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「重ねる心。思いはここに…(プロローグ)(GS)」

颯耶 (2005-07-13 00:05/2005-07-13 00:17)
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――――アシュタロスが世界から消滅して三年。
一時期は収束を見せていた霊障も以前程では無いが、再発の兆しが現れていた。

横島忠夫は二十歳になり、彼女を失った愁いもいつしか影を潜めて来た。
それに伴い女性へ対する失礼な行為も徐々に収まり、落ち着いた雰囲気へと移り変わって行った。

―――皆に心配を掛けない為に昔の自分を演じ、その内側はただ虚無だった一年目。
―――二度と仲間を失わないと誓い、強さを求めた二年目。
―――美神令子の元で過ごした三年目。

その彼に、思いもしなかった事件が舞い降りる。


運命の環は今、ゆっくりとその時を刻み始めた―――



「妙神山へ行く?」
思っても居なかった発言により、思考が若干フリーズしてしまった。
それを言い出したのが、横島君ならばまだ判る。

修行の為だけでは無く、小竜姫に会いに行く。それだけでも納得はしないが理解は出来る。
だが、まさか彼女の口からその様な言葉が出るとは予想していなかった。
「本気なの?」
だから訊いてしまった。

「前から考えていたんです。いつも美神さんや横島さんに助けられて、私は役に立ってるのかを…」

その独白を聞き、私は考える。
彼女の役割は後衛。
ならば守られて当然では無いだろうか。
事実、私も横島君も彼女の事をお荷物などと思った事は一度も無い。
それどころか、その類稀な能力にはいつも助けられている。

それと同時に思うこともある。
彼女が自分から力を求めた事があっただろうか。

六道を卒業後にGS免許を取得し、今ではこの事務所に無くてはならない存在とも言える程に成長はした。
だが、それはネクロマンサーとしての能力だけを指して言えば。の事だ。
彼女が修行して強くなる事に異議は無い。

前衛の私。
前衛、中衛、後衛の全てをこなす横島君。
後衛の彼女。

それに加え犬神の二人も居る。

このチームで解決出来ない依頼など滅多に無いだろう。

だが、この世界に入ったときに覚悟を決めていた。


―――この世界、何があるか判らない。と

明日の除霊で私が死ぬ可能性も無いとは言い切れない。
無論そんなつもりは無いが。

私もいつか引退する時が来るだろう。
その前に彼女が独立するかも知れない。

今の彼女は霊的成長期の最終段階。
それ以降は大きな成長は望めない事を考えれば、修行に行かせても良いのかもしれない。

何よりも、彼女が自分で選んだ道なのだから。

「―――わかったわ。でも、行くからには強くなって帰って来てね」

結局そう決断を下した。

「あ、ありがとうございます!!」

大きく頭を下げる彼女は初めて会ったときから変った様に思えない。
その心の強さ。

そして繊細さも。

「でもね、おキヌちゃん。一応言っておくけど、私達はおキヌちゃんの事を役に立ってないなんて思って無いからね」

そう、彼女に伝えた。
この言葉にいくつもの思いを込めて。

「―――っはい!!」

それを感じ取ってくれたからか、彼女は満面の笑顔で答えてくれた。

そんな信頼が嬉しかった。


「なんで許可したの?」
夜も更け、事務所には私しか居なくなった頃にふとそんな事を尋ねられた。
書類の処理に追われ、その気配に気付かなかったがそれが誰かなど考えるまでも無く判る。

「おキヌちゃんが現状に満足しないで新しい高みを目指したからよ」

書類から目を離さずに答える。
彼女との付き合いも三年近くになる。
最初は随分と憎まれた物だが、今ではそれなりの信頼関係も生まれてきた…と思う。
今の一言で多くを察してくれるだろう。

