「お前の方こそ、ついて来やがれーー!」
ヨコシマが関西人としてネタを返しつつ、右手に霊気の盾をつくりだす。私のサポートは何も必要なかった。成長してくれてうれしいわ。
伊達さんはまず1歩後ろに飛び退き、その後いきなり魔装術を展開した。陰念さんを瞬殺したからやっぱり警戒されてるわね。
「虚弱で母親に甘えていた俺が、こんなにカッコ良く強く逞しくなれたのは、霊力に目覚め、それを鍛え抜いて来たからだ……!!」
肉食獣のようにギラリと眼を光らせ、
「貴様はどことなく俺に似ている! 行くぜっ、楽しませてくれよっ!?」
「俺はそんな病んだ心持ってねぇ! 一緒にすな!」
『ヨコシマはマザコンじゃないわよーーっ!!』
しかし伊達さんは私達の突っ込みをスルーして跳躍し、そのまま空中に静止して霊波砲を撃つ態勢に入った。
――空中!?
いけない、これじゃいくらヨコシマが素早くても伊達さんの頭を掴むのは無理だわ。
迂闊だった。魔装状態の伊達さんは宙に浮かぶ事ができたのだ。ピートさんとの試合で見ていたのに失念してたなんて。
どうする? 盾を投げて戦うのはダメね。確かに破壊力はあるけど伊達さんは1枚や2枚では倒せないわ。ヨコシマが成長したとはいえ、『前』のようにエネルギーを溜めてない今の私達ではそう何枚もはつくれない。それで麻酔を使う事にしたんだから。
ヨコシマもそれに気づいて、
「バンダナ、どうするんだ? これじゃどう頑張っても頭なんて掴めねーぞ!?」
その言葉に私はとっさに頭を切り替え、
『とりあえず攻撃を凌ぐわ。まず体を半身にして。霊波砲を全部防ぐ必要はないわ、かわせる分は足で移動してかわして! 伊達さんだって霊力に限界がある筈だから』
失策はしたけどこんな指示をすぐ出せる辺り、私も心眼になったことでレベルアップした面があるのかしらね。
ボウッ!
伊達さんが撃った大型の霊波弾がヨコシマに迫る。
『来るわっ! よく見て!』
「……おうっ!」
ドオーーーンッ!!
ヨコシマが右手の盾で防いだ霊波弾が派手な音を立てて爆発した。爆煙が広がってお互いの視界を奪う。
「……」
私達は第2撃を警戒したけど、向こうも反撃を警戒しているのか撃って来ない。実はその余力はないんだけど。
やがて煙が晴れてくると、不審顔の伊達さんが元の場所で私達を見据えていた。
「無事なのに反撃して来ないのか? あの盾を投げて来ると思ったんだが……」
「……」
私とヨコシマも上空の伊達さんを無言で見つめ返す。
「試してみるか」
と、伊達さんが今度は小さめの霊波弾を発射した。
しかしこれはあまりに直線的な攻撃だ。ヨコシマは私の指示通り、横に跳んでよけた。それを見た伊達さんが得心した様子で、
「なるほど、攻撃せず防御に徹する気だな。ピートとの戦いで俺が消耗してることも計算に入れての作戦ってわけか……?」
内情までは読まれてないけど、ちょっと危なくなってきたかしら……。
「ならば俺を甘く見すぎだ! 俺の連続霊波砲、全部よけ切れるか!?」
伊達さんが間合いを詰めてくる。それも盾を投げられても反応できる程度まで。これじゃあ……!
「食らえーーーっ!!」
『ヨコシマ、左手の盾も出して!』
ヨコシマがすかさず2枚目の盾を出して構える、そこに伊達さんが言葉通りに両手から霊波弾を乱射してきた!!
ドドドドドッ……ガン、キンッ、ビシッ、バキィ!
もの凄い勢いだ、それをヨコシマは持ち前の反射神経で両手の盾をフルに使って防ぎ続ける。
「うわわーーーーーっっ!!」
ヨコシマが絶叫する、確かにこれじゃ長く続きそうもない。でもそれは伊達さんだって同じはず、根比べよ……!
ドドッ、ガッ、キィン!
