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「アシュタロス〜そのたどった道筋と末路〜二話(GS)」

♪♪♪ (2005-07-16 19:01/2005-07-21 03:08)
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 ぶらーんぶらーんぶらーん。


 太陽とは、偉大な存在である。
 基本的に絶対零度な宇宙空間に浮いている地球が、氷の惑星とならないのは、ひとえに芸術的なまでに奇跡的な太陽との相互距離があってのことだ。現に地球の外側にある火星は氷の惑星であり、内側にある水星は灼熱地獄。生命体をはぐくむという一転において、地球という星は最高の立地条件を誇っている。
 地球において温度という概念が存在するのは、太陽から発せられる熱の恩赦なのだ。
 それ故に、太陽は隠れ光の暖かさが消えうせる事で、世界の気温はぐっと下がる……正確には、太陽の光が当たらなくなる事で熱源がなくなる。熱源が無くなれば対象物が冷えるのは、物理学の基礎的な常識だ。というか、前述した火星水星などは、昼と夜で凄まじい温度差がある。

 夜になれば寒くなる。これ、大自然の常識。

 さてはて、そんな冷たく寒い夜風に吹かれ。
 馬鹿二人が、振り子よろしく左右に揺らめいていた。


『…………』


 ぶらーんぶらーんぶらーん。


 その二人は、しみじみと実感していた。ロープで蓑虫にされ、逆さ吊りにされながら。

 夜は、寒い! と。とりわけ秋から冬をまたぐ境界線においては、特に。
 ……いや、特別今日この場所が寒いというのではなく、彼らの心が寒く感じてるのだが。
 アパートの軒先にぶら下げられる、人間大の簀巻き2つ。
 ほかならぬ、アシュタロスと横島の二人である。


「なあ、アシュ」
「なんだタダオ」


 横島君、自分から生える変態を愛称で呼んで、夜空を見つめる。さかさまだから、見下ろすような形になるが。


「俺たち……いつまでぶら下げられるんや??」
「……朝日が出る前に取り込んでもらえると、ええなあ」


 その顔は、最早人間とは思えぬほど腫上がっていた。っていうか、普通の人がこれほどはれ上がっていたら、即座に病院行きだ。赤い服と黄色い手袋、ブーツがあったら、空飛ぶ小麦粉と餡子の塊だぁ。
 げちょげちょにのされた二人。
 加害者は――


「こっちの水は甘いわねー♪」
「やっぱり、蜂蜜はそのままなめるに限るねぇ♪」


 アパートの中で、甘い液体をすすっていたりした。


「べスパちゃん、ルシオラちゃん……アシュ様とポチそろそろ許してあげたほうが――」


 おずおずと、蜂蜜色の髪をした少女が二人を救助せんと挑んだが、


『なあに?』
「なんでもないでちゅ!」


 いい笑顔青筋つきのセットに、完全敗北。


 横島の恋人であるルシオラと、アシュタロスの恋人であるべスパ。彼女達の妹であるパピリオの三人組である。


 アシュタロス〜そのたどった道筋と末路〜 ルシオラとべスパの堪忍袋


 前にも記したように多くの部下に見捨てられたアシュタロスだが、なにも天涯孤独で温かみの無い生活を送っていたわけではない。
 人格が180度どころか地面を離れて遠いお空の彼方に旅立ち、横島から500メートル以上はなれると消滅してしまうという、中々情けない寄生虫に成り下がったアシュタロスにも、ついていこうとする物好きや、親しい人間はいたのである。


 まずは、彼が抱えて逃避行を繰り返していた兵鬼ドグラマグラ。
 こいつは元々アシュタロスに忠実であるように作られた存在だから、当然ともいえる……正直な話、絶対忠誠プログラムに逆らおうとしたのは、一度や二度ではないそうだが、今ではこれも一つの個性と、変に悟っているらしい。


 次に、横島忠夫の保護者である、横島夫妻だ。
 簡潔に記そう。
 この二人には、息子の体から生えるいい年こいたおっさんを家事にこき使うという、トンでも夫婦であった。ひっくり返せば、家事にこき使う以外は同等の存在として、同居人として扱っていたのだから、器がでかいというかなんというか。


