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「アシュタロス〜そのたどった道筋と末路〜四話(GS)」

♪♪♪ (2005-09-12 21:33/2005-09-12 23:37)
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 それは、いつも通り行われる、極々普通の除霊依頼だった。
 共同作業という、一風変わった仕事ではあった。が、建築物に住み着いた悪霊退治というのは、アシュタロスがべスパに殴られるのと同じくらいの頻度で舞い込んでくる、ありふれた仕事のはずだ。横島がルシオラに殴られる、あるいは令子にセクハラし殴られるでも可。


(――ああ、成る程。最上階の天窓が鬼門と重なっているんだな)


 横島の中にいるアシュタロスが状況を聞いただけで断言した。原因はわかっている。対処法もわかっているし、手間のかかるような作業ではない。
 至極、簡単な仕事のはずだった。


 なのに。ひとつの不確定要素の進入で、『ありふれた』『簡単な』という装飾語は見事に爆砕された。そう。共同作業を行うGSの存在が、仕事の難易度を跳ね上げたのである。
 自信満々だった令子は、その不確定要素を前に恐れおののき、信じがたい事に違約金を払ってでも逃げようとした。あの、手に入れたお金は決して手放さず、手に入らないお金も横取りするとされる美神令子がだ!
 今現在、その不確定要素のおまけになだめられている真っ最中だ。


 まあ、何故令子が取り乱したのか、とかこまごまとした理由を追求する必要はない。少なくとも、横島忠夫とアシュタロスの馬鹿二人にとって重要なのは、そこではない。彼らの視線は、ぎらぎらとした欲望に装飾され、一人の女性に釘付けだ。
 その協力するGSが、美人だったのだ。しかもスタイルそこそこよし。
 しかも、ルシオラやべスパとは違うタイプの、のほほん美人。この人のどこに、令子が恐れおののく要素があるのか!


 そんな美人に馬鹿二人がする事といったら、答えは一つ!


「ずっと前から愛してました〜!」
「あの〜? 確か、初対面だったと思ういますけど〜」
「時間は関係ありません! ぼかぁもう! ぼかぁもぉぉぉぉぉっ!!」


(ああっ! ずるいぞタダオ! 私にもなにか言わせろ〜〜〜!)


 冥子の手を握る横島に文句たれるアシュタロス。多分、美神やおキヌが後ろにいなければ、問答無用で体から飛び出していただろう。


 後日、二人は語った。
 世の中には、理不尽というものが無数に存在する。
 『いつも通り』女性に飛びついただけなのに――何故、あんな目にあわなければならなかったのだろうか?


 きっかけは、冥子の助手らしき男の一言。
 ぼそっとつぶやかれた一単語は、素敵に無敵に真っ黒で。
 立てた拳に親指立てて、首を切ってGOTOHELL。


「……殺れ」


 げしっ! どがっ! かみっ! シビビビビビビッ!! ザクッ!


「どああああああああああああっ!?」
(みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)


「あれ〜? みんなどうしたの〜?」
「気にする事あらへんよ冥子はん」


 いきなり巻き起こったバイオレンスの嵐を前に、目をぱちくりさせる彼女。そんな彼女に青年は一言、簡潔極まりない真実を告げた。


「天罰やから」


「世の中理不尽やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 12匹の獣と童子姿の式神に袋叩きにされながら、横島は自業自得の言葉の意味を無視するかのようにそう叫んだ。


『アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜冥子とマー君』


「相変わらず過保護で容赦ないわねー」


 黒こげ肉と化し、おキヌに介抱される横島を大して気にせず、令子は指示を下した男に話しかけた。黒髪を総髪に結い上げた美男子――鬼道政樹は、ふんと鼻を鳴らして、


「当たり前です。冥子ちゃんの敵は僕の敵や」
「……初対面の頃のあんたにその台詞聞かせてやりたいわ」


 自分が巻き込まれたあの大騒動を思い出し、こめかみ引きつらせる令子。あの事件のあと、彼女は決して軽くない怪我を負って入院生活を余儀なくされたのだ。
 引きつったのは鬼道も同じことだった。こちらは図星を突かれた苦しみを表した引きつりだったが。