「ふ〜ん」

彼女はそれだけ口にすると黙ってしまった。

部屋の中には、万年筆が書類の上を走る音だけが響く。
どれ位の時間が立っただろうか。
ふと彼女が口を開いた。

「ミカミ、変ったね」

「そりゃね、あれから三年も立てばイヤでも変るわよ」
そう、小さく溜息をついた。

「オバサンになったって事?」

「―――ぶっ飛ばすわよ?」


「―――冗談よ」

変った。か

そりゃ、変りもするわよ。
トップクラスのGSの自負はあったけど、色々有ったんだもの。

アシュタロスの時にはそれこそ死ぬ思いもしたわ。

でも、それ以上の事をアイツは体験してきた。
私がGSだったのに対してアイツはゼロからあんな事を体験してきた。

そして、その悲しみを見てしまったから。

アシュタロス戦が終わって数ヶ月。
バカをやってたアイツが夕日を見た瞬間に流した涙を。

アイツが修行に行ってしまった時に感じた虚無感。

戻ってきた時に感じた喜びと安心感。

―――そりゃ、いくら私でも変るわ。

その中心にはいつもアイツが居たんだから。


「ねえ、ミカミ」

「何?」

「私も付いていっていいかな?」

誰に、何処へとは言わない。
そんな事言われるまでも無く判るから。

「アンタが行くならシロも当然行きたがるわね…」

「馬鹿犬は関係ないでしょ?」

「こっちの事は暫く私と横島君に任せて、しっかりやってきなさい」

これで話しは終わり。とばかりに書類の処理に取りかかる。

先ほどまで居た気配は、小さく溜息を付くとそのまま屋根裏へと帰っていった。



「は〜早いもんッスね。おキヌちゃん達が行ってからもう半年ですか」

都内のマンションに巣食った悪霊退治の除霊を終えて事務所へ帰る途中、横島君がそんな事を口にした。

「そうね。小竜姫から連絡も無いし、どうなってる事やら…」

連絡があったのは一度きり。
彼女達が出発してから数日後に、一度だけ電話があった。

なんでも、折角だから長期に渡ってじっくり修行して行っても良いか?との事だった。

その時は深く考えずにOKしたが、まさかこれほどまで長引くとは思っていなかった。

「暫くは大きな仕事も入ってないですし、一回様子を見てきましょうか?」

横島君のその言葉に現在の仕事の予定を頭の中で確認する。

―――数百万単位の小さな仕事はいくつか入っているが、確かに大きな仕事は無い筈だ。
事前の調査書を読んだ限りでは、急いで除霊しなくてはいけない物も無い。

「私も一緒に行くわ。一応、あの娘達の保護者って事になってるしね」

彼女達が心配なのは勿論、それ以上にどれくらい強くなっているかも気になる所だ。

「判りました。とりあえず事務所に戻りましょうか。確か今夜はカオスのじーさんが来るって言ってましたよね?」

現在は夕刻。
普段は落ち着いている横島君が、ただこの時だけは悲しそうな顔をする時間帯だった。
私はそれに気付き、その上でその事には触れない。
彼の問題なのだから。

「そういえばそうだったわね…。また碌でも無い物創ったんじゃなければいいけど…」

今までの発明品を思い浮かべると、その不安は抑える事が出来ないのは、仕方ない事だと思う。

「なんか、自信満々でしたからねー」

横島君もそう言って苦笑する。

「カオスが自信満々じゃ無かった事あったっけ?」

「―――確かにそうッスね…」

そう言ってはまた苦笑する。

「それじゃ、夕食でも食べて帰ろっか。妙神山には明日行けばいいでしょ」

「―――奢りッスか?」

先ほどまでの愁いは何処へ行ったのか。
期待に満ちた表情で彼は私を見てくる。

「―――まったく。折角能力に見合った給料渡してるのに、まだ貧乏癖が抜けないわけ?」

一時期彼を経営者側に回そうと考えた時期もあった。
試験の時は冗談で言った『美神&横島除霊事務所』にする為に。

だが、彼の控えめな拒否によってその話は流れ、結局正社員として働いてもらっている。
給料は昔の二百五十円からは考えも付かないだろうが、GSという特殊な職業上基本給だけでも百万近くになっている。
それに加え、能力給に危険手当を含め彼に月々渡す金額は数百万単位となっているのだ。