 最後に、ルシオラ、パピリオ、べスパの三人娘。
 この三人はアシュタロスが基地から持ち出した三つの卵から生まれた存在なのだ。見限るも何も、ちょっとアレなアシュタロスしか彼女たちは知らないのである。
 アシュタロス曰く『多くの部下に見限られて、一寸寂しくなったから孵してみた』だそーな。全員女性ってあたりが、完全に思考が横島化している証拠だろう。
 生れ落ちたときの形態を横島に合わせるあたりが心憎い。


 勿論、育てたのは横島夫妻である。
 三人は横島家に養女として引き取られ、蝶よ花よと育てられた……息子以上に溺愛して育てるあたりが、この夫婦らしいとゆーか。まあ、おかげで余計なところ……過激な折檻癖まで遺伝してしまったようだが。


 夫妻のナルニア行きに際し、ドグラマグラはその演算能力を変われて同行。ルシオラ達も同行する筈だったのだが……


「――ついてきて正解だったわね」


 眼前で風に揺られて『漢の本能なんやー』だの、『堪忍やー』だのみぐるしい言い訳をし続ける二人を見て、嘆息するルシオラ。


 そう。この三人が日本に残留した理由は、他ならぬ変態コンビにあるのだ。恋人同士なのだから離れたくない、などという単純なものではない。その動機は、もっと切実で切羽詰っていた。


 ルシオラいわく、


「放って置いたら、子供の1ダース2ダース量産しそうな気がするんです!」


 彼女が横島夫妻を説得するのに使った論法でもある。諭された夫婦が即座に説得をやめたのだから、説得力の程は推して知るべし。


 生粋の魔族であるアシュタロスに関しては、貞操観念うんぬん語るほうが間違っているし、その悪影響をもろに受けた横島も、浮気に対する罪の意識というやつがすこぶる希薄だ。大樹と三人で『一夫一妻なんて人間が作り出したゆがんだ文化だ!』と叫びぐれぇとまざぁに挑みかかり、返り討ちにされたときのことは昨日の事のように思い出せる。
 ただでさえ、ルシオラは胸が無い(本人の前で言うとシャレにならないので注意)から、巨乳の女が現れたら本能とやらの赴くままに飛びつくだろう。


「そうでちゅねー。ポチもアシュ様も目を放すとすぐナンパでちゅから」


 パピリオがうんうんと同意。さっきから彼女が呼んでいるポチというのは、横島のことである。子供の頃にやったおままごとにて、横島の犬っぷりが余りに見事だったことからそのまま定着してしまったのだ……横島夫妻が注意せず、一時期はべスパやルシオラも使っていたくらいの、はまりっぷりだったそうな。


「そうよね。ポチはともかく、アシュ様は子供ダースで作れそうよね」


 ぴしっ


「タダちゃんはともかく――?」


 ルシオラの額に青筋。タダちゃんとは、ルシオラの横島に対する呼称。
 ベスパのつぶやきは、パピリオの顔色を変えさせ、窓の外の二人に死を覚悟させた。


 恋人として、横島を遠まわしにもてないと断言するこの発言は看過できなかった。
 ルシオラさん、わざとらしい声で、


「そうよねー。女の趣味の悪いどっかの誰かさんなら、ゆりかごから墓場まではらませそうよねー」


 ルシオラさん、あんた仮にも自分の創造主に対して……(汗)
 まあ、外で『娘がグレたぁ』とか言って涙流す阿呆の姿を見たら、そういいたくなるものわかるが。


 ぴししっ!


