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▽レス始

「あるいは、幸せの詩を 第4話(GS+ネタバレのため、今は秘密)」

長門千凪 (2005-08-19 10:47/2005-08-19 10:55)
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第4話 邂逅


「うわっと。」


突然の強く吹いてきた風に地図を飛ばされそうになる。
どうやら潮風が強くなってきたようだ。


「ふう。危ねー危ねー。
――――――さてと、もう少しで待ち合わせの場所なんだが………。」


地図を片手に待ち合わせ場所を探す。
民家の数が圧倒的に少ないので探しやすい。
それが喜ぶべきか否かは置いておくが。


ザーン………………ザザーン………………


潮騒の音が絶え間なく響いてくる。
静かな町なだけに、余計耳につく。


「………………」


やはり、どうしてもさっきのことを思い返してしまう。


あの後、横島は砂の城の周辺を徹底的に調べてみた。

――――――しかし、足跡一つ見つからない。

文珠を使った走査も行った。

――――――霊気のカスすら見つからない。

このように物理的な面でも、霊的な面でも少女の痕跡は全く残っていなかった。
あの少女は文字通り“消えた”のだ。
彼女の居た空間ごと切り取られたがごとく。


ならば、あれははただの幻覚だったのだろうか?

――――――いや、それはない。

少女は確かに存在した。
あの砂の城が残っていたのが唯一の証拠。
彼女がせっせと城を作っている姿はしっかりと覚えている。
それに、あの綺麗な砂浜には彼女一人しかいなかったのだ。
否が応でも目立つ。


ならばは何者か?

――――――わからない。

しかし、ただの一般人ではないことは確かだ。
おそらくはこっち側の者だろう。
しかもかなり強力な。

横島は書類上では見習いであるが、実質上は世界有数の能力を持つGSである。
その彼が彼女の消失に全く気付かなかったのだ。
彼女が幽霊で、存在が希薄なだけだったと言う可能性もあるが、それだと彼女が砂の城を自らの手で作っていたことへの説明がつかない。
存在が希薄ならば、物理的干渉を加えることなどできないのだ。


“楽な仕事だと思ってたんだけどなあ………。下手したらまた厄介事か………?”


可能性は十分にある。
横島の経験上、このような先が見えない状況は大抵大事へと発展するパターンだ。

どうやら、彼はとことんトラブルの神に好かれているらしい。


“マジで勘弁だぞ………。”


――――――愚痴をこぼしても仕方ないのだが、この状況下ではこぼさずにいられなかった。


「お、ここか?」


横島は立ち止まって地図をしまう。

目の前に建っているのは小さな役所であった。
古い建物なのか、所々塗装が剥がれ落ち、内部のコンクリートが剥き出しになっている。
窓ガラスもところどころ汚れが目立っている。
震度5強の地震でも起きたら倒壊は必至だろう。


“確かにこの状況なら200万出すのが精一杯だろうなぁ………。(汗)”


そんな危なっかしい建物でも、入らなければ始まらない。
横島は扉を押して中に入っていく。
外見の小ささと同じく、中も狭かったので、受付窓口は容易に見つかった。
窓口で用件を伝え、取り次いでもらう。

ちなみに、受付の人はのいかつい顔のおっさんであった。
美人の受付嬢を期待してた横島が現実の厳しさに撃沈したのは言うまでもない。(笑)


5分ぐらい待った後、職員に一室へと案内される。
狭い建物なだけに、さほど時間もかからず到着する。

その部屋には、「会議室」と書かれてあった。


「失礼しまーす………。」


横島そう言いながらゆっくりとドアを開ける。

視界に入るのは折りたたみ式の机、少々錆びたパイプ椅子、何故か目新しいホワイトボード。
そして――――――


「ああ、東京のGSの方ですな。お入りくださいな。」


――――――白髪の老人が立っていた。
外見上、かなりの高齢に見えるが、それとは裏腹に体格が非常にがっしりしている。
この年齢層の人でここまでの体格を維持している人は非常に少ないだろう。


