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「Dances with Wives!(絶対可憐チルドレン)」

比嘉 (2005-10-09 21:05/2005-10-12 04:01)
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絶対可憐チルドレン パラレルフューチャー

Dances with Wives!


「皆本局長。奥様がヘリポートにお迎えに来られました。」

 ちょうど鞄の閉じた所に、秘書がそう報告をして来た。

「葵か。やれやれ、こんな時間キッチリ来ることもないだろに。」

 そう言いながらも、彼、皆本光一の表情は先ほどまであった表情の剣がとれ、穏やかになっていた。

「わかった、5分で上がると伝えてくれ。」

 そうインターフォンに答えると、光一は端末を切って畳むと腕に抱え持ち、机の右手にある『専用エレベーター』に乗った。

 まだまだ始まったばかりの能力者と常人の共存。
 未だ火種を起こそうとするものは少なからず居る。
 光一自身も嘆息ものなのだが、重職である彼の安全の為、外部からの接触を減らす為にこの様な処置をとっている。

 彼が乗ったエレベーターは、上下の移動のプレッシャーもほとんど感じない「慣性制御」が施されている。
 彼の直属の上司が、光一の妻の懐妊を知った時に技術部に命じて「現代テクノロジー」と言う言葉を半ば無視して開発させた代物である。
 施設内はおろか、光一の家にある乗り物・エスカレーター(妊娠の報告をした直後、いきなり『職場』の工作班がやって来て改造していった)全てに設置されている。
 100%光一の子・・・というか、彼の妻の身を気遣っての強権発動(わがまま)の結果であった。

「・・・それに応えるうちの技術部もたいしたもんだけどなぁ・・・」

 本当の所、妊娠中は体調の変調からか『能力』が使えなくなっていた妻に取っては、少しでもストレスが軽くなってくれたのはありがたい事だった。


ポーン♪

 軽快なアラーム音と共にエレベーターの扉が開いた。
 ローター音が、ファンと共に巻き起こす風と一緒に光一に届く。

「お疲れ、光一♪」

 簡易とは言えパイロットスーツの厚手の生地の上に、メリハリのハッキリしたボディラインを浮き立たせた女性が、ヘルメットを片手に光一に微笑みかけた。

 皆本葵、当年24歳。
 ウェーブのかかった黒髪を風になびかせた、知性的な女性である。
 かつてのトレードマークの眼鏡は、今はもうしていない。
 もっとも、プライベートでは『落ち着かない』と言う事で、伊達メガネを愛用してる。

「わざわざ迎えありがとう。葵。」

 光一が彼女をそう呼ぶと、彼女のクールな表情が一瞬で女の子らしい微笑みに変わった。
 そして互いに自然な歩みで寄り添うと、軽い『キス』が交わされる。

「今日は『大事な日』やしな。さ、はよ帰ろ。みんな待っとるから。」

 そう言うと葵は光一の手を引き、自家用のジャイロジェットに引き込んでいく。
 その仕草はまるっきり、二人っきりになる遊園地の乗り物に誘う少女そのもの。
 普段、仕事でここに来てる彼女だけを知ってる人は面食らう事この上なかろう。

 ついでに言えば、このヘリポートも無人ではない。
 誘導員や整備員やらがこの成り行きを否応無く見せられているのだ。
 たとえ、彼らが整備の神に逆ろう事を願おうと、咎める者は居ない気がする。

 フィィィィィィーーーーーーーー

 10人も搭乗できる機体が、そうとは思えない静かな音を立て、ゆっくりと浮上した。

「ん?あれ、桐壺はんやない?」

 彼らの自家用ジャイロが3mほど浮上した時、ちょうど皆本が出て来たのと反対のエレベーターの扉が『自動』の筈なのに、『手』で開かれ、中から老年に差し掛かりながらも精力と筋肉に満ちあふれたおっさんが、どえらい勢いで飛び出してきたのだ。

 そして、

 その厳つい顔を目一杯に涙でくっしゃくしゃにして、こちらに呼びかけてるようだが、いかに高性能の静音のファンとは言え、コックピットのこちらにまで声は聞こえない。

「桐壺総務長官・・・」
「・・・なにゆうてんのやろ?」

 メインの能力が強力なテレポーターである葵は、テレパス能力には疎い。
 だが、彼女が知らない方面での付き合いが長い光一には、能力者でなくても、言ってる事が手に取る様にわかった。

