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「歩む道(第八話――横島の四)(GS)」

テイル (2005-07-31 18:05/2005-08-11 18:36)
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「は!! こんなことしてる場合じゃない!!」
 令子がそう言って我に返ったのは、わいわいきゃいきゃいとお互いのつつき合いを始めて、一時間弱が過ぎた頃だった。
「……気が済んだ?」
「ママ……」
 げんなりとした表情で溜め息と共に声をかけたのは、辛抱強く見守っていた美智恵である。
 ちなみに冥子は美智恵の隣で船をこいでいる。夢の中で、しかも立ったまま寝るという上級技が光っている……。
 それはともかく。
「これから先はこんな事許しません。今回は、まあ……」
 美智恵は令子達を見回した。その顔に浮かぶ表情には、ここに来た時点と比べて明るさが増している。
「……リハビリと言うことで大目に見ましょう。ですが依然横島くんの状況は全く改善されていないことを忘れては駄目よ。そして私たちが……ここに何をしに来たのかも、ね」
 真っ直ぐに見つめられて、令子は小さく頷いた。
「……うん。ごめんなさい、ママ」
 令子の後ろでは、美智恵の言葉に同じく小さくなるおキヌ達。
 その姿を視界に納めると、美智恵は先ほどからかくんかくんと首を揺らしている冥子に向き直った。
 優しく肩を揺する。
「冥子さん、起きて。行きますよ」
 ゆらゆらと揺れた冥子は、やがてほにゃんとした目を開いた。
「あれ〜」
 寝ぼけ眼で周囲を見回し、こちらを窺う令子の姿を認めて微笑んだ。
「令子ちゃんだ〜」
 ぽてぽてと歩き、そのまま令子の胸の中にぽすんと身体を預ける。
「ちょ、冥子?」
「ぐ〜」
「ちょっと!」
 胸の内から聞こえる寝息に思わず突っ込む。
 美智恵が口元に手を当てて笑った。
「あらあら。待ちくたびれちゃったのね」
「他人事みたいに言わないでよ……」
「他人事だもの。自業自得でしょ。目が覚めるまで連れていってあげなさい」
「無茶言わないで……」
 これから延々と続く道を、冥子を背負って歩くなんて冗談じゃない。かといって無理矢理起こすのも危険だ。
 彼女は例え夢の中でも暴走する。理不尽かもしれないが前例もある。やはり母親の言う通り、背負って行くしかないのか……。
 令子の目がシロに向けられた。この中で最も体力があるのはシロだ。
「お願い、シロ」
「拙者はかまわぬでござるが……」
 人狼の少女はそう言って首を傾げた。
「他に背負いたがっているのがいるでござるよ?」
「え?」
 シロの視線に促され下を見ると、ハイラがじっとこちらを見ていた。それはまるで自分の背に乗せろと言っているようにも見える。
 令子は驚いて冥子を見た。
「く〜す〜」
 寝息は変わらず聞こえてくる。間違いなく爆睡中だ。
 つまりハイラは……。
「あんた、冥子の制御を離れているわね?」
 その言葉にハイラは何の反応も見せない。ただ変わらず令子を見あげている。それはまるで「いいから、はよ嬢ちゃんをわしの背に乗せんかい」と言っているようにも見えた。
 令子は冥子をそっとハイラの背に乗せた。
 羊を司る式神は、自分の背に乗せられた主人を落とさないよう、ゆっくりと歩き出す。
 その様子を呆然とした表情で令子は見ていた。
「美神さん? どうしたんです?」
 ハイラについていくように一同が歩き出した中、立ちつくし動こうとしない令子に、おキヌが振り返った。
「行かないんですか?」
「え? い、いくわよ。ごめんおキヌちゃん」
 あわてて、おキヌの隣りに走る。
 その様子におキヌは再び尋ねた。
「どうしたんです?」
「あいつ、勝手に具現化してる」
「あいつって……ハイラちゃんですか?」
「そうよ。冥子は今眠っているのよ? つまり今あいつは、霊気の供給無しに動いてる」
 令子はじっと前を見ていた。……正確には、ハイラの背に乗る冥子を。
 二人のやりとりを聞いていた美智恵が、そっと身を寄せてきた。
「力ある鬼を従え操るのが式神使い。やがて式神は主の影響を受けて成長し、支配から逃れ自由になる。大抵はその時、元式神の鬼によって術者は殺される」
 だからこそ式神使いは、支配を破られないように己の力を磨く。
 しかし式神使いとしての神髄は、実はその真逆にあるのだ。
「……でも希に自由になった式神が、今度は望んで主人に仕えることがある……。それは式神使いの極めと言われているものよ。そして冥子ちゃんは、今その境地に至っているようね」
 だからこそ、ハイラは支配を受けていなくとも勝手に動くことができる。自分の意志で仕え、行動しているのだから。
「ママ……全然驚いていないみたいね」
「あなた達が騒いでいる間に済ませただけよ」
 なにせ天才の家系と言われている六道家の中でも、おそらく冥子が初めての筈だ。
 これで驚かないわけがない。
「えーと、凄いんですね?」
「もの凄く」
 おキヌの言葉に即答する令子。その表情は、なにやら複雑な色を浮かべている。
 その表情に美智恵は優しげな微笑みを浮かべた。
「令子」
「ん?」
「負けてられないわね」
「……ん」
 令子はちらりと母親を見ると、真っ直ぐに前を向き頷いた。


