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「アシュタロス〜そのたどった道筋と末路〜三話(GS)」

♪♪♪ (2005-07-21 03:51/2005-07-21 04:30)
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 ――視界を埋め尽くす山肌、という光景を、皆様は見たことがあるだろうか。

 網膜に移る世界の全てが全て緑と茶色、水色と白で占められる、天然自然の芸術世界の事だ。都会に住んでいる人間には、連想すら出来ないであろう。唯一それらの色彩を汚すものがるとすれば、山肌を走る道路のラインのみの世界。
 そんな世界の穢れの上。標高の高い山の上をらせん状に走る、排気ガスを押しのけるほどの緑に囲まれた道を、美神令子は歩いていた。


「あー。空気がおいしいわね」


 すうっと、深呼吸とともに体を引き伸ばす。天空に向かって引き伸ばされたその手には……何も持っていなかった。
 紫色のボディコン姿といい、何一つ荷物を持たない事といい、山をなめているとしか思えないスタイル……だが、彼女が遭難する事はまずあり得ないだろう。


 何故なら……


 ずーるずーる。


 彼女の変わりに、大量の荷物を運ぶ男が、背後にいるのだから。
 荷物を引き摺るとはこの事だろうか? 横島は、明らかに個人の限界を超えた質量のお荷物を背負わされていた。それでも押しつぶされずに直立歩行する彼の根性に拍手。


 ……ってか、アシュは実際に横島の内部で拍手してたし。


(頑張れタダオ! 負けるなタダオ! 巨乳の美神がお前を待っているぞ!)


 無責任きわまる上あまり感情のこもっていない応援に、横島は何も言い返さなかった。言い返す気力すら、横島は持ち合わせていなかったのである。


アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜おキヌ、無惨!(断定)


「しゅ、就職先まちがえたかなー??」


 無責任な応援と共に遠ざかる美神の背中に視線を投げて、横島は深く深く嘆息していた。
 百人に聞けば、五十人が全力で肯定し、一寸気が利いた奴なら無言で就職情報雑誌を提示するであろう当たり前すぎる疑問ですら、横島にとっては疑問系である。


「い、いいや! あのちちしりふとももをたっぷり堪能するためや! 決して間違ってはいない!!!!」


 酸欠で死に掛けていたところへ、『先行ってるわねー♪』などとのたまわれたばかりだというのに、堂々と言い切る助平魔人ここにあり。
 雇用主を訴えられる立場でないのは彼自身理解しているのである。彼が重ねたセクハラの数々を思い出せば、とっくの昔にクビになっても文句は言えない。


 何せ、セクハラ込みでこの扱い。ひっくり返せば、この扱いと引き換えにセクハラし放題。
 ……美神に知られたら、無言でぶち殺されそうな論理展開だが、横島を美神除霊事務所にくくりつけているのは、まさしくその一念のみだった。


「あの、ルシオラには望むべくも無い胸が……ぐふふふふふふ」


 ルシオラに聞かれたら全力パンチが飛んでくる(断言)台詞すらのたもう程だ。


 めでたく美神除霊事務所に就職した横島。毎日が天国(恋人との甘いひと時、美神に対するセクハラ)と地獄(恋人や美神からの折檻)の間を忙しく飛び回る生活を送っており、金銭的なことを除けば、非常に充実した毎日といえるだろう。
 彼が抱いている無数の隠し事が、ストレスとなってその生活を阻害してはいたが。


 まず、隠し事その一、体内に寄生したアシュタロスの存在。
 教えられるはずが無い。『俺、実は体内に魔王クラスの魔族飼ってるですよー、あははははー♪』なんぞと正直に明かそうものなら、正気を疑われるか問答無用で火あぶりにされるかのどちらかである。自己防衛としては当然の帰結であろう。しかも、中に入っているのが、コレでは。


 隠し事その二、ルシオラ達魔族三姉妹の存在。
 アシュタロスと同じような理由ではあるのだが、こちらはより深刻であった。美神ではなく、別の義理人情のあるGSなら素直に打ち明けてもいいのだろうが――
 美神が彼女たちの存在を知ったら、日給30円あたりで雇って金蔓にしてしまいそうだ。あれはそういう(鬼)女だと、短い付き合いながら横島は理解していた。


 アシュタロス曰く『魂すら骨までしゃぶって自分の益にする、魔族以上の極悪女』
 その後、『その代わりスタイルは抜群』と余計な事を口にしたため、ベスパから厳しい折檻を受けることとなるのだが、この場は割愛する。


 元魔王のアシュタロスに『極悪』印の太鼓判を押されるゴーストスイーパーって一体……?