「・・・葵。桐壺さんに手くらいふってやりなよ。」

 少しこめかみに痛みを感じながら光一がそう言うと、当然葵は「?」となった。

「なんで? うちあんたを迎えに来ただけやし。」
「わかってるよ。でも桐壺さん、久しぶりにおまえが来たのに自分に挨拶なしだったのがさみしいんだとおもうんだ。」
「もー、いつまでたっても子供みたいに。」

 ・・・と、かつて世界存亡のレベルで大人に苦労をかけた『子供たち』の一人だった葵は、嘆息しつつも眼下の桐壺に目をやった。

 ちゅっ

 葵の口元からそんな音がした。

 するとそれと同時に、桐壺が何かを感じたかの様に右の頬を両の手で押さえると、次の瞬間には暑苦しいまでの歓喜の声を上げるのが見えた。
 そしてその咆哮は恐るべき事に、二人が居るコクピット越しにも伝わって来る。

「あ、葵!? お、お前なにやった?」

 光一が焦りながら尋ねると、葵は頬をかきながらこう説明した。

「あは、投げキッスしたったんよ。『キスの感触』も桐壺さんに届けたった。」

 つまり、物質に生じた振動や分子の揺らぎ(熱量)等を狙った対象に移す“感触”のテレポーテーションである。
 強大ながら緻密なコントロールを持つ、彼女しかできない、形の無いモノの移動である。
 たとえばドライアイスから『冷たさをテレポートさせて』送った対象を凍らせる事も、今の彼女は可能なのである。
(ただしこれは本当にやったらいきなり常温状態になったドライアイスが一瞬で気化して爆発現象を起こしてしまうのでやらないが。)

「お、おい。それはちょっとやりすぎじゃ・・・」

 やや不機嫌そうな光一の声を聞いた葵は、少し楽しそうに笑うと言った。

「送ったった『感触』は、うちの履いとる『手袋が感じたやつ』や。うちの『唇』は伝えてへんよ♪」

 それを聞いて夫としてはホッとできたが、今度は逆に桐壺に同情を覚えてくる光一であった。
 葵の力の使い方はここに「ほぼ」全部が記録されているから、投げキスの仕草と同時に頬に暖かみを感じた桐壺は『間違いなく誤解した』だろう。

「・・・まあいいか、本人は喜んだみたいだし・・・。行こうか、葵。」
「了解(ラジャー)♪」

 滞空していたジャイロジェットは、今度こそポートから離脱していった。


 後に、ストロベリィな空気にタップリと当てられ、今は鬱陶しいおっさんの見るに耐えない歓喜のパフォーマンスを見せつけられてる不憫な職員たちを残して。


 東京から南下する事約20km。
 そこには住所はあるが地図にはない島が存在する。
 名前は誰がつけたか『源氏島』。
 外周9kmの小さな人工島である。
 地表部は完璧な生態系を有した自然に溢れた穏やかな島だ。
 しかしそれを支えるのは、通常兵器はおろか戦術核でも凹みを入れるのが精一杯の神鋼(かみはがね)と呼ばれる鉱石による装甲と骨格に覆われた、なぜか『高速巡航型の形態』を持った鋼鉄のかたまりである。
 機関部はないが、「あるレベルのテレキネシス」の所有者が決められたポジションに居れば、神鋼自体がそのエスパーの能力を感知・増幅する事で海上は疎か空中も、また地表の迷惑を考えなければ世界のいかなる潜水艦より深く、高速に潜航が可能となり、防御は前述した通り鉄壁。さらに攻撃能力に至っては同様の理由から操る能力の所有者によって攻撃力にもバリエーションにもまったく上限が無く、まさに「無敵の移動要塞」と化すのだ。

『バ○ル二世が乗ったら無敵じゃん!』

 と、のたもうて『アンタが言うな!』と突っ込まれた女の子も居たが、たしかにそれに頷いてしまえるほど、特種な戦闘を最大限にこなすために建造された代物なのは明らかなのである。

