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▽レス始

「重ねる心。思いはここに…(第三話)(GS)」

颯耶 (2005-07-15 13:33)
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「っつぅーーーー」

不意に襲ってきた痛みに眼を開く。
それまでの暗闇に慣れていた目には光が眩しく、それが否応無しに頭を覚醒させてくれる…。

「―――美神さんは!?みんなはどうなったんだ!?」

自分が地面に倒れ伏せていた事理由を考えると、直ぐにその原因に思い当たる。
カオスのじーさんが作った例の腕輪の暴走だ。
あの威力はハンパじゃなかった。
それが暴走したとなると、下手をしたら周囲は全て瓦礫の山になっていてもおかしく無い。

言う事を聞かない手足に喝を入れて無理やりにでも立ち上がる。
まもなく目も光りに慣れてきたのか、辛うじて周囲の様子を確認する事が出来る様になる。


「外傷は無いみたい…だな?」

みんな倒れ伏せてはいるが、特に外傷がある様には見えない。
とりあえずは一安心するが、ジーク以外は女性だ。
このまま地面に寝かせておく訳にもいかないだろう。

――――部屋に運ぶか…

結局の所全員を運ぶのだから順番は誰からでも構わない。
最もジークが一番最後なのは決定だが。

―――男の宿命だ。許せジーク。


まぁ、入り口に一番近い小竜姫様からで良いか。

そう判断して、小竜姫様をそっと抱き上げる。

「―――軽いなぁ…」
そんな感想が漏れてくる。
数年前の自分であれば、この状況で冷静さを保ってなどいられなかっただろう。
この数年で本当に色々と成長した物だ…

そんな事を考えながらも異次元の修行部屋を抜ける。


ドタドタドタドタ―――

ん?何かが走ってくる音がする。
全員集まっていたと思うけど、まだ誰か居たっけ?

此処に居るとしたら後は精々ジジイと鬼門ぐらいだと思ったけど…?

「何事ですか―――って誰!?―――私!?」

廊下を走ってきたのは―――小竜姫様!?

「何者ですか!?名乗りなさい!!それにその私にそっくりなのは誰ですか!?」

走ってきた小竜姫様が神剣を構え問い質す。
―――俺が聞きたいぞ?

「―――それに貴方、人間に見えますが僅かに魔族の波動を感じます!妙神山が神族の出張所と知っての狼藉ですか!?」

魔族って、俺にはルシオラの霊気構造があるから僅かにその波動があるかも知れないけど、なんで小竜姫様がそれを知らないんだ?
―――って言うかなんで神剣を構えてる!?

「―――答える気が無いようですね…?ならば答える気にさせてあげます…」

小竜姫様の身体から竜気が噴出される。
―――拙いっ!訳が判らんがこの小竜姫様は本気だ!
しかも俺の腕の中には気を失ったままの小竜姫様が居るし、どうすりゃ良いんだ!?

「―――うぅん…」

俺のパニックと目の前の小竜姫様の竜気を受けてか、俺の腕の中の小竜姫様が苦しそうに呻く。
そして僅かに眼を開き、眩しそうに数回瞬きをした後に――――

「えっ!?横島さん!!?何で私っ!????」

抱きかかえられていた状態とは思えない程敏捷に動き、俺の腕から抜け出す。
その様子を見ていたならば、不謹慎ながらも思わず笑ってしまうかもしれないけど、残念ながらその余裕は無い。

―――今にも襲い掛からんとする小竜姫様が居る以上、気を抜いた瞬間に斬られる可能性が否定出来ない。

そんな俺の様子に気付いたのか、混乱していた方の小竜姫様が俺の視線を追っていく。

「―――私!?」

とりあえず現状を理解してくれたのか、真剣な表情になってくれたのは助かる。

「何者ですか!?この小竜姫の姿を真似るとは恥を知りなさい!!」
そう言い放つとこちらの小竜姫様もその神剣を構える―――

こちらの小竜姫様が言い放ったのを聞き、向こうの小竜姫様の額に怒りマークが浮かび上がる。
「誰が姿を真似ていますか!!少し痛い目を見なければ判らない様ですね―――!!」

