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▽レス始

「横島三世7(GS)」

おやぢ (2005-06-27 20:33)
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とうの昔に陽は落ち、辺りは夜を迎えていた。
西条と同じく、コロンビアの田舎町に着いた横島たちは身体を休めるために宿を取っている。
かなり古く、ホテルといっていいものかどうかも定かでない安宿ではあるが、疲れた体を休めるには十分であった。
部屋の隅の一角にあるテーブルで、雪之丞がサイフォンでコーヒーを淹れた。

「宿は汚ぇが、コーヒーだけは上物だぜ。」

ようやく目を覚ましてベットの端に座っている横島にそういって、コーヒーを手渡した。

「シロの奴は、どうしちまったんだよ・・・」

欠伸をしながら、横島がそういった。

「ほらとっとけよ・・・」

雪之丞は、八房の折れた切先を横島の足元に投げた。

「八房の成れの果てさ。お前の背中を守れなくなったんで当分会いたくねぇとよ・・・」

横島は、八房の成れの果てを眺めると背広のポケットにしまい、コーヒーに口をつけた。

「苦ぇなぁ〜・・・令子の目も覚まさせてやれよ。」

横島は濃いコーヒーに顔を顰めながら、大きめのソファに顔を伏せていた令子の方を向いた。
その言葉を聞き、令子はソファから顔を上げた。

「いいの・・・・ねぇ彼って本当に“芦優太郎”だったの?」

「何度も言ったろ。造船・鉄鋼・運輸・報道と世界の富の3分の1を占める程の億万長者さ。まぁ最近は古代遺跡の発掘にまで手を伸ばしている・・・ま、一種の道楽者だな。」

雪之丞がそういうと、令子のコメカミに井桁が浮かんだ。

「騙しやがったのね・・・ちっきしょー!!!アタシがトドメさしとけば良かった!!!」

そういう恨みは決して忘れないだろう・・・この女は・・・

「そうとばかりはいえねーさ。奴が死なねー研究をしていたのは確かさ。」

コーヒーに目を向けたまま、横島が呟いた。

「バカ言え、カオスじゃあるめーし、そんな事ができるか・・・」

「クローンさ。」

雪之丞の言葉をすぐに遮る。

「え?なんだって?」

「牛や植物の農耕用生物で一時波紋を呼んだコピー製造法さ。倫理面から人体ではやらないと報道ではあったが、研究者や軍事大国がそんな事守るなんてことはありえねぇのは判ぁってるだろ?髪の毛でもなんでもいい、そいつの細胞をちょいっといじくるだけでソイツのソックリさんができる・・・こいつを繰り返せば同じ人間がいつまでも生きる事ができる。カオスの不死とは違ってボケる事はない、調整次第で若いままに・・・だ。」

「それじゃあ前に処刑されたお前ってのも?」

「髪の毛1本からでもコピーは作れるからなぁ・・・」

横島は座ったまま頬杖をつくと、虚空を見て別の事を考えてた。
軽い地鳴りのようなものが響く。

「「「??」」」

妙な感覚を覚え、目を凝らす。
顔、いや全身に風を感じる。
どこかを飛んでいるような感覚。
目に映るのは、星なのであろうか??
しかし、足元、天井、壁は見当たらない。
自分達が今まで座っていた物そのままに、宇宙を飛んでいる。
あくまで見た目だけだ。
なぜなら、風を感じ、呼吸ができる。
ならば、この目に映っているモノはなんなのだろうか??
あまりに唐突に起こった事に、3人は状況を把握できていないままである。
横島の前方の空間が裂け光が漏れると、その光が大きくなりだした。
笑い声が、聞こえる。
嘲笑といった方が正しいであろう。
光の中から、人の影が現れる。
そのシルエット、その笑い声。
間違いない、“アシュ”である。

