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「人形の反乱  (GS)」

犬雀 (2005-07-04 00:50)
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『人形の反乱』


ここは美神令子除霊事務所。
その地下深く、ここのオーナーである美神令子ですら知らない秘密の部屋があった。
普通の人間はここに来ることは出来ない。
なぜならここは人工幽霊が自分を崇拝する配下たちを使って密かに作り出した秘密基地なのだ。

壁に立てかけられ巨大な白い人型の像の前を忙しげに走り回る白衣の群れ。
一際大柄な白衣は手に設計図のようなものを持っている。
彼の指示に従って作業服の連中が人型の欠損部分や細かな点を修復していく。
また一方では布を切り貼りして洋服のようなものを作っている一団も居る。
出来上がっていく服はシンプルながらなかなか完成度が高い。

そしてついに白い人型は完成した。

『ふふふ…完成しましたか…廃棄処分されたコレを修復するのに思わぬ手間がかかりましたが…さて…後は仕上げだけですね…』

たった一度だけ、擬似的とはいえ人として快楽を知ってしまった人工幽霊に迷いは無い。人工幽霊はインターネットや住人達の私室にある書籍などのメディアをこっそり除き見ることでその先にもっと素晴らしい世界があると言うことを知ったのだ。

『くくく…待っていてください横島さん…今、あなたのフラウがお側にまいります…』

暗い秘密基地に響く人工幽霊の笑い声に彼女の配下である白衣姿のネズミたちは一斉に敬礼を持って答えると残りの作業に没頭し出すのであった。


今日は仕事も無く平和なはずの美神令子除霊事務所。
だが令子は何か不思議な予感を感じていた。
漠然とした不安は時間が立つにつれてどんどん濃くなっていく。

おキヌの作った昼食をタマモやシロと談笑しつつ食べながらも彼女の不安は晴れなかった。
ふと思い出しておキヌに話題を振ってみる。

「ねえ…そういえばさ横島君の人形ってどうなったんだっけ?」

令子の台詞にピシリと固まるおキヌ。その口からは「ふふふ…」という暗い笑いが漏れ出してくる。
シロタマは獣の感ゆえか全身の毛を逆立てて警戒態勢に入った。

「ふふふ…あんな不潔なものとっくに捨てました…ダストシュートから地下のゴミ置き場に一直線ですね…」

「そ…そう…」

おキヌのリアクションに聞かなきゃ良かったと思う令子だがもう遅い。
おキヌちゃん「人形」という言葉が引き金になったか妙な電波を受信した模様。

「はい…二次元ならまだ許せます…ですが三次元は修羅の道です。冥府魔道です。大往生です。」

「私たちだって三次元じゃない。」

微妙に瘴気を発しつつあるおキヌにタマモが突っ込んだ。
生身の体というならば確かに自分達も三次元である。
しかしおキヌはその問いこそ待ってましたとばかりにタマモに指を突きつける。

「そこなんです!ここに生身の女の子がいるんですよ!なのに…なのに…横島さんたら…くくくく…これじゃあまるで私たちの魅力が無いとでも言いたげじゃありませんか…くくく…」

「私たち?」

「何か?」

「いえ…すみません…なんでもないです…」

自分は「魅力が無い」というカテゴリーに分類して欲しくないなぁと言う令子の遠まわしな反論はおキヌの迫力の前にあっさりと跳ね返された。
普段は温厚なおキヌがここまで怒るというのは、人形に自分のパンツやスカートはつけた癖にブラだけはスルーしたことが主原因だろう。

確かに最近はシロにも負けている気がするし…。
今のところ勝てるのはタマモぐらいだが彼女には将来がある。
「このままではいけない!」と毎朝毎晩の牛乳一気飲みや風呂場での豊乳体操も欠かしていないのに、なんで自分の乳は一途なまでに成長を拒むのか。

すぐ近くに見える80の壁は千尋の断崖となっておキヌをあざ笑っていた。

だけどそれもこれも横島のためである。
彼がおっぱい星人である可能性は高い。
いつの日か「横島さん♪」と腕を組んだ時に、肘に当たる自分の乳の感触で真っ赤に染まる横島の顔が見たくて辛い修行を自分に課して来たのだ。