瞬間、向こうの小竜姫様の神剣が打ち込まれる―――

キンッ

それ迎え撃つのはこちらの小竜姫様―――


何合その神剣を合わせただろうか。
一際大きな剣戟を響かせ、二人が離れる。

「どうやら、姿を真似る事は出来てもその剣は私に劣る様ですね…?」

そう宣言したのはこちらの小竜姫様。
お互いの実力は均衡している様で、際どくもこちらの小竜姫様が勝っている。

―――だが、不思議な点がある。
向こうの小竜姫様。
確かにこちらの小竜姫様に比べるとその剣技は若干劣っている様に思えるが、それは小竜姫様の剣技を模倣したと言うよりも…

「――――ハァハァ…、認め難い事ですが、確かに純粋な剣技では勝ち目が薄い様ですね…。ですが、私にはこれがありますっ!!」

キィン―――

刹那の瞬間に向こうの小竜姫様の姿が霞む―――

「―――超加速!?くっ…!!」

―――キィン

一瞬の遅れでこちらの小竜姫様も超加速状態を発動させたらしい。

―――『超』『加』『速』

俺も考えるよりも先にその文殊を発動させる。
―――予定よりも文殊のストック数が少ない…な?
そういえば腕輪が暴走した時に幾つか使った様な―――?

まぁ、今はそれ所じゃ無いか。
超加速状態の二人が戦う中で俺だけが通常空間に居たのでは、下手をしたら気がついたら死んでいる。
人間の身で耐え切る事の出来ない領域ではあるが、無茶な動きをしなければ辛うじてこの状態を維持する事が出来る筈。
超加速状態を維持していれば、最悪でも自分に降りかかる攻撃は防げる―――

「竜族でありながら韋駄天の超加速を使える者など、人界には私とメドーサ以外居ないはず!まして貴方は私に似た―――いえ、私と同質の竜気を持ち、同質の剣技を扱い、そして何よりも私と同じ顔をしている―――!
何者ですか!!?」

「それは私の台詞です!それにメドーサと言えば確か、竜族危険人物ブラックリスト、はの5番、全国指名手配中の魔族!!それと知り合いと言う事はやはり貴方も魔族ですか!?」

こちらの小竜姫様が問いかければ向こうの小竜姫様も応酬する。
その間にもお互いの剣がお互いの隙を狙い結果超高速での立ち回りが続く。

二人の小竜姫様が繰り広げる剣舞はただ美しく、その剣戟は良く出来た音楽の様に響き渡る―――


何かがチリチリと頭の中で警報を鳴らしている。
気付かなくていけない事に気付いていない。そんな感じだ…


何にしても、現状を打破し無い事には話しにならんな…

とはいえ、超加速状態で文殊はタイムラグが大きすぎて使えない。
投げても当たらんだろうし…

通常空間でも付いていけない小竜姫様の戦いに参加出来るとは思えんし…
竜神の装備でもあれば別だが、生身での超加速なんて何回も耐えれる訳が無いからなぁ…

今日は既にタマモ戦で一回使っている。
現実時間で僅か三秒程度の事だったが、それでも内面の負担は無視出来ない。

もし今後先考えずに超加速状態で戦闘なんてしたら、八兵衛が乗り移っていた時の様に全身複雑骨折してしまうかもしれん。

―――いかん。対応策が思いつかん。

そうこうしている間にも二人の戦いはどんどん加熱していく。

恐らくこちらの小竜姫様が負ける事は無いが、向こうの小竜姫様も黙ってやられる訳が無い。
下手をしたら相打ちに持っていかれる可能性もある。

それに、あの小竜姫様が偽物とは限らない。
――――ん?なんで偽物とは限らないんだ…?
二人居るならどちらか偽物じゃないのか?


終わってから考えれば良いか。
どっちにしても俺の頭じゃ答えが出そうに無いしな。
となれば、どちらかの小竜姫様が傷つくのは防がないといけない。


とりあえず超加速状態を解除せなどうしようも無い…か。

『超』『加』『速』『解』『除』か?
あかん。五文字制御以前に下手したら俺の超加速だけ解除されかねん…


「中々頑張りましたが此処までです―――!覚悟なさい!!」

あーーーあかん!こっちの小竜姫様が向こうの小竜姫様に王手かけとるっ!?

