「そわそわするのはおやめなさい。みっともない」
「浮き足立ってるのは、てめえじゃねえか」
少々声が震えているかおりと魔理、二人の掛け合い。無理もない。ただのサッカー少年が補欠とはいえ日本代表チームに入ったようなものだ。舞い上がらないほうがおかしい。
「ふたりとも~、ちゃんとおはなしきいて~」
「「はい!」」
六道冥子の声に硬直する二人。六道女学院の生徒として彼女の恐ろしさは身にしみてわかっている。
ここは日本ゴーストスイーパー協会会長室。そこにアシュタロスとの戦いで世界を救った一同が集結していた。ただ一人を除いて。
仮面ライダーK 4 切り裂かれた過去
「これが横島君かね?」
弟子に確認するように聞く唐巣神父。このたびめでたく会長と呼ばれる身分に出世したのだが、かえって心労が絶えず、頭の後退も加速したようだ。
彼の視線の先には美神の手によるKの似顔絵が黒板に張ってある。よくかけてはいるだが、使ったのがひのめの落書きクレヨンである。いまいちしまらない。
「あの馬鹿、ルシオラとの同化が進んで怪人蛍男になっちゃったワケ?」
「せめて仮面ライダーと呼んであげたまえ」
身もふたもない小笠原エミの言葉に待ったをかける、往年の隠れSFマニア。
「しかし何で、ケーなんだ。なんか意味あんのか」
どうでもいいことが気になる伊達雪之丈。
「それはたぶん」
上を見るピエトロ・ブラドー。天井には蛍光灯がともっている。
ばん!
「どうでもいいでしょう、そんなことは」
師匠でもある会長を差し置き、デスクをたたく美神。目が完全に座っている。
「ともかく、完全に魔族化したのかどうかはともかく、あいつは私たちの目の前に姿を現したのよ。急いで保護しなきゃ」
「保護」した後、何をする気か透けて見えるのが怖い。
「保護じゃないわ捕獲よ」
沈痛な顔の美智恵。
「ママ?」
「そうでしょう、彼が横島君であるというのは本人が言ってるだけだわ。それを客観的に証明するものはないわ」
「でも、ママ」
「私たちを助けてくれたのは確かかもしれないけど、連続GS失踪事件にかかわりがある可能性は極めた高いわ」
「実は可能性が高いどころじゃないんだ」
真剣な顔でいう西条。
「どういうこと?」
どうやら美智恵も初耳らしい。
「昨日の一件で気になったことがありまして」
西条が気になったこと。それは例の蜘蛛女がGS以外の人間も襲っていたことである。事件の現場となった学校の残骸から、蜘蛛女に捕らえられていた生徒と思しき子供たちが発見された。調査したところこの子達は最近ぼんやりしていたものの、きちんと家と学校を往復していたそうである。どうやら何らかの暗示を受け、学校に集められていたようだ。
ちなみに最初に問題になった行方不明の児童は、単なる登校拒否であって、噂の尾ひれがついただけらしい。
「まあ、子供が行方不明になれば、ニュースにならないはずないものね」
「ええ、子供なら」
だが大人ならどうか。ニュースにはならないがこの国では毎年8万人以上の行方不明者が出ている。自分たちはGSの行方不明だけ追っていた。その犯人らしき蜘蛛女はGSとは関係ない子供も集めていた。
「もしかしたら僕たちが知らないだけで、霊力のない一般人も襲われていたのではないかと、思ったんです。それで警視庁に確認を取りました」
その結果、ニュースになる寸前の、異様なペースで失踪事件が発生していることがわかった。
「何でそれがわからんかったんじゃ?」
珍しく難しい顔のドクター・カオス。
「警察の縄張り意識というやつだよ」
渋い顔の西条。オカルトGメンは本来、この国の警察機構から独立した存在、すなわちよそ者である。そのため、あからさまにオカルトが絡んでる事件でなければ、蚊帳の外に置かれることは、珍しくない。例の「よみがえった切り裂きジャック事件」なんてものは例外中の例外である。警察=正義が身上の西条としては苦々しい限りである。
そして、この事件に関して奇妙な噂が流れている。行方不明となった人間の周りで怪物同士の戦いがあったと。
「!それって」
「ああ、昨日のようなことがずっとあったのかもしれない」
不覚のきわみという西条。
「もともと、警察は成人の行方不明事件など、いちいち捜査しない。変な噂が流れていても、僕らの専門と確証できなければ面子の問題からいっても動きはしないだろう」
「まったく、どこにも頭の固いやつがいるのう。下らん常識にとらわれて真実を見逃すとは愚の骨頂じゃ」
全員が同じことを思った。たしかにそうだが、あんたがいうな。この非常識。