――――そしてやっぱり実力の差は否めないのか、先に力尽きたのはヨコシマの方だった。
「も、もうもたん。に、2、3発だけでも怪光線出して助けてくれーーっ!!」
と、本当に悲痛な表情で懇願してくる。何しろ今のヨコシマは全身の霊力を両手の盾に集中しているから、こんな強力な霊波弾を1発でも食らったら大ダメージになる状態なのだ。
――ごめんヨコシマ。私がけしかけなかったらそんな思いさせずに済んだのに。でも今引くわけにはいかないの。おまえのためにも。
『それはダメ、それをやったら勝つ方法がなくなる……!』
「そっ、そんなっ……!?」
『お願い、ヨコシマ。今は耐えて、がんばって……お願い!!!』
「……!」
私も必死だったけど、それを聞いたヨコシマの表情が急に引き締まった。
『?』
「バンダナとはいえ女の子にそこまで言われちゃしゃあねーな。……やったるぜ!!」
『ヨコシマ……!』
身体があったら泣いてたかも知れない。幽霊ですらない私を、煩悩魔人のヨコシマが女の子と認めてくれて、さっきまで悲鳴あげてたのに『また』私のために戦うと言ってくれたのだ。うれしかった。このまま身代わりになってもいいって思ったけど、でも、だからこそ――――死ねない。
……いえ、その心配はなかった。だって、彼はワイルド・カードなのだから。
ヨコシマは体をふっと沈めると爆煙にまぎれて横に跳び、そのまま迂回して伊達さんの後ろに回り込んだのだ。その動きはまるでゴキブリかクモのようで――美神さんのように華麗でもなく、伊達さんのようにパワフルでもなかったけど――なんて、速い。
正面上方に伊達さんの背中が見えた。
「どっせーい!」
ヨコシマが右手の盾を投げる。それは狙いあやまたず、装甲の薄い腰の辺りに命中した!
ずがぁっ!
「うぐっ……!?」
「『やった!』」
背後からの不意打ちをまともに受けて、伊達さんが床に墜落した。座り込んでいるその頭を掴もうと、ヨコシマが異様な速さで襲い掛かる。
『待って、ヨコシマ、油断しないで……!』
その注意は一瞬遅かった。ヨコシマの右手が伊達さんの頭に届くのと同時に、彼の左手から霊波砲が放たれたのだ。
「「があっ!!」」
2人の声が重なる。今の攻防でのヨコシマのダメージは霊的に無防備な状態の肩口に受けた霊波弾、伊達さんのダメージはさっきの盾と墜落の衝撃、そして少しだけ届いた私の麻酔。
でも相打ちじゃない……!
『ヨ、ヨコシマ! いけない、気を失ってる……!!』
ヨコシマは床に倒れはしなかったものの、その状態で気絶してしまったのだ。一方伊達さんは両手を床についてるけど意識はある。
もともとこの試合でヨコシマがある程度怪我をする事は覚悟していたけどこれは危ない。せめて倒れてくれれば審判がもう負けってことで止めてくれるでしょうけど、立ったままでは伊達さんが回復したら次の攻撃をまともに食らってしまうわ。
念話程度では起きそうにない。こうなったら以前ヨコシマがパピリオの鱗粉を受けたときみたいに、彼の精神にダイブして刺激を与えるしかないわ。
バシュッ! ヒュウゥゥ……。
――――うまく行ったみたいね。目をつぶったときの暗闇のような風景に続いて、何かの景色が見えてきた。あ、今気づいたけどここではちゃんと体があるわ。心の中だからイメージがそのまま出現するってことね。
『こ、これは……!?』
あの時は美神さんが出てくる夢を見たけど、今見えてるのはそれとは全く違うものだった。
これはヨコシマの心のカタチ、彼の心象風景そのもの。
そう、そこで私が見たのは……
ヨコシマの知る限りの美人が丘を埋め尽くす桃源郷――――
その名も『無限の煩悩』というひとつの世界だった。
『……って、何なのよコレはぁ!!!!』
私の本日3度目の咆哮が轟きわたって世界を揺るがす。
――――待って、落ち着くのよルシオラ。今はそれどころじゃないわ。ヨコシマの煩悩が常識外れなのは先刻承知のことじゃない。これがヨコシマの霊力源なんだし、今は彼を起こすことが最優先よ。でも肝心のヨコシマの姿が見えないわね、どこにいるのかしら。
あ、もしかしたら文珠のエネルギー源もここなのかも知れないわね。300マイトの霊力を物質化して溜め込むなんて人間業じゃないもの。
それにしても……何で私がここにいないの? 美神さんもおキヌちゃんも小竜姫さんも六道さんも小笠原さんもメドーサまでいるってのに。まだ姿見せてないからでは?
――――いや違う。私が気づかないうちに『私』は現れていた。ちゃんと私と同じ姿で、同じ蛍魔として。他の女性達と同じように、主のいない丘の上を所在なさげにうろついている。
……え? 同じ蛍魔として?
