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▽レス始

「リスタート2・クリスマス(GS)」

エニウェア (2005-10-02 22:37/2005-10-02 23:06)
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「シロがだめなん?
 じゃあ今日からお前はタマや」

 横島の声がする。


 チガウ


「よかったわね。タマちゃん」

 横島のお母さんの声。


 チガウ


「はっはっは。ではタマ君。うちを案内してあげよう」

 ハイテンションな横島のお父さん。


 チガウ


 タマ。


 チガウ


 タマちゃん。


 チガウ


 タマ君。


 チガウ


 タマ……


「モーーーーーー!!」


 横島家の朝は狐の遠吠えから始まる。


「親父、式神を買ってくれ」


 おそらく、事の始まりはこの一言からだった。


 大樹は一瞬我が息子は一体何を考えているのか、脳味噌を見てみたくなってしまった。

「……んな高いもん買えるか。っつーか売ってないわ」
「隣の政樹兄ちゃんがが夜叉丸を見せびらかすんや。というわけで買ってくれ。もうすぐクリスマスやろ」
「だから売ってないっつーに」

 ちなみに、そのお隣だった鬼道家は先日引っ越してった。なんでも事業に失敗したとか。

「代わりの物かってやるからあきらめろ。
 感動合体ウッチソダーだったかな?」

「違う!! 感動合体ウッチンダーや」

 簡単に誤魔化される忠夫を見て大樹は笑う。
 将来、美人の姉ちゃんとかに騙されないようにしろよー。

「おー、今度のテストで満点取れたらなー」
「うし、やったるでー!!」

 ちなみに今度のテストは確かIQテストだったはず。

「がんばれなー」

 これでクリスマスプレゼントはいらなくなったな。
 息子の煩悩が入ったときの能力を知らない大樹は、のん気にそう決め付けた。

「しかし、クリスマスプレゼントか……」

 妖狐とかがいる世界なのだから、サンタクロースとかがいてもおかしくはない。
 自分なら何を望むかを考える……まもなく即答した。

「何でも言いなりになるハダカの美人のおねーさんだな」

 うむうむと頷く大樹の後ろで―――


 ―――呆れた表情をした百合子が無言で拳を握り締めていた。


「ううう、後もう少しやったのに」
「はーはっは!! 惜しかったなあ、息子よ」
「うるせいやい」
「くー?」

 クリスマスの夜。どうやら、横島はIQテストで満点を取れなかったらしい。
 落ち込んでいる横島をタマモが頬をなめたりして慰めている。
 ちなみに百合子は料理中。
 七面鳥を何処からか生きたまま買ってきて。丁寧に捌いていた。

「慰めてくれてくれてありがとな。あ、こら。くすぐったいからなめんなって」
「きゅぅ……」

 ゴメンナサイとばかりに謝るタマモに、大樹がにっこりと笑ってはやす。

「はっはっは、タマ君。 息子の弱点はうなじから背中にかけてだ」
「モーきゅ!!」

 その言葉にタマモがきゅっぴーんと光らせて横島の服の下にもぐりこむ。

「親父!! 変な事言うな!! わっこらタマ!! どこ舐めてんだ止めわフぉ〜」
「モ〜」

 なんとかタマモを引きずり出そうと横島は手を伸ばすが、器用にその手からタマモは逃げ回り、掴ませない。  背中にいるのだから、このまま倒れこめばタマモを引き剥がせるのだがそんな事は思いつかないのか、何度も何度も背中に手を伸ばす。

「無様だな息子よ」
「親父!! 見ていないでたすけんかい!!」

 ソファーで座っている大樹は愉快そうに眺めている。手にはてきとーに包装された大学ノート大の物体。
 近くのオカルトショップで買ってきた式神ケント紙。それをプレゼントの体裁を整えるために自分でラッピングしたものだ。
 流石にオカルトアイテムをプレゼントする奴は滅多にいないだろう。ラッピングのサービスは無かった。
 ちなみに、買った時に「恋人へのプレゼントですか」などと聞かれたのは大樹だけの秘密だったりする。
 誰がそんなセンスの無いものを恋人に贈るか。