 横島の夢に延びる道は容易にその端を見せようとはしなかった。冥子が目を覚まし、自分の足で歩くようになってからも、それは変わらない。長い時間単調に道を歩いていると、感覚が少々おかしくなってくる。まるでふよふよと浮いているかのように、だんだんと感覚が希薄になっていく。
 どれほど歩いただろうか。道の左右に仄かに明滅する扉が混ざり始めたとき、それはやっとやってきた。
 真っ先に気づいたのは、五感が優れている人狼と妖狐だった。
「道がとぎれているような……」
 そう言ってシロはタマモに目を向けた。
 目を細めつつ、タマモが頷く。
「そうね。ぷっつりとね」
「……行くでござる!!」
「あ、待ちなさいシロ!!」
 そしてそれからしばらくして、ついに令子達は道の終端についた。
 シロとタマモと冥子以外の全員が汗だくで息を切らしている。……まだまだ距離があるのに走り始めたシロを追いかけた為だ。人狼や妖狐の視力を舐めてはいけない。彼女らが道の終端を認めてから、まだまだ距離があったのである。
 ちなみに冥子はハイラに乗っかっていたので楽ちんであった。
「……こんの馬鹿たれ」
「きゃいん」
 とりあえず一発殴っておいてから、令子はそれに目を向けた。
「これは一体何かしら」
「何……といわれてもねえ」
 娘の言葉に、美智恵が困ったように冥子に目を向ける。しかし冥子もほにゃんとした顔で首を傾げた。
「行き止まり〜かな〜」
 道の終端はシロやタマモが見たように、ぷっつりととぎれていた。そこにあるのは、ただ闇だけ。
「行き止まりな訳ないでしょ。それじゃ横島くんの深層心理に続く扉は、どこにあるって言うのよ」
「そ〜よね〜」
 人差し指を口元にやり、不思議そうに呟く冥子。その冥子にハイラが身体をこすりつけてきた。
「ん〜? ふんふん。へ〜、そ〜なんだ〜」
「なんなのよ」
 端からは全く理解できない意志の疎通に、少々苛立つ令子。
 そんな令子を気にすることなく、冥子はのほほんと言った。
「鍵が〜かかっているんだって〜」
「鍵、ですか」
「場所は間違ってないって訳ね」
 おキヌとタマモが行き止まりの闇にじっと視線を注ぐ。
「それで冥子さん。その鍵は、どうやって開ければいいのかしら?」
「ん〜」
 美智恵の問いに再びハイラに顔を向けた冥子は、しかし首を横に振る。
「わかんないって〜」
「そんな!!」
「ごめんなさい〜、令子ちゃん〜」
「いや別に謝らなくても」
 慌てて手をぱたぱたと横に振り、しかしやはり途方に暮れた。
 夢を司るハイラにわからないものを、どうやって解決すればいいというのだろう。
 令子達は頭を抱えた。