「―――せいっ!!」
思いつきだが巧く行ってくれよ…!!

左右の手にサイキックソーサーを展開、そのまま両方同時に投げつける。
それだけでも骨折ぐらいはするかもしれんが仕方ない。
痛みを感じる前にケリをつける―――!!

投擲では超加速状態での速度は望めんが、サイキックソーサーは俺の霊波の塊。
有る程度は操作出来る―――

――――速く…速く、もっと速く――――!!

念じる事によって、サイキックソーサーは超加速状態でも通常空間で投げたのと同じぐらいの速度になる―――

こっちの小竜姫様が神剣を首元に突き付け、勝利を確信しているからこそ―――――

「―――投擲型サイキック猫だまし!!」

二つのサイキックソーサーを操り空中で接触させる事によって遠距離でサイキック猫だましの効果を出す―――!!


――――ぱしゅん。

「ぇ゛…?」

筈だったんだが、お互いがお互いに干渉して消滅した?
―――つまり失敗…?

「あぁぁぁーーー!俺の馬鹿!?」

拙い拙い拙い拙い―――!?
こんな時に思いつきの技使うから―――!!

「やかましいわっ!!」

ガツン。

パニックになっている俺の頭に何かが強打される…?
「ぐおっ!?」

洒落にならねーぐらい痛ぇ…

「なにしやが…る?」

涙目になって後ろを振り返るがそこには何も無い。
「―――あれ?」
「全く、アレは何時まで経っても未熟者じゃな…。下がっておれ」

そう聞こえるが早いか、何かが俺の横を通り過ぎていく気配が?
慌ててそれを目で追うと、視界に入ったのは


その神剣を上段に構え、振り下ろす瞬間の小竜姫様――――!?


―――ギンッ!

そしてソレを受け止める――――


「双方そこまで。この場はワシが預かる」
刹那の瞬間に小竜姫様の打ち込みを受け止め、その棍を二人の小竜姫様の首元に違える事無く突きつけている姿は…

「「老師!?」」

二人の小竜姫様が同時に叫ぶ。
この妙神山の管理人、小竜姫様の師匠にして斉天大聖の名を持つ――――

「―――サルジジイ!?」
「老師と呼ばんかっ!!」

―――チッ
そういえば前にそんな事を言われた気がせんでも無い。
…まぁ、サルジジイで十分だな。


「老師、これは一体どういう事でしょうか?説明していただけませんか?」
「老師――!?何時の間に妙神山にいらしたのですか?」

二人の小竜姫様が老師―――もとい。サルジジイに詰め寄る。


―――ちょっとうらやましいと思ったのは内緒だ。

「まずは超加速を解除せよ。老身には辛いわい…」

これ見よがしに棍―――如意棒だっけか?で肩を叩くサルジジイ。
―――このサル超加速なんて使えたか…?

とりあえず二人の小竜姫様も不満を隠せないながらも自らの師匠に言われては従わざるを得ないのか、素直に超加速を解除する。

それを見て俺も直ぐに超加速を解く。

「ぐあっ…」

途端に両腕と首に痛みが走る―――

戦闘中ならまだ我慢するが、流石に今は無理…か。
痛みに負けてその場に崩れ落ちる。

「―――横島さん!?」

悲痛な表情で走り寄って来る一人の小竜姫様。
「ふむ…。まぁ人の身で超加速なぞ使えば仕方あるまい。そっちの小竜姫はそのまま部屋に運んでやるが良い。
こっちの小竜姫は修行場で倒れている奴らを運ぶのを――――」

そこで俺の意識は途切れた…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほれ、何時まで寝ているつもりじゃ」

ガン。

そんな音と共に頭に衝撃が走る。

「―――いったぁ…?」

その衝撃に思わず目を開けると、そこには私を覗きこんでいる猿…?

「え…え?猿が喋ってる…?」

「まだ寝ぼけておるのか?ならば起してやらねばならんのぅ…?」

そう言って更に棒みたいな物を振り上げる猿。
…猿?

「―――え…、斉天大聖老師様!?」

えっと…?
何があったんだっけ…?