「あ、これはどうも。美神除霊事務所の横島です。」

「わしはここの自治会長をしとります、高城です。いやー、東京からこんな田舎までよういらっしゃいましたなー。さ、座ってくださいな。」


横島は勧められるまま、近くの席に座る。
彼の体重に、備え付けのパイプ椅子がギシリと悲鳴を上げた。
見た目通り、かなり年季が入っているようだ。


「で、今回の依頼は何でしょう?」

「はあ、実は………。」


高城が言うには、どうやら自縛霊らしき霊が頻繁に現れているとのことである。
出没するとは言っても別に実害はないのだが、あまりにも頻繁に出没するので調査だけでも、と言うことになったらしい。
加えて、その現象が起こりだしたのがつい一週間前からだと言うのだ。
元来、この町は幽霊だの妖怪だのあまりとは縁がない場所だったので、その点も住民の不安を増大させているらしい。


「ってそれだけッスか?」


横島は少し拍子抜けする。
まあこれはある意味仕方ないかもしれない。
これまで、横島が美神の下でこなしてきた仕事のほとんどは問答無用の実力行使だった。
そのため事前調査や現地視察などは、彼には全くのノータッチだったのだ。
彼が戸惑うのも無理はない。

もっとも、美神はこれを見越していたのかもしれないが。


「ええ。今のところは何も被害はないのですが、住民を落ち着かせるためにも調査だけでもしとかにゃならん、と言う話になりましてな。」


わしらでできたら苦労はしないんですがなあ、と高城は銀歯を光らせながら豪放に笑い放つ。
一方の横島は――――――


“うしゃーーーーーー! 今回は痛い思いをせんで済む! 楽して早く終わらせてなおかつ報酬ゲット! ………フフフ。おいしい! おいしすぎるでーーーーーーーーー!”


………………思いっきり別のこと考えていたようである。
まあ今回は思っていることを口に出していないだけマシだろう。
もしも声に出していたら、下手をすれば依頼キャンセル―→今回は成功報酬なのでタダ働き&大赤字―→美神の折檻(5割増し)と言った、地獄のフローチャートを辿ることは確定だろうし。


「………………あー? 横島さん?(汗)」

「はっ!? い、いえ何でもないデスよ!! ア、アハハ………。」


どうやら声は出してなくても、顔にはしっかりと出てたみたいである。
高城の視線が何だか痛い。


「そ、そういや、その幽霊はどんな奴だったんスか?」


………………とりあえず、横島は話を逸らすことを選択したようである。


「実はその幽霊をはっきり見たものは誰もおらんのですよ………。」

「………へ? そうなんスか? 頻繁に現れているくらいなら、一人ぐらいはしっかりと姿形を見ていてもおかしくはないと思うんですが………?」

「現れるとは言っても、残念ながらわしらには白い靄のかたまりが浮いているな、とわかる程度にしか見えんのですわ。加えて、皆不気味がるので近付く者もおらんのです。」


高城はお手上げだと言わんばかりに肩を竦める。


「あー、それは確かにそうっスね………。ん? ってことは出没する霊の種類や数もさっぱりっスか?」

「はあ。申し訳ないですがそうなんですよ………。」

“マジか………? ってそうなると、ほとんど情報ゼロからのスタートってことか? 面倒くさそうだな………。”

「では、出没する時間帯ならわかります?」

「おお、それならわかりますぞ。えーと………ほとんどが0時以降ですな。まあ、昼間っから現れるようなら幽霊の沽券に関わりますしな! はーっはっはっは!!」

「そ、そっスね………。(でも幽霊時代のおキヌちゃんは一日中の現界が可能だったような………?)」


まあおキヌの場合は例外中の例外だろう。
死津喪比女と言う大妖を封じるための人身御供として封印システムの中に組み込まれ、300年もの長い間、山の豊富な地脈エネルギーを一身に浴び続けていたのである。
そんじょそこらの幽霊とは格が違うのだ。


「わしらから言っておかなきゃならんのはこのくらいですな。」

「あ、はい。わかりました。では早速調査を始めたいと思います。」

「頼みましたぞ。この穏やかな町に物騒な幽霊が居るとは考えにくいのですがな………。」

「ええ。一応気を付けたいと思います。」


横島は高城に一つ礼をすると、ドアを開けて静かに出て行った。


「………………はて? 何か言い忘れたような? む〜〜〜う、何じゃったろう?

