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▽レス始

「重ねる心。思いはここに…(第二話)(GS)」

颯耶 (2005-07-13 00:16/2005-07-15 12:03)
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―――そして、先ほどシロと小竜姫が戦っていた修行場に足を踏み入れる。
人狼族のシロ、金毛白面九尾の狐のタマモ、そしてネクロマンサーにして、式神使いのおキヌちゃんチーム。

対するは、GS協会が誇るS級GSにして人間界で唯一の文殊使いの横島君。

さて、この勝負どうなるかしら…?


その他の観戦メンバーはそれぞれ見やすい位置に散らばりながら邪魔にならない様にしている。


そして開始の合図たるワルキューレの銃声が―――響く!!


同時にシロが霊波刀を発現させながら奔る――

対する横島君は右手に栄光の手を、左手にサイキックソーサーを発現させてシロを迎え撃つ。
だが、その判断が正しいのか…
シロの影ではタマモが狐火を準備している。
恐らく横島君からはシロが邪魔でタマモが見えない位置に隠れているわ。


シロがその霊波刀を振りかぶり―――

ジャンプする――!

フェイントね。
見ると既に狐火が放たれ、高速で横島君を襲う―――

だが、それすらも予測していたのか慌てずに横に避け…


―――タマモがニヤリと笑った。
「甘いわよヨコシマ」


パチン。と、狐火が横島君の横を通り過ぎる瞬間タマモの指が鳴る。
そして、直線に突き進んでいた狐火が小さな炎を放射状に撒き散らす―――

「なっ!?」
完全に避けたと思っていた狐火が突然弾け、更なる攻撃を加えてくる。
それが横島君の予定を崩した。

咄嗟にサイキックソーサーで炎を防ぐが――

「先生覚悟!!」

上からシロが降って来る―――

「―――くっ!」
左手で狐火を防いでいる以上栄光の手でシロの霊波刀を防がなくてはならない。
そして、その二つが交差する瞬間――

ピィリリリリリリ――――

おキヌちゃんの笛の音が響く。
影から現れたのは鷹の式神・空飛――

それが超高速で横島君に迫る。

「―――時間差かっ!」
この絶対の劣勢の中、回避が困難だと誰もが思った瞬間にも彼は諦めないはず。
それを誰よりも知っているのは私だからこそ確信出来る。

空中で不安定のシロを力で跳ね除け、分裂して力が弱まっている狐火をサイキックソーサーに霊力を更に含める事によって霧散させ一瞬の自由を得る―――

空飛の速度は眼で追えるか追えないかのギリギリなほど速い――

それを迎撃するのは例え横島君であっても無理だと思う。
ならばどうするか―――

答えは単純に受け止めるだけ。
一瞬で栄光の手が複雑に絡みあい網状となる。

そこに空飛が突っ込んでくるも、網を突き破る事が出来ずに跳ね返される―――


「ふぅ、危なかった…」
横島君が一瞬息をついたその時―――

「油断大敵でござるよ―――!」
シロが更に斬りかかる。

「やっぱり全力でいくでござる!!」

おそらくそれは最初の連携を指して言っているのだろう。
連携の為の動きと自分が倒すための動きが一致していないからこそ、動きが変わる。

一段と鋭い剣が振るわれる―――

対する横島君も栄光の手を霊波刀に切り替え応戦するが

―――ザシュ

そんな音と共に鮮血が飛び散る。

「なにっ!?」

横島君の肌が切り裂かれる。
深手では無い物の一体何が起きたのか。
少なくとも私の目には、シロの霊波刀を受け止める横島君しか見えなかったけれど…

「斬撃と同時に霊波砲を飛ばしたのか?――いや、それにしては鋭すぎる…」
横島君が間合いを取りながらそれを見切ろうとする。

「拙者の秘密兵器でござるよ!!」

それを許すかと、シロが奔る。

一合、二合と切り結ぶ度に横島君のキズが目に見えて増えていく―――


「―――そうか!八房だな!?」

その一言が意味するのはなんだろうか。
シロが振るっているのは間違いなく霊波刀よね。
何処から八房という単語が出てきたのかしら?

