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▽レス始

「妙神山のただおくん15(GS)」

のりまさ (2005-10-14 00:25/2005-10-14 01:03)
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<忠夫>
「横島ぁ! 今日こそ決着をつけてやるぜ!」


「えー? 明日にしない? 今日は妹とお揚げを買いに行く約束をしてるんだけど……」


「駄目だ! 今日の調整は完璧なんだ。今日こそ俺はお前に勝つ!」


 放課後にいきり立って僕に話しかけてきたのはクラスメイトの伊達雪乃丞。マザコンで有名な自称僕のライバル。背は僕より低いけど釣り目でちょっと目つきが悪い。


「さあ、俺のプテラノXが今日こそお前に打ち勝つ! 勝負だ、東方のペガサス!」


「その呼び方止めてよ……ダテ・ザ・キラー……」


 僕と雪乃丞はミニ四駆の大会で出会って僕が打ち負かしてからずっとライバル視されてる。正直ちょっと面倒くさいけど、とってもストレートな奴だからあんまり嫌いじゃないかも。


「分かったよ、じゃあ校門で待ってて」


「おう、遅れんなよ!」


<タマモ>
「どういうことか、しっかり説明してくれるかしら? お・に・い・さ・ま?」


「だから〜雪乃丞の奴と遊ぶ約束を無理やりされてさ〜。悪いけど先に帰ってくれる?」


 何よそれ! 今日は私と名店お揚げ巡りに行く予定だったんじゃないの!? 大体誰よ雪乃丞って!


「ごめんな〜。明日はきっとお揚げ食べに行こうな」


「私は今日という日を楽しみにしていたのよ? お揚げが私の世界を満たす日を! ……そう、つまりお兄ちゃんは妹よりも友達との約束を取るんだ? そーなんだ。私が可愛くないんだ? ま、私は小竜姫みたいに家事も出来ないし? おキヌちゃんみたいに料理も出来ないけど?」


 本当はヨコシマと二人でいられるから楽しみにしてたんだけど。もちろんお揚げも大好きだけど、家だと一時間に一回は暴走する小竜姫や、天然にいい雰囲気を壊すおキヌちゃんとかのせいで中々二人っきりになれないのよね。


「そんなことないよ〜。お願いだから許してくれ〜」


 ヨコシマが涙目で訴えてくるが、そっぽ向いて無視。私は小竜姫と違ってそんな顔しても許したりしなわよ!


 いや、別にそっぽを向いたのはその顔を見続けたらなんでも許してしまいそうだったからじゃないわよ? 別にちょっぴり顔がにやけてしまったからそれを見られたくなかったからじゃないわよ?


「仕方ないわね。じゃあ、私も一緒に連れてってよ」


「えっ、タマモを? 別にいいけど、大してタマモには面白くないと思うよ」


「いいの。お兄ちゃんの趣味にも興味あるし、どうせこれから暇だし」


 それに、私の計画をおじゃんにしてくれた奴の顔にも興味があるしね!


「お、来たか横島。うん、そのガキ誰だ?」


「妹のタマモだよ。タマモ、こっちはクラスメイトの伊達雪乃丞」


 少しちびっこい三白眼の男が私を訝しげに見てきた。私はあらん限りの憎しみを込めて睨み返した。


「なあ、俺なんかえらく嫌われてないか?」


「僕の約束を破らせたことで怒ってんだよ……。それより勝負するなら早く行こう」


「おう、そうだな。……あっ、家にプテラノX忘れてきちまった。取りに帰るからちょっと待っててくれるか?」


 こいつ、これ以上私とヨコシマの時間を取る気か! 幻術を使って街中で全裸で盆踊りさせようかと一瞬思ったが、これでも一応ヨコシマの友達だということを思い出して踏み止めた。


「そんなことしてたら帰るのが遅くなるわよ。私たちも一緒に行けばいいじゃない」


「それもそうだが……」


「ああ、そうだね。そうしようよ」


 ? ヨコシマはずいぶんと嬉しいそうね。まあいいわ。早く行って早く帰りましょう。


<忠夫>
 雪乃丞の家に行くのは久しぶりだ。実は結構嬉しい。なぜなら……。


「おかえり雪乃丞。あら、横島クンいらっしゃい」


「ただいま、ママ」


「おじゃまします、おばさん」


 僕がそう言うと、おばさんは少しむっとして


「横島クン? おばさんは止めてって言ったでしょ? それとも私はもうそんな歳に見えるかしら?」


 僕の頭を小突いた。全然痛くないけど。
おばさんの空気はとっても優しくて、側にいると嬉しい。長めの髪がふわりと揺れるといい匂いがする。その匂いを嗅ぐと僕は胸が少しどきりとする。


 ん? タマモがなんか不機嫌そうな顔をしているな。どうしたんだろ?