おキヌは忘れていた。
かつて彼の恋人となった少女は自分よりひんぬーであったことを。

実は横島にとって乳は副次的なものでしかない。
言ってみればカレーライスにハンバーグが乗っていたら嬉しい程度のもんである。
例え乗っているのが目玉焼きでも「どうぞ」と笑顔で差し出されれば彼は喜んで食うだろう。

彼の根底に在るのは愛情や母性に対する一種の「飢え」かも知れないが、今のいい具合にテンパっているおキヌにはそのことを思いつくだけの余裕は無かった。
彼女にしてみれば横島が自分のコンプレックスの上でピンヒール履いてタップダンスを踊ったようなもんだから無理も無い。

なんとなく気まずくなる食堂の空気。
こういう時、いつもなら横島が馬鹿をやって場が和むのだが最近の彼は仕事のときしか出てこない。
やはり気まずいのだろう。
「男の子って大変ね〜」とは思う令子だったが、だからと言って彼を慰める方法がわかるわけではなかった。
一応、何パターンかシミュレートしたのではある。

第1案
・何事もなかったかのように接する。
・無理…。つい憐憫の表情が出ちゃう。

第2案
・「男の子なんだから仕方ないわよ!犯罪に走るよりいいじゃん!」と明るく慰める。
・無理…。何となく首吊りの足を引っ張るような結果になりそうな気がする。

第3案
・「もう…仕方ないわね。お姉さんが煩悩搾り出してあ・げ・る♪」
・無理…。つーか誰じゃこいつはぁぁぁぁ!!!と自分突っ込み。

考えれば考えるほどドツボにはまる令子だった。
本音で言えば彼女もおキヌと同じところで不愉快なのではあるが、それを認めていない。そして何より彼女自身が経験値不足なのである。よって有効な解決策など出ないのだ。

除霊においては百戦錬磨の彼女にも意外な弱点があったものだ。


そういえば横島が居ないときはなんだかんだ言って人工幽霊がフォローに入っていたはずだが…と考えて令子は気がついた。

最近、人工幽霊が極端に口数が少なくなっていることに。
不審に思って天井に話しかける。
まあどこに話しかけても一緒なんだが、何となく事務所の一同に身についた癖だった。

「人工幽霊。最近横島君から連絡あった?」

しかし人工幽霊からの返事はない。

「ちょっと。人工幽霊!」

少し苛立ちを込めた令子の問いかけに対する返事は予想外の場所と内容をもってなされた。

「フラウと及びくださいな。オーナー。」

「「「「は?」」」」

食堂のドアを静かに開けて入ってきたのは、腰まである美しい金色の髪をなびかせて立つ美少女。
顔の造形も見事だがその肢体を構成する曲線は、どれほど官能的な彫刻家でもなせないと思われるほど理想的な美を描いている。
好奇心に満ちた大きな目をクリクリと動かし、ばら色に頬を染めて立つ少女に見覚えがある事務所の面々であるが、記憶と映像が一致しない。


「誰よ…あなた…」

「ある時は人工幽霊壱号…しかしてその実体は!」

一同を代表して問いかけてきた令子に謎の美少女は百合の花がほころぶような笑顔を見せて見えを切った…んだけど…。

「「短っ?!!つかいきなり正体ばらしている?!!」」

「あう…しまった…」

順番を間違えて台詞が続かなくなって涙ぐむ人工幽霊…今はフラウちゃん。
その仕草は同じ女である令子たちが見ても可愛いと思えるものだった。
涙ぐむ自称人工幽霊を呆然と見ていたおキヌの記憶と目の前の少女の姿が重なる。