「そ、その事は言わんといてください。冥子ちゃん、その時の事思い出すと泣きよるんです」
「……ご愁傷様。ご香典は100円までなら出してあげる」
「死んだことにせんといてやっ! しかもけちくさいしっ!」


 ……何ゆえ、この時点で鬼道政樹が存在して、しかも冥子の助手に納まって、しかも恋人関係なのか。
 それについては、後々語られることになる。


「? まーくん、どうしたの?」
「あー、いや。冥子ちゃんは気にすることないで」


 疑問符を浮かべる冥子に、ぱたぱた手を振って応答する鬼道。


「ささ、ここは僕らに任せて、冥子ちゃんは美神はんと一緒に行ってきぃ」
「うん。わかった〜。
 それでね〜、まーくん」
「なんや?」
「上手くいったら〜……」


 言いにくそうに、もぢもぢと口ごもる冥子……その愛らしい動作に抱擁への欲求が沸きあがるも、鬼道は無理やり己の欲望を殺し、


「わかったわかった。デートでも何でもしてあげるから、がんばりぃ」
「ありがと〜! 私、がんばるからね〜♪」


 笑顔で促されて、笑顔で返す冥子……なにやら物凄くほのぼのしているバカップル……見ていて和やかな気分にさせられる二人である。今まで出てきたカップルの仲で、おそらくは一番仲が睦まじいはずだ。


 が、しかし。
 この作品で、普通のバカップルなど存在するはずが無い。
 二人にも、ちゃぁぁぁぁぁんとオチは存在するのである。


 冥子と令子がマンションに突撃してから十分。マンション内部に突入したのは二人のみで、他のメンバーは外部で待機という運びになった。


「ひ、膝枕――」
(もう、死んでもええ……)
「よ、よこしまさーーーーーんっ! しっかりーーーーーーーっ!」


 ……正確には、内部に突入できなかったのだが。
 横島は、いい感じで死の淵を、正確にはそれに伴う膝枕という現実を堪能していた。幽霊だから感触はないが、してもらっているという現実だけでも堪能せねば。アシュタロスも横島越しにそれを感じて、感涙が滝を作っている。


 感動しているのは横島達だけではない。


(……横島さん、意外と体細い……死んでくれたら(え?)、手とかつなげるのかな?)


 意外と、おキヌのほうもこのシュチュエーションを堪能してたりしたが……中につまってるのがあのマッチョだと知ったら、多分この子の魂消える。


(若いなー)


 頬を赤らめているおキヌの様子に、爺臭い感想を抱く鬼道であった。


 さてはて、
 その頃の三人娘わとゆーと。


「…………」


 キュウリやレタスとともに刻まれていたリズムが、ふっと止まる。
 お手伝いをしていたパピリオがいぶかしげに見上げると、彼女の姉二人の動きが、ぴたりと止まっていた。変化があるのは、ただ表情のみ。


「どうしたんでちゅか? 微妙な顔して」


 パピリオの言うとおり、二人の顔は本当に微妙だった、怒ってるのか、驚いてるのか、あせっているのか……すべてごちゃ混ぜにしたようなそんな顔だ。


「ちょっとね……タダちゃんに危険が迫ってるような気がするんだけど自業自得とも言えるかもしれないし、ライバルが現れたみたいな感覚はあるんだけど、タダちゃんが不幸になるような気が……」
「あたしも……アシュ様がむかつく事考えてるような気がするんだけど、物凄く気持ちが空回りしているというか。浮気されてる事はされてるんだけど、アシュさま可愛そうな位嫌われてるような気が」


「それは……微妙でちね(汗)」


 あんな恋人を持ってしまったが故に、カンが異常に発達してしまったルシオラとべスパ。その勘は、TVで見たように正確なのだと、パピリオは知っていた。
 知っていたがゆえに、それ以上突っ込もうとは思わなかった。


 ……とばっちり食らうの嫌だったし。久しぶりにマトモなお昼食べられそうなのだから。


「……しゃあないな」


 昇天しかける横島に、鬼道は背後を振り返って、控えていた数匹の式神に口を開いた。いくら彼でも、愛する彼女を犯罪者の恋人にしたくない……あくまでそれだけの事であって、彼に横島を気遣う心は、一切無かった。横島とアシュに男を気遣う心が無いのと同じように。
 いきなり恋人に言い寄られて、寛容になれというのも無理な話だろうが。


