「ちゅーわけや。引き受けてもらえんやろか」
それはいつもの事ながら唐突だった。
どのぐらい唐突かと言えば、
「はっ? なにを? どうして? つーかここどこ?? あんたら誰ーっ!?」
と聞かれた人間が言ってしまうくらい唐突だった。
「これこれサッちゃん。いくらなんでもはしょり過ぎです。ちゃんと順を追っていかなければ『人』にはわかりませんよ。」
「とと、それもそや。すまんかったな。」
「では、あらためて。Y島忠夫くん。高校卒業おめでとう。」
「は、はあ」
「若葉輝ける季節、新たな志と思いを胸に新しく世界に旅立ったあなたに祝福を送ります。思えば世に生を受け18年。道頓堀で産湯をつかり甲子園で洗礼を受け・・・」
「っておいおい、そこまで前から順追ってったら行き過ぎや・・・それにキーやん、そこ教会とちゃうぞ?」
「え? そうでしたか? あの地には比類なき『信仰心』が集中してますが。」
「そりゃまー『聖地』言う意味では、間違てへんやろけどなぁ。」
「いや、ちょっとおっさんら(汗)」
「「はい?」」
「いったい本題はなんなんや!!」
ぽん!
「おおそうでした。そうですね、この際単刀直入にいいましょう。」
「最初からそーせい!」
「ではY島忠夫くん。わしら神・魔界の最高指導者から、あんたに『依頼』する。」
「へ? さ、さいこ・・・?」
「はい、実はあなたに・・・・・・・・・・・・」
そして、それがY島家の始まりとなりました。
~Y島さんちのできるまで~
画像投稿掲示板:Y島さんちの24時シリーズ(今命名)より
前編
「・・・・・・・・・広!」
門をくぐると、そこはとてつもなく広い庭でした。
「・・・・・・・・・でかっ!!」
そしてその奥には、和式の建築をベースに和洋中見事に折り合った『御殿』と呼んでも間違ってない様な立派な家。
おそるおそる彼が玄関まで近寄るとそこには達筆で書かれた『Y島』の文字がありました。
『どうですか?』
彼の頭の中に声が響きます。
「いや、どーですかといわれても・・・。よくこんな土地と家、東京郊外にあったもんだなぁ。」
『いいえ、ここはもうすでに「東京」ではないですよ。』
その返事に、少年は「ああ」と頷きました。
「つまりここから始まるってことか。」
『そう言う事ですね。ここを中心に少しづつ育っていく事になります。』
「つまりここが『種』って事か・・・で、俺はここでいつもの様に生きてけばいいと。」
『・・・はい。そうの通りです。しかし・・・」
「わかってる。聞いた上で承知した事だからな。はは、俺にゃ一生かかっても買えそうの無い家が土地付きでもらえた上、それを楽しむ人生も上乗せしてもらえたんだ。ありがたいくらいさ。」
そう言って笑う少年に、『声』の主も少し苦笑したようでした。
「しっかし、ほんとにでかい家だよな~。一人で住むにゃ過ぎてるよなー。そーだ、どうせなら下宿とかやってみるか。・・・いや、それよりも『女子寮』というのも捨てがたい気も・・・」
何気にいつもの調子に戻る少年を、今度は『声』の主がたしなめます。
『それは考えるに及びませんよ。』
「え?」
きょとんとする少年に、『声』はいたずらっぽく答えました。
『そろそろ来る頃ですから・・・この家を満たしてくれる人たちが。』
駅から出て来た4人の少女がいました。
彼女らは、初めて降りた駅なのに迷う事無く歩を進めていきます。
地図も必要ありません。
その場所はあの日の夢で、ハッキリと頭の中に焼き付いています。
「ふーん、けっこういい感じの所ね。」
「そうでござるなぁ。なんかすごく落ち着けるでござる♪」
「ふ、ふたりとも、おちついてるのね。」
夜空が流れ落ちる様な黒髪を持つ少女が、並んで歩く銀と朱の髪と黄金の髪の二人の少女の、なんとものんきな会話に割って入りました。
その横を歩く赤茶色の髪の少女も、同意する様に二人を見ます。
見ればこの二人と二人、片や紅潮する頬がそれぞれの愛らしい顔立ちの上で映えてるのに対し、片や普段からこーであるといった自然な表情です。
「だってこーしてここにいるんだから、もう覚悟は決めたんでしょ?」
「そうでござる、だったらもう後はするべき事も決まってる訳でござるし、むしろサバサバしたもんでござるよ。」
「で、でも、これからする事って、その、あの・・・」
「『輿入れ』でござろう?」
ズボムッ!
