巨大な核ミサイルを乗せた移動台のキャタピラが動く。
核ミサイルは、各国へ向け死の灰という厄災をもたらす準備を着々と始めていた。
レーダーサイトの青い光に照らされたアシュの彫りの深い顔が、よりいっそう深く刻まれている。
元が魔神だからなのか??いや、この彫刻のように深く刻まれた顔からにじみ出る狂気は“人間”本来の悪というものであろう。
神魔を見、転生前の魔神アシュタロスと直にやりやった事のある令子は、魔神以上に人間本来の姿に背筋が冷たくなった。
“あんまり金!金!!っていうのやめとこ・・・・”
『人のふり見て我がふり直せ』という言葉が、彼女の脳裏を過ったがこのままミサイルが発射されてはその言葉も意味の無い事であった。
それに付け加え・・・アンタにゃ無理だ!!!
「生き残るのは、私たちだけだ。ちょうどアダムとイブのようにね・・・」
“そりゃアタシは世界が滅んでも生き残るわよ!!!でもアンタと二人ってのは絶対に嫌よっ!!!”
微妙に引きつった笑いを令子は見せる。
どうやら、霊力制御リングは反抗さえもできないらしい。
「今度は私たち二人が楽園を手にする番だ。」
“楽園より、スリルよ!!退屈な生活なんてまっぴらゴメンよ!!それよりも金!!金よ!!!”
1分も経ってないのに、忘れてしまっているらしい・・・さすがとしかいいようがない。
こういう状況なのに、令子はいつもと変わらない。
それが“美神令子”だから!と言ってしまえばそれまでだ・・・
アシュが『USA』と記されたボタンを押した。
「聞こえるかね、大統領。たった今、核ミサイルのスイッチを押したよ。」
ホットラインらしく、すぐに声が返ってきた。
『無茶だ!!やめたまえ!!!』
「私の要求を拒否した当然の報いだ。反撃するなら今のうちだよ・・・もっとも正確な位置すら判らないだろうがね。」
ホットラインのスピーカーに向かいアシュは、笑った。
『いや、判っている。』
「なんだと?」
アシュの表情が変わった、先程までの余裕の顔は姿を消し、焦りの色が濃くでていた。
『お前の場所は、ハッキリしている。』
「大統領!今更そんなハッタリを!!」
『うるせーなぁ!!判ってるっていってるだろ!』
ホットラインの声が、横島の声に変わった。
「ここだよ!ここ♪」
ホットラインからの声が、肉声に変わった。
声はこの部屋から聞こえていた。
アシュが周りを見渡すと、天井近くの石段の上に寝そべった横島の姿が見えた。
「返しにもらいにきたぜ、いろいろとな。」
「横島くん!!!」
令子は横島の姿を見ると笑顔を向けた。
彼女の余裕は、彼が必ず助けに来ると思っていたからであろう。
でも、素直過ぎ・・・なんか怖い・・・・
「横島!よくもここまで!」
アシュは銃を抜き、横島に狙いをつけた。
狙いをつけられている横島は、なぜか余裕の笑みを浮かべている。
突然、地鳴りがした。
アシュの手から銃が落ちる。
天井からは、積み重ねられた石が崩落してきた。
「よ・・・横島、な・・・なにを??」
アシュの顔には、すでに余裕の色はまったくない。
想像はついていたが、聞かずにはいられなかったのだ。
「お前さんと同じ事さ。昔、あの山に作った地下原子力発電所をドカ〜〜〜ンとやられたタイミングには俺もお手上げ。でもまぁそれはそれ、いろいろとな。」
「横島・・・まさか!」
「そ。お前さんの核ミサイルはみんなドカンパ〜〜♪」
横島は手をひらひらと広げておどけてみせた。
顔色を失うアシュ。
しかしそれ以上に顔色を失ったのは令子であった。
「あ、アンタ!!こんな場所で核ミサイルなんか爆破させたら、どんな事になるかわかってんの!!!」
あまりの剣幕に、思わずたじろぐ男二人。
「だ、大丈夫っスよ。自爆装置と連動させただけっスから、放射能は漏れないっスよ。」
「そんな事いってんじゃないの!!!!