「流石先生でござるな、たったこれだけで見破られるとは思ってなかったでござるよ…」

そう言いながらも斬撃を放ち続けるシロ。


―――あんたら私に判る様に説明しなさい。

そんな願いが通じたのか、横島君が口を開く。
「斬撃と同時に指向性を持った霊波…この場合は極小の霊波刀と言うべきか?それを霊波刀の周囲にカマイタチの様に発現させる事によって、一太刀で複数の斬撃を発動させている訳か…」

霊波『刀』の形状を取っている以上、刀からイメージが離れすぎるとそれを維持する事が出来なくなってしまう…
しかし、シロは『八房』なる『刀』を実際に目に見ている。
当時は理解出来なかっただろうそれを自分なりに考え、イメージとして自らの霊波刀に付与出来る程の力をつけた訳ね…

―――さて、思いがけなかったシロの隠し玉だけど、どうするのかしら横島君?

「考えたなシロ…、これならば剣技が及ばない相手にも勝てる可能性が十分にある。
―――だが…」

これで終わるような横島君なら、今までの事件でとっくに死んでるわ。
それを裏付けるかのように、シロの死角でサイキックソーサーに力を注いでいる。

しかし、全身を包む霊力を引っ張って来ている様子も無いし、栄光の手―――霊波刀の霊力にも陰りが見えない。
なのにサイキックソーサーの密度というのだろうか。それは倍以上になっている。

一体どれだけの霊力があるというのか。

正直に言って、私は修行から帰ってきた横島君が本気を出した所を見た事が無い。
彼と一緒に除霊に向かっても、百マイト前後の霊力で大抵カタが付いてしまうのだから仕方ないと言えば仕方ない。
百マイトといえば私のほぼ全力だけど、彼の場合余裕を持ってその領域に達している。
だからこそ、ここでの戦いを見たかったのかも知れない。
彼の事を少しでも知りたくて…


「先生覚悟するでござる!」

シロが更に出力を上げる。
流石に横島君も危ないか…
と思った瞬間―――


「ここ一番で大振りになる癖は直したほうがいいな…」

横島君のその一言がシロの動きを一瞬止める。
――それは本当に一瞬の事。瞬きをする暇すら無い時間。
だが、それが致命的な隙となる―――


突き出された左手からサイキックソーサーが放たれる。
高密度のそれは肉薄するシロへと迫る―――

「―――くっ!?」

シロが咄嗟にそれを薙ぎ払おうと霊波刀が奔る―――

「―――ブレイク」

小さく。
ほんの小さく彼が囁いた。

だが、それは横島君にとっては絶対な、そしてシロにとっては致命的な言葉となった。

一瞬サイキックソーサーが光ったかと思うと、次の瞬間に一つだったそれが無数に、そう私が確認できただけでも二十個程度はあっただろうか。小さな無数の霊弾へと分解した。

たった一つを相手にする為に振るった霊波刀は、数個のそれを叩き落しただけで後は虚しく空を切った。
そしてシロは無数の霊弾を食らって吹っ飛ぶ―――

それで終わり。
シロはもう戦闘に参加出来ないだろう。

これが実戦ならば、彼女はそのまま死んでいたかもしれないのだから。


「―――シロちゃんが!?」
おキヌちゃんのその声で、ふと思い出す。
横島君と戦っていたのは三人なのだ。
シロだけを倒した所で、まだ二人が残っている。

――ではこの二人、シロが戦っている時に何をしていたのだろうか?
まさかただ黙って観戦をしていた訳ではあるまい。

「くっ!?馬鹿犬!倒れるのが早いわよ―――」

タマモの叫びが悲痛に響く。
どうやらシロが闘っている間に、何かの準備をしていた様だがシロが予想外に早く倒された為にまだ準備が出来て居ないのだろう。

「私が時間を稼ぎます。タマモちゃんは続けて―――」
「え?ちょ、ちょっと?」

ピィリリリリリリ――――
言うが早いか、おキヌちゃんは既に笛を吹き始めている。
タマモは抗議しつつもおキヌちゃんの意思を尊重したのか、再び自己の中へと埋没していく。

空飛が空を飛びながら横島君を牽制する。
未だ狼の式神・狼武は現れて居ない。

さて、あのパピリオすらも寄せ付けなかった式神相手にどう戦うかしら?

笛の音にあわせて空飛が襲い掛かる―――
そこに居る事を知らなかったら目で追うことも出来ない程の速度だ。

だが、体当たりしかする事が出来ないのか、横島君は襲い来るそれを紙一重で避け続ける

――パピリオですら避ける事が出来なかったそれをどうやってるのかしら…?