「すまない。俺にはタマちゃんと息子の何気ない戯れをとめるという非人道な真似はできない」

 そのまま空を仰ぎ目元を隠し泣く不利をする。

「口元笑ってんぞ!!
 ああ、わかった!! タマモって呼ぶからやめて。やめてくれ!!」」

 きちんとタマモと呼ばれたタマモは嬉しそうに鳴いた。


「モキュー♪」
「めそっ!!?」


 カタン

 その日の深夜。
 寝静まった横島家。
 そこで、小さな本当に小さな物音がした。
 そしてごそごそと動く影。
 その影、人影はここに仕事をしに来たのだ。

「よっし、ここやな」

 目的の部屋に当たりをつけ、窓から侵入する。
 場所は少年が眠る部屋。
 くーすか眠る少年の横で狐が丸くなって寝ている。
 背負った白い袋に手を入れてごそごそと何かを取り出して枕元におく。
 ここでの仕事はこれで終わりだったが、それで終わるほど甘くは無かった。


 ここは横島家である。
 不法侵入者に気づかないわけが無いのだ。


 突如暗闇の中できらめく銀光。

「のわっ」

 思わず身をかがんでそれを避けた人影が悲鳴をあげる。
 暗闇に大振りのナイフがキランと光る。

「死んでしまうやないか!!」

 非難の声を上げる彼に答えたのは大樹である。

「急所は外して狙ってるから大丈夫だ」
「万が一があるわい、アホ!!」
「不法侵入者の分際で、あつかましいぞ」

 言われて見なくてもそのとおりだ。
 言い合いの不利を悟った不法侵入者は、窓に向かって飛びのいた。
 ちなみにここは二階。
 窓を透過し、落下する直前。

「タマ君、やりたまえ」
「モ〜!!」

 流石に部屋の内部であれだけ大騒ぎをすれば目覚めるだろう。
 寝起きで不機嫌な横島家の飼い狐がはなった狐火がこんがりと焼いた。
 どうでもいいが忠夫はしっかりと眠っている。
 焼かれて庭に落下する侵入者。

 しかし彼の不幸はここでは終わらない。

 そう、横島家にはまだ一人いるのである。
 顔面から着地した所に待ち構えていた百合子が馬乗りになって殴る、殴る、殴る……………

「ぐわっ、げべっ、へぎゅ、たわば、はもんぱ………………………………げふん」

 相手が気絶したのを確認し、百合子は呆れたように呟いた。


「にしても……サンタクロースの扮装をして忍び込んでくるなんて……
 これで誤魔化せるつもりだったのかしら」


 いうまでもない事だが、きっぱりと本人である。


 約三十分後。

 つながれていた空に浮かぶトナカイやそりを見せて、何とかサンタクロースは自分が本物だと言う事を納得してもらっていた。
 信じてもらえなかったら明日の朝日は拝めなかっただろうと、サンタクロースは通された今で述懐していた。
 冷静に考えていたら、仕事をこなしていても明日の朝日は拝めないのだが。

「いちち……霊体であるワシをここまでドつけるとは、あんたら何もんや」
「ただの主婦ですわ」
「ただのサラリーマンだ」

 嘘つけ!!
 などと騒ごうかと思ったサンタクロース。
 だが、大声を出そうと腹に力を入れた瞬間に激痛を感じのた打ち回る。

「うーがぁ!!
 げふぅ」

 そのまま気絶してしまった。けっこう根性無しだ。

「この程度で気絶するなんて……てい」

 くきゅっとコミカルな音をさせて、百合子が気付けをする。
 あっさりと目を覚ますサンタクロース。

「おうっ!! うう……
 霊体に気付けできるあんたは一体……てもうええわ」

 とりあえずこの二人が、訳がわからないほど異常なのだろう。
 それでとりあえず納得する事にしたサンタクロースは、話をはじめる事にした。

「サンタクロースは子供にプレゼントを配るんや。つうても人数が多いから、抽選で当たった子ぉだけにくばるんや。
 つぅても地球上でほんまもんのサンタはわし一人やから、配りきるのに丸一日かかる」

