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「小笠原エミの心情5(GS)」

テイル (2005-08-20 21:44)
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 横島の姿は、あっと言う間に視界から消えた。出会った当初から身体能力は高い方だったが、現在では予想を遙かに超える高みに至っているらしい。
 横島を見失っても、エミはその足を止めなかった。彼の行く先はわかっている。先ほど霊圧がはじけた場所、そこに向かっているはずだ。何故そこに向かったかはわからない。横島にしかわからない、何かを感じたのだろうか。それとも先ほどの霊圧が何か、最初から知っているのか……。
 やがてエミの視界に、見覚えのある通りが広がった。それもつい最近見た気がする。
(……あ。昼間の)
 昼と夜に違いですぐには気がつかなかった。この道は、少女についていく横島を尾行したときに通った道。
(ということは)
 この道の先に何があったか、エミは思い出した。この先には少女達がデートした、緑溢れる公園があるはずだ。そこがおそらく目的地。
 やがてその考えが正しいことが証明された。公園の入り口。そこでエミは、激しくぶつかる霊圧と甲高い剣戟の音を聞いたからだ。
 エミは呼吸を整えると、気配を消して公園に足を踏み入れた。


 公園の中で、横島は何者かと戦っていた。横島より一回り大きい男だ。帽子を目深にかぶり、その顔はエミには見えない。
 木陰から二人が戦う様子を窺ったエミは、二人の戦いに息を飲んだ。二人が繰り広げている戦いに、だ。
横島が繰り出した霊波刀を、男が同じように霊波刀で受け止める。そのまま受け流すように逸らしながら、男は霊波刀を振るう。髪をかすめながら横島が避ける……。彼が正当な剣術を学んだという話は聞いたことがない。修行と言えるものは、妙神山で猿神に施されたもののみのはず。そしてその修行は剣術とまったく関係がないと聞く。その時の修行は霊能に対するもので、実際横島はその修行で新たな力に目覚めている。また、令子が横島に霊能及び戦闘に関する指導をしているとも思えない。彼女が横島に学ばせたのは、普段から見せている戦略や戦いに関する心構え、そして考え方だ。
 それなのに横島のこの強さは何なのだろう。
 横島が霊波刀を振るう。その動きにエミは魅了される。横島の一切無駄のない動きは、実践でのみ練り上げられた確かな強さがあった。我流なだけあって何の技巧もないものの、しかしその斬撃は鋭く、そして速い。シンプルなまでにそれだけの動き。そしてその動きは、エミが知覚出来る範囲をはるかに超えている。
 一呼吸で実に七回の斬撃。それらは一つ一つ正確に相手の急所を狙う。もし横島と戦っていたのがエミだったなら、これだけで勝負がつく。しかし残念ながら、横島と戦っている相手は只者ではなかった。横島が繰り出した斬撃をすべて受け止めると、横島に負けないほどの鋭く速い斬撃を放つ。横島はそれらをかろうじてかわすと、いったん距離をとった。
 横島と男は、相手の隙をうかがいながら向かい合った。やがて男がいらついたような口調で叫ぶ。
「貴様、なぜ邪魔をする!!」
 その声はどこかで聞いたことがある気がした。
「……決まってる」
 男に横島が言葉を返す。その表情は、今までエミが見たこととのない真剣なものだ。
「これ以上、あいつを苦しめることを許せないからだ」
「苦しめる? 俺があいつを? ふざけるな。俺はあいつを幸せにしたいだけだ。ともに人生を歩み、与えられなかった幸福を与えたいだけだ!!」
 男の言葉に横島の顔が歪んだ。それは怒っている様な、それでいて悲しんでいるかのような表情だった。
「……お前の気持ちはわかる。でもなぁ、やり方を間違えてんだよ。お前はやっちゃいけないことをしちまったんだ。そして……間違った道を進んじまってるあんたを止めるのは、俺の役目なんだよ!」
「貴様……」
 男から、恐ろしいほどの霊圧が放たれた。
「あいつを、忘れたのか!? あいつへの気持ちを、あいつの自分への気持ちを……忘れたって言うのか!!」
「忘れるわけがないっ!! 忘れるわけが……ない。でもなぁ!」
 放たれた霊圧にひるみもせず、横島が霊波刀を男に向けた。
「それでも踏み込んじゃいけない領域が、手を染めちゃいけないものってのがあるだろう!!」
 二人がにらみ合う。二人から放たれる闘気と霊気がぶつかり合い、そして渦となる。
やがて男がつぶやくように言った。
「意識の、そして想いの差だな。俺にとって、あいつを手に入れることはすべてに優先する」
「俺は、あいつが好きだった俺でいたい。悪魔に魂を売り渡すような真似はできない」
 横島が腰を落とした。いつでも斬り付けられるよう霊波刀を構える。
「相容れないな」
「わかりきってたことだろ?」
「なら……」
 男が仕掛けた。
「死ね!!」
 闘気がはじけた。
 男が怒涛のような斬撃を放った。横島はその斬撃を交わし、あるいは受け止める。
「あ……」
 エミの口からかすかな声が漏れた。男の猛攻に横島が押され始めたからだ。しかしエミは、すぐに心配は無用だったことを思い出す。
 いかに霊波刀において横島を越えようと、横島には他の誰にも真似できない霊能があるのだ。万能ともいえるその能力を使用すれば、どのような状況でもひっくり返すことが出来るし、どのような相手も倒すことが出来る。
 横島が男を蹴り飛ばした。わずかに開く間合い。そのちょうど中心に、輝く小さな珠が出現する。それは文珠。ある一定のキーワードから、使用者の望みをかなえる力を持つ至宝とも呼ばれる能力。今回文殊に浮かぶ文字は、『破』という文字。
 しかしその文珠の出現に、あせったような表情を浮かべたのは横島のほうだった。
「ちっ」
 横島の手に文珠が出現する。その文珠に『封』という文字が浮かぶと同時に、『破』の文珠に向かって投げつけた。二つの文殊は互いに込められた力を解放して激しくぶつかり合い、そして双方共に消し飛ぶ。
(どういうことなワケ? 今の行動はまるで……)
 『破』という文珠の効果を、横島が防いだかのようだった。
 エミが疑問を覚える中、二人は再び霊波刀で斬り結んだ。じりじりと鍔迫り合いをしながら相手の隙を窺う。
 不意に横島が霊波刀を消した。相手の態勢が崩れる。その隙を逃さず鋭い一撃を顔面に向かって放った。
 男はしかし、その一撃を余裕でかわした。どうやら男の体捌きは横島の上をいくらしい。しかし横島も只者ではない。一度かわされた手を戻す際、栄光の手を伸ばし鞭のように振るったのだ。
(うまい……)
 しかし残念ながらその一撃が男に触れることはなかった。ただ男がかぶっている帽子を飛ばしただけだ。初めて男の顔が顕になる。
 そして……。
「っ……!!」
 エミはその顔を見て息を飲んだ。
 あれは何だ? あの顔は何だ? あれは、あの男は――!?
「やるな」
 横島に男が口を開いた。
「厳密には異なる存在とはいえ、基本的に俺のほうが長く生きている分、お前よりも強いはずなんだがな……」
 目つきを鋭く横島を睨む。
 その男の顔は、エミが見知ったものだった。いや、正確には違うがとてもよく似ている、似すぎているものだった。
 男の顔。それは、多少年をとっているとはいえ……紛れもない横島のものだったのである。


あとがき
 だんだんと難しくなってきました。
 予定より話数が増えそうな予感がします……。

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