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▽レス始

「世界はそこにあるか  第21話 (GS)」

仁成 (2005-09-04 22:18/2005-09-04 22:51)
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横島は事務所の扉を勢いよく開けると、いつものように仕事にやってきた。


美衣の事件が終わってから、初めての事務所である。


「ちわー、美神さん」

「こんにちわ、横島クン」

今までみたこともないほどの笑顔だ。

だがその表情と裏腹に、背後から瘴気というか、どす黒い何かが大量に吹き出し、漂っているような気配を感じる。


「どっ、どういうことだ心眼!!?
あの気配は一体……」

『……ワレにもさっぱり分からん。
ただ一つ言えることは……頑張れ』


意識下で心眼に助けを求めるが、あっさり突き放される。

さすが心眼、と心の中で泣いたが、今は泣いているときでないことを察し、こうなってしまってた原因を考え始める。


仕事はしっかり完遂してきたはずだ。
クレームが来ているなんてありえないだろう。

当然、覗きも下着ドロもしていない。


大量に嫌な汗をかきながら、途方に暮れていると、美神のほうから口を開いた。


「仕事、ちゃんと終わらせてくれた?」

「はいっ! もちろんっす!」


背筋をピンと伸ばし、敬礼はしていなかったが、まるで軍人のように答える横島。

なぜか先ほどより、プレッシャーが増したような気がする。

そもそも、そのことは電話で報告しているはずである。
厳密には、彼が帰ったときはまだ留守だったので、留守番電話に残したのだ。


「みょ、妙神山はどうでした?
小竜姫さまは元気にしてましたか?」

声を上擦らせながら、なんとかいい方向に持っていこうとする。

だが、この言葉により、彼女の目つきが変わり、何か核心に迫るヤバめのことを言ってしまったことを、彼は静かに悟った。


「ええ、元気だったわよ。修業も順調に終わったし……。
でね、そこで面白いこと聞かせてもらったのよ……」

何のことかは分からなかったが、もう横島はそこから逃げ出したかった。

なんだか美神がカテジナさんに見えてきた。

これから死ぬのなら、せめて水着美女の大軍を。


「これ、何か分かるわよね……?」

彼女が机から取り出したそれは、見覚えがあるなんてものじゃない。

光り輝くその珠は、彼の能力の具現。


文珠だった。


「!! それは……!」

横島はそれを見た瞬間すべてを理解した。

そして、自分のこれからの運命も。

ただ、小竜姫に対しては、一言こっちにも言っといてくれよっ! と声高に叫びたかった。

自然な流れでバラせないのなら、せめて心の準備だけでもお願いしたい。


「何も言わなくていいわ。
でも今回は、前みたいに光速拳なんて甘いもんじゃないから」

あれで甘いって、一体何するつもりなんですか。

美神が立ち上がり、彼に近づいていくと、横島の周囲に、彼女の絶対零度とでも言うべき冷たい闘気が螺旋状にめぐり始める。

「まさかっ!」

今の自分の状況に、彼女がこれから何をするのか分かり、やたら女難で許嫁が二人もいたおさげの青年が頭に浮かんでしまう。


彼が最後に見たのは、彼女の天を穿つような――スクリューアッパー。

そして次の瞬間には、突如発生した竜巻とともに、事務所を突き破って大空に消え、やがて空のお星様になってしまった。

飛んでいく時のポーズは、もちろんサンデー読者にはおなじみのあのポーズだ。


やはり甘くはなかったが、なんだかおいしいと思ってしまう横島だった。


この話は高橋留美子先生に、特別の許可をいただいて制作されて…………


……いるわけがなかった。


世界はそこにあるか  第21話

――涙が奏でる鎮魂歌――


美神事務所

横島を吹き飛ばした一撃と、そして彼が落ちてきたときにできた、二つの大きな穴はすでになくなっており、部屋も元通りになっている。

美神が放ったのは女傑族の秘奥義なのだが、そこはお約束だろう。

「あー……死ぬかと思った。
今回ばかりは天からパトラッシュが下りてきたからな……」

『天から降りてくるのは天使だ。
確かパトラッシュは、なんだかもう眠いんだ、のほうだろ』

「それはネロよ。あんたら名作を冒涜しすぎでしょ……」

美神が呆れた顔で、このやり取りを終わらせる。

こんなのを許していたら、あの場面で感動し、泣いた人たちの想いはどうなるというのだ。

もちろん美神はそんなこと考えておらず、単に鬱陶しいから、というだけである。

実は子どもの頃、最終回で大泣きしているのだが、彼女が覚えているはずもない。


「じゃあ、今週の仕事の確認でもしましょうか」

美神の持っている書類がやけに多い。
約一週間ぶりなのだから当然か。

「あんたの仕事はこれね」

どさっと彼に書類が渡される。

「それとこれが私ので、こっちのが三人で行くやつね」

もうすでに分けていたのだろう、手際がやたらといい。

横島は渡された書類に、とりあえず目を通し始める。

続いて三人で行くものに。

すべてを見終わると、書類を机に放り投げるようにして置いた。

「なんか……俺の仕事がやたらと多いんすけど」

「……気のせいよ」

気のせいも何も、明らかに彼に渡された書類は多かった。