 ここに来たのも配る途中だったとサンタクロースは続ける。
 お茶を啜り、一呼吸おいてから彼は続ける。出されたお茶はいい感じに温かった。

「今日中に、118人に配らなあかんのや。
 せやけど、わしはこんな身体やから……」
「かわりに配達して欲しい……と」

 けっこう低姿勢で進める話を大樹が受け継いだ。

「明日は仕事も休みだから別に構わないが……条件があ「きゅー? きゅ」「お嬢ちゃんやってくれるのかい。ありがとな」「タマモちゃんだけじゃなくて、主人もちゃんと行かせるからね」「きゅっきゅきゅ〜♪」……決定権無しかい」
「ほな時間がないさかい、すぐに行ってくれ!
 行き先はトナカイが知るっとるさかい、心配はいらん!
 子供の枕元にプレゼントを置いったたらそれでええんや!」

 いきなり調子がよくなって、喋るサンタクロース。
 タマモと呼ばれて嬉しそうな横島家の飼い狐。
 対照的に肩をがっくりと落として外に向かっていく大樹。
 そんな二人?をクリスマスプレゼントを脇に置いて、百合子は見つめる。

 帰ったら少しぐらい優しくしてあげようかしら。

 そんな事をのほほんと思ってみる。

「プレゼントはこの袋に手ぇ入れ立ったら、その子の欲しいものが自動的に出てきおる。
 全部配り終わったら自分の分も出してみい!
 ええもん出てくるで」
「きゅ? きゅ♪」

 その言葉に浮かれて、タマモはトリプルアクセルをきめられそうな速度で回り、跳ねだした。

「こらこら。ちゃぶ台で跳ねないの。危ないでしょ」
「ふふふ、まだ子供だなタマ君は。
 自分達の手で子供達に夢を配ってあげる。
 それだけでやる気は十分に出るものさ。
 さあ行こう! 子供達を幸せにしてあげるんだ」
 何でも言いなりになるハダカの美人のおねーさん。
 怪しげに、目の中に文章が光る大樹。
 テンションアップした夫を再び百合子は見つめる。


 帰ったらお仕置きしてあげようかしら。


 そんな事をのほほんと思ってみた。

「わっはっは。じゃあいくぞー」
「くーきゅー!!」

 そのまま二人して全力で外に駆け出していく。
 深夜なのでけっこうけたたましく音が響いた。


 近所迷惑な……うん、帰ったらお仕置きしよう。


「お、おい、あんた何か勘違いしてへんか?
 その袋は確かに欲しいもんが出てくるけど……
 ま、えーわい……」

 しばらく沈黙が入り、百合子は気を持たせるためにお茶を口に運ぶ。
 時間が経ち過ぎて冷え切っていた。
 嘆息して、こちらの用事を切り出した。

「それで、あなたは一体……?」

 その疑問にクリスマスプレゼントが答えた。


『蛍です。あ……あの、これからよろしくお願いします』


「プレゼントはその子の欲しいもんが出てきおるからな。当然、生物とかもありや。式神なんて珍しゅうもんが出てくるとは思わなんだけどな」
「そういうのは良くあるんですか?」
「良くある……とは言わんわい。そもそも一年に配るプレゼントが150人超えんからな。」