「あしゅ〜〜〜〜〜! 美神さんいなくなったんだからお前も持て! 荷物!」
(……やれやれ)


 やれやれと肩をすくめながら、アシュタロスのごつい体が横島から生えた。そう表現するのがぴったりだろう、この出現の仕方は。
 人が見ていない居場所では、こうして負担を二人で分担することで、効率よく働くことを心がけているのである。


 何故かリクルートのスーツ姿に、尾骶骨から魂の尾が横島の胸につながっているアシュタロス。魂の尾さえ気にしなければ、町を歩いても違和感は無いだろう……顔色がそのまんまだから堅気の職業にはどうやっても見えないけど。現に、魂の尾を見えないように隠蔽し、街を歩くとかなり高い確率でびびられる。
 一番重いリュックを横島から取り上げて、背負うアシュタロス。横島は体にかかる重圧が軽くなったのと、遠ざかっていくリュックサックを確認してその隣に並ぶ。


「あ! 正面に可憐な半透明のお嬢さんを発見!!」
「なんと!? 幽霊なのにええ乳しとるやないかーっ!」
『話を聞い――』
「タニマーーーーーーっ!!」
「谷間ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『――ってイヤァァァァアァァァァァァアッ!!』


 ……すぐさま、いつもどおりの暴走に切り替わったわけだが。


「ルシオラに無い胸がーーーっ!!!!」
「べスパに無い清楚さがーーーーっ!!!!」


 しかも、叫んでる内容コレ。


 その頃の東京。


 どんっ!


「…………」


 鬼気を纏った包丁が、一本の胡瓜を寸断する……まな板ごと。


 どんどんどんどんどんっ!


 二つに分けられたまな板とキュウリは、四つ、六つと一振りごとに数を増やし、その容積を縮めていく。
 まな板突き破った刃が、その下にある金属板に深い谷間を穿ち、台所を傷つけて……念のために敷いていたそれは、台所の盾となるには脆弱すぎたようだ。


 包丁を振るう女性……ルシオラは、目元は前髪が作る影で全く見えず、口元からは不気味な笑みすら漏れていない!
 これは笑みが漏れているよりもずっと危険な兆候だということを、妹であるパピリオはようく理解していた。
 だから。


「る、ルシオラちゃん……野菜はまな板ごと切っちゃだめでちゅよぉ」


 パピリオの儚い訴えも、鬼氣振りまくルシオラには届かない。


 ごおおおおおおおおおっ!


 はてさて、その真横では。


「…………」


 ごごおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!


 目元が見えず、笑い声も発していないべスパが、フライパンを操っていた。地獄の煉獄もはだしで逃げ出しそうな、ものごっつい火柱の上で!


「ベスパちゃぁん……霊力で火力調節したら、炎が……お鍋が真っ赤になってるでち。中身がもう炭でち」


 パピリオの涙声は、ベスパの意識を刺激することなく空気を振るわせるだけで終わった。
 ガス料金節約のために作り上げた霊力クッキングヒーターの存在が、仇となったようだ。ついでに言うなら、フライパンは半分溶けかかって炭化物に絡み付いていた。


 本日の昼食は、『野菜サラダまな板あえ』と『炭化野菜炒め融解鉄分風味』らしい。
 今日『も』まともな昼食は望むべくも無いようだ。横島とアシュタロスがバイトを始めてから、一度もまともな昼食を口にしていないパピリオだった。


「……ひん(涙)」


「くそっ! 見失ったか!?」
「いくら私たちが嫌だからって、何も成仏せんでもええやろ!」


 追いかけているうちに対象であるナイスバディの幽霊を見失い、憤慨する二人。元凶のクセに、パピリオの窮地なんぞ露ほども知らない。


 そんな二人を、木陰から除きこむ少女がいた。透けるような美しい黒髪を長く伸ばした、美人になる寸前の愛らしい少女だ。
 時代はずれの古風な巫女服姿と背後に背負った人魂が、彼女がこの世のものではないことを証明していた。


『あの人……あの人がいいわ』


 その少女は、横島のお人よしそうな、女好きっぽい顔を見て即座に判断を下すと、木陰から飛び出した。


 出来るならこの時、目標の横にいるアシュタロスの耳がピクリと反応したことに気付いてほしかった。そうすれば、今回の騒ぎの大半はここで終わらせることが出来たのである。


 説明しよう! 斉天大聖との戦闘で損傷したアシュタロスの肉体は、現在大半が強化再生されており、特に五感は『女性限定』でヒャクメ達情報調査専門神魔族すらぶっちぎる高性能を示す! 声だけで髪の色や顔、容姿はもちろんの事、3サイズ体重すら判別可能なのだ!


