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「役鬼術師 横島伝 序幕(GS)」

神乃飛鳥 (2005-10-05 15:46/2005-10-06 02:18)
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 序幕 

――契約の下、古の理に従いて
この地に、わが同胞を封印せん

  願わくは、高潔成らざるとも
仁心溢るる者に、開封されん事を

  我、『高島 忠久』の名に於いて
彼の呪を行使せん――

物心ついた頃から『彼』は一人だった。
ごくごく平凡な里人の子として生まれるも、生まれながらに持つ強い霊力をもち、それゆえに『取替え子』と疎んじられ、捨てられた赤子。
その『彼』を拾ったのは、平安京の守護を担う一人の陰陽師だった。
『高島 宗久』と言うその陰陽師は、術の修練や開発に青春を捧げ様々な力を得た代償に情愛を交わす能力を捧げていた。
 それ故に子の無い宗久は、羅生門に打ち捨てられていた異常ともいえる霊力を持つその赤子を自らの子として、自らの術を引き継ぐ存在として育て上げた。
『師と弟子』高島親子の関係はそれ以上でもそれ以下でも無く、ただひたすらに術の研鑚のみを続ける日々が続いていた。
そんな日々が唐突に終わったのは、宗久が病に倒れ治療の甲斐なくあっさりと他界したが故である。
既に青年といって良いほどに成長を遂げていた『彼』では有ったが、術の修得が中途半端であった事が災いし、陰陽寮への入寮は敵わず、高島家と親交があった西郷家の監視下の元で巫覡として働くのがせいぜいであった。
しかし、『彼』の立場が大きく変る事件が起こった。
それは、西郷の指示のもと近隣を荒らす『鬼』の討伐に赴く武士(もののふ)達と行動を共にした際、成す術も無く打ち倒される武士達に代わりその『鬼』を調伏してしまった事である。
二十余の武士を持って討ち果たす事の出来ない鬼を、調伏し『役鬼(えっき)』とした彼を一民間巫覡として捨て置く事も出来ず、陰陽寮は彼を受け入れる。
そこは信念や志無く、権力闘争と既得権を求めるだけの陰陽師達が集まっていた。
その中で、西郷と高島は共に平安守護の任と共に、力なき者達を護る為に術を振るう数少ない陰陽師として多くの人たちにその名を知らしめていった。
その闘いの中、多くの『鬼』調伏し住まう地を守護する者としたり役鬼として使役したりと、高島は平安最強との呼び名高い陰陽師と成っていく。
その名声が絶頂とも言える時、高島は唐突に役鬼たちを京の各地に結界の柱として封じ始める。
人々はそれを京を護る為、当然の行為として受け入れた。しかし、それをいぶかしんだ者もいた、高島の僚友、西郷である。

「高島、お前何を考えている?」
 最後の役鬼を封じて屋敷へと戻った高島を、わざわざ門の前で待ち構えていた西郷がそう呼び止めた。
「んー、今日はどこの姫さんに夜這いかけるよかなーと……」
 高島は西郷が何を言っているのか、おそらく理解できていただろう、されどそれをおどけたような韜晦の返答を返す。
 それだけで、西郷は高島がその本心を話す気が無い事を知る。
 本人達は否定するだろう、だが二人は間違いなく無二の親友であり、その能力を認め合う好敵手であろう。
 それ故に、一寸した行動や態度の変化が、自分の事以上に心配になるのだろう。
「……お前が何を考え、何をしようとかまわんが、陰陽師の品位を下げるような真似はしてくれるなよ」
 しかし、二人の関係が素直にその思いを口に出す事はさせない。
「……わぁってるよ、ったくお前はいちいちうるせーな」
 ひらひらと手をふって、あくび交じりに門をくぐり屋敷へと消えてゆく高嶋を、なぜか悲しげな目で見送る西郷。
 おそらく、二人は感付いているのであろう、この後高島を廻り起こるであろう千年の時を超える激しい運命を……。


「見慣れた天井だ……」

 目がさめると其処は見慣れた、彼の住むアパートの一室だった。
 寝起きから、ベタな台詞を吐く彼の名は『横島 忠夫』
 つい先日『対心霊現象特殊作業免許』即ち『GS免許』を取得したばかりの見習GSで、時給255円という労働基準法も裸足で逃げ出し、人権保護団体が知れば狂戦士となって、その職場に乱入するであろう、命がけの丁稚奉公で色欲に従い命を削る勤労青年である。