「あら、可愛い子ね。横島クンその子は?」


「あっ、こっちは僕の妹でタマモっていいます。タマモ、この人は雪乃丞のお母さんだよ」


「よろしくね、タマモちゃん」


「……うん」


 おばさんが朗らかに笑うと、タマモの悪そうだった機嫌が治まっていた。おばさんの笑顔は気持ちいいからね。


「おい横島。いつまでママと話してんだよ。さっさと勝負を着けるぞ」


 ちぇっ、雪乃丞が呼んでる。そういやマザコンだったからね。


「あら、男同士で遊ぶならタマモちゃんこっちに来ない? 私娘も欲しかったから、色々用意してた分があるのよ。タマモちゃん可愛いからきっと似合うわよ」


「そ、そうかな?」


「行ってきたら? どうせこっちは見ていても暇だし」


「う、うん……」


 おばさんはタマモを連れて行くと奥に戻っていった。タマモもきっとおばさんを気に入ったと思う。人見知りの激しいタマモが初対面のおばさんに素直についていったことからもそれは明らかだ。


「おい、横島! こっちは用意は済んだぞ」


 ようし、僕もおばさんともっと話したりしたいし、さっさと返り討ちにしてやるぞ。


<タマモ>
「きゃー、やっぱりタマモちゃんは着映えがするわねー。元がいいからかしら。横島クンも結構服が映えるほうだし、顔は余り似てないけど、案外そっくりさんな兄妹ね」


 色々な服を着せられて辟易していたが、そんなに嫌じゃない。この人は、いい人。横島もとっても暖かいけど、この人はそれとは全く違う次元で暖かい。


 そうか、この人は母親なんだ。母親が持つ優しさを持ってて、全く失っていない人なんだ。
 横島の優しさが支えてくれる、癒してくれる優しさなら、この人は全てを包み込んでくれる、元気にしてくれる優しさなんだ。


 私は母親はいないけど、いたとしたらこんな感じなのかな。最初ヨコシマがこの人にでれっとしてて嫌だったけど、今はそんなに嫌じゃない。


「タマモちゃん、次はこの服ねー」


 ああ、小竜姫やおキヌちゃん、おじいちゃんも優しかったけど、この人はまた違う優しさを持ってる。嬉しいな。ヨコシマたち以外でこんな気持ちにさしてくれる人たちはいなかった。この人なら正体を明かしてもきっと受け入れてくれるんだろうな。


「もう、少しは休ましてよ」


 だから少し甘えた言葉も出たりする。


 だけど……。


「おば……さん?」


 そこには、包丁を振りかざす悪鬼がいた。


<忠夫>
「きゃああああああ!」


 タマモの悲鳴!? 


「何があったんだ!? ママは!?」


 僕と雪乃丞が同時に駆ける。可愛い妹と大好きなおばさんの危機だ。自然と足が速くなる。
 襖を開けると、そこには……


「ママ!? 何をしてるんだよ!」


 腕から血を流しているタマモが、おばさんに首を掴まれていた。その右手には、血塗られた包丁。つまり、おばさんが、刺した。

 違う、おばさんはあんな顔をしない。人を傷つけてあんな顔をしない。


「ぐっ、あっ、雪乃丞……、よこし……くん、逃げ……が! くっ、この女以外と霊力が高いな、抵抗しやがって」


 急に明らかなほど声質が変わる。よく見ればおばさんの身体から瘴気が出ている。


「ママ! どうしちゃったんだよ!?」


「雪乃丞! 無駄だよ、今おばさんは何かに憑かれてる! 操られてるんだ!」


 しかも、かなり強いタイプだ。以前戦った悪霊も強かったが、今回はそれ以上。あの時も冥子ちゃんがいなければ危なかったというのに。


「ひゃはっ! そのとーりぃ! この女はこれで僕のものぉ!」


 おばさんの身体が高笑いする。その顔でそんな顔をするな。
 駄目だ。冷静にならなきゃ。今すぐタマモを助けて、おばさんを取り戻したい衝動に負けそうになるが、それを無理やり抑える。


「くそっ、ママを返せ!」


 雪乃丞がおばさんに向かう。しまった! あいつの性格ならこうするって分かっていたのに!


 がっ!


 雪乃丞の拳はおばさんの身体から僅かに出ていた悪霊にヒットする。ダメージはなかったようだが、当てることが出来たということは、雪乃丞の拳に霊力が集まっていたということ。雪乃丞には霊能力者の才能があるのか?