その言葉を聞いて一瞬で全身赤熱化させる少女二人。
「なによ、まだ理解してなかったの? あたしたちは、これから『女になりに』い・く・の。大好きなアイツのね。」
「タ、タマモちゃん! そーゆうーことをこんなところで!」
「もう、言わしたくなかったら自覚しなさいってば。それにもっと気をしっかり持ってないと、向こうに着いた時きついわよ?」
「え・・・?」
金髪の少女、タマモは軽く息をつくと言いました。
「たぶん私たち以外にも来てる女はいるわよ、きっとね。少なくとも『結婚したからオンリーワン♪』なんて一般常識にあぐらかいて安心してる様じゃ、やってけない筈なんだから・・・それとも今から帰る? おキヌちゃん? 小鳩?」
しかし、二人は真っ赤っかな顔のままブンブンとキッパリ首を振る。
「だったら堂々といきましょ。」
「そうでござるよ。それに夫婦が『夫婦』と言う約束の形にだけすがって安心してる様では、いずれにしろ幸せにはなれんモノでござる!」
と、自信満々にのたまうシロに、小鳩がちょっと首を傾げます。
「あれ?・・・シロちゃん、それもしかして深夜の連続ラジオドラマの・・・?」
「あ、『みちお…生きる』の中で言ってた・・・。」
「あうっ!?」
シロは密かにマイブームだったドラマをズバリ名指しされて、思わず絶句。
「ふーん、何夜中にこそこそしてるかと思ったら・・・どーせ主人公カップルをアイツと自分置き換えて聞いてたんでしょ?」
「「「はうっ!」」」
ポン!
「・・・ってなに? おキヌちゃんと小鳩も?」
自分のセリフにシロと一緒に赤くなる二人に、やれやれ、と言った感じで肩をすくめるタマモ。
しかし、師匠に似たのか切羽詰まると妙な所で頭が回るシロが、焦りながらも突っ込みます。
「じゃ、じゃあタマモこそ、なんであのドラマの主人公が先生と似てるの知ってるでござるか!」
ギクッ!
