自分はあの時、真の自分に目覚めた。妻とその浮気相手を撃ち殺した、あの時。
友人に誘われ始めた狩猟だが、ずっと欲求がたまり、あの時はじけたのだ。
人を撃ちたい。人間を狩りたい。
神はそんな私に応えてくれた。
「さあ、赤頭巾ちゃんたち、15分経ったよ。逃げられるかなあ?」
狼男の影が伸びる。そこから数多の霊体が湧き出す。犬の霊体が。
仮面ライダー K 第6話 狩人の誇り
「たすけてえええ」
「なにごとでござるか!」
山の中を闇雲に走っていた明美。仲間とはとっくにはぐれていた。自分をおいて逃げたのか、その逆かはわからない。それでも見知らぬ少女二人に会い、安心した。この二人は頼りになるまいが助けを呼んでもらえる。
「ば、ばけもの、ばけものがああ」
「ばけもの?」
「狼男よ!早く警察に!」
「狼男?」
「何だ、あんたの仲間?」
「え」
凍りつく明美。そういえば背の高い少女の尻には尻尾らしきものが見える。
「あ、あんたたちも化け物、あいつの仲間なのね!いやああ!」
走り出す明美。その手を捕まえるシロ。
「拙者たちはゴーストスイーパーでござる」
「いっしょにしないでよ」
「ゴーストスイーパー?じゃ、あのピエトロ・ブラドーとか、ジーメンの西条さんとか、美神令子とか。そうか、ピートって半分吸血鬼だもんね。狼男のGSがいたっておかしくないわよね」
「ま、まあ、そうでござる」
一転してはしゃぎだす明美に辟易とするシロ。突っ込みたい点は多々あるが恐怖でパニックを起こされるよりましと考え、何も言わない。
「同じ狼男なんでしょ、責任もってやっつけてよ」
「・・拙者は女でござる」
これだけはいっておくことにした。確かに人狼の仕業だとしたら、名誉にかけてほうっては置けない。
「まかせるでござる。先生、草葉の陰から見守ってください」
よこしまの写真を取り出すシロ。
「まだ死んでないでしょ」
あきれるタマモ。その顔が引き締まる。
「何か来る!」
わんわんわんわんわんわん
犬のほえ声の大合唱。それとともに霊体の犬の群れが彼女たちに襲い掛かる。
「犬の癖に、狼に挑むとは生意気な!何体来ようと敵ではない」
霊刃刀を目にも留まらぬ速さで繰り出すシロ。一突きごとに一体ずつ消えていく。
ほう、似ているな。KとEvilに。
「すげー!あのこすげー!」
「まあ、あれだけが取柄だから」
そういうタマモもシロの背後にまわろうとする敵を狐火で焼き払う。
「うわー!うわ!うわー!」
「少し静かになさいよ」
軽い躁状態になった明美にうんざりするタマモ。その顔が厳しくなる。
「こっちからも!」
「え?」
なんと逆方向からも霊体犬の群れが来た。
「こっちへ!」
明美を自分の背後に回す。同時に広範囲に狐火。しかし山火事を恐れおもい切って出せない。せいぜい防壁代わりだ。
「こいつら、何匹いるんでござるか!」
「何匹いようと敵じゃないんでしょ、しっかりしなさい!」
シロをしかって、敵を観察する。肉眼でするだけではなく霊視もする。美神の元で手に入れた能力である。
(このこたち!)
敵の正体を知ってわずかに動揺するタマモ。燃える防壁が揺らぐ。
「ちい!」
一体が抜けてきた。華麗に後ろ回し蹴りで弾き飛ばす。
「ちょっと、まずいかも」
「いやああ、もう、こんなのやああ!おうちにかえるう!」
「ばか!もどりなさい!」
パニックを起こし、タマモの制止を振り切って逃げ出す明美。希望と絶望を何度も味わいその落差に耐えられなくなったらしい。
もうすぐだ。もうすぐ帰れる。帰ったらお風呂はいって、漫画読みながら寝てしまおう。明日英語のテストあっけど、いいや、サボろう。明日も、今までみたいにずっと、ずっと
ぱあん
一発の銃声がすべてをとめた。
「しまった」
唇を噛む、タマモ。自分の弱音をきいて、張り詰めた心が切れたのだろう。それで死んだのは結局、彼女が弱かったせいだが、自分にも責任がある。
(仇ぐらいは討ってやるか、この子達の分も)
見れば霊体犬たちは攻撃をやめ、自分たちを遠巻きに囲むだけだ。
「おやおや、私の犬たちがなにをしているかとおもえば」
右手が銃となった狼男が現れた。左手には二人の少女の死体を引きずっている。
「これはこれはかわいいお嬢さんたちだ。ついでの獲物としてはありがたい」
タマモの目が火を吹く。疲れきっていたシロの体に力が戻る。
「この犬たちもそうやって面白半分に殺したの?」
「な!」
タマモの言葉に目をむくシロ。
「ああ、こいつらは元々野犬だよ。増えすぎて人を襲うようになったんで、駆除に協力したのさ。そうしたら私を恨んでずっと取り付いていたんだそうだ。まあ、今では私の忠実な猟犬だがね。ようやく有意義な存在になったよ」
「この子達の多くは元々人間に捨てられた子達よ。勝手にかわいがって、勝手に捨てて、勝手に殺して、人間ってどこまで勝手なの」
「はははは、いや耳が痛い。いや、私はもう狼だから気にすることはないか?はははは」
「狼は楽しみのために獣を殺さぬ。そんなことするのは人間のみでござる。拙者、人狼として、武士として、ゴーストスイーパーとして、貴様を許さん!成敗する!」
怒りとともに切りかかるシロ。霊体犬が阻む。
「く!」
今まではばらばらの攻撃だったが今度は違う。一匹の攻撃に隠れてもう一匹の攻撃が自分を襲う。
「あんたの指揮に従っているのね!なら!」
タマモの幻術が敵を襲う。
ごおおおおおお!
