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私は人間が嫌いだ。それは特に理由はない。あるとしたらただ人間が嫌いだという感情が私の中にあり、強いて言えばというよりもそれしか理由がない。
人間は弱い。
だから人間は醜く、
人間は裏切り、
故に汚い。
だからといって今の私に人間をどうこうしようという気はない。そもそも産まれたばかりの私には人間の子供と同等の力しか持っていない。
だから、ただ平和に暮らせればそれでいい。
だが、人間はそれすら私から奪い取る。
「お~い、かなり弱ってきたんじゃねえ?」
私は何もしてないのに!
「大丈夫だって、野生の動物は強いってなんかテレビで言ってたし」
ただ平和に暮らしていたいだけなのに!
「尻尾が九本もあるなんて面白いよな~。本物かな。引っ張ったらちぎれんじゃね?」
どうして私から奪う!
こいつらは私がどういう存在か知らないだろう。ただ、面白いから虐げているだけだ。そこには記憶に微かに残るかつて私を追った人間たちのような憎しみや怒り、恐れはないのだろう。だがそれゆえにこいつらは残酷だ。自分がやっていることでどうなるかなど考えてもいない。
力さえあれば、前世の力さえ……。
「狐さん、大丈夫!?」
意識が消える瞬間、少し遠くで、とても優しい声が聞こえた気がした。
妙神山のただおくん~小学生のただおくん きつねさんといっしょ~
<忠夫>
「なにしとんや、あんたら!」
なっちゃんが怒気を孕ませて、さっきまでこの狐さんをぼろぼろにしていた張本人たちに言う。
「な、夏子……。別に悪さしてたわけじゃないさ。ただ珍しい狐がいたから遊んでいただけで……なあ?」
「そ、そうだそうだ!」
いじめっ子たちが口を揃えているが、なっちゃんの怒気は納まらない。なっちゃんが弱い者いじめが嫌いなことは学年でも有名だから、クラスは違うといってもこのいじめっ子たちが知らないはずがない。
それに暴走時にコンクリを素手で破壊したり、ローキックで電柱をへし折ったという伝説は有名だからね。
「狐さん……ひどい怪我だ」
「こりゃひどいなあ。死んだりはしないやろうけど、このままほっといたら他の動物に襲われるかもしれんし」
後ろから僕の手の中にいる狐さんを覗き込んだ銀ちゃんが僕に同意する。
狐さんは所々に血が滲み、息も荒らそうにしている。
可哀想……。自然と涙が出そうになる。
「あんたらなあ、こんなことしてどうなるか分かっとんやろうな……」
「ど、どうなるっていうんだよ……」
「あんまこんなことばっかしとったらなあ……よこっちが泣くで!?」
ぐすん。少しずつ涙が出てくる。僕はこんな酷いことをしたいじめっ子たちを涙で滲ませながら睨んだ。
「くっ、やめろ! そんな瞳で俺を見ないでくれ! すごい、とっても罪悪感が湧くじゃないか!」
「分かった! 俺たちが悪かった! だからそんな顔で睨まないでくれ! な、泣かないでくれ!」
「ぐすっ……じゃあもう狐さんは苛めない?」
「ああ、もう二度と苛めないから! だからそんな涙目で俺を睨まないでくれー! 俺に別世界への扉を開かそうとしないでくれー!」
そう言っていじめっ子たちは帰っていった。頬が少し紅潮していたのはなんでだろう?
「まったく、遠足でまでろくでもない奴らやの。それでその狐はどうなんや?」
「分かんない。とりあえず先生に見せてくるよ」
そう言って狐さんを抱いて行こうとした僕を、なっちゃんが止める。
「待ちいな、よこっち。先生に見せてもちょっと応急処置するだけでこの狐そのままここに置いていかれるで? この辺野生動物結構多いし、そんなしたらあっという間に死んでしまうで」
「じゃあ、どうしよう?」
「そや、小竜姫なら治せるんちゃうか?」
確かに小竜姉ちゃんはヒーリングができるから治せると思うけど、今日は僕たちは遠足で他県まで来てる。そんなすぐに来れるわけないし、何より連絡手段がない。
僕がそう言おうとする前に、なっちゃんが大きく口を開いた。
「あー! よこっちが泣かされとるー!」
響くような大声でなっちゃんが叫んだ。いくらなんでもそれで妙神山まで届くわけが……
「10、9、8、7、6、5、4、3,2,1……0!」
「どこのクソ野郎ですか、私の忠夫くんを泣かせるのは!?」
十秒で来ちゃったよ……。てっいうかなんで聞こえたの!? そもそもここまでどうやって十秒で!?