「どうやら空飛は体当たりしか出来ないみたいだね。それじゃあ俺には当たらないよ」

横島君の確信しているかの様な言動。
おキヌちゃんにプレッシャーを掛けるためのブラフか、それとも事実か…

しかし、事実として横島君はさきほどから全てを避け続けている。
おキヌちゃんが焦っているのが目に見えて判る。

彼女の学生時代からの弱点だった息継ぎについても克服されているか判らない。
少なくとも半年前までは克服出来たと聞いた覚えが無い。

ふと、先ほどまで激しく動いていた横島君の動きが止まっているのに気付く。

―――どうしたのかしら?

横島君も怪訝そうに辺りを見渡している。
と、おキヌちゃんが横にズレた。

すると、その影には狼の式神・狼武が居るではないか。
あの巨体をどうやって隠していたのか、だがそれも今となっては後の話しだ。

なぜなら、接近戦専用だと思っていた狼武の口には巨大な霊波砲が用意されていたのだから―――

そしてそれが放たれる―――
次の瞬間に再び空飛が襲い掛かってきたのか横島君が回避行動を取る。
だがそれは誘いだったのか、避ける先には霊波砲が迫ってくる。

「誘い込まれた―――!?」

既に回避は間に合わない。空飛を避ければ霊波砲を食らい、霊波砲を避ければ空飛を避けれないだろう。
それを打開するには…

「――よっと」

栄光の手が文字通りの『手』の形になる。
そして、有ろう事か超高速で飛び回る空飛をその手で捕まえる。

そして空飛が飛んでいた勢いを消すことなく、その位置を霊波砲との射線上へと固定する。

おキヌちゃんの顔が驚愕に染まる。


―――だが、予測されていた事態にはならなかった。

栄光の手が鷹を離し、霊波砲を防ぐ。

「―――え?」

おキヌちゃんの驚きを他所に、横島君が小竜姫に振り向く。
「式神のダメージは術者に還る。でしたよね?今ので本来ならおキヌちゃんは戦闘不能だと思いますが?」

「―――あ゛」
横島君が言いたい事が理解できたのだろう。
おキヌちゃんがガックリと肩を落とす。

本来ならば、あのまま霊波砲に貫かれるか、栄光の手で握りつぶされるか。
他の如何なる手段を用いてもおキヌちゃんが致命傷を負う事は防げなかっただろう。
だからこそ横島君は空飛を解放し、自ら霊波砲を防いだ。

既に決着が付いたのであれば、無理におキヌちゃんに怪我をさせる必要は無いだろう。と。

「そうですね。おキヌさんは戦闘不能になったと見なし、以後の戦闘には参加不可とします」

小竜姫の宣言で残るはタマモ一人となった。


先ほどから彼女は何をしているのだろうか。

シロの時も、おキヌちゃんの時も狐火の援護があればもっと巧く戦えた筈。
それとも、その援護をするよりも今の術を完成させた方が効果的だとでも…?

だとしたら、どれ程の事をやるのか楽しみである。

彼女は紛れも無く金毛白面九尾の妖狐なのだから。
その力の一部とは言え取り戻した事によって、何をするかわからない。

「待たせたわね―――」

タマモのその言葉で世界が凍る。
ただ理解出来るのは、その力が如何に強大であるか。それだけだった。

そのプレッシャーに負けぬ様に自らを奮い立たせながら、ふと周りを見渡す。

―――なんでみんな余裕なのよ…

この私が、これほどのプレッシャーを感じている中で。
小竜姫もワルキューレもジークもパピリオもかなり余裕そうに観察している。
ヒャクメだけは少し辛そうにしているかしら。