 深刻な表情で話し始めた二人に、蛍が悲しそうな声で尋ねる。

『あの、私ここにきて迷惑でしたか?』
「そんな事は無いわよ。プレゼントとして蛍ちゃんが出てきたと言う事は、忠夫があんたがいいって、ことでしょう。息子の判断力を信じるわ」
『百合子さん……』
「そんな事より……質問があるんだけど……」
『はい?』
「なに食べるの? いや、ほらうちにも妖狐がひとりいるんだけどね。
タマモちゃんって言うんだけど……一応狐が食べるものを出しているんだけど、何か物足りないみたいなのよ。
なんかほらただの狐と妖狐で食べるもの違うみたいなのかなって分からなくて……聞いてみようとしたんだけどあの子喋れ無いのよ。
まあなぜかあの子『モ』とだけ言えるんだけどね。これはそもそもシロと名付けられそうになってタマモちゃんが大暴れした事から始まった事なのよ。しばらく激闘を繰り広げた後にそれなら別の名前にしようと言う事になったのよ。
その時に名付けられたのがタマ。あの子よっぽど嫌だったのね。いきなり「モ〜!」って叫びだすのよ。
それが面白かったのか忠夫もウチの亭主もタマって呼ぶのよ。と言うか絶対忠夫はウケを狙って名前を付けようとしたわね。
おかげで毎日タマモが朝起きる時に「モ〜」って遠吠えするようになっちゃってね〜。あれ絶対に悪夢見てるわよ。って話がそれちゃったわね。つまり言いたい事はこの子達の食べるものにかんしてなんだけど、サンタクロースさん」

 何故かものすごい勢いで百合子がまくし立てる。

「な、なんや?」
「こういった子達って何を食べるか知っていません? 知り合いの霊能者に聞いてみたんですけどね。「普通の物で大丈夫やろ。むしろその方が妖力とか使えない分ただ生活するにはいいですしな」と言っていたんですけど、やっぱりこの子達にもおいしい物食べさせてあげたいのよ」
「えっと確かな……」

 その勢いに押され言いよどんだサンタクロースの言葉を蛍が引き継ぐ。

『式神は使役者の霊力をもらって活動しますから、食事は必要ないですよ』
「あんたは式神つうても、使い魔に近いやろ。多分食事は普通にできると思うけどな」
『でも、私。水と砂糖以外はあんまり……』
「偏食はいけないわよ。蛍ちゃん。うちの息子もタマネギがだめなんだけどね。好き嫌いして残したら、その後一週間はタマネギを使った料理を出すわよ。そういえば最近タマモちゃんがやってきてからタマネギを使った料理出してないわね。今度料理しようかしら。偏食ばっかりしてると体の成長を妨げるわ。身長や胸が大きくならなくなってもいいの? 多分忠夫は胸が大きい方がいいわよ。うちの亭主がそうだったから多分だけどね。あらっ、私ったらなにを言ってるのかしら」
「式神やから多分成長は『私、がんばります!!』ごっつ、気合はいっとる!?」


 こうして、横島家にもう一人家族ができたのだった。


おまけ

「はーははー帰ったぞ〜」
「はーきゅー」

 一日たち、流石にげっそりとして帰ってきた大樹とタマモ。
 居間にはサンタクロースと百合子がかえるの見計らって食事やお風呂の準備を終えていた。

「おー、お疲れさん。
 人間にはきつかったやろ」
「さあプレゼントプレゼント……にしても本当に疲れたな。でも5ラウンドぐらいはできるぞ」
「誰とナニを5ラウンドヤル気だい?」
「そりゃ、もちろん………今の発言なかったことにしていただけませんか?」
「お仕置きをきちんと受けてくれたらね」
「ぎゃー」


