注)これは四話から六話の時期の話になります。
<老師>
やれやれ、今日もまた最高指導者からの呼び出しか。どうせ例のものの催促じゃろうが……。今日は早く帰って忠夫とゲームをしたいんじゃがのお。
「お待たせしました」
「よっ、久しぶりやな」
神魔の最高指導者がやっとのことで出て来おった。二人がこんなにも仲が良いと知ったらみんなはどう思うかの? まあ大半は信じないか、聞かなかったふりをするじゃろうが。
「まったく老人を待たせおって……。まず今月の妙神山の……」
「ああ、それはいいんですよ」
「そや、本命は……わかっとるんやろ?」
サっちゃんが時代劇の悪代官のような口調で言う。わしはやれやれとため息をつくと、
「ほれ、これじゃろ?」
『小竜姫特製 忠夫くん秘蔵お宝写真集 NO・41~50 無修正版』というラベルの付いたフロッピーを二人に渡した。
妙神山のただおくん~番外編 魔猿と魔神~
「大変じゃったんじゃぞ。小竜姫の目を盗んで写真を焼き増しし、ヒャクメに編集を頼むのは」
まったく、秘蔵写真は小竜姫が上手く隠しておるから見つけにくいんじゃんがな。なにせヒャクメでも見つけられないというのじゃから。あの馬鹿弟子はいらんことばかりに精を出す。まあ、わしから見れば行動パターンは昔から変わっとらんから見つけること自体はそうそう難しくないがの。
だがそこに仕掛けてあるトラップが厄介じゃ。見つけてもそれを取ろうとしたら上から神族の処刑に使うギロチンが落ちてくるわ、対上級神魔族用の五十万マイトの結界が発生するわ、他にもまだまだあったが……思い出すだけでも恐ろしいわい。
……というかあやつあんな物騒なものをどこで入手したんじゃ!? あれだけあれば一人で神界を半分は破壊できるぞ!? というかクーデターでも起こす気か!? あの装備があれば人数揃えば成功しちゃうぞ!?
「お~これはこれは……なかなか際どいですね」
「おう、これ見いやキーやん! すごいで!」
「う~む。今夜のオカズに良いものを貰いました」
「まったくや。御飯三杯はいけるで!」
大騒ぎする馬鹿二人。この光景を見せたら世界の宗教戦争は半分ぐらい減るかもしれん。
「いやいや、まったく。あの子の引き取りを許可して正解でしたね」
「そうやな。反対派に毒盛った甲斐があったというもんや」
これが最高指導者でいいのじゃろうか、世界は?
「お主ら……一応こっちのファイルが本命ということを忘れとるんじゃないのか?」
わしは懐から数枚のレポートを取り出した。そこには『横島忠夫観察記録』という字が浮かんでいる。……観察か、いやな響きじゃ。とはいえこれを毎月提出することで反対派を黙らせたのじゃから仕方ない。
「はっはっは。忘れていませんよ」
「まったくや! 失礼なやっちゃ!」
ならなぜに大量の汗をかいておるのじゃ?
わしの渡したレポートを二人はパラパラと見て、
「ふむ、特に問題はないようですね」
「しかしそれならなんで、わしんとこの誰かとは思うがそいつは忠夫くんを狙っとるやろ?」
「さあの」
わしは一つだけレポートに書いてないことがある。
『横島忠夫は文殊使いになる可能性がある』ということを。
文殊は完全に純粋な霊力の塊。故に後から指向性をもたらすことができる。故に使い手もそれと同じくらい(善くも悪くも)純粋なものでなくては文殊は作れん。
神族では唯一人から神となった道真が使えるが、それも奴が悪しき部分を切り離し純粋な善の霊力を持っていたからこそ。
文殊はそこまで霊力が純粋でなければ作ることはできない。だから普通は神族にも魔族にも、ましてや不純の塊のような人間には作れるわけがない。
だが忠夫は違った。いくら幼児といえども、あの子は魂が純粋すぎる。あまりにも。忠夫ならもしかしたら文殊を再現できるかもしれない。
勿論それはかなり低い可能性じゃ。ただ可能性が他よりも高いだけ。それだけで魔族が狙うとは思えんし、大体いくら『どんな魔族も滅ぼせる』と伝えられておっても扱うのが人間なら限界はある。文殊使いは魔族にとって脅威かもしれんがそれだけで上級魔族が動くとは思えん。そもそも『文殊使いの可能性』がそんな赤ん坊の頃に分かるはずがない。
やはり他にも理由があるのじゃろうか?
『文殊使いの可能性』は当分報告しないことにした。一部の強硬派が、忠夫が妙神山が保護しておることを理由に忠夫を監禁するかもしれん。……文殊製造機として。
文殊一つで魔族を滅ぼせるわけではないが、それでもその利便性は神族にとってはかなりの戦力になる。最高指導者たちに教えてもそれをわざわざ強硬派に教えるとは思わんが、情報というのはどこから漏れるか分からんからな。
「ご苦労さまでした。下がっていいですよ」
「来月もまた頼むで?」
「生きてたらの」
小竜姫のトラップを考えるとあまり冗談には聞こえないことを言いながら、わしは部屋を出た。
「う~ん。こんな芸術的な可愛さを私たちだけで独占するのは心が痛みますね」
「あ、それなら焼き増ししたってえな。最近ずっと地中に潜って研究ばかりしとる奴がおるんや。いい気晴らしになるやろ」
<アシュタロス>
私は死ねない存在だ。高位の魔神という存在のために、仮に死んでも必ず蘇るように私は世界に設定されている。私はそれを『魂の牢獄』と呼んでいる。
そしてその存在理由ゆえ、他者を踏みにじり続け、負け続けなければならない。
なぜだ!? なぜ世界はこのような設定を作ったのだ!? 私は納得できない。世界が私にそのような設定を作ったというのなら、私が世界を作り変えてやる。存在理由や役割などそんなものない、真に正しい世界へと! そして必ずしや『魂の牢獄』から抜け出してみせる!