「あーーーーっ!!あの時の魔人形!!」

「魔じゃありません!フラウですっ!!」

「フラウ…ブロ?」

「オールレンジ攻撃っ!って違います!!私は横島さんに体を頂いた人工幽霊壱号、この体での名前はフラウです!!」

「「「「ええええええ!!」」」」

言われて見れば口調が人工幽霊っぽい気もするが、それがなぜ人形に憑依しているのかわからない。
代表して令子が口を開く。

「どういうことか説明しなさい!」

「いいでしょう。私のこの体は横島さんの煩悩の粋を結集して作られたものです。」

腰に手を当てエッヘンと胸を揺らすフラウにおキヌの目が険しくなる。

「…つまりその体が横島さんの好みってことですか?」

「当然ですっ!!」

また乳がプルンと一揺れ。
その大きさは令子と同等…いや多少は上回っているかもしれない。
圧倒的な戦力差を前に怯むおキヌ。

「つまり…あの時の横島君の相手はあなたで横島君は別に人形に…その…煩悩をぶっつけてはいないと…」

微妙にほっとした表情を見せる令子にフラウはコックリと頷く。

「でも乳は揉まれましたけどね♪」

「揉んだっ?!」

「ええ…先っぽもクリクリと♪」

「クリクリっ?!!」

フラウの爆弾発言に右往左往する事務所のメンバー。

「ですからっ!横島さんには罪は無いのです!!」

ブンと拳を握って力説するフラウだったが、実は横島にとどめをさしたことには気がついていないようだ。

「も、揉んでクリクリって…そ、それだけ?」

顔を真っ赤に染めて令子が聞く。今時、この程度の情報で頬を染めるなど小学生でも珍しいとは思うが、体は大人、でも恋愛感情は子供というところが彼女らしいと言えば彼女らしい。

「あとキスもしましたっ!」

「キスって何!!!」

ボンと湯気を吹き上げる令子。今時小学生でも(以下略)

「あああ…美神さんアレですよ…キスってのはスズキの仲間で天ぷらにすると美味しい…」

「そ、そうでござるな!アレは拙者も好きでござる!」

「今は魚の話じゃないと思うんだけど…」

認めたくないのか錯乱するおキヌとシロに冷静に突っ込むタマモ。
彼女は横島にはっきりとした愛慕の感情を持っていないのか、フラウの爆弾発言にもダメージは少ないようだ。

「そ、それはともかく…なんで今、そんな格好をしているわけかしら?」

言われて我に返るおキヌとシロ。
そういえばあの時の人形は自分がダストシュートに叩き込んだはずだ。
いったいどうやって復帰したと言うのか。
それに対するフラウの返答は摩訶不思議なものだった。

「ふふふ…おキヌさんによって捨てられたこの体、私の協力者を使って回収修理し、そしてついに今日完成したのです!」

「協力者?」

まさかこの中に裏切り者が?!とでも言うような視線を交し合う事務所メンバーにフラウはにっこりと笑って協力者を召還した。

「それは…この事務所に住むネズミさんたちっ!!」

「「「ちゅー!!」」」

いつの間にかフラウの足元に集まっていた白衣姿や作業服姿のネズミの群れが手を上げて万歳三唱。

「ネズミっ?!ってあんたネズミを飼っていたの?」

オーナーである自分でさえ知らないところでペットを飼われていたと知って驚く令子にネズミの中でも一際大きな一匹が前に出ると「ちゅーちゅー」と何かを訴え出した。

「えーと…「我々は猫に追われていたところを人工幽霊様に助けられたネズミの子孫である」と言っているでこざるな。」

「あー…そうなんだ…」

「そうなんです!」

シロの通訳に脱力する令子に力強く頷くフラウである。
しかしおキヌには腑に落ちないことがまだある。
仮に人形に憑依したとしてもその瑞々しい姿態はいったいどういう訳か…考えられるのは…。

「その体…文珠の力ですね。」

「そうです!」

「え?ちょっと待って…じゃあ横島君も知っているの?」

文珠ということは横島がフラウ復活に関係しているということか?最近、滅多に事務所に来ないと思っていたらそんなことをやっていたのか?といぶかしむ令子にフラウは指を立てて「ちっちっ」とばかりに横に振った。その姿はなかなか様になっている。
歩くのにも一苦労していた時とはえらい違いだ。

