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「重ねる心。思いはここに…(第一話)」

颯耶 (2005-07-13 00:09)
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そんな事をやっているうちに、鬼門が見えてきた。

「やっとついたッスね…」

息も乱さずにそう言われてもね。
私ですら若干疲れを感じているというのに。

「おお、美神に横島では無いか。今日はどうしたのだ?」

私達の姿を見た鬼門が声をかけてくる。

「おキヌちゃん達がどうなったかと思ってね。ずっと連絡も無いし、心配になって見に来たのよ」

「そうか。あの娘達が来たのも、半年も前になるか」
「だが、左の。あの時は死ぬかと思ったのう」

鬼門がしみじみと語り出す。

「何があったんだ?」

「ふむ。我等の役目は知っておろう?」
「我等は修行に来る者の実力を試す」

「それくらい知ってるわよ。って言うか私もやったじゃない」

「そうだ。彼女達とは三対二で戦ったのだが」
「僅か五秒で負けたのは初めてだったぞ」

五秒…?
「私より早いじゃない!?」

「うむ。おキヌと言ったか?ネクロマンサーの笛で動きを止められ」
「シロという人狼に胴体を切断され」
「タマモという妖狐に焼かれたわ」

「マジかよ…」
「あんた等良く生きてるわね…」

こいつらの身体構造はどうなっているのか、一度調べてみたい気分だわ…

「まぁ、三人共中に居るんでしょ?入るわよ」

私が言うが早いか、ギギギギギと音を立てながら門が開く。

「じゃあな、鬼門」
横島君が最後に挨拶をして私達は中へ歩みを進める。



鬼門を抜け妙神山へと入ると、途端に中から大きな霊波を感じる。

「ちょっと、何よこの霊波…。こんなにも強くなっちゃったわけ?」
「これは…、ちょっと予想外ッスね…」
私が思わず零した一言に横島君が反応する。

「はぁ…。私が世界最高のGSだって言われてた頃が懐かしいわ。―――もうロートルかしらねぇ…」

「何言ってんスか。確かに単純な霊力なら俺達の方が強いかも知れないッスけど、全体的に見ればまだまだ美神さんの方が強いっしょ」

―――まさか横島君に慰められる様になるとはね。
まぁ、ここで気落ちしていても仕方が無いから、とりあえずは進むとしましょうか。

「んじゃ近い所から行ってみます?」

「そうね。この中はアンタの方が詳しいだろうから、任せるわ」

「了解ッス」

横島君の先導に従い、建物の中を歩く。
私が修行した時に比べ随分と様変わりしているのは気のせいだろうか。

って、二回壊れたわね…

小竜姫が暴れて一回目。
断末魔砲で二回目…

再建されるのも早かったけれど、随分とシンプルになった物だわ。

「ここッスね」

横島君が一つの扉の前で足を止めた。
「んじゃ開けますよ?」

そう宣言して扉をゆっくりと開けると、そこはどうやら異空間の扉だったらしく建物内の扉のクセに、広大な更地が周囲に広がっている。

そしてその中央に居るのは…

「シロと小竜姫…?」

霊波刀と神剣が交差する。
人狼の身体能力を駆使したシロの動きを最小限の動きで避け、流す小竜姫。
どうやら剣の修行の様だ。

「―――随分と強くなりましたね…」

横島君がそう呟く。
私ではそれほど変った様に見えないのだが、どうなのだろうか。

「小竜姫様は手加減はしてますけど、それほど余裕が感じられないッスね。シロは激しく攻めているのに対し、小竜姫様はどちらかと言うと静の動きで対処していますけど、このまま手加減をした状態だとそのうち崩されますね…」

そう言うが早いか、小竜姫の剣が跳ね上げられる―――

「もらったでござる!!」

シロがそれを見てトドメとばかりに霊波刀を振り上げる―――

「あ、バカ…」
私はシロの勝ちだと思ったのだが、横島君はそれを見て頭を抱えてしまった。
次の瞬間。

―――ピタリ

小竜姫の足刀がシロの首元に寸止めされる。

「う…」

「勝負有り。ですね」

小竜姫が笑顔で勝利を宣言する。

「うぅ…、また負けたでござる…」

二人は続いて今の戦闘の反省会に入った様だ。
「邪魔するのも悪いですし、次行きましょうか」
横島君の提案に私も異存無く、その場を後にした。

「でも、今のシロってどれ位強かったのかしら?」
正直な所私に剣の心得は無い。
ならば、一年間ここで修行を続けてきた横島君に聞くべきだろう。

「見た感じですけど、かなり上達しましたよ。元々小竜姫様はシロと同じで自分から攻めるタイプの剣を好みますが、今日は受けに回ってた見たいッスね。多分ですけど、全力の七割程度って所だと思います」