「しっかし、やけにリアルな夢やったなー」
 一人暮らしが板に着いて来ると、独り言が多くなる……、これを実感している一人暮らしの方は消して少なくないはずだ。かくいう横島も例に漏れず、自分の考えを独り言として口にするクセが付いて来ている。
 もっとも、彼の場合はそれがより顕著であり、他人が居る前でも堂々と本音をさらけ出すと言う点で、同様のクセを感じている人間より重症であると言えるかもしれないが……。

「にしても、折角リアルな夢を見るなら、もっとキレ―なねーちゃんと色々する夢を見ても良いだろ―に」

 ぶつぶつと文句を言いつつも、目覚めてなおはっきりと記憶に残る印象深い夢。

 夢の中で彼は純白の胴衣を身に纏った陰陽師(彼がこんな単語を知っているのは、昨夜TV特番で安部清明の特集を見ていたためだろう)で、仲間らしい他の陰陽師や役鬼と共に、破魔札のような呪符や言霊などを駆使し、魑魅魍魎をばったばったと薙倒す痛快活劇と言った内容だった。

「ま、どーせ昨日見たTVに影響されて見ただけの意味ねー夢に決まってるさな」

 そう言って自嘲の笑みを浮かべる横島。

 確かに彼はGS免許を取得している、しかし今の自分では夢の中の自分のように、華麗に呪符や術を操り徐霊や退魔をこなすなど、正に夢物語……と断言できる程度の能力しか持ち合わせていないのだ。

「あー、せめてあの半分でも俺に能力があれば、時給も増えて女の子にもモテモテになって、うはうはなんだがなー」

 などと言いながら、枕もとに落ちている目覚まし時計に視線を走らせると、その時刻は8時20分。今から全力で走ってギリギリ遅刻しない程度の時間である。

「げ……目覚ましかけわすれてるじゃねーか!」

 慌てて壁に掛かっている学ランに袖を通し、鞄を引っつかんで部屋を出る横島。

 そのときには既に、さっきまで思い起こしていた夢のことなど綺麗さっぱり忘れているのだった。


「ちはー」
 時は進み、放課後横島は美神徐霊事務所へとやってきた。
「あら横島クン? どうしたの、今日はお休みでしょ?」
 そう言って、待機室兼作業部屋へと入った横島を迎え入れたのは、この事務所のオーナーである美神令子その人であった。
「ええ、ちょっと来週一週間丸まる休み貰え無いっすかね?」
「休みぃ? あんたねー、試験受かってGS免許取ったって言っても、まだまだ半人前なんだからもちょっとビシと修行しないといつまでたっても見習よ?」
 怒りの怒声を想像しびくつきながら切り出した横島の予想に反して、美神の態度は寧ろ呆れたと言った様子が見て取れる物だった。
「そんなことゆーたかて、しゃーないやんかー! 修学旅行なんやしー!」
「って、学校行事ならもっと早くから判ってるはずでしょ、何でこんなぎりぎりになってから言うのよ?」
「いやー、久しぶりに学校行ったら、修学旅行のしおりとかそれ関係のプリントとか机に溜まってて、ソレで初めて気が付いたんっすよ」
「そんなんで本当に進級できるの?」
そんな横島の発言にさらに呆れたとばかりに口を開く美神。
「……時給上げてくれれば、もっと学校行けるんスけどねー」
 その発言に、ボソッと言い返す横島だが、美神はそれをあっさりと聞き流し
「んで、修学旅行、何処行くの?」
「はい、京都っス」

もし、横島が今朝見た夢を覚えていれば、行く手に波乱があることを理解できただろう。
 しかし、彼の霊感はそれを察知するほどに鋭く研ぎ澄まされては居なかった。
故に彼は赴く、高島なる陰陽師が生きた土地へと……

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初めて投稿させていただきます、神乃飛鳥と申します。
今まで、この掲示板ではROMに徹してきましたが、他のSS作家様の作品を読ませていただき、自分でも書きたいという衝動が止める事出来ないほど高まって来たので、こうして、投稿させていただきました。
稚拙な作品で、行進速度もさほど速くは無いと思いますが、宜しければお付き合いいただけますようお願いいたします。


kk様、符檄→巫覡の修正させていただきました。ご指摘有難う御座います。

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