 ……無駄に使えねえ。


 そんなわけだから、少女がえいっ、と気合を入れて横島に体当たりをしようとした瞬間!


 ぼむっ!


 ……想像をぶっちぎった重い手ごたえが、少女の全身を襲う。どう考えてもあの少年の体のそれとは思えない、重量感とボリュームだ。
 ぎょっとして、相手の体を見直すと……


「可憐な幽霊のお嬢さん。お暇なら私とめくるめく愛と官能の世界に旅立ちませんか?」


 アシュタロスのマッチョな巨体がそこにあった。


 少女は凍った。無理も無い。
 と、言うのも、気障ったらしい台詞を吐いたアシュタロスは、目を血走らせ(オイ)鼻息荒く(コラ!)下心丸見えで(マテ!)……かなり高位の妖怪ですら、びびって逃げ出すような凄まじい形相をしていた。


 原因は――アシュタロスの頭の中身を覗けば自ずとわかる。


(ふ、ふふふふふふはははははははははは! なんと! 清楚な美少女巫女とは私は運がいいぞ! ベスパの大人の色気は確かに愛しいが、こういう初心な純白もまた捨てがたい!
 辛いものを食べ続ければ舌が甘いものをもとめるように! 今の私は清楚を求めているのどわぁぁぁぁぁぁっ!!)


 素敵に最低野郎である。ベスパさん、このおっさんのどこに惚れる要素があったのだろうか。


 その頃の東京。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴごごっ!!!!


「ふ、ふふふふふふふふ。なんか、無性にアシュ様を殴り飛ばしたい気分だわ」


(あ、アシュ様一体なにやらかしたんでちゅか〜!?(泣))
(タダちゃぁん。怖いよぉ(泣))


 ガクガクブルブル……


 先ほどまで加害者であったルシオラですらびびらせる殺気が、ベスパから放たれていた。
 とりあえずアシュ様。帰還後即惨殺決定(爆)


 そして。
 思い出していただこう。今の少女の体勢を。少女は、対象を突き落とそうと体当たりを敢行し、手応えの異様さに硬直して、相手を見上げたのだから……どうなるか?


 答え。
 変態に全力全身で抱きつく形となるのだぁ!!!!


 彼女の精神ダメージは計り知れない……実際、一瞬意識飛んだし。


 しかも追い討ちちっくに、自室状態に陥った少女に見せびらかすように、アシュタロスは両腕を振り上げ!


「むんっ!!!!」


 全身の筋肉を振るわせ始めた。 


 その振動は、抱きついていた少女の全身に伝道し、その精神をさらに遠くへ蹴っ飛ばす。
 そんな欲望で動く筋肉を体感した、純真な少女の反応はいかなるものか!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 当然の如く、逃げる!
 そして、逃げられたアシュタロスの反応わ!


「お嬢さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん! お待ちになって〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


 当然の如く、追う!


「一寸待てあしゅぅぅぅぅぅぅっ! 500めーとる! 500メートルの法則を忘れてないかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 しかも横島も一緒にだ!


 純白の山肌、今すぐ吹雪き始めてもおかしくない標高にて。
 雪を掻き分けず、にもかかわらず雪の中を進むという、常軌を逸した登山家が一人そこにはいた。

「むっすめさんっよっくきけよっやまおとこにゃほっれるなよ〜〜〜〜〜♪」


 ――中々良い声で歌いながら山を闊歩するのは、一人の幽霊。
 登山スタイルと出現場所で、一発で遭難者の霊とわかる漢だ。ちなみに、明痔大学ワンダーホーゲル部員。
 美神が呼ばれた第一原因にして、人骨温泉ホテルに出没する幽霊の正体である。自分の体を見つけてほしくて化けて出るのだが、その苦しさも山を歩いてれば紛れるらしい。


 ホテル側がGSを呼んだところまでは上手くいった。後は、当人がホテルに到着するのを待つばかりだ。それまでの時間つぶしに、大好きな山を練り歩くことにしたのだが――


 その後出会うことになる災厄を知っていれば、彼も出歩くなどしなかっただろう。


「――ん?」


 一瞬、聴覚から変な情報を受け取って、ワンダーホーゲルは真横を見た。
 悲鳴らしきものが聞こえた気がするのだが……


「助けてー!」


 いや、確かに聞こえる。うら若き乙女の悲鳴が。


「っ!?」


 元々正義感の強い彼である。その切羽詰った悲鳴を聞き逃せるはずも無く、声がする方向へ走り出した。ここでか弱い女子を見捨てるなどと、山男のしていい事ではない!!


