<小竜姫>
「ただいま〜」
愛しい忠夫くんがやっと帰ってきました。ですが今は七時。まだ低学年の忠夫くんは四時には学校は終わるはずです。今までは遊んで帰ってきてもせいぜい六時には帰ってきていたのですが……。
「遅かったですね? 何をしていたのですか?」
「えっ!? いや、あの、ちょっと銀ちゃんたちとミニ四駆談義をしてて、ついつい時間を忘れちゃって、その、それだけだよ」
「……そうですか。ではもう御飯ができているので手洗いとうがいをして来てください」
「う、うん。分かった」
忠夫くんは逃げるように洗面所に行きました。……怪しいです。忠夫くんは嘘が苦手ですから、ちょっと踏み込んで聞くだけですぐどもります。それにあの汗は嘘をついている汗です!
私に隠すようなこと……一体なんでしょう?
も、もしかしてこれが噂の非行というやつでしょうか!? どうしてでしょう。やはり母親と父親がいなかったのはいけなかったのでしょうか? 私が姉以上に母親のように接していたのですが、私の愛が足りなかったのでしょうか? それとも母親以上にいけない気持ちで接していたのがまずかったのでしょうか?
落ち着きましょう私。まだ忠夫くんが非行に走ったとは限りません。非行じゃないとすれば……まさか浮気ですか!?
ありえません! あの忠夫くんが外に女を作るなんて! 私ともいうものがありながら!
……誰でしょうか? 夏子さんならきっと私に勝ち誇って自慢しにくるでしょう。それに忠夫さんも隠す必要がありません。
確かめる必要がありますね。
いえ、私は忠夫くんを信じていますよ!? ただの、そう、確認です! 忠夫くんが私を裏切って女を作るなどありえません。ですから私の考えすぎだという確認をするだけです!
……ですが浮気の判明は早ければ早いほどよいといいます。勝負は明日ですね。
待ってなさい私の忠夫くんを誑かすどこぞの淫乱が!
妙神山のただおくん〜小学生のただおくん けっとう〜
<忠夫>
「冥子ちゃん待った〜?」
「ううん〜、今来たところよ〜」
帰りの会が少し長引いて遅れた冥子ちゃんに謝る。でも冥子ちゃんは気にしてもないように笑顔で返す。
昨日冥子ちゃんに会って、結局もう少しの間僕が冥子ちゃんに特訓を施すことになった。本当は小竜姉ちゃんにやってもらう方がいいんだろうけど、それには鬼門を倒さなければならないし、今の冥子ちゃんにそれができるとは思えない。だから僕が教えるしかないんだ。
ちなみにこのことは小竜姉ちゃんには秘密だ。だって僕みたいな未熟者が誰かに教えるなんて小竜姉ちゃんが知ったらきっと怒っちゃうから。
「そういえば、冥子ちゃんって何年生なの?」
これはずっと聞きたかったことだ。僕よりは年上に見えるけど、どこかぽけぽけしてるからそんなに歳が離れているように思えない。
「私〜? 私(中学)二年生よ〜」
「ええ!? (小学)二年生!? 僕より年下なの!?」
びっくりだ。まさか年下とは……。
「あら〜そうなの〜? 忠夫くんって私より年上なんだ〜。でもそれにしてはずいぶん背が小さいわね〜。でもそういうところも可愛いわ〜」
「いや、僕は普通だよ!? どちらかというと冥子ちゃんの方が普通の(小学)二年と比べて大きすぎるよ!」
「そうかしら〜。ふふふ〜、私たちなんだか似たもの同士なのかもしれないわね〜」
「う〜ん、そうかもしれないね〜」
それは僕も感じてたことだ。寂しそうだった冥子ちゃんの姿は昔の僕に似ている気がするから。だから僕も冥子ちゃんの特訓に付き合ってあげることにしたんだ。
「さ、まずは昨日の瞑想の続きをしようね。今度は寝ちゃ駄目だよ」
「分かったわ〜」
<小竜姫>
ま、まさか……、本当に浮気を……。あんなに純真無垢な忠夫くんが……。そんな馬鹿な……。
「あの〜、小竜姫さん。何で私たち隠れてなきゃいけないんですか?」
いえ、忠夫くんが自分から手を出すはずがありません。きっと奴が誘ったのでしょう。よく見れば顔はロリーなくせに、出るところは体相応に出てます。その特定の人には堪らない肢体で忠夫くんを誘惑したのですね!?