 道の終端に目当てのものはなかった。その事を理解すると、シロは頭を抱える令子達からそっと離れた。
 シロが向かった先は、仄かに明滅する扉の前である。少し前から道に混ざり始め、そして最後の方ではその扉ばかりとなった。今目の前にある、道の終端に最も近い最後の扉も、同じものだった。それはその扉の思い出こそが横島にとって最も心に残る、大切な思い出だということを意味している。
 この扉が誰の思い出なのか、シロには想像できた。夢の中に入る前、令子が語ったアシュタロス事件。そこで知った、かつての横島の恋人……。
 蛍の化身、ルシオラ。この仄かに明滅する光は、蛍を連想する。ならばこの扉の思い出は、そのルシオラのものなのだろう。
 はたして彼女は、どのような女性だったのだろうか。その思いは、強くシロの心を捉えていた。
 横島は敬愛する師匠にして、最も心を許している異性でもある。その彼の心を奪った女性……気にならないはずがない。この明滅する扉を見たときから、ずっと気になっていた。
 扉を開けば、その謎は解ける。横島の視点で彼女を見ることができるはずだ。しかしシロは、その衝動に耐えていた。時と場合を考えなければならなかったからだ。何が大切かといえば、現在横島を救うことより優先されることはない。
 しかし目当てのものはなかったのだ。彼の心を救うために訪れなければならない、その場所に通じる道が。深層心理に続く扉が……。
 それが、シロの枷を解き放った。令子達が打つ手なく頭を抱えていることもあった。
(この扉、開けてみるでござる。先生にとって最も大切な思い出……。何かの鍵になっていてもおかしくないでござるからな)
 半ば強引に自分に言い聞かせながら、好奇心に従って扉に手を伸ばす。

 シロの様子に最初に気がついたのは、なんだかんだで彼女の相棒となったタマモだった。
「あ!」
 タマモがあげた驚きの声に令子達が視線を向けたとき、光は溢れた。

 苦痛に歪んだ顔が視界一杯に拡がった。
『ルシオラ、大丈夫か……?』
『う、ん』
 大きく息を吐き、ルシオラは切なそうな表情を浮かべた。そして次の瞬間、涙をぼろぼろと零す。
『ルシオラ!? やっぱ、痛いのか!?』
 慌てた声に、ルシオラはゆっくりとかぶりを振る。
『ちがうの……。嬉しいの……。ヨコシマと一つになってる。それが嬉しいの……』
 涙に濡れた瞳をきらきらさせながら、染み出るような笑みを浮かべた。
『ルシオラ……』
『魔族なのに。アシュ様の道具として生まれただけの存在だったのに。それなのに好きな人と、こうして愛を確かめ合ってる。……幸せを感じてる。嬉しい。嬉しいよ、ヨコシマ!』
 力強くルシオラを抱きしめた。熱い吐息が耳朶を打つ。
 ルシオラの耳元で、囁くように言う。
『愛してるよ、ルシオラ。お前が好きなんだ。大切なんだ。なにがあろうとも、俺はお前を護るよ』
『わたしだって、愛してる。大好きよ。あなたより大切なものはないわ。……おまえがわたしを護ってくれるなら、わたしはおまえを護る』
 そっと身を離し、見つめ合った。
『ヨコシマ……』
『ん?』
『動いていいよ?』
『でも』
『いいのよ』
 そう言ってルシオラはくすりと笑った。
『普段はエッチなのに、こういうときは優しいのね、横島』
 彼女の繊手が、そっと頬にあてられる。
『いいの。気持ちよくなって欲しいから。だから、いいの。わたしだって嬉しいのよ? わたしを求めてくれる……そう感じることができるのだから』
 そう言うと、ルシオラはそっと目を閉じた。心持ち顎があがる。
 ゆっくりと唇を寄せた。優しく唇が触れ合う。
『んっ』
 ルシオラの眉根が寄った。しかし唇は離れない。触れあうだけだった口づけは、だんだんと深く激しくなっていく。それと同時にルシオラのから漏れる声も速く、そして高くなっていく。
『んんんっ!!』
 お互いを掻き抱く。唇が離れた。
『ヨコシマ!!』
『ルシオラ!!』
 お互いの名を呼びあう声が響いた。
 そして――。

