あの爆弾発言の後、大騒ぎしていた俺達は
「さああんた達は早く学校に行ってきなさい。遅刻するわよ。こっちの方は私と小竜姫でやっておくから」
と、美神さんに部屋から追い出されてしまった。こっちの方はやっておくという意味深な発言に一抹の不安を覚えたが、遅刻しそうなのは本当だったのでとりあえず従おう。
シロとタマモがあせって俺の前で制服に着替え始めたので、俺は先に外で待っている事にした。(成長してるなぁと思ったのは内緒だ)
「シロちゃんとタマモちゃんも〜、学校に来てくれない〜?」と六道さんに誘われてしぶしぶ行き始めた学校だったがけっこう楽しくやってるようだ。まあシロはにぎやかなのが好きだし、タマモも同年代(?)の子としゃべるのが楽しいらしい。でも女子高なのにたまにラブレターをもらって帰ってくるのはどうかと思うぞ・・・
まあそれはともかく本当に久しぶりの学校だから気を引き締めなきゃな!一緒に住むとかそういう問題は帰ってから話し合えばいいだろう。美神さんも冷静に考えれば俺みたいな煩悩魔人と女の子5人が一緒に暮らすなんてもってのほかだと気付くだろうし、とりあえず今日は愛子じゃないが青春を謳歌しよう。よし!今日もいい天気だ!!
・・・そう、その時の俺はそんな甘いことを考えていた・・・
奥様は・・・〜その2〜
「あれ?・・・ここ俺の部屋だよな?」
事務所に行く前に自分のアパートに帰ってきた横島は中に入った瞬間固まった。
「今度は本物の泥棒か?」
その部屋には何もなかった。女性ばかりを映したテレビも、エ○ビデオしか入れたことのないビデオデッキも、アレをする時の定位置にしていた布団もなくなっていた。そして・・・
「エ○本まで持ってく事ないやんけー!」
女性に飛び掛る事はなくなったが、本やビデオは別問題らしい。
「殺す!絶対殺す!性春の品を奪われて黙ってるほどわいは甘い男やないでーー!!犯人は必ず見つけ出す、紅ユリの名に賭けて!!!」
そう言って<鑑><識>という文字の入った文珠を発動させようとした瞬間、横島の視界に一枚の紙切れが飛び込んできた。
「なんだこれ?何々・・・」
『Dear 横島君へ
急で悪いんだけど勝手に引越させてもらったわ。小竜姫が急かすからしょ うがなかったのよ。
と、いうわけで下の地図に書かれてるところまで至急来るように!この部 屋にあった家具とかもその場所にあるから安心してね。
いいわね?これは命令よ!あんまり遅いと時給下げるからね!
PS
教育上よろしくない本は処分したからね〜♪
』
「カムバーック!!俺のエ○本ー!!!」
・・・ガランとした室内に漢の叫びが響いていた。
1時間後、なんとか立ち直った横島は地図に書かれていた場所に来ていた。
「ここ・・・だよな?」
アパートから徒歩十分くらいのその場所には巨大な庭付きの豪邸が建っていた。さすがに六道家のお屋敷に比べれば小さいが、それでも普通の家よりはかなり大きい。ボロアパート暮らしをしていた横島が萎縮してしまう程に。
そんな豪邸を前にして立ち尽くしていると・・・
「せんせぇ〜、おかえりなさいでござる〜!」
「ヨコシマ〜、おかえり〜!」
なぜかその豪邸の敷地の中から飛び出してきたシロとタマモが飛びついてきた。
「先生遅いでござる!拙者ずっと待ってたでござるよ〜。(ペロペロ)」
「シ、シロ!?わかった!わかったから顔を舐めるな!てかまさかこの家は!?」
「そうでござる。ここが拙者と先生の愛の巣でござるよ♪」
「な!?何を言って・・・」
「何言ってんのよ馬鹿犬!(狼でござる!)ここは“アタシ”とヨコシマの愛と肉欲の館よ!」
「ゴフッ!!」
二人のあまりの発言に固まる横島(特にタマモの発言)
「こ、この淫乱女狐が!何恥ずかしいこと言ってるでござるか!!」
「フン!色ボケ馬鹿犬よりマシよ!」(いやそれはどうだろう?)