「それと、もうひとつあるんだ。こっちは「K」というより横島君そのものなんだが」
「ええ!なに、なんですか!?」
勢い込んで訪ねるおキヌ。どうやら美神と違いK=横島説には懐疑的なようだ。
「九能市氷雅というGSがいるんだが、彼女が横島君を襲おうとして返り討ちになったときの映像が届いた」
「ええ!」
「というより、何でそんなもんがあるワケ?」
「何でも彼女は横島君に恨みがあったらしく、勝利の瞬間を記念に保存したかったらしい。それで弟に隠れて撮影させていたんだ」
「彼女。ほほう、何をやらかしたのよ、あの馬鹿」
殺気が5割り増しになった美神。
「まずは見せてください。その映像を」
同じような顔のおキヌ。
ビデオが回りだす。
「あれ、このひと」
「知ってるの、おキヌちゃん」
「ええ、GS試験で横島さんと戦った人です。ほら刀もって」
「あ、ああ、思いだしたわ。恨みってそのこと。あの後合格したのね」
「アー、横島さんの煩悩に吹っ飛ばされた人ですノー」
タイガー寅吉も思い出したようだ。
「なんだ、そういうことか」
失望した声。何を期待していた?西条。
『横島忠夫!いやEvil!あのときの屈辱、このオニギリマルで晴らす。覚悟!』
勇ましく男に切りかかる。その男の姿を見て息を飲む一同。
顔中が傷で埋まってる。見たこともない冷たい目をしている。
だがまさにその男は横島だった。
稲妻のごとくきり下ろされる刀。体を開いてよける。同時に胸に向かって、矢を投げた。
『キューピッドアロー』
『きゃあ!』
心臓に矢が突き刺さった。仰向けに倒れる氷雅。その矢がひとりでに体内にめり込む。
くわっ
目を見開き起き上がる氷雅。そして。
『好き!お慕いしてますう!』
『はっはっは、たっぷりかわいがってやるぞ』
『ありがとうございます!氷雅のすべてをささげます!』
「なんじゃそりゃああ!」
あまりといえばあまりの展開に全員こける。二人を除いて。
「見たことあるわね、この構図」
「横島さん、最低」
頭を抑えながら起き上がるエミ。
「ってことは、横島がすべての黒幕だったってワケ?」
その言葉にはっとなる美神。
「ちがうでしょ!だって昨日は」
「一人芝居ということも考えられるな。自分の安全を確保するための」
断ち切るような西条の言葉。
「そんな」
「あれだけの目にあったんだ。彼の心がゆがんでしまったとしてもおかしくない」
感情を交えずに話そうとする西条。しかし苦しみが伝わってくる。
「あのー」
恐る恐る口を挟む魔理。
「すんません、わたしらぜんぜん話が見えないんですが」
「?はなしていないの?」
おキヌに訪ねる美智恵。
「はなせるわけないじゃないですか。あんなこと」
顔を抑えて答える。
「そう、わかったわ」
「待って、ママ。私が話すわ」
「いいの?」
「私がすべて悪いんだから」
あの雨の日。確定申告、というよりは脱税のための帳簿操作、が終わりほっと一息ついた美神。この忙しいときに協会のほうから報酬高めの依頼が2件、1週間ごとにきたが、両方とも横島に押し付けた。助手に働かせて、報酬だけ取る。いい商売である。
「そういえば、横島こないわねえ。そんな長いことかかるような仕事に見えなかったけど」
思い出してみると前回の仕事も何か変なことを言っていたような。忙しくてぜんぜん聞いていなかったが。
後でこのときよく聞いておけばと悔やむことになる。
「美神さん、如月綾女さんです」
「げ」
如月綾女。次期日本GS協会会長、それも初の女性会長の本命といわれる女性である。おキヌにとっては六道女学院の先輩である。
「あの、美神さん、げって」
「苦手なのよ、あのおばさん」
「おばさんってわるいですよ。まだおわかいんだし」
「あの女、ママと同期よ」
さらにいうなら一方的に美智恵をライバル視していたらしい。坊主にくけりゃ袈裟まで憎いとばかりに娘の自分にも厳しい。
「わざわざ何のようかしら。おキヌちゃんそこそこいいお茶出して」
「そこそこ・・」
こっそり一番いいお茶を出そうと思うおキヌ。
「何ですって!暴走!」
おキヌがお茶を出して退室した後、美神の叫びが聞こえた。
何だろう、何か大変なことが起こっているんじゃなかろうか。
「おキヌ殿!」
今度はシロの叫び声。
「せんせいが、せんせいがああ」
「!横島さんに何か!」
横島の姿を見て息を呑む。顔に不器用に包帯がまきつけられている。サッカーボールぐらいの汚い包みを二つ抱えてる。横島はいつもなんだかんだで包帯だらけになっている。だが今日は何か異常だ。いつもよりおびえきった目できょろきょろしている。
