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「指輪ものがたり 第三話(GS)」

六条一馬+豪 (2005-07-02 08:57)
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喧嘩は徐々にヒートアップしていく。口汚さも増して行く。
般若のよーな形相ながら、心の奥底では泣きそうな美神。
誰か止めて、と願い続けて。でも、口の方は止まらないわけで。
横島の目付きもどんどん釣り上がって、それが美神に更なる火を付ける。
同時に、心の内で流す涙も増えて行く。


「あんたみたいなセクハラ小僧、どっこも雇ってくれるわけ無いでしょ!
 私でもない限り、女性職員に飛び掛って即日辞職よ!!!」

「そりゃぁ、こっちの台詞ですよ!
 美神さんの折檻に俺以外の誰が耐えられるって言うんですか!!!」


うがー、と擬音が付きそうな勢いで、更に跳ね上がる声量。
実の所、二人を見詰めている人工幽霊壱号は呆れかえっていた。
何の事はない、お互いにとって自分が一番だと言い合っているのだ。
少々形の歪な惚気とも言える。歪過ぎる気がしないでもないが。
しかしそれでも、そもそも本人が気付かないのでは意味も無く。
続く言い争いに、美神の方が先に参ってきていた。具体的には、ちょっと泣きかけていた。
それでも、舌が止まってくれない辺りがとっても美神。


「女と見ればすぐさま飛び掛って、性犯罪者予備軍どころかレギュラー入りっ!
 何事にも後ろ向きで、知識だってほぼ皆無に近く、中途半端で弱虫で情けなくて!
 自虐的で根性も無くてその上趣味と呼べる事の一つも無く、女性関係しか頭に無い!
 そんな横島君が何を偉そうに言ってるのよっ!!!」

「お金が好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでっ!
 好き勝手な生活しまくって、世の中ナメてて、わがままでゴーマンで根性曲がってて!
 酒飲みで朝弱くて気の向かないことは何一つしよーとせず、一攫千金しか頭に無い!
 そんな美神さんには言われたかありませんっ!!!」


双方共に酷ぇ言い草である。美神も好き勝手に言うが、横島も負けてはいない。
しかも二人とも嘘は言ってない辺り、どちらも仲良くいい感じに人間失格一歩手前。


「大体、日曜だってのに何しに来てんのよアンタは!
 今日は取り立てて仕事を割り振ってるわけでもないし!
 飼い犬よろしく飯でも漁りに来たのっ!?」


よって、おキヌやシロタマも居ないわけだが
それを良い機会だと考えた女の台詞ではない。
痛い所を突かれたのか、ぐっと言葉に詰まる横島。
そんな小さな勝利に優越感を感じ、密かにガッツポーズを取る美神。
勿論、その心中ではちび美神がしっかりと涙を流している。空し過ぎる勝利だ。

更に彼女が言い募ろうとした時、横島の視線に力が込められる。
彼の眼光の強さは、アノ美神でさえも一瞬動きを止めさせられた。
そして無言のままに、すっ、と差し出されたのはちっちゃな箱。
操られているかのように美神その箱を受け取り、ゆっくりと開ける。


そして、絶句した。


箱の中に収まっていたのは、円環を描く金属性小型装飾品。
そう、それを一言で表すならば指輪と呼ばれるもの。
思いがけず、しかし箱を見た時から想像していたものを己が瞳で確認し
美神は混乱に支配された脳のままに、感じた思いを素直に吐き出した。


「・・・・・・・・・・・・・・安そ」


『おーなー』

「な、何かひら?」


底冷えのする人工幽霊壱号の呼びかけに答える美神。
だが、珍しく舌が全然回っていない。
横島は数分前に部屋を出て、今残っているのは彼女一人。


『自業自得』


ぐさ


『沈黙は金』


ざく


『口は災いの元』


どす


短く繰り返される言葉の群れが、急角度で刺さって行く。
その度ごとに、帰ろうとした時の横島の顔が思い浮かぶ。


『あ、あは、あははははははははははそーっすよねー!
 安そうっつーか、ホンットに安モンッスからねー!
 もー美神さんにとっちゃゴミみたいなモンですよゴ・ミ!
 でもまー何つーか今までのお礼っつーか色々と世話にもなってますし!
 それに自分で持っててもしゃーないんで
 すんませんけど、捨てるなり何なりはお好みでー!
 あーじゃあ俺はこれで今日のとこは失礼しまーっす!!!』


うわはははははは、と陽気に大声で笑いながら
喧嘩していた事など全て忘れたかのように去って行った。
そんな彼の痛々しい様子を、人工幽霊壱号は黙って見送る他無かったわけで。
混乱の渦中に在った美神は、そもそも引き止める余裕さえ無かったわけで。
本人としても、とんでもねぇ事を口にした自覚はあるのだろうか。
人工幽霊壱号の口撃に、あの美神が一言も言い返していない。

しばし屍と化していた美神だったが、俯いたままにゆるゆると動き出した。
警戒する獣の如くに箱へと手を伸ばし、爆弾処理班の如くにゆっくりと箱を開く。
当然ながら、手品のように消えたりなどせず、ちょこんと鎮座している指輪が一つ。
実際に、美神じゃなくても安そうに見える指輪だった。
せいぜいが十万、二十万程度。どんなに頑張っても三十万にも至るまい。
身動きもせず、瞬きさえも惜しみながら、美神はじっと其れを見詰めていた。
そんな彼女の姿に、人工幽霊壱号は溜息を吐きながらぼやいた。
幸いと言うか、その呟きは小さ過ぎて美神の耳には入らなかったのだけれど。


『その表情を、何故横島さん本人に向けられないのでしょうね?』

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