などと言い争っていると
「天下の往来で何恥ずかしい事叫んでんのよ!さっさと中に入ってきなさい!!大体ここは私と横島君の・・・ゴニョゴニョ・・・」
「は、はい!ほら二人とも行くぞ!」
幸か不幸か後半の美神のつぶやきは聞こえなかったらしい。
ところでこれだけ本人の前で愛だの肉欲(?)だの叫んでいるのだから普通の人間なら自分に向けられた好意(?)に気付くはずである。しかし自分はモテないのだという大きなコンプレックスを持つの横島君は・・・
「(うぅ、タマモはともかくシロにまでからかわれるなんて・・・。いくらオレがモテないからってそんなに俺をからかって楽しいか?楽しいのか?)」
やっぱり気付いていなかった。
「「おかえりなさい横島さん♪」」
「た、ただいま・・・」
中に入ると赤い髪の美少女と青みがかった黒髪のこれまた美少女が出迎えてくれた。おそらく自分用であろう青いスリッパに履き替えてリビングに向かうと、そこはもう別世界だった。
広い。一体何十畳あるのだろうか。そのあまりの広さに立ち尽くす貧乏少年に天井から吊るされた大きなシャンデリアと高級そうな家具達が追い討ちをかける。
「どう、この家は?気に入った?」
「み、美神さん、こ、この家は一体・・・」
「これ?これはね〜」
美神の説明によるとこの家はかなり厄介な霊的不良物件だったらしい。何年か前まで暮らしていた胸の大きなセレブな姉妹の妹が、あまりのわがままぶりに耐えかねて姉を殺害、それを恨んだ姉がその場で悪霊となり妹を呪い殺したが、さらにそれを恨んだ妹までも悪霊となり泥沼の姉妹喧嘩を繰り返していた。何人ものGSが除霊を試みたがキレたセレブ達の霊はかなり手強く誰一人成功しなかった。それに困った不動産会社が霊的不良物件として格安で販売するようになったらしい。
「っていうワケあり物件だったこの家を私が買い取って、午前中のうちに小竜姫と除霊したってわけ。ホント安く済んでよかったわ〜。これからみんなで暮らす場所だから、これくらい広くないとね♪」
「はあ、そうなんですか・・・じゃなくて!なんで皆で暮らす事が決定してるんですか!俺反対してたでしょう?しかもオレに無断で勝手に引越しさせるし、家買っちゃうし!何考えてんすか!」
やはり自分のような男と女性5人が暮らすのはマズイと思い横島は激しく抗議した。決してエ○本の恨みなどではない。
「何よ?文句あんの?小竜姫が任務失敗してもいいの?どうしてもあんたと暮らさなきゃいけないって言うんだから仕方ないでしょう?」
「ええ、ですからどうしても横島さんと一緒に生活しなければいけないんです。本当は二人っきりがよかったんですけど・・・」
「いや、それはわかるんすけど・・・」
確かに任務を放棄させて小竜姫を帰してしまってはどんな罰を受けるかわからない。さすがに二人だけで生活するわけにはいかないので美神の言うように皆で暮らすしかないのだ。それは横島もわかっている。しかし、これには一つだけ大きな問題があった。
いくら煩悩が減ったとはいえ彼は男の子なのだ。こんな美女美少女達と暮らしていたらいろいろと溜まってしまう。しかも、その溜まった欲望を吐き出そうものなら匂いで獣コンビに一発でバレてしまう。まあボロアパートの匂いでバレているとは思うのだが、一つ屋根の下で暮らしている状態でその日のうちにバレるのはちょっと恥ずかしい。かといって幽霊の時のようにおキヌちゃんにパンツの黄ばみを落とさせるわけにはいかない。自分もつらいし・・・
と、本気で悩んでいると
「せんせぇ〜は拙者と一緒に住みたくないでござるか?拙者が嫌いなのでござるか?・・・(ウルウル)」
「うっ、そ、そんな事はないぞ!でもなぁ・・・」
「ヨコシマ・・・イヤなの?(ウルウル)」
「タ、タマモ!あのな、え〜とな・・・」
「横島さん・・・私、楽しみにしてたのに・・・(ウルウル)」
「お、おキヌちゃんまで・・・」
ニヤリッ×5
三人の涙目に追い詰められていた横島は、計画通りの反応に悪い顔して笑い合う5人の存在に気付かなかった。
「(ああ、どないせっちゅーねん!確かにみんなで暮らすのはいやじゃない。てかむしろ嬉しい。でもそれから始まる禁欲生活を考えるとなあ・・・ ん?待てよ?<無><臭>とか<消><臭>とか入れた文珠を部屋に置いとけば大丈夫なんじゃないか?)」
