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▽レス始

「世界はそこにあるか  第19話 (GS)」

仁成 (2005-08-12 13:28/2005-08-12 18:10)
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森の中で一人の女性が薪を拾っていた。


辺りは木々のために、昼間であるのに薄暗く、普通の人間なら気味の悪ささえ感じる。


いまどき薪を燃料に使うものなどほとんどいないが、彼女の家には電気もガスも、さらには水道も通ってはいない。

彼女が山奥の一軒家に子供と二人で住んでいるのだから、それも当然だろう。


薪を拾い終え、子供の待つ家に帰ろうとすると、ふと気配を感じる。

向こうも隠そうとしているようだが、人間の何千倍とも言われる化猫族の感覚を誤魔化しきれるものではない。


害意と、悪意と、殺気が混ざったようなそんな気配。


―――二人、いや三人ね……。


自分を取り囲んでいる人数を把握する。

一つ分かりにくいものがあったが、問題はない。

「なかなか探すのに苦労したが、あんたか?
工事を邪魔してるってゆうのは」

「…………」

そのうちの一人だけ姿を現し、尋ねる。

だが彼女は何も答えない。

こんなことは聞いてくるということは、向こうはほとんど分かっているのだろう。

ならば何を言ったところでプラスになることは何もない。
ただ黙って向こうの出方を窺ったほうがいい。


しばらく沈黙が流れると、その男は神通棍を出し、彼女に襲い掛かる。

他の二人も動き出したようだ。


あまりにいきなりのことに憤りを感じるが、人間とはそういうものだったと思い返し、すぐさま化猫の姿に戻り、戦闘態勢を取った。


戦い始めてしばらくすると、彼女は自分の思い違いに気付かされた

相手はおそらくプロの妖怪退治。
さらに三対一。

当然過小評価はしていなかったが、それでも評価が甘かったことを認識せざるを得ない。

こんな状況でも、ここは森で、自分の領域だと思っていたのだ。


だが三人の連携がその利をほとんど殺してしまっている。

周りの木々を使い、茂みを使い、うまく彼女に行動させない。


そう、彼らの専門こそ、こういうフィールドだったのだ。

こういう場所で行動するための訓練をひたすら積んできたのだろう。


個々の能力はそれほどでもなく、一対一なら勝つ自信はある。

彼らもそのことを分かっているのだろう。
だからこその連携なのだ。


反撃することも出来ず、ただひたすら、致命傷にならないようになんとか回避し続けていくだけである。

このままではいつかやられるだろう。

実際もう傷だらけである。


だが彼女には待っていてくれる子供がいるのだ。
絶対にやられるわけにはいかなかった。


そして、
彼女には、『絶対助かる』
――という根拠もなく、楽観主義とさえ言えない、そんな感覚があるのだった。


世界はそこにあるか  第19話

――されど信じるものとして 機宗


美神事務所で横島はソファに座りながら、コーヒーを飲んでいる。

彼がアパートで飲むものより、数段うまい。


今日は仕事があるわけではないが、急の仕事が入るかもしれないので事務所で待機している状態である。

そのまま仕事がなくても、バイト代が入るのだ。
もちろん安くなってはいるが。

前回なかなか学校に行けなかったのは、これがおいしかったからという理由がかなり大きいのだ。

というより無ければ、生活できないというほうが適切だろう。

ちなみに255円時代は、下げようもないので待機しているときも255円である。

そもそもいくら売れっ子である美神であっても、それほど毎日仕事があるわけではないのだ。

狭い日本、それほどあちこちで霊的事件が起こっているわけがない。

さらに美神は報酬の少ない仕事や、割に合わない仕事――金銭的にだけではなく――は断るのだから当然だろう。


その美神は今、机で書類を書いている。

横島も一人で仕事を任されたりもするが、これはアルバイトの彼がやるわけにもいかないし、そもそも出来ない。

「ねえ、横島クン……」