考えて見れば、こいつら神族、魔族だったわね…

そりゃ、千〜千五百マイトぐらいの妖気を受けた所で余裕があるわけだわ…

視線を戻すと、横島君の額から汗が吹き出ている。
真正面からそのプレッシャーを受けているのだから仕方ない事だと納得する。

そして、タマモの周りには巨大な狐火が幾重にも浮かんでいる。
これだけの数の狐火を制御する集中力には驚嘆するが―――


だが、それでは終わらなかった。
十を超える狐火が小さく揺れたかと思うと、次の瞬間には一気に収束して行く―――

後に残るのは、文殊を一回り大きくしたぐらいの紅い珠。
中で煌々と燃えている炎が見えなければ、宝石かと思ってしまうかもしれない。

「―――以前とは比べ物にならないぐらい大きな狐火を物質化するほどに収束、圧縮した訳か…」

横島君が一瞬でそれを見抜き、呟く。
彼でなければあの紅い珠の正体には簡単に気付かなかっただろう。

「そうよ。アンタの文殊を見て思いついた技なんだから光栄に思いなさい」

その言葉に改めてタマモに感心する。

言葉で言うのは簡単だが、霊気を物質化する程に収束させる事がどれほど困難な事か。
それは霊気の収束、圧縮の最終形態である『文殊』の稀少さを考えれば自ずと判る事だろう。

「俺の文殊を参考にした割には万能性を捨てて炎のみを追求した様に見えるが?」

というか、炎を圧縮して作ったのだから、それが炎を追求しているのは当然だと思うけど…?
タマモが作ったのはあくまで『狐火』の結晶であって、『文殊』では無い。
だが、恐らくあれは文殊を『火』や『炎』として使うよりも遥かに強そうだわ…

「知ってるヨコシマ?妖孤の女は強い人間の男に庇護を求めるのよ。
―――アンタにその価値があるか、試してあげるわ」

タマモの奴、何を勝手な事言ってるのよ!?
確かに横島君の事は『今は』諦めるつもりだったけど、アンタに譲るつもりは無いわよ!?

「―――そいつは光栄だが、流石に洒落じゃあ済みそうに無いな…」

横島君の顔が更に緊張に染まる。
今のタマモは全盛期には及ばないと言っても人間を軽く凌駕する力ぐらいあるわ…
大丈夫かしら…?
―――小竜姫やワルキューレ達も居ることだし彼女達が止めないなら大丈夫って事…よね?

そんな事を考えている間にタマモが無造作に手を振る。

「―――速い!?」

三つの紅い線が奔る―――
―――私の目でも残像しか映らない程の速さなの!?

どうやったのか横島君はそれを全て避けた…

いえ、タマモが外したと言うのが正しいのかしら…?


「今のは小手調べよ?―――私を落胆させないでね?ヨコシマ」

妖艶。そう表現するしか無い笑みを口元に浮かべタマモが話す。
横島君は既に余裕は無いのか押し黙ってタマモの出方を窺っている。


――――フッ

無造作に。
先ほどの腕を振るう動作は相手に勘違いさせる為の物だったのか。
全くの予備動作無しに紅珠が奔る―――

しかも全て同時にでは無く、時間差を含め十数個のソレが超高速で横島君を狙う―――

右肩を狙ったであろうソレを避ければ今度は足が危険に晒される―――

一個避ければ二個次弾が来る。
その全てが相手を追い詰める為の狙撃と言うべきだろうか?
ワルキューレ仕込みの射撃テクニックを見事に紅珠…狐火で行っているわ。

このまま行けば間違いなく横島君は沈む―――?

「―――拙い!?」

六個目を避けた所で既に七個目は横島君の目前―――!
一瞬後に彼は火達磨になる。
それを誰しもが確信した瞬間―――

キィン―――

横島君が霞んで消える――

「―――え?」

一瞬タマモが呆気に取られる。
いえ、タマモだけじゃ無いわ。
恐らく私と小竜姫以外はみんなそうでしょうね…

あの状態から一瞬で避ける手段を私はこれしか知らない。
即ち―――

『超』『加』『速』

―――文殊とはイメージ。
そう言ったのは誰だったか。
だけど、実際に超加速を体験した事がある彼ならば、それを再現するのは難しく無い筈。

現実時間にして僅か三秒程度。
その時を経て、横島君が元の時間に戻ってくる。

「―――はぁ…あっぶねー」

既に詰みに入っていたタマモの手元には紅珠が残って居ない。
一転してタマモのピンチかとも思ったが…

―――拙いわね…
横島君も平気そうな顔してるけど、考えて見れば生身の体で超加速なんて事やるから内面ズタボロじゃない…

これはまだタマモの方が有利かしら…?
恐らくまだ奥の手を隠してるだろうし…

「な、なによ!?何やったの!?」

―――まぁ、あんなの超加速自体を知らなければ瞬間移動でもしたように見えるんでしょうね…

「―――ふん。まぁいいわ。でも…」


―――ゾクリ
そう背筋に悪寒が走った気がする。

―――それ程タマモの妖艶な笑みは絶対の自信を崩さないでいた…

「一度避けたからって、安心するなんて甘いわよ…?」


その自信を裏付けるかの様に横島君の背後から紅珠が迫る―――!?