「まあ、いいか」

それほど厄介なものがあったわけでもないし、当の美神自身の仕事も多かったので、割とあっさり納得する。

もちろん三人での仕事も多かったが、それでも彼一人の仕事が一番多いだろう。

それだけ認めているということなのだ。
たぶん。

「それはそうと、今度の連休明けておいてね」

「なんでっすか?」

「人骨温泉に行くから」

それから、美神は妙神山で聞いてきたことを横島に話した。

ヒャクメが出てきたことには若干驚いたが、それ以外は別にどうということのないものだった。

「別に何事もなければいいんだけど、まあその時は、慰安旅行にでもして、温泉でも楽しみましょうか。仕事も多いことだし」

「おっしゃ!」

温泉でのんびりする、なんて簡単にできないことは分かっているが、仕事が多いことは事実であるし、本心から楽しみではあった。

「それじゃ早速、仕事といきましょうか!」

美神が自らのやる気を出すかのようにそう言って立ち上がると、窓のほうからドンドンと叩くような音が聞こえる。

「美神さ〜ん!」

おキヌだ。
その声を聞いて、美神も何事かと窓を開ける。

「どしたの、おキヌちゃん?」

「お隣の建物に新しいカンバンが出てるんです!
ちょーぢょーげんしょーおかると何とかって……」

それを聞いた途端、彼女の顔が怒りに染まる。

自らの縄張りを荒らされ、“美神令子”としてのプライドを傷つけられた思いなのである。

つまり、なめられている、ということだ。

「いー度胸じゃない!
私の隣に事務所構えて営業できると思ってんの!?」

そう言うと、美神は飛ぶにして出て行ったが、横島は時期のズレに少し首を傾げていた。

すぐに、どうでもいいかと思い直し、彼女の後を追いかけていったが。


「ICPOオカルト犯罪課……!? 通称『オカルトGメン』じゃない!」

勇んでやってきた美神が呟く。

オカルトGメンとは、簡単に言えばGSのお役所版であり、民間のGSが扱いにくい事件や、ギャラを払えない人のためのGSである。

今までは日本にはなく、ほとんどの霊障や怪異は民間のGSが依頼によって解決し、さらにオカルトGメンのような役割は、GS協会がある程度担ってきたのである。

そのオカルトGメンの支部が日本にできたということなのだ。

『まあ、こんなことはどうでもいいがな』

心眼も何かに呟いたが、それこそどうでもいい。

「そうと分かれば、かる〜く挨拶でもしときましょうか。
私の事務所の隣に何の連絡もなしに居座ろうっていうんだから」

怪しい笑みを浮かべる美神。

元々物怖じなど全くしない上に、妙神山から帰ってきたばかりで、怖いものなしの状態だ。

「騒がしいな……。おやっ!?」

突然扉が開くと、スーツを着て、腰まで髪を伸ばした男が出てくる。

「令子ちゃん!? ひょっとして、令子ちゃんかい!?」

「あ……お、おにいちゃん!?」

二人がともに驚愕する。

やはり男のほうは彼女が隣で事務所をしているのを知っていただろうから、美神のほうが驚きの度合いは大きいようだ。

「誰っすか、美神さん?」

少し顔を引きつらせながら尋ねる。

「彼は西条さん。ママの弟子だった人のなかでも一番優秀だった人よ」

「今はGメンの現場責任者をしているんだ」

「へー……じゃあ、ここで一番偉いんすか?」

二人の言葉に横島がなぜか嫌味ったらしく聞く。

「いや、Gメンができたばかりで配属はされていないが、まだ上司となる人がいるよ。
それはそれとして令子ちゃん、彼は?」

「うちで見習いしてる横島クンよ」

美神が紹介すると、横島は手を差し出した。

「よろしく」

「ああ、よろしく」

西条も手を差し出し握手すると、横島は手に思いっきり力を入れる。

彼の握力は半端ではない。
西条は一瞬顔を歪めたが、美神の手前すぐに普段どおりの顔に戻り、握り返してくる。

二人の間でだけ剣呑とも言える空気が漂うが、当然長くは続かない。

「美神さん、横島さん。そろそろ仕事に行かないと……」

おキヌが図ったかのように言ってくる。

「あ! そうね。じゃあまたね、西条さん」

「仕事!? ちょうどいい、君の仕事を見学させてくれないか?
日本で仕事するなら日本のやり方も見ておかないといけないから、是非お願いするよ!」

「いいわ」

西条が何やら嬉しそうに頼むと、美神はあっさりと了承する。

時期が多少違うといっても、横島はこの程度は予想の範疇だったので、これからどうしようか、どうしてやろうかと考えるのだった。


現場への移動中、不意に心眼が横島に話しかけてきた。

『なぜ西条をあれほど意識するのだ?
今はあのときのような、美神に対するわけの分からん独占欲などないだろう』

美神だけでなく他の者に対してもそうであるのだが、今の彼にあるのは独占欲などではなく、執着心だ。

もし彼だけを見つめてくれるなら――気が付くかどうかは別として――それはそれでもちろん嬉しいのだろうが、そんなことは彼にとっての順位はかなり低いところにある。

あるのは、『いなくならないで欲しい』という想いである。

それは目の前からというより、死なないで、ということなのだが。

「ふふ……あいつと俺は前世からの因縁があるだろ?
つまりは魂が惹きあうライバル同士!
言うなれば、項羽と劉邦、お前好みに言えば、アムロとシャア!
というわけだ。
ならば、いろいろせずにいられようか、いやいられないっ!」

