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「世界はそこにあるか  第16話 (GS)」

仁成 (2005-06-23 19:00/2005-06-23 20:14)
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人は生きている間に何度か、人生というものを考える。


それは自分の人生ということだったり、

漠然とした抽象的な人生、つまり、人はどこから来て、どこに行くのかといった、若干ありきたりなテーマについてだったりする。


だが生きていて一度も考えたことがないというのは少数だろう。


よっぽどのノー天気か、かなりの楽天家だけだ。


人は様々なときに、人生を考えることに遭遇する。


中学、高校、大学、の卒業を間近に控えたとき。

親しいものが亡くなったとき。

自らの価値観が壊れるような出来事に見舞われたとき。

自分の思惑と大きく外れることが起こったとき。

戦争や大きな災害を見た、もしくは体験したとき。


もちろん、青春という時期に、青臭く、思いをめぐらせることもある。


横島は今、自分の過去の行動、そして人生というものを考えていた。


侵入した彼らは二つのものと対峙している。


一つは、

三つの頭を持つ地獄の番犬
「ケルベロス」の像。


もう一つは、

チビで顔に傷のある男


――陰念だった……。


世界はそこにあるか  第16話


「あ? 小さな人が現れたり消えたりしてる。ハハッ、小さい……、陰念かな? いや違う、違うな……。陰念はもっと、バァーッて動くもんな。
おーい、ここから出してくださいよぉー! ねぇー……」