「ショウトラ。ちょっと直したってくれ」


 名前を呼ばれたその犬は、のそのそと横島に駆け寄り――


かぷ。もふもふ。


 喰った。
 食いはじめた。横島とアシュタロスを。頭からもふもふと。
 一瞬、止まる一同の時間。再起動の合図となったのは、おキヌの涙交じりの悲鳴であった。


「ああーーーーーーっ!? 食べちゃだめーーーーーーーーーっ!!!!」
「……あー。完全に敵視されたみたいやな」


 冥子の敵は十二神将の敵ということだろうか。
 ……どうでもいいが、腹壊しても知らんぞ?


 なんとかショウトラを押さえ込み、ヒーリングを行わせている鬼道。手持ち無沙汰になったおキヌは、ショウトラの背中に手を置く鬼道に、素朴な疑問を投げかけた。


「そういえば……なんで、鬼道さんは冥子さんの式神に命令できるんですか?」


 ぼーっと突っ立っているだけに見えて、実は手のひらから発する霊波でショウトラを制御し、力技でヒーリングをさせているのだが、そんな事はおくびにも出さず、鬼道はにっかりと笑って、


「ああ、それか。僕は冥子ちゃんの式神奪い取ったことがあるんや」
「へー」
「へーって……驚いてもらわな張り合いあらへんなあ。かなり特別なことなんやで?」


 通常、式神使いが式神を影にしまうのは、何も携帯が便利だからとか、そんな俗っぽい理由だけではない。自分の意のままに操るための、重要なファクターの一つなのである。
 己の影という、自分の霊波の影響下にあるモノに式神を閉じ込める事によって、その霊基構造を己の霊力になじませて、同調率を高めているのである。その上で厳しい訓練をつみ、暴走させないように霊力を鍛えて……式神の支配というものは、それほどきついモノなのだ。
 他人の影に存在し、その支配下にある式神となれば、普通は制御なんぞ出来るはずが無い。一時的にのっとるくらいが関の山。それですら、十二神将という規格外の式神相手では困難だ。


 以上のことは、式神使いの間でも常識的なこと……それ故に。
 鬼道政樹という、幼少のみぎりから式神と共に存在してきた男は、当然の如く相手もその事を知っているのだと思っていたため、あんまり平静な反応に目を丸くした。
 そして、そのリアクションを見て己の思い違いに気付いたのだった。
 多分、おキヌからすれば『単に気になっただけ』という単純な思考の根元から芽吹いた疑問なのだろう。式神使いの常識も知らないのだから、驚くも何も無い……ぶっちゃけ、『恋人同士だから』なんて何の解決にもなってない説明しても、反応に大した差はなかったかもしれない。


「そうなんですか?」
「ああ。普通は使えへんし、強奪なんて出来る筈ないんやけどな。式神使い同士の決闘でなー」


 鬼道は苦笑とともに冥子の決闘……『式神デスマッチ』の事と次第を話し出した。
 形式は一対一の決闘。勝利条件は相手の式神を奪い己の支配下に収めること。式神使いの間で古くから行われてきた由緒正しい儀式のよーなもの。
 元をただせば、平安時代に式神の奪い合いで殺しあう名家の姿を見かねた陰陽寮が定めた、擬似的な抗争の為の手段だったりするが、そこは端折った。


「けっこう、いいところまでいったんやけどな」


 六道対鬼道、平安の昔より火花を散らしてきた因縁の対決は、一見平等な戦いのように見えるが……実際は六道側が有利だった。六道の持つ式神十二神将は、鬼道政樹が扱えるようなレベルではなかったし、六道側はそれを知っていてこの条件を提示したのだ。


 事実、五体ほど取り込んだところで暴走しかけたのだが……追い詰められた鬼道は、窮鼠の如く猫に噛み付くのではなく、猫の又を潜り抜ける活路を見出した。
 夜叉丸が暴走する寸前に、吸収した十二神将の大半を影に戻して休ませたのだ。そうすることで、霊力の負荷を半分以下に押さえ込み、暴走しかけた夜叉丸をなんとか制御してのけたのである。
 後日政樹が聞いたところによると、この時、冥子の母親である六道家当主は、娘の負けを悟って青ざめたのだという。政樹自身もまた、勝利の女神が自分に微笑んだのだと確信し、鬼道親父は己の復讐が果たされた事を悟り、ゆがみまくった笑顔を浮かべていた。