燃やしたと思わせた美術品は実は偽物で、本物はミサイル保管庫にガメといたのよ!!!アンタ!あれ厄珍ルートで捌けば、いくらになると思ってんのよ!!」
思わず天井近くから落下しそうになる横島。
コケそうになり、令子の腕に捉まるアシュ。
「アンタ!世界が滅ぶかもしれんって時に何やっとるんじゃーーー!!」
涙と鼻水を噴出させながら、横島は叫んだ。
「アタシは美神令子よ!!地球が滅んでもアタシ一人は生き残るのよ!!!」
腰に手を当て90のDの胸をズイっと突き出してみせる。
突き出した胸が、急に力を無くした。
腕を掴んでいたアシュが、なにかやったらしい。令子は意識を失っている。
「令子!!!って・・・・・あら???あららら??ぶぎゃーー!!」
自分が起こした地震により、横島のいた場所も崩落した。
アシュは令子を抱えると、駆け出した。
「待ちやがれ!!」
後を追う横島。
アシュが逃げる先は、遺跡の中とは思えないくらいに近代化された場所であった。
動く歩道の高速バージョンに乗り、アシュは逃げる。
その後を追う横島。
大阪出身の横島にとって“動く歩道”は、お手のモノであった。
通路を抜けると、先は行き止まりになっており、完全に機械化された巨大なホールであった。
中央にバベルの塔のような金属の固まりがあり、その周りを柵で囲ってある。
柵は少し高い位置にあり、中央の階段を通じて登るようになっていた。
アシュは階段を登り、令子を柵の内側に寝かせると、“歩く歩道”の側にあるエレクトーンに似た装置の元へ駆け寄った。
「コスモプロセッサー??んなわっきゃねーか。」
アシュが鍵盤を両手で叩いた。
ホールの四方からレーザーが横島に降り注ぐ。
「どわわ!!!」
片足を上げ、犬の立ちションポーズで交わす。
レーザーが再び横島を狙う。
白鳥の湖のプリマのポーズで交わす。
もう少し、マシな交わし方はできないのであろうか・・・
動く歩道のせいで、まともに交わせないとはいえ、なんか情けないものがある。
奇妙なダンスを踊りながら交わすというのは、横島の十八番であるが、本人は至ってマジメである。
動く歩道を全開で逆走して、ようやく隠れる場所をみつけるとそこに飛び込んだ。
「あんにゃろ〜〜〜」
顔を僅かに覗かせると、そこにレーザーが集中する。
間一髪で隠れると、金属の壁が赤く加熱した。
「こんのやろ!!」
粋がって飛び込んでみたものの、四方八方からのレーザを交わすのが精一杯で、前に進む事すら許されない。
横島は、再び逆走して壁のある位置まで逃げ込んだ。
「遠慮することは無い。入ってきたまえ。」
アシュは嬉しそうにそういった。
「くそ〜・・・もう武器は品切れか?イテっ!」
ポケットを探っていた手が、チクっとした痛みを感じ手を出すと、指先から赤い筋が流れた。
「さらばだ。」
アシュがエレクトーンから離れ階段を上がろうとすると、横島は壁から飛び出し真っ直ぐにアシュに向かった。
アシュは横島に気付くと、再びエレクトーンの位置に戻り両手を上げた。
「君は死を恐れんのだな。では最後に教えてやろう、処刑されたのはコピーの方さ。君は間違いなくオリジナルの“横島”だよ。安心して死ぬがいい!!!」
アシュの指が、10本とも鍵盤を叩く。
横島一点を目掛け、レーザーの線が集中する。
横島はその一点に右手を突き出した。
その右手に握られたもの・・・“八房の成れの果て”であった。
一点に集中したレーザーは、霊刀八房の輝きにより、そのすべてを跳ね返した。
レーザーを放ったアシュ目掛けて。
レーザーは、エレクトーンの手前を溶かしながら前進し、エレクトーンを破壊、そしてアシュ本人にすべてのエネルギーを降り注ぐ。
アシュの叫び声が聞こえ、その身を焦がしながらアシュは吹き飛ばされた。
「シロ・・・助かったぜ・・・」
横島の右手から、八房の成れの果てが落ちる。
金属同士が触れ合う音が、僅かに響いた。
令子が目を覚ました。
アシュの声で目を覚ましたのか、それとも人の焼ける異臭で目を覚ましたのかは定かでないが、彼女はようやく目を覚ました。
体が重い。
アシュに眠らされたのはスタンの一種だったのであろうか、身体を満足に動かせない。
重い体をゆっくり起こすと、足元の方が異様に明るい。
頭を揺り起こし足元を見ると、彼女は驚愕し一瞬で顔色が青ざめた。