「・・・そういえば、あのドラマお昼に再放送もしてましたよね。」
「・・・タマモちゃん、タイマー付きのCDラジカセ買ってたよね。CDが作れるやつ・・・」
「べ、べつにアタシはただあの番組ファンなだけで、別にアイツを重ねてなんか・・・」
「ふふふ、語るに落ちたでござるな? 今! ここに先生の元に輿入れに来てる女が、あれほど似てる主人公に先生を見ない訳が無いでござろう!! ましてやそれを理解していく“ひろいん”に自分を重ねて見ぬなど、在ってはならぬ所行!」
「うぐぅ!」
ここぞとばかりたたみ込むシロと、ウンウンと頷くおキヌと小鳩。
何か言い返そうと口をぱくぱくするものの・・・結局はタマモ、轟沈です。
「な、なによ! そっそーよ、そーだわよ! 私もアンタたちと同じ穴の狢だわよ! ・・・狐だけど。」
「ふん。まったく最初から素直に認めればいいんでござる・・・ん?」
ざわざわ・・・
ひそひそひそ・・・
「あ、あら?」
「い、いつの間に人が?」
なんだかんだ言っても4人が4人とも舞い上がっていたのでしょう。
そろいも揃って美女予備軍な女の子が、人通りの多い駅前で『女になる』とか『輿入れ』がどーのとか、口走ってれば、誰でも怪しく思います。
どこぞの閉鎖型宗教団体の儀式にでも行く途中かと思われても当然かも・・・あ、向こうから水色の制服も爽やかな公務員さんが足早に近づいて来てます。
「ちょ、い、急ぐ(意訳:逃げる)わよ!」
「「「はい(でござる)っ!!」」」(意訳:「「「がってんしょうちっ!!」」」)
背後から高らかな笛の音が響いて来た気もしますが、少女たちは超・足早に(全力疾走とも言う)その場から去って行きました。
「きちゃったのね~♪」
「キチャイマシタネ」
「すごいのね~。こんな広い空間割り込ませてるのに、全然不自然になってないのね。」
「ソウデスネ。スゴイデスネ。」
「さすが神魔人界共同の一大企画な事はあるのね~」
「アリマス、アリマスネ」
「・・・・・じゃ、小竜姫。帰るのね~」
「ハイ、カエリマショ・・・えっ?」
羽を広げた鳥の様な髪型の女性に誘導され、半分振り向きかけた竜神の少女はそこでようやく我に返りました。
「じゃ、気をつけて帰るのね~。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいヒャクメ! わ、私は帰るわけには」
「いかないわけでしょ? だったら覚悟決めるのね♪」
ヒャクメのお気楽なその言葉に、竜の少女はガックリと膝から崩れ落ちました。
「あ・・・あああ・・・なぜ・・・・・なぜわたしがこんな事を・・・・・」
「・・・そこまで落胆しなくてもいいと思うのね。」
「だって! だってですよ!? あのY島さんと、一緒に同じ屋根の下でに暮らせと言うんですよ!? しっ、しかも」
「しかも?」
「っ・・・て、あ・・・・・だめです! わたしの口からそんな事言えません!!」
「できれば子供作れって言われた事?」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
バッタリ
「・・・他人の口からでもダメなのね~?」
「うっ、うっ、うううううううううううううう」
地べたに顔を突っ込んだ少女の目のあたりの土が、じわわ~っと濡れた色に染まって行きます。
「もう、そこまで気にする事ないのね? 基本的に小竜姫は神界側の立会人で来たわけで、子供はあくまで二次的なものなのね~。」
「あっ・・・あなたは~~~~!!」
あくまでお気楽な彼女の言葉を少女は腹に据えかね、怒り満面に跳ね起きました。
「・・・・・ぷっ」
「何がおかしいんです! そりゃヒャクメ! あなたはただの記録係しか言われてないからいいでしょう。でもこの使命は直接『あの方達』から言葉をいただいたのですよ!? それをわずかでも蔑ろにできると思ってるんですか!?」
