラゲの団体さん達が、潮に流されない様に踏ん張るのも限界になって来た時、唐突に空から声が聞こえてきた。
「!」
男達がふやけた顔を上げると、そこに一人の男が・・・浮いていた。
「エスパー!?」
一人が即座に「虎の子」の小型ECMを掲げると、他の数名が素早く男の周りに散って、武器の『水中銃』を構えた・・・・・超能力者に対して何をと笑ってやるなかれ、これらは彼らの空白の7年の間に貯めた資金の結晶なのである。
「まて!」
するとリーダーが攻撃を止めさせた。
「その男は・・・味方だ。・・・とりあえずな。」
「「「「「!?」」」」」
「エスパーが味方?」と言う言葉に困惑する部下達を一瞥すると、リーダーは男に話しかけた。
「遅かったな、王城。」
「すまんな、ちょっと・・・・・・・急用でな。」
王城と呼ばれた男は、鬣(たてがみ)の様な白銀の髪を逆立て、太い漆黒の眉と真っ直ぐに通った鼻筋と彫りの深い顔立ちが、肉食獣の、獅子のイメージを与えた。
が、
その眼光鋭い目元に、ぺったり「目やに」が付いているのを、リーダーは見逃さなかった。
さらによく見ると、顔にカミソリもあてていないのがわかる。
『寝過ごして来やがったな、コンチクショー!!!』
海に隠れた拳が震えたが、そこはリーダーである。
部下達に振り向くと、海水でふやけた顔を無理矢理引き締めるとついに作戦開始の宣言を行った。
「いいか、今回の作戦はこの憎むべきエスパーどもの力の象徴である『超・超能力兵器「鋼丸」』に侵入し破壊すると共に、我ら『普通の人々』の存在を惰眠をむさぼる世界中の愚かなる能力者共に知らしめる事にある!!」
おおおおおおおおおおーーーーー!!
いままでの、あらゆる鬱屈を吐き出す様な歓声が起こった。
ある者は徹夜でツルハシを振るった後、早朝のコンビニで夕方まで働いた日々が脳裏をよぎる。
またある者は、一人の女性からの想いの言葉を振り切った思い出が胸に浮ぶ。
だがその痛みも、苦しみも今報われる。いや、報われねばならない! 報いてみせる!!
彼らの想いはまさに一つとなっていた。
※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※
「・・・『危険因子・存在0。平穏に待機中』だってさ。」
「うん、私の方もそう言うとるわ。大丈夫みたいやな。」
「そうか。とりあえず一安心だな。」
「心配性やな。ちゃ−んと切羽詰まる様な事が有ったら、すぐ『跳ぶ』様にしてあるよって。自分の食事食べんかいな。」
「あ! だったらあたし食べさせてやるよ! ほら、『あ〜ん♪』」
「ばっ、ばか! よせって! こんなとこ(職員食堂)で何する気だ!」
「なんだよー、前は食べてくれただろー?」
「あれは、おまえがまだ子供だったろーが!」
「だったら『妻』の今なら、なおさら食べてくれるよな? あ・な・た?」
「〜〜〜おまえな〜」
と、その時であった。
「ぱぱ、あーん♪」
「「え?」」
長女の雛(ひな)が、薫の真似して、自分の食べてたオムライスをスプーンにのっけて差し出して来たのだ。
「え、あ、いや、ひ、ひな?」
「あーん♪」
パパが食べてくれる事を期待して、子供らしい綺麗な瞳をキラキラさせる娘にたじたじとなる光一。
ちなみに薫と葵はというと、「「さーどーすんの?」」と、ニヤニヤしながら素早く観戦モードにまわっていた。
『自分らのは断れても、雛の「あーん♪」は断れるのか? あん?』
てなもんだ。
周りの部下の視線もイタイ。
皆本光一局長(34)、大ピンチであった。
『い、「家(一応『超』重要施設)」が何ともないのに、どーして僕がピンチになるんだー!?』
なーんて『魂の叫び』が光一から上がったが、何処の神様も聞いちゃいまい。
絶対。
※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※
「リーダー。質問があるのですが。」
「あの男の事か?」
「はい。何故、我々の活動にエスパーの力が必要なのですか!?」
その言葉にリーダーに変わり答えたのは、他ならぬその『男』、王城本人だった。
「わかってねぇな、おまえら。今日までに一体いくつの国がこの島を奪取せんと挑み続けたと思ってるんだ?」
いかにも「アホか」という目で見られて不快をあらわにする構成員も軽く無視して王城は言葉を続けた。
「大国の※国から小国の武装グループまで含め、21だ。わかるか? 最新装備から叩き上げの傭兵・高レベルのエスパーまでもがこの島に7年の間挑み続けて・・・その結果はこれだ。」
チュンチュンチュン・・・
ピピピピピ・・・
サーーーー・・・
サワサワサワ
「小鳥がさえずり、樹々の葉は風にこすれ詩う・・・平和なもんだ。された筈の攻撃(アタック)の『ア』の字も残されちゃいない。つーか、残す以前に『つけられもしなかった』ってのが正解さ。」
その言葉を聞き、疑惑の色が男達の目に浮かぶが、
「事実だ。」
リーダーの肯定の言葉に、それは驚愕へと変わる。
だとしたら、自分たちの装備のなんと貧弱な事か。
管理者の留守を突き、兵器として稼働しないこの『島』を占拠し、破壊する作戦を予測していた男達は、動揺を隠せなかった。
「落ち着けよ。だから俺がいるのさ。」
静かな自信に満ちた声だった。
そして王城は言葉を続けた。
「俺はな・・・知ってるのさ。『神鋼(かみはがね)』の壊し方をな!」
「「「「「!!」」」」」
つづく
※☆あとがき☆※
最後まで呼んでくださってありがとうございます。
「絶チル」に関してはド素人の書いた文でしたが、楽しんでいただけた様でホッとしました。
今回のお話は、前回のいわば「未来予(妄?)想図」を踏まえた形で書いてるので、今度こそ原作を踏まえてない!と言って言い過ぎではありません。
というか、事実上自己二次創作からの三次創作小説といっても間違ってないかと思います。
熱心なファンにはお目汚しになると思いますが、どうかご容赦ください。
宮弥さん、teteさん、まさのりんさん、qqqさん、masaさん、ミウラさん、Yu-sanさん、元めかぶ今もずくさん、レスありがとうございました。
『Y島さんち』に関しては、いままで管理人さんと相談していました。
私の応対の下手さ、身勝手さで、ここにご迷惑をかけましたが、とにかく再開はしようと思ってます。
まだ読みたい、見たいと思ってる方が幾人居るか解りませんが、その時はよろしくお願いします。