ぶらーん
「なぁ、犬塚」
ぶらーん
「なんだ?犬飼」
ぶらーん
「なんで拙者たちはここで蓑虫のごとく逆さ吊りになっているのでござろうな?」
ぶらーん
「・・・・・はて、昨日の記憶がないなぁ」
ぶらーん
「・・・・・お主もか。実は拙者もでござる」
ぶらーん
「「・・・・・・・わはははははははははっ!」」
「頼むから少しは反省せんかぁぁぁぁぁっ!!」
「いたたたたッ!なんだか体中が痛いですよーッ?!」
「ぐむむむむ、それに頭痛がひどいでござるっ!」
「うーん、うーん、うーん・・・・・・すぴー。おかわり」
「何故か凄まじく犬飼の顔が腹立つぞぉぉぉぉぉ!」
長老の気苦労は、今日も今日とて山盛りであった。
ザーッ
「はい、美神さんは今日は霊的に良くない日だから、予定を変更したいとおっしゃってまして、―――どうもあいすみません」
天気予報では一日中振りつづけるという雨が事務所を包む。降りしきる雨にうたれるGS美神除霊事務所には、いつもどおりの三人の姿があった。
すっかりと事務所の内務係が板についてきたおキヌの後ろには、ソファーに寝っ転がり雑誌を読む美神と、そのそばにぼけーっと立っている横島。
「雨が降ったから仕事は休みですか。大名商売やなー」
「この雨の中一晩中墓地にいたい?ギャラも安いのに私はやーよ?」
何処となく呆れた横島の問いに、やる気の欠片も見せずに答える美神。
「それに―――
しかし、ふとふかふかの高級ソファーから身を起こした美神は、超一流の霊能者としての気配をさらけ出す。
―――今夜は私の霊感がうずくのよ。なにか事件が舞い込んできそうな予感がするの」
不敵な笑顔を所員達に見せつけながら、美神は続ける。
「・・・・・・・・大きくて、とても厄介な事件が、ね」
その答えを聞き、考える表情になった横島は、おもむろに美神に接近し―――
ペロっ
―――その鼻の頭を舐める。
ズガガガンッ!!
―――当然のごとく繰り広げられる阿鼻叫喚の地獄絵図。その中でも、横島は
「・・・ふ、ふ、ふ。お、俺の行動までは美神さんの霊感も察知できなかったようですね・・・」
「・・・脳みそぶちまけなさい」
―――とっても「馬鹿」だった。
横島に冷たい、とっても冷たい絶対零度の視線を向けながら、美神は三割増に光り輝く神通棍を振り上げる。横島忠夫、絶体絶命の危機。
―――ピンポーン
そんな横島を救ったのは、少しむくれながら美神を止めなかったおキヌではなく、突然の来訪者が鳴らした玄関のチャイムであった。
―――翌日、イタリア、ローマ空港―――
「へー、いたりやって空港ってところにそっくしですねー」
「・・・・・空港なんだってば」
明くる日の昼下がり。早朝の便で東京を出発した事務所員たちの姿が、日本から遠く離れた地中海の国、イタリアの首都にあった。
「・・・・・これは夢だこれは夢だこれは夢だあんな馬鹿でかい鉄の塊が空を飛んだのは夢だったんだ絶対にそうだ間違いない間違いない間違いないはずだぁぁぁぁぁっ!」
「うるさいわよ」
バコンっ!
初めての飛行機にとち狂った横島を、突っ込みの一撃で元に戻す美神。
「・・・・・はっ!ここはどこだ!―――外人のおねーさんがたがいっぱい?!ここは極楽かぁぁっ!!」
「本当に逝っときなさい!」
ズゴンッ!!