蒼白い炎に包まれ幽鬼の如く揺らめきながら、こちらに歩を進めるアシュの姿を見たのだ。
満足に動かぬ身体を、柵の手摺に掴まりながら起こした。
階段の途中で力尽きたアシュが、再び立ち上がり令子の元へと歩を進める。
蒼白い炎に包まれたその姿の中で、眼球だけは令子への執着でその姿を追っていた。
令子は、手摺に体重をかけたまま後退する。普段なら蹴りくらい入れるのだろうが、満足に動かない体ではそれさえままならない。
「れい・・・・・・・・・こ・・・・・・・」
か細い声で令子の名を呼び、右手を令子に差し出すアシュだが、それは受け止められる事もなく金属製の床の上に力なく落ちていった。
人の焼ける異臭と煙がが令子の鼻を掠めていく、思わず顔を顰める令子。
階段をゆっくりと登り、横島が現れた。
「横島君!」
横島に躓きながらも駆け寄る令子。
「なに余裕こいとんのじゃ!!はよ助けに来んかいっ!!!」
とても今まで満足に身体が動かなかった人とは思えない程にド鋭い右ストレートを、横島の顔面に埋め込んだ。
「ちゃんと来たじゃないっスか!!成長したとこ少しは認めてくださいよ!!」
打たれた顔をおさえながら、横島は涙ながらに抗議する。
「そんくらい当たり前じゃ!!しかもせっかくガメといた金目の物、燃やしくさって!!」
襟首を掴むと前後に激しく揺らした。
「・・・・・・・・・怖かったんだからね」
小さい声でそういうと、襟首を掴んだまま横島の胸に顔を埋めた。
いつの間にか出血が止まった横島は、震える令子の頭を優しく撫でた。
「ねぇ・・・横島君、彼がオリジナル“アシュ”だったの?」
「どうでしょうね・・・まぁどっちにしろ神の名を語ったペテン師だって事には間違いないっスよ。俺を・・・いや世界中を騙そうとしたんだから。」
「そのようね・・・・でもさ、アンタのその手・・・・どこ触ってるか判ってる?」
右手で令子の頭を撫でていたが、左手は・・・尻を触っていた。
その動かし方は、ほとんど“痴漢”である。
「い・・いや・・・これは・・・ほんの弾みという奴で・・・」
そういいながらも触るのを止めようとはしないあたりは、頭が下がる思いである。
「ほぉ・・・弾みねぇ〜・・・」
段々と令子の身体に力が蘇ってきているのが、目に見えてとれた。
「報酬です!!役得・・・かな・・・・」
コメカミには、井桁が浮かび上がっている。
「手順くらい踏まんかーーーっ!!!」
なんの手順かは不明であるが、とりあえずムカついたらしい。
再び殴られてぶっ飛ぶ横島。
派手に飛ばされて、アシュの焼死体(燃えカス)の場所まで飛んできた。
「うううう・・・コピーじゃないか確認しただけやないか・・・・」
理由になってない。
涙ながらに抗議するが、横島の目が一点に集中すると動きがとまった。
「なんだ・・・これ?」
アシュの燃えカスの頭部に辺る部分に、IC系の回路を見つけた。
肉体と衣服どころか骨さえも完全に燃え尽きてしまっているが、IC系の回路だけは燃え残っていた。
横島はそれを手にとり、凝視した。
「まさか・・・・」
横島の脳裏に嫌な予感が走ると、ホール全体が振るえだす。
柵に囲まれた金属の塔の外壁がゆっくりと開きだした。
塔の中から現れた硬質ガラスの器の中でリンゲル液で浮かぶ存在に、二人は身を寄せ合い驚くしかなかった。
二人はこれを見たことがある。
大きさこそ違えど、これは見たことがあるものだ。
「「究極の魔体・・・・・」」
二人の口から言葉が漏れる。
アシュタロス大戦で、アシュタロスが作った“究極の魔神”。
“魔”の本性である破壊を活用する、最適な“形”である。
リンゲル液が気泡を立て、中の物体がスピーカーを通し話しかけた。
『私がオリジナルだ』
「・・・・“異形の姿”ってのは、この事だったのか・・・・」
横島は、アシュが語った話のすべてが理解できた。
異能な力を持ち、異形の姿をしたアシュが、どのような生き方をしてきたのか。
そしてどのような考えをもつようになり、今に至ったのか・・・
「その姿じゃ動き周れねーから、このちっぽけなのでコピー操っていたんだな。」
『やっと信じてもらえたようだね。』
「あぁ、コピーを修正して人間に形を変えて、“神”になろうと思うなんざ、その姿と同じで矛盾しまくってらぁ!」
横島はそう吐き捨てると、ICを投げ捨てた。
そっと令子に耳打ちする。
(体力、どれくらい回復しました?)