 んがしかし。そうは問屋がおろさなかった。勝利の女神というやつは、とことん底意地が悪いらしい。


 明らかになった勝負の行方に、関係者が三者三様の反応を見せる中で、当事者の冥子がとった行動は……


『……ひっく、えぅ……ぇぇぇぇぇ』


 泣いた。
 常日頃から彼女がするような子供のかんしゃくではなく、心の底からにじみ出る悲しみの声が、彼女の口から漏れ出たのである。
 それも当たり前、冥子にとって式神は道具ではなく友達であり、彼女はその特異性(後述)ゆえに友達が一人もいなかった。幼い彼女の側にいてくれたのは、いつも式神達だったのだ。
 そんな彼女にとって、式神の消失は友達を奪われたのと同じ。泣かないわけがない。


 うろたえたのが鬼道である。親に言われるまま、復讐の道具として育てられた彼は、普通の小学生並みの幸福を一切奪われた。
 それ故に。


 女の子とまともにスキンシップを取ったこともなかったのだ!(爆)


 初めてみる女性の泣き顔にたいし、鬼道は、復讐心と保護欲、そして大きな罪悪感の狭間でパニックを起こし……結果、式神のコントロールを失い、見事に自爆した。
 文字通りの自爆。本当に爆発し、鬼道とその親父殿、ついでに令子もぶっ飛ばされて重傷を負った。冥子のおふくろさんは娘連れてちゃっかり避難したため無傷だったが。


 ……以上。
 これが、式神デスマッチ引き分けの真相である。


 ここまで思い出してしまうと、後は芋づる式だった。蔓の先には、病院のベッドで横たわる自分を、涙目で覗き込む冥子の姿が燦然と輝いている。
 その時の鬼道は、自失状態にあった。入院費を払わず父親がいなくなった事で、己が捨てられた事を知ったからだ。復讐の道具として完全に洗脳されていた鬼道にとって、父親の喪失は世界の崩壊と同意義だった。
 それ故、お見舞いといいつつも、涙ぐんで自分の影を見つめる彼女に、式神を返したのだ。自分が持っていても意味が無いものだからと。


 悲しげな泣き顔が、朗らかな笑顔に変わる瞬間。
 ある意味夕焼けに通じるものがある一瞬の変化を垣間見た鬼道は……初恋ですら未経験だったこともあり、あっさりとノックアウト。崩壊した世界は、冥子という存在によってあっさりと再構築されてしまった。
 その後、冥子の母に土下座して助手として雇ってもらい、紆余曲折を経て現在に至っている。


(いやー、大変やったなー、冥子はんといい仲になれるまで)


 上記した『紆余曲折』な事件の数々を思い出し、鬼道は引きつり笑いを浮かべる。


 瞬間、


カッ!


 閃光が、おキヌと鬼道の網膜を焼いた。
 余りに突然の現象におキヌは目を白黒させ、呆然とマンションが瓦礫の山へと変化していく過程を見つめている。


「……やったみたいやなあ」


 爆光と爆音を辺りに撒き散らすマンションを前にして、鬼道政樹は渇いた笑いを浮かべ。
 おキヌを連れ立ち横島置いてけぼりで、そそくさと安全地帯まで逃げだした。


 流石。手馴れてる。


「ま! 悪霊の心配をする必要はなくなったわね!」


 瓦礫の山と化したマンションの前で、令子が空笑いを浮かべていた。横では、横島を探すおキヌが半泣きでうろつきまわり、鬼道が頭を抱えてうずくまっている……冥子の助手をしている彼を幸運だと思ってはいけない。
 いや、確かに彼自身が望み、幸福感も感じているのだが、冥子の母から説教食らうのは、九割がた彼の役割なのだ。


 冥子のプッツン事、式神暴走の結果だった。彼女は、精神が高ぶると式神を制御できなくなり、あたりを見境なく破壊しまくる迷惑きわまる存在となるのである!
 友達が出来ないのも、霊能という一般人からすれば意味不明な特性もさることながら、このプッツンが大きな要因なのだ。