「……何すか?」

美神の言葉に、小一時間ほど一言も喋らずに、ボーっとしながらここでない場所に意識を飛ばしていた横島も帰ってくる。

何かを考えていたわけではなく、ただ本当にまったりしていただけだ。

学校も行かずにいい気なものである。

「私、何日か妙神山に行ってくるから」

「はい? 何しに? 俺は?」

突然のことに、矢継ぎ早に質問を繰り出す。

「ああ、あんたはいいわ。おキヌちゃんには付いてきてね」

その言葉に横島のうしろから、は〜い、という彼女の声が聞こえる。

「まあ、それはいいっすけど……。
俺は時間があるときはちょくちょく行ってますし」

「へー……そうなの」

「ええ、小竜姫様が修業は継続も大事だからまめに来なさいって」

「気に入られたもんねー……」

実際、遠いのであまり行っているわけではないが、頻繁に行っていると言っておいた方が、後々都合がいいのでこう言っておく。

霊力はともかく、文珠は早く使えるようになるにこしたことはない。

「それなら少し仕事くれませんか?
美神さんがいない間、ただ学校に行くだけっていうのもあれですし」

その考え自体、非常におかしいのに彼は気付いているのであろうか。

「うーん……。まっ、いっか。
じゃあ、これ」

美神は自分がいないときに見習い一人で仕事をするということに関して、若干考えたのだが、今の横島の実力なら十分大丈夫だろうと――もちろん口に出して言うことは絶対にないが――判断し、まあいいだろうと、何枚かの書類を彼に渡す。

一枚一枚見ていくと、やはり報酬もそれほど高くなく、特殊なものでない、単純な力押しでいけそうなものばかりだ。

だが、その中で気になるものを見つける。

「ゴルフ場建設を妨害する妖怪か……」

これだけ他と比べてレベルが高い。

現地に行ってからの十分な調査も必要だ。

「ああ、それ。ややこしそうだから三人で行こうと思ってたんだけど、やりたいならしてもいいわよ。あんたの修業にもなりそうだし」

「そうっすか。じゃあ、これします」

これは美衣の事件だろう。

さすがにもう一度美神と戦うのはごめんだった。

「いやー、めんどくさそうな割にギャラも低いからやりたくなかったのよね。
山奥まで行くのも疲れるし、車も汚れるし」

「……そこが本音っすか」

嬉々として話す美神を呆れたように見る。

彼女にしてみれば、どんな依頼でも横島に渡すのはギャラの10パーセントなので、こういう仕事をしてくれたほうが嬉しいのだ。

ちなみに10パーセントというのは、二人の話し合いで決定したものである。

まあ、美神の最初の提案を横島がすんなり呑んだだけなのだが、時給も上がっているし、10パーセントでも結構な金額なので、特に不満はなかったりする。

「それはそうと、何しに行くんすか?」

「えぇ…っと……。そ、そんなのどうだっていいじゃない!
あんた、今日はもう帰りなさいっ!!」

そう言って、横島を追い出すように事務所から出す。

横島は彼女の態度に首を捻りながらも、しょうがないので学校へと向かうのだった。


学校への道中。

「どうしたんだろうな、美神さん。
やっぱ修業以外にもやることがあるんか?」

妙神山は修業場である。

修業に行くのか、とは思っていたが、様子が変なのでそれ以外に何かあるのかもと思っていた。

だが、ぶっちゃければ、美神は修業しに行くだけである。

香港から帰ってきてから、この前のように霊力を上げるだけでなく、少し時間をかけてやってみようと思っていたのだ。

だが、それを彼に言えば、自分が彼に影響されて行くみたいで、気恥ずかしく、言うのがためらわれたのだ。

『まあ、それに関してはいいではないか。
それに死津喪比女のことを小竜姫から伝えてもらえるから、このタイミングで行ってくれるのはちょうどいい』

最近横島が頭を痛めていたのが、死津喪比女のことだ。

前回よりも早く倒すと決めていながら、きっかけが掴めなかったのだ。

人骨温泉付近の地脈がおかしくなっているなんて、横島に分かるはずもないからだ。

ただ倒すだけなら、タマモと行って倒してくれば――おそらくは倒せるだろう――いいのであるが、そのことにおキヌが絡み、さらに生き返るとなれば、美神を無視するわけにもいかない。