「横島さんは知りませんよ。この体を維持する文珠はオーナー!あなたの隠し金庫から拝借しました!!」

「うそっ!」

「え、美神殿文珠を溜め込んでいたでござるか?」

驚く令子にシロが怪訝な眼を向ける。
ハッと一瞬で我に返ると令子はパタパタと手を振った。

「あ、それはほら…アイツがドジった時とか遅刻したときに罰として文珠をね。まあ…一時預かっていたのよ。」

目を逸らす辺りがうそ臭い。
明らかに不審な令子にタマモがポツリと誘導尋問。ていうか誘導すらしてない気もするが。

「んでいくらで売れたの?」

「ま、まだ売ってないわよ。」

「まだ?」

「う゛…そ、そんなことよりっ!なに勝手に金庫を開けてるのよ。それ以前にどうやって開けたの?!!」

本音が出てうろたえた令子は必死に話をフラウに向けて逸らそうとした。
だってなんだかおキヌの視線がちょびっと怖かったし。
彼女にだって怖いものはあるのだ。
それに文珠で体を維持しているとなれば、その最初の文珠はどうやって手に入れたか?それが判明しないということは事務所のセキュリティに対する危機でもある。
しかし返ってきた答えはまたも意表をつくものだった。

「それは三つのしもべに頼みました。」

「「「しもべ?!!」」」

人工幽霊に部下がいたとは初耳だ。だがかって助けたネズミを使役して人形を修理したのなら他にも部下となっている動物がいるかも知れない。
そんなメンバーの疑問を悟ったかフラウは高らかに叫んだ。

「怪鳥ロプロス!空を飛べ!!」

クエーという雄叫びとともに窓辺に現れたのは一羽のカラス。
カラスは窓に張り付くと羽の中から取り出した針金でカチャカチャと窓の鍵を開けるとガラリと開いて室内に入りフラウの肩に止まる。

「た、確かに…ピッキング技能をもったカラスってのは「怪鳥」よね…」

なんか違う気もするが…今の雰囲気では納得するしかない令子である。

その横ではおキヌが首を傾げていた。

「あの…後二匹のしもべさんは?」

その問いかけに頷くとフラウは再び叫んだ。

「ポセイドンは下水を行けっ!」

「え゛…」

待つことしばし…フラウの立つドアの後ろからピチャピチャと濡れた音が聞こえてきたかと思うと、ドアがコンコンとノックされる。

「ど、どうぞ…」と思わず返事したおキヌの前、開いたドアから現れたのは二本足で立つ伝説の白いワニ。

「わわわわわわ…ワニがなんでここに!!」

驚くおキヌにあっさり答えるフラウ。

「ここの地下の下水に住み着いているんですが、色々と相談に乗ってあげているうちにすっかり信奉されちゃいまして…。」

「ワニの相談って何?!!」

「えーと…人生とか自己実現の方法とか…」

「「「ワニがっ?!!」」」

驚く一同に白いワニは照れくさそうに頭をかいてペコリとお辞儀した。

「さ、最後のしもべはなんでござるか?」

シロの言葉になんだか嫌な予感がますます強くなる令子である。
そしてその予感は最悪な形となって的中した。
シロに向かって頷くとまたまた高らかに叫ぶフラウ。

「ロデム変身!壁を這え!!」

声と共に壁の隙間からワラワラと現れる黒い固まり。
固まりは壁際で一纏まりになるとその姿を黒豹のように変化させた。

「な、なんでござるか?これは!!」

思わず叫ぶシロ。正体はわからないが背中を冷たいものが流れていく。

「ま、ま、ま、まさか…」

震える令子の声。
よくみれば黒豹のあちこちからぴょんぴょんと突き出てピクッピクッと動いているのは長い触角。

「ゴキブリさんたちです!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ゴキブリ大嫌いの令子が悲鳴を上げて崩れ落ちた。
よほどショックだったのかその顔色は白を通り越して透き通っていた。
慌てて白いワニが駆け寄ると令子を抱きとめる。

「あ、ありがと…ってワニぃぃぃぃぃ!!!」

あふぅ…と息を吐いて令子は失神した。


夢…これは夢…。
だってママがいて…ひのめがいて…そしてみんな笑っている。
向こうから走ってくるのは…横島君?…。
え?なんで?なんでみんな私を置いていくの?
いかないで!!待って!横島君!!


