<小竜姫>
暇です。すっっっっっっっっっっっごい暇です。なぜなら忠夫くんが修学旅行に行ってしまったからです。学校に入っている間も寂しくて堪らないというのに、二日間丸々いないなんて……。このままでは私は寂しくて死んじゃいます。って私はウサギですか。
いつもならこんなちゃんすを逃さず、忠夫くんの布団の温もりを堪能したり、忠夫くんアルバムのしーでぃーろむへの移し変えをしたりするのですが、今はそんな気分じゃなれません。最近ヒャクメに教えてもらったぱそこんのめーるの確認でもしましょうか。
おや、母上からめーるが来てますね。なんでしょうか?
『久しぶりですね、小竜姫。最近神界に帰ってくることが少ないから少し寂しいわ。近いうちに帰ってきたらどう?』
そういえばここ十数年、連絡は取り合っていますが神界に帰った覚えがありませんね。ごめんなさい母上。いつか近いうちに帰りますから。
『そうそう、忠夫くんは元気にしていますか? 送ってくれた写真、とても大事にしていますよ。そうだ、今度神界に帰ってくる時は忠夫くんも一緒にどう? ええ、是非とも! ちゃんと竜神王には話を通していますし、忠夫くんの専用の部屋も用意してあります。そうよ、是非ともいらっしゃい! むしろあなたは帰ってこなくても大丈夫! 忠夫くんがいればそれで十分だから。ちなみに忠夫くんの部屋は私の寝室の隣よ。そう、昔のあなたの部屋だったけど、もうしばらく使ってなかったから壊しちゃった。てへっ。というわけで忠夫くんを神界に連れてきてね。大丈夫よ、準備は万端だから。ちゃんと久しぶりに下界へ買い物にいって薬屋でコンドー……』
このメールをごみ箱にいれますか?
→はい。
いいえ。
さて、次のめーるはと。会員ナンバー0110からですね。……おや、幻の忠夫くんアルバム初代版の復刻願いですか。それも無修正版。欲しがるのも無理はありませんが……あまり人には見せたくありませんね。あれを持っているのは神魔の最高指導者だけですし。そもそもあれは老師に勝手に持っていかれましたものですし。仕方ありません、断りのめーるを送っておきましょう。
えー次は……。
あら、門の方から人の気配がします。鬼門と戦っていた感じがしないので、お客様でしょうか?
「おキヌさーん、今ちょっと手が放せないので出てくれませんかー!」
しーん。
あら、おキヌさんは留守ですか? そういえば今は外でお布団を干している時間帯ですね。仕方ありません、私が出ましょうか。少し早歩きで早速門に向かいました。
「ようこそ、妙神山へ。私はここの管理人の……あら、あなたたちは」
「お久しぶりですね、小竜姫様」
「初めまして〜。いつも忠夫くんには〜家の娘が世話になってます〜」
そこにはまだ若いのに髪が後退しかけている神父と、人畜無害な顔をしながら裏で何を考えているのか分からない策士がいました。
妙神山のただおくん〜修学旅行へ行こう!〜
<忠夫>
「ほら、よこっちの番やで」
「むむっ」
僕はなっちゃんの持つカードから、一つを選ぶ。なっちゃんは顔色を隠すのがとても上手い。
「これだっ! ……あっ?」
ババだ。何で僕はこういう時に霊感が働かないんだろ?
「よこっちババ引いたな」
銀ちゃんが面白そうに笑う。えっ、何で分かるの?
「何で分かったの、って顔しとるな。よこっちは顔に出やすいからすぐ分かるんやで?」
「うんうん」
周りの女子たちもすごい頷いている。ちょっとショック……。
今日は修学旅行。銀ちゃんやなっちゃん、雪乃丞も一緒。妙神山のみんなと会えないのは少し寂しいけど、学校のみんなといるのも楽しい。行き先は京都で二泊三日。今は新幹線の中でみんなでトランプしてるんだ。ただのトランプだけど、みんな初めての修学旅行でテンションが上がっているのか、とっても盛り上がっている。
結局ババ抜きに五連敗した僕は、不貞腐れてお菓子を食べることにした。
「もう、だからババ抜きなんていやだっ……て……」
カバンを開けた僕の目に、ここにいるはずのないものが映っていた。いや、冗談でしょう?
僕は目をごしごしと擦り、もう一度中を見る。
「ぽりぽり」
中にはここにいるはずのない子狐さんが、お菓子をかじっていた。
「ん? どしたんやよこっち?」
カバンを開けて固まっていた僕を不審に思った銀ちゃんが聞いてくる。まずい、どうしよう。
「あ、ちょっとトイレに入ってくるね。みんなはここで遊んでててよ」
「あ、それなら俺も行くわ。行こうでよこっち」
銀ちゃんも立とうしてくる。や、やばい。ここでばれたらややこしくなる。
「あ、ごめん。僕ちょっと一人で行ってくるから!」
僕は逃げるようにそこから立ち去ると、個人トイレの中に入った。
「振られたな、銀一」
「なっ、違う! 俺はそんな気持ちで誘ったんやないんやー!」
「ごまかすなごまかすな。みんな知ってるぜ。知ってるか? 最近の女子の中で流行っている、この学年でもっともくっついて欲しいカップル第一位は横島×銀一なんだぜ」
「嘘やー! そんな嘘やー!」
<タマモ>
「何しているのかな、タマモちゃん?」
「あらお兄様こそ。可愛い妹君を置いてどこに行く気かしら?」
ヨコシマは似合わない引きつった笑みを浮かべていたが、やがて大きなため息を吐いた。
「タマモ、たった二泊三日なんだからいい子にしてるよう言っただろう?」
「ヨコシマこそ何言ってるのよ。この私が京都の油揚げを食べるチャンスを逃すはずないでしょう?」
これはまあ、半分本当で半分嘘。妙神山にいるのも学校にいるのも楽しいけど、安らげるのはヨコシマの頭の上が一番だからね。もちろん油揚げも食べたいけど。
それに最近小竜姫の様子がおかしい。そう、可愛い弟への萌え心家族愛から、一人の男を見るような……。おキヌちゃんなんか全く気付いてないから勘違いかとも思ったが、私の妖狐の勘がそれは正しいと思っている。
それはまずい。なにせ私はヨコシマと過ごした時間は小竜姫のそれと比べてあまりにも少ない。学校が一緒とはいえ学年が違うし、帰る時間も変わる。結局普通に学校に行っているだけでは大したアドバンテージにはならないのだ。
だからこそ、今回の修学旅行とやらはそのアドバンテージを取れるチャンスなのだ!
