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「世界はそこにあるか  第17話 (GS)」

仁成 (2005-07-03 16:14/2005-07-03 16:47)
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香港の薄暗い地下


勘九郎と雪之丞が向かい合っている。

いいところを取られたようで、美神は気に入らなかったが、彼の気持ちも分からないでもないので、「楽出来るし、いっか」程度の思いで、何も言わず、すぐに目の前の敵をどうやって早く倒すか、ということに意識を集中し始める。

「冥子は自分の身を守りながら、できれば援護して。
ピートと鬼道は状況に合わせて、自分で判断しながら各個に撃破っ! 分かった!?」

美神が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

作戦とも言えないものだったが、一応冥子以外のものの実力はある程度認めているので、今の状況ではこんなものだろう。

「分かったわ〜〜〜」

「了解や!」

「いきます!」

三者三様に答えを返す。


ゾンビ軍団と勘九郎対GSの戦いは始まろうとしていた。


美神は神通棍と破魔札を使い、ゾンビに攻撃を仕掛けていく。

メドーサによって作り上げられたゾンビは、動きが素早く、耐久も高いが、それでも一体づつ確実に弱らせていく。


美神は焦っていた。


もちろん針が向こうに渡ってしまったということもある。

だがそれ以上に、彼女の霊感は、そのこととは違う良くないことが起こるという感覚を、強烈に訴えかけていた。


――横島だ。


彼の身に何かが起こるという予感。

彼には小竜姫が一緒についている以上、よほどのことが起こらない限り、大丈夫であることは分かっている。

だがそう考えても、どうにも拭いきれない。

ならばこんなところで、不毛な戦いをしている場合でない。

こんな敵はさっさと蹴散らして早く進まなければならない。


なぜなら――彼は彼女の丁稚で、彼女は彼の上司なのだから。


アンチラという剣を持ち、インダラに乗った夜叉丸がさながら戦国武将のように、ゾンビたちの周りを駆け抜けていく。

さすが秀才と言うべきか、冥子の式神をうまく使いこなし、美神以上の数のゾンビを相手に奮戦していた。

インダラに乗る必要はあまりないのだが、一つでも多くの式神を彼が引き受けたほうが冥子が安定するのでそうしていた。


事実、冥子は暴走することもなく、アジラの火炎で美神と鬼道を援護しつつ、ビカラで自分の身を守り戦っている。


今までにはなかった安定感だ。


これには美神も驚いていたが、急いでいる今、そのことについて特に何も言うことなく、嬉しい誤算ということで流している。

鬼道がアンチラとインダラを受け持っていることで霊力が安定しているということもあるが、自分の半身とも言うべき、十二神将を受け入れてもらっているという精神的な安定が大きい。