(6割ってとこね・・・)
(十分です。とっておきでアシュを倒します、脱出は自力になりますけど。)
横島の言葉に令子は黙ってう頷いた。
「魔神の誇りを失くして、人間の欲に喰われちまったテメーは確かにアシュタロスじゃなくて“亜種”だよ。この世にはテメーは危険すぎらぁ・・・ゴースト・スィーパー横島忠夫が極楽に逝かせてやるぜっ!!」
啖呵をきって横島は、魔体めがけて走った。
逆風を受けるかのように、横島の身体は抵抗を受け前に進めない。
進めないどころか、重力が逆に働くように柵に戻される・・・いや、戻されるというより叩き付けられた。
「いってーーーーーー!!!」
「横島君!!!」
「ど・・・どうなってんっスか!あれ??」
「アタシに判るワケないでしょ!」
「そりゃまぁそうっスね。」
いつもの軽口を叩きながら、再び魔体へと向かう。
後ろから背中を掴まれて引っ張られるような格好で引き戻され、再びフェンスに激突する。
「こなくそ!!!」
・・・・・・・・・
・・・
・・
「うりゃ!」
「とりゃ!!」
「は!どっこいしょ!」
「のぴょぴょ〜ん!!」
のぴょぴょ〜んが気合いかどうかは不明だが、どれも不発。
同じような光景が繰り返されるだけであった。
『さらばだ・・・』
魔体がそういった。
横島の行動に呆れたのかもしれない・・・
「どこへ行く!」
『神の国だ。どこか遠い宇宙に死を超越した星がある、私はそこで不死となり、最高指導者をも越える存在となり再び現れるだろう。』
時間が無い!
横島は最後のチャンスとばかり走った。
しかし、半分もいかないうちに押し戻される。
“気合いだ!気合いしかない!!”
そこで横島が選んだ気合いとは・・・・
「この・・・シリコン胸っ!!」
「まだ言うか!こんがきゃー!!」
横島の後頭部に、令子の飛び蹴りが炸裂した。
体力が6割しか戻ってないのに、この威力!!
魔体倒すのは、令子の方が良かったのではなかろうか??
令子の飛び蹴りの威力はすさまじく、横島は硬質ガラスまで一気に叩き付けられた。
右手をガラスに貼りつけてなにかを念じると、再び柵まで跳ね飛ばされた。
横島の口の端が緩んだ。
「悪質なデマ流すなって、何度いったらわかんのよ!!!」
柵にぶつかった痛さなど掠った程度の痛みが、1ダース炸裂した。
「あぁーーー!!かんにんしてーーーー!!!しょーがなかったんやーーーー!!!!」
二人がいつものやりとりをしていると、足元が壁に向かって動き出した。
魔体を囲ってある硬質ガラスにも再びカバーが覆われた。
足元の場所は、だんだんと少なくなってきている。
下を見ると、底が見えないくらい深い。
上を見上げると、天井が無くなり空が僅かに見えた。
この場所自体が筒状になっている。
「ロケットか・・・ってことは、これ発射口??」
横島は逃げ道を探す。
周りを見渡すと、鉄筋で出来たハシゴが上まで伝わっていた。
工事用のハシゴらしい。
横島は勢いをつけて、ハシゴに飛び移った。
片手でぶら下がり令子の方を向く。
「令子!飛べ!!」
令子は躊躇している。
足元は段々と無くなり、そのままではなにもせずただ落ちるだけだ。
「バカ!飛べってんだよ!!」
「だれがバカよ!!!」
助走も無しで、飛ぶとそのまま横島の頭を踏みつけた。
その勢いで横島は思わず手を放しそうになった。
落ちそうになった横島を、シカトして令子はハシゴを登っていく。
ロケットに火が入る。
令子と横島はハシゴをもの凄い勢いで駆け上る。
「横島君!出口よ!!」
「って、それ俺のセリフ・・・」
最後になって、いつものペースになってしまっていた。
しかしギャグかましている余裕などあるのだろうか?