「―――ふん。まだ寝ぼけているみたいじゃのう。まあ良い、もう皆起きて待っておる。付いて来い」

寝ぼけてる…?
―――なんで私寝てたんだっけ…?

未だに覚醒しきらない頭でとりあえず斉天大聖老師様の後を付いて行く。

えーっと…?

眠っていた部屋を出て廊下を歩く。

「――――あっ!」

思い出した。
確か美神さんが何か腕輪みたいなのを使って、それが凄い光を放って…
―――そこから記憶が無い…?

頭が覚醒してくると色々と考える余裕が出てくる。
―――そもそも私何処を歩いてるんだろう?

斉天大聖老師様が居るって事は妙神山である事に間違いは無いと思うけど、この廊下に見覚えが無い。
半年も修行していたんだから、知らない所は無い筈なんだけど…
それに随分古いみたいだし。

本来もっと考えるべき事があると思うけど、何故かそちらに頭が回らない。
お陰で余分な事を考えてしまう…

そして斉天大聖老師様が一つの扉の前で止まる。


―――やっぱり見覚えが無い…

斉天大聖老師様はそのまま扉を開けて中へとその歩みを進める。
私もそれに付いて中へと進む。
――――そこは居間の様に見える。
ただ、普段私達が使っている居間とは違うのか、てれびとかは無く、質素な作りをしていた。

「―――おキヌちゃん、目が覚めたのね。大丈夫?何処か痛い所とか無い?」

私の姿に気がついたのか、美神さんが心配してくれる。

「大丈夫ですよ。―――ちょっと頭が痛いですけど…」

歩きながらも、自分の身体に大きな異変が無い事は確認出来た。
―――斉天大聖老師様に叩かれた頭を除けばだけど…

「そう…、良かった。これで後は横島君だけね」

後は横島さんだけ?
そう言われて見れば横島さんが見当たらない。

「アヤツは一度目覚めたのだがな、そこの未熟者のお陰で今は気絶しておる。
心配しなくともアヤツの事だ。その内に目覚めるじゃろう」

斉天大聖老師様が二人の小竜姫様をキセルで指して言う。
―――二人の小竜姫様…?

「―――小竜姫様って双子だったんですか…?」
「「違います!!」」

私の呟きに即答する二人の小竜姫様。
―――なんだろう?二人とも同じ行動している筈なのに、感じる感情が正反対だ。

「まぁ、美神さんなんて私達を見るなりに『へぇ、神様って分裂できるのね』って言いましたけどね」

片方の小竜姫様が美神さんを半眼で睨みつける。

「ちょっとしたジョークじゃない…」

それに対して美神さんは眼を逸らして応える。
―――あの態度は思っていた事がついポロリと出てしまって、それを誤魔化す時の態度…かな?


「ジョークで神族をアメーバみたいに扱うのなんてミカミぐらいよ…」

あ、あめーば…
流石美神さんですね…

「それで、いい加減小竜姫が二人居る理由を説明して欲しいんだけど。
 横島君が来ない理由は仕方ないにしても、このまま起きるまで待つなんて嫌よ?」

美神さんが誰に対してでもなく、周り全員に聞こえるように言う。

「でも先生の事も重要でござるよ!!やはり拙者がヒーリングを―――」
「アンタさっきからそればっかりじゃない。少しは黙ってなさい」

タマモちゃんのその言葉に私は少しだけ安心する。
知らない人が聞けば冷たく聞こえる言葉かもしれないけど、もし本当にヒーリングが必要な状況だとしたら、タマモちゃんは絶対にヒーリングを行っている筈だから。

「しかし―――」
「シロ、落ち着きなさい。さっきまで小竜姫がヒーリングしていたし、私が持ってきた文殊を三個も使って『治』療したから。
 今は外傷で気絶しているというよりも疲れから眠っている感じよ。
 だからヒーリングは必要無いの。――――わかった?」

美神さんがシロちゃんに諭す様に話し掛ける。
流石に美神さん、タマモちゃんの二人に言われてはシロちゃんも渋々ながら引き下がらざるを得ない。

「それで、アンタらも黙って無いで説明してくれるかしら?」

今度ははっきりと神魔族の方々に向かって問いかける。
―――そういえば、さっきから全員押し黙ってますね…
ヒャクメ様なんて、トランク―――?のフタを開いて何かきーぼーどみたいなのをカタカタとずっと打ってるし…


「ふむ…、何から説明するかのぅ…」

斉天大聖老師様が珍しく何かを迷っている。
それほど難しい事が起きてるのかしら…?