 ベスパの額にも青筋。


「どういう意味かしら……」
「だって、アシュ様は私たちを子供の頃から知ってるのよね? その頃からあなたに目をつけてたとしたら、ロリコン以外の何物でもないんじゃない?」
「――ふふふふふ。私は元からスタイルがよかったからね。どこかの終わった胸の小娘と一緒にしないでほしいね」
「垂れちゃ、せっかくの胸も台無しじゃない?」
「自分がたれる事も出来ない大平原だからって、言いがかりはやめなよ、姉サン」
「胸が無くて悪かったわねぇ……」
「ふふふふふふふふふふ」
「うふふふふふふふふふ」
「ふふふふふふふふふふ」
「うふふふふふふふふふ」

「ふふふふふふふふふふ」
「うふふふふふふふふふ」


 二人とも、表情は終始笑顔である。それも、漢なら一発でほれるような魅力的な奴だ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


 なのに――気配は『憎しみで人が殺せたら首都圏全滅!』のレヴェルで黒かった。


 パピリオ、ちゃっかり押入れに避難。
 アシュタロスと横島、逃げ切れそうにも無いので人生をあきらめて走馬灯に突入。
 パピリオが隠れた押入れはがたがたと震え、窓は振動し、埃が浮き上がり霊波が荒れ狂う。


 史上最強の姉妹喧嘩、勃発。


 ――拝啓パパ、ママ、ドグラ様。


 パピリオ、脳裏で遠くにいる養父母と家政婦代わりの兵鬼にメッセージを送る。押入れの外から聞こえる破砕音と、二人の悲鳴をバックミュージックに、悲劇の少女は祈った。


 ――パピは、いま真剣に二人についてきたことを後悔してまちゅ。


 ほろりと流れ落ちる涙。その事を攻め立てるような冷血名人間は、読者諸氏にはいないだろう。


 こうして。変態二人の悶え声をなびかせて、ぼろアパートの夜はふけて行く。


 しかし、パピリオはこの翌日、更なる悲劇に直面することとなる。

「皆さん。これより重大なお話があります」


 ぢりぢりと、蝋燭の炎が燃えてゆく。
 これがルシオラと二人っきりなら暖かい光という表現も横島にはできたかもしれないが、今回はちと状況が違った。


 横島君、緊迫した空気の中でゲンドウスタイル(手でA作ってその上に鼻先乗っけるあれ)を保ち、一同を見回す。
 雷に打たれたかのように、姿勢を正す一同。事態は、魔王とその眷属をビビらせる程に切迫している。


 頭上の電灯が働いてくれれば、この緊迫感も少しは弱まるのだが、それは適わぬ願いというものだ。なにせ、昨日のド派手な姉妹喧嘩で電灯やらなにやら根こそぎパーになってしまったのだから……
 アシュタロス達には、横島が言おうとしている事柄がなんとなく読めていた。崩壊した室内を何とか立て直し、大家さんに謝り倒した後に、思い浮かぶ事といえばただ一つ。


 すなわち。


「生活費が……尽きました」


 ぴしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!


 その一言に。
 一同は、存在しないはずの雷鳴を、横島の背後に垣間見たという――その輝きはなにやら奇妙な力を発揮して、一同の時間を完全に停止させた。


 一同の時間が止まってから、再び動き出すのに要した時間は五分。
 薄々予想はしていたが、現実に突きつけられると来るものがあったのだ。いくら魔族とはいえ、長い間世俗にもまれていればお金というやつの重要性はわかる。


「タダオ――それはつまり」


 一番最初に物申す気力を取り戻し、至極冷静に口を開いたのはアシュさんであった。流石魔王。精神が立ち腐れても、ちょっとやそっとじゃ取り乱さない……


「修理費で仕送りを全部使い切ってしまった、という事か?」
「そうだ。全部ぶっ飛んだ」
「……生活費の残りは??」


 タダちゃん蝦蟇口財布の口を開き、なにやら朗々と歌いだす。以前、アシュタロスに教えられた詩をもじったものだった。


「体はアルミで出来ている
 血潮はアルミで心はお金。
 幾たびの財布を越えて腐敗。
 ただの一度も重宝された事はない。
 ただの一度も理解されない。
 彼の者は常に軽んじられる。
 銀行の奥底でしくしくとなき続ける。
 故に、存在に意味はなく。
 その体はきっとアルミで出来ていた」
「いや、吟詠忌憚はいいから」