もっとも鬼道はもちろんのこと、冥子自身もそのことに気付いてはいなかったが。


世界はそこにあるか  第17話

――君の手がまだ触れない――


他の者がゾンビと戦っている中、雪之丞は勘九郎と対峙していた。

「あんたが一人で私の相手をするつもり?
私の魔装術はあなたよりはるかに完成しているわ!
それと……、私たちを裏切った以上、覚悟は出来てるんでしょうね?」

勘九郎の言葉に雪之丞は威圧感を感じる。

敵になって初めて放たれるものであった。

「俺もテメーとは一度戦ってみたくてな……。
いくぞっ!」

雪之丞も魔装術を発動させる。

「はッ!!」

次の瞬間、大きな爆発音がし、霊波砲が相打ちとなり、倒れている二人がいる。

だがダメージは雪之丞の方がはるかに高い。

「前のあんたより、はるかにマシになったようね……。
もう少しあんたと遊んでいたいけど、後がつかえててねッ!」

そう言って、すぐさま雪之丞に剣を振り下ろそうする。

「ぐわっ!!?」

だがそれは振り下ろされることなく、彼の側面から放たれた霊波砲に吹っ飛ばされた。

ピートだ。

「なっ……!」

突然のことに雪之丞は驚いた顔を見せる。

ピートは雪之丞に対してあまりいい感情を抱いていなかったからである。

雪之丞が元々敵陣営で、GS試験のときも反則――彼がやったわけではないが――で敗れている。

今回巻き込まれ、唐巣が石になったのも雪之丞のせいだと言えなくもない。

「何してるっ! 早くここを突破するぞ!」

その言葉に雪之丞もすぐに戦闘態勢を取る。

ピートの思いと、今何が最優先なのかを再確認する。

ここの早期突破。

そして二対一だろうがなんだろうが、勘九郎を倒さないことには彼がこちらの言葉に耳を貸さないこともだ。

「おっしゃ! いくぜっ!
足引っ張るんじゃねえぞ!」

「そっちこそっ!」

二人は並んで、勘九郎に戦いを仕掛けるのであった。。


みんなかなり疲れていた。

特にピート、雪之丞、勘九郎はひどく、三人とも肩で息をしている。

「もうやめろ! 勘九郎!」

雪之丞が叫ぶ。

五人を相手に勘九郎はかなり疲弊し、ゾンビ軍団もほとんど残っていない。

「ここはもう大丈夫ね、私たちは先に行くわよ!」

雪之丞とピートを残し、三人は先に進もうとする。

「ぐっ……! 行かせないわ!」

勘九郎も阻止しようとするが、それが出来るだけの体力は残っていない。

それを尻目に、美神たちはメドーサがいるであろう、奥に向かって走っていくのだった。

三人は進んだのを見て、雪之丞は勘九郎と改めて向き合う。

「これ以上やったら、お前に残ってる最後の理性までなくなっちまうぞ!
メドーサのためにそこまでしてやる義理はないだろ!
魂まで化け物になってまで強くなっても意味はねえ!!」

「その通りだ。魔物になることが即強さにつながるなんて、そんなものは幻想でしかないぞ。僕にはよく分かってる」

バンパイア・ハーフであるピートも、雪之丞の言葉に追従する。

確かに勘九郎は風水師を何人も殺しているが、唐巣の弟子であるピートは、彼が心から懺悔することを望んでいた。

「そんなこと……! 私は強さのためにすべてを捨てたのよ!」

そう言って、勘九郎は雪之丞に霊波砲を放つ。

雪之丞はその攻撃を受け止めながら、彼のその反応に顔をゆがめた。

「お前がこれ以上向かってくるなら……、魔物になるって言うなら、俺らはここでお前を殺すしかねえ! だったらメドーサぐらい捨てることができるはずだろ!」

「ぐっ……、それは……!」

雪之丞の言い分に勘九郎は言葉に詰まる。

彼の言うことももっともだからだ。

死んでしまったら強さも何もない。

勘九郎の性質から考えて、メドーサに惚れているということも100パーセントないだろう。

勘九郎のその様子を見て、もう少しだと思った彼はさらに畳み掛ける。

「手段を選ばず、力を求めるってことは、さらに大きな力に潰されるってことなんだぞ。つまりお前も遅かれ早かれああなるってことだ。
本当にそれでいいのか!?」

雪之丞は一点を指差すと、そこには無様に横たわる陰念がいた。

それを見た勘九郎からさっきまでの闘気が一瞬で消えうせる。

「私の負けよ……」

そう言って膝をつく。

「あっさりッ!!?」

ピートは思わず叫んでしまったが、倒れている陰念を改めて見て、確かにああなるのは嫌だよな、と思い直すのだった。


タマモ、横島それに心眼のあまりにふざけた様子に、メドーサの怒りが爆発する。

針を屈辱的な方法で奪われた上に、ドロンジョ様まで登場すれば当然だろう。

「ふざけるなぁぁぁッ!!!」

メドーサが超加速を発動させ、タマモと横島を、まさしく一瞬のうちに殺そうとする。

だがすぐさま超加速にはいった小竜姫に防がれた。

「横島さんが戦うな、と言うならこの場は堪えましょう。
ですが超加速を使うなら、そのときは私が相手です!」

「小竜姫ぃ!!」

メドーサはGS試験で、超加速を見せてしまった自分を呪う。

横島は、戦わないで、と言っておきながら助けられている自分に不甲斐なさを感じるが、彼が見たくないのは戦う姿そのものではなく、自分を殺しながらも笑っている彼女なので、すぐに気持ちを切り替える。