狼男がほえた。幻術は跡形もなくかき消された。
「く!」
「いやいや、勇ましいお嬢さんたちだ。だが私には勝てんよ」
どん
「ぐあああ!」
シロの足が血を吹く。
「そんな馬鹿な、銀の銃弾じゃなきゃ」
「この弾丸には私の呪いがかかっている、人だろうと、魔物だろうと殺せるのだよ」
「おのれえ!」
血を流しながら立ち上がるシロ、それを支えるタマモ。
「タ、タマモ」
「一人だけ逃げるのはなしよ」
「す、すまぬ」
「うーん。麗しい友情だね」
笑いながら銃口を向ける狼。
貸しを作っておくか。Kに。
がう!
狼男が悲鳴を上げる。その腕に白い細長いリボンのような布が刺さっている。
「何だ、これは!お、お前は一体!」
いつの間に現れたのかそこに男が一人いた。美しい男だ。本当に男かどうかもわからない。その手から白い布が伸びている。
「地獄の道化。狂言回しさ」
狼の腕から引き抜かれた布が男の周りをくるくると輪を作って回りだす。
回転が終わり、そこに悪魔のようなピエロの姿が現れる。
「そうか!おまえがCJか。我らG・O・Dの裏切り者」
「俺はお前らの仲間になった覚えはない!」
布が縦横無尽に踊りまわる。襲い掛かった霊体犬が切り刻まれる。
どん!
狼の銃が火を吹く。左腕が白い光を発し、亀の甲羅のような盾が現れる。銃弾はすべて受け止められる。
「意外とたいしたことないな」
失望したように言うCJ。
「おのれ!ならば、これならどうだ!」
狼の怒号とともに犬たちが白い光の玉となり、狼の口に吸い込まれる。
どん!
またも日を吹く銃、しかしその銃口から現れたのは巨大な魔犬の姿。
「なにい!」
盾ごと吹っ飛ばされるCJ。
「ふふふ、どうだ、私の魔狼弾は?」
「なるほど、こんな奥の手があったか。ほしいな、その力」
「ほしければ奪ってみよ!」
「く!誰もいない」
「でもヤクシャのメールにはこの別荘にいるって」
「もう狩を始めてるっとことか。あのいかれピエロめ、とめようとしなかったのか!」
はき捨て、別荘を飛び出る赤木。ドアの外で変身する。
「一番高い木は、あれか」
手近の木に登り、体重をかけてひん曲げ反動で飛ぶ。それを繰り返し一番高い木にしがみつく。ましらのように木を登りてっぺんで文珠を出す。
こめる文字は<百><目><銃>。
Kの体を守る装甲が緑色に変わる。右手が銃となる。
精神を集中するK。
自分の体が空気となり、風となって広がっていく錯覚。虫がリスが鳥がさまざまなものが脳裏に浮かぶ。
「見つけた!何、シロにタマモ!」
Kは敵の姿を認めた。同時にそのそばにいるシロとタマモの姿を、そしてそれをかばって戦う者も。
「俺に貸しを作っとこうというわけか。いいだろうすぐに返してやる。疾風!散華!」
右手の銃から光の奔流がほとばしる。
「ほしければ奪ってみよ!」
その瞬間光の奔流が狼の腹を貫いた。
「うわ!何だ!あれ?なんともないぞ」
「?」
いまのはKの疾風散華。確かヒャクメとかいう神の力をコピーし、敵の位置を発見、同時に分析し、弱点を見抜き、敵の霊波を相殺する魔力を発射。弱点があるのでめったに使えないが、一撃必殺、百発百中が売りの、敵を光の粒子にして吹っ飛ばす大技だ。その破壊力はやつの技の中でも最大の破壊力を持つ。それでダメージを受けないとは?
「なるほど、借りは返したということか。後は好きにしろと」
「なにをわけのわからんことを」
銃口をCJに向ける。かちりという音しかしない。
「な、なに」
「残念だったな。犬どもは今の光で消されたんだよ」
布が狼の首に伸びる、
「な、何、待て、金なら出す、だから・・」
首が落ちた。
「ハイ、これで頭を冷やしなさい」
「すまん」
リンダから濡れタオルを受け取る赤木。
疾風散華を使うとき、KはスナイパーKという特殊形態に変身する。しかし弱点が三つある。
一つ、神経が過敏になるため痛覚も拡大し、痛みに弱くなる。
二つ、魔力を一気に大量消費するため、一撃必殺を余儀なくされる。
何より情けないのは、脳を酷使し普段の何倍も負担をかけるので、変身をといた後その反動もきつい。要するに知恵熱が出る。
「普段、頭使ってないものねえ」
「ほっといてくれえ」
シロとタマモはしばらく考えた後、一連の事件について、美智恵に連絡を取った。
CJと呼ばれた男は、狼の首を持っていつのまにか姿を消していた。
その首は後日発見されたが、解剖に回された後、その頭蓋骨の中が空っぽであることが判明した。眉間の穴から吸い出されたように、舐めとられたようにきれいに。
「剣」のカリスに当たるキャラ登場です。猿少年11号さまと一部ネタがかぶってしまいました。
なお、Kの能力はお分かりのとおり、クウガを基にしています。例の弱点は元々放映当時に考えたペガサスフォームの弱点です。エネルギーを使いすぎるというより自然な気がしたのですが、どうでしょうか?