 アシュにせかされ、逆さまにして振る。
 ちゃりーんっ
 出てくる銀色のコイン一枚。


「いちえん」


 確かに体はアルミ製。確かに腐敗して若干錆びている。
 せめて百円という反応を期待していた三人娘の望みは、はかなくも崩れ去ったのだった。


「生活費が次に届くのはいつだ?」
「どう足掻いた所で一週間後」


 ナルニアと日本を隔てる物体をあげようと思ったら、軽く掲示板の書き込み要領をオーバーするだろう。それほどに長い距離が、横島と両親の間にはある。
 今すぐ生活費を無心するとしても、こちらに届くまで時間がかかってしまうのだ。
 これがとどめになって。
 三人娘はその場に崩れ落ちてしまった。るるるーと目幅の涙を流し、無意識のうちにたそがれるルシオラ。先月も全く同じ事態に陥ったのを思い出したのだ。


 ――慢性的金欠の原因ともいえるだけに、彼女の受けたダメージは深刻である。蛍が原型だけに、最高級の美味しい水やジュースでしか生きてゆけない。自然破壊が進んだ昨今、パピリオやべスパのように、一寸眷族に言って集めさせるという真似は出来ないのだ。
 上記の理由で、食費の半分は、彼女が消費している。その上、残りの半分はべスパとの姉妹喧嘩と、その修理費で消えていくし。


 いつもなら、ここでグレートマザーやファザーに縋る所だが、10回目の無心を前に、野郎二人は思うところがあったようだ。二人して頭を付き合わせ、


「バイトを探すしかないか……」
「そうだろうな……」


 死ぬほど珍しいことに、完全にシリアスな雰囲気で決意表明したのだ!


 翌日。
 どさどさどさっ!
 朝から出かけていた横島とアシュタロスの両手から、大量の紙束がちゃぶ台の上におろされる。
 せめて食費くらいは稼ごうと、即金になる内職にいそしんでいた三姉妹は、意外さそのものの視線で二人を見た。意外だったのは、おかれた紙束がいわゆる求人情報雑誌だったからである。


「あ、あのアシュ様――? それは、一体」


 横島から離れられないという不自由きわまる体のせいで、怠けているしかする事のないアシュタロスが、なぜにこんな物を持ってくるのか、理解できないべスパの質問に、アシュタロスはしれっと応えた。


「アルバイト先の候補だが?」


 ぴしぃっ!


 凍るべスパ。そのリアクションに、アシュタロスが額に汗したが、べスパは気づかなかった。
 そう、気づかずに、回答したとたん泣き咽びながら、情け容赦のない本音をぶちまけた。


「ああっ! やっと、やっとアシュ様が真剣に生きる道を選んでくれた! 今までつけられたヤドカリ野郎、ホモヒモやろう、邪魔者宿六、種馬魔族、変体大魔王、その他諸々の汚名を返上するんですね!? 私も協力――って、アシュ様? 畳に頭ぶつけるなんてどうしたのですか?」


 アシュタロスの筋肉質な胸板を、無自覚な言葉の刃が抉って抉って抉り抜く。
 体を尺取虫のようにぴくりぴくりと蠕動させるアシュタロスであったが、復活は意外と早かった……起き上がると、壁に向かって猛烈な勢いをもって頭突きをはじめたのだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!! 私わっ! 私わ所詮そんなキャラなんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! たまに真面目になってみたら幻のツチノコ見るような目で見られて昔馴染みの魔族からは『あんた誰?』って言われる、そんな汚れ役なんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 いまさらながら、アシュタロスの横島化はかなり深刻だった。(笑)


「ああっ! アシュ様お気を確かに!(汗)」
「ド畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 何故か高々木製の壁に頭突きして出血するアシュタロスに、何故かデジャヴュを感じるルシオラ。首を傾げてからすぐに思い当たることがあった。


(私がタダちゃんのキス跳ね除けたときに似てるんだ)


 ファーストキスのときに、原作と同じような展開があったといえばわかってもらえるだろう。横島とアシュタロス、完全に魂の双子と化していた。


「難儀なやっちゃなー」


 五十歩百歩、目くそ鼻くそを笑う、それらの熟語の見本的行動をしているとは露知らず、横島は_| ̄|○状態のアシュタロスを放置して資料に目を通し始める。そんな彼の隣に座り、ルシオラはその手の中にある紙面を覗き込んだ。


