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▽レス始

「リスタート・狐の旅(GS)」

エニウェア (2005-09-03 15:41)
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 自分はそこにいた。

 目がさめたら――そもそも目が覚めるという感覚表現が正しいかどうかもわからないが――自分がそこに在るということに気が付いた。
 自分が何故ここにいるかはわからなかったが、自分がどんな存在なのだかはわかっていた。
 妖怪と呼ばれる存在で、人間いや国家にとって危険な存在に分類されるということを。
 自分自身ではそれほど危険だとは思わないのだが、人間の先入観というのは恐ろしい。
 人間というものはそれほど強くはないが――といっても今の自分にとってかなり脅威になることは間違いない――武装した人間や、GSと呼ばれる存在がどれほど危険かは身に染みて知っている。こちらより強いくせに徒党を組んで襲ってくるのだから手におえない。

 ん?

 身に染みて?

 自分は武装した人間やGSに襲われた経験でもあるのだろうか?

 どうも記憶がはっきりしない。
 目の前にある石から生まれたばかりだというのに何故こんなことを知っているのだろう。

 ……思考がずれている。
 今重要なことは自分の正体より、身の安全のほうが先だ。
 絶対にそうだ。
 けっして、トランクに詰められて海に落とされそうになったり、鞭のような何かでどつかれそうになったことを思い出しそうになったからではない。

 ぶるぶる。

 ……そういえば実際に海に落とされたり、ボロ雑巾になるまでしばかれている男を知っている気がする。
 何度も頭を振る。とりあえずは頭の中でお金〜お金よ〜と叫んでいる声を振り払わなければいけない。
 この声の人物は自分にとって生命に危険は感じないが、ある意味恐怖の象徴のようだ。

 ぶるぶる。

 ……

 はっ!
 今はこんなところで怯えている場合ではない。
 名前は思い出せないが、その女から逃げるためにも、現状を打開しなくてはいけない。

 まず、自分は危険な存在だと人間に思われている。
 このまま隠れていても時間の問題でいずれ見つかる。

 そうしたら、鞭を持ったGSが追ってくる。そしてボロ雑巾になるまでしばかれる。

 ぶるぶる。

 ……どうしたらいい?
 そこではたと気づく。逆転ホームラン。
 隠れてもだめならば、自分から見つかればいい。
 自分がそれほど危険な存在ではないと認めてもらい、保護してもらうのだ。
 我ながら名案だと自画自賛したところで思い直す。

 誰に保護してもらう?
 自分はここで転生したばかりだ、心当たりなどない。


そこに、巫女服の天然少女と煩悩少年の顔が浮かんだ。


 自分にはないはずの記憶なのに、不思議と彼らならば大丈夫だと思ってしまう。
 彼らに保護してもらおう。

 移動しよう。まず岐阜県か大阪府に向かわないと……

 ?

 岐阜か大阪?彼らは東京にいるはずだ。
 いや彼らは東京にいない。

 相反する記憶が交互にあらわれる。

 まずは近場から、岐阜、東京、大阪と移動しよう。

 そうして山を降りていった。


『あ、狐さん?』
「きゅう」
『かわいい。何処からきたの?』
「きゅうきゅう」
『そっか話せないんだよね』
「きゅーう〜!」
『言葉は理解できるんだ…いい子いい子』
「きゅう♪」
『いいなあ。狐さんはどこにもいけて
 私も行きたいなあ』
「きゅぅきゅう」

 会いに言ってみた少女はなぜか幽霊だった。
 会話をしてるのかしていないのか分からないが(何しろ一方通行だ)自分を保護するのは難しそうだ。

『あっ! 人が来た。
 ちょっと待っててね』
「きゅ?」

 何をするつもりなんだろう?

 少女は近くにあった大人の頭ほどの石を抱え上げる。
 そして通りがかった少年の後ろに立ち、思い切り振りかぶり、その石を……

「きゅー!!」
『えいっ!!』

 思わず叫ぶと、それに遅れて少女が掛け声と共に石を振り下ろした。

「うわっ。 ゆ、幽霊?」
『ああ……
 また失敗……
 せっかく死んでいただこうと思ったのに……』

「きゅ。きゅぅぅ」

 呆然として声しか出ない。叫んでいなければ、もろに石が直撃していたに違いない。

「こ、これは幻覚だ〜!!
 幻覚じゃなきゃやだ〜〜!!」

 叫んで逃げ出していく少年を尻目に自分も逃げ出していた。
 巫女服の少女に自分の保護は出来ない。
 むしろ立場が逆だった。
 半ば自縛霊と化している幽霊では、二人してGSに目の敵にされてしまう。

 ……とにかく、移動しよう。


「きゅう」
 困った。誰もいない。
 自分の定かではない記憶を頼って来てみたそこは幽霊屋敷だった。
 首をかしげる。
「きゅ〜う?」
 このぶんでは、記憶にある大阪の少年も怪しいような気がする。
 しかし他に当ては無い。
 しばらく記憶にあった屋敷の周辺を歩き回った後、諦めて大阪に移動しようとした時。

 ひゅん……がつん。

 風切音と共に目の前にボウガンの矢が打ち込まれた。
 恐る恐る振り返る。
 そこには、

「むふ、ふふふふうふー。妖怪め〜! 退治してやる」

 幽霊の少女の所でであった少年がいた。
 正確には幽霊の少女が撲殺しようとした少年が。

「幽霊だの妖怪だの、本当にいるわけないじゃないですか。
 ……これは幻覚だ。幻覚じゃなきゃやだ。
 いないものは、いちゃだめなんだ。
 ああ、おばあちゃーん!」

 ……かなり精神を病んでいるような気がする。

 もしかして自分が妖怪だとばれたとか関係なく、幽霊のそばにいたから消そうとしたのか?
 でもどうしてあの幽霊と一緒にいた狐だと分かったのだろう。
 あ゛尻尾隠してなかった。