だが、小竜姫からそのことを伝えてもらえば、万事解決である。

「そうだな。じゃあ、連絡しとくか」

彼の手の中で『伝達』と文字の入った文珠が輝いた。


美神は妙神山の門の前に立っていた。

おキヌも少し後ろにいる。

「久しぶりですね、美神さん」

「そうね。香港以来ね」

門から出てきた小竜姫と挨拶を交わす。

「で、今日はどうされたんですか?」

「どうって……修業しに来たのよ」

美神が、何を分かりきったことを、といった感じで答える。

ここは妙神山修業場なのだから。

「具体的には何を?
貴女はすでに私がお相手して、霊力を上げていますから」

実際には、ここの真の主たる猿神の修業があるのだが、まだ紹介するのは時期尚早であるだろうし、今いないのだからどうしようもない。

「GSとして根本から鍛えなおしたいんだけど」

「なるほど……。期間のほうは?」

美神がプロのGSとして、事務所を持っている以上、あまり長い時間そこから離れられないことは分かっている。

「数日、長くても一週間ね」

実は横島が受けた依頼が、一番期限が早かったりする。

本当なら一週間もいれなかったはずなのだ。

「分かりました。それじゃあとりあえず入りましょうか」

三人は連れだって門をくぐる。

修業場までの道を歩いていると、ある女性が近づいてきた。

変な格好で、トランクを持ち、やたらと目が多い。

一目では人間でないと分かる。

「貴女が小竜姫の言っていた、美神令子さんね?」

その女性はそう言って、美神の顔を興味深そうに覗き込んだ。

もちろんその興味とは、初めて会った者に対するものでなく、すでに知っている者の変化に対する興味である。

「あんたは?」

いきなりのことに少し戸惑い気味に尋ねる。

「私はヒャクメ。
神族の調査官で情報の収集や、分析の仕事なんかをしてるねー」

「え!? 神様なんですか!!?」

おキヌが驚く。

彼女の第一印象はなんだか変わった人、だったからだ。
何気にひどい。

「で、その調査官がなんでここにいるの?」

「ああ、彼女は私の友達なんですよ。
だから遊びに……」

小竜姫がヒャクメの代わりとばかりに説明する。

「ひどいのねー。確かにここに着いてからずっと遊んでばかりだったけど、一応人界での調査のために下りてきたのねー」

事実、彼女は横島から連絡を受けた小竜姫が、ずっと妙神山にいる自分では説得力が弱いかもと思い、呼んだのだった。

だが、やって来てからずっと二人でゲームをしていたのもまた事実である。

「その調査とやらはいいの?」

「私だってプロなんだから。調査のほうはほとんど終了してるのねー」

遊んではいたものの、すでに“分かっている”ことなので、調べるのに現地に行かずとも彼女にとってはどうということはないことである。

神族の調査官の名は伊達ではないだ。

「まあ、ヒャクメのことはどうでもいいです。
それよりさっそく修業を始めましょうか」

どうでもいい、の言葉にショックを受け、うなだれ、いじけるヒャクメ。

美神は本当に友達か、と思いながらも自分にとっては本当にどうでもいいことだったので、そのまま小竜姫について修業場に入っていくのだった。


横島、タマモ、心眼の三人は鬱蒼とした森を歩いている。

道もほとんど獣道だ。

依頼者からの話を聞き、ゴルフ場開発を妨害する妖怪を探している最中だ。

というより、美衣の家を探している最中と言ったほうがいいだろう。

話をした老人は、横島がまだ見習いだと聞くと眉をひそめたが、自分は単なる調査で後から美神令子がやってくると告げると、何とか納得してくれた。

「こっちでいいんでしょうね?」

「…………」

疲れてきたタマモが尋ねるが、答えられない。

正直適当に進んでいるからである。

前回は迷っていた上、美衣についていっただけなので覚えているわけがなかった。

まあ、タマモがこんなことを言い始めるのも無理はない。

すでに森に入って二日。

昨日は野宿しており、今日もずっと歩いている。

疲れたとは言わないが、正直飽きてきていた。

だが全く適当に進んでいるというわけではなく、一応心眼の感覚に頼って歩いているのだ。
これを人は他力本願、または丸投げと言う。

「はぁ……まあいいわ。それよりその荷物は何なの?」

彼は普段、全くではないにしても除霊のための道具をほとんど持たない。

万が一のときのためにお札を何枚か持つぐらいである。

難しい仕事を一人でやることもないし、彼の能力と心眼さえいればほとんどの場合で対応できるのだ。

だが今の彼は大き目のリュック――それでも美神の助手をしているときよりもかなり小さいが――を背負っていた。

「ふふふ……秘密だ!」

妙に怪しく言われ、なんだかムカついたタマモであったがそれ以上追求せずに、そのまま歩き続ける。


またしばらく歩き続ける。

なんだか森で遭難してるだけじゃないのか、という思いさえ浮かんでくる。

だがその終わりは唐突に訪れた。

『……むっ。横島!』

「なんじゃこりゃ……!? 急ぐぞ!」