 だが、今はある一家の『にぎやかな家』としてその役目を負っていた。


 東京都源氏島
 皆本 某様


 それで配達物も届いたりもするのである。
 そしてそこの主である皆本光一は、3日ぶりに家へと帰って来たのだ。

「葵、みんなは変わりないかい?」
「ん? あんだけしょっちゅう電話入れとって心配?」

 そう言われて光一は苦笑いを浮かべる。

「いや、携帯のモニタの『外』がちょっときになってね。」

 彼のテレ=フォンのモニタに映る家族のみんなは、いつも変わりなく元気だった。
 が、ここのところ職場につめていた間、その後ろの家具が、半日前にかけた時と位置が・・・というか上下がぎゃくになってたり、白い筈の壁がモニタの端で微妙に黒茶っぽく見えてたりしてたのが、光一は気になった。
 さらに気になるのは、最初に電話に出るのがいつもの薫でなく、紫穂になってるという事であった。

「・・・やっぱ、気づかれるかぁ・・・・・」
「なんかあったのか? 薫に
「うん・・・まあ、正しく言うと薫だけやのうて・・・・・」

 ちゅどーーーーーーーーーーん!!

「「!?」」

 葵のしようとした説明を、一見に纏めたかの様に、島の中央付近、つまり彼らの家のあたりから「エネジータワー」が吹き上がった。
「エナジータワー」と言うのは、強大な能力者がパワーを『解放』した時に起こるエネルギーの上昇現象の事である。
 ふつー、別に横に広がってもいい様な気もするが、この現象は何故か「それが世の摂理」と言わんばかりに必ず天空へと向かうのである・・・不思議だ。

「なんだぁ! 種別:テレキネシス/能力レベル:5!!?」
「あーーー、また始めてしもたかー。光一、先に送るよって、なんとかしたって!」
「ちょ、ちょっと待て、葵! ちゃんと事情を・・・」
「それは紫穂か朧はんに聞いて! いくで!」

 ばしゅん!!

「うをっ!?」

 シートから伸ばされた葵の手が触れた途端、光一の視界は一瞬でかき変わっていた。


 トスン。

 3cmほど落下して光一が表れたのは、柔らかで真っ白なカーペットの上だった。

「あ、おかえり。光一。」

 そういって、ちいさな靴下を編む手を止めたのは、シックなクッションに座ったお腹の大きな物静かな女性だった。

「紫穂、あ、ああただいま。」

 光一はとりあえず靴を脱いで(二人ともこう言う状況には慣れてるようである)立ち上がると、間もなく臨月を迎える二人目の妻の元へと歩み寄ると、そっとキスを交わす。

「今日ね、この子『パパは?』なんて言ってきたのよ。あなたの気配、わかってるのね。」
「そっか・・・なかなか側に居てやれなくて、ごめんな?」

 光一は、そっと紫穂の大きなお腹をなでてやった。

「うふふ、喜んでる。ファザコンになっちゃわないといいけど・・・」

 女の子とわかってるので、いたずらっぽく笑う紫穂。
 それを聞いた光一も嬉しさ半分困った半分の笑顔を向けた・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「はっ!? ってゆーか、今それどこじゃないんじゃないのかー!!」

 うっかりしてたが、紫穂の部屋は身重の彼女の為に、外部からの影響のほとんどを遮断する様に出来ていた。
 もともと、小さかった頃の彼女たちの『能力実験室』の外壁の為に開発された技術の応用・発展させたものである。
 そのため外で爆弾の雨が降ろうとも、中は霧雨が屋根を打つほどしか部屋の中には響かないし音も無い。
 まー、逆に言えば、このくらいしとかないと、胎教に悪いではすまない状況になる事が多すぎるといえるのだが。
 葵が光一をここに送ったのも、確実に安全な場所だからだ。

「うん、いま薫ちゃんと光次郎ちゃんが親子ゲンカ中。」
「なにーっ!? げ、原因はなんなんだ!?」
「んー・・・たしか、今日のお料理にゴーヤ入れるか入れないかだったと・・・」
「・・・・・・それだけでこの騒ぎか・・・。」
「薫ちゃん、ゴーヤ苦手だもんねー。」
「イボがイヤやゆーて食べようとせんもんな。こーちゃんは好物やのに困ったもんや。」

 いつの間にか部屋に現れていた葵が、会話に混じって来た。

「それにしても、薫が光次郎相手にレベル5まで力使う必要があるのか!?」

 それほど嫌だったのか?ゴーヤが?