「―――いいわ。まどろっこしい事はキライなの。単刀直入に…
 ―――――私の時間移動能力で過去に来たのね?」

それを聞いた二人の小竜姫様の顔が強張る。

――――時間移動能力
美神さんと美神さんのお母さんが持っているたいむぽーてーしょん…能力。
以前に美神さん、横島さん、マリアさんの三人で中世に行ってしまった能力だったと記憶している。
でも、それならまた戻る事が出来るって事ですよね?

時間を移動できる能力なら、小竜姫様が二人居るのも納得出来ますし。


「恐らくそれに間違いはないじゃろう。じゃが、それだけでは無い可能性もある…」

それを肯定しながらも更に何かがあると言う斉天大聖老師様。

「―――どういう事よ…?」
「それを今ヒャクメに調べさせておる。―――ヒャクメ?」

斉天大聖老師様の問いかけにヒャクメ様はトランクから顔を上げる。

「まだ全てを調べきれた訳ではありませんが、間違いありません」

そう宣言した。
それを聞き、斉天大聖老師様の顔が目に見えて曇る。

「やはり…か。
―――ワシは神界へ報告に行かねばならん。ヒャクメは皆に状況の説明を。
ワシが戻るまで誰一人として妙神山を出る事を許さぬ。
鬼門も中へ入れておくのじゃ。
もし一歩でも出れば…


――――その時はワシが処分する」

斉天大聖老師様はそれだけ言い残すと部屋を出て行ってしまった。
一体何が…?

「ちょ…、待ちなさいよ!ちゃんと説明して行きなさい!!」

美神さんがそう言って斉天大聖老師様を追おうとするけど、それはワルキューレさんに阻まれる。

「落ち着け美神令子。あの方があれほど取り乱していたのだ、尋常では無い。今は下手に動かずに状況の把握に努めろ」
「そうよ、ミカミ。今下手に動けば本当に『処分』されかねないわよ?思っていた以上に状況は悪そうだしね。
とりあえずヒャクメが説明出来るんだからそれを聴いてから考えましょう」

タマモちゃんにまで言われたのがショックだったのか、美神さんは何かを言おうとしてそれをグッと堪える。

その目がヒャクメ様に早く話しなさいって促している…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それじゃあ順を追って説明するのね。
まず、美神さんが腕輪を暴走させてしまった。ここまでは良いですね?」

その言葉に全員が頷く。
―――暴走させた私はすごく複雑だけどね。

「でも何で暴走したかわからないわ。カオスと横島君が使ったときは大丈夫だったのに」

そこが未だに納得行かない。
横島君だけならば判る。
文殊は彼の能力なのだから、それを核に使っている兵器を扱うならば彼に勝る者は居ないだろう。

だけどカオスも成功してるのよ?
それが何で私に使えないって言うのよ…

「その原因については幾つかあると思うのね。妙神山みたいに周囲の神気が多い所で利用する事を考えていなかったのか、使用回数に制限があった。それとも文殊をセットしてから発動させるまでの時間が遅かった…
『雷』の文殊に対応していなかった…
―――考えればキリが無いのね」

言われてみればその通りね…
カオスを締め上げてやらないと…

――――ん?『雷』の文殊?
私がセットしたのは文字を込める前の文殊よね…?

ちょっとポケットを確認してみる。

確か事務所から持ってきた文殊は十個…
そして残りは六個。

一個だけ『雷』の文字を浮かべたのがあった筈。
―――私にとって『雷』は切り札になるから。
道真に貰った時の様に、それだけで時間移動能力を使う事が出来る。
なにも自分が移動しなくても敵を跳ばすことも可能な力。

私にはママみたいに雷や電気の力を霊力に変換する力は無い。―――まぁママも魔方陣を使ってたみたいだけど…―――それも過去に何度も救ってくれた能力だからこそ切り札として『雷』を用意しておいた。


そしてそれだけは他の文殊と混ざらない様に、また取り出しやすい様に違うポケットに入れておいた筈…


――――あの時は逆上してて覚えてないけど、『一番取り出しやすい文殊』をセットしたのかしら…?