「第一封印<八卦>―――解」

横島の霊力が80マイトから、1000マイトほどに膨れ上がる。

「ふんっ。それがあんたの切り札ってわけか。
確かに、人間にしちゃあ上出来みたいだけど、身の程をわきまえないクズからまず最初に殺してやるよっ!」

メドーサの霊力はおよそ2500マイト。
単純な力比べなら、勝てることはない。

「こちらこそ、霊力の差が戦力の決定的差でないことを、教えてやるっ!」

横島が気合を入れ、そう言い放つ。

『まあまあだが、もう少し捻ったほうがよいかもな……』

心眼がボソッとダメ出しする。

まあ、誰も分からないネタを出してもしょうがないし、この場にぴったりではあるので、この程度でいいだろう。


まずメドーサが小手調べと言わんばかりに、刺叉で攻撃を仕掛け、それに横島は栄光の手を霊波刀にして応戦する。

横島はメドーサの鋭い攻撃を、何とかいなしていく。
伊達に小竜姫の修業を受けていない。

「なかなかやるじゃないか! これはどうだい!!」

そう言って繰り出されるメドーサの刺叉を、体を半身にしてかわし、栄光の手で掴む。

「おらッ!」

それを掴んだまま、メドーサを引き寄せると、顔面に左ハイを食らわせようとする。

横島がこの薄暗い地下で相手の攻撃を読めているのは、もちろん修業の賜物であるわけだが、心眼の役割も実は大きい。

心眼が正確に視たものがタイムラグなく、横島に伝わり、彼の能力以上に攻撃に対して素早い反応が出来ているのだ。

当然だが、彼は“ただの”お笑い要員ではない。

「ぐっ……!」

だが次の瞬間聞こえてきたのは、横島のうめき声だった。

彼の蹴りがヒットするより前に、メドーサの蹴りが腹に突き刺さり、数メートル吹き飛ばされてしまったのだ。

強かった。
間違いなく強かった。

後手に回ることを恐れた横島は、すぐさま霊波刀を作り、こちらから仕掛ける。

「はあッ!」

武器を扱う技量はほぼ互角。

横島は小竜姫から教わった正統的の剣術をベースにしながら、彼らしい変則性をおりまぜながら攻撃していく。

だが霊力差からか、メドーサと彼では攻撃の圧力、力強さがまるで違う。

「そら! そら! そら!」

いつの間にか攻撃はほとんどメドーサに移っており、横島は防御一辺倒になっている。

「くっ……!」

このままではやられる、そう思ったとき、横島の霊波刀はメドーサの強い一撃に耐え切れず、後ろに弾き飛ばされてしまう。

「死ねっ!!!」

正面ががら空きになり、メドーサは横島に止めを刺そうとする。

だが次の刹那、横島の瞳が強く輝く。

右手が後ろに引かれる力を利用し、メドーサの止めの一撃をかわすと同時に、左の手で決死のカウンターを繰り出す。

決まった、と考えていたメドーサにとっては最悪に予想外の攻撃。

メドーサの未来図とは逆に、崩れ落ちたのは彼女のほうだった。

「はぁ…はぁ……。切り札は…先に出すな」

『出すならさらに奥の手を持て、か……』

「最高の言葉だろ?」

『…だな……』


横島の左手には―――『虚皇』が握られていた。


最高指導者二人から貰った、最高クラスの刀。

切り札として考えていたわけではない。

だが結果として、1000マイトの霊力を彼の切り札と考えていた彼女に、そしてあの場からの反撃は不可能と考えてしまった彼女に、最高の切り札として働いたのは事実。

生と死の狭間の一瞬の閃き。


そして横島にとっての、
真の切り札にして真骨頂―――文珠は、まだ見せてはいなかった。


メドーサが倒れたのを見て、小竜姫はほっと胸をなでおろす。

横島も心配していた小竜姫を安心させるため、うしろを振り向き、彼女に自分の無事な顔を見せようとする。

だがうしろを向いた途端、彼は自分の腹部に熱を感じた。

「えっ……」

ゆっくりと視線を下に持っていく。


彼の腹から刺叉が生えていた。


その光景に横島は、まさしく驚愕する。

彼の攻撃は甘いものではなかった。
そして『虚皇』も甘いものではない。

もう僅かに動くことしかできないはずだった。

憎悪、執念、怨念、そんな呪いの込められた一撃に、傷口からじわじわと体に痺れが広がっていき、その場に膝をつく。

それを見た小竜姫は一瞬頭が真っ白になり、次の瞬間、頭の中で何かが弾け、メドーサに向かって剣を抜いていた。