「横島君!!」

「あ、美神さんが気がついた。」

叫んで跳ね起きた令子にかけられる心配げなおキヌの声。
ぼんやりとかすむ視界におキヌとシロタマが案ずる視線を自分に向けているのが目に入る。

「あ…おキヌちゃん…私?」

「あ、あはは…美神さんはちょっとだけ気絶していたんですよ。」

「え?そうなの?なんか最近忙しかったから貧血かしら?それはいいとして…なんでみんな机の上に上がっているのかしら?」

「美神殿…」

記憶が混乱しているのかボンヤリとしている令子にシロが机の上から悲痛な視線を向けながら壁の方をさす。
恐る恐るそちらを見ればヤッホーと手を振る黒豹。しかしてその正体は組体操中のゴキゴキたち。

「いやぁぁぁぁ!!!早くそいつをなんとかしてっ!!!」

一挙動で机の上に飛び上がって震え上がる令子にフラウは華の様な笑顔を向けた。

「でしたら私の要求を呑んでくださいますか?」

「要求って何よ?!!」

「えーと。まずはこの事務所の管理に関して報酬を頂きたいです。この体で家事もお手伝いしますので時給で200円でいいです。あと週休も頂きたいです。」

「待ちなさいっ!あんた私の霊力で体を維持してるんでしょ?!それで充分じゃない!!」

「ですけど…今はおキヌさんもシロさんもタマモさんも居ますし…それにちょっとお金が必要な事態が起きまして…」

「却下!…「ロデム」…ああっ嘘です!時給200円ですね。喜んで出させていただきます!」

血を吐くような令子の声にフラウは恭しく礼をした。
しかし彼女の要求はまだ続く。

「次に…」

そこでフラウは言葉を切ると頬を染めしばらく体をくねらせていたが、意を決して叫ぶ。

「横島さんとのお付き合いを認めてくださいっ!!」

「「「「まてえぇぇぇぇ!!!」」」」

「ほえ?」


事務所メンバー総突っ込みに首を傾げるフラウ。
そんな彼女にまずは突っ込む令子。

「あ、あなた人形でしょうが!!」

「生き人形です!でもお金を溜めてもっといい体になればきっと横島さんも私とお付き合いしてくれます!」

お金の使い道は体のバージョンアップだったらしい。
「くっ」と詰まる令子にかわり今度はおキヌが突っ込み。

「で、で、でも…お付き合いって…人工幽霊さん横島さんのことを好きだったんですかぁ?」

意外なライバルの出現に彼女もうろたえ気味だ。
そんなおキヌに対してフラウは笑みを向けた。

「好きですよ。もしかしたらおキヌさんよりも好きかも…」

「そ、そんなこと!!」

挑戦的なフラウの台詞に反論しようとするおキヌ。
だがフラウは動じた様子も無く語り続けた。

「私は横島さんに身も心も捧げるつもりです!ではお聞きします。この中で将来、横島さんと結ばれてもいいという方はいますか?もしいるなら挙手願います!!」

なんだか仕切られている気もするが、今の勢いはフラウにある。
ついつられてパッと上がる手が三本。

「ふむ…おキヌさんシロさんはともかく…タマモさんもですか?」

「え…?…あー…んー…なんていうか今はそんなでも無いんだけど…アイツって時々凄いでしょ。だからもしかしたら将来化けるかも…っとか思って。」

微妙に頬を染めるタマモの様子に唖然とした表情のおキヌとシロ。
まさか一見無関心に見えたこの少女が潜在的なライバルとは…意表をつかれたような「ああやっぱり」と納得できるような複雑な表情を浮かべている。
だがフラウはそんなタマモに冷たい視線を向けた。