心眼からの情報が伝わってくると、すぐさま駆け出した。

すでに何時間も森の中を歩き回っていたとは、到底思えないスピードだ。

「ちょ、ちょっと!!?」

事情の分からないタマモはいきなりのことで戸惑うが、すぐに後ろをついていく。


数分駆けると、何人かの人間と戦っている、化猫が彼らの視界に入る。

化猫の方はもうぼろぼろだ。

「何やってんだあぁぁぁ!!!!!」

横島は素早く懐からリボルバーを取り出し、両手で構え、前方の空間に六発撃ちだす。

鋭い音が響き渡り、辺りには硝煙のにおいが立ち込める。

これは百合子がやってきたときに置いていった代物である。

横島は、なんでこんなの持って入国できたんだろう、とも思ったが、考えたら負けのような気がしたので、今はさほど気にしていない。

化猫と戦っていた者たちは、イレギュラーを察すると、すぐさま退いていくのだった。

『あの退き際……鮮やかだな』

などと心眼があの声で呟いていたが、横島にとってはそれどころではなく、ダッシュで化猫の方に近づく。

やはり美衣だ。

彼女は敵が退いたことに安心したのか、横島たちの正体を確かめることもなく、気絶してしまっている。

とりあえず傷だらけだったので『癒』の文珠で治しておく。

あとは目覚めるのを待つだけだ。


「それ、持ってきてたの?」

「ああ。あるんだから利用した方がいいしな。
さっそく使うことになるとは思わなかったけど」

あのリボルバーのことだ。

「そりゃ使えるもんは使ったほうがいいけど、なんからしくないでしょ。
銃で撃たれたら、下手すると人は死ぬんだから……」

日本刀持っているのにいまさらなような気がするが、銃は引き金を引くだけなのだから手加減が出来ないのだ。

一応狙ったところに撃つぐらいの技量はあるが、彼に相手の武器だけを落とす、なんてことが出来るとも思えない。

『こんなこともあろうかと、ピストルズを……』

「ねえよっ! 勝手に人の能力を追加すなっ!」

さすがにあれを漢字で表現は出来なかった。

いろんな意味で。

「まあ、向こうまで距離があったし、人相手に脅しかけるのはこれが一番手っ取り早くて有効だからな」

その説明でとりあえず納得する。
そもそも彼女にとっては、横島以外は割とどうでもいいのだ。

「じゃあ、銃弾とかは大丈夫なの?」

その言葉に横島はにやりと笑う。

そして得意気に親指でバンダナを指差した。

「む……」
『無限バンダナだ』

横島の言葉を遮るように心眼が言う。

彼はやたら得意そうだった分、その台詞を言えず、かなり虚しい。
むしろまぬけだ。

そして意趣返しとばかりに、心眼に殺気を向けるのだった。

「それにしてもあいつら何なんだろう。
前はあんなのいなかったんでしょ?」

二人のやり取りなど無視して、タマモが尋ねる。

「おそらく、開発会社のほうが雇ったGSだろうな。もしくは可能性は低いけど、問答無用で妖怪を倒してる輩とか……。
どちらにせよ、少し面倒なことになりそうだな」

横島は、ふうっ、と嘆息した。


美衣の目覚めを待つ中

『残された時間は、あまりに少ない……』

心眼が呟いていたが、
この呟きは、横島にすら聞こえていなかった。


あとがき
遅くなりました。
内容は決まってるのに、プロットができない……。
長いこと書いてなかったから勘が、とか、これがスランプ? なんていっぱしの物書きみたいなこと考えてますw

今回は美衣です。
原作で横島が億単位の仕事なんて言ってましたが、正直、貧乏な地方自治体に払えるとも思えないんで、数百万の仕事に。

なんか今回オリジナルなGSが出てきましたが、私が「世界はそこにあるか」を書く上での幾つかの決め事に、オリキャラは極力出さない、というものがあります。(ジュンさんはかなり例外)
だから彼らには名前もないです。(最後の抵抗のような気もするけど)

あと、銃は伏線だったり、そうじゃなかったり……w

今回も読んでいただきありがとうございます。


>桜葉さん
事件、当たったんでしょうか?
私はまだ15巻という事実に気付いて、ビビッてますw


>casaさん
そして終盤の戦闘で、横島に力を託して死ぬんですね!
よーし、その方向で……!
……無理でしたw


>柳野雫さん
本当に悲しいのは出番も与えられず、忘れ去られることです。
これで彼も皆さんに印象を与えられたことでしょうw


>響さん
あれの影響も受けてます。
座り飛びといえば、私の中ではツェペリさんですが、百合子さんにさせたのはあの請負人の影響です。


>ヴァイゼさん
実際は引っぱる予定でした。
最初の考えでは、料理なんかも作ったりして、少しいい雰囲気に、とか、いろいろいろいろ。
はい、全然ないですw


>なまけものさん
あれは心眼の“見極める”という能力の具現です。
半分ネタですけど。


>quiquiさん
図らずも今回ヒャクメが出てきました。
他の方々もいずれ。


では。

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