<小竜姫>
ああ、もうそこで右です! ……遅い。避けられてしまいました。
「くそ〜、なかなかやるな!」
何がなかなかですか。相手が攻撃の軽い禍刀羅守でなければ三時間前に死んでいますよ。さっさと負ければいいのにこの修行者はタフさだけは異常です。倒れません。
「くそ〜、こうなったらフルパワーだ!」
修行者が力を溜めていきます。しかし禍刀羅守なら避けられてしまうでしょう。
……仕方ありません。
「食らうがいい!」
修行者の特大の霊波砲が禍刀羅守に迫ります。禍刀羅守はそれを楽々避けようとしますが……させません。
「ギッ!?」
避けるな〜という私の殺意の篭った視線を受けて、禍刀羅守の動きが一瞬止まり、霊波砲の直撃を受けます。
ごめんなさい禍刀羅守。今日の晩御飯は好物を作ってあげますから。
「はっはっは〜。やっと倒れたか、貴様も結構強かったがまだまだだな。ふっふっふ、これで新たな力が手に入る。今ならどんな奴でも10%で充分だな」
「見事ですでは今度はパワーをあげましょうこれであなた結構強くなりましたよ多分あなたより強い人はそんなにいない気がするかもしれませんでは最後の試練です私と戦いましょうでは用意してくださいいいですねでは行きますよ」
凄い早口で言います。一秒でも時間が惜しいです。
「へっ? ちょっまっ、さすがに俺疲れて……」
超加速♪
バキッ、ズガッ、ザシュッ、ドガガガガガガ、メキメキグシャッ、ヌッチャヌッチャ、ゴリッゴリッ、ズバババババ、ズドゥーン、ドドドドド、バチコンバチコン、ゴキュッ、ドッカンドッカン、バリバリバリバリ、ゴゴゴゴゴゴゴ、メメタァ!
「鬼門、これを門の前に捨てといてください。あ、一つ言うのを忘れました。修行に失敗したのであなたの力はほとんど封印されます。ちなみに大体九割ぐらい封印されますね。まあ死ななかったのでよしとしてください。ではさようなら」
ぽいっと鬼門がその何かぴくぴく動くものを捨てました。聞こえてないでしょうがほっときましょう。
さあ、時間は……ぎゃー! もう七時をとっくに過ぎてます! 急がなければ!
妙神山のただおくん〜園児のただおくんのいちにち 夜〜
さっそく異空間ゲートを通って幼稚園に向かいます。辺りはもう真っ暗です。走ること十分、漸く幼稚園が見てきました。
……おや、なにやら騒がしいですね。
「すいません、遅れました。忠夫くんを迎えに来たのですが……」
私を見て先生方はなにやら複雑な顔をしています。……嫌な予感がします。
「すみません、小竜姫さん。実は忠夫くんは少しを目を離した隙に……どこか幼稚園を出てしまったようなんです」
な、な、な、何ですってー!
<忠夫>
アパートまでなら一人でも帰れると思ったけど、いつも小竜お姉ちゃんに連れてってもらってたからか、途中で道が分からなくなっちゃった。周りももう暗くなっちゃったし……。
心細いよぅ……。
僕が幼稚園から抜け出したこと、もう小竜姉ちゃん知ってるかなあ。そしたら小竜姉ちゃん怒ってるかなあ。
それとも僕を探しに来てくれるかなあ。
ううん、駄目だよ。僕は一人で帰って足手まといじゃないことを証明しなくっちゃ。そうしないと僕また置いていかれちゃう。そんなのはやだ!
止まっていた足を動かして、少しでも先に進もう。迷っちゃったけどきっといつか辿り着くさ。
テクテクテク。さっさっさ。
ん?
テクテクテク。さっさっさ。
あれ? 後ろに誰か居る? もしかしてお姉ちゃん?