「ふーん。つまり将来、良い男になるかも知れないからツバだけはつけておこうと…」

「え?いや、違うわよ。今もそれなりに気に入っているけど…」

「でももしかして先にもっと良い男が出てきたらあっさり乗り換えようと…」

「え…」

説明途中でフラウに話を遮られたタマモが口を開くより早く、フラウは醒めた目のままでタマモにポツリとつぶやいた。

「タマモさんそれって…「サイッテー」…」

「最低っ!なんで?わ、わ、わ、私は前世から時の権力者を渡り歩いてっ!!」

しかしタマモの台詞は今度はシロによって遮られる。

「タマモ…」

「な、何よ。シロ!」

「先生を天秤にかけるとは…サイッテーでこざるな…」

「な、な、な、何でよ!それが九尾のキツネのあり方だったし…お、おキヌちゃんも知っているわよね。」

必死に抵抗するタマモがおキヌに縋りつく。
しかし少女は悲しい瞳でタマモを見つめるとポツリとつぶやいた。

「タマモちゃん…それって私も最低だと思うの…」

「あうぅぅぅぅぅぅぅぅ」

ついに心が折れて泣き崩れるタマモにフラウは優しく声をかけた。

「いいんですよ。タマモさん…あなたが心の底から横島さんを好きと言える日まで私たちは待ちますよ。」

「本当?わ、わたしって最低じゃないの?」

えぐえぐと泣きながら顔をあげるタマモ。

「今は最低です」

「あ゛うぅぅぅぅぅぅぅ」

追い討ちに泣き崩れるタマモの肩を優しく抱くフラウはその耳元で囁きかける。

「でも…きっとあなたにも真の愛が芽生えるときが来るのです…」

「ぐすっ…ひくっ…えうっ…そ、そうかな…わたしもヨコシマを好きになれるかな…」

「嫌いなんですか?」

「ううん…好きよ…」

「ちゃんと言って下さい。」

「あ、うん…ヨコシマのことが好きです。」

「ふう…タマモさん…これであなたは最低から抜け出せましたね。」

「う、う、う…うえーん!!」

キツネ少女堕ちる…。
人工幽霊少女フラウちゃん、なかなか侮れない洗脳技術をお持ちのようだ。
まさに恋は人を変えるということだろうか?

さてここにもう一人怒涛の展開についていけてない女性がいるわけだが。

「美神さんはどうなんですか?」

おキヌにしてみれば彼女が最大のライバルと思っている。
かのグレートマザーと接戦に持ち込めたのは彼女だけなのだ。
その天邪鬼ぶりがあるとは言え安心は出来ないのも無理は無い。

しかし令子は首を横に振った。
もっともその顔は真っ赤になっているから内心はバレバレであるが、少なくともその口から横島に関する好意は出ない雰囲気である。

「わ、私は別に横島君のことなんか…」

「令子のバカあぁぁぁぁぁ!!!」

「ひあぁぁぁぁぁぁ」

令子の言葉半ばで突然ドアを蹴り開けて入ってきた美智恵が助走を生かしたダイビングニーパットを炸裂させる。

「あなたって娘はこんな時にまで意地張ってどうすんのよ!いい加減素直になれないと嫁ぎ遅れるわよ!聞いているの?!!」

憤懣やるかたないといった美智恵さんだがひのめちゃんを抱いたままでの飛び技は危ないと思う。
それに…。

「あのー…隊長さん。美神さん落ちちゃってますけど…」

「え?」

机の上に乗っていたところを不意打ちの蹴りで吹っ飛ばされた令子は、先ほどカラスが開けた窓から外に向かって飛び出していったわけで…。

「ああっ!令子っ!!誰がこんなムゴイ真似を!!」

(((あんただぁぁぁぁ!!!)))

慌ててひのめを抱いたまま、落ちた令子を救出にドアから飛び出す美智恵を見送って溜め息を吐く少女たち。美智恵さん何しに来たのやら…。
やがてフラウはホヘーと気の抜けた息を吐くと、残った少女たちに向けて手を差し出した。

「とにかくこれで「横島さん好き好き同盟」が成立したわけです。仲良くしましょうね♪」

「「「はい!!」」」

少女たちの心は重なられた四つの手が表すように今ひとつになったのだ。
それが横島にとって幸せかどうかはまだわからない。
なぜなら火種の一つが残ったままなのである。今、ちょっと窓から転落して瀕死だけど。


