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▽レス始

「役鬼術師 横島伝 第一幕(GS)」

神乃飛鳥 (2005-10-08 02:47/2005-10-11 19:49)
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第一幕 彼は思ふ 縁の古都に 歩む道
            己が生き様 現なるまま


 京都へと一路向かう新幹線は、修学旅行という高校生活最大の行事に、興奮を抑えきれぬ生徒達で必要以上の賑わいを見せていた。
 そんな中、何時もであれば騒ぎの中心を担うであろう彼――横島忠夫――は懐に収めた『物』を意識し思索の海へと意識を向けていた。
 その物は、彼の上司であり師匠にあたる人物が、わざわざ彼のために大枚を叩いて用意した物である。
 ただ、それが有償であり、または何らかの代償をもって与えられた物であるならば、彼は此処まで悩みはしなかっただろう。
 だが、彼の上司は稀代の守銭奴である。
 それ故に、無償で与えられたその『装備』とそれを与えられた時の会話に付いて思索をめぐらせるのだ。


「京都……ねぇ、いまどき東京の高校で、わざわざあんな近場を修学旅行先にする所あるんだ」
 苦笑とも取れる曖昧な表情を浮かべ、彼の上司にして師匠、美神令子はそう呟いた。
「……ほんとは、例年沖縄県巡りをするらしいんっスけど、なんか臨時でごっつい出費があったらしくて、俺たちの代だけ京都なんすよ〜」
 国公立の普通高校である、積立金+税金などから出る予算があれば、十分沖縄旅行くらいはできるだろう。
 しかし、彼の学年は……ぶっちゃけ彼のクラスは、とある事情により修学旅行に使われるべき予算を、とあるGSへの謝礼として支払って仕舞っていた……。
 なお、その事情を横島は知らない、そしてそれを知ったのであれば、彼のクラスに所属する『青春』を愛する少女が悲しみに暮れる事に成るだろう。
「へぇ、それは残念ねぇ。あ、私にお土産買ってくるなら、八橋は止めてね私アレ嫌いだから」
 そう言いながら、美神は『厄珍堂』と大きくロゴの入ったダンボールの封を切り、中に入っていた、総額数千万は下らないであろう道具を、マボガニーの机へと並べてゆく。
「それから、おキヌちゃんには線香よりも抹香の方が良いわね、あんたの小遣いでも買えるそこそこ良いもの売ってる店教えるから、買ってきて上げなさい」
 言葉を続けながら並べた道具を点検する美神、視線は横島へ向けられることなく、真剣な視線を道具へと向けている。
「あれ? その道具……美神さんがつかうには随分大味っすね?」
 一流と名高いGSの美神である、彼女の使う道具はどれも一級品であり、お札などの消耗品を含めて最低数百万はするものである。
 其処まで上等なものを荷物持ちとはいえ見続けて来た横島である、道具の良し悪しを見極める目はまだ無いものの、それが何時も扱う物と違っている事ぐらいは理解できる。
「へぇ、道具の見極めは出来て来てるみたいね。これは全部あんたが使う道具よ。小竜姫がくれたバンダナほど便利な物じゃないけど、霊能初心者向けの入門セットってとこね」
 道具の質をおぼろげながらも見極めた点について、美神は多少笑みを浮かべそう誉める。
「おっ俺、そんなの買い取る金無いっすよ」
 しかし横島は、誉められたことよりも給料から天引きされていく事を思い、引きつった表情でそう答えた。
「何馬鹿言ってんのよ、あんたGS試験ウチの事務所所属って事で受けたでしょ? あんたがさっさと見習い卒業できなきゃ私の指導力が疑われんのよ。ってことは言い換えればあんたがさっさと一人前になれば、私の価値がさらに上がるって事だし、あんたが使える分だけ稼げるように成るじゃない? つー訳でこれは私からの試験合格祝いだと思って、ガンガン精進しなさい。あ、お札はその中に入ってる分以外は実費……」
 小さなため息をついた後、美神は師匠として横島の置かれた状況を再度噛み砕いて説明する事を試みた。
 だが、その言葉は最後まで紡がれる事は無かった。
 なぜならば、
「み、美神さんが合格祝いまで用意して、俺に期待している!? こ、これはもう愛の告白と同義?! な、ならば! み! みっかみすわぁーん!」
 と、何時ものように妄想を暴走させ、ルパンダイブを敢行した為である。
 当然の様に……横島は血の海に沈む事と成った……。