表面上は黙って車に乗っているが、意識内では無駄に叫んでいた。
しかもなぜか反語。

『……ふむ。まあ、好きにすればいい』

素っ気無く言いながらも、少し声が楽しそうな心眼だった。


全員が乗った西条のシトロエンが、現場である郊外の倉庫跡に到着する。

美神のコブラはツーシーターなので、わざわざ彼の車を出したのだ。

久しぶりに会った初恋の人の手前、三人では乗れないからといって、さすがに横島をトランクには詰めなかったようだ。

ちなみに横島の初恋は彼自身の愚鈍さのために、自滅していたりする。

さらにはモテていたにもかかわらず、女子が牽制しあっていて、自分はモテないと思い込んでいたという、可哀想だが、限りなく羨ましいポジションにいたのだ。

あと、美神の初恋の人は、時間移動したときに会った横島だったという説もあるが、残念ながらはっきりとは分かっていない。


兎にも角にも仕事である。

ケースとしては、強力な一体の悪霊が、多数の霊を集めてしまったというかなりポピュラーなものだ。

「いい? まずは周りのザコを片付けて、ボスが出てきたら私がやるから横島クンは援護してちょうだい。出来るわね?」

「モチっす。任せてください」

「僕は邪魔にならないように、大人しくしてるよ」

美神は神通棍と破魔札を取り出し、横島は霊波刀を出した。

西条は言葉通り、少し下がったところにいる。

「いくわよっ!!」

その声とともに、二人は敵の中に飛び込んでいった。


横島が機先を制するようにサイキックソーサーを投げつける。

その爆発で程よく散った霊たちを美神が神通棍で切り捨て、それに追従するような形で、横島も霊波刀で攻撃を仕掛けていった。

久しぶりの仕事でありながらお互いの連携はなかなかうまく取れており、それそれの死角をカバーするように動いている。

だが主役とも言うべきは美神であり、横島はあくまでも補助であり脇役のように動く。

それは彼があくまでも彼女のアシスタントであるということもあるのだが、彼女が妙神山でどの程度変わったのかを見たいということもあった。

さすがに小竜姫がみっちり教えただけあって、体の動きが見違えるほどいい。

霊力自体はほとんど上がっていないものの――それでも驚くべきことに5マイトほど上がっている――霊波が前よりも非常に力強く感じる。

さすがは小竜姫さま、と彼がのんきに思っているうちに、美神の実力の向上のためか、それとも二人のコンビネーションのためか、敵はかなり少なくなっていた。

すると、ここのボスとでも呼ぶべき、周りのザコ霊よりも数倍大きい悪霊が出てくる。

「横島クンッ!!」

この言葉だけですべてを察し、美神の先に立って、敵に突っ込む。
美神がボスだけに集中できるようにするための露払いだ。

それを見て、美神も前に出た。

「極楽へ……行かせてあげるわっ!」

振り下ろした神通棍が悪霊を一刀両断にする。

これで仕事は終わりだ。
僅かに残っていたザコ霊も、横島がすべて片付けていた。

「ふう……お疲れ」

「おつかれ〜っす」

「お疲れ様でした、美神さん、横島さん」

『乙』

お互い顔を合わせて労をねぎらう。

今の二人にとってはそれほどしんどい仕事ではなかったが、こういうこまめなやり取りこそが人間関係を円滑にするのだ。

「さすが令子ちゃん! あの先生の娘だね!」