「一体なんの仕事探すつもりなの?」
「GS」
「えっ!?」


 ゴーストスイーパーと聞いて、ルシオラは絶句してしまった。無理もない。
 彼女達は魔族というだけで、なんどかエセGSに狙われた経験があるのだ。
 助けてくれたのもGSだったために不信感が憎しみに育つのは避けられたが、それでもGSという職業にあまりい感情を持っていないのだ。その時、巻き込まれた横島が大怪我をしたのも、ルシオラの心配を増幅させる媒介として、一役買っていた。
 しかも、その原因となる金欠の理由は、ルシオラにある。


(私のせい!?)


 とたんに泣きそうになるルシオラを見て、横島は苦笑した。


「……の、助手。せっかくとりついてるアシュタロスを利用しない手はないだろう? 少々危険でも」
「け、けど……」
「それに、この職業なら実入りも多いしな。お前にも、もう苦労はさせられないし……」


 苦笑の奥に見える真剣さに、ルシオラはうれしさをかみ締める。
 久しぶりに見る、天然記念物並みに珍しい恋人の凛々しい姿だったから。自分のせいだなんだと相手に甘えないことは、横島の思いを馬鹿にすることだから。
 そうだ。以下に普段はフザケテいても――やはり、この人は自分を好きでいてくれるのだと。


 そっと、優しくその背中にしなだれかかる。


「る、ルシオラ?」
「だぁめ。少しだけ――甘えさせてくんなきゃ、GSになるなんて許してあげない」


 猫なで声でささやいて、細腕を横島の胸元で組む。
 背中に触れるささやかなふくらみに暴走しそうになる理性。それを抑えるのは、横島にとってはちょっとした苦労である。
 中々凄い顔で本能を押さえつける横島を見て、ルシオラは幸せを笑みであらわし、その顔を横島の肩の上において、頬と頬を摺り寄せた。


 もしも肝心の資料の内容をもう少し見ていたら、うれしいどころか、笑顔を変えぬままに大魔神と化していただろうが。


「なあ、アシュ。ここなんかどうだ?」
「ん? ああ、駄目だ駄目だ。同じ職場に男が三人もいて、うち一人はホモの可能性が高い」
「ああ、成る程」


 狭いぼろアパート――その墨に布団を敷いて眠っていたルシオラは、魔逆の隅から聞こえる会話に目を覚ました。
 寝ぼけ眼をこすってみると、片隅に移動したちゃぶ台に向かって、アシュタロスと横島が真剣な顔で話し合っている。


(何も、こんな真夜中まで話し合わなくてもいいのに)


 ちらりと真横を見ると、べスパと目が合った。
 考えることは同じらしく、二人とも苦笑して台所に視線を転ずる。出がらしのお茶くらいはあるはずだから、二人に夜食代わりに……
 そう考えて、起き上がろうとした二人だったのだが。


「おおっ!? タダオ! この女性を見ろ! なんともおしとやかそうなお嬢様じゃないか!」


 二人の動きが、止まった。


「なんとぉっ!? スタイルもいいぞ! 着やせするタイプなんかっ!?」
「ぬおおおおっ!? こっちはボディコン!! しかもぼんっきゅっばーんっ!!?」


 彼らが手にしている資料には、その職場にいる人間の顔写真と詳しい経歴が、『女性限定』で事細かに記されていたのだ。


 ぴくぴくぴくぴくっ
 うごめく女性二人の青筋。


「このGSなら知ってるぞ。確か、神界の小竜姫とつながっているはずだ!」
「ほほう? あの、かわいくて美人な!」
「その通り! 胸はちょっと薄いが生真面目で生娘っぽいところがまた」


 ぐふふ、とよだれ笑いのアシュタロス。


 気付け元魔王! 気付け横島!
 君たちの後ろで、超高温の嫉妬のマグマが沸騰中だぞ!