 二人の痴態を映していた光は消えた。誰もが微動だにしなかった。
 令子の中には今、様々な感情が渦巻いていた。それは怒りであり、悲しみであり、罪悪感であり、そして嫉妬だった。それらの感情と向き合うのは辛かった。だから令子は、とりあえず無理矢理思考を切り替えた。
(何が必要かって言えば、安全の確保よね……)
 隣に立つ冥子に目を向ける。この光景……免疫の無い冥子ならば、暴走するに足りる。少なくとも以前ならば間違いなく暴走する。もし暴走しそうならば、何とか止めなくては――。
「………」
 しかし当の冥子はというと、顔を両手で覆い恥ずかしそうに俯いている。しかしその実、指の隙間からしっかりと目が覗いていた。うなじまで赤くしながら、どうやら一部始終見ていたらしい。
 もちろん、暴走の危険性はなさそうだった。
(なんか、色々な意味で一皮剥けたわね……)
 ぼんやりそう思いながら、次に母親を見た。こちらは特に理由はない。何となく、見てしまっただけだった。
 美智恵は厳しい視線を真っ直ぐに向けていた。こちらを見ようというそぶりは欠片もない。その様子に何となく寂しく思いながら、美智恵の視線につられて再びシロを見る。
 ぴくりとも動かないシロの背中を見た途端、感情が一つの方向へと流れ始めた。……その感情の名は、怒りだ。
 シロが扉を開けなければ、横島の秘め事を知ることはなかった。悲しみも、罪悪感も、嫉妬ですら感じなかったはずだ。
 シロが扉を開けさえしなければ……。そうだ。シロが、全部悪い。
 溢れた怒りに身を任せ、令子はシロへ向かって歩き出した。
「おかしいわ。扉が……閉まらない?」
 怒りに燃えた令子には、母親の呟きは聞こえなかった。

 こんな筈ではなかった。こんな光景を見たかったのではなかった。大切な思い出。今は亡き恋人との睦言。そんな大切で神聖で、そっとしておかなくてはならない思い出。決して土足で踏み込んではならない場所。
(最低なことを、してしまったでござる)
 後悔してもしきれない。
 背後から凄まじいとしかいえない怒気と殺気を感じた。およそ、身内から受ける類のものではない。彼女が我を忘れるほど怒っていることが伺えた。
(美神どの……)
 シロは微動だにしなかった。制裁は甘んじて受ける。それだけのことをしたのだから。
 その時だった。一度は途絶えた扉からの光が、再び溢れたのは。
 そして、扉の奥に隠されていた真の思い出が顕わになる。


「どうするんだね。このままというわけにはいかないだろう?」
 魔神は肩越しにこちらを見ていた。
「うるせえ。とにかく動くんじゃねえ!!」
 結晶に文珠を突きつけながら叫ぶ。
(ヨコシマ、いいから結晶を破壊して! 結晶を失えばアシュ様の力は限りなく削がれるわ。そうすれば私たちの勝ちなのよ!?)
「馬鹿野郎! そんなことできるか! それじゃ俺がお前を殺すことになっちまう」
(わたしを助けるために全てを犠牲にするって言うの? 美神さんやおキヌちゃん……他にもあなたの大切な人たちが、みんな死んじゃうのよ!?)
(それでも、俺はお前を護るって誓った。誓ったんだ!)
(ヨコシマ……。嬉しいよ、ヨコシマ。でも、それじゃ駄目なの。わたしは……おまえが好きよ? だから生きていて欲しい。わたしの最後のわがままよ)
(ルシオラ……)
(この世界は美しいわ。切なくなるほどの幸せを、わたしにくれた。あなたと出会えたのも、この世界があったから。……この美しい世界で、生きて欲しいのよ。お願い、ヨコシマ)
 ぎりぎりと歯を食いしばる。
 魔神が目を細めた。
「本当に恋人を見殺しにするつもりかね? 目覚めが悪いぞ」
(うるせえ……)
「もし結晶を返せば、お前とルシオラを新世界のアダムとイブにしてやろう」
(うるせえよ)
 文珠が一際輝く。それを見た魔神が吠えた。
「な! よせえええぇえっ!」
(うるせえよっ!!)
 文珠がはじけた。砕け粉々になった結晶が、粉雪のように空中を舞う。きらきらと輝くその光景を呆けたように見る。散り際……。とても美しいが、同時に切なく、そして悲しい光景。
(ヨコシマ……)
 静かな声が響いた。
(後から俺も行くってのは……駄目なんだろうな)
(あなたなら、それを望む?)
(だよな……)
 ルシオラの言葉に、力無く返す。
(世界と、それにお前の命との引き替え。元々一年しか生きられない命だったんだもの。後悔はないわ。……これでいいのよ)
(よく、ねえよ)
(……うん。ごめんね)
(謝るなよ)
(うん……。ねえ、ヨコシマ)
(………)
(幸せに……なって、ね)
 無茶言うなよ……。


 あとがき
 ええっと。
 若干原作と違うところがあると思います。
 ……気にしないで下さい。
 原作が手元になく、朧気に書いた……というわけでは決してありません。
 たぶん。

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