あの珠、操る事も出来るの!?

そんなの反則じゃない…
横島君が避け切れる筈無いわ!!


だけど、実際は予想通りにはならない―――

弧を描き、円を描く様に奔る紅珠を横島君は避け続ける―――

「―――ほっ!っと、…確かに操作出来る事には驚いたけど、まだ慣れては無いみたいだな?スピードと命中精度がさっきに比べると随分と落ちてるぞ。それに同時制御も五個が限界って所か。

―――まだまだ甘いな」

その言葉を肯定する様にタマモの顔が歪む。
確かに十数個の紅珠を打ち出し、戻ってきたのは五個だけ。
それにスピードも先ほど迄の様な超高速とは言えない。

―――それでも追尾するアレを避け続ける横島君も人間離れしている様に思えるけど。


苦々しい顔をしていたタマモだけど、ふと顔を緩ませる。
「―――甘いのはヨコシマの方よ?だってそれ、別に当てる事が目的じゃ無いもの」

そう言ってタマモが再び

パチン

と指を鳴らす。

それは最初の連携の時にやったのと同じ動作―――


即ち―――

辺りが閃光と爆炎に包まれる―――

横島君の周囲を円を描いて飛んでいたソレが一斉に爆発した!?

「なっ!?―――目くらましか!?」

横島君の狼狽する声が聞こえる。
一応その爆炎でダメージは無い見たいだけど…

元から殺傷能力を抑えていたのか、横島君が『冷』などの文殊で守ったかは判らないけど、まだ決着は付いて居ない―――?

閃光に眩んだ眼に視力が戻ってくる。
それと同時に辺りを包んでいた爆炎も収まり…

そこに居たのは…!?


「―――幻術…か」

横島君を取り囲む十人のタマモだった。

その中央に居る横島君の出血はいつの間にか無くなっている。
恐らくは先ほどの隙に『治』などの文殊を使ったのだろう。

タマモが幻術を仕掛ける間に遊んでいる程彼は悠長では無い。と言うことかしら?


―――でもこの場合、横島君なら治療よりも相手の裏を掻く事を優先すると思ったけど、今回は正攻法で行くのかしら?

「これは決定的ね、ヨコシマ?」

十人のタマモがそれぞれ極大の狐火を掲げる―――


けれど、あれは幻術の筈。
例え十の炎があっても本物は一つ。
ならば横島君ならば防ぐことも避ける事も出来ると思うけど…

「―――これが奥の手か…?」

私の楽観とは違い、横島君は焦った様な声を上げる。

「そうよ。馬鹿犬とおキヌちゃんが稼いでくれた時間で完成させた術式。
―――私の奥の手よ」

訳が判らないわ。
タマモの幻術なんて今更って物じゃないの?


「―――質量を持った幻術…か。随分と反則っぽいじゃないか…」

―――今なんて言った…?
『質量を持った幻術』…?

幻術なんて所詮は幻。質量なんて有る筈も無い。

それが質量を持っているとしたら、既に『幻』では無く『実体』になる。

横島君の言葉を信じるならば、あの幻術のタマモは実体を持つ幻。
即ちその狐火は全て本物と言うことになる。

冗談じゃないわ。そんな現実離れした事が有り得る!?

―――それに、あの極大な狐火。
それが全て本物だとしたら、いくら横島君でも防ぎきる事なんて出来る訳ないわ!

「―――終わり…ね!」

無常にもその全ての狐火が放たれる―――

―――拙い!あの娘、手加減して無いじゃない!!
これじゃあ横島君は骨も残らないわ―――!

知らず、周囲を見ると小竜姫もワルキューレもジークさえも戦慄している―――

だけど、今からなんて助けるにも間に合わない―――!!


横島君の目が驚愕に見開かれる…
そして包まれる炎―――


「ぐっ…!?うわぁぁぁぁぁぁ………!」

聴こえる悲鳴が耳の奥に残る―――


ドックン…

ドックン…


心臓が悲鳴を上げている。
目の前で起きた光景が信じられずに頭がショート寸前。

直ぐにでも助けないといけない。と思う心と
あの炎に包まれたら助かる可能性なんて全く無いと判断する理性が…

「―――横島さん!!」

小竜姫のその声で弾ける―――!