「私の秘密に気付いたようだね。」

「お前、本当にクローンなのか?」

「お察しの通り、クローンさ。だが私がクローン技術を開発したのは、遥かな太古だ。」

ベットに座ったまま横島はしばらく考えたが、頭の中のモヤモヤを直接ブツけた。

「お前・・・アシュタロスだろ・・・」

その言葉に、令子と雪之丞は固まってしまった。
アシュタロスならば、こうも回りくどい事をしなくても令子を手に入れることもできるし、不老不死を手にする事もできる。
まして“魂の牢獄”を抜け出したい、死にたいと望んでいたアシュタロスが、何故“不老不死”を望もうとするのか?
確かに姿は似ている。しかし、それだけなのだ。やる事も考えている事もアシュタロスとは違いすぎる。

「なぜ、そう思うんだ?横島君。」

アシュは目を細めて、横島に問いかけた。

「理由なんてないさ。タダの勘だな・・・だが、その勘どうやら当たったようだな。確証がまったく無ぇからカマかけてみたんだが、どうやら図星だったみてーだな。」

横島が不敵に笑うと、アシュもつられるように苦笑した。

「まったく、君のその狡賢さには感服するよ。」

「けどなぁ・・・どーしてもわかんねーんだよ。アシュタロスなんだけどアシュタロスらしくねーんだよ・・・どういうことよ?」

バカ正直に横島は、疑問をアシュに投げかけた。
それを聞いたアシュは思わず失笑する。

「そのバカ素直さに私は以前負けたらしいな・・・・」

「なんか他人事だな。」

「まぁ・・・他人だろう。横島君、君の推測はほぼ当たっているよ。以前の私は間違いなく魔神アシュタロスさ。」

衝撃的な言葉だった。
令子と雪之丞は全身が凍りついたように固まり、ガタガタと意味のない震えが走る。
一方、横島は対照的になにくわぬ顔でアシュと対面したままだ。

「転生したんだろ?そこまでは判る・・・けどなぁ・・・なんで転生したお前が、俺より年上になってんだ?しかもクローン技術を開発したのは太古なんて・・・あれからすぐに転生したとしても、まだ赤ん坊のはずだぜ?」

「以前の私なら君をザコ扱いして失敗したが、今回は違うよ。一番のキーマンは君だからね。君が今の私をどこまで理解しているか・・・そこが問題だ。そうだね、君は私の今の力がどれくらいなものか、計ろうとしている・・・違うかね?」

その言葉を聞くと横島は、大きく息をついてポケットからタバコを取り出し咥えた。

「そこまで警戒されちゃ〜俺にうつ手は無ぇな・・・」

タバコに火をつけそう答えた。

「戦力を曝す愚かなマネはしないが、疑問点には答える義務がありそうだね。・・・・・・神は・・・いや最高権力者はミスを2つ犯したんだ。」

「ミス?」

「そう・・・強大な私の魔力をすべて無力化する、これは最高権力者でもかなりやっかいな仕事のようだった。すべての魔力を無力化された私は転生の旅にでた。」

少しばかり矛盾点が見えてくる、“魂”となったものがそういう事情が判るのか?
高島から横島へと転生した彼には、まったくそのような事がない。
転生した事は、ヒャクメによってハッキリと判っている・・・しかし、その記憶は意識下では皆無なのだ。

「人並みの霊力しか持たないこの私だ。それは君たちにはよく判るだろ?」

そのオーバーアクション気味な手の使い方は、間違いなくアシュタロスだ。
3人を目の前にした演説である。

「1つめのミス・・・それは、私の魂を過去に飛ばしたという事だよ。」

「ま・・・まさか・・・・」

令子が唖然とする。

「そう・・・君の一族の能力“時間移動”。どうやらそれが作用したらしい・・・君の能力の封印はいつ頃なされてか、覚えているかね?そう・・・私が消滅して間も無い頃だ。時間的に考えて間違いあるまい。」