そのとき私の脳裏に閃くものがあった。おそらくは人類の集合無意識に繋がっているだろうこの『世界』に満ちる不可解なほどのエネルギー、そして本来の身体と能力を持つ『私』。これならヨコシマを助けられるかも知れない。
私は急降下して『私』の腕をがっしと掴む。驚いてこちらに顔を向けた『私』を無視して、そのままダイブから戻ることで、『私』を現実の世界に引っ張り上げる――――
お願い、出てきて……!
そして意識が戻ったとき。
私は、元の私と寸分違わない姿でヨコシマの前に立っていた。
今の私のこの身体は、ヨコシマが認識した私の存在が彼の世界、つまり無限の煩悩が生み出す、いえ生み出し得るエネルギーで実体化したものだ。魔装術とか文珠『模』に近い現象ね。霊力は文珠の3分の1、100マイトくらいかしら。
残念ながら、これで本当に身体ができたとは言えないけれど。
ぶっつけ本番でいきなりやったせいか存在自体が不安定ですぐに消えてしまいそうだから。
でもこの試合の間だけなら。
ヨコシマからもらった力、無駄にはしないわ!
「いくわよマザコン王。
――――霊力の貯蔵は十分かしら?」
……流れ的にはこの台詞ヨコシマの役目なんだけどね。
「なっ、何なのよあれ!?」
ミカ・レイさんが仰天しているのが見えた。まあ当然ね、昨日まで全くの素人だったヨコシマが、心眼(私)の助けの上とはいえ一瞬で伊達さんに匹敵するパワーを持った霊的存在を出現させたのだから。
さすが私のヨコシマ!
最初の作戦では特殊な能力は控えめにする方針だったけど、こうなったらもう仕方ないわね。ヨコシマを守るためだもの。
「何ですかあれは! 心眼がやったのですか!?」
「魔装術……? しかし体の外に!?」
「横島クン!? 君は一体何を……」
「よ、横島さん!?」
「――あれは何なワケ!?」
「横島サン!? 幻覚じゃあないですノー!?」
「あれ〜〜横島クンも〜〜式神〜〜持ってたの〜〜?」
「あいつ……!?」
声は聞こえないけど、小竜姫さんとメドーサ、それにヨコシマの知り合い達も同様に驚いているみたいだ。これでヨコシマを見直してくれるかしらね。
で、ようやく立ち上がった伊達さんはと言うと。
「面白ぇ、こんな隠し玉まで持ってやがったとはな。貴様、横島の式神か何かか?」
むしろ歓喜に震えた凶悪な顔つきで尋ねてくる。ヨコシマも言ってたけどほんとにバトルジャンキーね。恋人だと答えたかったけど、この身体はそう長くは持たないからあえて返事はしなかった。
……ちなみに今はバンダナとこの身体の両方に意識があるけど、身体が消えたら元のバンダナだけに戻りそうね。身体の方の意識は分身みたいな感じだし、消えてもダメージはなさそうだから安心して戦えるわ。
「まぁいい、いくぜ! 受けてみやがれ!」
伊達さんが両手を突き出し、最初にやったように連続で霊波砲を撃ち出してきた。かわすこともできるけど、まだ朦朧としているヨコシマが後ろにいる以上その選択はないわ。
おまえは私が守る――――
おまえのおかげで覚えた技で!!
ロ ー ア イ ア ス ?
「恋人守る七つの円冠!!」
真名を唱えると同時に(?)左手を前に出し、その掌の先に霊気の盾をつくりだす。形状はヨコシマのそれと同じだけど直径が1m近くある大きなものだ。
ガガガガガガガッ!!
このサイズなら受けるのは簡単ね。しかし伊達さんもさる者、私があっさり攻撃をはじくのを見てすぐに無駄弾を撃つのを止めた。
「ちっ、奴と同じ技をパワーアップさせてるのか……!」
彼もダメージが大きいらしく息が荒い。そのせいか次の攻撃をどうしようかと考える刹那に動きが止まった。
今だわ!
私は盾を出したまま、一息に間合いを詰める。
「何っ!?」
いきなり正面から接近してくるとは思っていなかったのだろう、伊達さんが反応したときはもう遅かった。
だっと踏み込み、右拳を突き出しつつ足首から腰、肩から手首に至る迄の関節を捻って加速を焦点に集中する――――
コークスクリューパンチ
「偽・螺旋拳!!」
がしぃぃっ!!