 結果論から言うと、彼はこの時この悲鳴を無視するべきであった。どーせ悲鳴の大本は女の子なのだから、彼のようなホモにとっては、あんまりおいしい展開でもないのだから。
 その上、彼は善意の行動が不幸を呼ぶという、究極の理不尽を体験する羽目になるのだ!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ぱっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!


「うぎゃぁっ!?」


 出会い頭、巫女服姿の少女に力の限り撥ねられ。


「はははははははは! 恥ずかしがりやさんだなぁぁ!」


 どぐしゃべきゃぁっ!!!!


「げぼぉっ!!」


 着地したところを魔王クラスの魔族に轢逃げ。


「アシュタロス〜〜〜〜〜〜〜!! お前に消えられたらベスパに殺される〜〜〜〜〜!!」


キンッ


「…………っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?」


 追い討ちに、幽霊にダメージを与える特性シューズ(ルシオラ作)で股間を潰される。
 一瞬にしてワンダーホーゲル、虫の息。あと少し刺激を与えたら強制的に成仏させられそうである。


 横島やアシュタロスのような下心一切なしで、女の子を助けに行こうとして、なにゆえこんな目に会わなければならないのか。
 究極の理不尽である。


「や、山が……山が自分を受け入れてくれてるッス」


 ってか、幻覚見てるし。


 その頃の東京。


 ぽかぽかぽかぽか……


「平和でちゅねえ」
「平和よねぇ」


 ずずずずずずずず。


 穏やかな日差しの中で。
 縁側に座って、砂糖水をすするルシオラとパピリオ。


「へーわでちゅねえ」
「へーわねえ」


 ……ベスパはどうしたよ?


「お嬢さぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 追いかけっこが始まって約一時間が経過し……アシュタロスは、おキヌちゃんを補足しつつあった。彼女もその事に感づいていたため、必死で距離を造ろうと走るも、何故か引き離せない。


(逃げなきゃ駄目よ逃げなきゃ駄目よ逃げなきゃ駄目よ逃げなきゃ駄目よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ)


 死ぬまで守り通してきた純潔を、幽霊になってから失うのでは笑い話にもならない。しかも相手は……


 ちらりっ


 背後を振り返れば。


「おぢょうすゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!(濁声)」


 目を血走らせ。
 顔は正面体は真横。腕は体の前後をゆーらゆらとうごめいて!


 欽ちゃん走りで迫るアシュタロス!!!!


 ……全国の萩本欽一ファンに謝れコノヤロウ。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 ちらっとはいえ、背後を振り向いてしまったことを激しく後悔。


「ふあはははははははははっ! 清楚! 時代は清楚なのだ! ベスパには無いこんな感覚を私は待ち望んでいたのどわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


(誰か、誰か助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!)


 心の中で祈りったその時――


「おじょおさびばぶぐっ!?」


 背後の気配が、消えた。


(えっ!?)


 あわてて背後を振り返ると、そこには――


「――大丈夫ですか? お嬢さん」


 肩で息をして、こちらに手を差し伸べるバンダナの青年が一人。
 人間なのに、幽霊相手に真摯な対応をする人間――おキヌの胸は、不自然なほどに高鳴る。


(え? え? え?)


 いや、先にネタばらししとくと、おキヌの胸の高鳴りはいわゆるつり橋効果という奴で。運動による息切れを、精神的高揚と勘違いしているのだ。そんな現代の理論を、300年前に死んだ少女が知るはずも無く……前後関係を全く把握できない事も手伝って。


「立てるかい?」


 ぽっ


「あ、ありがとうございます……」


 その胸の高鳴りを、ものの見事に恋心と勘違いし、顔を赤らめたのであった。


 さて、皆さん。
 この瞬間、一体何が起きたのかが気になっていることでしょう。
 実は、こんな事が起きていたんです。


「ふあはははははははははっ! 清楚! 時代は清楚なのだ! ベスパには無いこんな感覚を私は待ち望んでいたのどわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 アシュ様がそう叫んだ瞬間。


 キランッ☆


「ん?」


 真昼だというのに、星が瞬くのを目の端で確認した横島は――凍りついた。光り輝いた星に目線を釘付けにしたまま、固まる。


(べ、べすぱっ!?)