「ああっ……ええ! ええぞごーすとすいーぱーわっ! 美人が一杯やぁ!」
「ふふふふふふふ……ふははははははははははっ! 極楽やっ! 私達は美人だらけの極楽浄土にこぎだしてぇ……」
『はぁれむやぁっ!! うははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!』


 ぐれぇとまざぁに完膚なきまでに粉砕されたハーレム理論、まだ諦めていなかったらしい。
 と、次の瞬間。


 ぞくぅっ!!!!


『はっ!?』


 背筋を襲った凄まじい悪寒に、今さらながら体を凍らせる。
 いまさら気付いても、最早後の祭りである。


((い、いいわけおっ! いいわけお考えねば!!!!))


 人間、死ぬ直前には驚くほど頭の回転が速くなるという。その早くなった頭で、馬鹿二人は1000を越える言い訳を編み出し、恋人に告げんと振り返って……


 姉の右手に釘バットを、妹の両手に拷問器具を。戦闘準備完了のルシオラとべスパを見て、その全てを棄却した。


 何度も言う。
 もはや後の祭りである。


 只今、お子様が聞いたら精神がゆがむような、そんな種類の悲鳴が響いておりますので、一部割愛させていただきます。


 ぱぴりおの日記。
 ○月×日
 きょう、おくがいでちのあめがふってしまいまちた。たたみのおそうじしなくていいのはいいんでちゅけど、ごきんじょめいわくでちゅ。


 翌日。
 アパートの正面に全長10メートルを超える血の海が出来上がり、あたりの住民をたいそう気味悪がらせたという。

 その後、横島とアシュが雇用主のスタイルにだまされた挙句、労働基準法に触れるような低賃金のアルバイト先を選んでしまい……
 その後、二人が恋人からどんな扱いを受けたかは言うまでもないだろう。血の海が再び出来上がって、呪われてるんじゃないかと噂になったのは、さらに言うまでも無い。


 あとがき。
 改訂とはいえ、二つのシナリオを一つにまとめるか、二編連続で投稿するか、迷い倒した挙句一つにまとめた、♪♪♪です。
 いやー、今さらながら、このアシュタロスは原型留めちゃいませんなぁ。


 >皇 翠輝様

 はい。私も、魔界の最高指導者の大阪弁に引っかかってた口です。それ故に、こじ付けでこんな設定思いつきました。
 乗り移られた相手は……内緒です。
 いやぁ、これについては後々ネタにするつもりなんで……

 >法師陰陽師様
 楽しみにしています。その一言が、酷くうれしいですね。
 ええ、楽しみにしていてください。ぶっ飛ぶくらいのネタを次回やりますから!

 >樹影様
 前回は、唐突に連載中断などしでかしてしまい、まことに申し訳ありませんでした。
 以前のような連載中断には絶対にしない腹積もりですので、どうぞよろしくお願いいたします。

 >天皿様
 改訂ってやつは、意外と難しいもんですね(汗)以前見てくださった方々にも楽しんでいただけるようにしなけりゃなりませんし、幸い、次回はその為のネタが思い浮かんでおりますが。○ちゃん○りとかね……(ニヤソ)

 >米田鷹雄様
 このたびは、当方の身勝手な申し出を許可していただき、まことにありがとうございました。忠告されたとおり、この作品は確実に完結させますので、ご安心をば。

 >へのへのモへじ様
 まぁ、最初は出来うる限りダークに見えるように書いた、いわば引っ掛けでしたからね。騙されてくれれば幸いです。
 今のアシュタロスを、堕落したと見るか否かは、本編でも書きましたけど、見る人にもよりますからね。

 >柳野雫様
 素質は確かにありましたが、面に出すような人ではなかった……なかったからこそ、混沌の原因になったのです! そう! 魔族たちにとっては、美神令子が慈善事業をするほどのカルチャーショックだったのですから!!
 ……言い過ぎかなぁ?

 >御汐様。
 その節は、本当に申し訳ありませんでした!
 私も野菜は苦手ですが、あのアシュシリーズは好きでしたよ。ギャグがまた秀逸で……何度か近所迷惑な笑い声を上げてしまいました。
 まぁ、こっちのアシュはノーマルすぎてえらい事になてますが。


 注)指摘された誤字脱字と、太陽云々の改定を行いました。

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