「へぇ…。剣技だけで言えば小竜姫の七割にも勝つなんて結構やるじゃない」

私は素直に関心するが、横島君は首を横に振った。

「小竜姫様の七割と言っても、受けに回ったとき限定ッスからね。さっきも言いましたけど元々小竜姫様は攻めが主体ですから、本来の戦い方に戻れば五割前後って所だと思いますよ」

「なるほどね…。それでも十分スゴイと思うけど?」

全力の小竜姫には及ばなくとも、その五割程度と言えば通常の除霊では十分な戦力になる。
だけど、横島君はそれに満足して居ない様に更に首を振る。

「今までに比べたら十分な戦力アップですけど、俺としてはシロには静の動きも覚えて欲しいッスね」
「―――まぁ、シロって猪突猛進だしね…」

それ以後もシロについて話しながら次の扉にたどり着く。


「ここはどんな部屋なの?」
「確か瞑想部屋―――だったと思います」

横島君は自信が無いのか、目が泳いでいる。
まあ開ければ判るでしょう。

そっと扉を開くと、中からムワっと霊気…いや、妖気が噴き出してきた。

「な、なんなのよこの妖気は…」
「タマモ…っすね…」

部屋の中央には一人タマモが座禅を組んで座っている。
僅か半年見ていなかっただけだったが、十八歳前後だった外観が今では二十二〜二十三前後に見える。

「ここまで力を取り戻してるとは思わなかったッスね…」
「さすが金毛白面九尾の妖狐って所かしら…。まさか半年でこれほどの力を取り戻すなんて思っても見なかったわ…」

私達はタマモの邪魔にならない様、その場を後にした。

「はぁ〜、まだ寒気がするわ…」
「多分あれ、千マイトは軽く越えてるんじゃ無いっすか…?」

溜息しか出ない。
彼女の生まれを考えれば当然なのだが、それでもショックは大きいわ…

「タマモの場合、最後に能力封印してもらわないと逆に危ないッスかね…」
「シロとのケンカで事務所壊されたらたまった物じゃ無いわよ…」

今の彼女ならば、狐火だけでも事務所の一つや二つ軽く燃やし尽くしてくれるでしょうね…。

「こうなると、おキヌちゃんの能力アップも侮れないッスね」
「そうね。考えてみればいくら装置があったからって、三百年も地脈を塞き止めていたんだもの、十分に霊能の才能はあったはずだし何よりも努力を惜しむ娘じゃないしね…」