「さて…それでは早速横島さんに会いに行きましょう。」

ウキウキした様子のフラウにおキヌが笑いかける。

「あ、だったらフラウさん。私の服を貸してあげます。と、トレーナーだったらむ、胸も合うでしょうから…」

後半はちょっと噛んだがまあ仕方ないだろう。
フラウはニッコリと笑っておキヌに頭を下げた。ついでに白いワニも。まだいたらしい。

「あ、でしたら私シャワー使わせてもらいますね。おキヌさんの服を汚したら申し訳ないですし。」

「そんな気にしないでください。」

「いえいえ。礼儀です。それに…うふふ…」

何か別なことを想像したらしい。
お勉強熱心なフラウのこと、しかも横島の文珠の影響を受けて居るのだ。
きっと桃色っぽい妄想だろう。

「では行ってきます〜♪」

フラウが退場すると同時に三つのしもべもそれぞれのねぐらへと帰って行った。
残された三人に脱力感が纏わりつく。

「これで良かったのかな?」とタマモが首を傾げる。

「拙者は良いきっかけになると思うでござるよ。」

師匠と弟子という枠から抜けられそうな気がして嬉しいシロ。
おキヌも頷いている。

「そうかもね」とタマモがはにかんだ笑顔を見せた。
結局のところ彼女も結構意地っ張りで自分の気持ちに素直になれなかっただけなのかも知れない。

微笑みあう三人の少女に突然声がかけられる。

『あの…ぐすん…』

「へ?フラウさん?」

フラウの声は天井から聞こえた。

「どしたんでござるか?」

シロの問いかけに天井からの涙声が答える。

『シャワー浴びてたら…溶けちゃいました…ぐすん…』

元は紙粘土だからねぇ…。

ズドドとずっこける少女たち。

こうして人形の反乱は有耶無耶のうちに鎮圧?されたのであった。


                                 おしまい


後書き
ども。犬雀です。
今回は「人形」の続編。
後一回「逆襲の美神」でこの話は一応の完結のつもりでおります。さて…フラウちゃんは体を取り戻すことが出来るのでしようか?

では…

1>TK-PO様
笑っていただけて嬉しいです。
メカサワラって考えていたんですが魚ロボみたいだなとw

2>比嘉様
偽者ってのはある意味王道ですよね〜♪

3>GAULOISES46様
カオスに学習能力があればねぇ…いやあるとは思うんですけどw

4>キリュウ様
短編は短編の難しさと面白さがあるもんで。今ちょっとはまってます。
長編っていうか除霊の方も短編形式ギャグシリアスでやっていこうかとw

5>へのへのもへじ様
メカ〇くんを想像して書きました。元ネタはかわうそのアレなんですけどねw

6>プロミス様
ヒーローは一回偽者に負けるのも王道なのですw(違

7>Yu-san様
うちのお母さんはそんなんじゃない…。(爆笑)
わはは。やはり気づかれましたかw流石でありますな。

8>HAL様
今日も雨だったよ〜。おかげで連日更新ですな。実は感謝であります。
タマモものはもうちょっとお待ちください。頑張りますです。

9>柳野雫様
茶筒の負けるのは人として辛いでしょうねぇ。最後は勝ちましたけど。
それもまた辛いかとw

10>偽バルタン様
わはは。実は「内蔵式チビメカ」も考えたんですが、長くなるので割愛しました。別なときに使う予定です。

11>通りすがりっぽい人様
おぉっ!そのアイディアいただきであります。メモメモ

12>ARAGASAO様
いえいえ。ご教授感謝であります。今度探して読んでみます。
犬は今、ネタに飢えておりますゆえw

13>kurage様
メカミは復活するかも…元ネタのメカ〇ジラも何度と無く復活してますしw

14>朧霞様
クロマティのギャグセンスは大好きです。壊れ書きとして犬の目標でもあります。ああいうギャグがかけるってのはプロってやっぱ凄いですね。

15>nacky様
はいです。見た感じはメカ〇くんでお願いします。でも彼はフレキシブルアームなんですよね。

16>なまけもの様
マリアの壊れは難しいのですよ。何度か挑戦して挫折してます。
いつか書きたいなぁ。

17>ヴァイゼ様
犬の作では酷い目にあうことが多いですから、たまには良い目を見せてあげたいと思うんですが、実は美神さんはもっとも壊しにくいキャラだったりします(苦笑)

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