「くーん。くーん」
「あの人だけは怒らせたらあかんちゅうことだな」 

 悲鳴が響き、惨劇を見て青ざめるタマモとサンタクロース。タマモは疲れが吹っ飛んでいた。

「なんや? 何かあったんか?」

 トントンと二階から横島。どたどたしていたのに気づいたらしい。寝ぼけ眼で、いや糸目で降りて来る。

「きゅー?」
「大丈夫や。俺タマネギ食べられるよ」
「寝ぼけてるようやな」
「イモリも食べられるよ」

 居間に来たままそこでパタンと倒れこんんですーすーと寝始める横島。

「……さ、そんな夢遊病的な息子はほっといて、何でも言う事をきく……じゃなかった。プレゼントプレゼント」

 すぐさま復活した大樹を見て、さらにぼそぼそと会話を交わすタマモたサンタクロース。

「ここにまともな人間はいないんかい?」
「きゅっきゅきゅ!!」
「そうか、わしらも人間じゃなかったな」
「きゅ」

 サンタクロースの袋に手を突っ込んだ大樹は、顔をしかめる。きれいな姉ちゃんにしては硬すぎる。
 本当にそんなものを取り出したら、後ろにいる百合子にお仕置きされるのは確定なのだが、気にしないあたり流石だ。
 不審に思いつつも、袋からその物品をとりだす。


『今宵の拙者は血に飢えておる』
「おお!! これは子供の時親にせびっても買って貰えなかったシメサバ丸……ってきれいな姉ちゃんじゃねえ!!」


 ……とりあえず買い与えなかった、大樹の両親は正しかったとサンタクロースは思った。

「あ・な・た? 今の発言はなんなのかしら?」
「いやっ、そのっ、いまのは言葉の綾で……」
『さあ、拙者を手に取れ。切るぞ―、切るぞー……って聞いとるのか?』
「今それどころじゃねえ!! ついぷにっと欲望に偏るときもあるんだから、危ない発言レベルでお仕置きは勘弁してください」
『むう、仕方ない。そこの子よ拙者を手に……』
「そんな事ばかり言って、実行に移すじゃない。大体この袋は子供にプレゼント―――――!!」

 瞬間、何か危険を感じたのか、ふらふらと糸目でシメサバ丸に近づいた横島を百合子が押しとどめ、シメサバ丸を大樹が握り締める。

「妙なことしてっと折るぞ!! この駄剣!!」
「いえ、砕きましょう。あなた」
「ふうぅぅぅぅ〜!!!」

 横島はそのままソファーに倒れこんで寝息をたてはじめる。お子様にはちょっと辛い時間だったようだ。

『拙者は駄剣などでは……』

 大樹と百合子は何か言おうとしたシメサバ丸を、鬼神のごとき表情……いや上回る表情で睨み付ける。
 まだ見ぬ、鬼門より上。ある意味当たり前かもしれない。 

『拙者が悪かった……だから睨み付けるの止めてくだされ』

 気合でシメサバ丸を下した夫婦は、刀を包帯でグルグル巻きにした後、ポイッと居間の片隅に放り投げる。


『もう少し拙者を大事にしてくだされって誰も聞いてない……』
 シメサバ丸はこのままきっちりと横島家の所有になったとか。


おまけ2


「うし、じゃあタマ君のプレゼントはなにかな?」
「タマモちゃんはまだ子供だからね。きっと欲しいものが出てくるはずよ」
「こんきゅーん♪」

 タマモはわくわくと身体を躍らせながら、袋に近づいていく。自分でも何が出るのかわからないのだ。
 横島と一緒に幸せを満喫している自分が、心の底で何を望んでいるのか興味がある。
 案外、即物的に高級油揚げかもしれない。
 袋の中に口を突っ込んで、何かを咥えて引きずり出す。


「ワゥー、キューン」


 それは一匹の獣だった。頭の部分に赤のメッシュが入った、白毛の獣。その首には陶器製と思われる小瓶がかかっている事から誰かに飼われている様にも見えなくない。

「わきゅ!?」

 訳がわからない。こんなものを自分は望んでいたのだろうか?