「あ、違うのよ。それは薫じゃなくて光次郎ちゃんの方。」

 ・・・・・・・

「・・・は?」
「だから、いま外で昔の薫よろしゅう念動振り回しとるん、こーちゃんの方なんよ。」
「なんだってーーーー!!」

 皆本家、光一の長男で薫の一人息子である皆本光次郎、御歳5歳。
 気の短い薫らしく、初夜からキッチリ十月十日で見事に産みおとした、容姿は薫似の男の子である。
 母の血を引き、幼い頃からサイコキネシスの片鱗を見せていたが、それでも潜在的にはともかく発動出来るのはまだレベル3くらいのものだった筈だ。
 それがいきなりレベル5と言うのである。

「・・・まずい。それがホントなら、光次郎の方がすぐ持たなくなるぞ!?」
「そーでもないの。この間からずーっと喧嘩の時はあの調子だけど、ぜんぜん平気なのよ。」
「なにぃ!?」
「それより早く止めないと、朧さんが危ないと思うの。」
「・・・なんだって?」
「逃げ遅れたみたい。今、カウンター=シェル使って避難してるみたいよ。」

 皆本朧

 皆本光一の最初の妻である女性だ。

 8年前。
 薫、葵、紫穂の光一に懐き慕い、信頼の心は、年を負う毎に異性への恋としてだけでなく、家族と言う絆をも含めた隔てのない「愛情」へと、確実にかわっていくのが目に見えて解った。
 それをかなり危険視した『某おっさん(当時)』の手により、三人娘が16歳の年に光一と朧の縁談が『急遽』組まれたのである。
 なんで彼女だったかと言えば、手近に適齢(過ぎ?)の女性職員が彼女しか居なかったからと言う、かなりいい加減かつ結構ひどい人選であった。
 二人とも、「三人を親離れさせるため」とか、「他人を見る目を狭めない為にも」と言う理由で、半ば偽装結婚と言う名目で見合いもどきをさせられたあげくに、ついには式にまで至ってしまったのである。


 ・・・・・


 が、


 結局、薫・葵・紫穂の3人はその2年後には皆本の元に来てしまった。
 彼の結婚を機にして起こった2年の間のその『騒ぎ』を、語る言葉を持つ者は少ない。
 光一が薫に銃を向けると言う、かつて見せられた予知と同じシーンが展開された事(なんかセリフは大幅に違ってたらしいが)もあった。
 そしてこの人工島はその騒ぎの最中に『何かの決戦用』に建造されたものなのは、まぎれも無い事実だ。
 いずれにしても、その騒ぎは世界をも震撼させ、「皆本家」と言う家庭の成立によりようやく収集を得る事となり、世界の誰一人としてその結末に異論を持たなかった。

 それだけが今に残る事実である。

「雛は?」

 朧との間に遅くに生まれた長女の事を聞くと、紫穂は自分のベッドに目をやった。
 そこですーすーと大人しく寝息をたてる黒髪の2歳児の姿にホッとすると、光一は「さて」とばかりに立ち上がった。
 スーツの上を脱ぎネクタイを外すと、差し出された葵の手に渡す。

「がんばってね、おとーさん♪」
「しっかりな。今夜はお楽しみやし♪」

 その言葉に苦笑いで応えると、光一は一呼吸入れてからドアを開けた!


グォーーーーーーーーーーーーーーーッ!


 そこはろくに制御の無い念動が振り回す、暴力的な空気の渦だった。

『こーゆーのが見慣れた光景ってのも、なかなかタフな人生おくってるよな、僕も・・・』

「くんくん・・・んー、そろそろ靴の脱臭シート取り替え時やな。」
「そーね、長官程じゃないけど、やっぱり男の人の足だもんね。」

 背中から聞こえる呑気な会話にやや気合いを削がれつつも、光一はその渦の中に飛び込んだ。

 紙や埃等に混じって外から巻き込まれた砂粒が光一の肌を打つ。
 幸いなのは『元々こーゆう事態に対処されてる家(?)』なので、家具その他はすでに壁や床に格納済みということである。
 さすがに階段は動かせないので、キシキシと軋みながらその制裁を受けていたが。
 光一はその影にピラミッド型のシールドに収まった朧の姿を見つけた。
 紫穂の話の様に、料理中に喧嘩が始まったせいだろう、エプロン姿のままで、スリットの様に裂けてしまったスカートから生足が色っぽく覗いていた。