「基本的な装備は常に携帯しろ……なんていわれて全部持ってきたが……」
 まずは防弾防刃繊維製のボディスーツ、通気性も物理防御力も申し分なく、裏地には薬師如来とそれを取り巻く十二神将像が刺繍で描かれており――美神曰く霊的防御を高める作用があるとの事だったが、それを見た横島は、いつの時代の不良学ランや? と心の中でツッコんだ――霊験あらたかである。
 その上から重ねるのは対霊圧処理を施し、ポケットやフックを多数あしらったベスト。ポケットは霊符を種類別に分けて入れられるよう多重構造になっており、フックは神通棍や霊体ボウガンなどを一次的にマウント出来る様、かなり丈夫に出来ている。
 そして、そのベストのポケットには三千円〜五万円の破魔札が数枚ずつ、十万円の吸引符が2枚、神通棍が予備含め2本(ただし、美神が使用する物の十分の一程度の価格で買える量産品)そして、銀の銃弾が入ったマカロフ(旧ソの9mmAT拳銃……もちろん銃刀法違反)と予備弾倉2本がその全装備である。
 ちなみに、マカロフ+予備弾倉は自宅に封印してある。
「ぶっちゃけ拳銃なんぞ持ってたら帰りにとんでもない目にあうわい」
 最終日には関空から成田まで飛行機で帰る予定である、GS試験の時のDr.カオスの二の舞は、幾らうかつな横島でもごめんである。


「……け、拳銃って横島サン、随分とブッソーな独り言ですノー」
 と、らしくなく思索にふける横島の呟きに、顔に縦線を張り付かせた巨漢――タイガー虎吉がぼそりと突っ込む。
「まぁ、あの美神さんのお弟子さんですからね……横島さんは」
 と、タイガー同様縦線を張り付かせた美形吸血鬼――ピエトロ・ド・ブラド(愛称ピート)が微妙な納得の声を続ける。
「な、悩む事も青春だと思うけど……、銃乱射事件を起こす前にゲームと現実の区別はつけるべきよねー」
 某国で発生した銃乱射事件で、日本のとある企業のゲームが原因だと訴訟が起こった事を引き合いにしてか、そんな微妙に判り辛い発言をしたのは机妖怪の愛子嬢。


「で、何を悩んでるんですか? 横島さん」
 クラスのムードメーカーとも言える横島が、一大行事にらしくない表情を浮かべていれば、親友を称するピートやタイガーでなくとも心配するだろう。
 ピートの問いかけで初めて横島は、自らに向けられる視線のあまりの多さと、いつの間にか盛り下がり、修学旅行へ向かう新幹線と言うより、難波の虎が日本チャンプとなったライバルに二度目の敗北を喫した時の応援団の帰りを思わせる、沈痛さが漂っている事に気付く。
「ん、ああ、実は……」
 普段の彼ならば、体を張った無茶のギャグでその空気を吹き飛ばす事を選択するだろう。
 しかし、今日の彼はソレをすることは無かった。
 なぜかと問われれば、彼自身答える事は出来ないだろう……ただ、なんとなく今の自分の立場を、上司から与えられた装備が本心から考えざる得ない状況であると告げているように思えたのだ。
 美神の色香に迷い、命をチップに有りえもしないロマンスを求める……愚者、それが今までの自分だと思えたのだ。
 そして、GS免許を与えられ、装備を与えられ、初めて自分が命のやり取りをする『プロフェッショナル』に成りえることに思い至ったのだ。
 即ちソレは、代価を受け取り、自分ではない何かを傷つけ、場合によっては殺したりする可能性……。
 人間ではない何かの中でも『悪霊』と呼ばれる存在だけが敵ならば、彼はさほど躊躇しないだろう。
 もちろん人を害する『悪鬼』足りえるモノならば、ソレを打ち払うのに戸惑う必要は無いだろう。
 だが、彼はなぜか思い描いてしまう、権力や己の欲の為に罪無き『鬼』を傷つける可能性を……。
 横島は、静かに自らの心の内を語る。
 その横島の何時に無く深刻な表情で語るその内容は、その声を聞く他の生徒たち……特にピートやタイガーのようにオカルト方面に明るい者の心に深く重く圧し掛かった。


