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「あるいは、幸せの詩を 第2話(GS+ネタバレのため、今は秘密)」

長門千凪 (2005-08-04 22:22/2005-08-04 22:28)
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第2話 美神令子除霊事務所の昼下がり


ある夏の日の昼前時。
営業で会社回りをしているサラリーマンたちや、学校で授業を受けている学生たちが、うだるような暑さに耐えていたり参ったりしている時間帯。

それはここ、美神令子除霊事務所でも例外ではなさそうである。


「「あ゛〜〜づ゛〜〜い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………。」」

「そーーですねーーーー………。」


所長の美神令子と妖狐のタマモの気だるげなボヤキに、アシスタントである氷室キヌもどこかどんよりとした声で答える。
三人とも目が虚ろだ。


「あ゛ーーーーーーーーー!!!! 何で今日はこんなにも暑いのよ!? せっかく今日は久しぶりに依頼がない日だってのに、おちおち書類整理もできないじゃない!」

「確かにこのごろは働き詰めだったわよね………。」

「夏ですからねー。依頼が多いのは仕方ないですよ………。」


美神の叫びに、タマモとおキヌは顔も動かさずに返答する。
どうやら体を動かすことも億劫なようだ。


「それにここまで熱くなっちゃったのは仕方ないことですよ。エアコンが壊れちゃってるんですし………」

「ええ! そうよね! 仕方ないわよね! 誰かと誰かのせ・い・で!!!」


ギロォッッ!!


美神は石化の魔眼なんて比じゃないほどの鋭い視線でタマモを睨みつける。


「(ビクッ! )わ、わ、私が悪いわけじゃないわよ!? あ、あの馬鹿犬がケンカを吹っ掛けてくるのがいけないんだから!!(汗) 」

「まあシロちゃんをタマモちゃんのケンカはいつものことですけど、さすがにこの部屋で霊波刀と狐火を出し合ってケンカをするのはマズいですよね………。」

「お、おキヌちゃん!?(汗)」

『ついでに言わせてもらいますと、調度品だけではなく、壁や床、天井などの内装にも甚大な被害が出ています。ええ。それはもう。』

「ちょっ!? 人工幽霊壱号まで!?」


普段はフォローに回ってくれるはずのおキヌや人工幽霊壱号の冷静なツッコミに、さすがのタマモも泣きそうだ。
まさしく四面楚歌。


「あ゛ーー!!もう!! 思い出したら一層ムシャクシャしてきた! タマモ! あんたは明日も油揚げ抜きね!」

「(ガーーーーーン!!)………………そ、そんな〜〜〜〜〜。(泣)」


バッタリ


タマモは上体を机に突っ伏し、滂沱の涙を流し出してしまった。
どうやらとどめを刺されたみたいである。


「み、美神さん!? 何もそこまで………。(汗)」

「じゃあおキヌちゃん。これからさらに暑くなることが確定な正午過ぎをクーラーなしで耐え切れる?」

「う。そ、それは確かにそうですが………。」


タマモ、やっぱり孤立無援である。
当の彼女は油揚げを2日連続で抜かれるのは相当キツいのか、机の上で泣きながら「お揚げー………。お揚げー………。」とうわ言のようにつぶやいている。
さながら、タバコを取り上げられたどこぞのヘビースモーカーみたいな状況だ。
はっきし言って相当コワい。
まあ、ある意味自業自得であるのだが。


「シロも覚えときなさいよ………。あの子にもしっかりきっちりみっちりと追加のお仕置きをしてあげるわ………!」

「み、美神さん………。(汗)」


美神令子。相も変わらずと言ったところである。
こうなったら誰も彼女を止められないだろう。

シロにとって、この場に居なかったことは非常に幸運なことであったかもしれない。
しかし、彼女は居候と言う立場である以上、美神と顔を合わせないことは不可能であるわけで………。


ガチャ


「たっだいま〜〜〜!!でござるっ!!!」

「う゛ぃ〜〜〜〜〜っす………。」


勢い良くドアが開けられ、一人が元気な足取りで、一人が幽鬼のごとき足取りで入ってきた。
見た目でだけでなくテンションも正反対なだけに、幽鬼のような状態の横島はドン引きされてもおかしくない。
まあ、程無くしたらいつものごとくケロッとしているのだから、心配するだけ無駄なのだが。