「横島君!?」

小竜姫がその手に渡された双文殊を持って走る―――

『消/火』

双文殊の内、一つをそれに書き換え炎が消される。

そこに有ったのは『黒い何か』
焼け焦げ、原型すら留めていない何かが横たわっている。

「ヨコシマ!」

タマモが幻術を解除して走り寄って来る。
「―――あんた、自分が何したか判ってるの!?」

それを見て思わず罵倒してしまう。
後に冷静に考えれば、その罵倒は見当違いな物だったのだろう。

結果がどれ程納得行かなくとも、『本気の立ち合い』の決着だったのだから。
傍観者であった私がそれを責める権利は無い。

でも、今の私にそんな判断が出来る訳が無い。
詰め寄る私を止めたのは
「―――そんな事言ってる場合ですか!今は横島さんを!!」

必死にヒーリングするおキヌちゃんのそんな声だった。

「―――駄目です。全く生命反応が感じられません…」
既に残りの双文殊を全て費やし、今はヒーリングしている小竜姫からそんな台詞が聞こえる。


―――駄目ですって?

―――認める物ですか!!

「どいて!!」

それを押しのけ、横島君から事務所に納められている文殊で持って来た十個を全て回復に当て様と文字を込める。


そして、背後から聞こえてきた言葉に凍りついた。


「―――チェックメイト。だな、タマモ?」

バッ!!

その声に横島君に駆け寄っていた全員が首がそのまま飛んでいくのでは無いか。という程のスピードで振り向いた。

「横島君!?」

そこには霊波刀をタマモに突きつけた横島君が立っている。

「―――え?横島さんはタマモちゃんの炎に包まれて、燃えちゃって…?あれ?」

頭の上に?を無限大に並べておキヌちゃんが混乱している。
顔は完全に背後の横島君に向いているのに、ヒーリングをする手だけは止まっていない。

―――とりあえず横島君の姿を確認する。

シロに斬られた傷がしっかりと残っている。
でも、特に火傷などは見当たらない。

結論。

満身創痍ではあるが、全然生きてる。

それを見て、最初に浮かんだのは安心感。

そして次ぎに浮かぶのは当然ながら、行き場の無い怒り。

―――もとい。一箇所だけ行き場が有ったわ。

「横島君。無事でなによりだわ。出来れば何が有ったか教えてくれるかしら?」
特上の笑顔で横島君に問いかける。
それを見て引きつった顔になる横島君。

隣では小竜姫とおキヌちゃんも最上級の笑顔になっている。
「「横島さん。出来れば私にも説明して欲しいんですけど?」」

二人が見事にシンクロして問いかける。

それを見て既に逃げ道を探している横島君。

―――うん。殺しちゃえ♪


―――――暫くお待ち下さい―――――


「それで結局どうやったのよ?」

久しぶりにボロ雑巾の様になった横島君に問いかける。

「―――もうちょっとぐらい手加減してくれても良かったんじゃないッスかね…?」
横島君の小さな抗議を一睨みで黙らせる。

「私も知りたいわ。ヨコシマならあれでも死なないと思って攻撃したのに、私の狐火は確実に当たったわ。それに耐えれるとは思わないし、当たった手ごたえも有った。なのにいつの間にか背後に居るなんて、何やったの?」

タマモも自らが負けた事に納得が行って無い様だ。
傍から見ていた私達ですら判らなかったのだから、間近で対峙していたタマモが一番混乱しているのだろう。

「えーっとッスね、タネ明かしをしちゃえば簡単な事なんスけど。
まずタマモが紅い珠を爆発させましたよね?
その時に閃光と爆炎が起きて、それが多分大技を使う為の眼くらましだと思ったんスよ」

その言葉に一応頷く。
事実としてタマモはその隙に質量を持った幻術なんて規格外の技を放っている。

「それを迎え撃つのはやっぱり危ないなぁって思ったんで、文殊を使いました。
一つ目が『結/界』で、爆炎を防いだんスよ。
次ぎに俺の姿を作れる様に『幻』をセットしました。
でも、それだけだと簡単に見破られる可能性が有ったんで『声』を同時にセットして幻を通じて話せる様にしたんスよ
―――蛇足ですけど、同時に制御出来る数に限りがあるんでこの時点では『幻』と『声』は発動させてません」