これは完全な天界のミスである。
2つの封印儀式、元はアシュタロスから生まれでた令子の能力。どのような事が起こったとしても不思議ではない。

「私は1万年前に転生した・・・人間としてね。そしてこれが2つ目のミス。魔力は消されたが、“知識”まではすべて消し去る事はできなかったのだよ。」

「記憶があるって事か?」

「いや・・・君も転生の身ならば判るだろ?“記憶”ではないのだ、あくまで“知識”だよ。」

「なるほどね・・・それで知識はあっても“コスモプロセッサー”なんかは作れなかったワケだ。」

「あいかわらず鋭いね・・・君は。その通りさ、あれは魔力がないとできない代物だからね。」

横島はタバコを投げ捨てると、食って掛かるようにアシュに向かった。

「なぜだ?あれほど死にたがったお前が、なぜ永遠の命を欲しがる??」

アシュは横島の言葉を“ナンセンスだ”といいたげに首を振った。

「元は、私は人間だよ。異能な力を持つ、異形の姿をする・・・そういう人間の末路は、君らならよく判るだろ?おっと横島君、君だけはそれに値しないようだがね。」

元魔神に人間の本質を指摘されたような言葉であった。
それだけに説得力はかなりある。
タマモが、ミィが、ピートが、人間からされた仕打ち・・・それを考えると、身を削られるような痛みであった。
過去にヨーロッパで行われた魔女狩りなども似たようなものだ。
異能な力を持つものは、もてはやされ“神”として崇められもするが、それは諸刃の剣であり砂上の楼閣でもある。
なんらかの切欠で脅威となり、異能=悪 とされ迫害され、とき間もなくして殺されてしまう。
歴史上それらは何度ともなく繰り返されてきた事実なのだ。
しかし、横島は同情はしてない。
なぜなら、アシュは“今”を生きているからである。
それに、過ぎた力を持った人間・・・いや、相応しくない力を持った人間がどういう風になるのか。
これもまた歴史が証明している。
おそらくアシュの言う“そういう人間の末路”とは両方を指すのだろう。
そう判断したからこそ、同情などは一切していないのだ。

「アシュであってアシュタロスでないか・・・なるほどね・・・人間“アシュ”の“欲”にアシュタロスの魂は喰われちまったのか。」

蔑んだ目で横島は、アシュを見た。

「フ・・・・下衆な表現をするね。だが、この私がいなければ人間はどうなっていただろうね・・・見るがいい!私の1万年の記憶を!!」

アシュがそういうと、星が飛び交う空間に歴史上の賢者の写真が浮かび彼方へと飛んでいく。

「そうだ、私だ!宇宙の神秘と魔神の知識により不死を得た私。自らを生み自らを育んだ私。永遠ともいえる時の中で私は、星の数ほどの賢者と出会い史上最高の英知を得るに至った。」

宇宙空間にスクリーンのように映し出される、歴史的事件、事故、発明、戦争・・・歴史に残る世界的出来事が鮮明な写真によって映し出される。横島たちは呆然としてそれを見るしかなかった。

「そして次第に人間の社会を干渉する楽しみを覚えるようになったのだよ。発明を!芸術を!憎しみを!欲望を!飢餓を!戦争を与えてやったのだよ。」

第二次世界大戦の主要人物が映し出され、そして最後に“アシュタロス大戦”のメンツも映し出される。

“自分の前世を自分自身の技術で殺させた?・・・なんなんだよ、コイツは?”

気分が悪い・・・ただそれだけだ。

「歴史は私の妙なる干渉によって起こったにすぎない。判ったか!クローンは神に至る道だったのだ!!」

自分の前世でさえ、今の自分のためには躊躇なく殺す・・・すべてが自分の掌の中の出来事である、そう言い放ったアシュに対して横島は、どうしようもない憤りを感じた。

「それじゃー俺が生まれてきたのも、アンタのおかげだっていうんか?!」

「君は不確定要素が生んだ“奇形児”にすぎない・・・ところで、君の仕事を楽にするために戯れに作った君のコピーはどうしたかね?」

横島の方を向くとアシュは、ニヤリと笑った。その顔は余裕というよりすべてを知り、すべてを見下している目であった。

「或いは、処刑されたのはオリジナルの“横島”だったのかもな。」

「バッキャーロー!!俺は俺!!ホンモノの横島忠夫だ!!!!」

「よく考えてみる事だな。ハッハッハッハッハ・・・・・」

強い光の中にアシュは包まれていった。
横島たちはあまりの眩しさに、目を被った。
光が薄くなり、ゆっくりと正面を見据える。
目に写ったものは、元の安宿の一室であった。
天井についている、送風用のファンだけがカラカラと音をたてる。