私の一撃は狙い通り伊達さんの胸板にまともに当たって吹っ飛ばした。スピードは全力だったけど霊力は手加減したから致命傷にはならないでしょう。
「な、嘘……」
「す、すごいです横島さん!!」
これで終わりね。まだ信じられない様子のミカ・レイさんと素直に感動しているおキヌちゃんの姿が対照的だった。
――と、そちらに気を取られた隙に伊達さんは膝をつきながらだが起き上がってきていた。今度は私が魔装術の防御力を甘く見ていたみたいね。
もはや通じないと分かった霊波砲は撃とうともせず、決死の面持ちで突進してくる。速い!
「今度はこっちの番だぜ!」
「くっ!」
私はとっさに盾を体の前に戻して防御の姿勢をとった。しかし伊達さんは前進を止めず、自らの拳を盾に思い切り叩きつける!
ガンッ!
「え!?」
これの硬さは彼もよく分かっているはず。いくら霊気をこめていても、無茶をすれば手の方がいかれてしまうわ。
でもそこで、伊達さんは再び私の予想をこえた。
オラオラオラオラオラオラオラ
「突きの連打ァーーーーッ!!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!
伊達さんは狂戦士と化したかのごとく、ただひたすらに盾を殴り続ける。
この状況では私も攻撃に転じることはできない。でもこんなことを長時間続けられる筈もないし、彼の攻勢が尽きるのを待つことにした。
と、
ピシィッ!
信じられない。私がつくった七枚羽(?)の盾にひびが入り始めているなんて。やっぱり真性のバトルジャンキーね。
それに勢いづいた伊達さんがさらにペースを速める。
ガンガンガンガンガンガン!!
「へっ、もう少しで壊れるな。いくぜ!!」
確かにその通りだわ。でもそんな単純なやり方じゃ、やっぱり私……いえ、私達にはかなわない。
ブロークン・アシュタロス
「壊れたアシュ様」
私は右手を盾にそえて念を送り――爆発させる。投げて使うときのように。
もちろんこちらには及ばないように制御して、ね。ヨコシマには当分無理だけど。
どがーん!!
伊達さんは今度こそ場外まで吹っ飛んで動かなくなった。
――――これは使えそうね。
そう頻繁にやれることじゃないけどヨコシマがピンチのときには力になれるし、私達が成長して文珠も加えれば完全な身体がつくれるかも知れない。
光明が見えてきたわ!
待っててねヨコシマ! 絶対身体をつくり出してみせるから!!
…………
……
ヴヴヴ……ジジッ。
試合が終わって気が抜けたのか、私の『身体』がぶれていく。ヨコシマはまだ復活しないけどそろそろ限界だわ。消える前に、
「ヨコシマ、お疲れさま……ありがとう」
と、意識があるのか無いのか分からないヨコシマの体をそっと床に横たえる。そして身体の方の意識を消してバンダナに戻すと、存在を支える力を失った身体は陽炎のように消え去った。
「救護班! 救護班急げーーっ!」
「これは珍しい! 両者KOです!」
審判と実況の声が聞こえた。結果的には『前』と同じになったってことかしら。
今度も上手くいってよかった。ほんとにありがと、ヨコシマ。
――――つづく。
あとがき
これがプロローグのあとがきで書いた方法で……ネタはアレですが起こった現象そのものは本文で書いてるようにGS世界の出来事の範疇内だと思いますです。
あと今後は多少ペースが落ちるかも知れません。
ではレス返しを。
○黒覆面(赤)さん
こうゆう展開になりましたが……いかがでしたか?
○ジェネさん
>覗きをしない事には両手に盾を出す特訓どころか霊力不足で盾が出ないはずです!
うーん。説明が足りなかったでしょうか。
原作では心眼が盾をつくってましたが、ここでの横島君はルシオラの指導により陰念戦の時点ですでに自力で盾を出せるようになってたわけです。煩悩エネルギーがあればその分出せる数が増えますが、無くても出せないという状況ではないんです。
>ルシオラの口調
やっぱり詳しすぎたでしょうか?
○遊鬼さん
>ルシオラが自分の能力に気づいたみたいですねぇ!
主役ですから(^^
○ももさん
>最後のルシオラの台詞がたまりません
おお、理解してくれる人がいてうれしいです。
>今回は女性(バンダナだけど)に期待されてるわけですし
ずばり漢を見せました!
>なにげにルシオラが詳しすぎる気がしないわけではありませんが
うーん、確かにそうみたいですね。ちょっと考えます。
ではまた。