「朧。ケガは?」
「あら、あなた。おかえりなさい。」

 そーいって、にっこり夫を迎える彼女も彼女で慣れたものであった。
 今も手に持ったリモコンのダイヤルで何かを微調整しながら話していた。

「・・・なにしてるの?」
「引っ込んだキッチンにまだシチューとローストターキーが乗ったままなのよ。だから火加減みてるの。便利ね、IH調理器って。」

 ・・・繰り返すようだが、この家は『最初からこーいう事態』に対処されている。
 当然それは家人も含めてである。

「はは、大丈夫そうだね。それで様子はどうなってる?」
「居間の方で膠着状態よ。薫ちゃん、あれで子煩悩だから。・・・止められそう?」
「光次郎がレベル5だからなぁ。ま、昔の薫よりはかわいいもんさ。なんとかするよ。その後は頼む。」
「もう、いつもそんな役させるからあの子たちに『お局様』とか言われてるのよ?わたし。」
「はは、すまん。僕だとあまり効き目ないからね。じゃ、行ってくる。」

 そう言うと光一は、ジョギングでも始めるかの様に、軽く息を整えると、突風が吹き込んでくる居間へと大きく踏み込んだ。


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


「まったく、久しぶりに帰ってみれば・・・」
「む〜・・・あたしじゃなくてコージロが・・・」

 光一が喧嘩を収めてからたっぷり30分、朧に説教された薫と光次郎は元の状態に戻ったリビングで、光一の両隣にそれぞれ座っていた。
 息子の加減知らずの攻撃で少しはれた頬に、薫が慎ましげに湿布を貼っていう珍しい光景付きである。

「光次郎? なんでママが好きな麻婆豆腐にゴーヤ入れたりしたんだ。お前だって大好きなカレーに嫌いなもの入れられたら嫌だろう?」

 シュンとしてうつむいてる息子に、光一は怒鳴らず、しかし厳しさを持った口調でたずねる。
 薫と良く似た容姿で父親似の性格からくる、「おしとやかな薫」を思わせるその様子は、彼の伯母や祖母には『大好評』だったりするのだが、それはそれとして。

「コージロ!! ほら、ママだって怒ってないから言いたい事があるならちゃんと言いな! な?」

 一見母親らしく言ってるが、腕の白いE-C(ESP-カウント)ブレスレットはカウンターの『10個』あるランプがすでに3つ目まで点灯していた。
 薫としちゃあ、抑えてる方だが、一個が最大に輝くまででも3段階あるランプが3つも光ってる様では、まだ腹の中は煮えくり返ってるんだろう。
 ちなみにこのブレスレットには、彼女たちの能力を強制的に押さえつける機能はない。
 今、自分がどれだけ力を出しているかの単なる目安で、力の制御は今は彼女たち自身が行ってる。

「薫ぅ。もうちょい穏便に言うたったら? ハッキリ言うてまだ恐いで?」
「葵はだまってろ! クリームコロッケに納豆かけられた時お前も怒りまくってたろーがっ!! 」
「あんな事されたら誰かて怒るわーっ!!」

 葵が薫の目を外してくれたのを見て、光一は改めて光次郎にゆっくりと尋ねた。

「光次郎? ママに意地悪したくてあんなことしたのか?」

 すると光次郎は俯いたままブンブンと頭を振った。

「ならちゃんと理由があるんだ。それを言ってごらん?」

 光一がそう言うと、光次郎は少し涙声でぽつりと答えた。

「・・・母ちゃんが、いってたから」
「私が?」

 義理の息子の言葉に、『母ちゃん』こと朧が驚いて料理の続きの手を止めた。
 ちなみに葵は「かあさん」で。紫穂は「おかあさん」である。

「うん、『好きなごはんにきらいなもの入れたら、食べられるようになる』・・・って。」
「・・・そうか、つまりおまえはママにゴーヤが好きになってほしかったから、あんな事したわけか。」

 理由を話せて気持ちが軽くなったのか、ようやく半べそをかいた顔を光一に向けた光次郎はコクンとうなづいた。

 けなげな理由であった。

 たしかに自分が好きなものなのに、母親がそれをあからさまに嫌って見せてるのは、子供から見ると自分が母親に嫌われてるのに近いものを感じるものである。
 まして薫の事であるから、嫌うリアクションもかなり露骨なものだったろう。