そう言いながら奥へと進む。

「しかし、ここって無駄に広いわよね…」

修行に来る人間が居ないときは数人しか住んでない筈なのに、これだけ大きな建物は必要なのかと思ってしまう。

「普段使ってるのは三分の一にも満たない空間だけッスからね」

更に奥へと進み、扉の前へと立つ。

「ここはどんな部屋なの?」

私が訊くが、横島君は厳しい表情をしている。

「ここは鍛錬の間ッスね…。主に実技の…」

そう言いながらも扉を開ける。


そこに広がる光景は有る意味最も予想していなかった光景だった。

小さな子供が殺人的な速さで攻撃を放つ。
それを避け、受け流すのは巫女装束の女性。

怒涛の攻めを受け流し、時に避ける。
二人の体の何処にそんな力が秘められているのか。

小さな少女の攻撃は簡単に岩でも粉砕してしまうだろう。

それを最小限の霊波を纏った腕で受け流し、時に反撃に移ろうとする。

「合気道…かしら?」
彼女の動きを自分の中の常識に当てはめるとそれしか思いつかない。

「そうッスね…。合気道と霊的戦闘をミックスさせた。そんな感じッスね…」

「ハッ!!」

一瞬目を逸らした瞬間、そんな気合と共に少女が大きく吹っ飛ぶ。

それを受身を取って、一切の隙を見せずに立ち上がる少女。
「よくもやってくれたでちゅね!!」

「油断大敵ですよパピちゃん」

少女の抗議をさらりと受け流し、いつの間にかその口には笛が添えられていた。

「―――まずいでちゅ!」

ピィリリリリリリリ―――

少女の叫びは高く澄んだ笛の音によってかき消される。

「ネクロマンサーの笛…?でもあの娘って魔族よね?」

ネクロマンサーの笛の音は悪霊などには効果が高いが、パピリオクラスの魔族に効果があるとは思えない。

「でもおキヌちゃんが無駄な事するとは思えないですし、何かがあるんじゃないッスかね?」

その効果を見逃さない様にと、少女に注目するが、鋭く辺りを見渡すだけで特に効果が有る様には見えない。

―――ザシュ

「―――え?」

何が起きたのか。

一瞬何かの影が横切ったかと思うと、少女の肩口が小さく裂けた。

「―――くっ…まずいでちゅ…!」

何かに怯える様に、少女がその場を飛び出す。
一直線におキヌちゃんへと向かって―――

「―――っ速い!?」

先ほどまでの戦いすら遊びだったかの様に少女が爆発的に加速する―――

あの速度では流石に避けることが出来ない。
そう確信した瞬間。

ドコッ!!

と大きな音を立て、少女が再び大きく飛ばされる。

おキヌちゃんの足元には黒い大きな何かが居る―――

「今の、あれが吹っ飛ばしたの…?」

「―――あれ、式神ッスよ…」

それを聞き、改めてその黒い物体を見るとそれは黒い毛皮に覆われた狼の様に見える。
もっとも、そのサイズは狼と言うには大きすぎるが…

ピィリリリリリリ―――

一際大きく笛の音が響くと、吹っ飛び倒れている少女に向かい何かが飛んで行く―――

「ま、まいったでちゅ!!」

すかさず少女がギブアップ宣言をする。
すると、その飛んでいた何かは少女に向かって滑空していたのを旋回し、おキヌちゃんの肩にその身を降ろした。

「もう一匹居たのね…」
「鷹…ッスかね…。多分近距離〜中距離の狼と中距離〜遠距離の鷹って感じッスね…」

二匹の式神を操り、全盛期程の力は無くなったとはいえ魔族の少女――パピリオを一人で押さえ込んでしまったおキヌちゃん。

「―――まったく、どんな修行してるのよ此処は…」

おキヌちゃんはパピリオにヒーリングをしながら、今の戦闘について二人で話し合っている。

「まったく、溜息しか出ないわね…」
「そうッスね…。三人共十分に成長してるみたいですし、おキヌちゃんなんて独立しても十分やっていけるだけの力持ってるんじゃないッスかね」

言われてみれば確かにその通りだ。
シロは前衛の能力に大きく進歩が見られ、タマモは基本能力の底上げがされて、おキヌちゃんなんて、前衛、中衛、後衛を一人で出来てしまうのだから。

「まぁ、まだまだ独立は認められないけどね」
小さく肩をすくめる。
彼女達は確かに成長したけれど、まだ独立するには届かない部分が大きい。
「後は美神さんが道具の使い方とか知識面をしっかりと鍛えてあげないといけないッスね」
後輩の育成…か。
まだまだ現役のつもりだったんだけど、いつの間にかみんな成長しちゃって…

って

「何言ってんのよ。アンタだって今じゃS級GSなんだから、あの娘達の指導には協力してもらうわよ?」

そもそも、横島君が私と同じS級って時点で二重の意味で信じられないわ。

この世界に入ってきた頃の横島君を知ってる人間にとっては、霊能力の欠片も見られなかった少年が僅か四年でS級にまで駆け上がった事が信じられ無いし。
そう言えばS級に認定されたのって三年前だっけか…
と言う事は僅か二年、GS免許習得から実質一年半でS級認定された訳ね…。

うわ…そう考えると化け物だわ…。

もう一つの信じられ無いのは今の横島君がS級止まりって事ね。
私や神父もS級だけど、横島君と比べるとどうしても見劣りしてしまう。
知識面ではまだまだ負けるつもりは無いけれど、戦闘能力は文句無しの超一級だし、文殊なんて反則アイテムまで持ってる。
一人でこなした仕事の数もかなりの量だし、横島君の指揮下での除霊なんてもう数えるのも面倒なぐらいある。
しかも達成率は百パーセントに限りなく近い数字な訳だし。