「ははっ、無駄無駄ぁ!」


 霊力が硬質化したおばさんの手が雪乃丞を振り払う。これはまさか……。


「姉ちゃんに聞いたことがある。それはまさか、魔装術か?」


「そのとーりぃ! 魔装術は悪魔と契約してその力を纏うことで自身を強化する術! 私は純粋な悪魔ではないが、その力はすでにそれに近いぃ! ゆえにこのようなことも可能ぅ!」


 硬質化した霊力がおばさんの全身に覆いさる。確かに理論はその通りだ。でも……。


「そんな簡単に操っている人の身体で、しかも素人の身体で魔装術が使えるはずは……、まさかお前は!?」


「そのとーりぃ! 僕の生前はGSさぁ!」


 高笑いしながら悪霊はタマモは床に投げ飛ばした。


「タマモ!」


「わ、私は大丈夫……。それよりおばさんが……! ヨコシマ、前!」


 目の前にはいつの間に距離を詰めたのか、悪霊が拳を振り上げていた。僕は咄嗟にガードするが圧倒的なパワーに吹き飛ばされる。
 生前の霊力が高いほど悪霊化した時の力が上がる。生前にGSだったというなら、最低でも一般人以上の霊力はあっただろう。しかも人間の霊力の使い方をよく分かっている。


「ぐっ……」


 痛い。苦い血の味が口の中に広がる。


「僕はねえ、こういう気の強い女を屈服させるのがだーい好きなんだぁ! 僕は強いGSだったのに、女は見向きもしてくれなかった。僕はこんなにも強いのにさぁ! 僕を振るんだよぉ? 許せないじゃないか、こんなに強い僕を振るなんてぇ! だから無理やり乗り移って、精神を屈服させるのさぁ! 女のくせに調子に乗ってさぁ!」


 なんて自分勝手! だがこいつが強いの事実。僕は最大級のサイキック・ソーサーを手の中に作ると、ノーモーションで投げつける。


 バシュッ!


 だが僕の最大の霊力を込めたサイキック・ソーサーは簡単に捕らえられ、そのまま握り潰される。


「くっ!」


「ん、お前も霊能力者か? そういやさっきも僕の正体見破ってたしな。でも僕に適わないなぁ! それにしても、さっきの小僧といい、お前といい、生意気なガキが多いな。僕はな、そういうガキも大嫌いなんだよぉ!」


 悪霊は僕の身体を掴みと、反動をつけて壁に叩き付けた。痛い、背骨が軋む。


「ヨコシマ!」


 でもこんなの痛くなんてない。


 信頼し始めていたおばさんに切られたタマモの傷に比べたら。


 大好きなママに殴られた雪乃丞に比べれば。


 そして、瞳の中で悲しみに満ちている、おばさんに比べれば!


 こんな痛みがなんだっていうんだ!


「うん、まだ立ち上がるのかい、サンドバッグくん? だがね、子供は子供らしくぅ、大人の言うとおりにしてればいいんだよぉ!」


 最大級の霊力がこもった拳が僕の頬に直撃する。
 僕の身体はゴムマリのように吹き飛んだ。かろうじて受身を取ったがそれでどうにかなるレベルじゃない。


 駄目なのか? 所詮いつもお姉ちゃんたちに助けられている僕じゃ? 妹も、友人も、大好きな人も僕は守れないのか?


 ……頑張ったよね、僕。


 そうさ、僕は頑張ったよ。でも僕はもう立てない。もう動けないんだ。だから……。


 ごめんなさい。


 声が聞こえた。


 ごめんなさい雪乃丞。


 ごめんなさいタマモちゃん。


 ……ごめんなさい横島クン。


 何を考えてたんだ僕は?


 諦めてた? 諦めたらタマモが死ぬのに? 雪乃丞が死ぬのに? おばさんが死ぬのに?


 いなくなるのに?


 僕は、僕は……!


「ん、また立ち上がってぇ! いい加減……」


「僕は、守られてばかりだった。おじいちゃん、ヒャクメ姉ちゃん、なっちゃん、銀ちゃん、キヌ姉ちゃん、そして小竜姉ちゃんにおばさん。弱いから、僕は」


「あんだとぅ!?」


だから。


「でも! 今回は僕が、いや違う! 俺が皆を守る! お前は、俺が倒す!」


 その時、右手に作っていたサイキック・ソーサーが淡く輝いた。


妙神山の横島忠夫〜忠夫の戦い 男の戦い〜


 続く

あとがき
 シリアスです。なんとなく気分がシリアスだったのでシリアスになりました。まあ、最近壊れ表記ばかりだったので偶にはね。ちょっと熱血も入ってますが。
 さて忠夫のピンチに小竜姫は何をやっているのかとお思いの方も居ますでしょうが、ちょっと秘密です。次回には理由が分かりますが。
 うーむ。今回最後の方、ちょっとかっこつけすぎたかなあ。
 ちなみに忠夫の雪乃丞ママに対する想いは母へのそれです。それに微妙な慕情が混じった初恋と呼ぶにはあまりにも淡すぎる、でも決して弱くはない想いです。どんなに優しくされたって小竜姫やおキヌちゃんでは母性という面では雪乃丞ママの比ではなく、それゆえ忠夫は彼女にあこがれもしました。
 さて明日の更新は予告通り休むことになりそうです。ですから多分が明後日までお待ちください。その分朝から投稿できると思いますので。

 ではこの辺で。

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