――――――何だか不安な要素も潜んでいるようである。


「うげぇ〜〜〜〜〜〜。やっぱり暑い〜〜〜〜〜〜。」


役所の外は相変わらずの熱気と日射である。
先程まで冷房の効いた部屋に居ただけに、落差が激しいことこの上ない。
本日2回目の経験に、さすがの横島もヘバり気味だ。


「文明の利器、万歳………。」


文珠で“涼”と発動させれば手っ取り早いのだが、さすがに却下であろう。
大して長い間保たないだろうし、いちいちそんなことで文珠を使ってたらいくらあっても足りない。
美神からも文珠の無駄遣いは絶対禁止!!!と何度も念を押されていることだし。


そんなこんなで、横島はこの暑さにブチブチと文句を垂れながら街中を歩いていく。
まあ、暑さに耐えるしかないのだから無理はないが。

しばらく歩いていくと商店街に出た。
小規模ながらもそれなりに店は揃っている。
わざわざ遠出しなくても、大抵の日用品はここで買い揃えることができるだろう。
それに、やはり商店街なだけあって、海沿いの道に比べて人が圧倒的に多い。
スーパーの店先で談笑している中年の主婦たち。
自転車に乗って海の方へと抜けていく老人。
はしゃぎながら目の前を通り過ぎていく子供たち。
まさに平和な日常の光景がそこには広がっていた。


「………………………ん?」


しかし、そんな光景の中から明らかに浮いている物体を発見。

前方にある小さな診療所の駐車場の中に男が座り込んでいる。
ボサボサの長い銀髪。
黒尽くめの服。
加えて目つきも悪い。
正直言って、不審者と見られてもおかしくないような人相だ。


“も、もしかしてヤーさんか何かか!? 気付かれんうちにさっさと通り過ぎとこ………。(汗)”


――――――そして、極めつけはボロボロの人形。


「って何で人形やねん!? 似合わないことこの上ないやないかっ!?」


このミスマッチにはさすがの横島もツッコまずにはいられなかったようである。


「加えて趣味も悪………ってはっ!?」

「………。」


今の無意識に発した大声のツッコミに気付かない奴などいないだろう。
例の男はしっかりとこちらを凝視していた。


「おい………。」


男がゆっくりと近付いてくる。


“あ゛あ゛〜〜〜!? しまったしまったしまった〜〜〜〜〜〜!! オレのアホアホアホアホーーーーーー!!! つい大阪人としての本能が………ってんなことどうでもいい! このままじゃあのヤーさん(?)に陰念………ってちゃうちゃう!! 因縁つけられてまう! ………いやいや! 待てよ!? オレは昔のような貧弱なボーヤとは違う! こんなヤーさん(?)なんぞ逆にドツきまわしてさっさとトンズラこくって手もアリだ! いや、でもやっぱり怖いし………。”

「おい。そこのお前。」


横島が脳内で高速混乱思考を展開しているなんて気付くはずもなく、男はどんどん近付いてくる。


“い、いや〜〜〜〜〜〜!! やっぱり怖いもんは怖い〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!”


接敵接敵!!
わーにんっ! わーにんっ!

理性からは警報がどんどこ発令されているが、横島は混乱のあまり正常な行動ができない。
まさにまな板の上の鯉状態である。

そして遂に男は横島の両肩をガシっと掴んだ!
さらに鋭い目で睨み付けて脅迫の言葉を――――――


「人形劇、見ていかないか!?」

「………………………はい?」


――――――浴びせなかった………。


〜執筆後記〜

どもども、長門千凪です。
いや〜。掲載が遅れてしまって申し訳ありません。
帰省と旅行が重なって、PCに触れない日々を過ごしていたものですから………。
今週は不運だ………。

今回は遂にこの男が登場!
名前こそまだ不掲載ですが、皆さんは彼が誰だか楽勝でわかってますよね?
彼の見せ場もしっかりと作る予定なのでご安心を!!


それではレス返しを。

>ヴァイゼさん
 はい♪ そりゃもうどんどこ活躍させちゃう予定です♪ 横島の非常識性と意外性は最大限使わないと!

>ナナシさん
 うむむ。期待していただいたのに、UPが遅れて申し訳ありません! 次回はもっと早く書かなければ!

>空虚さん
 名目上はまだ伏せてますが、もうバレバレですよねー。本格的な公表は次回でやっちゃう予定です。

>ラフさん
 もちろん彼を削る気なんて毛頭ありませんのでご安心を! 彼の影が薄くならないように注意して構成しなければ!

>筆名さん
 応援ありがとうございます! 飽きさせないように頑張りますね。そのためには自分の文章力向上が急務ですが………。(汗)


今回はこの辺で終わりにしたいと思います。
次回にまたお会いしましょう!
ではでは!

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