ママが言ってたけれど、一時期GS協会の上層部では横島君を特S級に認定しようかとの話もあったらしい。
GS協会始まって以来の初めての話しだったけれど、本人の意思でその話しは流れてそれっきりになったみたいだけど…。

結局自分は今までの枠の中でS級以上は受け取る気は無いなんて言うからビックリだったけど。

「俺の場合は使えない除霊道具は全部文殊で代用しちゃうッスからね…。そういった意味ではやっぱり美神さんの方がしっかりと教え込む事が出来ると思うッスよ。それに…」

そこまで言って横島君がちょっと黙る。
目で先を促すと仕方なしに口を開く。

「怒らないで下さいよ?
俺の場合美神さんの仕事にずっとついて周ってたんで判ってるんスけど、力押しで倒せない敵とかも沢山居るわけじゃないッスか。それに対抗する…その、反則技とかはやっぱり本家本元の美神さんじゃなきゃ教えれないじゃないッスか」

「ふ〜ん―――横島君は私が卑怯な反則技とか邪道な技ばっかり使ってるって言うんだ?」

そんな事は言われるまでもなく判っている事だし、私はそれが必要だと思ったからそうやって今までやってきた。
そして今この場で生きていて、大きな怪我も無い。それこそ普通のGSでは手も足も出せない様な魔族を何匹も相手にしてきての事だ。
だから私は自分のスタイルに自信を持っているし、他人に卑怯と罵られようとそれが正しいと信じて歩んでいる。

でも、横島君のそんな狼狽ぶりを見ているとつい苛めたくなってしまうのは昔からのクセなのか、それとも新しい関係なのか。

「―――いや、そ、そんな事ないッスよ!実際美神さんの除霊スタイル見てそのマネすることだって多々ありますし、俺が今生きているのも半分は美神さんのお陰なんスから!」

―――もう半分はあの娘のお陰ね…。

今横島君が生きているのも、この世界があるのも…
たった一人の魔族の命によって支えられたもの…

世界を救ったのは間接的な物だったのかもしれない。
でも、あの娘が居たからアシュタロスを倒す事が出来た。
―――横島君の心と引き換えに…


だからって訳じゃないけど、ルシオラ…
私はこの時代で横島君のこと諦めてあげる。

決着は来世で、ね…?


「ふふっ、まあ許してあげるわ。それで、一応全員見て周ったけどこれからどうしよっか?」

「とりあえず邪魔するのも悪いッスから、前に俺が使ってた部屋に荷物を置いて居間にでも行きましょうか」

そう言って、扉をそっと閉めて歩いていく。



「横島さんお久しぶりなのねー」
居間へ入るとそんな気の抜けるような声が聞こえた。
「ヒャクメ、またサボリに来てたのか…?」

それに横島君が呆れた声で応える。

「ち、違うのねー。小竜姫に頼まれて霊視を教えに来たのねー」

「居間でテレビ見ながらお茶を飲んでる姿見ると、サボってる様にしか見えないわよ?」

事実、ヒャクメは煎餅片手にワイドショーを見ていた様だ。

「美神さんも久しぶりなのねー」

自分に都合の悪い事は軽く無視する辺りまったくヒャクメらしいと言えばヒャクメらしいわ。

「んで、霊視を教えているのはおキヌちゃんにか?」

以前にヒャクメの眼を借り受けていたおキヌちゃんならば、確かに霊視の才能があるかもしれないわね。
「そうなのねー。もう教え始めて一月になるけど、かなり上達したのねー」