「夢か?幻術か?・・・・・・」

雪之丞が腰掛けていたテーブルから降り、ネクタイを緩めた。

「いや・・・違うな。」

横島はベットを見回し、ベットから降りるとベットの位置を確認した。

「現役GS相手に幻術は使えないさ・・・しかも、本人も言ってたじゃねーか、“霊力”は人並みだって。」

なにかを見つけたようで、横島はニヤリと笑った。

「僅かだが動かした後がある・・・しかもベットにはタバコの灰が落ちてねぇ。」

横島は窓と対面の入り口の近くの壁を、掌で探るように調べる。

「おまけにこんな穴まで開いてやがる。」

「どういう事だ?」

2人が注目する中、横島は自慢げにタネ明かしを始めた。

「古い手さ。瞬間的にガスで眠らせて家具ごと外へ運び込む。凝った手品見せた後、また同じ手で元に戻す。まぁ奴にとっちゃそんな芸当・・・」

言葉が急に止まった。
横島の自慢げな顔が固まり、呆然としている。横島の目線は窓の外を見たまま動かないでいる。二人は、横島の目線を追った。

「「!!!」」

横島の目線の先にあったもの、窓の外にあったもの、それは宙に浮かぶ“アシュ”であった。
二人は慌てて横島の隣に動くと、何かに備えるように身構えた。

「君のその合理精神には感服するよ。だが、それが限界でもある。世の中には君の想像もつかない不思議な事もあるからね・・・」

「俺の周りは、十分不思議な事だらけなんだけっどもなぁ・・・」

「それは君が“奇形児”だからだよ・・・来なさい令子。」

アシュの目が妖しく光ると、令子の目が急に焦点を合わせなくなり虚ろのままゆっくりと窓に向かって歩き出す。
アシュの前まで来ると、虚ろな目を閉じそのまま倒れようとしたが、その身体は床に伏せる前に宙に浮き、そのままアシュに向かって浮遊していく。

「令子は貰っていく。」

アシュは気を失ったままの令子を抱えて、上空にゆっくりと飛び去っていく。

「おい!待て!この泥棒!!!」

窓から飛び出そうとした横島を、雪之丞は慌てて引き戻すと、二人して空を飛ぶアシュに向かった。

「アシューーー!!!俺は信じねーぞ!!!神様ならこの場で掛値無しの天変地異でも起こしてみやがれーー!!」

横島の叫びが届いたのか、アシュはその言葉に応えた。

「よかろう!!神の怒りを知るがいい!!!」

すでに姿は無く、声だけが横島たちに届いた。
横島は窓から離れると、呼吸を荒くしたままソファに腰を降ろした。
雪之丞も呼吸を荒くしたまま、ポケットに手をいれると弾丸が入った箱をテーブルに放った。
腰からM19を取り出し、シリンダーを開ける。
紙箱を開け、一発ずつシリンダーに弾を込めていく。
弾が揺れだした。
弾だけでない、テーブルに置いてあるコーヒーカップも揺れだしている。