「なーんてな、んな心配するの千年はえーって判ってんだけどなー」
 そんな重い雰囲気に絶えかねた横島は、勤めて軽い調子でそう打ち消しの言葉を放つ。
 しかしそれは、何時もの彼の言動と比べ弱く、逆に痛々しいまでに無理をしていることをさらすだけだった。
「横島さん言っている事は、GSならば皆考えなければいけない事です……」
「そうジャノー。美神さんなら、お金の為にそういう仕事も平気でやりそうですしノー」
 辛うじて口を開けたのは、徐霊の現場に立ち、少なからず死線を超えてきた二人だけだった。
 そして、その二人にとって横島の思いは他人事ではなく、同時に狩られる側として攻撃を受けた記憶すらも思い起こさせた。
 半吸血鬼として、その有り方自体が『悪』と断罪され、信頼した友人にすら裏切られた過去を持ちながらも、自分の半身である人間を憎む事が出来ず、魔の側にある半身に憎悪とも言えるほどに深い嫌悪をもつピート。
 強度の発信型テレパスであり、人虎の血を引くと推測されるタイガー。彼は身に余る能力を制御できず、彼の家族から能力封印の依頼を受けたGSの中には、「能力封印には成功するも彼の激しい抵抗に会い已む無く殺した」との大義名分を掲げて彼の抹殺を試みる者も少なからず存在した。
 そんな過去を持つ二人だからだろう、横島が本来持ち得ないであろう不安を当然の物として受け取ってしまったのは。
 そう、今まで横島が徐霊に参加した中で、美神が悪霊や悪鬼、悪魔以外のモノを殺すような仕事をした事はない。
 それどころか、人外の共存しうる存在との接点など一切無かったのだ。
 だが、横島はそれらを傷つける可能性が有ると言うだけで異常なまでの不安を感じている。
 ソレが何ゆえであるかは、いまだ誰も知らない……。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次回からやっと京都へ入ります。
 進行が遅く、尚且つ文量が少なめであると感じていますが、話の区切として今回は此処までとさせていただきました。

以下レス返しさせていただきます。

kk様>
 符檄→巫覡のご指摘有難う御座いました。
 SSという形での二次創作は、今作が初めてですが、完結まで頑張らせていただきたいと思いますので、これからも不備等見受けられましたら遠慮なくご指摘くださいませ。

桜葉様>
 私的見解では有りますが、陰陽道、西洋魔術含め、信仰を伴わない『魔法(この場合広義での魔法です)』は無いと思います。そもそも安部清明以前の陰陽道は神道系神通力、密教系真言術、神仙道、巫蠱道、等を源流として独自の信仰理論として発展した物だと理解しています。
 そして、私自身は『魔法』を信仰や信念などの意思を媒介に『気』や『念』といった概念的『力』を物理的『力』に変換する術と考えています。
 それ故、呪文や真言、祝詞が違っていたり、間違っていても、同様の結果を発生させることはありえる。と私は考えます。
 そして、それが出来るのがGSの世界観における『霊能力者』と、考えてこの作品を書いています。
 長文&個人意見への否定となってしまったこと大変失礼かと思いますが、この場を借りて、本作品における概念説とさせていただきました。
 次回以降はご期待通り、彼の「高校」の人物達にも活躍していただく場面があるかと思いますので、今後もお引き立てよろしくお願いします。

フクロウ様>
 斯様なつたない文章を読みやすいと賞していただいたことありがたく思います。
 今後も研鑚を重ね、皆様に楽しんでいただける作品にしたいと思います。

ジェミナス様>
 多数の方が、高島の記憶を持った横島を描かれている中、私の作品が受け入れられるか一抹の不安は有りますが、今後もお付き合いいただければ幸いと思います。


悟空様>弾奏→弾倉の修正させていただきました。ご指摘有難う御座います。

××様>薬珍堂→厄珍堂の修正させていただきました。ご指摘有難う御座います。

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