なんだか虚ろな目で、ワケの分からないことを言っている。

『落ち着け! あれはどう見ても陰念だ』

「……大丈夫。なんとか精神崩壊には至ってない……」

久しぶりのような気がする、心眼の普通のツッコミに、横島も正気に返る。

陰念ごときのせいで、心を連れて行かれるわけにはいかない。


薄暗い地下で、横島は人生について考えていた。

考え無しに魔装術を使う前に倒したわけでも、前回と合わせるために、ちょっとひどく、魔物になるまで勝負を長引かせたわけでもない。

特に親しいわけでも、美人のねーちゃんでもない陰念のために、“わざわざ”小細工をして、更正の機会を与えたのである。

それなのにメドーサの部下として、再び現れた陰念。

バカなのか? とか、もうちょっと考えてくれ、とか言いたかった。

それにしても彼がメドーサに付いているのは、少し考えれば、かなり可能性がありそうなことだったが、今の彼の心を最も支配しているのは、まさに人生の不条理だった。

こうやって歴史が変わるのなら、絶対ルシオラが幸せにすることは出来るよな、なんて前向きに考えて精神を落ち着かせている。

「なんでこんなとこにいるんだ! 陰念!」

雪之丞が叫ぶ。

陰念がメドーサの元で悪事をしていることを言っているのではなく、ただ単に彼も陰念のことなんて完全に忘れていたので、驚いているだけだ。

言葉そのままである。

「俺はそこの男に負けて、負けた後の言葉を聞いて生まれ変わったのさ!
言葉でなく心で理解できたってやつだ!」

陰念の瞳がギラリと光る。

見ようによっては、十年もの修羅場をくぐってきたように見えるかもしれない。

「くっ……、ならせめて俺が……」

そう言って前にでようとする雪之丞を、横島が手で制する。

「いや、こいつは……、こいつだけは俺が倒さなくちゃいけないんだ……」

横島の真剣な眼差しに、雪之丞もとどまる。

だがそういうカッコいい台詞は、もうちょっとシリアスな場面で言って欲しいものだ。

美神とピートは完全に置いていかれているし、ケルベロスの像も邪魔しちゃいけないと分かっているのか、間に入ることはなかった。

陰念が魔装術を発現させて、戦闘態勢をとる。

気持ち、前よりも収束しているような気がする。

「いくぜっ! 今度こそブッ殺してやる!」

全然分かってなかった……。


「ぐわッ!!」

横島の攻撃で陰念が吹き飛ばされ、決着がついたようだ。

戦闘描写、省略。
ただ一方的な展開だったことだけ、記しておく。

「ふう、やっと終わったみたいね」

正直この展開に、付き合っていられなかった美神が呟く。

ケルベロスの像もやっと出番か、といった感じだ。

だがふらふらと陰念が立ち上がった。

もう戦えないだろうが、執念だけはなかなか凄い。

「まだだっ! まだ終わら……、ぶっ!!!」

『貴様ごときに、そのセリフは50億年早いわっ!!』

心眼ビーム炸裂。

横島に怪光線と言われていたあれである。

心眼怒りの攻撃で、陰念は完全に沈黙した。

「……横島クン、ここは私たちに任せて早く行きなさい……」

戦う前から疲れ果てたように、美神が言う。

「任せてください!」

そう言って横島は、ケルベロスの像を避け、駆けていった。


横島が走っていると、何体ものゾンビに遭遇する。

けして強くはないが、それでも時間を取られてしまう。

「くそっ、鬱陶しいな……」

その多さに辟易しながらも、早く辿りつくために、栄光の手を霊波刀状にし、鎧袖一触に斬り捨てていく。

霊波刀では時間のロスだと判断した敵は、霊玉を飛ばし、倒していた。

『あの二人は大丈夫でしょうか?』

横島の頭に小竜姫の声が聞こえる。

「分かりませんけど、メドーサだって針を奪おうとするでしょうから、できるだけ早く行ったほうがいいっすよね」

そう言ってまたゾンビを斬る。

二人はまだ気付いていなかった。

彼らがここに着くより以前に、針が奪われていたことを。


美神、ピート、雪之丞、そしてケルベロスの像の間には、さっきまでとはうって変わって、真剣な、戦いの空気が流れていた。

美神はプロらしく、戦闘態勢に入っている。
雪之丞は全力で戦えることの喜びに打ち震えている。
ピートは唐巣を助けることの使命感に燃えていた。

ケルベロスの像もやっと自分の使命を果たせることが出来そうで、気合が入っている。

この戦いの前の静寂とも言える空気を破ったのは、ケルベロスの像のほうだった。