「え・・・・・え??」

横島が座っているソファも音を立てて揺れている。
天井のファンが揺れに耐えられなくなり落下してきた。
床は軋み、安宿の古い壁は崩落していく。

「じ地震だ!!!奴ぁホンモノの地震を起こしやがった!!」

床に伏せ雪之丞は、頭を抑えた。

「バカ野郎!!死津喪じゃあるめーし、そんなことできるわけ・・・イテーーーー!」

いいかけた横島の頭にセメントの固まりが落下した。
古い田舎街は、みるみるうちに廃墟と化していった。


『ミサイル攻撃ではありません。マグニチュードは7.2、震源地はコロンビア内陸部と推定されます。』

ここは、大統領特別補佐官の執務室。
唐巣は雑誌に目を通しながら、タイガーの電話が終わるのを待っていた。

「どうやら本物の地震のようだね。」

「はい。てっきりワッシは芦のミサイル攻撃かと思いましたケンノー。奴の死はまだ確認されとりませんケー。」

タイガーが電話を切ると、唐巣は読んでいた雑誌を机の上に放りイスから立ち上がった。

「彼の指定した期限は明日だったな・・・」

唐巣はところどころドス黒いシミがついた自由の女神の前にいくと、葉巻を銜えた。

「バッジシステムを強化し奇襲に備えたまえ。キャッチ次第、直ちに徹底的に反撃するように。」

自由の女神の右手の松明から火が灯る。
唐巣はそれで葉巻に火をつけ、紫煙を吐きかけた。

「明日、すべてがハッキリする。この世に神がいるとしたらそれは我々だということがね。」

唐巣の背後に、南北アメリカ大陸のレリーフが浮かんでいた。


「カミですかいノー・・・・・・」

タイガーは脂汗を滴らせながら、ぼそりと呟く。

「タイガー君・・・・・・・なぜカタカナなんだね・・・・・」

唐巣の眼鏡が妖しく光り、右手が自由の女神に伸びる。

「ワッシは発音が悪いですきに、気にせんでつかーさい!!!」

タイガーは必死である。空母を単独であそこまで破壊した男&女神攻撃を単独で喰らっては命の保障がない。

「その・・・神父でありますけん、我々を“神”というのはマズいんではなかろー思いましてノー」

正論ではあるが、口から誤魔化しである。

「そうだね・・・タイガー君。」

納得したのか唐巣の右手が、自由の女神から離れた。
タイガーはとりあえず安堵したが、唐巣の心からドス黒いものが離れなかった事には気付いてはいなかった。


街は廃墟と化し、人の気配が無い。
雪之丞は、ポケットに手を入れたまま廃墟の中を歩いていた。
僅かな明かりが灯っている場所を見つけ、そこへ向かう。
元はBARだったのであろう、カウンターが僅かに残った場所でランプの灯りの側に横島が座っていた。
ドライバーを片手に、なにやら細かい作業をしている。

「なんだ・・・こんなとこにいたのか・・・・出ようぜ、もぉコリゴリだ。アシュのやったことは夢でも幻でも無ぇ、こればっかりはお前を認めるしかねーだろ。」」

残っていたイスに座って、溜息とともに言葉を吐く。

「街の向こうに、とてつもない大穴が開いていやがった。ありゃ〜間違いなく地下原子力発電所の跡だよ。あれが芦財団の金で作られていたとしたら地震の原因は大体察しがつく。」

作業が終わったのであろう、手にしたものをポケットに詰め込んだ。

「さぁ〜出来たぞ!ほんのささやかな武器だけっどもな。」

「横島!理屈だ!お前のいってることは何もかも!!」」

横島は、カウンターの下に置いてあったリュックサックを背負った。

「敵の本拠地に乗り込みだ!!!」

「なんだと?」

「奴の発掘した古代遺跡ってのは、案外近いんだよユッキ〜。」

「自惚れるのもいいかげんにしやがれ!」

雪之丞は行くのが当たり前のように言う横島に向かいイスを蹴飛ばすと、いままで横島の座っていたカウンターの方に座り直しバーボンのボトルをグラスに注いだ。

「俺だってバカじゃねぇ。神界からも魔界からも何もいってきやしねぇ、干渉無しってこったろ。それどころかオカルトGメンすら出張ってくる気配が無ぇ・・・って事は、奴は神魔どころかオカルトに関係無ぇ人間ってこった・・・しかしな、俺ら単独で勝てねぇバケモノなんだぞ!!」

「来ねぇのか・・・」

「あぁ・・・いかねぇ。」

グラスを呷る雪之丞。
空になったグラスを、カウンターに音が立つくらいに強く置いた。

「いいよ。バトルマニアにゃ向かねー仕事だ。」

横島は雪之丞の背中に向かってそういうと、歩き出した。
横島の靴音だけが廃墟となった街に響く。
雪之丞は何かに耐えるようにグラスを握り締めていたが、立ち上がると通りに飛び出した。
目の前の一本道、東の空が薄っすら白くなっていく中にリュックをからった横島の背中だけが見える。
M19を素早く抜き、横島の足元の空き缶にメタルジャケットの弾丸を撃ちこんだ。
銃声が廃墟の中に響き、空き缶が転がる音が横島の足を止めた。