そばで見ていた西条は手放しでそれを褒める。

だがそれから、一人でぶつぶつと呟き始め、周りの者もその様子に少しひいている。

そして突如、何かを決心したように美神の顔を見つめる。

「令子ちゃん! オカルトGメンに入ってくれ!」

「えっ!?」

「最初からそのつもりだったんだ。
高額の報酬を取れる最優秀のGS、そうゆう人物が所属してこそ、Gメンの価値がある!」

美神は西条の言葉に驚きの表情を浮かべている。

もっと言えば、戸惑いだろうか。

「君と一緒に戦いたいんだ」

さらに追い討ちをかけるかのような一言。

だがこんなことを聞いて、横島が食い付かないはずがない。

「ちょっと、美神さん!
あんだけ人に仕事押し付けといて、自分はとんずらする気っすか!!?
そんなの……そんなのおかしいですよ! カテジナさん!!」

「そうですよ! わけもなく悲しくなりますよっ!」

美神に猛然と抗議する。
なぜだかおキヌも乗ってきた。

「だああぁぁぁ!!! ずっと休んでたのに、いきなりまた休めるわけないでしょ!
そこまで無謀なことしないわよ!!
――というわけなのよ。ごめんなさい西条さん」

「あ、ああ。そっ、そういうことなら仕方ないね」

美神の言葉を聞いて明らかに狼狽した様子を見せる。

女性に誘いを断られたことなどほとんどないだろう。

さらに美神が過去自分に惚れていたことを知っており、成功をほぼ確信していただけに、そのショックも大きいのだ。

横島は西条のその様子を見て心の中で笑い転げるのだった。


あれから数日。

今日も今日とて、学校に通いつつも忙しく仕事をこなしてきた。

本音としては学校に行く暇などないが、またいつ百合子が強襲してくるとも知れないので、あまり学校をないがしろにするわけにもいかない。

彼女の行動だけは誰にも計ることができないのだ。

それなりに疲れて、棲家であるアパートに帰ってみると、ドアのところに一枚の封筒が挟まっていた。

訝しがりながらもそれを見て、横島は吹き出す。

なんじゃこりゃ、といった感じだ。

「まだ僕にはからかえる奴がいるんだ……、こんなに愉快なことはない……。
分かってくれるよね、西条……」

『確かに、これからはいつでも会えるからな』


薄暗い廃工場、ここが指定された場所である。

「よく来たね。横島クン!」

奥から西条が出てくる。

「よく来たねって、こんな面白いもの貰ったら来ないわけにいかないだろ?
なんだよ、この決闘状って。お前もしかして学生時代、番長とか目指してたクチか?」

「紳士とは常に正々堂々であるべきなのさ」

横島はけらけら笑っているが、西条はまるで意に介さないようだ。

それを見てつまらなそうに笑うのを止めた。

「で、何の用だ?」

「悪いが君のことはいろいろ調べさせてもらった。令子ちゃんが事務所を開いたときからの助手。そして最近霊能に目覚め、GS試験に合格し、そして今は見習いとして活動中。
だが、こんな記録以上に、彼女は君たちに、何より君に心を開いている。
……認めたくはないがね」

「それが何なんだよ?」

「君が彼女に相応しいかどうか試させてもらおうと思ってね。この前、除霊は見せてもらったが君は彼女のアシスタントに徹していて、はっきりとした実力が分からない。
さあ! かかって来い、横島クン!
もし僕に勝てたら君のことを認めてあげよう!」