だがもしそれができないのならば、願わくわ、私に……完全なる消滅を……。
「アシュタロスさまー。最高指導者から届きものが来ましたよ」
考えに耽っていた私に、土偶羅の声が響く。
「やつらからだと……? いったいなんだ?」
「さあ~、なにやらデータフロッピーみたいですが」
包装紙を破り、中身を取り出す。それは『小竜姫特製 忠夫くん秘蔵お宝写真集 NO・41~50 無修正版』と書かれたフロッピーだった。
なんだこれは? 何かの暗号か?
私はとりあえず、それをパソコンに入れて開いてみた。ウィルスはないらしい。
ふむ、どうやら本当にタダの写真集のようだな。しかしこれに一体なんの意味が……
「ぶはっ!」
な、なんだこれは! これが人の赤ん坊の可愛さだというのか!? いや、普通の赤ん坊がこれほどの可愛さをほこるはずがない。くそ! 萌える!
なぜだ!? この魔神すらを驚愕させる可愛さは一体どこから来るのだ!?
そうか! これはポーズと仕種だ! この写真の子はこちらを萌えさせる仕種をとてもナチュラルに、ごく普通に出せるからか!
ほ、欲しい! この子はぜひ我が子に!
もはや『魂の牢獄』からの脱出などどうでもいい! いや待てよ? 『魂の牢獄』に囚われていた方が永遠にこの子を愛でられて都合がいいのではないか?
はっはっはっ! 魂の牢獄ばんざーい!
だがどうやって彼と接触を持とうか? 妙神山に保護されているらしいが、魔族の私はおいそれと近づけないし……。
いや、よく考えれば今の主流はデタント。私ほどの魔神が妙神山に行くのはさすがに難しいが、もう少し神格が低いものなら……そうだ、デタントのテストケースとして私の娘たちを行かせればいいのだ! そしてもし娘たちが彼と結婚すれば、正式に彼は私の息子となる!
よし、そうなれば早速娘を作ろう。彼の好みが分からないから三種類ぐらい作ろうか。
まずは本命用の長女はどうしようか……? そういえば妙神山の管理人は貧乳なことで有名だったな。育ての親がそうなら忠夫君もそうかもしれん。よし、長女は貧乳に決まりだ!。それに髪は短めで、可愛らしさを前面に出すような顔な感じにしよう。そして性格は惚れたら一直線な安定型だ。やはり本命。
次は次女だな。もしかしたら育ての親とは逆にボインボインを好むようになるかもしれん。長女と全く逆のタイプにしよう。胸は大きめでスタイル抜群、髪も腰まで届くくらいの長髪。性格も最初はあまり好意を見せないが、徐々に甘えてくるツンデレにしよう。こういうのははまれば一気にはまる。長女の対抗馬だな。
最後は三女。彼の周りには年上の女性が大目で、年下はあまりいないらしい。それなら妹や弟を欲しがっているかもしれん。よし、三女は妹属性だ! それも元気がはじけんくらいに有り余る、王道的妹だ! 元気っ子には髪が短めが合うから、長女と同じか少し長いぐらいにしとくか。これはその手の人には堪らないだろうな。案外ダークホースになるかもしれん。
くっくっくっ。娘たちが産まれるのが楽しみだ。
そういえば『魂の牢獄』とデタントは、私が憎んだものの一つなのに、今はこれほど私に味方してくれとはな!
「ビバ! 魂の牢獄! デタント、フォゥー!」
私は嬉しさのあまりに腰が抜けるまで腰を動かし続けた。
<???>
ふざけるなふざけるなふざけるな! 何が「可愛いからこの子狙うのやめー!」だ! 私がどんな想いでこの時代にいるのか分かってんのか!?
ふ~ふ~ふ~。
待てよ、よく考えればボスは当分動けない。そうだ、今の内に横島忠夫を殺してやる。今度こそだ。妙神山に保護されているとはいえ、少しぐらい隙は見せるはずだ。
見てろよ、横島忠夫。必ず私が貴様を殺してやる。
このデミアンがな!
続く
あとがき
数あるGS美神の逆行でも恐らくこいつの逆行は初めてだと思います。なんとデミアンの逆行です。なぜこいつが生きてて、どうやって過去に戻ったかはまだ明かしませんが(いや、大した理由じゃないですし)、彼は戻ってきました。別にハエ野郎でもよかったんですが、それではあまりにも小物過ぎるだろうということでデミアンにしました(実はワルキューレに名前も分からないまま殺されたあの魔族にしようという案もあったんですが)。
さて、本来なら大ボスのアシュタロスですが、完膚なきまでに壊れました。
「ついカッとなってやった。今では後悔している」とは言いませんが、明らかにあの人が入っちゃってます。テレビ見てれば分かると思いますが。
次は本編に戻ります。三姉妹はいつだそうかな~。美神が出る前に三姉妹が出るかも……。
ではこの辺で。
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