――――…黙っておこうっと♪


「それで、『雷』の力が暴走して周りを巻き込んだのね。
更に、美神さんには『雷』を利用して時間移動する能力があるから、それで時間移動しそうになったのだけど…」

生憎とその辺りは必死に制御しようとしてたから覚えてないわ…

「でも、今回は問題が発生したのね。
―――あの腕輪の増幅能力が高すぎた事。
それこそ美神さんの能力を持ってしても、限界を超えてしまう程だったのね」

確かにそうでしょうね…

私が過去にその能力を発動させたのは

マリアの感電に触れ、中世に飛ばされた時。
横島君がヌルに殺され、その雷撃に撃たれた時。
中世からカオスの協力で帰ってきた時。

前世を見る為にヒャクメの神力で発動させた往復。
道真の文殊『雷』を使った時。

ざっと考えてもこれだけあるけど、その中でも強力な雷撃は
地獄炉にてその魔力を存分に振るえたヌルの雷撃か、道真の文殊の時だろう。

ヌル自体それなりに強い魔族では有ったが、そこから発生した雷撃など千マイトにも及ぶまい。

恐らく…だけど、道真の文殊が横島君の文殊と同程度だと思う。
『文殊』とは霊力を極限まで収束させた物。

横島君の文殊ならば三百マイト前後の霊力を数センチ程まで凝縮しているのだから、同サイズの文殊といった形である以上は霊力と神力の違いはあれど、その威力に大差は無いだろう。


それに対してカオスの腕輪は単純に数千マイト。
用意周到に準備をして、更に極大の魔方陣での制御サポートでもあれば別だろうけど、突発的に受けた雷撃ではそれが追いつく筈も無い。

「つまり、腕輪の暴走によって数千マイト級の雷撃が発生した。
それを腕輪を身に付けていた私が意図したかに係わらず、時間移動能力に変換してしまった。
けれど、その変換でも追いつかなかった分の雷撃が周囲に撒き散らされていた。
―――って訳ね?」

私の問いかけにヒャクメが頷く。

「でもそれなら、周囲に撒き散らして過剰分は発散された訳でしょ?
だったら私の時間移動能力が発動しただけじゃないの?」

でもそれだと先ほどのサルの発言が腑に落ちない。
時間移動なんて何度でも行っている事だし、ヒャクメの協力があれば簡単に戻る事も出来るでしょうに。

「それだけなら確かに時間移動能力が発動するだけで済んだのね。
問題は腕輪の暴走を止める為か、雷から守る為か判らないけど、横島さんが文殊を使った事なのね」

―――忘れていたけど、確かに横島君が文殊を取り出すのを見た覚えがあるわ…

「―――とりあえず御託は良いわ。ミカミの時間移動能力が暴発してヨコシマの文殊が更に作用した。
それで結論はどうなったの?」

タマモの言葉も尤もね。
確かに今は現状の結論の方が知りたいわ…

「結論から言っても理解出来るか判らないから説明してたのね。
でも、そう言うなら結論だけど…


―――――私達は平行世界の過去に来たのね」

――――平行世界…?

「それって、漫画や小説みたいな…ですか?」

漫画や小説…か。
それを言ったら私の時間移動能力もそうだと思うけど…

「その通りだと思ってくれて構わないのね。
それで、さっきまでこの世界の神族データベースにアクセスして三界の歴史を調べていたけど、私達の世界とは酷似しているけど微妙に歴史が違っているのね」