後ろを振り向くと……。
「もしもし、ぼく。可愛いねえ……」
おじいちゃんがしてるゲームの女の子のキャラのTシャツを着た、ぼさぼさ髪でバンダナに分厚い眼鏡をかけた、体重百キロ超えてそうな変態さんがいた。
<小竜姫>
大変です大変です大変です! 忠夫くんがいなくなっちゃいました! なんてことでしょう、私があんなことに時間をかけてしまったばかりに……。
「とにかく探してきます!」
私は先生方の返事も聞かず幼稚園を出ました。多少鍛えているとはいっても幼児の足。そうそう遠くに言っているとは思えません。
辺りを探しても、なかなか見つかりません。くっ、こういう時にヒャクメがいたら……。本当に役立たずですね!
「ひどいのねー」
ハアハア、見当たりません。唯一の救いは近くに魔族の気配がないことですが、人間に誘拐されている可能性もあります。忠夫くんは可愛いから、変態な人にあんなことやこんなこと、さらにはそんなことまで……。
はっ! 時間がないというのにトリップをしてしまいました。
くっ、そんな羨ましいことじゃなくてそんな酷いことを許すわけにはいきません!
ピクピク。
ん、あの反応はヒャクメの心眼……。そうです、忠夫くんは常にポケットに心眼を入れていたはずです。
……こっちですか!
<忠夫>
「ほら、チョコレートあげるからね。いい子で僕と一緒に来て楽しいことを……」
変態さんが僕の腕を引っ張る。止めてって言いたいけど怖くて声が上手くでない。
助けて、お父さん。
助けて、お母さん。
助けて、おじいちゃん。
助けて、ヒャクメ姉ちゃん。
助けて……
「助けて! 小竜姉ちゃん!」
「家の忠夫くんに何してますかー!」
影が突然やってきて、変態さんに飛び蹴りを食らわした。
その影は……。
「小竜姉ちゃん!」
僕は思いっきり大好きなお姉ちゃんに抱きついた。
「忠夫さん……。よかった、無事ですか? 怪我はないですか? 変なことされませんでしたか?」
とても真剣な顔をして聞いてくる。その顔はとても綺麗。
「うん、うん、大丈夫だよ、小竜姉ちゃん」
「よかったです……。あ、少し待っててくださいね。これをすぐに処理しますから」
そう言って小竜姉ちゃんは吹っ飛んだ変態さんを睨み付けた
「ま、待て! 俺はただ迷子になっているその子を助けようとしただけで、あんなことやこんなこと、さらにはそんなことまでする気は……」
あまりの強さの小竜姉ちゃんにおののいた変態さんは、尻餅をついたまま後ずさる。でもそんな弁解も今の小竜姉ちゃんには聞こえない。ヒャクメ姉ちゃんにお仕置きする時の数百倍のオーラを辺りに漂わせている。
「あんなことやこんなこと、さらにはそんなことまでですって……?」
「あ、いやそれは」
「それは私の役目です!」
小竜姉ちゃんがバックに竜を従えている。そしてそのまま変態さんに向かって拳を振り上げた。
「奥義、妙神山小竜覇!」
変態さんは凄まじい威力のアッパーによって空高く吹き飛び、そのまま、ぐしゃあ!となぜか顔から地面に落ちた。この技はこの前おじいちゃんが、やってたゲームを参考に考えてお姉ちゃんに教えたらしい。凄い威力だけど技の発動前に左腕のガードが下がって心臓ががら空きになる欠点があるからあんまり使わないほうがいいって言ってた。
「ふう……よかった、忠夫くんが無事で」
泣きそうな小竜姉ちゃんの顔が僕の顔の前にいる。とても綺麗な顔は涙でくしゃくしゃに崩れている。それでもとっても美人だけど。
そんな顔をさせてごめんなさい。お姉ちゃんは僕をこんなに愛してくれているのに、僕は信じてあげれなかった。
泣かせちゃってごめんなさい。
<小竜姫>
「ごめんなさい、小竜姉ちゃんごめんなさい」
忠夫くんが泣きながら何度も謝って来ます。とても可愛いけど、今回は悪いのは私なのだから止めさせなければいけません。
「いいえ。悪いのは私です。ごめんなさいね、こんなに遅れてしまって……」