そんなことを聞こうとしたけど、口を開く前に小竜姉ちゃんがマシンガンのようにしゃべる。
「ああ、忠夫さん、目が赤いです! そんなに泣いて! 誰に、一体誰に泣かされたんですか!?」
僕はあまりの小竜姉ちゃんの必死さに、ついつい、さっきいじめっ子たちが逃げて行った方向を指してしまった。
「そうですか。くくくっ、逃がしませんよ。ちょうど神剣の手入れをしていたところですしね。久しぶりに切れ味と血の吸い具合を試して見ましょう。ふっふっふっ、一体誰に手を出してしまったのか、せいぜい思い知らせてやります!」
そう言って、お姉ちゃんは目にも見えない速さで駆けていく。
「ちょっ、お姉さんは確か横島の……」
「俺たちが別に横島になにかしたけじゃ……」
「黙れ!」
「「ええ!? 理由も聞いてくれない!?」」
「そして聞けぇ! 我が名は妙神山が小竜姫! 私は忠夫くんを守る剣なり! 忠夫くんを泣かせる奴は、我が神剣の錆にしてくれる!」
「ちょっ、せめて理由ぐらいって……あ、あああああああああああ、ぐぎゃー!」
「我に裁けぬもの無し!」
いじめっ子たちにちょびっと同情しておいた。
「ま、待って……。俺は別に……」
「そうですか。まだ足りないのですね。では、お望みどおり、塵一つ残さず消滅させてあげます!」
「そ、それはまさか姉弟愛連結システム!? それだけは止め……」
「あなたの話など聞いてません! 姉弟愛連結システムの力を解放します!」
「「……ウ、ウヴォアー!」」
「ふっふっふ、はーはっはっはっはぁ!」
遠くで光の柱が見えた。
もう少し同情するべきかもしれないと思った。
「これは、妖狐ですね。それもかなり高位な」
正気に戻った小竜姫姉ちゃんが狐さんをヒーリングしながら呟いた。
「もしかしたら場所が場所だけに、金毛白面九尾の狐かも……」
「なにそれ?」
小竜姉ちゃんは少し考えた後、首を横に振った。
「いえ、まだ忠夫くんが知る必要はありません。今から老師に確認してみようかと思いますし、私の思い過ごしかもしれません」
小竜姉ちゃんは珍しく真剣な顔をしている。いや、本当はいつも真剣なのかもしれないけど。
「そのきんもーなんたらだったら、その狐さんどうなるの?」
もしかしたら退治されたりするのだろうか? それはあまりに可哀想だ。見たところまだ赤ちゃんなのにこんなにぼろぼろにされて、その上殺されちゃうなんて……。
「だ、大丈夫ですよ忠夫さん! この妖孤は絶対に悪いようにはしないですから! ええ、そりゃもう、神族小竜姫の名に懸けて! だからそんな泣きそうな顔をしないでください!」
小竜姉ちゃんは頬を染めながらそう言ってくれた。
結局小竜姉ちゃんが先に妙神山に狐さんを連れて行くことになった。僕たちは遠足の途中だったから、その後もう少ししてからバスで帰った。
「なあ、よこっち……」
帰りのバスの中、隣の席の銀ちゃんが僕に話しかけてきた。
「なあに、銀ちゃん?」
「お願いやから、さっきみたいな泣きそうな顔はあんませんでくれ」
「? なんで?」
銀ちゃんは少し顔を逸らした。
「俺は野菜好きになりたくない。俺は俺でいたい……」
銀ちゃん野菜嫌いだったっけ?
続く
あとがき
ちょっと短め&遅めの更新になりました。実は今、トルネコ2(PSのやつ)にはまってさっきまでずっとやってました。満腹度が0の時にパンが見つからず、草を食べて空腹をしのいで、やっとのことでリレミトの巻物が見かり帰ってきました。うむ、はまったらやめれないな。
あ、ところで前回アンケート無しでレスが30越えしたのはとても嬉しいんですが、いくつか気になるところがありました。???の人は確かにいくつかはデミアンですが、全部ではありません。見直してもらうと分かると思いますが、いくつかは巨乳な蛇さんです。
さて狐さんが出てきましたが、これは原作より早く出てきたので少し若めになりますかも。この時期まだ生まれてねえんじゃねえの? とは言わないでください。
ではこの辺で。
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