「行くなー!!横島!!!!!」

「俺は“夢”盗まれたからよ・・・取り返しにいかにゃ。」

構えていたM19を下に向け、雪之丞は言葉を返した。

「夢ってのは美神の旦那の事か?」

明けきれぬ空の星に目線を上げていた横島は、振り返り雪之丞の方を見て笑った。

「実際、クラッシックだよ。お前ってヤツぁ〜。」

そうだけいうと、再び前を見て歩き始める。
雪之丞はもう何も言わず、ただ横島の背中が見えなくなるまでその場に立ち尽くした。


陽はすでに高く昇っていた。
険しい山をいくつか越え、横島はフェンスに囲まれた“芦財団”が発掘した古代遺跡まで辿り着いた。
南米の古代遺跡らしく、大きくブロック状に裁断され装飾を施された石が積み重なっている。
山の頂に建てられた遺跡はかなり大きなもので、かなり高度で権力を誇示した文明だったであろうことが推測できた。
とりあえず、中に入って探らないことには話しにならない。
横島は、遺跡の中に入ろうと入口を探し出した。

「?」

急に自分の周りに影ができる。
曇か?と思い、上を見上げた。
音も無く、巨大な石柱が天から降ってきていた。

「あ”ーーーーーーーーーーーーー!!!!」

涙と鼻水を噴出しながら、それを見上げた。
地響きと土埃が舞い、石柱は落下した。

「やっぱ来るんじゃなかった〜〜〜!!カッコつけなきゃよかった〜〜〜〜!!!」

石柱と地面の僅かな隙間に潜り込んで難を逃れた横島。
やはり悪運は、どこまでいっても強そうである。

「死ぬかと思った〜〜〜〜・・・・」

いや・・・普通死ぬって・・・・
目の幅の涙を流しながら隙間から這い出ると、ローブを纏った人影を見つけた。
横島がソイツを追いかけると、相手は遺跡の中へ逃げ込む。
遺跡の中へ入ると、石の階段になっており横島はそれを下へと進んだ。
階段の先は通路で、道が左右に別れている。
見渡しても人影は無い。
見失ったらしい。
光があまり差し込まない遺跡の中のはず・・・外の光とは違う人工的な光を見つけ、横島はそれに向かい歩いた。
石室であるはずの部屋に、人工的な光と音、そして金属。
横島が目にしたものは、何十本も並んだ核ミサイルであった。
巨大なそれは、自動制御されているらしく人の気配は無い。
しかし、それはいつ発射されてもおかしくないように整備され、スイッチを押されるのを待ち構えているように見えた。
ふと、背後に人の気配を感じる。
横島は屈みながらリュックを手にとった。
髪が数本舞う。
そのままだったら、首をもがれていただろう。
大きな鎌を構えたローブの男に向かい、リュックをぶつけて壁に叩きつけた。
霊波刀を出し男に尋問しようと歩むと、通路からローブを着込んだ男が3人程現れる。
手にはマシンガンを持っていた。
横島に狙いをつけ、放たれるマシンガン。
ミサイルの格納庫に隠れ、ポケットの中からダイナマイトとライターを括り付けた簡易式の手榴弾をとりだし、3人に投げる。
爆音と衝撃波が目の前を掠めていった。
格納庫から首をだし相手の生存を確認すると、壁に凭れて倒れている男の方へ行き、ローブのフードを捲った。
横島は、ローブの男の顔を見ると顔を強張らせた。

「・・・アシュ・・・・」

項垂れたその男の顔は、皺くちゃで老い衰えていたが紛れも無く“アシュ”そのものであった。


ランプが投下され、ランプの炎が当たり一面に広がる。
歴史的な美術品に次々と燃え広がり、芸術を灰にしていく。
それを見つめる2つの影。
アシュとローブを身に纏った令子であった。