「ふむ犬だな。こういう毛並みは珍しいが」
「確かに犬科ね。でも日本産のものとは限らないから、もしかしたら犬じゃないかもしれないわ」
「ふむハイエナとか?」
「それは違うと思うわ」
「まあ、冗談だ。それより弱ってるぞ」
「あら。獣医さんまだ開いてるかしら」

 確かに弱っている。高熱で苦しそうだ。何とかしないと。
 そこまで思考がいって、視線が首から下げた小瓶に注がれる。
 あれは、確か天狗の薬。

「きゅー、わう!!」

 『倍櫓』とかかれた小瓶を前足で掴み、何度も吠えると、気づいてくれたらしい。
 横島の両親が小瓶を手に取り、調べてくれる。

「これは、薬か?」
「でもなぜこの子と一緒に?」
「タマモが健康なその子を望んだ。ちゅうならありえない話や無いで」
「それなら健康な状態で来ると思うけど……」

 あごに手を当ててしばし考えていると、ソファーで寝ていた横島が頭を揺らしながら起き上がる。

「ん〜。なんや? この子どうしたん?」

 目を瞑っているような糸目でどうにか状況を確認したらしい。
 大樹が事のあらましを説明し終わると、頭を揺らしながら横島がタマモのプレゼントへと近づいてゆく。

「親父、前に言ってたやろ。相手の意識が無い時にできる男だけの特権だって」
「ちょっと待て、それは相手が女の子のときだけの特権……」
「女の子やよ」

 首にかかっていた子瓶を取り、中身を口に含んでそのまま相手の口に合わせて……


「きゅ?!? くー?!!!」


 あわわわと混乱するタマモ。

「なるほど、可愛いい女の子に種族は関係ないか。やるな息子よ」

 単に寝ぼけているだけだと思う……

 混乱した思考の中で、タマモはどうしたらいいかを考える。
 くるくると横島の周りを回る。
 キスされている相手に唸り声を上げて威嚇する。
 キスされた相手の方は状況が理解できていないのか、ぱちくりと目を開いている。
 ぱちぱちと軽く瞬きをしているだけで身体は硬直している。
 タマモは相手から反応が無かったので、攻撃準備をする。
 そして体ごとぶつかっていった。

「キャン」
「すぴー」

 タマモは全力で二人?にぶつかっていき、弾き飛ばす。
 横島はソファーに倒れこんでそのまま寝てしまう。

「ワウウウウゥゥゥゥゥゥ〜

 もう一方はドップラー効果を表しながら、袋の中にフェードアウトしていった。
 こうして、タマモのプレゼントはタマモ自身の手によって袋の中に返却された。


 さわやかな笑みを浮かべるタマモの後ろから声が聞こえてきた。

「あの犬はいったいなんだったんだ?」

 その疑問に袋の中から返答が届く。


「狼でござる」


 そんな幻聴をタマモは聞いた。




 かなり時間がたちました。エニウェアです。
 前にレスで書いた通り、タマモの単独逆行ものではありません。
 と言うより、逆行物っぽい再構成を書こうと思ったら、タマモが出てこないなと安直に思い書いたのが前の話だったりします。
>「狐?
> ……おまえとどこかで出会わなかったか?」
 これが(唯一の)伏線。伏線でもないような気もします。
 サンタクロースの袋ですが、何処につながっているとも書いてなかったので、未来だろうと過去だろうとつながっている。という事になってます。だから時系列の乱れはそのせいって事で……よく考えたら横島が子供の時だからシロは赤子か生まれてない気が
 次があるとしたら、また子供の頃の話だと思います。大阪弁書けないのに……いっそ標準語で通そうかなあ。
 んでもってオリキャラ解説?

 蛍:ありえるかもしれない未来で横島がルシオラの霊波片を使って作り上げた。式神もしくは使い魔。
   式神の製作法を使ったので分類は式神だが喋る事ができ、ダメージを受けた時の術者へのフィールドバックがないなどの理由で使い魔に近いといわれている。
   当然のように未来の記憶は無い。
   また、そのとき妹である二つの式神がさらに作られたが、こっちは名前が決まっていない。
   そのまんま『蝶』『蜂』はしっくり来なかった。名前募集中。

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