「噂をすれば何とやら、ね………。フ、フフ、フフフフフフフ………………。

“シロちゃ〜〜〜〜ん!タイミング悪すぎよ〜〜〜〜〜〜!!!(泣)”


シロとタマモ。
仲は悪いがこの二人、実は運命共同体なのかもしれない。


「シロ………。ちょ〜〜〜っとこっちに来なさい………。」

「(ビクッ)な、何でござるか美神どの?せ、せ、せ、拙者に何の用でござるか?(汗)」

「い・い・か・ら、早く来なさい………!」

「(ビクゥ!!)ハ、ハイでござるぅ………。(泣)」


シロは「Help! Help!」と切実に訴える視線を横島とおキヌに送るが、二人ともあさっての方向に顔を向けている。
しかも二人とも同じ方角に。

今の美神に口出しすることがどんなにおっっっそろしいか二人ともちゃんとわかっているだけに、巻き込まれるのは勘弁なのだ。


キィ………バタン………


どこぞの処刑執行人と処刑囚の構図さながらに、美神とシロは隣の部屋へと消えていった。
横島はその姿を額にでっかい汗を張り付かせて見届けた後、おキヌに恐る恐る問いかける。


「な、なあおキヌちゃん………? 一体何があったんだ?(汗) 今日の美神さんはとてつもなく機嫌が悪いみたいだけど………?」

「は、はい。昨日の夜、シロちゃんとタマモちゃんのケンカの余波でエアコンが壊れちゃったんです。そのせいで今日は部屋がものすごく暑くなっちゃってて………。遂に美神さんがそれに耐え切れなくなってああなっちゃったと言うわけです………。」

「マ、マジ? つーことは第一の被害者はそこで突っ伏しているタマモってことか………? 災難だったな………。(汗)」


横島は美神の八つ当たりの被害に遭ったシロとタマモに同情すると共に、その場に居合わせなかった幸運に感謝する。
もしもその場に居たならば、まず間違いなく自分が真っ先に八つ当たりの標的としてロックオンされていただろうし。


「って横島さん! またケガしてるじゃないですか!?」

「へ? ああ、これのこと? 大丈夫大丈夫。これでも減った方なんだよ? シロのサンポはハードだからなあ。」

「大変! とりあえず救急箱持ってきますね!!」  ガチャ、バタン!

「お、おキヌちゃん!? こんなにツバ付けときゃ治る………ってもういないし。」


横島はやれやれと言わんばかりにソファーへと腰を下ろす。
その横には目下フリーズ中のタマモがいまだに寝そべっていた。


「おーい? タマモー? 生きとるんかー?」

「………。」


………反応なし。


「むう。」


次は頭をペシペシと軽く叩いてみる。


  ペシペシ。ペシペシ。

「………。」


………反応なし。


「マジ?」


それならば、と頬を両手で左右に伸ばしてみる。


うにゅ〜〜〜〜〜。

「………。」

「おお〜〜〜。よく伸びるな〜〜〜〜。」


って遊んでるんかいっ!?


「ってこれでもダメ?うーん。あとの手は………。」


これ以上のことをやったら狐火を食らっても文句は言えないぞ?


「……ぇ……ぉ……………。」

「お!? やっと復活したかタマモ!?(汗)」


横島はそんなことを言っておきながらソファーの後ろに隠れている。
明らかに狐火を警戒しているようだ。
どうやらちょっかいを出している、と言う自覚はあったようである。


「………………。」

「あり?」


また反応がなくなってしまった。


「相当の重症なのか………?」


どっからどうみても重症です。

しかし、やはりそんな横島のアホみたいな行動でも効果があったのか、再度タマモの口が僅かに動いた。


「ぉ……げぇ……。」

「へ? 何だって?」


よく聞こえないので、耳を近づけてみる。


「お揚げぇー………。お揚げぇ………。」

「………………………………………………………………ダメだこりゃ。」


全くの同感だ。


横島はタマモの蘇生を諦め、もう疲れたーと言わんばかりにソファーへと腰を下ろした。


ガチャ、ギィ………。


「あー、おキヌちゃん? 本当に大したことないか………………ら………?」


横島、硬直。
目の前に居たのはおキヌではなく、ルルルーと言う効果音が似合いそうな涙を流しているシロであった。


「シ………シロ?(汗)」


横島は心持ち引きながら、変わり果てた人狼族の少女に声を投げかける。
しかし、シロはその言葉には何の反応も示さず、フラフラとソファーへと歩いていく。
そしてタマモの横に座り、彼女と同じように机へと倒れるように突っ伏してしまった。