―――それが燃え尽きたように見えた横島君な訳ね…
確かに、考えて見れば横島君があの状況で文殊も発動せずにただ迫る炎を黙って見ている訳ないわ…

「後はもう想像が付くと思いますけど、閃光が収まる前に『転/移』でその場を逃げて『隠』で気配を消してました。
それで後は『幻』と『声』を発動させて、やり取りをして…」
「私がヨコシマを殺したと思って戦闘態勢を解いた所で背後から忍び寄ってきた訳ね…?」

タマモの言葉に頷く横島君。
種を聞いてしまえば、何の事は無い。

私とて得意としている手段だ。
敵を騙し、自らが有利になる様に戦局を進める。
その為に味方を騙す事すら厭わない。

―――うっわ、私がやる分には構わないけど、他人がやるとすごく腹が立つわ…

「話しは終わったか?」

いつの間にか、ワルキューレ、ジーク、パピリオ、ヒャクメが近づいてくる。
シロも目が覚めたのか、フラフラとしながらも一緒に歩いてくる。

「あんたら、良く冷静に見ていられたわね…」

とりあえず、失態を演じてしまったのを隠すために睨みつけておく事にしよう。

「僕の場合は冷静に戦局を見る事が出来ましたからね。横島さんの幻が炎に包まれた後にその気配を感じる事が出来ましたので、心配はしていませんでした」
「その通りだ。それに我々は軍に所属しているからな。―――仲間の死なんて見飽きている…。
それで取り乱していたら、既に生きてはいないさ…」

ジークの言葉にワルキューレが自嘲的に補足を入れる。
彼女らは私達よりも余程死を間近に感じ、生き抜いてきたからこそあの場面でも冷静に判断出来たのか…

「わたしの場合はヨコシマの魂と共鳴しまちゅ。幻にはそれがなかったでちゅから、すぐに判ったでちゅよ」

パピリオの言葉も重い。
彼女が共鳴しているのは厳密に言えば横島君の魂では無く、それを補完しているあの娘の魂なのだから…

「そっか…。まぁヒャクメの場合は気付かなかったら問題だしね…。
―――私も、もっと冷静に判断出来るようにならなきゃダメかしらね…」

結局取り乱したのは私とおキヌちゃん。それに小竜姫とタマモ…か。

「いや、お前はそのままでいろ。確かに冷静な判断は必要だが、知人が目の前で倒れたのを見て取り乱さない方がおかしい」

―――人間ならば、な…

そう聞こえた気がした。
だから私は一言だけ伝える。

――――ありがとう。


「くぅーん…何があったでござるか…?」

肝心な時に気絶していたシロが説明を求めてくるが、それに答えるのは止めておこうと思う。
もし彼女の意識があったならば、真っ先に横島君に走り寄るか、下手をしたらタマモに斬りかかっていたかもしれない。
―――いや、その前に横島君を炎から守ろうと身を挺していたかもしれない。
彼女は真っ直ぐだからこそ、それに躊躇いを持たないだろうから。


「さて、とりあえず決着も付いた事だし横島が感じたことを彼女らに伝えてやてくれ」
ワルキューレのその言葉に三人の顔が引き締まる。
なんだかんだ言っても真剣に修行しているんだものね。

それに、結局三人がかりでも横島君に負けてしまった。
それが彼女達にどれだけ影響を与えてくれるのかしら…?

―――しかし、ここの管理人って小竜姫よね?なんでワルキューレが仕切っているのかしら?

「そうだな。それじゃあシロからだが、まずは他人との連携を覚えるべきだ。
霊波刀に八房を応用したのは見事としか言い様が無いが、それ以外がお粗末だった。
他人との連携時に全力が出せないのであれば、宝の持ち腐れだぞ?
それに、相手に突っかかるだけじゃ駄目だ。
今回のメンバーだとシロは唯一の前衛だったんだから、後の二人を守る事も考えないとな」

確かにまだまだねぇ…
多分シロとなら私が戦っても勝てるわ…

猪突猛進を地で行ってるから、もう少し頭を使うことを考えないとね。
今回の場合ならシロは相手を倒す事を考えずに、二人のバックアップをしていれば遠距離からダメージを与える事が出来たかも知れないわ。