ロケットはすぐ側まで迫ってきている。
発射口を抜けでた二人は、身を隠せる場所まで走った。
ロケットが発射口から顔を覗かせる。
ロケットエンジンの風圧が、何トンもある石柱を吹き飛ばす。
二人が隠れていた場所ごと吹き飛ばし、轟音を残すと宇宙へ向かった。
二人は瓦礫と化した遺跡に埋もれてしまった。
大気圏を脱出する。
第一エンジンが投棄され、第二エンジンに火が入った。
地球の重力から離れたロケットは、宇宙空間に入る。
真空の音も無い世界に、時計の針がその時間を刻んでいる。
秒針が12の位置に入った。
水晶に似た珠が光だす。
その珠は、同様の2つの珠に霊力を伝え、それを作動させた。
《分》 《解》
音の無い世界・・・・
先端を分解されたロケットから液体が噴出す。
かつて魔体といわれたものが丸くなったまま、ゆっくりと移動していく。
宇宙空間を漂う魔体。
地球という磁場を離れて、宇宙を漂う。
彼はそれを望んだのであろうか?
月の向こうに太陽が見えた。
太陽に向かって、ふわりと浮かんだままゆっくりと移動していく。
ロケットが飛び立った後は、かなり静かであった。
山の上に作られた遺跡、その頂上からロケットは打ち上げられ、山頂の遺跡はその姿を変えていた。
遺跡というより瓦礫と化したその場所が、僅かに動いた。
瓦礫を払いのけ、横島が身を起こす。
背広はすでにボロボロの状態になっており、打ち上げの凄まじさを物語っていた。
横島はロケットの打ち上げられた空を見上げる。
“アシュ感謝しな・・・やっと死ねたんだ。続きは来世で・・・・・・”
「って、2度と会いたかねーやっ!!!」
空に向かって涙ながらに叫んだ。
だったらカッコつけんな・・・
叫んで気が済んだかどうかは知らんが、横島は辺りを歩きだす。
「令子〜、どこいったんだぁ〜?れいこぉ〜〜〜〜〜」
一緒に飛ばされた令子を探しだした。
名前を呼びながら探し回ると、白い手が瓦礫の上に見える。
「令子・・・」
横島は近づいた。
着ていたローブは、ボロボロになりいつものボディコンに近い短さに破れていた。
ピクリとも動かない令子に、横島はそっと手を伸ばす。
「むんず!!」
横島の足を、地面から生えてきた手が掴む。
「あし〜〜〜〜〜!!!」
「ぎゃーーはっはっはっはっはっはっは!!!」
地面を割って西条が顔を覗かせた。
イギリス紳士のプライドはどこにいってしまっているのだろうか?
というか・・・土遁の術??
「ごめんね〜、声出さないでって言われちゃったの♪」
ムクっと起き上がった令子は、悪びれる様子もなく言った。
地面から完全に出た西条は、横島の足に特製の手錠(?)をかけると自分の足に繋いだ。
「はっはっはっはっは今度こそボクの勝ちだね!横島くん!!」
西条は、勝ち誇った顔で横島を見た。
「見上げたしつこさだねぇ・・・・・それより西条、俺って確か死んだんじゃなかったっけ?」
惚けたように横島がいうと、西条の勝ち誇った顔が急に険しくなる。
「君が例え100回死のうと関係無い!!横島という人間がこの世にいる限り、ボクは追い続ける義務があるんだ!!」
「「ストーカーじゃん!!!」」
「西条さん、そんな趣味あったの?」
なにか汚いものを見る目で、令子は一歩下がった。
「俺、そんな趣味ねぇぞ・・・・・令子!なんとかしろよ〜」
横島は、〇菜疑惑の浮上した西条から逃れようと令子に助けを求めた。
「横島君・・・・・さっきから聞いてれば令子ちゃんの事を、ずっと呼び捨てにしてるねぇ・・・・なにをやったのかな?きみは??怒らないから言ってみたまえ・・・」
令子に言葉を投げかけたのに、なぜか西条が答える。
しかもにこやかな顔で、襟首を掴んでいる。
「助けてあげてもいいわよ。まともにキスができたらね。」
腕組みした令子は、すました顔のままで言った。
「れ、令子ちゃん!!!なにを血迷ったんだ!!!!」
横島を掴んでいた手を離して、西条は令子に駆け寄ると肩を掴んで力説した。
かなり焦っている。
横島は最初呆然とした顔をしていたが、急に真剣な顔になった。
「もちろん、喜んで。」