かなり本気の込められた一撃で、今度こそ正気を取り戻した横島であったとさ。
「シニョリータ美神!」
「どーも」
「おう、ピートじゃないか」
「ピートさん」
人込みでごった返す空港で、美神たちに声をかけてきたのは、昨日、美神曰く「大きくて、厄介な事件」を持ち込んできた依頼人のピート。―――彫りの深い、整った顔を持つかなりの美形である。
「お前も大変やなぁ。あの後、こっちにとんぼ返りやったんやろ?」
「まぁ、事態が事態ですから」
気軽に話し掛ける横島に対し、ほんの少しの警戒心を持ちながら答えるピート。
―――ちなみに、犬飼忠夫、相手が美形だからってあんまりどうこう思ったりはしない。なんてったって実の父親が「アレ」である。
あの、凶悪面で、泣く子をひたすら謝ら「せた」という伝説を持つ犬飼ポチである。そのポチが、とっても優しげな美人を嫁にした、というのは今でも人狼の里、七不思議の一つのとなっているが、そんな奇怪な親を持つ彼である。
いまさら顔なんぞで自分の理想の嫁さんが簡単に手に入るもんでもない、と幼少の頃からなんとなく悟っている。
余談ではあるが、かの伝説を作った後、その現場を妻に見られ、3日程生死の境をさまよい、さらにその後誤解を解くまで全く喋ってもらえず、長老がとっても迷惑したという―――
「え、ええと、お疲れでしょうが、時間がありませんのでまっすぐにチャ―ター便までお願いします」
乗り込むときに横島が抵抗したので一悶着あったものの、とりあえずぼろっちいプロペラ機に乗り込むご一行。
「あ〜令子ちゃ〜ん〜」
「令子ですって?!なんであいつがここにいるのよ?!」
「げっ!冥子にエミっ!まさか、協力するGSってあんたたちのこと?!」
外観どおりせまっ苦しいキャビンには、先日出会った式神使いのGSと、横島をさらって怪しい儀式に使おうとしたGSの姿があった。
―――昨夜、東京・GS美神所霊事務所―――
「今回の依頼ですが、貴方の師匠であるGS唐巣神父からの依頼でもあります。報酬はこの黄金の鷹の像――歴史的にも貴重な品です。それと、相手が相手なものですから、あなた方以外にも、何名かのGSに協力をお願いしています」
「―――そんなに厄介な相手なの?私と先生の二人でもまだ足りないほどの?」
「ええ。とても手ごわい相手です。―――あなた方も十分に気をつけて」
ぎいっ、バタン
「ふーん。報酬は文句なし。さっすが先生、わかってるじゃなーい♪」
「へー、美神さんに師匠がいたんすねー」
「まぁ、ねぇ。それにしても、あの唐巣先生が私以外のGSに渡りをつけなきゃいけないほどの相手、ねぇ」
「すごい人なんすか?」
「ええ。確かに冴えないし馬鹿だしお金に疎いし頭は薄いけど―――この業界では、間違いなくトップ10にはいるほどの凄腕GSよ。―――ただ、教会では悪魔祓いは認めていないから、ずっと昔に破門されたらしいけど、ね。神父っていうのも、通称みたいなもんよ」
「ふぇ〜。そんな人が美神さんの先生なんですか、すっごいんですねぇ」
「そんな先生が、こういうことをやるってことは――流石、私の霊感ってとこかしら」
「――――まぁさか、あんたがここに来るとは思わなかったワケ!」
戦闘態勢っ!
「――――そりゃ、こっちの台詞よ。この前の痛手はもうなおったのかしら?!」
デフコン1っ!
「「・・・・・・うぅぅ〜〜〜〜!」」
ばちばちばちばちっ!
ライバル同士が視線を争わせ、火花散る視殺戦を繰り広げる傍らでは、
「おう!お前ら元気してたか?」
―――ぶるるっ
―――ヒヒ―ン
―――シャー
―――ばうっ
「あら〜、おキヌちゃん〜。こんにちわ〜」
「あ、冥子さん。今回もよろしくお願いします」
12匹の獣たちに纏わりつかれる、ムツゴロウさん状態の横島がいた。その近くに佇む2人の少女は、そのほんわかとした空気に溶け込みながら、雑談に花を咲かせている。
まだまだ慣れの足りないピートを余所に、なんとも妙な空間が形成されていった。
「え・・・ええと、それでは全員揃ったようなので、出発させていただきたいと思います」
「え〜、ぴ−とぉ〜もっとゆっくりしていきましょうよぉ」
「いや、そういうわけには・・・・」
「・・・・ふ、色ボケ女」
「・・・・レズは黙ってるワケ」
「「やるかっ?!」」
「まぁまぁお二人とも、ここはこの横島が―――
ギンっ!!
――――いえ、なんでもないです、はい」
キャインキャイ―ン!
あっさりと夜叉達の視線に気おされ、尻尾を巻いて逃げ出す横島、そしてその後ろに隠れるピート。
「おいっ!なんであの二人一緒に声かけたんじゃー!」
「そんなこと言われても、僕は先生の言われた通りにーー!」
「―――気を付けろよ。それでもフォローはしてやるが」
「―――感謝します」
がしぃ!!