 視線を少年に向け、ふるふると首をふる。
 あの幽霊の少女と自分は関係ないと伝えようとする。
 が、言葉の話せない自分のジェスチャー通じるわけもなく、さらにボウガンの矢を打ち込んでくる。

「幻覚は消えなきゃだめー」

 脱兎のごとく逃げ出した。
 少年は追ってくる。ボウガンを振り回しながら。
 人間とは、こんなにも恐ろしい存在なのだと認識を深めた。
 全力で走る。
 次第に、いやすぐに距離を離す。
 人間が全力疾走の狐に追いつくのは難しい。
 そのまま路地裏を走り抜け、人間が通れないような抜けないような抜け道を十数通り、一息つく。
 もう追ってきてないだろう。
 安心して振り返ると、

「幻覚は消えなきゃやだー」

 あれはバイクという物だろうか。少年はそれに乗って突っ込んできた。
 慌てて飛びのく。

 バイクは止まれずに歩道に突っ込む。
 通行人を数人はね、ショーウィンドウにぶつかって止まる。

「逃げる奴は幻覚だー。
 逃げない奴は訓練された幻覚だー」

 ダメージがないのか、少年はそのままこっちに向かってきた。
 頭にガラスが刺さってる。
 怖い。
 何故かわからないが、ものすごく怖い。

 よ〜こ〜し〜ま〜

 なぜかこれより怖い光景を思い出した。

 ぶるぶる。

「消えろー!」

 恐怖で呆然としていた所にボウガンが打ち込まれ、足を掠める。

「ふわははは。とどめだー」
「きゅっ!」

 もう一撃を食らおうとしたところに、さらに別のバイクが突っ込んできた。
 あれはスクーターとかいうものだろうか。
 前方にいるボウガンをかまえた少年を見て、スピードを落とすどころかあげて少年を跳ね飛ばす。

「ぺぎゃっ!!」

「……ふんっ」

 鼻を鳴らし視線を自分に向ける。
 こんどこそ全身が恐怖に凍りついた。
 ガタガタと全身が震える。

 どこか記憶にあるその少女は、記憶と所々違っていた。

 艶のある亜麻色の髪は、自分で切ったのか無遠慮にばっさりと切られている。年も記憶にあるのと違い若い。

 しかし一番の違いはそこではなかった。

 氷のような目をしていた。彼女は感情を表す時は烈火のごとく表すはずなのに……

 そのまま彼女は視線を前に戻すとスクーターのアクセルを入れ走り去っていった。

 ……こ、怖かった。
 ガタガタと震えている自分の後ろで、

「きみー。
 街中でそういうものを振り回しちゃいかんよ。
 第一人をはねておいて、何をしとるのかね」

 かけつけた警官がはね飛ばされた少年を捕まえていた。
 少年をはねた少女は放っておいていいのだろうか。

「ぼっ、僕は現在除霊中で」
「免許証は?」
「えっ?」
「無免かね?
 じつにいかんな。
 名前は?
 金成木英理人?
 あの金成木財閥の?
 いけないな、そんな人間がこんなことしちゃあ」

 ご愁傷様。

「そんなことより妖怪を」
「まず病院だな。そのあと事情聴取だ」

 大阪行きの電車はどこだろう?
 パトカーの音を尻目に、駅へと入っていった。


 大阪は広かった。とても広かった。一日では回りきれないぐらいに。
 結局二日かかって、目的の家を探し当てた。
「きゅう」


『横島』


 表札にそうかかっている。
 その下に、

 父  大樹
 母  百合子
 長男 忠夫

 となっているから間違いはないと思う。

「きゅー! 
 きゅっきゅー!」
 呼びかけてみる。

「んっ?
 なんだー?」
 気のない声と共にバンダナを頭に巻いた少年があらわれる。

 十羽一絡げにされそうなその顔の下に、限りない優しさがあるのを知っている。
 その姿を見て飛びつこうとした自分はそこで踏みとどまる。

 幽霊の少女と亜麻色の髪の少女の姿がよぎる。

 彼も他の二人のように記憶と違う性格をしているのだろうか。

 少年はあとずさった自分をまったく気にせず抱き上げた。

「狐?
 ……おまえとどこか出会わなかったか?」
 そのまま私を優しく撫で上げる。


 会いたかった。


「きゅ?
 きゅ〜♪」

 思わず甘えて全身を擦り付けるを見て、困ったように横島は笑顔を溢し。

「なあ、おかん〜。
 この子飼ってもいい?」

 家の中に呼びかけた。


 おまけ
「なあ、おまえの名前なんにしたらいいと思う?」

 そういって、少年がゆっくり私を撫でながら言う。

「きゅう〜♪」

 好きに決めて欲しい。あんたなら、きっと私にふさわしい名前を付けてくれるから。

「ん〜……決めた!」

 しばらく考えたあと。いい笑顔を浮かべて。私を見つめた。

「おまえの名前は………………………………………………シロや!」

 とってもイイ笑顔だった。




 前によろず掲示板に投稿した事があるエニウェアと申します。誰も覚えてない気がする。
 書く間に思った事なのですが、おそらく、長編を書くことは自分には無理だと思いました。
 ですから出来るだけ一話完結に……できたらいいな。
 長編がベースだから、ほんのり逆行色です。
 ……ちなみに美神さんやおキヌちゃんは嫌いではありせん。でもこんな感じに。
 ただ単に
 タマモに対してシロと名づける横島。その言葉にブチギレルタマモと始まる大乱闘。 
 が書きたかっただけなんですが。そんなものぜんぜん入ってないし。
 後はタイトル被ってないかが気になったり。

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