「ううん、違うの。僕ね、小竜姉ちゃんが僕が足手まといだから置いて行っちゃうと思ってね、怖くてね、それで足手まといじゃないって証明しようとしてね……。小竜姉ちゃんはこんなに僕のことを思ってくれるのに、僕信じてあげれなかったの。ごめんなさい」
……知りませんでした。忠夫くんがこんなことを思っていたなんて。
この子は置いていかれることにとても恐怖を抱いているのですね。自分が足手まといだから父親と母親が置いていったのだと思っているのですね。
だから足手まといにならないように、まだ五歳だというのに一人で寝ようとし、自分に興味を引かせようといたずらをし、そして今度は一人で帰れることを証明しようとしたのですね。
……私はこの子の体は守れても、心を守ってあげられていなかったんですね。まだまだ修行が足りません。
私は泣きじゃくっている忠夫くんをそっと抱き寄せました。
「忠夫さん……」
「ぐすっ、……なに?」
「私は、忠夫さんが大好きですよ。置いていったりしません。例え離れても、今日みたいに必ず探して連れ戻してあげますからね」
忠夫くんはきょとんとして、そして徐々に笑顔に戻りながら
「うん!」
元気に答えました。
「すっかり暗くなってしまいましたね」
私の手には忠夫くんの小さな、とても暖かい手があります。それを確かめながら私は誰とも無しに言いました。
「おなかすいたな〜。きょうの晩御飯なに?」
今日はあなたの大好きなものですよ、と言おうとしましたが、少しいたずら心が湧いてしまいました。
「今日はイモリの酒蒸しの玉ねぎ添えです♪」
「いや〜。イモリと玉ねぎはや〜」
好き嫌いをすると大きくなれませんよ。さあ、老師ももう帰ってらっしゃるでしょうし、ヒャクメも来てるかもしれません。家族で晩御飯を食べましょう。
<忠夫>
帰ったらおじいちゃんにとても怒られた。でも怒ってるのは僕のため、僕を思ってなのがよく分かるから、ちょっと嬉しい。そういえばなぜかヒャクメ姉ちゃんも怒られてた。
「肝心な時に役立たずなんですから!」
「理不尽なのね〜!」
ここはとっても暖かい。お父さんとお母さんがいないのは、確かに少し悲しいけど、でもここにいれば寂しくなんてない。
だから僕は元気だよ、お父さん、お母さん。
おまけ
<小竜姫>
はあ、今日は色々ありましたね。もう疲れたので寝ましょうか。忠夫くんが一人で寝るようになってから逆に私が一人で寝るのが辛くなってきました。
……はあ。
「小竜お姉ちゃん……」
「あら、忠夫さん。まだ起きてたの? お手洗いですか?」
忠夫くんはマクラで口元を隠しながら上目遣いで入ってきました。
理性が切れそうです。
「やっぱり今日からもう少し、一緒に寝よう……?」
少し不安そうに言います。
グハア!
YOU LOSE! YOU LOSE!
起きたらなぜか朝でした。よく覚えてませんが忠夫くんが私の横で幸せそうにしていましたからよしとしましょう。
続く
あとがき
大学が始まりました。前期でちょっと単位が少なかったので後期で頑張らなければいけません。それでこれからさすがに日刊は無理かもしれません。ですが当分ネタはあるので打ち切ることはありませんので楽しみになさっている方はご安心下さい。
さて次は小学生編を書こうかと思いましたが、多分幕間が入ると思います。小学生編からはバトルもあります。さすがに幼稚園児にバトルさせるわけにはいきませんから。しかしバトルが入ってもあくまでこれはほのぼのがメインなことに変わりはありません。
ちなみに妙神山小竜覇はあるドラゴンで青銅な闘士の技です。ごろが良かったんでなんとなく使いました。こういうネタはバトルが入ってからちょくちょく出るかもしれません。(個人的には無限パ○チとかやりたい)
あとあの修行者ですが、狐さんの言うとおり「10%の人」です。ただ奴が妙神山突破できるのはどうかと思ったので、「10%しか出さない」ではなく「10%しか出せなかった」ということにしました。またいつか出てくるかもしれません。
ではこの辺で。
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