「――――それで、元の世界には帰れるの?」

重要なのはそれだろう。
帰れるのか帰れないのか。
それだけでも知っておかなくてはいけない。

「自力で帰れる確率は三万分の一程度…
―――それも私が計算出来た範囲内での話しだから、現実にはもっと低いのね…」

――――冗談キツイわ…
正しく目の前が真っ暗になった気分ね…

「今『自力で』って言ったわね?他人の力を借りれば帰れるって事?」

私の思考が停止している中、タマモが問いかける。

「神魔界の最高指導者を始め、極小数の上層部の方ならばその可能性を示唆出来る可能性がある。って程度なのね。
今それを老師様が交渉に行っている筈なのね」


サル次第って事ね…。
後は…

「それで、仮に帰れない場合。私達はどうなるの?」

―――参ったわ。今この場でタマモは私より冷静に物事が判断出来ているわ。
あらゆる可能性を考えているわけね…

「正直に言うとわからないのね。なにせ前例が無い事だから…
それも、老師様が戻ってきた時に判ると思うのね」

ヒャクメのその発現で場は黙り込んでしまった。


ただ、時計の音だけが響くような静寂の中。
私達はサルが戻ってくるのを待つしか無い…


どれ程の時間をそうして過ごしただろうか。
ふと、廊下からの気配に気付く。

やっとサルが戻ってきたのかしら。

―――ん?
小声で話し声が聞こえるわ…

何だか言い争っているみたいだけど…


まさか、あのサル…
ヘマして神界の刺客でも連れてきたんじゃ無いでしょうね…?

その気配はやがて部屋の前で止まり、その扉が開かれる…

ガラガラと音を立てゆっくりと開いていくそれを見ていると、何か嫌な予感がしてくる。


「あれ?なんでそんなに暗い顔してんスか?」
「―――お、美神の旦那も来てたのか」

そこに現れたのは、寝ていた筈の横島君と…


―――――――――――――雪乃丞…!?


>LINUS様
ご指摘ありがとう御座います。
修正ミスをしていました^^;

そして、自分なりに逆行物を書きたいと思っていたので時間移動させちゃいました(汗)

けど横島一人じゃ無くて全員連れて来てしまいましたが…


>tomo様
アドバイスありがとう御座います。
上でも書きましたが、一つにまとめてから投稿する筈だったのが手違いで読み辛くなっていました。
続きが楽しみと言って頂けると、また創作意欲が湧いてくる物ですね。
これからも頑張っていきますので、お付き合い下さい。


>皇 翠輝様
自分としても横島や雪乃丞が強くなるのは結構あったと思うのですが、美神除霊事務所のメンバーが居ない、影が薄くなるのが寂しいなぁと思い彼女達にも強くなってもらいました。
雪乃丞出しちゃいましたが…(汗)

また、嗜好性の部分ご指摘頂きありがとう御座います。
全然気がついていなかったので助かりました。


>九龍様
設定等については既に考えてありますが、横島の身の振り方にちと迷っているかなぁって所です。
行間については今回少し気をつけてみたのですが、如何でしょう?

殆ど行き当たりばったりで書いているので、矛盾点などが出そうで怖いですが…

これからも見捨てずに読んでいただけると嬉しく思います。


>柳野雫様
一人の力では無く、全員揃っての事務所ですからそれを表現出来ていれば嬉しいです。
美神の身の振り方についてはまだ考え中な所が大きいですが、これから更に心情の変化をつけて行きますので、その時にどう行動するか次第…
といった感じです。


>Zero様
申し訳無いです。
ちと投稿の仕方に無理があり、それを指摘して頂いたので削除、再投稿していました。

美神の守銭奴ぶりは作中には書けなかったのですが、改善されている事にしてあります。
収められた文殊も通常の依頼でそれなりに使用していたり、アシュ戦に参加したメンバーに売る時は十億なんて吹っ掛けずに相手の懐に合った金額で譲ったりと…
そもそもそんな値段であれば、六道とエミ以外に買えそうに無いですし^^;

美神以外が異常に強くなって〜については、これからのバランスを崩さない程度には調整を入れていくつもりです。

圧倒的な力で〜ってのも捨て難いのですが、この作品の趣旨とは異なってしまいますので…


>レイジ様
連載開始当初から居るのに、影が薄いのでは流石に可哀想かなぁと思い式神を使えるようにしました。
他の霊(悪霊)を操って〜とも考えたのですが、性格上無理だなぁと思い、こういった形になりました。
原作とは逸脱した能力になってしまっているので、受け入れていただけるか心配だったのですが、概ね好評な様で胸を撫で下ろしています。

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