 そう! 瞬いた星の正体は、さっき丸出しで高速飛来するアシュ様の恋人、ベスパその人だったのだ!
 額には青筋、手には血の染み付いて黒光りする折檻用の道具。瞳の置くには怒りの炎と完全武装。
 何故このタイミングでやってこれたのか……簡単だ。べスパほどの霊格を持つ魔族が、アシュタロスのいかれた思考に第六感を反応させないはずが無い。
 彼女は飛行の勢いをそのままに、無言でアシュ様に突進し――ラリアットをかました。


「おじょおさびばぶぐっ!?」


 まったく気付いていなかったらしいアシュタロスは、そのラリアットの直撃を食らい、そのまま真横の茂みに突入。そのまま姿を見せない。


 土煙が上がったにもかかわらず、着地音が聞こえないところを見ると、結界でも張ったのだろう。視線だけ向けると、血の噴水が上がっているので何が行われているかは丸わかりだ。


(肉塊Aになっとるんやろーなー)


 自分より十倍怖い恋人を持ってるくせに、自分よりも欲望に忠実な友人のために、一秒だけ黙祷をささげる忠夫君……と、そこで彼はある重大な事実に気がついた。


(こ、この血飛沫――この子に見せたらトラウマになる!?)


 いかにも純真そうな巫女服姿の少女――ただでさえ、あんなの(アシュ様)に欽ちゃん走り(欽ちゃんファンにゴメンナサイ)で追いかけられて心に傷が出来かけているというのに。自分は慣れてるからともかく、毎晩夢に見るかもしれない。


 根が優しい(女性限定)横島は、女の子の心にトラウマが残るのは看過できなかった。


(どうすればいい!? どうすれば――)


 混乱しながらも、横島の頭脳はその答えをはじき出した!


 ――この場を離れるのが最優先!


「――大丈夫ですか? お嬢さん」


 かくして。
 横島は、無意識に一人の少女を落とした(核爆)


 その後――
 横島はおキヌをつれて人骨温泉まで避難(幸い、500メートルも離れていなかった)し、彼女から事情聴取。死に掛けてたワンダーホーゲルを使って、彼女を解き放つことに成功したのだが――


「日給三十円で雇ってあげる!」


 との、美神のお言葉に、ルシオラ達を紹介しなかった自分の判断が正しかったのだと、心底ほっとした横島だった。


 なお、アシュ様は横島の予想通り、肉塊Aとなって横島の肉体に帰還し、彼自身も帰宅後には肉塊Yにされた事を、ここに記しておく。


あとがき
 クーラーの効きが悪いなあと重い、何気なくカバーをはずして除いてみたら、フィルターが埃まみれで向こうが見えないという異常事態に陥っていた、♪♪♪です。そら、暑いはずやがな。(汗)
 フィルターはずして掃除したら、逆に効きすぎなくらいに快調になりました……定期的に掃除せねばなりませんな本当に。

>リーマン様
 このシリーズというか、横島一家では基本的に女性が優勢です! だって、男共があんなですし。特にぐれぇとまざぁの影響力は計り知れず……まさしく女帝!

>ナマケモノ様
 ずっぶらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!(V様風に吐血)
 い、いえね……最後の二つ以外がもろに誤字です。はい。
 キャラが生き生きとしてるのも、考え物ですよ……時々、作者でも制御できなくなりますし……(汗)

>disraff様
 そ、そうなんですか……知らなかった!(オヒ)
 修正案が中々まとまらなかったのですが、何とか直せました。

>御汐様。
 ……ぐはぁっ!
 ぎゃ、ギャラクティカマグナム食らった気分ですな……確かに、言われてみたらとてもじゃないがノーマルとは……いやいや、意外とまともなスケベェ心という意味でのノーマルであって……うーむ、表現が難しい(汗)

 ……ヨコシマアシュ?

>天皿様
 そりゃあ、二人は百合子さんの背中見て育ってますからねぇ……男の方も大樹の背中見てるし、似るのも当然です。
 口調が似るのは、前例(さっちゃん)を参考にしてみました。

>サクヤ様
 単体恋人……もちろん、そのつもりです。
 ジーク×ヒャクメとか色々とカップリング予定ですので、お楽しみに♪

>柳野雫様
 そりゃあ、ねぇ……挑んだ後敗残者達がどんな目にあったかは圧して知るべし(汗)
 確かに、パピリオが一番不幸ですな……今気付きましたよ(おひ)こ、これは救済の一つもせねば……

>そかんしゃ様
 ……いやあ、知識の元になった書物調べなおしたら、しっかりそこらへんのことも書かれてました。いやあ、アホですな私。

>砂糖様
 身もだえするような事は、二つの話をつなげるために削除してしまいました……あのシーン好きだったんですが、泣く泣く……

>黒川様
 人づての人づてですな。この二人の場合は……まあ、それでなくともアシュ様、こんなになってからは美人の神魔の情報かき集めてたりするんですけどね(汗)

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