叫ぶ様に激しい怒りの言葉をヒャクメに向ける、目の周りが泥だらけで泥パンダ状態の小竜姫。
その迫力も大激減です。
しかしヒャクメは笑いを押さえ込みつつ、お堅い友人に同じ調子で声をかけます。
「だ~か~ら~、それが考え過ぎだって言うのね~。
あの方達もほんとに『その気になったらでいい』ってつもりで言っていたのね。
わざわざ私にそれが判る様にしてくれてまで言ってたんだから間違いないのね~。」
「え・・・? ぐす・・・ぐし・・・それ、本当、ですか?」
こぼれる涙を拭いながら、ヒャクメに聞き返す小竜姫。
まわりの泥ごとこすり倒してるから、更にエラい事になって行きます。
「~~~~~~くっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほんっ、とっ、なの、ねく、くくく、
ぷははははははははははははははははははははははははははははははは」
「なにがおかしいんですかー!」
「・・・なにをやってるんだ? おまえたち・・・・・・!? ぷっ!」
そこに現れたのは、黒の衣装でその身を固め、大きなトランクを携えた妙齢の女性。
しかし、小竜姫を見た途端にアッチの方向を向いてしまいます。
「ワっ、ワルキューレ!? あなたも?」
「む・・・く・・・そ、そうだ。魔界、が,が,がわ,(チラッ)・・・・・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ(ダンダンダンダン!)」
「だから何を地べた叩いてまで笑ってるんですかー!!?」
ごしごしごし
「あ~、やっと落ち着けたのね~。」
「久々に腹が痛くなった・・・」
「・・・ほんとに、もっと早く教えてください。」
「いや、小竜姫落ち着かせるのが優先と思ったのね。別に他意はないのね~。」
「それ以前に自分で気づくべきだろ。」
まだ目に涙浮かべてる二人をむくれて睨む小竜姫に、深呼吸し終えたワルキューレが尋ねました。
「しかし、こんなとこで何をやっている? 立会人として来たのなら、あの家に行かねばならんのだろう。」
そう言って緩やかな坂の上に見える立派な門に目をやります。
「だ、だって、ワルキューレ!」
「?」
「あー、ねえワルキューレももしかして上の方から言われたんじゃない?」
「うん?・・・・・ああ、アイツの子供を産めと言う事か? 確かに聞いた。」
「! ワルキューレ! あ、あなたそれで何とも思わないんですか!?」
「ん・・・私は別にいいと思ってる。」
「ええっ!?」
「へ~」
意外にもワルキューレは子を宿すという事に、躊躇いは無い・・・と答えます。
「もし、アイツと私に子が生まれるなら、どんな子になるか楽しみにも思える。」
もともと魔族の女性の場合、どんな子が産めるかと言う事が性行為の意味の半分以上を占めてます。
もちろん小竜姫の様に、精神的に求めあえる相手と・・・というのも同じ意味に通じていますが、ワルキューレの清濁ひっくるめた感覚の方が遥かにシンプルです。
「なんだ小竜姫。おまえそんな事で躊躇してたのか?」
「そんな事って! 少なくとも私には大事なんです!」
「別に強制はされてないのにね~」
「なんだ、なら問題は無いだろう。」
「大ありです! もし襲いかかられたら、私は抵抗しては「いけない」んですよ!?」
それを聞いて「は?」と眉をひそめるワルキューレ。そしてヒャクメは大きくため息をつきます。
「は~、やっぱり拡大解釈して自分しばりつけてるのね~。」
「どう言う事だ?」
「上の方が言った言葉だから、たとえどんな言葉でも、『私心は捨てて、己が出来る事である限り一言も余さず実行しなきゃだめなのー』って気負い込んじゃってるわけなのね。」
「・・・・・バカか?」
「性格なのね。」
・・・・・・・
「「はぁ~~~~~~」」
二人は盛大なため息をつくと、座り込んでべそをかいてる小竜姫の元に歩み寄ります。
ガシッ!
グイッ!