「シ、シロ? タマモ?」


やっぱり反応なし。
シロとタマモが並んで座っている光景は非常に微笑ましいはずなのだけれども、この状況ではただ不気味なだけである。
加えて、二人とも同じ方角に顔を向けているだけに、怪しさ倍増だ。


「んー、少しはスッキリしたわーーー。」


美神が開けっ放しのドアから伸びをしながら姿を現わす。
先程見せたどぎつい不機嫌さは和らいでいるようだある。
横島は幾分か逡巡したが、意を決して尋ねてみる。


「あのー、美神さん? シロに何をやったんスか………?」

「………………………聞きたい?」

「イ、イエ。ナンデモナイデス。ハイ」


ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる美神に、本能と理性から総力を挙げてのアラートが同時発令され、横島は追及を断念する。
『好奇心、猫をも殺す』と言う格言は伊達ではない。
特にこの場では。

横島は話を逸らすべく、美神に問いかける。


「み、美神さん。今日は仕事はないんスか?」

「あー、今日は依頼は入ってないのよね。だから今日は専ら書類整理。
はあ。気が滅入るわ………。」


実際、美神のデスクには書類が山のように積み重なっている。
これでは美神が不機嫌になるのも無理はないだろう。

美神はため息をつきながら書類を整理し始め、しばらくしてふと手を止めた。


「あ、そう言えば横島クン。アンタ、今は夏休みだったわよね?」

「はあ。その通りっスけど、それがどうしたんスか?」

「ふーむ………。」


美神はそれに答えず、書類の山を荒っぽく崩し―――もとい、捜索し始めた。


「ちょっ!? 美神さん!?」


当然ながら、それをフォローするのは横島しかいない。
書類を読んではそこいらにバラ撒くので、回収するのも大変である。


「うーん。あれも違う、これも違う………。」

「よっ!はっ!とおっ!」

「こっちの山かしらね?」

バサバサバサッ!

「どわーーーっ! なぜにいきなり風が吹く!? ………ってちょっと待て! そっちに行くな!! そっちは窓………ってオレが落ちる落ちるタスケテーーーーーーーーー!!!!!!」

『相変わらず大変ですねー。横島さん………。』

「ってそんなこと言ってる暇があったら助けんかいっ!」

『あー、私、幽霊ですので実体はないんですが………。』

「おぅ………。がっでむ………。」


で、同じような騒動を何度か繰り返した後………。


「あ、これね。」

「ゼー、ハー………ゼー、ハー………。(汗)」

「って何疲れてるのよ?」

「あんたのせいでしょうがっ!!!???」

「え? そうだっけ? まあいいじゃないの、そんなことは。で、この書類のことだけど………」

「うっわ。軽くスルーしやがりましたよこの人。」

「ってちゃんと聞いてんの?」

「もちろんですハイ!!」


卑屈だぞ、横島………。


「まあ詳しくはこれを見なさい。」


横島は一枚のプリントを手渡される。
そこにはでっかく――――――


「依頼書」


と書かれていた。


「美神さん?これって………?」

「この依頼、アンタが一人でやってみる?」

「………………………へ?」


横島はその発言に対して、手渡れたプリントを片手に目を白黒させ、間抜けな声を発することしかできなかった。


〜編集後記〜

どもども。長門千凪です。
第2話、いかがでしたでしょうか?

今回は校正に大苦労。
一回見直すたびに修正項目が出るわ出るわ。
さらに、原案のままだと第2話が短すぎちゃうことになるので、追加要素を投入しまくってます。
辻褄を合わせるのにも時間がかかりまくりました………。

次からはちゃんと分量計算しよっと。


かぎっこさん、ナナシさん、コブラさん、良介さん。
感想ありがとうございました。
いや〜。感想って励みになりますね〜。
もっと頑張らねば!


今回の後記はこの辺りで。
ではでは!

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