小声で怒鳴りあった器用な二人は、がっちりと握手をするのであった。
――――まぁ、素養はあった、ということであろうか。
飛行機は無事、乗り換え地点の島に到着し、そのまま一気に目的地――ブラドー島へと一行はその足を伸ばす。彼女らとしても、日の出るうちにできるだけ接近し、あわよくばブラドー島内部に橋頭堡を作っておきたいという考えである。
「・・・妙ですね」
「・・・ええ。見られてる感じはするのに、ここまで接近しても全く反応が無い。―――静か過ぎるわ」
近くの島で借り受けた漁船に乗って、目的地ブラド―島至近にたどり着いた美神たち。しかし、彼女達のとおり、全く持ってそれに対するリアクションというものが無い。
「やーな予感がするワケ。いったん撤収して、ここは様子を見たほうが良いんじゃない?」
「しかしっ!こうしている間にも先生たちが「で、突っ込んでいって私達もピンチって言う展開がお望み?」―――っ!」
「頭を冷やすワケ。そうカッカしてたんじゃ、まとまる考えも纏まらないワケ」
「で、エミ。ほんとのところ、どう思う?」
ふと、なんでもないことのようにエミに言葉を投げかける美神。
「―――確かに、誘いにしてはあからさま過ぎるけど、だからといってこのまま引き返したんじゃGSとしての沽券に関る問題なワケ」
「・・・・珍しく意見があったわね」
その視線はいつのまにかかち合い、
「・・・それなら、やることは一つ、なワケ」
二人揃って額に血管を浮かべながらも、にらみ合いながらも、楽しそうな会話。
「「しょーめんから、堂々と乗り込んで、逆に挑発してやるわ(ワケ)!!」」
これから派手な喧嘩を仕掛ける子供のような顔であった。
「いいな〜わたしも入りたいのに〜〜」
「ま、あの人たち結局似たもの同士って事なんやなぁ」
「・・・・・・・・いいのかなぁ?」
「ふん。懐かしい顔を見たかと思えば、お前か、『ヨーロッパの魔王』」
「ひさしぶりじゃな、『夜の王』」
「ふん。貴様に負けた以上、その名を語るには少々プライドが高すぎてな」
「ふむ、ならば『吸血鬼ブラドー』、と呼ぶとしようか」
「それで、何のようだ『ドクター・カオス』?機械人形を連れて、今度こそ我が存在を滅ぼしにでもきたか?」
「いやいや、只―――ちょっとした戯れじゃよ」
「―――失せろ。我を、『夜の王』であった我を一度は退けた者として、今回だけは見逃してやる」
「まぁ、そうせくでない。一つ、提案をしにきただけじゃよ」
「・・・・・聞かせてもらおうか」
「老いたりとはいえ『ヨーロッパの魔王』ドクター・カオスと、その最高傑作『マリア』が―――
―――――お前の手伝いをしてやろうというのじゃよ」
「・・・・・・・・・・まったく、どちらが人間――いや、どちらが正気なのやら」
「くっくっく。正気だの、狂気だの。「気」にするほうが「おかしい」のじゃよ。なぁ、マリア」
「イエス。ドクター・カオス」
―――全く、あのご老体らの元気よさといったら。見た目がいくらでも変えられるといっても、外面は中身を規定するとでも言いたいのかねぇ。
――――っと、おやおや、レディーの独り言に聞き耳を立てるのはマナー違反ではないかな?それこそ、もっと大事なことにその耳を使って欲しいものだがね?
―――え?
―――ふふふ。その通り。確かに、その通りだ。何が大事なものなのかは、それを受け取るものが決めることだね。
―――いやいや、まさか、こんな感じで情報の価値について講義を受けることになろうとはね。
―――まさに、目から鱗が落ちたというやつかな?
―――でも、勘違いしちゃいけない。それは確かに一面の真実だ。でも
―――――本当に大事なものは、なんだい?
―――――君がそれを見つけられるように、そぐわないながらも祈ってみよう、かな?
―――――それでは、良い夢を。
ぼふぅ!
巻き上げられた粉塵は、しばらく漂っていたかと思うと、突如それまで禍々しい妖気を放っていた岩が
あったところを中心にして渦巻き始める。
「・・・・・・・・くそぉっ!ここで見捨てては、寝覚めが悪いでござるなっ!!」
それまで呆然とその光景を眺めていた人狼の少女は、その中心に向かって走っていく。
「狐っ!生きていなくても返事をするでござるっ!!」
かなり無茶な呼びかけをするが、それに対する返答はなく―――
ぼふぅ!
再び、粉塵に動きが現れた。
「ぷわっ、なんでござるか!!」
「よっしゃぁぁぁぁぁっ!!!」
カッ!!
粉塵が吹き飛ぶと同時に、眩い光が差し込み―――現れたのは、
「やったわ!!私はやったのよ!!9体に分かれた金毛白面九尾の狐の分御魂!その主人格をとった―――!!これで私の女の魅力にあの朴念仁もめろめろよー!!」
―――輝くナインテールを持った、少し釣り目の
「これであんたに馬鹿にされることも無いわ!どう、この私のなぁぁいっすばでぃは?!」
―――年の頃13,4の、無いっすバディをもった美少女であった。
「・・・・・・・・あれ?」
---アトガキッポイナニカ---
はいすいませんmaisenでございます^^
というわけで、初の前後編に挑戦いたします。
何名かのかたが望んでおられたタマ、いえタマモの初登場ともなりました今回のお話、楽しんでいただ
ければ幸いです。
それでは、さくさく後編アップしたしますので、もうしばらくお待ちください―――
PS――なんだか、エキストラのはずがキャラだってきたなぁ