「じゃあ、俺が勝ったらてめーは美神さんに相応しくないって認めんのか!?」

「いや、それはない! 僕が彼女に相応しいのは分かっているからね!」

『ズコーーーッ!』

「何でそんなこと自信持って言えるんだてめーわっ!
それと心眼! ズコーーってなんだよ!? ズコーーって!
確かにそう言いたいのは分かるけど!」

横島にそんなことを言われても、相変わらず自信満々な様子で、彼の愛剣である『ジャスティス』を鞘からするりと抜く。

その様子に思わずこちらも『虚皇』を抜きそうになるが、何とか思いとどまった。

虚皇と単なる霊剣であるジャスティスでは、名刀と百均で買ったカッターナイフほどの差がある。

おそらくジャスティスは簡単に砕けてしまうだろう。

「もはや問答は無用だ……。いくぞっ!」

「来やがれ、ロンゲ中年!」

横島は振り下ろされるジャスティスを霊波刀で受け止める。

余裕の笑みでそれを強引に力で押し返すと、胴に向かって蹴りを放つが、今度は逆に剣の柄で受け止められてしまう。

メドーサとの戦いでも使ったが、横島は霊波刀と蹴りのコンビネーションを得意としている。

やはり西条は口だけでなく、かなり強い。

剣も使われるのではなく、確実に使いこなしている。
だが惜しむらくは彼が剣士でないところだろう。

蹴りで距離をとった横島は、素早く幾度も突きを放つ。

「くっ……!」

この高速の突きはさすがに捌ききれなくなり、幾重もの傷を受けながらもさがると、腰のあたりから拳銃を抜き、横島に照準を合わせて引き金を引く。

「のわっ!!!」

飛んできた銃弾を間一髪で避ける。

前回も銃弾を霊波刀で落としていたのだ、人外としか言いようがない。
もしくは五右衛門か。

「紳士は正々堂々とちゃうかったんかぁぁーー!」

横島の叫びが廃工場にこだまする。

「君を倒すためなら手段を選ばん! それこそが正義だ!」

そういうことを臆面もなく言えるのが凄い。

「ほーお……。ならこっちも遠慮せんぞ!」

そう言うと横島の周りに霊気の玉が一つ、二つと現れどんどん数を増やしていく。

あっという間に、数十の玉が横島の周りに浮いていく。

「よっしゃ、いくぞ!」

その言葉とともに、霊玉は西条の周りと取り囲む。

「なっ!」

西条も突如現れたその玉を銃で狙い撃つが、ひらりひらりとかわされる。

霊玉<サイキックファンネル>は横島の趣味の産物のよう――実際そうである――だが、実はかなり凄い技なのだ。

作り出した霊玉一つ一つを、条件付けするではなく、全く個別に不規則に動かす能力は、並の処理速度と空間把握では到底不可能である。

これを初めて見た老師が、嬉しそうに溜息を吐いたくらいである。
残念ながらこの凄さを、今の横島では実戦で完璧に使いこなすことはできないのだが。

いまや西条は、まさしく完全に袋の鼠。

窮鼠猫を噛むことすら無理なほどだ。

「西条! お前には、タイガー以下のギャグキャラに堕ちたこと後悔する時間をも……与えんッ!!!」

西条はタイガーが誰かは知らなかったが、タイガー以下のギャグキャラという言葉を聞いた瞬間、全身に寒気が走るのを感じた。

「ちょっ、ちょっと待て。冷静に話し合おうじゃないか!
お互い紳士だろう!!」

体には冷や汗が大量に流れ、声も震えている。

横島はそんな西条を見て、にやりと笑う。