「ごめんね〜」
「ごめんですむ問題やない」


 灰になっている依頼人をよそ目に、鬼道は幽霊のような動作で冥子の肩をたたいた。その動作に、問答無用で硬直する冥子。
 そう、彼女は知っている。
 こーゆーどうさで、こーゆー声で。彼が、鬼道政樹が語りかけた後に待ち受ける苛酷な運命を。


 何も知らないおキヌが不思議そうな視線を送る、彼女の反応。それを見た鬼道はニタリ笑いすら浮かべて――


「お・し・お・き・や」


 物凄ぉぉぉぉぉぉぉく楽しそうに言った。


 冥子は、慌てて左右を見回した。
 助けを求め、縋るように投げかけられた視線に対する各々の反応はそれこそ千差万別。
 おキヌはよくわかっていないらしく、?マークを量産中。
 令子は、『付き合ってらんない』と言わんばかりに無関係を決め込んでおり、よく見ると耳が赤い。
 白くなって燃え尽きて、ドナドナ詠唱中の依頼人は論外。
 そして最後に背後を見る。
 そこには、自分を子供の頃から支えてくれた、親友達がいた。


 ただし。


 なにやらハァハァ言ってらっしゃるが!


 目を血走らせて欲望に染まりきった気配を放出し、早く早くと言わんばかりに期待に満ちた視線を冥子に送る十二神将。ショウトラの尻尾なんぞは、力の限り全力回転だ。


 駄目だ。
 ナニが駄目だと問われれば、ナニが駄目だと答えよう。冥子は事鬼道のお仕置きに対して、親友達が黙認している事をすっかり忘れていた。


「――ふぇぇぇぇぇっ……」


 これから自分に襲い掛かるであろう『お仕置き』に思いをはせ、涙ぐむ冥子ちゃん。


 駄菓子菓子(ヱ?)
 救いの手は、意外なところから差し伸べられた。
 そう、救いの手は――


どごんっ!!!!


「ケェダァモォノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
(ケェダァモォノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!)


 昔はやった熊型お菓子のCMの如き叫びを伴って、瓦礫の下から湧いて出た。


 ずぱぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!


「ぶふぁぁっ!?」


 ルシオラ印のハリセン突っ込みで、ガードに入った夜叉丸ごとぶち倒される鬼道。肩で息して目を血走らせるのは、血まみれになった横島君……置いてけぼりにされて瓦礫の下に埋葬された恨みもこめて、凄まじい形相をしていた。
 その突っ込みの速度たるや、武神聖天大斉も真っ青である。


 説明しよう! 横島とアシュタロスの意思がひとつになった時、彼らは簡易的な合体状態になり霊力体力気力煩悩妄想(最後の二つが大いに余計)が10000倍以上はねあがるのであぁる!


 素敵に無意味だ……


「き、貴様ーっ! 助手の癖に、助手の癖に冥子ちゃんに何をする気やっ!」
(き、貴様ーっ! 助手の癖に、助手の癖に冥子ちゃんに何をする気やっ!)


 台詞すら完全シンクロ。助手のクセにというくだりに、彼らの普段の苦労が垣間見える。


 吹っ飛ばされた鬼道をびしぃっ! と指差して、横島は彼の罪に対して弾劾を開始した!


「お仕置きと間とかにかこつけて鞭や蝋燭使って(ピーッ!)や、(ピーッ!)で(ピーッ!)にするつもりなんやなっ!? こんの鬼畜外道変体野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
(お仕置きと間とかにかこつけて鞭や蝋燭使って(ピーッ!)や、(ピーッ!)で(ピーッ!)にするつもりなんやなっ!? こんの鬼畜外道変体野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)


 示し合わせたわけでもないのに、二人とも全く同じ台詞を口にしているのが凄い。


 ――変態はあんただあんた。


 今横島の脳裏には、口にしたシーンの具体的なイメージが踊っているのだろう。鼻血と耳血を滝のように噴出させている横島に対する、十二神将も含む一同の感想である。何で生きているとかお前本当に人間かとかいう至極全うな突っ込みは一切湧いてこない。
 今の一連の会話のどこをどうしたら鞭や蝋燭が浮かぶのだろうか。
 妄想してて、『今度ルシオラ(べスパ)にやってみよーかなー』などと考えていたのは、秘密だ!