「へぇ、ヒャクメのお墨付きなら結構な線まで行ってるんじゃない?」
「おキヌちゃんは怒らないし、教えた事直ぐに覚えてくれるから楽なのねー」

―――ヒャクメにとって重要なのは『怒られない』の一点かしら…?
――本当に神族かしらね…。

「あら、お二人とも来てらしたんですか?」

そこに背後から声を掛けられた。
「小竜姫様。相変わらずうつくし――「せんせー!」ぐふっ」

横島君が小竜姫に声を掛けようとした所に、シロがタックルを食らわせる。
―――ある意味お約束な光景ね…

「お、おいシロ…ちょっとは落ち着いてくれ…」

横島君の控えめな抗議もシロにとっては無いような物。
尻尾を千切れんばかりに振り、横島君の顔をひたすら舐めている。

―――年頃の少女が二十歳の青年を押し倒し顔を舐め回す。
普通に考えれば淫靡な光景な筈なのに、この二人がやるとご主人様に甘える犬にしか見えないのはなんでだろ…

「ホラ、馬鹿犬。ヨコシマが困ってるでしょ。さっさと離れなさい」

そこにタマモが現れ、シロを諌める。

「狼でござる!!」

そしてそのままシロがタマモに突っかかる。
―――これもまた、お約束の光景かしらねぇ…

そうなるとそろそろ…

「横島さんお久しぶりです」

おキヌちゃんが現れる。っと。

相変わらずいつもの光景だこと…

「おキヌちゃんも久しぶり。元気にしてた?」

―――なんか横島君微妙に緊張してないかしら?
おキヌちゃんに久しぶりに会って…
なんて事は横島君に限っては無いと思ってたけど。

「―――って、あんたらね。私だって来てるのよ?」

まったく。横島君にべったりなのは知ってたけど、雇い主に一人ぐらい挨拶しても良いんじゃないのかしら。

「美神さんもお久しぶりです」
おキヌちゃんが小さく笑い挨拶をしてくれる。

―――はー、この娘は良い娘だわ。後の二人なんて完全に無視してくれちゃって。

「―――覚えときなさいよ…」

「はっ!?今何か悪寒がしたでござる!?」
「同じく…」

二人してキョロキョロとあたりを見回している。
―――犬神の危機感知能力かしら?

「そういえばおキヌちゃん。パピリオは一緒じゃなかったの?」

一緒に修行していたのだから、戻ってくるのも一緒だと思ってたんだけど。

「パピちゃんはさっき怪我をさせてしまったので、今はワルキューレさんが手当てをしている筈ですよ」
「ワルキューレも来てるのか?」

一応一通り周ったと思ってたけど、ワルキューレは見てないわね。
どこかで入れ違いにでもなったかしら。

「そうよ。ワルキューレは私に射撃…といっても私の場合狐火を飛ばすのだけど…を教えてくれてるわ」
「へぇ…、って事はタマモの狐火はワルキューレの射撃並の命中率があるって事か?」

あの精密射撃を狐火で出来るようになったら洒落にならないわ…
でも精密射撃とはタマモらしくないわね。これも成長したってことかしらね。

「そうね。でもどっちかと言えば私も派手に焼き尽くす方が好きなんだけど」
―――前言撤回。
変ったのは見た目だけだわ…

「せんせー!拙者も頑張ってるでござるよ!!」
シロがタマモを押しのけ話しに加わる。
除け者にされたくないのかしらね…

「おお、さっき小竜姫様との戦いを見てたけど腕を上げたな」
横島君が褒めると直ぐに調子に乗るんだから、ある程度突き放しておけば楽なのに、ね。
まぁそれが出来ないから横島君なんだろうけど。

「見てたんですか!?それなら声を掛けてくれれば良かったのに…」
「ははっ、でも二人とも真剣だったんで、邪魔するのも悪いかなって思ったんですよ小竜姫様」

見られていた事が恥ずかしかったのか、小竜姫が赤くなって文句を言っている。
―――アンタ神様でしょうが…恥ずかしがってどうするのよ…

「でも、小竜姫様との戦いを見ただけじゃシロさんの戦力がわかりませんよ。シロさんには僕も教えてますからね」

―――驚いた。ジークまで居るなんて。
あの時の神魔族総出で鍛えてるって事かしら?

随分と豪華な修行場ね…

「でもシロちゃんの修行を見ていたって、もしかして私のも見てました…?」
「そうね、おキヌちゃんのも見てたわ。――ねぇ、あれって式神なの?」

ある意味一番気になっていた事ね。
通常式神なんて新しく作る事は出来ない。
冥子の十二神将だって代々受け継がれてきた物よね。
あの式神の最大手である六道ですら、子供に十二神将を譲った後に新たな式神を作るなんて事は出来ないんだから、新しい式神を作るなんてとんでもない事だわ。