「なにーーーーーー!!!!!!!!さては横島君!!!令子ちゃんに一服もったな!!!!!」
落ち着け西条・・・かなりみっともないぞ。
「と・・・その前に・・・・」
横島は、令子の腕をとると腕にはめてあったリングを取った。
「はい西条・・・プレゼント♪」
そのリングを西条の腕につける。
なんの事か判らない西条は、目を瞬かせながらされるがままになっていた。
急に腰が砕ける西条。
「よ、横島君!!!な、何をした??」
「ん?制御用リング。自分では外せないみたいよ。」
令子より霊力が低い西条では、令子用のリングでは身動きがとれないようである。
西条の腰砕けの姿を見て、横島はニマ〜〜〜〜〜っと勝利者の笑顔を見せた。
再び令子の方へ西条を引きずりながらいくと、令子の肩を掴んだ。
「や、やめろーーー!!!やめるんだーーーーーー!!!ボクの目の前で令子ちゃんを汚すなーーーー!!令子ちゃん!逃げてくれーーーーー!!」
西条の言葉など二人はまったく聞こえてないように、二人は近づいていく。
「ウソだーー!!これは幻だーーーー!!!」
見えないように両手で顔を覆う西条だが、隙間からしっかり見ていたりする。
二人の顔が近づいた。
本当ににまともにできるかどうか疑っている令子は、目を瞑らずにじっと横島を見ている。
唇が触れる位置までくると、一瞬横島は目を閉じた。
目を閉じられたのと同時に、横島の唇が令子の唇に触れる。
ちゅ♪
という音が聞こえると横島は目を開け、チューブトップと化した令子の胸の布を下ろし薄いピンク色の突起に人差し指で触れた。
【とある場所でも、同様に突起を押す人差し指。】
令子は横島から体を離すと驚いたようなキョトンとした顔をしていたが、子供のようにニパっと笑うと今度は自分から横島に抱きついて唇を重ねた。
「横島くぅ〜〜〜ん♪」
空はどこまでも青い。
雲ひとつない天気・・・・・・・
に、飛行機雲のように一直線な白いラインが走る。
そのついでに、何か落下するような音・・・・
横島と令子の背後に、白いラインは繋がり爆発音が鳴り響く。
「ぎやああああああああああああ!!!」
次々と落下音と爆発音は続く。
令子は、それをまったく気にする様子はなく横島に抱きついたままだ。
「離せ令子!離せったら離せ!!離せ離せ!!」
横島がそういうが、令子はまったく気にしない。
着弾が近くで起き、3人は吹き飛ばされた。
「殺せ殺せ!!秘密を知ってる奴は抹殺するけンノー!!」
米の国の某司令室で、タイガーはノリに乗っていた。
アシュタロス大戦の時も大して目立ってなかったので、仕方ないといえば仕方ないのだろう・・・
その司令室の片隅で、唐巣がコッソリと電話をかけている。
「事が済み次第、ここを爆破してくれたまえ・・・・タイガー?もちろん彼も例外では無い。」
『了解しました。唐巣補佐官の秘密を知っている者は全員抹殺ですね。』
ピッ♪
電話を持つ手と反対の手で、唐巣はなにかのスイッチを押した。
そのコメカミにはさりげなく井桁が浮き出ていた。
『ドゴーーーンぐわーーーーーーっ!!!』
ツー・ツー・ツー・ツー・ツー・ツー・ツー・ツー
電話口の声が聞こえなくなると、唐巣は電話を切った。
唐巣の電話は、一切タイガーには聞こえないようでまさにノリノリのイケケドンドン♪
「いったれいったれ!!ヤったれヤったれーーーー!!!撃ちまくれやーーー!!タマ少ないノー、もっとハゲしくいったらんかい!!」
ひゅるりらぁ〜〜〜♪
部屋の中なのに、なぜか冷たい風が・・・
「あ”・・・・・・」
大口を開けて、なにかに気付いたかのようにタイガーはゆっくりと壊れた機械のように後ろを振り返った。
そこには、自由の女神を抱えた魔神が一人・・・・・
「苦労を重ねてきた私に向かって“ハゲ”“ハゲ”と・・・・これは、ハゲではない!額が人より広いだけだ!!!」
人はそれをハゲといふ・・・・
「なんでもかんでも私に押し付けやがって・・・その苦労の跡をハゲといいきりやがりやがって・・・・主がお許しになっても、私は許さん!!テメーら人間じゃ無ぇ叩っ斬ってやる!!」
斬るのではなくKILLであり、斬るのではなく叩き殺すの間違いでは??