「ああ、もう。タマモの油揚げ好きを舐めていたよ……」
「ふふん。日本中の、いえ世界中の油揚げを食べ尽くすまで、私の挑戦は終わらないわ!」
まったく何も気付いてないのね。でもその方が落としがいがあるわ。
「でもどうしよう。今更帰す訳にはいかないし、かといって一緒に行くなんて先生が許可するはずがないし……」
「大丈夫よ」
「へっ?」
ヨコシマがちょっとテンパってる。最近少し男らしくなったと思っていたけど、今のはちょっと可愛いかも。
「取り合えず先生のところに連れて行ってよ」
それから渋るヨコシマを何とか説得して、ヨコシマの担任の席へ行く。
「先生、実は……」
ヨコシマが事情を話している内に、私は幻術を使う。今回は幻術とはいってもどちらかというと催眠術に近い。
私はヨコシマの担任にとある言葉を念じる。
あなたロリコン。あなたはロリコン。小さい女の子の頼みは断れない。あなたはロリコン。あなたはロリコン。小さい女の子が側にいると嬉しくなる、あなたはロリコン。あなたは……
「うむ、分かった。それならお前の妹も一緒に行こう!」
「ええ!? いいんですか!?」
「何を言うか、お前はこんな可愛い妹を一人で東京に帰すというのか!? 非国民か貴様! 小さい女の子は国の宝だぞ! タマモちゃん万歳!」
……ちょっと効きすぎたかしら? ヨコシマも引いているし。元々ロリコンの素養があったのかしら? まあ、いいか。
「というわけでよろしくね、お・に・い・さ・ま」
ヨコシマは今日一番のため息を盛大についた。
<小竜姫>
「ほら見てください、これ。これは忠夫くんが初めてお使いに行った時の写真なんですよ。妙神山のみんなで見つからないように後を追って、老師なんか忠夫くんを攫おうとしていたごく潰しを如意棒で月まで吹っ飛ばしていましたし、ヒャクメなんか周囲を常に見張って目薬三本消費していましたし。まあ、かくいう私も変装して常に迷わないように影から忠夫くんを導いたりしていましたが」
「まあ〜、少しおどおどしてて可愛いわ〜」
ふふふ、当然です。
「次のこれはですね、幼稚園に入園した時の写真なんですよ。とっても緊張してて中々私の服の裾を放そうとはしなかったんです。まあ、私も中々放せなかったですが。それでですね、次は……」
「あー、小竜姫様。忠夫君のアルバムを見るのもよいですが、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか? 六道夫人も」
あ、そういえば何か話があるんでしたね。すっかり忘れていました。
「そういえば、忠夫君はどうしていますか?」
「ああ、忠夫くんは今日から修学旅行なんですよ」
「おや、そうなんですか。久しぶりに会いたかったのですが……」
唐巣さんは忠夫くんのお父さんの大樹さんが以前協力してもらっていたGSで、今でも時々妙神山に様子を見に来ます。忠夫くんもとっても懐いて年に数回だが来るのをとても楽しみにしています。
「そうですか〜忠夫くんにも用があったんですけど〜それじゃあ仕方ないわね〜」
忠夫くんのお友達の冥子さん。そのお母さんが忠夫くんに用とは一体なんでしょう?
「実はですね〜」
その内容は私にとって驚くべき、そして悩むべきものでした。
続く
あとがき
修学旅行編、始まります。とはいっても今回大したことは起こりませんけど。今回はtomo様や孔明様のご希望に沿って修学旅行を入れました。本当は修学旅行編はもう一つ案があったんですがそれは中学生編に持ち越しとなったので、小学生編ではやらないつもりだったんですが、よく考えたら何一つ小学校の行事をやっていないと思い、作りました。運動会とどっちにしようか迷ったんですが、せっかく皆さんの案があったので使わせてもらいました。
さて、今回六道夫人が小竜姫に接触。まあ、勘がいい人は彼女が何をしようとしているか分かると思いますが。で、昨日読み返して思ったんですが、美神さんが姿どころか名前すら出てません。 いや、別にアンチとかじゃないですよ? 原作の中盤から後半にかけてのツンデレっぷりは大好きですし。ただどう登場させようか結構迷ってるんですよね。確か原作では美神さんは六道女学院に行ってなかったと思いますが(かなりうろ覚え)、もしかしたら行くかもしれません。そうすれば多分出しやすいので。まあ、その時は納得行く理由を考えますが。
ではこの辺で。
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