「うわあああぁぁぁぁ!!!」

それを見て、メドーサを挟んで反対側にいたタマモも動く。

小竜姫の剣が届くより前に、預かっていた文珠に『転移』の文字を込め、もうほとんど意識のないメドーサをどこかに飛ばす。

彼女とて魂まで焼き尽くしてやりたい気持ちが爆発しそうだったが、ここは文珠で横島の治療をするのが先だ。

それに以前、横島がメドーサをここでは殺さない、そう言っていたから殺さない。
それだけ。

その場が横島、タマモ、小竜姫の三人になると、すぐに『治』を使い、彼の傷を治しにかかる。

だがなかなか治らない。

血が――流れ続ける。

まさしく、呪いとも言うべき一撃だった。

「戦わないで、なんて言いながらこれか……。
ザマァないっすよね……」

「喋らないでください!」

そう言いながら、横になっている横島の手をぎゅっとにぎる。

傷自体はほとんど治ってきているが、文珠で治療した以上、彼女達にこれ以上できることはない。


小竜姫は怖かった。

また守れなかった自分。

彼を喪失してしまうんじゃないか、という恐怖。

そしてそのことと同じくらい、いずれ、自分が役立たずどころか、彼にとって邪魔になってしまうんじゃないか、いや、もうそうなのかもしれない。

それが――どうしようもないほど怖かった。


「俺は大丈夫っすよ……。
だから…そんな顔しないでください。
小竜姫さまはずっと、俺の手をこうやってにぎっててください」

彼女の心を見透かしたようにそう言うと、彼はにぎられた手に力を込め、さらにぎゅっと彼女の手をにぎる。

本当に――彼には適わない。
彼女はそう思う。

彼の言葉に乗せられた想いは、心底ありがたかった。

彼の顔を見ると向けられる笑顔。

そしてにぎり返してくれた手は――どこまでも暖かかった。


原始風水盤のところまで、美神たちが辿り着く。

そこには完全に破壊された風水盤があり、三人が何事もない様に佇んでいる。

「ちょっと、もう終わったの!?」

「うす。全部小竜姫さまとタマモがやってくれましたよ。
いやー、楽やったなー」

美神の言葉に横島が答える。

普段通りの彼。

血だらけの服とズボンは文珠で隠している。

だが彼女はすぐに異変に気付いた。

彼の霊力が一般人より少し上程度にしか、感じられなかったからだ。

横島の言葉に、二人の顔に少し変化が出たのも見逃さなかった。

何かがあったのかは分かるが、それが何かは分からない。

それを認識して、美神はぐっと拳をにぎると、奥歯を強く噛みしめた。


あとがき
「のろいぞ! ブチャラティ!」

ずっと寝込んでいたため、こんなに遅く(のろく)なってしまいました。
申し訳ないです。
そのかわり、少し加筆したわけなんですが、正直質が上がったのか劣化したのか分かりません。

それはそうと、今回からサブタイトルがつきます。
ある意味これが伏線の伏線かw
ちなみに今回はある小説のタイトルを捻ってます。

次回は前に言っていた学校です。

今回も読んでいただきありがとうございます。


>皇 翠輝さん
単なるやられ役にならないように気をつけてはいるんですけど。
横島を殺させるわけにもいかんしw


>高足蟹さん
最近作者も、心眼、タマモ、小竜姫さまが主人公かと思い始めてます。
やばいです。


>桜葉さん
お久しぶりです。(ぺこっ)
最近完結なさった大作を呼んで、ひしひしとそれを感じてます。


>nonoshiさん
次回はタイガーがおしおき三輪車で……


>ヴァイゼさん
確かにいちゃついてる……。
シリアスだけど。


>柳野雫さん
式神組は活躍させるのが難しい……w
まあ今回は横島復権ということで。


>なまけものさん
>これがはたから見ていた小竜姫の感想にしか思えない
小竜姫は心眼の親みたいなもんですからね。
この成長をどう思ってるんでしょうw


>響さん
今回で割と小竜姫さまを書いたわけですが、彼女はこれからどうなるんでしょう。


>casaさん
相手が勝ち誇ったとき、すでにそいつは敗北している。ですね。
このネタはまた使えるな(メモメモ)


では。

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