元々売られた喧嘩であり、慈悲をかける気などこれっぽっちもなかった。

「当たれェェェーーーッ!!!」

「ぎゃーーーっ!!!」

ここまでのことをしておいて、当たれも何もない。

大きな爆発の後、そこには尻を突き出すようにして四つん這いで倒れる西条の姿があった。

非常にマヌケに見えるが、この場に勘九郎でもいれば、かなり危険な格好だ。
ピートは……どうだろうか。

「西条、てめーはこの先普通のキャラに到達することは決してない。
ひたすらギャグキャラを彷徨い続ける――『無限に』
終わりのないのが『終わり』 それが俺の鎮魂歌<レクイエム>だ。
さあ帰ろう、心眼」

『ああ……行こう』

横島は“強引”にそう締めくくると、救急車を呼び、その場を後にした。


帰り道、横島は心眼にいきなりこう切り出した。

「なあ、心眼。俺の勝ちは最初から決まってたんだろうなぁ」

『まあ、西条の能力は剣士としての一騎打ちではなく、どちらかと言えば作戦の立案と遂行に特化しとるからな。逆にお主は小竜姫とも修業しておるし、そっちが得意だ』

「そうじゃない。あいつは一人だったが、俺には韓信がいたから……。
そう……。

―――心眼という名の、大元帥が……」

『いまいち。60点だな』

それでも単位はくれるらしい。

「ええー! かなりラヴラヴって感じしねえか?」

確かに、お前がいてくれたから勝てたんだ、というのはかなりくるものがあるだろう。


『色気がない』


心眼のダメ出しの的確さに、横島は少し涙を浮かべるのだった。


あとがき
「怖い人だけにはならないでね」
お前がいっちゃん怖ーよ!!!

どうも。リーンホースJrの特攻のところでぼろ泣きした仁成です。
やっとパソコンが自由に使える環境になり、21話出すことが出来ました。

死津喪比女編待ってくれていた人すみません。
今回は、18話と同じノリの話です。
終わったはずのネタをまた繰り返す、というのが今回のネタですw こんなのでも話に合わせようといろいろ考えてるんで、笑って済ませてやってください。

西条の愛車は勝手にシトロエンにしましたが、原作で公用車じゃない彼の車って出てきたんでしょうか。やっぱりイギリス帰りだからアストンマーチンとかの方がよかったかな。(イギリス車はなくなったけど)

ちなみに、いくら横島が言おうとギャグキャラでタイガー以下は存在しません。彼こそがギャグキャラヒエラルキーの底辺ですw 頂点は心眼w


あと皆様に聞きたいことが。
アシュ編の美智恵さんは美神が中学生のときの彼女らしいですが、あの時間移動は特別な意味があったんですかね? 無ければそれでいいんですが、分からないんで、教えていただければ幸いです。


今回も読んでいただきありがとうございます。


ヴァイゼさん、柳野雫さん、桜葉さん、casaさん、てぽさん、響さん、ラルクさん、レス大変ありがとうございます。非常にありがたいです。
前回から日もあいてしまいましたし、外伝も挟んだんで、今回は個々に返すを控えておきます。(またか)
一応外伝のレス返しはあの記事に直接つけました。


ですが一つ。
『種割』……いつか使おうと思ってたのにーーー!


ではw

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