という疑問がタイガーの脳裏に過ったが、そんな事は今の“彼”には通用しないであろう。
自由の女神が乱舞すると、地上から米の国の秘密基地が1つ消滅するのにさほど時間はかからなかった・・・
横島、令子、西条が呆然と立ち尽くす中、ミサイルが辺りに雨のように降り注いでいる。
近くに被弾し、3人は再びブっ飛んだ。
「横島君!!どーにかしてよーーー!!!」
「どーしよーもねーっスよ!!これじゃーーー!!」
足に縊られた手錠を、掴みながら横島が悲鳴を上げる。
とりあえず、西条につけていたリングを外し、西条にも助けを求めるが、西条は横島の襟首を掴んでベレッタを額につきつけた。
「横島君!!よくも令子ちゃんを傷物にしてくれたね・・・・覚悟はいいかね!!!」
「そんな事いってる場合じゃねーだろ!!このまんまじゃみんなこの場でお陀仏だぞ?それともここでみんなで自縛霊にでもなるって〜のか?」
涙ながらに西条を説得すると、西条は渋々銃をホルスタに閉まったが、
「後でじっくり尋問するからな・・・・」
と、捨てゼリフだけは忘れてはいなかった。
“バカヤロ・・・後は逃げるに決まってるじゃねーか・・・”
心の中で呟く横島、どっちもどっちである。
ミサイルを掻い潜って複葉機が、3人の周りに飛んできた。
「横島ーーー!!掴まれ!!!!」
少々ギクシャクしながらも、雪之丞が横島を助けにやってきた。
なんだかんだと理由をつけて断りながらも、やはり相棒は心配だったようだ。
「ゆっき〜・・・・ヤッホーーーーーーー!!!!」
複葉機から下げられた縄梯子を掴もうと飛びつくが、西条と繋がっているせいでそのままコケてしまう。
その縄梯子に、令子がちゃっかりと掴まった。
「横島君!早く逃げた方がいいわよーー」
横島と西条の頭には、汗マークがくっきりと浮かんでいた。
「あららら〜〜ヒデェ〜なぁ・・・・・」
「まぁ君も十分判っているとは思うけど・・・・なんせ令子ちゃんだからねぇ・・・」
西条がしみじみと呟くと、二人して何度も頷いた。
納得しまくっているところに、またしてもミサイルが着弾する。
かなり不恰好な姿で吹っ飛ぶ二人。
それでも生きているところは、さすがである。
「西条・・・・」
横島は西条の顔を心配気に覗いた。
「うむ、横島君。この場はひとまず逃げよう!」
横島の真意を受け取った西条は力強く頷くと、横島と肩を組んだ。
「「せ〜の!」」
二人三脚の状態で、山を物凄い勢いで走りだす。
着弾は次第に正確になっていくが、二人は爆裂をものともせず、コンパスの違いも関係なく、ほとんど出来の悪い特撮のような速さで走っている。
ほんとうに普段はいがみ合ってるのかが、不思議なくらいのコンビネーションである。
「ふふふ、仲の良い事♪」
複葉機の後部シートに座った令子が、山を下る二人三脚を見下ろして笑った。
「どこまでいっても、追われる身か・・・・」
帽子に手をかけて、雪之丞はポツリと呟いた。
複葉機が、遺跡の山を外れ大きくターンした。
その真下の岩山の天辺に、シロが遺跡を見下ろして立っている。
「それが、先生の宿命!!」
すべてを悟ったように、シロが呟いた。
着弾が激しさを増す中、横島と西条の二人三脚は加速していた。
彼らのこれからの人生を表すかのように、厳しい道は果てしなく続いていた。
俺〜は横島だ〜〜〜〜〜♪(横島だ〜)
狙いつけたら令子でも♪(はぁ〜)
例えGメンの たいちょの美智恵さん〜〜〜♪
親子丼も怖くない♪
竜神の管理人押し倒せ♪
魔軍の大尉を押し倒せ♪
後で令子ちゃん♪
やれ追いかけて♪
はぁ神通棍♪
フルパワーでシバいても〜♪
生きてるぞぉ〜〜〜〜〜♪
THE
END