先制攻撃に、三つの首が三人に襲い掛かる。

「ざけんじゃねー!」

その攻撃に、アドレナリン出まくりの雪之丞が霊波砲で応戦するが、それはケルベロスの像にはね返されてしまう。

「うわっ!」

「なにやってんのよ!」

ピートと、美神の声が響き渡るが、二人とも何とかはね返ってきた霊波砲をかわしている。

その混乱の中、ここぞとばかりにケルベロスの像は攻撃を繰り出してくるので、三人はほとんど防戦一方になっている。

やはり気合が入っていると違う。
陰念もこの程度の役には立っているらしい。

その攻撃から三人は何とか距離をとる。

「あいつの体表面は妙な素材で覆われてるのよ!
生半可な攻撃では駄目だわ!」

「ちっ……! 全力で行くぜ!」

美神のその言葉に雪之丞は魔装術を発現させ、ピートも霊圧をあげる。

「私も一生懸命応援します!!」

おキヌもGS試験で横島を応援するときに使っていた、応援グッズを取り出して、一生懸命に、半ば滑稽に応援を始める。
もちろん安全な場所からだ。

「だーーーっ!」

魔装術を纏った雪之丞が襲い掛かる。

だがそんなのは関係ないと言わんばかりに、ケルベロスの像は攻撃をはね返した。

「こ…こいつ、魔装術もダメか……!
あらゆる霊的ダメージをはね返しやがる!!」

「これじゃ手が出せない!
奴の表面の素材にはどんな攻撃も通用しませんよ!」

二人の様子を見て、改めて美神は思う。

小竜姫の言うように、自分は残って良かった、と。

この様子では彼女がいなければ勝てなかったかもしれないし、仮に勝てたとしてもかなり手こずっていたことだろう。

「はぁーーーっ!」

美神がケルベロスの像に向かって走り出す。

「確かに霊的攻撃には無敵かもしれないけど……」

手に持っていたものを振りかぶる。

「普通に石でどつきまわす分には何の問題もないでしょ!
すぐに気付きなさいよ、あんたら!」

そう言って、手に持っていた石でケルベロスの像を殴りまくる。

美神が勝つためには手段を選ばないといっても、ケルベロスの像に乗って、石を振り回している姿はかなりシュールだ。

ピートと雪之丞の二人は、あっそーか、とその様子を見ていた。

「ピート!」

「はいっ!」

美神の指示で、石によって表面が削れたところに、ピートが霊波砲を放つ。

それが当たると、今までの鉄壁が嘘のように、像が崩れた。

「冷静な判断力……。さすがは美神の旦那だな……!」

「さすがにこういうウラ技は凄いですね」

とりあえず前回の横島の行動が、彼女ゆずりであることは証明されたようだ。

「まっ、これが現役GSの実力よ!」

美神が得意気な顔で言う。


「ザコを片付けたくらいでいい気になるんじゃないわよ!」


どこからか声が聞こえるが、反響し、どこから聞こえてくるか分からない。

「この声は……、おいっ!!」

ピートに向かって雪之丞が叫ぶ。

「なっ!?」

ピートが後ろを振り返ると、大きな剣が彼に飛んできている。

何とか反応できているが、かわすことは出来そうもない。

だが次の瞬間、キィン、という鋭い音がして、剣が地面に落ちる。

そこにはシンダラに乗って、剣を――おそらくアンチラだろう――その手に持った夜叉丸がいた。

それから冥子と鬼道の二人が現れ、三人を挟んで反対側から勘九郎がゾンビ軍団を引き連れて登場する。

「令子ちゃん〜〜〜!」

「ちょっとなんで二人がここにいるのよ!!?」

ホテルで針を守っているはずの二人が現れ、さらに針がどこにも見えないことから美神は混乱する。

「申し訳ない! あの後すぐにメドーサが現れて取られてしもたんや!」

「そうなのよ〜〜」

「はっ!?」

美神はすぐに怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、相手がメドーサということなので、何とか思いとどまる。

二人も奪われた後、インダラに乗り、交通法規上等でここまでやってきたのだ。

このタイミングの良さは、断じて出待ちをしていたからではない。

少し遠くからピートの危機を察して、シンダラを亜音速で飛ばしたのだ。
その結果、ギリギリで間に合ったのである。

「そういうこと。これでそっちのアドバンテージは無くなったわ。
私があの坊やのところじゃなくてこっちに来たのもそのためよ。
私も腕の恨みがないわけじゃないけど、彼と、それと小竜姫はメドーサ様が殺したがっていたから」