「何をいっとんのや! 僕はただ冥子ちゃんの嫌がる顔がみたいだけや!」


 対する鬼道も十分変態だ。
 好きな子いじめる小学生のよーにも聞こえるが、彼、横島達の発言を否定しようとしない。
 ……マジでナニをやる気だったんだろう、この男は。


 令子はあきれたため息をついて――


「ふ、ふえぇ……」


 おキヌちゃんの腕をつかみ、ダッシュで逃げた。
 そう、彼女は確かに見た。
 どつき倒された鬼道を見て、涙ぐむ冥子と、殺気立つ十二神将の姿を。


 格好よくキメたと思ったのに、背後から聞こえてきたのはなぜかむせび泣く声。恐る恐る振り返った横島が見たものは。


 ――今にも泣き出しそうな冥子の姿。


「マー君の事いじめないでーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 ――それが。
 この日、横島とアシュタロスが見た最後の光景になった。


 後日彼らは語る。
 ナニが理不尽だったって、この時この瞬間ほど、世界が理不尽で出来ていると感じた事は無い。と。


「冥子のプッツンって、鬼道の事手ひどく扱っても発動すんのよねー」


 遠くの安全地帯から、枯葉のよーに舞う横島を見守る令子であった。
 ……全く助けようとするそぶりがないのは、あえて書くまでもないだろうけど。


 とりあえずその場は生き残った横島とアシュタロスだったが、大きな弊害が残った。のほほんとした冥子はともかくとして、その式神に何かと目の敵にされる事になる。近づいただけでガンたれるなど日常茶飯事、触ろうものなら全力で攻撃されてしまう。
 横島は、その度に世の中理不尽だと叫ぶことになるのだが……
 何度も言うぞ横島君。
 それは、自業自得というものなのだよ。


「あの、美神さん」
「なあに? おキヌちゃん」
「鬼道さん、結局横島さんの言葉否定しませんでしたね。あれって、どういう意味なんですか?」
「……(汗)わ、忘れなさいおキヌちゃん」


 鬼道が喜び、冥子が嫌がり、式神達がハァハァ言う。
 その上、令子が耳まで赤くなって言及を避ける鬼道のおしおき。
 その正体は、謎に包まれている。


 ……そういうことにしとけ。(爆)


 余談
 横島君に対して捕食未遂を行ったショウトラ君。
 ……この日の深夜に、しっかりお腹を壊したそーな。


 あとがき
 鬼道の壊れ具合にどのへんで線を引くか、悩やみに悩みぬき気がつけば九月。
 浅いのですが一応15禁にしておきました。ども。最近自動車免許取得に挑戦中の記号野郎♪♪♪です。遅れに遅れて申し訳ありません。
 いやー、自動車の運転って、乗ってるときには気付きませんけど、難しいモンですねー。


 >御汐様
 そのまま再投稿するだけでは芸が無いので、随所にネタをちりばめてみました。まあ、そのせいでむやみやたらと製作期間長引いちゃったりしてますけど。
 ……今回も、三人娘は比較的ぽかぽかさせてみました。

 >へのへのもへじ様
 あしたは〜どっちだぁ〜♪ ……あえてこの二人にテーマソングつけるとしたら、これの替え歌でしょうなまず間違いなく。

 >砂糖様
 今回の冥子の反応を見てもわかるように、横島が落とす対象はかなり少なく設定しています……まぁ、その分心労は倍以上だったりしますが。
 肉隗のアルファベットは、単純にイニシャルです♪ だって、拷問器具ごとにつけるなんて無理ですから……一度に複数使うのが常だし(江?)

 >MAGIふぁ様
 まぁ、おキヌちゃんが逃げられた事に関してはあれです。某牛丼大好きヒーローが多用する『かぢばのばかぢから』というやつです。

 >柳野雫様
 ルシオラが気にしなかった理由……それは、横島が無意識の落とす相手というのが、滅多にいないからです。それこそ、ルシオラぐらいのもの……だからこそ、後日大問題が起こります♪

 >ふぁんぐ様
 欽ちゃん走りは……正直、叩かれるんじゃないかと気が気ではありませんでしたが、好意的に受け取られたようなので、非常に満足しています。


 注)誤字脱字修正しました。

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