―――まぁこのメンバーに普通を求めるなんて無駄でしょうけど…

「はい!そうなんですよ!!鷹の式神が空飛(くうひ)ちゃんで、狼の式神が狼武(ろうむ)さんです!!」

嬉しそうに語るおキヌちゃんだけど…

「式神に『ちゃん』とか『さん』って付けるのが冥子以外に居るなんてね…」
違う所で脱力してしまった。
まぁおキヌちゃんらしいんだけどね。

「でもおキヌちゃん、さっき笛を使って操ってたみたいだけど式神を扱うのにネクロマンサーの笛って必要なの?」


たしかにそうね。冥子の場合は『やっちゃえ〜』とか『お願い〜』とか『ふえ〜〜〜ん』で式神操るわよね。
―――最後のは違うかしら…


「えっと、私は冥子さんみたいに口だけだと上手く動きのイメージが出来ないんですよ…
それで小竜姫様に相談してみたらネクロマンサーの力と合わせてみたらどうかって言われてやってみたんですけど、そうしたらこの子たちと一体になった感じで動いてくれるんですよ」

「――――ネクロマンサーの中には霊を操って戦わせる事が出来るのも居るわ…。
多分だけど、それを応用してって感じかしら…?」

直接戦闘能力を持たないネクロマンサーが霊を操って自分の変わりに戦闘させるスタイルね。
少し違うけれど、いつかのネズミがそんな感じだったと記憶している。


「そうですね。でも、操るって言うよりも一緒に戦うって言う方がしっくり来るんですよ?」

それを聞いて成る程。と納得出来てしまう。
おキヌちゃんらしいわ。
多分冥子を気が合うんじゃないかしら?

―――仲良くなってもうちの事務所にはそんなに来て欲しくはないけど…

「おキヌちゃんらしいわね。あ、あと体術も比べ物にならないぐらい上手くなってたけど、あれってどうやってたの?」
「そうそう。俺も気になってたんだ。一応手加減はされてたみたいだけど、パピリオの攻撃を十分に捌けるなんてすごいと思うよ」

私ですら、あの攻撃を捌くのは苦労するだろうし、下手したら数発は被弾する可能性もある。
それを完全に捌ききったおキヌちゃんの実力はどれ位なのかしら。

「それは「わたしが説明するでちゅ!!」…だそうですよ?」
おキヌちゃんの説明に割り込んできたのはパピリオだった。

「ヨコシマ久しぶりでちゅ!」

―――こいつも横島君に懐いてるのよね…
まぁ、横島君の中には『あの娘』の…ね。

当然と言えば当然かしらね。

最も、横島君がただの人間だったとしてもこうなってるとは思うけど。

「パピリオ元気にしてたか?」

パピリオのタックルを受け止め横島君が頭を撫でる。

―――それを見て機嫌が悪くなる三人娘に小竜姫
…小竜姫?

まさか小竜姫も横島君に惚れてるのかしら?

「小竜姫の修行は厳しいでちゅけど、がんばってまちゅよ!!」

キラキラと眼を輝かせて横島君に甘えるパピリオと
ギラギラと眼を輝かせてパピリオを睨む小竜姫。

―――処置無しね…
まったく、困った物だわ。

「それでパピリオ、おキヌちゃんのを説明してくれるかしら?」

仕方なしに先を促す。
「あれ?ミカミのおばちゃんも来てたでちゅか?」

――――ピキン

「だ・れ・が・お・ば・ちゃ・ん・よ!?誰が!!」

たしかにパピリオは実年齢三歳…いや四歳だっけ?だし、見た目も幼稚園児だから、彼女から見れば十分におばちゃんかもしれないけど。

「―――次ぎに言ったら朝日を拝めないと思いなさい…」

ジロリと睨みを効かせ、周囲を圧倒しておく。
こうした日々の努力が色々な交渉には必要よね♪


「どっちにしてもミカミのおばちゃんじゃわたしは倒せないでちゅよ?」

―――ピシ

落ち着きなさい、私。
最近は切れることも無くなって温和な大人を演じ…ゲフゲフ
大人になったのに、こんな事で切れちゃいけないわ!