「ふえ? ふ、二人とも何を?」
いきなり両腕を二人に拘束された小竜姫は、二人を交互に見ながら尋ねます。
「このままでは」
「いつまでたってもらちがあかないのね~。」
「だから「強制連行!!」」
ズルズルズルズルズルズルズル
「いっ、いやですー! まだ心の準備がー!!」
「出てくる時に決めた筈なのね!」
「だめ! だめなんですーー!! いたいのはいやーーーー!!」
「あーわかったわかった。恐かったら私も一緒にいてやるから。」
「あーーーーっだめーーーーーーっ いーーーーやーーーーーーーっ!!」
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル
そして坂の上へと引きずられていく竜神の少女の姿は、ちょうどそこにやって来た4人の少女たちには
「予防注射に行くのをいやがる駄々っ子」
以外の何者にも見えなかったそうな。
どっとはらえ
「お、おキヌちゃん!? 小鳩ちゃんにシロ、タマモ!? そ、それに小竜姫様にワルキューレ!!?」
「わたしもいるのね~」
お約束もきっちりこなしつつ、目の前にずらりと並んだ女の子たちをボーゼンと見るY島くん。
「ちょ、ちょ、こ、これいったい?」
『先ほど言ったでしょう? この家にあなたと共に住んでくれる人たちです。』
「す、住む!? 俺と? 一つ屋根の下で? ・・・・・・って・・・・・・・・・・・・・マジ!?」
『はい、本気と書いて「マジ」ですが。どうしました?』
「・・・・・・の」
『の?』
「のっぴょぴょーーーーーーーーん!!」
「あ、壊れた。」
「せ、せんせー、気を確かに持つでござる!」
「うっ、うそやー! これは夢やー! そんな都合のいい事が現実にあるわけが無いーーー! きっと今俺は布団の中でぬくぬくしとるんや、そうに決まっとるんやー!!?」
『・・・・・この「家」は平気で受け入れておいて、事が女の子になると何故にそこまで疑心暗鬼になりますかね、あなたは。』
いろいろあったのです。(主に親父)
「はーはーはー・・・、そ、それに、この家に住むって・・・ああ、そうか、ここで下宿するってこと・・・」
「違います。」
遠巻きに心の防衛線を引こうとするY島くんに、そうキッパリと言ったのはおキヌちゃんです。
「私たち聞いたんです。これからここで何をしようとしてるのか。」
「そしてその時聞かれたんです。『この時、この時代の流れから少し外れて生きていく彼と、共に生きていってくれる気はないか』・・・って。」
「だから拙者たちは来たでござる!」
「どうせなら、アンタと一緒に生きる家族になろうってね♪」
「え゛?」
「もー、まだわかんない? よーするに・・・女で、他人のあたしたちが! アンタと家族になるっていったら、方法はひとつでしょ!」
「・・・・・・へ?」
「わっ、私たちは、あなたの元に、お、お嫁入りに来たんです!!」(プシューーーー)
タマモの説明にもまだピンと来ない彼に、ハッキリと伝えたのは沸騰寸前の顔の小鳩ちゃん。
「よっ、嫁ーーー!?」
目をひんむいて腰を抜かすY島くんに、頬を染めながらもこくりと頷く四つの頭(こうべ)。
ついでに涙目でイヤイヤしてるのは赤毛の頭(こうべ)。
「い、いや、嫁ったって、みんな? けけけど、に、日本ではじゅーこんは犯罪で」
『だからここは日本じゃないとさっき言ったでしょ?』
「そーゆー事も込みなんか!?」
『込みです。ちゃんと話もついてます。あ、だからって出入りにパスポートとかは必要ありませんからね。』
「そ、そうなのか。いや、そ、それにしたって・・・」
困惑するY島くんに、『声』は諭す様に語りかけます。
『彼女たちは、あなたが私たちの依頼を受けてくれた後、事情を説明して決心して来てくれた人です。後はあなたが受け入れるだけですよ。』
「い、いいのか? 俺のとこなんかに。それにまだ高校出たばっかでろくに収入らしいもんだってないし・・・いや、それ以前に俺と一緒に生きるってのはいろんな意味で世間から脱線するって事で・・・」
「承知してるでござる。だから、先生だけ脱線させたくないからここに来たでござる!」
「今更よ、そんな事。世間から脱線してるのなんて『美神のとこだって一緒』じゃない。