「そう・・・クローンにも限界があった。」

「限界?」


クローンによる、情報伝達は100%完璧ではない。
コピーを続けていくと像がぼやけてくるように、果てしないクローン連鎖は細胞を狂わせていった。
130代目にして私は、自身をオリジナルとして保存した。
特殊なリンゲル液に身を浮かべた。
それからの私は、改良を重ねながらコピーを続けた。
ぼやけては修正・・・ぼやけては修正・・・オリジナルとは遠く離れた存在となった。


「そんじゃお前は、修正ミス?・・・粗悪品ってワケか。」

年老いたアシュに横島は、問いかける。

「すべては不死のためだ・・・」

そういい残して、ミスコピーのアシュは静かに目を閉じた。


燃え盛る炎の中、芸術が次々と灰になっていく。

「伝説の石にまで縋ったが、すべては無駄だった・・・」

「結局、永遠の若さなんて夢なのね。」

霊力制御用のリングをつけられた令子が、それを鬱陶しいそうに振りながらいった。

「いや、まだ最後の手が残っている。」

アシュの言葉に、意外そうな顔をする。

「行こう。不死の世界へ。」

炎に照らされたアシュの顔は、人間というより魔神に近い微笑みを携えていた。


アシュに連れられ、令子は遺跡の中のとある部屋に来ていた。
石室の中の各種の機械が据付けられるその様は、かなり違和感があった。
違和感のある部屋の中央に、球状の機械が設置してある。
違和感の中の違和感・・・それがなにか特別なものである事は、さほど機械に精通してない令子でも理解するのに時間はかからなかった。
球状の機械の中央にボタンがついている。
アシュは、令子を球状の機械の前に連れて行き、そのボタンを押すように促した。

「このボタンを押せば、君にもその資格が与えられる。」

さすがの令子も躊躇い、ボタンに触れた指を戻してしまう。

「どうした?躊躇う事は無い・・・・さぁ押すんだ!!」

アシュの語気に当てられたのか、令子の指はボタンに触れるとそのまま力が入った。
ボタンが押されると、連動して周りの機械が作動された。
レーダーシステムであろう機械が動き始め、ボタンがついていた球状の機械は、地球の姿を描く。
以前、艦隊の中で見たミサイルシステムと同じような動きをみせた部屋に令子はハっとした。

「アシュ!これってまさか・・・・」

「地上にいるもの、皆死ぬべし。」

狂気に歪んだ顔でアシュは、口元を緩めた。


後書き。

テレビ放映時のCMで切ってみました。違和感が無いように・・・なんて思ってやってみましたが、違和感有り過ぎたぁ〜〜〜(汗)
今回、かなりシリアスですね。ギャグ無いと自分の作品じゃないみたいなんだけど、アシュとの絡みだとギャグがでてきません・・・
謎もだいぶ解明しましたが、ラストに備えた複線を1つだけ用意してます。
複線っつーてもたいしたもんじゃないっスけど・・・
さていよいよラストです。ラストにはギャグも出来ればいいなぁ〜


レス返し

足岡様>
ダンディズム・・・横島君は持ってないっスねぇ〜(苦笑)
タマモは幻術使いという事で、ついつい“化ける”には多用しがちです・・・しかも火を使うんで、火に関する無機物あればそれはタマモ!!と安易に使ってしまいます。自分的にも結構おいしいと思います・・・タマモは(笑)

ATK51様>
捻くれて根性曲がって気の強い人が一度素直になっちゃえば、リミッター外れてあんなもんでしょう(爆)
いままでの鬱憤もありますから、二人には思う存分バカップルでいて欲しいです(ヲイ)
横島君は、煩悩以外はあんまし無いし、煩悩を直接ぶつけちゃう人ですから、ある意味“夢”は実行する人かもしれません。

空爆逃げまくり>>それだけだと、GSの世界には遠いんで+αを入れたいっスね。

「学天則」>>ググりました。いやぁ〜〜〜初めて知りました。なんかスゴいっスね、もっとこういう人は世間が知るべきでしょうね。

ネクラ少年>>どの雑誌で見たかは忘れましたが、特集で髪の長い頃の写真がありました。宝塚を彷彿とさせる男性向けではなく女性向けの写真だったなぁ〜(笑)

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