「パピリオ、ちゃん。人間は常に進歩し続けるものなのよ?」

そう言って私はポケットに手を突っ込んだ。
中に入っている『ナニカ』を掴む。

「イヤでちゅね、現実を見据えない人って。それとももう耄碌したでちゅか?」

―――プッチン♪

自分の中で何かが切れたのが判る。
数年前までは頻繁にあったその感覚が蘇る―――

「クソガキがいい度胸してんじゃないの!!」

そのままポケットから先ほど掴んだ『ナニカ』を引っ張り出す。
そして流れる様な動作で『ナニカ』即ち『腕輪』を付ける。

「なんでちゅか?その趣味の悪い腕輪は」

パピリオが怪訝そうにしているけど、そんな物は関係ない。

このクソガキにはお仕置きが必要なのだ。

「アンタをぶちのめす為の物よ!!」

そう宣言したらあとは早い―――

別のポケットから取り出した単文殊を腕輪にセットする―――

「美神さんなにやってんスか!?」

それを止めるのはやはり横島君。
―――でもね。

「邪魔しないで横島君!!私はこいつをぶちのめさないとダメなのよ!!」

私の怒りがこれくらいで収まるわけないじゃない!!

「パ、パピリオも悪気があって言った訳じゃ無いですし、ね?
―――パピリオも頼むから謝ってくれ!!」

必死に場を押さえようとする横島君。
まぁ、彼がここまで言うならパピリオが謝れば許してやってもいいかしら?

「むー、仕方ないでちゅね。ミカミ、おばちゃんって言った事はあやまりまちゅ」

明らかに不満な態度を見せて形だけの謝罪をするチビ魔族。――もといパピリオ。
その態度に辛うじて繋がっていた何かがまた切れてしまいそうだが、ここは大人の私が譲歩するべき所だと…
思いたくも無いけれど、辛うじて我慢する。

「全く、何を騒いでいるんだ?」

そこにワルキューレが呆れ顔で入ってくる。
そして周囲を見渡し、現状を把握しようとしているのだが、私と横島君の顔を見て
「なるほど。その二人が来たならば騒がしくなるのも当然だな」

言ってくれました。
―――私達はトラブルメーカーかっての。

―――否定できない部分はあるけどね…


「二人には悪いが、そろそろ休憩時間も終わりだ。三人とも訓練に戻るぞ」
ワルキューレの宣言に明らかに不満な顔をする三人。
余程私達に会えたのが嬉しいのだろうか。

―――かわいい所もあるじゃない。

「もっと先生とお話したいでござるよ」
「私も久しぶりだからヨコシマと少し話したいわ」
「あ、あの私も…」

…前言撤回


「折角だから私も修行の成果が見たいわね。半年でどれだけ成長したか知りたいもの」

いつまで修行を続けるかをまた聞いてないけど、さっき見た訓練だけじゃ無くて本当の実力が知りたいわ。

「ふむ…、だがどうするか?」
ワルキューレはそれを聞き考え込む。
―――そしてその解決策は簡単に見つかった。

「でしたら横島さんと戦ってはいかがですか?美神さんも横島さんの実力は良く知っていると思いますし、私達以外の人と戦うのも三人にとって勉強になると思いますよ?」

小竜姫の提案が思いの他魅力的に思える。
戦闘面だけを考えれば横島君は既に私を遥かに超えている。

そして三人は半年前までは横島君に手も足も出せなかった筈。
その戦闘結果を見れば現在の力が十分把握出来る算段ね。

「えぇ!?ちょっと待ってくださいよ!どうして俺が戦わないといけないんスか!?」

問題は横島君のやる気、か。

「後輩の成長を見てみたいって思わないの?別に殺し合いをしなさいって言うわけじゃ無いし、勝っても負けてもそれがあの娘達の財産になるのよ?」

彼女達の成長が掛かっている。
そう言えば横島君とて無碍には出来ないでしょう。

「う…それは…」
反論出来ない見たいね。
これはもう一押ししたら落ちるわ。

私は三人に目で合図を送る。

「先生は拙者に修行をつけるのが嫌でござるか!?」
「そっか。ヨコシマは私達の事なんて興味無いんだ」
「横島さん…」

ナイスよあんたら。
未だに免疫が無いのか、横島君は女の涙にはこれでもかってぐらい弱い。

「ああ、もう判ったよ!!やれば良いんでしょ!?」

そう言って横島君が双文殊をいくつか取り出す。
見るとそれには『治/癒』『蘇/生』『回/復』などの文字が浮かんでいる。

「一応渡しておきますんで、何かあったらお願いします」

それを小竜姫に渡して横島君は部屋を出て行く。
その後ろでは三人娘が小さくVサインを作っていた。

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