そりゃたしかにびんぼーってのはアタシの趣味じゃないけど、このまんまでいる気もないんでしょ?」
「それにお金がなくたって、こんな立派な雨風が凌げるお家があるんです。食べていくくらいなんともありません! なんとかしてみせます!」
「私もみんなも、あなたの側が大事って決めて、ここに来たんです。みんなでがんばっていきましょう! ね?」
今住んでる世界に逆らっても、自分がいる『世界』を選ぶと言うその言葉。
こっそりと心の隅で独りを覚悟していたY島くんの胸を灼きました。そして感激の涙が止まらなくなりました。
「あ、ありがと・・・ほんとにありがとう・・・・・」
その側にそっと寄り添いあう4人。
その様子を見て『やはり声をかけておいてよかった』と『声』の人は思います。
そして
『・・・とりあえず食べる物なら、裏の方にある山に入れば水も食料も某か手に入りますよ。家に引きこもらない限り飢えで倒れる事は無いでしょう。』
と、説明されますが、肩寄せ合って泣いてるY島くんを慰めてるみんなには聞こえてませんね。
でも、後に日本の大ハーレムと呼ばれるY島さんちの出発は、その豪華な住居に全然そぐわぬ、
とっても貧ソーなものになりそうでした。
しばらくして、どうにか落ち着けたらしいY島くんが、今度は小竜姫さまたち3人に目をやります。
「え、えーと、で、そちらはどーしてここに?」
「私と小竜姫は今回の計画の神界・魔界、それぞれの立ち会い人になった。」
「わたしは記録係なの。よろしくなのね♪」
『そう言う事なので3人もあなた達と一緒にここに住みます。よろしく頼みますよ。』
「ええっ?」
『声』の言葉に目を丸くするY島くん。
チャキッ!
すると次の瞬間、その首筋で神刀がぎらりと光ってました。
握ってるのは言わずと知れた小竜姫さま。
「は? あ、あにょ、しょうりうきしゃま??」
「いいですか? 私たちは『飽くまでも』それぞれの代表者としてここに来てるのです。不埒な事を考えたらその場で仏罰がくだりますよ! わ・か・り・ま・し・た・ね?」
すれすれの刃に触れない様、小さくコクコクと頷くY島くん。
そこにコホンと咳払いをして割り込んだのはワルキューレです。
「混乱を避ける為に先に言っておこう。私はおまえに抱かれる事にはためらいはない。」
「「「「え!?」」」」
驚きの声を上げるおキヌたちに、ワルキューレは微笑み返します。
「つまり、お前たちと同じ立場としてもここへ来たという事だ。よろしく頼む。」
「わたしは今のとこは中立なのね~。でもその気になったらよろしくね♪」
ワルキューレに続き、ヒャクメも何気にOK宣言。
ヒャクメにまでああ言われては、神様の威厳まで使って拒否してみせた自分がなんとなく村八分気分になる小竜姫さまです。
『さて、今返事をもらえてる人はこれで全員です。』
そう『声』が言いました。
「え? 今って?」
『事が事ですからね。すぐに返事をもらなかった人もいるんですよ。そう言う人は後日ここにやってくると思いますから、その時はあなたの判断で受け入れてくださいね。この世界はあなた共にあるのですから。』
「へ、あ、は、はあ・・・」
まだ実感がわかないので、あやふやな返事しか返せないY島くん。
その時です。
『ちょーーっと待った! 一人追加や!』
「「「「「えっ!?」」」」」
パシーーンッ!
あらたな『声』と共に、突然Y島くんの直前で空間が大きく開き、金の輝きが溢れ出しました。
「な、なんだ!?」
「この光、霊光(オーラ)? こんな強い!?」
すると、その光の中から人影が浮かび上がり、Y島くんに向かってドサリと倒れ込みました。
「おわ!?」
「先生! 何事でござる!?」
「すっごい霊光・・・いったいだれ?」
やがて、その輝きが吸い込まれる様に消えて人の形がハッキリ現れました。
「え?」
「おお!?」
「あれ?」
「ええ?」
きれいな白い肌、流れる様な明るい亜麻色の髪、豊満な乳房もあらわにY島くんの腕に眠る女性。
それは彼らの良く知る女性でした。
そして、
この場所に来るかどうかが、最も不確実だった女性でもありました。
「「「「「「「「みっ、美神(さん)(殿)(令子)!!!?」」」」」」」」
続く
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