そんな事に文珠を二つも、しかも効果が切れる度に更に二個使っている事がもし美神にバレたら確実に殺されるのであるが有頂天の彼は気付かなかった。
「(それなら無問題だな)わっかりました!みんなで暮らしましょう!!」
「・・・なんかさっきと全然違うんだけど。まぁいいわ。じゃあ早速部屋割りね。横島君は一階の部屋を使って。私達は二階と三階を使うから。」
「え〜拙者先生と一緒が「何か言った?」く、くぅ〜ん」
その後てきぱきと引越しの荷物を運び(シロは軽く怯えつつ)みんなで夕食の引越しそばを食べていた。
「しっかし、今日の美神には驚いたわね〜。」
「そうでござるな。美神殿が先生のためにこんなにお金を使うところを初めて見たでござるよ。」
「そういえばそうですね〜。」
「な、何よ!べ、別に横島君のためじゃなくて小竜姫の身の安全のためよ!小竜姫にはいろいろ世話になってるしね。それに大してお金かけてないわ。霊的不良物件だったって言ったでしょ?除霊も小竜姫がやったから経費もかかってないし。小竜姫からもいくらかもらってるしね。」
慌てて否定する美神を見ながら小竜姫は内心苦笑していた。確かに除霊自体は悪霊の身体のある一部分を見てキレた小竜姫が一撃で終わらせたためタダである。しかしいくら霊的不良物件とはいえさすがに都内でこれ程の土地、さらに高級家具付きの家がそんなに安く買えるはずがない。しかも内装も少しいじったのだからかなりの金額になるはずである。加えて自分が渡したお金はたかだか数百万である。
「(美神さんもいじっぱりなんだから。『全部で五千万!?ふざけんじゃないわよ!高すぎよ!!』ってずっと怒ってたのに、横島さんが来た途端ニコニコしだすんですからバレバレですよ。・・・本当に彼女も横島さんが好きなんですね・・・)」
「ん?どうしたのよ小竜姫?私の顔に何かついてる?」
「いえ、美神さんも本当に横島さんが好きなんだなぁと思いまして♪」
ボン
本人だけに聞こえるように放った小竜姫の一言に音を立てて赤くなる美神。
「ど、どうしたんですか美神さん!?真っ赤ですよ?熱でもあるんですか?」
そう言って横島が美神の額に手を伸ばした。
プシュー
「な、なんでもないわよ!き、気安く触るんじゃない!!!」
バキッ!!!
照れ隠しの一撃を顔面に受け、横島は吹っ飛んで壁に突き刺さった。
「ううっ何でや〜。理不尽や〜・・・」
真新しい壁紙に鮮血の花が咲いた。
「でな、なんかよくわかんねぇんだけどみんなで住む事になったんだわ。」
夜になり暗くなった広い庭の真ん中で横島は一人、空に向かって語りかけていた。
「で、初日からいきなり美神さんに殴られた。これから毎日殴られるんだろうか・・・。う〜ん大変そうだな〜。小竜姫様の目的もわかんねぇし。オレ体もつかな?」
苦笑交じりで、そういった横島は不意に表情を曇らせ俯いた。
そして自嘲的な笑みを浮かべ、自分に言い聞かせるかのようにつぶやいた。
「・・・でも大切な人達と一緒に暮らせるんだ。幸せだよ、オレは・・・。おまえのおかげでね・・・。」
ポタッ
「ごめん・・・ごめんなぁ・・・ルシオラ・・・」
俯いたまま動かない彼の足元で、雨ではない雫が影をまだらに濡らしていた。
・・・その様子月と、いくつかの人影だけが静かに見ていた。
〜あとがき〜
どうもkichiです!なんとか2作目を書くことができました!
まだまだ未熟ですが頑張っていきたいと思います^^
さて一話目で「奥様は竜〜その1〜」と書きましたが、今回あまりにも小竜姫の出番が少なかったので「奥様は・・・」のままでいきたいと思います。一応メインヒロインは小竜姫なのですが、他の人とのエピソードも書いてみたいので。
ていうかまだキャラが固まりません(笑)
ですので「こんな真面目なの横島じゃない!」とか「こんな大金出すなんて美神じゃない!」とか思う方もいらっしゃるかもしれませんが大目に見てください。とりあえず“ウチの”二人はこんな感じで行きたいと思います。
読んで下さってありがとうございました!
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