勘九郎のその言葉に全員が焦りを覚える。

こちらの人数は五人。

勝てないことはないだろうが、ここでの勘九郎の役目は時間稼ぎ程度のものなのだろう。
何とか早くここを突破しなければならない。

美神たちはさっきの戦い以上に集中し始めた。


「遅かったじゃない……」

横島と小竜姫――ツノの状態だが――が原始風水盤のある空間に到着すると、すでに針を手に持ったメドーサが待ち構えていた。

「おい、それって……」

「これかい? 悪いけど、返してもらったよ」

メドーサは邪悪な、それでいて、してやったりといった顔になる。

ツノが小竜姫の姿をとった。

「そんなものは関係ありません。
私が来た以上、あなたはここまでです」

小竜姫がそう冷徹に言い放つと、メドーサの顔が狂気に染まる。

「小竜姫……。やっぱりあんたも来てたみたいだねぇ」

その言葉と同時に小竜姫は神剣を抜き、メドーサは刺叉を出す。

「待ってください。ここは俺がやります」

そう言って、陰念のときと同じように、小竜姫を手で制する。

横島はもう彼女に出来るだけ戦って欲しくなかった。

武神である彼女に対して、的外れな想いであることは分かっている。

だけど彼女にGS試験のときのような、あんな顔をして欲しくなかった。
あんな顔を見るのはもう御免だった。

だがそんな小竜姫の顔は青ざめている。

「そんな……ッ! お願いです!
私に戦ってくれって、戦えって言ってください!」

戦うことが彼女の意義だから。

彼のために戦うことが出来ないなら、彼女が戻ってきた意味なんてどこにも無いから。

「嫌っす。“戦わないで”ください」

「あっ……、分か…り、ました……」

俯きながらなんとか彼の言葉に従う。

彼の言葉は、優しさに、自分に対する思いやりに溢れていたから。

自分を捨てる強さは待っていても、それをはねのける強さを彼女持ってはいなかった。

「はっ! あんたらに何があるかは知らないけど、本当にクズの人間が私に勝てるとでも思ってるのかい!?
まあ、こっちは針でもセットさせてもらうよ」

そう言うと、メドーサはスーツを着たゾンビに針は渡し、渡されたゾンビはそれを恭しく受け取る。

自分でセットしないのは当然二人を警戒してのことだ。

だがこれが失策。

そして彼女にとっては――予定通り。


「悪いけど、また返してもらったわよ」


メドーサがその声に振り返ると、そこには自分の作り上げたゾンビではなく、幻術を解いた少女が針を持って立っていた。

これこそが彼女の真骨頂。

九尾としての高い霊格でも、狐火でもない。

騙し、隠し、偽り、欺く。

策士とも言える――彼女の本領。

そう、彼女はメドーサに針を奪われるという、ただ一点のみを想定し、動いていた。

奪われれば動く。
奪われなければ何もしない。

ホテルで一緒に守らなかったのは、いかに彼女といえど、メドーサと正面からぶつかれば、必ず勝つ自信はないし、何より街に被害が出る可能性が高すぎる。
メドーサは街の人を人質に取ることにも、何の躊躇もないだろう。

メドーサがここに帰るまでの時間、横島たちがここに辿り着くまでの時間。

それを考えて――このタイミングだけを狙っていた。

二人に気を取られていたメドーサは、幻術に気付くこともない。

もちろん想定外の時のために、第二、第三の手は考えていたが、それは杞憂に終わり、最もスマートに針を奪取することが出来た。

「タマモ!」

「貴様ぁぁぁ!!」

横島とメドーサは対照的な顔になる。

「あとはこいつを倒すだけよ、横島!

……やぁ〜〜っておしまい!」

『あらほらさっさー!!』

「いや、それ俺が言う台詞だろ!」

心眼のあんまりな行いに横島が突っ込む。
このツッコミも入れての心眼のボケなのだから恐ろしい。

タマモとネタ合わせでもしていたのだろうか。


心眼さん。
貴方……、どこに行かれるのですか……。


あとがき
前回の人生を〜、の記述で今回陰念が出てきたとき、ショボ!、と思った方、予定通りですw
持ち上げるだけ上げといて、落とす。基本ですね。
今回はツッコミどころたっぷり、シリアスたっぷりのはずだったんですが、対メドーサの終わりまで書いていつもの倍近くになり、二回に分けました。
皆様も読むのめんどくさいでしょうし。(出すほうとしては疾走感があり、いいかなとも思うんですが)

そしたらシリアスほとんどないし……。orz
小竜姫様のみか。あとタマモも。
後半を考えて、陰念を徹底的に落とした意味が薄い。
一応、対ケルベロスの像はシリアス風なんですが、おキヌの天然やら、美神の横島との過剰シンクロでそんな気配なしです。

次回で本当に香港編は終わりです。

今回も読んでいただきありがとうございます。


>柳野雫さん
えぐいですw 
私としてももう少し婉曲表現を使うことも思ったんですか、この方がネタっぽいかなと。


>MAGIふぁさん
時々どころか、最近ギャグモードが入りっぱなしな気がする。
まあ、彼もこれだけじゃないですw


>ヴァイゼさん
>口調変わりすぎやろ心眼w
彼はギャグのためならすべてを捨てられます!(微嘘)


>casaさん
>原作風味なら手下AとかBとかに任せて良そうな感じなんですが、この辺りもメドさんの意識が変化した影響なのでしょうか。
そうですね。
彼女もGSが先に原始風水盤に辿り着くというリスクを犯しながらも、奪取に確実な方法を選んでます。


>なまけものさん
メドーサと勘九郎以外の何者かは陰念でした。
ありそうだけど、割と予想外?


>高足蟹さん
心眼の進化(爆)は止まるところを知りませんw
次回本来の姿も出るかも。(本来の姿って何だっけ?w)


>響さん
式神組の抵抗は私も考えていました。
実は鬼道の夜叉丸を冥子のメキラでサポートしながら善戦するという、割と具体的なところまで決まってました。
ですが横島と戦うまでにあまり苦戦しては、メドーサがザコっぽくなるのでは、と考えやめました。
その代わり今回でアメリカンヒーローチックに登場しましたし、次回も多少は出ると思います。


では。

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