「薫ちゃん。」

 紫穂が葵と互いの襟首を引き合ってる薫に言った。

「結局のところ、光次郎ちゃんはママの事好きなのよ。」
「え・・・」

 そう言われて照れたのか嬉しかったのか、薫の頬は一瞬に朱に染まった。

「だから、ここはおかーさんらしく、光次郎ちゃんの気持ちに答えてあげましょうよ。」
「え゛・・・・・・」

 すると薫の顔色は今度はサーーーッと青色に変わる。
 それが面白かったのか、紫穂の膝の上で雛がキャッキャと手を叩いた。

「ちょ、ちょっと待てー! い、いくらなんでも麻婆豆腐作ってる途中にゴーヤ放り込んだよーな物、食えるわけがねーだろ!?」
「あら、平気よ。」

 と、薫の抗議をサラリと流したのは朧である。

「まだお肉炒めてる途中だったからまだ味付けはしてなかったの。だから大丈夫♪ ちゃーんと作り直せるわよ、『ゴーヤの麻婆豆腐』に。レシピだってちゃんとあるのよ?」
「ゲーーーーーーーーーーーーーッ?」
「そやから、いっぺん食べてみ。嫌いなんは皮のボコボコだけやろ? 味は絶対薫向きやおもうで?」
「っていうか、むしろ『薫ちゃん専用』?」
「う、ううううううう」

 何かボコボコにトラウマがあるのかもしれないが、ともかく薫が「折れた」のを見て、光一は光次郎と薫を抱き寄せ、向かいあわせた。

「さ、ともかく喧嘩はどっちも悪い。二人とも『ごめんなさい』しなさい。」

 優しい光一の声に、光次郎と、そして薫は頬を染めコクンと頷いた。
 その横では、葵と紫穂の二人がそれを見ながら、


 必死に笑いをこらえていた。


 昔、自分らが喧嘩した後によくやらされたこの光景を、この歳でまた見る事になるとは思ってなかったからだ。

「そこー! 笑ってんじゃなーい!!」

 真っ赤っかで突っ込む薫の腕を、ツンとまだまだ小さな手引っ張った。

「ママ・・・ごめんなさい・・・」
「・・・コージロ・・・」

 素直に謝る息子の顔は、自分に似つつも夫の面影を持つ。
 その息子の瞳を潤ませた愛らしい謝罪は、薫のなかなか着火しにくい母性をいっぺんに『爆発炎上』させた。

「いーんだいーんだ、気にすんな! お前はわるくない! ママが悪かった! だからな? ゴーヤだってなんだってたべてやる! アタシも好きになってやる!! だから光次郎がそんな顔すんな! しなくていい!」

 そう言って光次郎をぎゅーっと抱きしめる薫を見て、光一たちはやれやれと一件落着に肩をすくめた。


と、その時である。


 コツーン


 光次郎のボロボロのズボンのポケットに空いた穴から、綺麗な青い銀の結晶が落ちたのである。

「あら、これ・・・?」
「って、これ『神鋼(かみはがね)』の欠片やないの!?」
「そーか、これを持ってたから、レベル5なんて力だして平気だったのね。光次郎ちゃんは普通に力使ってるだけで、これが力を上げてただけなんだもの・・・でもなんだって、こんなのを光次郎ちゃんが・・・?」

 不思議に思った紫穂は、それに久しぶりに自分の能力、サイコメトリーを発動させてみた。

「・・・ねえ、光一。」
「ん?」
「コレ、三日前に薫の服にくっ付いててこぼれたのを、光次郎ちゃんが綺麗だったから宝物にもってたみたいよ。」
「なんだって?」

 それを聞いて光一の笑顔が固まり、それが聞こえた薫の顔が硬直した。

「・・・・・どー言う事だ? 薫。」
「え? いや、別に・・・はははー! 変だなー? 一体何処でこんなのくっつけてたんだろーなー??」
「ごまかすんじゃない! またどっかでこっそりフルパワー奮って憂さ晴らしでもしたんだろ! 何処を壊したんだ!」
「えーえーとー??」
「この島は『神鋼(かみはがね)』の骨格構造がそのまま、島を動かしたりする制御回路の役回りもしてるって言ったろ! 壊した場所によっちゃ、なんかの弾みで島が暴走してもおかしくないんだぞ!」