更に加えれば、私が参加しなかった除霊に関してはその報酬の七割を渡している。

無論彼女達が事務所に居た頃は数人でチームを組むのが基本だったので、その七割を人数で割った金額が彼らの懐へと納まっている。

ちなみに私を含めたチームでの除霊の際は私が六割で残りの四割を人数で割った金額を渡しているのだが。

無論、私とてメリットがないのにそんな事はしない。
昔ほど金銭に執着が無くなったとは言え、収入が半減してしまうのは考え物だった。
だが、それに関しては簡単な解決方法があった。

『横島君の文殊を毎週二個事務所に収める事』

これが条件で彼らの給与体系を変更したのだ。

文殊の価値は今更言うまでも無く、値段にして十億は下らないだろう。
それが週に二個手元に来る。
それだけで毎週二十億の収入だと考えれば良い。

彼らにそういった給料を払えばその分税金は安くなり、文殊といったオカルトアイテムを金銭の取引無く手元において置けるのだから、文句は無い。

無論金銭価値がいくら高くてもおいそれと売るわけには行かない。

渡す相手によってはとんでもない事に成ってしまう可能性があるのだから。

よって私が文殊を売るのは、アシュタロス戦役に参加したGS達と六道家、オカルトGメンぐらいに限る。

当然の事ながら、その中の一人でも悪用した場合には二度と事務所外には出さない事になるだろうし、その相手を徹底的に叩く用意もある。

なによりも信頼して渡すのだから、それを裏切って欲しく無い。

「仕方ないじゃないッスか。数年前まで極普通の高校生だったんすよ?」

横島君のそんな一言で我に返る。

どうやら思考の海にダイブしてしまった様だ。

「まぁいいわ。アンタの場合高級店よりも、量を重視だし。値段もそれほど掛からないからね」

そう言って私は、更にアクセルを吹かした。



「ここも久しぶりねー」
翌日私達は予定通り妙神山へと向かっていた。
昔は苦労した山道も今ではハイキング気分に上れるのは単に能力が上がったからだろうか。

「そうッスね。でも美神さん。昨日カオスのじーさんから何受け取ったんすか?」

昨夜夕食を食べた後に横島君は家まで送っていった。
ふざけ半分で進めたお酒に飲まれ、意識を失ったのが原因だった。

「んー。なんというか役に立つのか立たないのか微妙な物よ」

そう言ってポケットの中から腕輪の様な物を取り出した。

「なんスか、これ?」

横島君はそれを繁々と見つめている。

「付けてみなさい」

私のそんな言葉に恐る恐る手を伸ばしてくる。
あれは随分疑ってるわね…

「まぁ疑うのも無理無いけど、今は動力源が入ってないから危険は無いわよ。じゃなかったら私がポケットなんかに入れとくわけ無いじゃない」

その言葉に納得したのか、横島君が左腕にそれを付ける。

「別になんとも無いッスけど、なんなんスかこれ?」

「カオス曰く、文殊を利用した革新的な兵器よ」
横島君の顔が一瞬で疑いの物になる。
「まぁ当然疑うわね。私も昨日それを聞いた時はいつ爆発するかと思ったもの」

「―――大丈夫なんスか?」

「少なくとも昨日カオスが試射した時には動いたわ」
横島君がそれを聞き、信じられない様といった顔をしている。

―――まぁカオスの発明品がまともだった事無いし、仕方ないけど。

「それで、何が微妙なんスか?」

「そこのカバー開けると穴があるでしょ?」

私が言うと横島君は素直に従い、腕輪を操作する。

「そこに文殊入れてみなさい」

「文字は込めなくてイイんスか?」
ストックされていた文殊を横島君が取り出し手に持つ。

「かまわないわ」
それを聞き、そのまま文殊を腕輪の中にセットした。

「そしたら…、そうね左手は上に向けときなさい。間違ってもこっちに向けないでね」

「はぁ…」

言われるままにその手を上空へかざす。

「で、文殊に文字を込めるのと同じ要領で『発』と念じてみなさい」

横島君の顔が真剣そのものになる。
どうやらその意味を悟ったようだ。

―――でも、あの腕輪はその斜め上を行くんだけどね…

キュイィィィィィィン

一瞬で周囲の空気が凍りついた。
そんな感覚の元に、腕輪―――正しくは核となっている文殊の元へと周囲から目に見えない何かが流れ込む―――

そして一瞬の間―――

ズバシューーーーー!!