「あの〜、小竜姫さん。私帰って夕飯の仕度をしあければならないのですが……」
ふっふっふ、いいでしょう。神に歯向かうことがどんなに恐ろしいことか、その身を持って分からせてあげましょう。
「ではさ「このどあほ! 何おキヌちゃん泣かしとんや!」……痛いです」
後ろから私の頭をどついたのはランドセル背負った夏子さんでした。おキヌさんがなぜか「ふえ〜ん」と泣いてます。
「ぐすん、ぐすん」
「よしよし、別に小竜姫も無視しようとして無視したんやないで?」
夏子さんがおキヌさんを慰めてます。夏子さんはおキヌさんと仲がよいです。おキヌさんが妙神山に住んでいると聞いた時は大暴れしましたが、今はとっても仲良しです。ですが300年も生きているおキヌさんお方が年上でしょうのに、なぜかこの二人を見てると歳が逆転しているように見えます。
「すいません、おキヌさん。無視していたわけではないのですが……。それで夏子さん、あなたは何しに来たのですか?」
「簡単や。アホなことしようしてるブラコンを止めにきたんや」
「なぜですか? あなたも目的は同じでしょう?」
「確かに、だがあんたはどうやって『あれ』を止めようと思ったんや?」
夏子さんは顎で仲睦まじくしている忠夫さんと淫乱女を指します。
「当然、力づくです」
「それがあかんのや。よう見てみ。あのアマ、よこっちより年上なのに守ってオーラ全快やろ。言うなれば子犬オーラや」
確かにそれは認めましょう。初期の忠夫くんと同じオーラがします。まあ忠夫くんの方が数億倍可愛いですが。
「よこっちの周りにはあんたにヒャクメ、おキヌちゃんと年上ばかりや。私も結構そんな風に接しとるしな。だから守られたり世話されるのには慣れてるけど、世話してやることはきっと新鮮だったんやろうな。だからきっと今は結構楽しいはずやで。そんな時に力づくで二人を引き離して見いや。よこっちはきっと怒って、あんた嫌われるで?」
そ、そんなことは駄目です。例えハルマゲドンが起ころうが、地球が核の炎に包まれようが構いませんが、忠夫くんに嫌われるのだけは駄目です。
「じゃ、じゃあどうすればいいのですか!? このままじゃ忠夫くんはあの淫乱に取られてしまいますよ!?」
「ふっふっふ。小竜姫もまだ甘いな。押して駄目なら引いてみろ! いいか、さっきも言ったがあのアマの魅力は守ってオーラや。そしてそれは私らにはない。そこまではいい?」
「ふむふむ」
「で、や。私らの魅力はお姉さん属性。つまりお姉さん属性持ちの私らに、子犬属性が付けば向かうところ敵なしということや!」
「おおっ!」
「具体的には、そうやな。ベタに襲われているところをよこっちに助けてもらって、『実は弱いところもある』っということアピールするっていうのはどうや? そうすれば[お姉さん属性プラス子犬属性>子犬属性]という式が成り立ち、私らの勝ちや!」
「おおっ! さすが夏子さん! 私には考えもつかないとことを平然と言ってのける! そこにしびれる! 憧れるぅ!」
「ふふ、そう褒めんなさんな。照れるいやないか」
「で、誰が襲う役やるんですか?」
話について来れなかったおキヌさんがおずおずと尋ねる。私と夏子さんの視線がおキヌさんに集中しますが、
「おキヌちゃんじゃね〜」
「おキヌさんではね〜」
「ほえ?」
まあ、無理でしょう。根本的に誰かを騙したりすることができない人ですから。必然的に残りは二人になります。
「「あなたが襲う役で、私が襲われる役」」
……ふっふっふ。どうやら来るべき時が来たようです。
「小竜姫、結局私たちはこうなる運命だったようやね」
ぽきぽきと夏子さんが指を鳴らしています。
「そうですね。私もここまで来ると憎しみを通り越して親しさすら感じますよ」
ごきりごきりと私の首が鳴ります。
「「決着をつけよう」」
私は右手を、夏子さんは左手を振り上げました。
「冥子ちゃ〜ん! だから寝ちゃ駄目だって〜」
「むにゃむにゃ、じゃあ私瞬殺されてくるわ〜」
続く
あとがき
九時半にバイトが終わって帰ってきて書き上げました。ああ、疲れた。正直明日でもいいかな〜って思ったんですが、なんとなく意地になって日刊のペースを守りました。疲れてるのであとがきは少なめで。
あ、前回お礼を言い忘れましたが、票統計をしてくださったジェネさん、黒覆面(赤)さん、???さん、神代 月夜さん。おかげでとても助かりました。遅くなりましたが心よりお礼を申し上げます。
ではこの辺で。
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