「おキヌちゃん、水を」
がらがらにかれた声。
「はい」
台所で美神に会う。
「美神さはーん。横島さんが」
「わかったわ」
冷蔵庫を開け牛乳を取り出す美神。それを持って横島の元へ急ぐ美神。
「水より、こっちのほうがいいわ、さあこれを呑んでおちついて」
美神を見たとたん安心したのか力が抜けた横島。包みが落ちる。
ごと
「ひい!」
一同息を飲む。布の中から現れたのは焼け焦げた人間の首だった。それが二つ。
「よ、横島さん、これは」
後ずさりながら聞く、おキヌ。
弁解しようというのか、口を開く横島。その口から血があふれた。
ごふ
倒れる横島。
「よ、横島さん」
叫ぶおキヌ。だが体が硬直して動かない。
「どういうこと、体が麻痺するだけだって」
姿を現した如月を詰問する美神。
がはああ
横島が口から光を吐く。文珠だ。こめられた文字は<解><毒>。
美神と如月を見比べ、目から血の涙を流し叫ぶ。
「あんた!俺を売ったな!」
新しい文珠が光り、横島は姿を消した。
美神が聞いた話はこうだった。
アシュタロスの兵器らしきものの殲滅のために某国軍が腕利きのGSを求めていたので美神を推薦した。美神の代わりに横島が来たが一度目はうまくいった。しかし二度目で、いきなり横島が異形の怪物になり、逆に某国軍を全滅させてしまった。
横島の魔物化の原因としてはルシオラの霊体が原因と考えられる。
(その一言で思考がとまった。)
某国軍は横島の抹殺を求めてきたが、GS協会としては恋人を犠牲にして世界を救った人物を犠牲にするのは忍びない。そのため強力な麻痺効果のある魔法薬を使って彼を捕らえることにした。どれほど人間の心が残っていいるか知らないが、おそらく彼はここに来る。そのときに使ってほしい。
しかし、現実に使われたのは猛毒だった。さらに美神は知る。如月が来た時点で、横島は魔物として扱われ一切の人権を否定されていたことを。すなわち毒を盛られようが、銃で撃たれようが犯罪とは扱われない。
救いの女神が現れた。
「やっと私の活躍が始まるのねー」
アシュタロス事件のとき何もできなかったヒャクメがやってきた。
もともと人間の犯した罪を暴き出すのが仕事の一族の神である。あっという間に真相を探り当てた。
某国軍はアシュタロス事件のとき民間人に解決をゆだねざるを得なかったことを屈辱と感じた。そのため第二のアシュタロス事件に備えて多額の予算を注入し、心霊兵器の研究に着手、実験のためにGSと戦わせることを計画した。
その計画に気づいたのが如月だった。しかし彼女はその計画を防止するどころか、積極的に協力し、某国軍を後ろ盾とし、自分の権力を強化することを選んだ。何より死んだはずの宿敵を、よみがえり自分の地位を脅かしそうな女を倒すために。
そして美神が実験動物として選ばれた。ただし来たのは横島だった。拍子抜けした研究者たちだったが、自分たちの虎の子の兵器があっさり壊滅するのを見て顔色が変わった。その男の時給がかつて時給250円、おおよそ2ドル半だったことを知ったときは発狂しそうになった。
横島についてデータの見直しがされた。その結果、彼には魔族の因子が混ざっていることがわかった。自分たちの兵器があっさり倒されたのはそのためと信じた研究者たちは新しい計画を立てた。
すなわち横島を研究し、兵器開発に役立てる。
横島の抵抗を封じるため彼の両親を人質にとった某国軍は、横島を捕獲し、実験を始めた。
生きたまま解剖する。電流を流す。神経細胞を採取する。非人道的な実験が繰り広げられた。
その悪夢の饗宴は、脱出しようとした横島夫妻が射殺されるまでつづいた。
研究者たちが口を滑らせたことにより、それを知った横島は最後の力をふりしぼって逃走。そのとき、せめて首だけでも持ち帰ろうとしたのか、両親の死体から首を切り落とした。
追跡にあたった兵士たちは皆殺しになった。しかし誰が責められようか。
如月は自分の地位を守るため、横島を魔物と認定し、美神をだまして抹殺しようとしたが失敗。指名手配するのがやっとだった。
これらの真実を小竜姫とともに協会に告発。如月は失脚した。
しかし、魔族の因子を持った人間が軍隊を壊滅させたことは事実である。
人は人によって制御できない力を許しておけない。
そのため指名手配はとかれず、せめてもの妥協として、生け捕りにした場合妙神山で身柄を預かることが許された。
「ごめんなさいい。やっぱり役立たずなのねー。私」
ヒャクメを責める気にはならなかった。
THAT様 コメントありがとうございます。読んでくださった方がいる。とてもうれしいです。