「ぬおっ!?」

空気を切り裂く音と共に極大な霊波砲が天空へと駆ける―――

「な、なんスかこれ!?」

「絶対こっち向けないでよ!!そんなの食らったら絶対死ぬから!!!」

時間にして僅か数秒。
その光が収束し、消えて行くと横島君が半眼で私を睨みつけてくる。

「な、なによ…?」

「な、なんて事やらせるんスか!!てか、なんスか今の!!?」

まぁ、当然の反応よね…
私も昨日カオスに同じ事訊いたし…

「いい?それは、文殊を核に周囲の霊気を収束して放つ規格外な兵器なのよ。
勿論弱点もあるけど、威力は見ての通り。
その中に『共』と『鳴』の文殊がセットされていて、腕輪を通じて引き出した術者の霊力と文殊に込められている霊力。それに周囲から収束した霊力の三つの霊力を共鳴させて増大させた物を放つのよ。
カオスが言うには理論上は数万マイト級の霊波砲まで放てるそうよ」

私の説明を聞いてか、横島君が考え込む。

「つまり、あの時の『同』『期』と同じ事を腕輪内で起こしてぶっ放すって事ですか」

「そうね。更に文殊に文字を込めてセットしたなら霊波砲に志向を持たせる事も出来るわ。
例えば、『炎』と込めたなら灼熱光線でも出るのかもね。
あとは腕輪にダイヤルがついてて、それで収束と拡散を選べるわ。
一点突破か周囲を薙ぎ払うか。場合によって使い分けれるわ」

「ほ、殆ど反則じゃ無いッスか…」

私は横島君から腕輪を取り上げる。

「でも制約もあるのよ。
第一に一度放つと周囲の霊力をゴッソリ持って来ちゃうから、連続では放てないし、それ所か神父みたいに周囲から霊力を吸収しながら戦う人にとっては死活問題になる点。
第二に単文殊しかセット出来ない点。
第三に一個しか文殊がセット出来ないから、一文字しか反映出来ない点。
とかね」

今の横島君は文殊を五〜六個まで同時制御する事が出来る。
更に一年間の修行によって、霊力と魔力の制御を覚えたらしくアシュタロス戦で見せた二文字を込める事が出来る文殊も再現する事ができた。
ただ、あの時と違うのは一度使ったら消えてしまう事ぐらいだろうか。

彼はそれの名前を考え、『双文殊』・『太極文殊』・『陰陽文殊』などと考えたみたいだったが、結局今までの文殊を『単文殊』新しい物を『双文殊』と名づけた。

「でも、それがあればどんな依頼でも簡単にケリが付くんじゃないッスか?」

―――予想はしていたけど、やはり横島君ね…
これの怖さが全く判って居ない。

「そう?でもこんなのぶっ放したらその建物どころか周辺全部吹き飛ぶわよ?」

この腕輪の怖いのはそこだった。
私もカオスが持ってきた時にはそれも考えたけれど、どうやらこの腕輪リミッターが付いてないらしい。
放つときは常に全力。
そんな物をどうしろというのか。

威力だけを見れば恐らく三千〜五千マイトもあるだろう。
それに横島君には黙っていたが、周囲の霊力を収束させ枯渇させるなど問題外の兵器と言える。
ここは妙神山と言う事もあり、霊力に溢れているからそれほどでも無いが通常、霊力が枯渇した地域は周囲から霊力を集めようとする。
それも無理やりだ。
となると悪霊など悪意を持った者を思いっきり呼び込む事になる。
まして浮遊霊などはその存在を確立出来なくなってしまう可能性が高い。

「まったく、カオスも物騒なもの作ってくれたわね…」


後書き
>菅根さん、比嘉さん、ポーさん、opochanさん、葵さん
大変ありがとう御座いました。
以後この様な事が無い様注意致しますので、見捨てないで頂ければ幸いです。

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