 光一の剣幕に、薫は開き直った様に言い返した。

「だ、だってさっ! あの日せっかく『コレからだーっ』って時に桐壺のじーちゃん呼び出しかけやがってさ! あげく次の日の昼まで待機させといて、結局警察だけでなんとかしちまったじゃないかー!」
「いや、それは職務としてしょうがないだろ」
「待ってる間、あのうっすいウェットスーツみたいな制服の上から乳やら尻やら見せ物みたいにじろじろ見られるし、その後、直で光一も本部に引きこもりになっちゃうしさ・・・・・・・この怒り、何処にぶつけりゃよかったんだよー!!」

「「「「少なくとも自分ちを壊すのに使うな!!」」」」

「う〜〜〜」

 他のメンツ全員から突っ込まれては、薫も黙るしか無かった。

「ふう・・・とにかく、今から薫が壊した所を見てくるよ。ほら、連れてってくれ、薫。」
「わかったよ・・・・・・あ、ってことはぁ、二人っきりでだよな♪」
「あのな、おまえ、ホント反省したのか?」
「したした♪」

 そういって、形よくおおきく膨らんだ胸を光一の腕に押し付けながら去って行く薫たちを見送ると、残った大人三人はふう・・・っとおおきく溜息をついた。

「ほんと、薫ちゃんっていろんな意味で変わんないわね。」
「うふふ。でも十分お母さんらしくなったわよ・・・ちょっと親ばかっぽいけどね。」

 もっとも薫の親ばかは、娘を溺愛してる父親の図から、性別が逆転しただけなのが困りものだが。
 そして、見慣れた言い合いしながら二人が出て行ったドアを見ながら、葵は軽くため息をついて言った。

「そやけど、光一もせっかく自分の誕生日や言うのに大変やな・・・。
 戻って来たら、盛大に祝ったらんとな♪
 ・・・・・あ、その前にお風呂用意しといたらんと。
 こーちゃんも埃だらけやし、光一らも帰ってくるまでちょっと時間かかりそうやしな。」


 ※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※☆※


 そしてまた、一つの刻が彼らに刻まれていく。
 それは時には『痛み』、時には『喜び』と言う名で彼らに刻み込まれ、彼らを育てて来た。
 そして明日も彼らに刻は刻まれていく。
 それが刻むのは『苦しみ』か『嬉しさ』か。
 それとも『悲しみ』か『愛しさ』か。

 まだ誰にもわからない。

 しかし、彼らは今日までもそれを刻み付けて『今』の笑顔を手に入れた。

 願わくば、

 これからの刻も、


 彼らのこの笑顔の糧とならんことを


 ただ、祈らん。


わはははは、ごーやがなんぼのもんじゃーい!
「ママ、ママ、のみすぎしちゃだめ」
「結局薫ちゃん一人で食べちゃったわねぇ、ゴーヤ料理。」
「ん? そ、おいしい? よかったわね」
「えーなー、紫穂。お腹の子と話せて・・・な、光一ぃ、うちの誕生日には赤ちゃんちょうだいな♪」
「お、おいおい葵、おまえも酔ってるだろ。」
「パパー、ひな、おとうとがいいー。」
「あー、ぼくも弟がいいー」
「満場一致ー! うふふ、今日からがんばろなー(はーと)
「おいー!(汗)」


 ま、大丈夫だろう。


 おしまい


※☆あとがき兼おわび☆※
 えーと、まず最初にファンの方に深く謝罪させていただきます。
 実は私は「絶対可憐チルドレン」は現在の連載を含む週刊少年サンデー掲載の分しか読んでません(汗)。
 それも立ち読みのみで、手元にも本編はありません(大汗)。
 初期の『絶チル』の掲載誌が近所の本屋に入らなかった事と、今の連載分も単行本になってから読む時に先の話のイメージを割り込ませたくないと思って深読みしない様本誌も買ってません。
 なので、詳細に関しては「大間違いがあったらごめんなさい」というしかありませんです。はい。

 でも、それで何故書いたのかといいますと・・・
 今号に登場した光源氏計画のおっさんに、こういうお話を捧げたくなってしまいました・・・

 あと、神鋼(かみはがね)の人工島などのオリジナル設定は、この先にGSのアシュタロス大戦並みの深刻な事件まで起こるかもしれないと思い、その事件の『名残』とする為に作りました。
 こういうのが嫌いな方にも、お詫びしておきます。
 ごめんなさい。

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