「次におキヌちゃん。式神の能力に頼りすぎている部分が無いかな?
確かに強力な式神だけど、二匹同時に操る事は出来ないみたいだしもう少し考えた方が良い。
まだ式神使いになって間もないから仕方ないのかもしれないけど、式神のダメージは自分に還ってくる事を忘れないで。
特に空飛の嘴は霊波で覆われていて体当たり攻撃しても反動が無い事から忘れがちになるかも知れないけど、その他の部分を攻撃されたらそれだけで気絶しちゃうかもしれないしね」

あの娘の本業はネクロマンサーなのよねぇ…
今回修行に来た目的も、自分の身を自分で守れる様にしたい。だった筈なのに、新しい力を手に入れて浮かれているのかしら?
―――おキヌちゃんに限ってそれは無いと思うけど、式神はそれだけでも扱いが難しいのだからもう少し戦い方を煮詰めないと駄目ね。

「最後にタマモ。正直言ってこれほど力を取り戻しているとは思わなかった。
けど、もっと周りを頼ってやれよ?
質量を持った幻術には驚いたけど、それも当たらなくっちゃ意味が無い。
一人で戦う時なら別だけど、今回の場合はシロやおキヌちゃんのサポートに回った方が効率が良かった可能性も高い。
自分の力を過信しすぎると、それだけで目が曇ってしまう事があるから気をつけろな?」

狐とは元々群れを成すことを嫌うのだから仕方ないのかもしれないけれど、タマモならばきっと判ってくれるわね?
正直言って彼女の妖力はハンパじゃないわ。
周りと協力する事を覚えて、状況に合った判断が出来るようになればそれだけでも彼女に勝つのは難しくなるわね…

三人はそれぞれ言われた事を考え、自らの糧にするでしょうね。
こうなると本当に何処まで成長するか楽しみだわ…

―――早く私に楽させてくれないかしら…



「それでは、今日の修行はここまでにしましょうか。折角お二人が来て下さったんですし、早めの夕食にしましょう」
「―――ちょっとまって」
小竜姫の提案に待ったを掛ける。
―――いや、夕食にするのに異存は無いのだけど。

それを聞いて小竜姫の顔がどうかしましたか?と尋ねてくる。

「これなんだけど、カオスが作ってくれた兵器で威力がハンパじゃないのよ。折角ヒャクメも居る事だし、あんたらでリミッターでもつけれないかと思って」

そう言って見せるのは腕に嵌めたままだった腕輪。
運が良く?神魔両方揃っている訳だし、何か解決策がないかしら?

「その腕輪をカオスさんが作ったんですか?それにハンパじゃないって…?」

小竜姫が純粋に尋ねて来る。
―――流石神様。例えカオス作の発明品でも全く疑わないわ…

「へぇ…、中に文殊が組み込まれているんですねー?」

自分の名前が出た事にやる気を出したヒャクメが腕輪を見る。
―――外見を見ただけで基本的な構造が判るのかしら…?

「まぁ論より証拠ね。周囲の霊気を吸収しちゃうけど、流石にこの数の神魔と霊能力者が居れば直ぐに回復するわよね?」

そう言って腕を上空に掲げる。

横島君が目で大丈夫か?と訴えてくるけど、まぁ大丈夫よね?

昨夜のカオスと朝の横島君。
二人が既に撃っているんだから、問題は無いはずよ。

―――文殊はさっきパピリオに撃とうとした時にセットしたから大丈夫よね。


―――そのまま意識を集中させる。
念じるのはただ一言。

『発』

と。


―――キュイィィィィィン

甲高い音がして周囲から目に見えない何かを吸収する―――

「なるほど…、これはすごいですね…」

その声が誰の声だったか。
それは判らない。

そして――
バチッ…バチッバチッバチッ!!

腕輪から電気が迸る―――


―――って、電気?
こんなのあの二人がやった時には無かったわよね?

チラリと横島君を見るとなにやら引き攣った顔をしている。
やはり彼もそれを予想していなかったらしい。

「―――――って拙いじゃない!?」

どう考えても暴走してんじゃないのよ!?

既に静電気レベルだったソレは腕輪から方向性を定めずに飛来する雷と化す―――!

「――――美神さん!」

横島君が叫びと共に文殊をいくつか取り出したのが見えた。
―――瞬間。


周囲が白い光りに包まれる――――

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